※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第三部 霊脈篇   作:炭団

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世界が本当にきな臭いですね。


125、ある前日譚

 お祖父様がヘラクレスを差し向けてまで探っていたのは、死徒二十七祖の内の一人、コーバック・アルカトラスの居場所だった。

 ロシアの霊脈との関わり────もし関わっていたか、何か迷惑があったのなら、それなりの対価を支払うという意志を示し交渉をするためだった。

 だけどやっと探し当てた『魔女の洞窟』に居たのは代理人の女性で、報告だとあのマルガリータさんと同じミラビリスだった。

 

『エルヴァ様、『魔女の洞窟』とは何でしょう?』

「うん? 魔術師が集う地下酒場っていうのかな? そこには本物の呪い師が居るって言われていて。中世の頃から場所を転々としながら開いているらしいの」

 

 たぶん業務形態も屋号も、場所を変える度に変えているのだと思う。だから入る情報が毎回異なっている。だと言うのに、お店の一角に占いコーナーがあり、そこで占ってくれる相手の容姿はほぼ一致していた。

 そして、その的中率と噂の長さ。古くは13世紀頃からあって、どんな事でも言い当てていたという。

 

『つまりその呪い師は本物の魔女?』

「みたいだね。占いも得意らしくて、黒死病(ペスト)の流行を言い当てていたとか」

『その方がミラビリスだった訳ですか?』

「うん。ミラビリスは五人だって聞いていたけど、もっと多いのかもね。『エルお姉様』がニューヨークで意見交換した相手もミラビリスだったみたいだし」

『そうなんですか。それでヘラクレスさんを差し向けたのですね?』

「うん」

『あの方は今どちらに?』

「ベルギーのブリュッセルだって。最新の調べではオランダのバールレ=ナッサウのベルギー領、バールレ=ヘルトフに、その『魔女の洞窟』というお店があるって話だったのに。結局あったのはアントウェルペンだったって」

『それをヘラクレスさんが?』

「探しだしたのはお祖父様のメイドだけど。彼が居たから会えたみたい」

 

 神秘の体現者は、それをより深く識るだけに、自分よりも深く、高く、遠い神秘に敬意を払う。私だってモードレッドが大好きという前に、彼女が私をマスターと認めてくれる事の方が嬉しいし、ヘラクレスさんともども尊敬している。そして二人の英霊を誰よりも信頼していた。

 こうして離れてしまうと本当に寂しいけれど、モードレッドにはお姉様方を守って欲しいし、ヘラクレスさんにはお祖父様の傑作である、二人の優秀なメイドを守って欲しかった。

 その二人はママや同世代のルオンノタルさんとはまた違うタイプで、情緒面だけでなく好奇心や学習能力が完璧だった。そんなお二人のプロトタイプ一組目がボストンに居て、二組目がロサンゼルスに居る。

 半永久的に活動できるようにって、ちょっと無茶な事をしているらしいけれど、いつかお前が治してあげなさいってお祖父様から言われていた。なのにどうもそれをお姉様方が治しちゃったみたい。

 今はまだロサンゼルスの二人だけだけど、こちらにお戻りになる前にボストンにも寄りたいってエルお姉様のメールにあった。私の宿題なんだけど、それでも良いかなって思ってる。

 

『エルヴァ様、この報告書にはブリュッセルでランサーさんと……?』

「うん。ランスロットさんも居たみたいだね。それもエルヴァお姉様でなく、エーデルフェルトからの依頼だったって」

『ルヴィアさんの?』

「それならサファイアを通じて、エメラルドも何か気付くでしょう?」

『そうですね。という事は、それこそ『魔女の洞窟』に用が?』

「わからない。お二人はエーデルフェルトのエージェントを護衛するのが仕事で、細かな事は知らないらしいから」

 

 だけどエメラルドと同じで私も『魔女の洞窟』目当てかなと思っていた。だけど要件は意外でもあり、納得の行くものでもあった。

 

 一つはお抱えの宝石研磨師に、ルヴィアさんにロシアで渡したダイヤモンドを研磨させるためだった。ベルギーのアントウェルペンは、単なる港街でなく世界有数のダイヤモンド研磨の街だった。

 と言うか、ダイヤモンドでダイヤモンドを研磨するという現代の研磨機を開発したのがベルギー人だったのだ。だから今も世界中から宝石にするための原石の85%がアントウェルペンに集まる。

