1、純粋な差別問題提起のデモ(平和的なプラカードを掲げた行進)
2、自宅待機に飽きた人々が面白半分に参加
3、これを機と捉えた国家或いは人物が、ANTIFAなどに金を配って動員した
4、その騒ぎに乗じてモラルの低い者が暴動、或いは強奪を始めた
3と4の参加段階で1と2は引いています。
またミネソタ州の知事は、この一連の騒ぎは州外の者が行っていると明言しています。
当然、香港の問題に於ける大統領の中国制裁に呼応する形でこの暴動が起きています。
これは東欧諸国の色革命やアラブの春と同じ構造で、クリミア半島の問題とも同じです。
元々クリミア半島南部にはロシア人が大勢住んでいます。ところがスターリンのユダヤ排斥によって相当数のユダヤ人が流れてきた。
半島北部はそのユダヤ人が多い地域だったのです。
世界を混沌とさせ国境を壊したいグローバリスト(あちら側)は、あの手この手でプーチン大統領を罠に嵌めようとしましたが、濡れ手に粟でした。
そこでウクライナの混乱に乗じて外部の人間を投入し、オデッセイに住むロシア人を皆殺しにしました。
そしてクリミアの暴動です。これでプーチン大統領を釣り上げようとしたのです。
ところがその策に乗らず、大統領はサクッと暴動を鎮圧。
当時はウクライナの選挙問題(ロシアよりの人と、あちらの息がかかった者とが争った)はありましたが、人々は反ロシア・デモが可怪しいのではないかと気付き始め、あちら側の代理を落としました。
それが今のウクライナで、この結果オバマはやる気を失い、ソロスが敗北宣言を出したのでした。
中共はこういう方法をちゃんと勉強したんでしょうね。ソロスも動いているという噂がありますが、そこは不明です。
何よりこの武漢ウィルスでイギリスがブチ切れています。G7延期はドイツのためでなくロシアの参加を促すためです。
そこで第三次世界大戦(経済戦争)の連合国が決定するのでしょう。インドなどの参加がその証です。第二の「世界工場」になりたくはないかという誘いです。
オーストラリアは英国の傘下ですしカナダも後で正式に同盟参加を表明するでしょう。日本はこの夏にかなり法を通さないと厳しいでしょうが、頑張って欲しいです。
韓国は踏み絵を試させられます。その前にデフォルトする可能性もありますが。アメリカからの借入を返す第一回目がそのG11がある9月なんですよ。
危険なのは今のドイツです。またまた負け組に行きそうな気配です。
深夜1時。
クルマに施錠と人避けの結界を張ってパークを抜け出した私達は、街の郊外に出た。月明かりの砂漠に浮かぶ平坦部分は公共の空港だった。といってもこれといった管制塔はなく、小型プロペラ機専用の滑走路があるだけだ。
こういうのは全米各地にあり、オーストラリアやシュージーランドにもある。救急患者を都会に送ったり、緊急物資を受け入れたりするためのものなのだ。農業の盛んな地域だと、飛行機の倉庫の他に農薬や消火剤を置いた倉庫などがある。
私達は私服で郊外に出、その空港を迂回して越えたところで転身した。エルはジャージだ。そこから神秘のチカラを使って一気に走った。
バッジャー山の上で眼を強化し、視力を上げた。
「並行世界ではここに柵があって、この先から進入禁止です」
「あの峰を越えたところ?」
「そうです」
「そこがエリア51か?」
「並行世界ではそうなりますね」
「う~む、ここでは基地の外なのだな。本当に蟲を置いていくだけか?」
「それが一番無難です。それをパークで操作して」
「そうだな。ネイティヴの聖地なら、そうやって隠密理にやる方が良いだろう」
そこからまた、私達は星空の下をひたすら走った。バッジャー山を駆け下り、ボールド山のから伸びる尾根を駆け上がる。すると眼下に塩湖のような白い干湖が大きく広がっていた。
「たぶん違う世界ではあの干湖がもっと小さく、脇の平坦な部分に基地があるんでしょうね」
そう言ってエルが宙に輪を描いた。ここの干湖は雨期だともっと水が貯まるのだろう。その白い跡はこちらの尾根を幾分侵食していた。
そして干湖の中心まで一気に『空間転移』した。私がお兄ちゃんを、エルがモードレッドを支えてだ。
「最初からこうしろよ」
「初めて来た場所ですよ? 視認しないと危険ですよ」
「そうなのか」
エルから出して貰った蟲を円形の等間隔に並べ、術を発動した。蟲達は一斉に地面に穴を空け地中を進んでいった。
「良しッ。これで終わりです。戻りましょうか」
そこでエルが私達を取り込んだ。次に景色を認識すれば、それはパークの中のクルマの前だった。声を潜め、トレーラーの中に入った。カーテンはしっかり閉めてある。これで防音結界を張れば誰も気付かないだろう。
「なんだ? 密談でもするのか?」
「まぁ、取り敢えずはお終いですが、もう一眠りする前にお兄ちゃんに訊きたい事がありまして」
「エルヴァが私にか?」
「はい」
尋ねたかったのはモードレッドの疑問にあった。
『なぁ、ランチボックスとべントーは米のある無しか?』
なんと彼女は、言ってみればお弁当の定義を訊いて来たのだ。そこを話して再度お兄ちゃんに顔を向けた。お兄ちゃんは全員分のお茶をいれていた。
「ふむ……君は『エル』が弁当をどう考えているのかは知らんのか?」
「通り一遍の知識はありますよ? 旅の携行食が変化して、平安時代に行楽にも供されるようになった。そこからは調理した料理と腐敗との鬩ぎ合い(せめぎあい)を何度も繰り返し、歌舞伎やお花見などの重箱弁当や松花堂弁当に幕の内弁当が定着し、明治に入って鉄道文化とともに漆の箱でなく1人前だけが詰められた折詰弁当となって、これが駅弁に変化した。一方、この1人前という新しい概念が役者向けの助六や折詰の幕の内となって……」