 そんな研磨師の街に、お抱えの研磨師がいる。それがエーデルフェルトだった。その分、ルヴィアさんは悩んでいたみたい。

 あの人の事を調べてみると、現代魔術科のロードエルメロイⅡ世をとても敬愛している事がわかった。だけど宝石魔術師であるあの人は鉱石科にも席を置いていて、メルアステアとエルメロイの確執をよくは思っていなかった。

 元々鉱石科はキシュアと言って、宝石翁の意志を汲むエルメロイがロードだったのだ。それが先代エルメロイの死によってメルアステアのものとなった。

 この時に考古学科ロードで中立派の筆頭だったメルアステアを鉱石科ロードにも据えさせたのが、エーデルフェルトだとの話があるのだ。

 エーデルフェルトは代々宝石魔術を得意とする家だ。そしてリンさんと同じく大師父の弟子筋でもある。となるともう間違いない。

 メルアステアは、ルヴィアさんの成長を待つまでの繋ぎだったのだ。つまりエーデルフェルトは鉱石科を乗っ取るつもりだった。それに気付いてルヴィアさんは悩んでいた。そして閃いた。騒ぎを起こして退学になってしまえば良いと。

 ルヴィアさんはたぶんリンさんより、数枚ウワテだ。だけどルヴィアさんは巻き込んだリンさんと今は心からの親友となっている。それでまた悩んだと思う。同じくエーデルフェルトの小父様や小母様も。肝心の娘が退学なんだもの。

 だけどそれがルヴィアさんなのだろう。きっとその新たに研磨されたダイヤモンドを持って、ルヴィアさんはプラハに行く。そしてそこでリンさんとともに宝石魔術師として名を売るだろう。

『宝石魔術師を目指すなら時計塔でなくプラハに行け』。そんな未来が見える。

 

 二つ目の理由は、現在世界で起きている事件を探るためだった。実際どこまで探れたのかはわからないけれど、お隣オランダのロッテルダムにも足を伸ばしていたらしいから、貿易の盛んな港湾都市はだいたい押さえているだろう。

 そこと国際金融センターとなる都市を重ねると。広範囲から人海戦術で攻めるエーデルフェルトも凄いが、最初からピンポイントでニューヨークに行く『エルお姉様』が凄まじい。

 

『チビはあのチビを見習うべきじゃろうな』

『マスター、無理すんな。飲み込まれるぞ』

 

 どちらの意見も正しいと思う。だけどお祖父様。『エルお姉様』が見ていたのは『その後』の株価やヘッジファンドに先物だけじゃないんです。ミラビリスと会って、『その後の世界』を見ていたんです。

 そういう幅広い視点は見習うべきだと私も思います。だけど、モードレッド。飲まれる前に圧倒されるよ。7歳違いってそんなに大きなものなの?

 

 

 

 熱ぃ。マジで熱ぃ。ネバダは荒野と砂漠ばっかだって聞いたけど、カリフォルニアと同じで太陽が熱いんだ。なのに海が無ぇから風が熱気を流さない。

 トレーラーはギリ木陰だけど、クルマはとんでもない日向ぼっこをさせられて、ドアノブにすら触れない。

 

「おい、エルヴァ! こいつ、その内壊れんぞ?」

「はいはい」

 

 額に汗を浮かせたエルヴァがトレーラーから出てきて、クルマとトレーラーに断熱の結界を張った。さっさとやっとけと言いたいトコだが、まさかここまで暑くなるとはオレも予想できなかった。

 

「おい、オレみたいな格好しやがって。『お兄ちゃん』が泣くぞ?」

 

 エルヴァは下がデニムのホットパンツで、上半身は水着だと思うが、柄物のブラだけだった。大概お嬢様なヤツだと思っていたが、アメリカに来てからドンドンとラフになって来る。

 そういうオレはエルヴァに借りたビキニだから、偉そうに言えない。なんでオレのビキニが無いんだ? エルに預けたつもりだったのに。

 エルとエルヴァは交代で使い魔を操作していた。その間の守りが甘くなるのでオレが見張り、そんでもってアーチャーが現場で監視だった。

 あの野郎は砂漠慣れしてんのか、この炎天下でも平気らしい。オレってやっぱりブリテンの人間なんだな。死んで英霊になったっていうのに、あまりに暑いトコは苦手だった。

 

「受肉したせいかも知れませんね?」

「エルヴァの姉ちゃんの父上もそうか?」

「う~ん……。あの人もアーサー王だったから。騎士は死しても高楊枝?」

「どういう意味だ?」

「『武士は食わねど高楊枝』という言葉のもじりです。意味は例え貧しく食事に事欠く有様でも、お昼時に人様の前を歩くなら、あたかも食べ終わった後のように爪楊枝を咥えておけという、武士の心意気を指しています」

「へぇ~。見栄っ張りだな?」

「違いますよ。それは後世のゲスが考えた解釈で、本当の意味は少し違います。そもそも武士はお殿様に仕える公務員だったからですよ。つまり藩の財政が貧しいとか、苦しんでいる姿を庶民に見せて不安がらせるなという意味ですよ。だから『襤褸は着ても心は錦』という言葉も生まれたんです」

「あ~……。ガウェインが言ってた事だ。『鎧はいつも磨いておけ。民が騎士に憧れるようにならねばならん』って」

「その意味を尋ねて?」

「ああ、同じだった。財政の厳しさを民に見せるなって。不安にさせるなって言われたよ。父上も無理してたんだろうなぁ」

「そこが美点であり悪い点でもありますね」

「そうだな。苦しいときは苦しい、辛いときは辛い。それが……」

「言えない立場に追いやったのは?」

「ハァ……オレ達か……」

 

 エルヴァはこんな風にオレの至らなかった点を教えてくれる。

 司法・行政・立法の三権を握っているのも王だと教えられた。わかるか? 自分で法を作って自分で政治を動かし、自分で裁くんだ。だから王こそが、法そのものと言えるんだ。

 だけどそれは独裁政治といって、あんまり良くない事らしい。だから今は、立法は民が選んだ政治家が行う。民の願いを代行するから代議士というんだそうだ。

 民の代表でなく代行なんだと。なので他国に阿(おもね)る代議士は、どこの国であっても死刑だという。当たり前だよな? けど、日本って国では死刑にならないらしい。変な国だぜ。

 また司法も行政も、専門の試験を受けて合格しないとそういう役職に就けないとか。ここはまぁわかるよな。戦のたんびに小便漏らすような奴が騎士だと笑うぜ。

 そしてエルヴァは言った。三権分立とは行かなかったが、貴族院的な議会制民主主義を最初に行ったのが父上だったって。それが円卓だったと言ったんだ。

 オレは嬉しかった。国は上手く行かなかったけど、千年以上も後の人間がオレ達の政治が素晴らしかったと褒めてくれたんだ。もう、それで十分じゃねぇか?

 あの二人の父上も、こんな風にそれぞれのマスターに言って貰っていたのなら。いや、きっとそう言ってくれたんだろう。だからあの二人の父上は、オレみたいなガキの言い分を静かに聞いてくれた。生前の父上からは考えられない事だ。あの倫敦のパブで、どんなにオレの心が軽くなったか……。

 

 おっと、そろそろエルと交代する時間だろう。オレはエルヴァを促して中に入った。

 二段ベッドの下でエルが眠っている。いや起きてんだろうけど、仰向けで目を瞑り、腕を組んでいた。地中深く潜り込んだ何十匹もの蟲と交信するためだ。

 これはロシアでも同じだった。だけどあん時は、ノイントの祖父さんが集めたスタッフが居た。あん中にはエルヴァやエルを補佐できる、つまり外部の装置となれる魔術師が何人か居たんだ。

 それが今回は居ない。全部二人でやんなきゃならない。マーリンや母上ならなんて事のない魔術だろう。だけどこの現代ではエルやエルヴァでも別格だ。

 そう考えると益々『エル』がおかしい。あいつは大昔の高名な魔術師の生まれ変わりのような気がする。マスターのエルヴァとそもそも魂からして違うような気がしてならない。

 冷蔵庫から冷えた茶を取り出し、エルヴァのマグとオレのマグに注いだ。それを一気に煽ってエルヴァは二段ベッドの上に登った。あいつが目を瞑り、術式を引き継いだのを感じ取ってからエルを起こした。

 

「おはようございます」

「もう、昼を回ってんぜ? 冷蔵庫にアーチャーが作った飯があるから、そいつを食って休憩しろよ」

「はい」

 

 このネバダが暑いって知ってたんだろう。エルはここに来てから、それまでに見た事もない下着を着けていた。エルヴァがよく穿いている紐パンでもない。なんて言うのか、手作りのような。

 

「そのお前ぇの下着はなんだ?」

「『もっこフンドシ』ですよ。蒸れないし、パッと見、フンドシに見ないので。前から少しずつ、ブラと一緒に作っていたんですよ」

 

 こいつもエルヴァも意外と洋裁が得意なんだ。だからこの程度なら作れるとは思う。けど?