「ははぁ……なるほどな。君の話す歴史は正しい。しかしそれだと片手落ちだ。まず日本の弁当文化はジャポニカ米ありきなのだ。この意味でモードレッドの指摘は的を射ていると言えるだろう。ではランチボックスとの違いは米のある無しか。そうではない。まず日本の弁当は冷めた状態が正常なのだ。これは冷やすという意味ではない。常温で口に運ぶという意味だ。そしてそこをトコトン追求したものが日本の弁当なのだよ。トーストにピーナツバターを塗って挟めばサンドイッチというのも違和感がある。それは大昔の旅人の携行食であったパンとサラミにチーズというのと変わらん。ところが様々な具を挟めば腐敗も早いし、パンが汁気を吸ってしまう。寿司と同じだ。調理の際の衛生面への配慮と、煮〆たり酢を使う事で腐敗を防ぐ。君が指摘したこのような腐敗と戦い。その歴史的背景を知らねば、エキベンやベントーにキャラベンという言葉が、幾ら海外で知れ渡っても本質は掴めんよ」
「つまり私の考えは?」
「いい線を突いているが、少々片手落ちだったな。むしろ逆から考え給え」
「逆から?」
「そうだ。例えば中国などでは五行の思想から、体を冷やす冷たい食事はありえんのだ。これは慣習だけでなく宗教も絡む。東南アジアも中近東もまず冷めた料理は食べない。西欧文化での例外はサンドイッチなどで代表されるパン、加工パンや惣菜パンだな。下手にドイツの『冷たい食事』という文化が身に付いとるから迷うのだ。生魚を食べる段階で、日本は異例中の異例だと識るべきだな」
なるほど。私だけでなくエルやモードレッドも頷いていた。
「つか、冷めた麦粥なんて食えるかよ。あれをガツガツ食えたのは父上だけだ」
モードレッドの言葉にお兄ちゃんが笑った。
「そうだな。その昔……『エル』のお伴でインドに行った。ムンバイという街だ」
私の顔を見て言うな。
「それはある流通を知るためだった」
「ある流通?」
「うむ。その名をダッバーワーラーと言ってな。ダッバーはあちらで使われているカレー専用のステンレス製円筒重箱だ。つまり弁当箱だな。ところで君達はインドにどのくらい宗教があるか知っているか?」
「えっと、ヒンドゥー教とイスラム教?」
「概ねそれで合っている。その他にキリスト教にシィク教、仏教にジャイナ教などがある。あの頭に巻いたターバンは、シィク教徒の証だ。アラブのターバンとはまた違うのだよ。それでそのインドに於ける二大宗教は、それぞれの教義も違えば、禁忌も違う。特に人口の80%もの人が信仰するヒンドゥー教では身分のカースト(ヴァルナ)だけだけでなく、職業に於いてのカースト(ジャーティ)もある。一応法律では差別するなと謳っているが、10億人以上もの人々が自発的に律した行動を執るという見逃せん側面もあってな。その利点はあのマハトマ・ガンディーですら認めていたのだよ」
「え、ウソ?」
「本当だ。彼がカースト制に対して人権的な発言をしたのは、カースト外のアチュートと呼ばれる人々もカーストに組み込み、差別を失くそうと言ったのみだ」
「カースト制そのものが人権侵害なのに、そこに入れない事が人権侵害だと?」
「まさにその意味だよ。そこを私なりに説明しよう。まず身分のカーストであるヴァルナは、最上位が僧のバラモン、次が王族や貴族のクシャトリア、商人など平民を指していたバイシャ、奴隷のシュードラと4階級に分かれる。経典に拠れば、バラモンが頭と口、クシャトリアが両腕、バイシャが胴、シュードラが両足となる。つまりこれ以外のアチュートは人を構成する要素ではないとされていたのだ。そこをガンディーは人と認めろと言ったのだよ。君の常識が世界の常識ではないぞ?」
今のセリフ、絶対に『エル』に言われたんだ。とは言っても、長い歴史のある風習はそう簡単に是正できるものではない。マハトマ・ガンディーは無抵抗主義者でなく、非暴力主義者であって不服従運動の担い手だ。
間違っていると思えば文句は言うし、お前なんかに従うものかと武器を持った相手の前に平然と立った人だ。ちなみにプラハの春でソ連の戦車は人々を100人も殺した。天安門前でも戦車が人を踏み潰した。
マルクスの夢見た家内制手工業でしか成り立たない幻想を、王制からの権力簒奪に利用した革命という名の暴力。そこに組み込まれ、人を蔑ろにした者達は昆虫より酷い。
ソ連のせいですか? ナチスのせいですか? あなたもやったのでしょう?
「それと職業に於いてのカーストであるジャーティだ。これはヴァルナと関係あるとも言えるが、本来別物なのだ。ジャーティは世襲制となり、その職の伝統を守る事に繋がっている。そして新しい職が生まれればまた異なる受け止め方をされる。それがインドでITが発達した理由だよ。また現代のインドはシュードラ出身であっても金持ちが居るし、バラモンの乞食も多い。昔より緩くなっている部分は確かにある。しかし、そこで本題だ」
お弁当の話? ダッバーワーラーだっけ?
「うむ。そのダッバーワーラーだ。直訳すれば『弁当人』だが、これは『弁当を運ぶ者』と解釈されている。つまりは弁当の運送業なのだ。契約している各家を廻り、家人が作った弁当を預かり、学校や職場に指定時間通りに届けるという仕事なのだよ」
そこで宗教に拠る禁忌となるのか。ヒンドゥー教は牛を神聖視して、食べたりしないものね?