 

「もしかしてだけど、それって日本の昔の下着か?」

「はい。フンドシは全般、一般認識として男性用とされていますが、実は戦争前後まで女性が着けていた例もあります。特にこの『もっこ』と『越中』というタイプは」

 

 その理由は月のものにあった。つまりは血を受け止める布が落ちないようにするためだったんだ。そんでもってメリットはそれだけでなく、こんな暑い中でも風通しが良く蒸れない点にあった。だからエルは自作までしていたんだ。

 実はオレ、生理がない。エルヴァやエルにはあるんで、似たような生まれでも完成度が違うみたいだ。元英霊ってのもあるだろうし、何より千年以上も開きがあるからな。

 いくら母上が高名な魔女だったとしても、こういう分野には限度があったのだろう。だからそこは気にしてない。けどエルもエルヴァも現代の魔女だ。その月のものの周期のコントロールや、小便する時に垂れてこないよう抑える方法を知っていた。

 

『排尿の際に膀胱と尿管を緩めて、膣は閉めておくだけですよ?』

『マジで?』

『マジです』

『けどよ? 騎士の中にも居たぜ? 小便したら屁の出るヤツ。かくいうオレも小便してたら大がしたくなる時がある』

『だから肛門の括約筋と尿管は別々なのですから、それぞれを使い分けるだけですよ』

 

 できねぇっつうの。だけど魔術師だからどうこうでなく、できるヤツはできるらしい。着物だけが服だった時代は皆んなできていたのだとか。

 ケツの穴の筋肉と女のあそこの筋肉は8の字に繋がっていると知って驚いた。そしてエルはあそこに錘の付いた棒を挿し込み、ぶら下げられるという。その重さは2kgだそうだ。

 

『エルヴァは半英霊だけあって、10kg行くそうです』

 

 それが嘘だと気付くまでに一ヶ月掛かった。その話をエルヴァにすれば笑っていたが、真面目な顔になってこう言った。

 

『でも、膣圧を高めれば将来一緒になった男性が歓びます。ある程度鍛えるのは間違いではありません』

 

 な? 変なトコで真面目なのがエルヴァなんだろうな。

 冷蔵庫から取り出した料理をレンチンしてもそもそ食べるエル。

 

「なぁ、後何日くらいで終わるんだ?」

「エルヴァと交代ですから、今日中に終わりますよ。最後の仕上げを今夜中に終えて、明日の午前中にはハンティントン・ビーチに帰りたいですね」

「その後は?」

「ね? どうしましょう? 今月一杯はこちらに居ろと言われていますし。それも実際、お祖父様がもう良いと言うまで延期される可能性がありますしね?」

 

 う~ん……まいったな。動きのないのが一番辛ぇ。ランサーと同じだな、オレ。

 

 

 

 昨夜、エルヴァがネイティブに関しての詳しい本を何冊か教えてくれた。先もってエルマとともにネットで検索してくれたのだ。

 やはり英文本が多いので、普通の本屋では手に入らず、ほとんどが専門店での取り寄せになるようだ。なのでここは遠慮せずルヴィアのチカラを借りようと思った。

 ところがエルヴァが朝まで待って欲しいと言った。どういう事か不明だが何か宛があるらしい。その後、彼女はマルガリータさんとともに晩ご飯の用意をしながら、エルマとトロンメルの話を聞いてアドヴァイスを送っていた。

 しっかし、三人して学園祭実行委員になるなんて。我が2年A組は氷室さんだけど、C組は衛宮君で、3年A組はエルヴァだったのだ。

 もう一度言う。1年D組の学園祭実行委員はエルマで、1年E組はトロンメル。2年C組が衛宮君で3年A組がエルヴァなのだ。普通あるか、こんなの?