「いや。食べるバラモンは居るし、商売の邪魔だといって殴るバイシャも居るぞ?」
「ちょっ!?」
「あのな? 普通にそこらの観光地を牛が歩いとるのだ。それも糞尿を垂らしながら。そして外国人観光客が買った食い物を横合いから齧ろうとする。あちらも商売だ。殴って追い払うくらいはするだろうさ」
ヒンドゥー教ってファジーだなぁ……。
「別の宗教信者かも知れんがな。それはともかく、恐ろしいのはその誤配率だ。なんと僅か0.00000625%だよ。1600万回に1回、つまり年に3~4回あるかないかだ。この数字は一流航空会社の荷物紛失率より遥かに低い。しかも一月の契約金が3000ルピー程度(4千円くらい)なのだよ」
「それを『エル』は調べに行って……」
「そのキモがカースト制にあったと?」
「うむ、代々運び屋という人ばかりなのだ。そしてほとんどの者が字を読めんし書けん。それでも手順とダッバーを入れる容器の蓋に描かれた記号を見ればどこで集荷され、どの汽車に乗り、どの街のどこのオフィスや学校に届けるのかが一目瞭然となるようになっている」
「パソコンでの管理でなく、人だけ!?」
「そうだ。集荷する者、駅にまで届ける者、汽車に運び込む者、到着した汽車から運び出し仕分けする者、街の各地に運ぶ者、現地へ届ける者。手掛かりは蓋の記号のみ。人、人、人の人海戦術だ。普通に人件費から考えれば、絶対に採算が取れんのだよ。これもある意味奇跡のシステムだな」
なるほどなぁ。
「どうだ、弁当が見えてきたか?」
「家庭の味が外で食べられるかどうか?」
「そうだ。オフィスに届く給食弁当、街にあるほか弁や工場街やオフィス街に出店する弁当屋、或いはコンビニの弁当……これら安価に提供している存在や、駅弁や空弁に仕出し弁当などなど、どれも言ってみれば外食なのだ。君が言った通りだ。弁当の本義はその家の味を携行できるところに意味がある。つまり冷めれば固まるか食事に適さなくなるスープやシチューなどが家庭の味となる欧米や中国を含むアジアでは、本当の意味での弁当は作れないのだよ。弁当の語源が南宋の便當にあったとしてもだ」
確かに。冷え切ったギョウザや酢豚は嫌だ。それと同じように最初から冷製として作ったスープ以外はあり得ない。シチューやポトフもそうだ。例えそれが『エル』の受け売りだとしても偉いと思った。
「なぁ、アーチャー?」
「何だね?」
「お前ぇさぁ。英霊になったシロウが100人集まった存在なんだろ?」
「うむ。その通りだ」
「ならよぉ。100人の父上に会ったって事か?」
「隠しても仕方ない、その通りだ。ただ、同じパターンが多いのでな。おまけに随分と昔の話だ。記憶は遠い。誰がどういうセイバーだったとか、事細かに憶えておらんぞ?」
「まぁ、そうだろうな」
「強いて言うなら、どのセイバーも日本に居るエルヴァのセイバーや、『エル』のセイバーより融通が効かなかった気がするな」
「ああ……わかる。オレと同じで猪突猛進なんだろ?」
「自分で言うかね?」
「違うだろ? オレは変化が得意だ。だから猪突猛進に見えても、止まりもすれば引きもする。けどな、正攻法の父上が猪突猛進だと最悪だ。ケンカした記憶ってあるか?」
「ははぁ~ん……あるぞ。腰に手を当て、人差し指を突き立ててな。『シロウは考えなしですッ』とな」
「それそれ。実は倫敦のパブでそれを訊きたかったんだ。けど、あん時も日本でも父上が居たろう?」
「あの二人は違うからな。何より聖杯を獲ろうなどと考えておらん」
「だろ? だから失礼だと思ってな。それとアーチャーも数人居るけど、お前ぇが一番わかっているって気がする」
「フ……光栄だな。だが、バカでもいつかはわかるものだ。今後も君が係わるのは5番目だと思うが、長い目で見てやってくれ」
「ああ。あいつは結構いい感じだ。今の環境が良いんだろ」
「おっと。エルが眠ってエルヴァも居眠りか。ベッドへ運ぶのを手伝ってくれ」
「おうよ。疲れたんだろうなぁ。今日はオレのベッドを貸してやろう」
「君のベッドではなかろうに?」
「うっせ。エルヴァとエルはオレの大切な臣民なんだよ」
「君が……そう言ったのか?」
「いいや。エルヴァが言ってくれたんだ」
「そうか」
その奇妙な関係も、また友情なのだろう。口は悪いが良い奴だ。
「一杯付き合うかね?」
「ああ」
ベッドに寝かしつけた二人に心中で『おやすみ』と呟き、私とモードレッドは寝室を出た。
「何を呑む?」
「何があるんだ?」
冷蔵庫を開ければビールとワイン。おいおい、カリフォルニアは未成年の飲酒……ここはネバダだし、そういやあの子達は呑んいなかった。一応守っているんだな。
「ビールとワインだ」
「なら、ワインくれ。赤でも白でも青でもいいから」
どこかの国旗か? セイバーの娘(息子とは言わんだろう?)は冗談が上手い。これは倫敦でも気付かされた事だ。『エル』が話していた。自分がもう少し砕けた性格なら合うタイプだと。それも伝承を調べただけでだ。
つまりここの、スイスに居るエルヴァは『エル』よりもアタリが柔らかいという事だ。私はワインを注いだグラスを彼女と合わせた。つまみはクラッカーとチーズに戸棚にあったポテチだった。
私の記憶も『エル』や『イリヤ』と出逢って相当上書きされた。アインツベルンと言えば大地の子、根菜や芋類が大好きと浮かんで来る。これが義姉もだったから堪らない。
生前に逢ったイリヤが地系の魔術師とは知らなかったし、ニンジンやダイコンが好きだったなんて情報が皆無だったからな。
そしてこのトレーラーのキッチンにある戸棚の一角はポテチで占められていた。成形の『Pringles』に定番の『Lay's』や『Ruffles』などなど。
さすがに米袋と見紛うばかりのビッグサイズは無かったが(アメリカ人は可怪しい)、それでも十種類くらいはストックしてあった。私が本日洋風肉ジャガを作ったのは、『こんなもの』を食べて欲しくなかったからだ。
だが、『こんなもの』を無駄にせず、余ればオムレツに入れたりしてくるのも『エル』であり『イリヤ』だった。この子達もそうなのだと、先日の創作料理でしっかり伝わった。
エルはどうだかわからんが、エルヴァは今のパミやミトを知っているのだろうか?