 これでイリヤかクロエのどちらかが、小学部の児童発表会か何かで委員に選ばれていたら驚きだ。どんだけアインツベルン率が高いんだって。

 けれどあるのは夏休みの自由研究や工作を体育館に展示する児童作品展だけだった。そしてその作品を並べる先生のお手伝いに、美遊が選ばれていた。

 

「5、6年生の中から数人選ばれるそうですが、そこに美遊が入りましたわね。時計塔を退学になった私どもと違い、先生のウケが良いようでホッとしましたわ」

「まぁね、あの子は真面目だし。それにエルヴァやエルマが、イリヤやクロエと一緒に宿題とか見てくれているんでしょう?」

「最近はトロンメルもですわ。リン、益々私どもの立場がありませんわよ?」

「でも、ありがたいじゃない。そういう良い事で失くなる立場なら失くせばいいのよ」

「ホホホ……面白い開き直り方ですわね?」

「チラリと聞いたんだけど、桜がエルヴァの事を姉のように感じているんだって。最初はヤキモチを焼いたんだけど、ちょっと待ってって。そういや私もエルヴァやルヴィアに頼ってるなぁって。何だかもう家族のような気分なのよね」

「わかりますわ」

 

 そうして私とルヴィアは調理を続けながらも、親身になってトロンメルやエルマの悩みや考えを聞き、真摯に応えるエルヴァの涼やかな声を聞いていた。

 ところで巫女のイリヤさんと英霊のイリヤさん、それと二人の小さい方のイリヤは、今朝から4人で旅行に出掛けていた。エーデルフェルトのクルマを借りて温泉旅館に向かったのだ。運転は二人のイリヤさんだ。

 なんでも私とルヴィアがサイクリングに行ったり、仕事と称してホイホイ海外に行くのを小さい方のイリヤ達が羨ましく感じていたらしく、そこでこの小旅行を企画したと話していた。

 多分というか、まず間違いなく今世界で起きている事で、3人を元の世界に帰してくれる人(師匠か『エル』)が忙しい。それで待機状態になった3人は暇を持て余していた。

 

『ん? 私とちぃイリヤはいつでも帰れるよ? ゲートを潜る程度なら私にもできるから。と言うか、ここへはそうやって来たのよ? でもさ、凛。この子を置いて帰ったら可哀想じゃない』

 

 英霊のイリヤさんも頷いた。二人のイリヤさんは、あの連れ帰ったイリヤを心配していたのだ。そんな二人の気遣いがあるからか、あのイリヤも段々と砕けて来ていた。

 もうじき始まる学園祭にも行きたいと話していたので、誰も喚ぶ宛のない私が後日チケットを渡すと話してある。一方、ルヴィアはオーギュストさんと美遊の兄の衛宮君に渡すつもりらしい。やるわね。

 

 その美遊の兄の衛宮君だけど。彼は夏休み明けからシフトが変わり、最近は厨房より庭の管理が多い。これはランサーやランスロットが国外に出る事が増えたからだ。

 それとは別にもう一つ理由があって、それは以前『エル』に言われたらしく、バイクの免許を取りに教習所に通う事になったからだった。

 勿論、本命の目標は来年の自動車免許取得だが、先にバイクを取る事で交通事情というのに慣れておくという意味が強かった。そちらの理由はハッキリしている。ゆくゆくは海外でも運転をしたいからだった。

 これはエルヴァも賛成していて、メリットを聞いたルヴィアも大賛成している。やはり現地でレンタカーなどを利用できるのは大きい。

 確か教習所代の半額をルヴィアが出し、残りの分も無利子で貸しているような事を聞いた。全額出さないのは衛宮君の顔を立てるためだ。

 ルヴィアと美遊の兄の衛宮君は、今となっては相思相愛で間違いない。だけど二人の仲は、今どきの高校生とは思えないほど進展していなかった。

 その理由はお互いの事を真面目に考えているからだった。あれだけ自己中で強引にマイ・ウェイなところがあったルヴィアが、トロンメルやエルマのように衛宮君との事をエルヴァに相談していた。

 また衛宮君の方もオーギュストさんにルヴィアとの事を正直に打ち明け、ゆくゆくはエーデルフェルト本家へ挨拶に伺いたいとの意向をきちんと示したそうである。

 オーギュストさんの心境はわからないが、敢えて中立を保っているようにも感じる。たぶん、ルヴィアのご両親にも報告されているだろう。

 また、その事をルヴィアも衛宮君もわかっている。だから二人は真面目なほどプラトニックだった。家族の事、一族の事、それらに加えて、旧来の作法通りに筋を通すべき相手────。