「付かぬ事を尋ねるが、君のマスターはどうかね? 倫敦では相性が良さそうに感じたが、君の感想を聞きたい」
「ん? 良いぜ。あいつは良い。仕え甲斐がある。次が日本に居るエルヴァか、そこで眠っているエルヴァだな。どっちも一緒に戦った仲間だ。それにこっちのエルヴァとエルは臣民だしな」
ケラケラと屈託なく笑う。そう言われたのがよほど嬉しかったのだろう。
「そうか。なら『エル』は?」
「あいつは……海を渡った先にある大国の国王だ。良い奴だってのはわかってる。けど、もしあいつの国がマスター(エルヴァ)の国の隣にあったら、ヤベェ奴だ」
「飲み込まれるか?」
「そういう事をしない奴だろ? 無理してマスターの国を守ろうとするだろうな。そしてオレはそれに報いるために、『エル』の傭兵だ。『空間転移』で百戦百勝。周囲の国を全部平定。そうなるとマスターの出る幕が失くなる。天才同士の7歳違いは大きいぜ?」
「そうだな。だが黙って手をこまねく者でもあるまい。その間に内需は拡大しそうだ」
「そこはな。けどマスターの国がブリテンなら最悪だ」
これ以上、彼女のマスターをどうこう言っても酷だろう。そこで私は少し話をズラした。
「では君が王なら、ブリテンをどうしたね?」
「国防も大事だが、まずは食料の確保。手っ取り早いのは輸入だろ? とにかくどこかの大国と手を結び、騎士の半数を交代で送って傭兵で稼ぐ。和平交渉も大事だ。全員が読み書きできるようになって、交渉相手に農業や漁業を薦める。と同時に、細工物だな。そういう民を育てて輸出できればなと思う」
「そういうのは後から得た知識だろう? 反則ではないかね?」
「いや、言葉こそ知らなかったが、仲間とずっと話していた事なんだ。それでも滅びるかも知れない。けど、こういうのをやってみるべきだった」
こいつは……。
「君はまさか……」
「嫌ってくれても良い。でもよ、話くらいは聞いてくれよと思うだろ? オレだってブリテンが好きだった。父上の方法じゃダメなんだ。民が疲弊するばかりなんだよ。だから騎士を皆殺しにして民を解放するしかなかったんだ。こんなのあの二人の父上には言えない。まぁ、何人かに話したから、今日本に居る父上の耳には入ったかも知れねぇけど……」
後世の伝承では王位の簒奪を目論んだとのみあり、彼女が何を考えていたのかまでは伝わっていない。だから、どの物語も出生に絡んだ話ばかりとなっている。まさか当の本人がこんな事を考えていたとは。
ここのジイサンがモードレッドを喚んだのは正解だった。喚べるようなジイサンだから生き残れたのか、彼女がいたから生き残れたのか、いや両方だろう。
あの日、エーデルフェルトで語ってくれた第四次の話。そこに出るモードレッドと、ここに居るモードレッドは違うのかも知れんが、私は運命というものを再び考えた。
話は変わるが、私がシロウを『衛宮士郎』と呼ぶのは、ジイサンの息子の士郎や美遊の兄の士郎と区別したいからだった。今更、自分がどうこうはない。
だからこそ思う。シロウの過去とは限らんが、どこかのまだ学生の、まさに聖杯戦争に巻き込まれんとしている『衛宮士郎』がセイバーでなくモードレッドを喚べたのなら。
タラレバだし、何よりその資格があるのはジイサンの息子であるあいつだけなのだろう。
「そろそろ寝るか?」
「おう」
彼女はササッと2段ベッドの下に潜り込んだ。私は後片付けを済ませ、テーブルソファーをベッドにした。身体を斜めにせんと頭と足の先がつかえるのだが、取り敢えず休めるので文句はない。
リンの家の屋根で夜明かしした日々が懐かしい。何人のリンと出会ったろう。生前は百人だとすぐにわかるが、死後は百人なのか千人なのか、それとも数十人なのかまったく不明だ。
毎回屋根を突き破り、朝までに直す。朝の弱い主(あるじ)に紅茶を一杯用意する。もはやルーチンワークだ。あれはいつだったかな……?
『で、アンタはどこの英雄よ?』
『こういう髪と肌だが日本だ』
『へ? じ、じゃあ、真名は?』
『エミヤシロウだよ』
たっぷり3分は固まっていたな。それで『衛宮士郎』にコンタクトを取らせ、学園に行かせんかった。土蔵の陣をしっかりリンに描き替えさせ、セイバーを召喚し私の正体もバラした。
イリヤの事を話し、翌日の放課後は森に向かった。説得には骨が折れたが、リンや話を理解した『衛宮士郎』の頑張りで何とか和解できた。
翌朝は桜を拉致した。『衛宮士郎』はどてらとマスクで藤村大河を追い返した。向こう1週間はインフルエンザだ。セイバーとのパスが安定してる分、魔力を吸われてキツイのもあったようだが。
ともあれ一度桜の心臓を壊し、リンの持つ家宝で治させた。気が気では無かったろうが、とにかくリンを説得してやらせた。イリヤの協力もあって桜の様態は安定した。
そして言峰は泰山から出た瞬間に実体化し、土蔵にあったコンテンダーで白昼堂々殺した。腕を切り落とし、その場でランサーとギルガメッシュに全令呪で自害を命じた。
悲鳴やサイレンを嘲笑うかのごとく霊体化し、何食わぬ顔で『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』でリンとの契約を切った。
残りの事はイリヤと『衛宮士郎』に頼んであった。だから私は最後の力で柳洞寺の山門を破壊した。その時の記憶はそこまでだった。
キャスターにアサシン、ライダーが残っているが、イリヤの事もあったので『衛宮士郎』には残りは斃すなと話してあった。その後は……。
ああ、この記憶は4番目のあいつの後だったか……? その次が『エル』達の姉となったアルトリアと出会った世界……? 思い出せんな……。
ただ、桜が暴走する世界も数回あり、その最後でアルさんや義姉と聖杯の中だった。そしてその聖杯を抉じ開け救けてくれたのが大魔導師となったリンと、彼女に付いて来た幼い『エル』だった。
あれで私の運命は大きく変わった。もし死後にも運命という言葉が適用されるのならばだが……。
放課後、弓道場に寄り道衣に着替えた。本日は久々の部活動だ。エルマとトロンメルは既に着替え終えて、2年生達と柔軟運動をしていた。
中等部の子達が、下座の射場二つをコーチの指導で使っている。高等部の1年生は新人戦が近いので、そこに選出された部員は既に道衣姿だ。その子達を新人戦に送り出せば、私達3年生は引退だった。
「選出メンバーはほとんどエルヴァが指導したあいつらだったな?」
そう。薫の言う通りで、女子はエルマと桜ちゃんを別格として、そこに麻上美衣子さんと清水結菜さん、それと迫水澪さんが選出された。
おまけに補欠は小島夕佳さんと袴田琴音さんが現在競っていた。両者3射まで中てている。これは補欠を決めるだけなので、ここまで競る必要はないのだ。
だけど先生やコーチも、鶴の一声を上げられなかった。悩まれているのだ。私の眼から見ても、現段階での二人は甲乙付け難い。
あれだけクセのあった小島さんの調子がこのところとても良い。また元々は2年の白石祐子さんの熱心なウォッチャーだった、迫水さんと袴田さんだ。
白石さんと体格の近い迫水さんがレギュラーになったけれど、袴田さんもセンスが光っていた。お手本が良く、熱心に真似ればここまでになる。
私はそこを気付かせセオリーに則って教えただけだった。だからすんなり袴田さんで決まると思ったが、小島さんが本当に頑張っている。
清水さんの『何か言ってあげて下さい』という目線が辛い。皆んな私の可愛い後輩なのだから。だからこそ私も迷っていた。4射目を外したのは小島さんだった。
袴田さんが小島さんに握手を求めた。小島さんも袴田さんを称えた。それで良い。弓は人の道であり、今の未熟な己に克つ事こそが本道なのだ。だから私は控えに戻った両者を褒め称えた。
「アインツベルンさん。新人戦の弓を引く順番はあなたに任せても良いかな?」
「私がですか?」
「ああ。あなたなら1年生の皆んなも納得すると思う。それだけ見てきたんだから。どうかな?」
それで私が決める事になった。レギュラーと相談しようと思えば断られた。一存で良いという。知らないぞ?
「では、一存で。大前、エルマさん」
「はい!」
「あなたで勢いを付けなさい」
「はい」
「中前、清水結菜さん。あなたはその勢いを、どんな時も次に繋げて」
「はい!」
「中、麻上美衣子さん。迫水澪さんとポジションを変えるかも知れませんが中だるみを防いで」
「はい」
「落前、迫水澪さん。今言った通り、流れ次第で麻上美衣子さんと交代ですが、引き締めて下さい」
「はい」
「大落、間桐桜さん。あなたがすべてを引き受けて、2射目の流れを作って下さい」
「はい」
「補欠、袴田琴音さん。あなたが居るから皆んなが安心して弓を引ける。チームの一員である事を忘れないで」
「はい」
大会会場は他校の弓道場だ。しかも今回は近い。なので私は小島さんと応援に駆け付けるつもりだった。全員をレギュラーにしてあげたかった。だからそのつもりで夏休みがあける前に道衣を揃えさせた。
薫も協力してくれ、皆んなに体配を指導してくれた。それでエルマと麻上さんの昇段試験の日程が決まった。他の子も冬休みに入る前に試験に挑む。中でも桜ちゃんは私とともに二段に挑む事が決まっていた。
女子の熱気にアテられたのか男子の練習も中等部の練習も熱い。トロンメルがタオルとお茶を持って右往左往していた。
練習後、制服に着替えた後の一幕だ。バスで帰るエルマと桜ちゃんを見送って、私とトロンメルは自転車置き場に向かった。
陽は短くなりつつあるけれど、残暑はまだキツイ。なので私は朝が長袖で今は半袖だった。荷物は増えるが、衣替え移行期間中なので誰からも見咎められる事はない。
と言うか、ここの学園もそこまで校則は厳しくなく、真冬で半袖でも叱られる事はないそうだ。3年生の女子に限っても1年生の春以降、長袖のブラウスに袖を通した記憶がないという人が数名いた。
『寒いならベストやセーターがあるでしょう? ジャケットやコートもあるし。暖房のあるバス通学ならこんなものよ、アインツベルンさん』
その人は運動部系ではあったけれど、言われてみればそうだと思った。教室にもストーブがあるし、もし座席がストーブの真ん前だと堪らない。
ちなみに3年A組は夏休み明けすぐに席替えがあって、何故か私は教卓の真ん前だった。右隣は白鳥珠美。薫は後ろの方で、随分と離れてしまった。
「トロンメルは冬服を揃えたのですか?」
「はい、先日エルマと一緒に。あの子もジャケットと冬のスカートを持っていなかったんですよ」
この子も砕けてきたものだ。だけどエルマが冬服を持っていなかったとは。編入が6月の後半だったからなぁ。トロンメルは8月の夏休み明けすぐに編入試験を受けて、その週の後半には編入していたし。同じ学園に通う姉として、これはどうなのだ?
「ごめんなさい。見落としていました。姉失格です」
「そんな……」
そこで同じく部活が終わったらしき吉川クンが、士郎クンとともにやって来たので4人で帰った。坂を下りきったところで吉川クンと手を振ってわかれた。
学園で鼻の良い人は、私と吉川クンの関係性が少し変わった事に気付いていた。まだ恋愛感情はない。だけど薫と同じように、ごく自然に話せる仲になっていた。
おそらく、ここ最近は士郎クンより話しているかも知れない。主に進路のことだけど。吉川クンは推薦で大学に行き、そこで剣道を続け、卒業後は警察官になるという。
ご両親や一番上のお兄さんと一緒だ。二番目のお兄さんは大学でラグビーをしているが、卒業後は自衛隊に入るらしい。私は高等部卒業後、海外の大学に進学すると話してある。
要は時計塔の講師なのだけど、それは言えないので英国の大学に進むとだけ話してあった。
『その後はどうするんだ? 日本には戻らないのか?』
『時折は戻りますよ。妹達が可愛いので。ですが足を置くのはあちらが中心になるでしょう』
この時の会話は横に薫が居て向かいに吉川クン、場所は弓道場で、お弁当を頂いてる時だった。誘ったのは私だが、周囲には常連の美綴さん達も居た。
そして私は感動した。吉川クンのお弁当箱は所謂ドカベンだったのだ。アルマイト製で長辺が20cmを越え、深さが5cmはある本物だ。
あの柔道漫画から野球漫画になった彼の持つ弁当箱はドカベンではない。深さが3~4cmでただ大きいだけの、連載開始当時にあったアルミの弁当箱だ。
土木建築作業に従事されていた方が選んだ本物は、黄金に輝くアルマイト製で、深さが5cm以上で容量が軽く1リットルを越える代物なのだった。
そんなお弁当箱にぎっしりとご飯が詰められ、真ん中には紀州の梅干し(たぶん箱で売れない潰れ梅)で、周囲はのりたま。その外輪に細く高菜のお漬物の油炒めだった。
これも凄いのだが、おかずは別のタッパーに入っていて、そこにはダシで煮たタマゴ焼きが3切れと、炙ったメザシが2尾。それとインゲンとモヤシの胡麻和えがまぁまぁ多めに、ダイコンとニンジンのキンピラが同じくらい、後、竹輪の甘辛焼きがおそらく1本分だった。あ、紀の川漬けもあった。二切れだけど。
更に驚くべきことに、彼は他にもタッパーを持って来ていて、大きな一つは自分の前に置き、小さな方は蓋を開けて私達の前に置いたのだ。
『その爪楊枝でつまんでくれ』
それは季節のフルーツだったのだ。それも彼が私達のためにと自分で切った。そして大きい方のタッパーには、これまたぎっしり詰まったご飯だった。