 ルヴィアは中学生頃から、欧州の社交界でデビューしていた人だ。そんなの今もあるの? と思うだろうが、あるところにはある。

 それは財界であったり、政界であったり、高位の魔術師の集まりだったりとケース・バイ・ケースだろう。だけどそれは仮に両親が生きていても、遠坂レベルでは絶対に参加できない一流の集まりでもあった。

 そんな超名門の跡取りであるお嬢様が、親の薦める相手(現段階では居ないと思うが、こればかりはわからない)でなく自分で将来の相手を選んだのだ。最初の頃は私もその重みを全然理解していなかった。

 それがエルヴァの話でわかったというか。今は二人をメチャクチャ応援している私だ。そしてそれが、どうやらプラハに居る妹さんの耳に入ったらしく…………。

 

「学園祭に合わせて、日本に来たいとメールがありましたのよ……」

「厄除けか何かで、あちらもプラハで『ルヴィア』を名乗っているんでしょう? うっかり本名を呼ばないようにしないとね」

「それですのよ。何か日本に居る間だけの偽名を考えませんとね」

 

 詮索はしないが、◯◯ゼリッタっぽい名前らしい。ルヴィアの場合は『Luviagelita Edelfelt』と綴る。『Edelfelt』はドイツ系の姓だ。

 元々は『Einzbern』が『Einzbern』を名乗る前に、当時のオーストリアやチェコで暮らしていた一族が、エルヴァ曰く『神聖ローマ帝国に嫌気が差して新天地を求め北欧に行った孤高の親戚』なのだそうだ。

 だから『Edelfelt』は、現代のドイツ語圏にも残っていない姓だし、フィンランドではあり得ない姓でもあった。なのでフィンランドに移ってからは違う姓を名乗っていたそうだ。

 それがルヴィアも偽名でよく使う『Vuorinen』だ。『Vuori』は『山』という意味で、『nen』は『~から来た』といった出身地の特徴を現しているのだとか。

 ちなみに彼女は名の方を『Lotta』や『Lyyli』といった偽名にする場合がある。『Lyyli』は『Lyydia』の愛称らしいが、『Lyydiagelita Edelfelt』ってありそうじゃない?

 ま、言わないけどね。だってエルヴァに出逢って私の見識が広まったのか、最近の私は自分の名に疑問を持っているからだ。

 師匠に尋ねるかすれば一発で答えがわかるのだろう。でもこればかりは自分で調べたい。だからルヴィアの妹さんの名も訊いたりしないのだ。

 話を戻して、フィンランドでルーン魔術を磨きに磨いてン百年。ルヴィアのご先祖は遂に、宝石魔術に手を出した。手応えがあったのだろう。そこで姓を本来の『Edelfelt』に戻した。それが500年前だった。

 つまりエーデルフェルトは、その昔アインツベルン一族の一角で、その頃からの歴史を加えると千年を越えるのだ。これはエルヴァや『エル』に、あちらのルヴィアが知っていた事であって、ルヴィアがルヴィアに教えてくれた話なのだった。

 で、ルヴィアは『リューリィ』と名乗らせると決めていた。つまり『Lyyli』だ。これは確定かな?

 

 

 

 エルマやトロンメルの相談も終わり、食事の用意が整ったので皆んなで頂いた。そして食後のお茶を楽しんでいる時にそれは起きた。

 

「お姉様、また届いたようです」

 

 そう言ってエルマが空間から何かを取り出したのだ。それもすごく重そうに引っ張り出していた。

 

「お、重っ!」

 

 何だ? 何だ? と皆んなで覗くと、エルヴァがそれが何であるかを教えてくれた。

 

「ギターアンプですよ。Marshall の Mode Four MF350 のヘッドとキャビネットとは、これまた随分な物を送って来ましたね。そちらのソフトケースはギターだと思いますが、どれどれ……」

 

 その褐色のビニールケースは二つあって、エルヴァがそれを引っ張り出した。

 

「おっと。こちらは lespaul studio のドットポジションですね。天然木シリーズじゃなくオリジナル?」

 

 それは青くて、下の木目が透けていた。

 

「ピックガードにエスカッション、それにスピードノブがカーボンって、どんな拘りですか。おまけに lite より軽いのでは……? あ、中身に音響板が張り巡らされていますね。ふむ……そのくせハウリング防止にセンターにマホガニーのブロックか。これは特注品で間違いないですね」

 

 解析を掛けているのだろう。ブツブツと意味不明な事を呟いていた。

 

「もう一本は……ソロイスト?」

 

 二つ目のケースからも、エルヴァがギターを取り出した。そちらは真っ黒で真ん中にだけ赤い暈しが入っていた。

 

「ん……無銘ですね。フロントがシングルサイズのハムで、リアがゲインの高そうなハム。24.75のギブソンスケールでロッキングアーム付き。トリッキーに弾き倒せって感じですね」

 

 その解説が何を言っているのかわからなかったが、持ち主はすぐにわかった。

 

「それ、私のです……」

 

 何とトロンメルの私物だったのだ。聞けば最初のは、『エル』に譲られ大切に使っていたギターだという。そして二つ目のは、楽器の好きな先輩のメイドと交換したものだという。

 

「トロンメル、トントと交換した?」

「はい。中古で買った赤いテレキャスターでした。でもスケールが合わなくて。それで……」

「それでこのソロイストですか。指板のRも馴染みやすそうですし、どうしてトントは?」

「あの人は元々がドラマーであり、ベーシストです。お持ちのギターもほとんどがジャズマスターで、カッティングが主体ですし。きっとご友人から買い取ったか譲られたかしたのだと」

「そうですね。それかジャンクを修理したものかですね」

 

 そのトントという人は、D.I.Y.を地で行く人で、部屋には自分で作ったスピーカーや、自分で修理したアンプやCDプレイヤーに楽器などがいっぱいなのだとか。

 しかも修理中のものが溢れているので、足の踏み場もないそうだ。とんでもない女ん子が居るものだ。

 

「ですけど、その修理した楽器やオーディオ機器を売って、差額をお小遣い程度に儲けつつ、また壊れたのを買ってきて。それを繰り返しつつ腕を磨いていましてね。学園卒業後はそういう専門学校に行かせたいと、あちらの両親も話していましたね」

 

 高校生の住み込みメイドは、そのトントさんとペッコさんという二人が居て、あちらの小父様と小母様は実の娘のように可愛がっているそうだ。そしてそれはトロンメルやヴンダーにも言える事で。

 きっと、トロンメルがこちらで生活する事を『エル』が正式に認めたのだろうとエルヴァは話していた。他にもキーボードが2台と楽器の付属品に、ヘッドフォンやパソコン、衣類などがあった。

 キーボードは VR-760 だとか、TRITON Le だとかエルヴァが話していたが、機種名らしい事以外わからなかった。

 

「つまりあちらで残した仕事や学園などの手続きが終わったって意味ですね。トロンメル、これからもよろしくお願いします」

 

 そう言ってエルヴァは手を差し出した。それをしっかり握るトロンメルだった。

 

「トロンメル。あなた、演奏ができますの?」

「あちらでは皆様、某かの楽器を嗜まれていましたので、『エルヴァ様』やトントさんに教わっていました」

 

 トントとはトントゥというメイドの愛称らしく、語源はフィンランド語で、家の守り神的な妖精の名だという。もう一人出てきたペッコという名もそうだ。

 ルヴィア曰くそのトントゥを、近年はサウナの妖精と捉える諸外国も増えているという。だからメイドなのかと突っ込みたいが、世界が違ってもそれがノイントのお祖父様の名付け方で、『エル』がそれに倣っただけなのだろう。

 

 ともかく各自がお風呂に向かい、後片付けも終わったエルヴァが、ロスのエルヴァにメールを送ってくれた。そっか彼女に本を買って貰って、エルがエルマに宝具で送るのか。

『エル』以外の者ができるのかどうかと言えば、たぶん……言葉はアレだが、下位の者同士ならできるのだろう。ただ『エル』に送るには、許可が必要なのだと思う。そんな風に考えたから、エルヴァはメールを出してくれたのだ。

 そして階下に降りた私がお風呂に向かった後、エルヴァはマルガリータさんと食堂で話し合っていた。私がお風呂から戻っても同じだったから、相当難しい話のように思えた。

 お休みと声を掛けて、部屋に戻ってから気付いた。きっと今世界で起こっている事を相談していたのだと。マルガリータさんはとても良い人だ。だけど彼女という礼装を造ったのは、二十七祖の一人だった。