そして恐ろしい事に、そちらの分のおかずは無い。だから吉川クンはタッパーの白ごはんから食べていた。
『男兄弟の家って凄いなぁ……』
『だろ? エルヴァにこれを見せてやりたかったんだ。すぐ上の兄貴はもっと凄いんだよな?』
『あ? ああ。兄貴はそのサイズはタッパーじゃなく、何かの保管箱かってのにメシを詰め込んでるな。ウチは1日で米を2升炊くからなぁ』
そりゃ、おかずが少々寂しくなるのは当然だ。思わず自分のお弁当箱からおかずを回した私だ。こんなに食べる息子ばかりだと、お父さんの給料がお米代で消えていくよ。
しかもラグビーのお兄さんはプロテインもゴクゴク飲み、太ももが私のウエストと変わらないのだとか。吉川クンにしてもワイシャツの腕がパンパンだ。だけどお腹はたるんでないし、背も高くイケメンだ。
だから弓道部員の間でこの昼食会は噂になり、あっという間に学園中に広まった。家に帰ったらクロエちゃんとイリヤちゃんに問い詰められたくらいだ。
可愛い妹達を悩ませるのは辛かったけれど、吉川クンの話は面白いし、何を見ても知っても新鮮だった。自分でも自覚している。私はガッツリ食べる男性に惹かれるのだと。
なので元々一人でお弁当を食べていた私は(薫は本来食堂派)、いつしか吉川クンと二人、中庭で食べるようになっていた。それも鶏胸の甘辛唐揚げだとか、さば味噌や豚こまとナスの味噌炒めなどを別タッパーで持参して。
もうじき、学園祭が始まる。進路は変えられないが、アプローチがあったら折れるだろうなと漠然と思っていた。きっとあの映像を見たせいだと自己分析したけれど、吉川クンに友情とは違う好意を持っているのも事実だった。
「エルヴァ先輩?」
「はい?」
「先輩のクラスは学園祭の出しものが決まりましたか?」
「喫茶店派と研究発表派、それとどうでもいい派とにわかれているかな?」
「そうですよね……」
1年E組で何かあったようだ。
「どうしました、トロンメル?」
「いえ……学園祭実行委員に指名されまして」
あ~……。編入生にとは言えないか。皆んな高等部の学園祭は初めてなんだし。くじ運なのか、この子の人気なのか。
「ちなみに隣のD組はエルマが実行委員です」
吹いた。何となく自分を指差したら、コクリと頷いた。妹としてテレビに出たものね……。あんなに受け答えをしっかりしたら……。
「わかりました。帰ったらエルマも呼んで相談しましょう」
「お願いします」
私を取り巻く周囲はとても平和だった。
今週は土・日が休みだったので、金曜の夕方にママが迎えに来てくれた。家に帰り自室で溜まった郵便物をチェックした。大したものは来ていない。
エルヴァお姉様とはメールでやり取りできるし、イリヤやクロエとはあちらのルビーと私のエメラルドでテレビ電話になってしまう。
今はサマータイムなので日本との時差は7時間だ。だからこちらが夕方4時なら、あっちは夜の11時になってしまう。なので平日のオシャベリはなし。
たっぷり話したい時は、休日の夕方5時から7時までと決めてあった。そうすると私は朝の10時からお昼までとなる。サマータイムが終われば、また知らせるとも話してあった。
そしてエメラルドやルビーには自動録画機能と留守番モードまであった。寂しくなったらそれを観ている。別に期待していたわけじゃないけれど、念のためにエメラルドに尋ねた。
「エメラルド、何かお留守番に入ってる?」
『はい』
意外だ。イリヤやクロエは考えづらいからミユかな? 他に考えられるのはリンさんかルヴィアさん、もしくはエルマお姉様か、杖を借りたエルヴァお姉様だ。
「誰から?」
『……それが不明です』
「相手が不明? そんな事があるの?」
『エルヴァ様、通常なら設計上考えられませんと答えるところですが、カレイドステッキの回線に割り込めそうな人が一人だけ思い浮かびます』
「ああ……。『エルお姉様』ですね?」
『はい』
「わかりました。そちらの壁に映して下さい」
壁に映った相手はセイバーさんで、声が『エルお姉様』だった。しかも視点がコロコロ変わる。場所はたぶんアジアのどこか。そこの市場なのかなぁ?
なんだかわからないものがたくさん並んでいる。身体は人なのに頭が象の人形?
『お金が貯まるように子供達に贈りましょうか?』
『ではそういう、輸送業者を探さないといけませんね。航空便だと高いでしょう?』
『いいえ。買ったら『宝具』で送り付けるだけですよ』
そこで留守番映像が切れた。
「エメラルド、これって『エルお姉様』が杖を持っているんじゃないよね?」
『はい、普通のビデオカメラの映像を送って来ています。どうやって繋いでいるのか……あ、届きました』
既読というか既視聴すれば、エメラルドが持つ『ラインの黄金』に荷物が自動で届くらしい。ただし、その理論がサッパリわからない。
エメラルドに出して貰えば、箱が二つあった。一つには、お魚と釣り竿を抱えた太ったオジさんの人形が入っていて、もう一つはさっきの象の顔をした人の人形が入っていた。
正直に言うと少し気味が悪い。腕が何本もあって。だけど何かお考えがあるはずだ。すると箱の中にお手紙があった。
『象の頭を持つ人は、ガネーシャといって、インドやタイで信仰されている神様の中の一柱です。お魚を抱えている人は恵比寿様といって日本で信仰されている神様ですよ。どちらも商売繁盛の神様ですから、気味悪がらず戸棚にでも飾っておいて下さい。エルヴァ』
神様なんだ?
「霊脈で大儲けしろって事なのかな?」
『そういう事でしょうね。要は頑張れという応援ではないでしょうか?』
「そういう事だよね」
あのお姉様は本当に突拍子もない。だけど私に目を掛けて下さっている事は良くわかる。
先々週はお祖父様とお会いになられ、今起きている事を協議されたそうだ。私はお会いできなかったのだが、週末家に帰ると、部屋にラップされたままのぬいぐるみや、幾つかの箱が置かれてあったのだ。
ぬいぐるみは私より大きなテディベアやイルカにアザラシ? ともかくベア以外は海の生物だった。そんな中に30cmくらいの変な生物がいた。
図鑑で調べて、それが大昔に絶滅したアノマロカリスという生物だとわかった。デフォルメしてあるので可愛いのだけど、図鑑の絵はとても不気味だった。
お姉様は蟲使いでもあるそうだから、こういうのも好きなのだろう。そこはわかるし理解できる。だけどそれを人にプレゼントするのかって、ちょっと驚いた。あまり枕元に置きたくないタイプだ。
箱の方は靴や帽子に、それとお洋服だった。靴なんて人それぞれだから、あまりプレゼントする人はいないだろう。なのにさすがと言うか何と言うか。まさにシンデレラ・フィットだった。
きっと今の私はお姉様が、日本で言うなら5年生の頃そのままなのだろう。だから平たい箱の中に、クロエやイリヤが通う学校のユニフォームが入っていたのには驚かされた。と、同時に嬉しかった。
その学校の生徒ではないけれど、ママに急かされ着てみれば、二人の姉と一緒にいるみたいでジ~ンとした。
こんな風に、変なところもあるけれど『エルお姉様』は優しい方だった。だから不気味がらず、戸棚の上の目が届きにくいところに二体の神様を置いた。
私とルヴィアが在籍する2年A組では、来る学園祭の催し物をどうするかで、毎日放課後喧々諤々としていた。現在主流の意見は世界の偉人展だ。
様々な発明をした人、歴史に名を残す偉業を成し遂げた人などなど。言ってみれば英雄にカテゴライズされる人も含まれる。
もし私が『聖杯戦争』に臨もうとする『遠坂凛』であるなら、1も2もなく賛成しただろう意見だ。発案者は氷室さん。賛同者代表は例の二人。
ところが我がA組は、これに対抗する意見が徐々に主流となりつつあり、本日がその決選投票だった。その対案とは『インディアン』についてだった。
事の発端は私がカナダで買った『ファースト・ネーションズ』の本(英文)を、某日の休憩時間に読んでいた事から始まった。あの長老との出会いで、私はもっと彼らの事を識りたいと思い、空港へ向かう途中でこの本を買い求めたのだ。
それで読み進めては戻ったり見返したりしつつ理解を深めていった。そんな姿が受験勉強とでも映ったのか、(カナダに行ったとは言わずに)そういう出会いが以前あって、とても感動したのだとのみ伝えた。
そこから尾ヒレ端ヒレ付き、気付けば発案者に祀り上げられ、担任の葛木先生までもが賛同してしまった。
『遠坂、この手の歴史を重ねた人権問題は、正直高校生の手に余る。だがお前なら、ある程度纏められると思う。氷室達の案が採用となっても、こういう学習は続けて欲しい』
なんて事を言われてしまった。
『リン、何故このような事に……』
『わかんない。教室で読んでいた私がバカだったとしか……』
『そうは言えませんわよ? 興味ある本を休憩時間に読んでいた……ただ、それだけですのよ?』
『ね? 自分でも何が何だか』
それでその日のホームルームで『インディアン』を調べて発表する事に決定してしまった。まずは『インディアン』でなく『ファースト・ネーションズ』や『ネイティヴ・アメリカン』である点から是正しなければ。
「結局、あなたがプロジェクト・リーダーですわね?」
「乗りかかった船よ。しょうがないわ。やるだけやってみる」
「お手伝いは致します。現地調査もさせましょうか?」
「大袈裟よ。けど、エルヴァと相談したいわね。できれば師匠とも」
「そうですわね」
取り敢えず本日は下校して、明日ある程度、各人が思った事や調べた事を持ち寄って明日から動く事となった。私の方ではタイムテーブルを作成して、現段階まで調べた内容をリポートにして配布すると話した。
ルヴィアと一緒に教室を出て階段を降りた。向かうは図書室だ。30分ほど掛けて調べてみたが、これといった本が全然見当たらない。
書士の先生に相談してみても、この日本ではマイナーなジャンルなので、例え冬木市民図書館に行っても満足する本は無いだろうとの事だった。
仕方ないなと二人してトボトボ歩いていたら、眼の前は弓道場だった。道場は校門から割合近い場所にあって、かつA組とB組が使う校舎端の下足室からも近かった。C組からF組は下校時に中央下足室を使うので、校門に向かう場合は道場の前を通らないのだった。
それで何気なく道場を覗くとすごい熱気だった。それに臆していると、後ろから声が掛かった。
「遠坂、ルヴィア、見ていくか?」
道衣姿でペットボトルを抱えた美綴さんだった。同じクラスだけど私達は図書室に寄っていたので入れ違いだったのだろう。後ろにはトロンメルも居れば、衛宮君達男子も数名いた。一人、5本も6本もペットボトルを抱えている。
「そんなにたくさんどうするの?」
「全部員に差し入れ。一応メインは1年生にな。出資者はエルヴァ先輩だよ」
「始まったばかりなんでしょう? 今配るの?」
「冷蔵庫で冷やすんだよ」
「アヤコ、メインが1年とは?」
「あ、知らないよな? この秋に新人戦があるんだ。それで3年生が1年生をシゴイている」
「アメとムチ?」
「ああ……シゴイてるって言ってもイジメじゃない。それだけ真剣って意味だよ。だから1年生も先輩方に応えようと頑張っているってワケさ」
それでこの熱気か……。私とルヴィアは誘われるままに、いつも見学で使わせて貰っている『控え』に座った。
「間桐さん! 馬手の肘をもっと水平に!」
「はい!」
うっわ。エルヴァが我が妹を。
「今、射場に入っているのが選手?」
「そうだ。女子の顔馴染みなら、あの間桐とエルマがレギュラーだよ」
冷蔵庫にボトルを仕舞い終えた美綴さんが教えてくれた。他の人も名前こそ知らないが、エルヴァが面倒をみていた子だったと思う。3年生が1年生を指導しているので2年生は暇そうだ。
「暇って事はないんだが、ほら、あの端っこ。中等部生を教えてるのさ」
ああ、なるほど。だけど中等部生の人数が少ないから、余る2年生が多いのか。
「衛宮、居るか?」
ん? 生徒会長の柳洞君だ。
「おお、一成。どうだった?」
「何とか許可を取り付けた。火元と食中毒はとにかく注意してくれよ」
「ああ、勿論だ」
うん?
「弓道部の出し物。今年はお好み焼きと焼きそばで行こうってな?」
「ああ、それで。衛宮君が中心なんだ?」
「そう。と言っても女子も男子もノリノリだ。何と言ってもエルヴァ先輩が居るしな」
エルマにトロンメルも居るし、なるほどと頷けるところだが、3年A組の出し物はどうなっているのだろう?
「ねぇ、綾子。3年A組って何をするのか知っている?」
「メイド喫茶と言うかコスプレ喫茶と言うか……。そういう衣装で揃えて、コーヒーは豆から、紅茶は葉っぱから拘るお店にするそうだ。と同時に豆と葉の歴史などを、模造紙に描いて展示するって聞いてるな」
それはエルヴァにピッタリだ。ルヴィアの眼も光っている。これ以上長居しても調べ物が進む訳ではないので、私とルヴィアはそこでお暇した。
ダダンダンダダン、ダダンダンダダン。
袋小路から抜け出た私達の目に飛び込んだのは、私達が親しんだ彼でなく、ロシアで召喚された、また別のヘラクレス殿でした。その大きな身体を、仕立ての良さそうな真っ黒なスーツで包み、実に優雅に歩いていらっしゃる。
「ランスよぉ?」
「ええ、スイス以来ですね。ここで逢うとは」
場所はブリュッセルのグランプラスに近いところ。この袋小路の小道の先には『小便少女』という、とんでもない像があります。しゃがんだ少女がチョロチョロと。一応噴水らしいですが理解の範疇を越えています。
そんな小道を歩いていたのは、レストランでの昼食を終え、ホテルに戻ろうとしたからです。ランサー殿がこちらが近道じゃないかと申されましてね。行き止まりだったのですが。
それで引き返した先の通りで、ヘラクレス殿をお見掛けした次第です。
「おい、オッサン~!」
え? 彼は『アルさん』と親しまれている彼ではありませんよ? いきなりその呼び方は大丈夫なのですか?
「あれだけの英雄だぜ? そうコロコロ性格が変わるもんか」
う~ん……確かにスイスでの彼は『アルさん』と変わらぬ紳士でしたが、あの時はマスターであるエルヴァ殿が居たのですよ?
仕方なく私もランサー殿と一緒に彼の下へ行きました。今回の私どもの仕事は、簡単に言えばエーデルフェルトのエージェントの護衛でした。
細々した調査(若干危険を伴う)を彼らが行い、私どもが妨害者を黙らせる任務でした。それらを昨日終え、本日は観光だったのです。
「おお、君達か。久しぶりだな。元気にしていたかね?」
「おお。こっちはピンピンだぜ。な?」
「ええ。『あなた』も壮健そうで何よりです。ベルギーにはお仕事ですか?」
「ああ。内容は明かせぬが、ここで再会するという事は似たような仕事なのだろうな」
彼の横には、彼と同じ黒いスーツを身に纏った銀髪の女性が二人。その赤い瞳は我がマスターや彼女の妹御と同じです。ノイント殿の手の者でしょう。その内の一人が話し掛けて来ました。
「ランサー様、ランスロット様、お久しぶりでございます」
うん?
「あ、あんた。オレの部屋の……?」
「左様です。スイスでのお部屋係でした」
すると、もう一人の女性も私に向かってニコリと。思い出しました、こちらの方が私の部屋係でした。この後、暇な私達はヘラクレス殿に誘われるままブッシェ通りを歩き、とあるバーに入りました。
彼がお伴の女性に二言三言声を掛けました。暫くすると黒いスーツのメイド達が、なみなみと注がれたビールのジョッキと、山盛りのフライドポテトを持ってきました。
「あ~? アテがポテト?」
「そのディップに浸けて一口食べてみろ」
「へぇへぇ。ン!? 旨ぇ!」
「だろ? ジャガイモからして違うのだ。これはビンチェというジャガイモでな、フリッツになくてはならんジャガイモなのだよ」
「フリッツ? フライドポテトじゃないのか?」
「フライドポテト? フレンチフライは聞いた覚えがあるが、何を言っているのだ?」
この件をメイドの一人が教えてくれました。私の部屋係だった人です。
「このジャガイモを揚げた食べ物はベルギーがオリジナルで、その名をフリッツと言います。この珍しい食べ物を、第一次世界大戦頃に進駐していた軍人が各国に持ち帰り、アメリカ人がフレンチフライと名付け、英国人は単にチップスと言い換えた訳です」
「どうしてアメリカ人はフレンチフライなどと?」
「ベルギーはオランダとドイツ、そしてフランスに挟まれた小さな国です。それで北部のフランドル地方東側と首都圏のブリュッセル地方では主にオランダ語が話されています。また南部のワロン地方の東側ではドイツ語が話されています。残りの西側はフランス語です」
「ああ。スイスと同じくその三言語が公用語であると?」
「そうです」
「見えて来ましたよ。つまりアメリカの兵隊が出逢ったのは、フランス語を話すベルギー人だった?」
「正解です、ランスロット様。おそらくそのアメリカから、今お住いの日本にフレンチフライが入り、フライドポテトと名が変化したのだと思われます」
私は大いに頷きました。ランサー殿は並行世界の日本で召喚され、そこからこちらの世界です。性格もあると思いますが、海外に渡っても余り深くは他国の文化を見ていなかった。
ところが私は倫敦で聖杯戦争とは関係なしに召喚され、その後現役の学生であるマスターと一緒なわけです。何よりあの頃はあの物識りなアーチャー殿から色々と教わった。そこもあるのでしょうね。
ビールも美味しいが、ディップと言いますかソースと言いますか、これがまた美味しい。
「こちらのソースはアンダルシア・ソースと言います。ケバブなどにも合いますよ」
「ケバブならこっちですよ」
そう言ってランサー殿の部屋係だったもう一人が別のソースが掛かったフリッツを寄越してくれました。それを一口頂きますと、少し辛い? けれどこれはこれで美味しいです。
「これは?」
「こちらが面白い事に、その名をサムライ・ソースと言います」
思わず目を瞠った私とランサー殿です。イメージなのでしょうね。実際、日本の侍とは何の関係もないでしょう。ですがそのピリっとした辛さは、どこか只では置かないぞというスピリッツを感じさせます。
アーサーはかつて並行世界の第五次で、あの侍のアサシンと戦ったそうです。私もあの魂保管器に収められた彼とは会っていますが、その頃はその実力を知らなかった。
今はエルマ殿の切り札となって眠っている彼。再び逢えて仲間となってくれれば嬉しいのですが。