 直接会って話す事は無理でも、今回の事をどう感じているか……その程度は訊けるかも知れない。いや、それもリスクが高そうだな……。

 そんな事を考えながら、私は眠りに就いた。

 

 

 

 就寝の用意が整った私は、まだ湿っている髪をドレッサーの椅子に座ってドライヤーで乾かしていた。髪を温風でワシャワシャしつつ、マルガリータさんの話を思い返していた。

 結局、彼女からコーバック・アルカトラスへ連絡を取る方法は無いようだった。ただ、それができるミラビリスは居るという。でも残念な事に一人はアメリカのどこか、もう一人はヨーロッパのどこかだとまでしかわからないらしい。

 となると金融都市が怪しい。アメリカの方の人はニューヨークで間違いないだろう。するとヨーロッパの人は倫敦? マルガリータさんは首を振って詫びるだけだった。本当にわからないらしい。

 そこから想像できるのは、同じミラビリスでも序列のようなものがあるという点だ。そしてその最高峰というか別格として、トライテンが存在するという事だ。

 答えはまだまだ見えないが、私はマルガリータさんとの友情を壊したくないので、それ以上は訊かなかった。私とマルガリータさんは通じるものがあった。お互いがお互いの身を案じていた。

 それは言ってしまえば、『エル』こそが私にとってのトライテンだったからだ。

 

 段々と秋が深まる。そろそろフレアショーツとキャミソールだけでベッドに入らず、パジャマでも着ようかな。ドレッサーの鏡の向こうには、褐色の肌を持つダークエルフのような女の子が居た。

 ドライヤーを片付け、思わず自分の耳を摘み上げた。

 

「これでメディアさんみたいに耳が尖っていたら、本当にエルフだよね?」

 

 誰からも返事は来ない。姉さんは巫女の姉さん達と旅行だし、クローゼットの蟲達も今は一人前になって、森や公園の樹木の下で暮らしている。卵を産み、世代交代した蟲も居るだろう。

『エル』は宝具のせいで、赤ちゃんを宿せない身体だ。そしてお母様の生命を救けるために、視力を対価にしている。と言っても眼球や視神経の機能がな失くなったのではない。

 それは中から私達分割思考の産物が使えたので間違いない。また彼女は宝具に拠って超常な感覚を得ていた。なので却って視力が邪魔だとまで考えていた。

 だから精神的な事は何一つ心配していない。だけど倫敦で、赤ちゃんが欲しいといったあの言葉は本音だったと思う。私も子供が欲しい。

 これからの人生を、年老いても気兼ねなく一緒に暮らせる人との子を産みたい。それが吉村クンかどうかはまだわからない。けれど彼の事をもっと知りたいし、私の事をもっと識って欲しいと思った。

 

『エルマだけでなく、トロンメルの事をちゃんと見てあげなさいよ』

 

 英霊の姉さんがいつか言った言葉。あの子とエルマは全然違う。エルマは『エル』が鋳造したとは思えないほど、楽器などに疎い。ただ魔術師としては一流で、その豊富なアイデアにはいつも驚かされる。

 一方トロンメルはアインツベルンの魔術師としてなら十分合格点だが、『エル』の作品と思えば物足りない。だけどギターやキーボードをやっていたとは知らなかった。

 モデルがトントというのは、エルマの思い込みや勘違いではないだろう。表に現れる人格や性格は、『エル』のバリエーションだけど、内面的なものはトントで間違いない。

 その始まりは、トントの抱える精神的な瑕(キズ)を癒やすためのモルモットだったにせよ、『エル』はトロンメルの個性を認め、私に託してくれた。その証拠がエルマを通じて送られてきた、楽器や衣類なのだ。

 衣類の中には、アインツベルンのメイド服やあちらの穂群原学園の制服もあった。ちらりと見えたオーバーブラウスの夏服を見て懐かしく思ったものだ。

 私は先程まで、エルマやトロンメルとお風呂を一緒に頂いていた。そこでトロンメルに訊いた。

 

『もしかして、バンドをやってました?』

『はい。1年生だけのバンドで、サイドギターとキーボード担当でした』

『学祭でデビュー予定だった?』

『……はい』

 

 こうなって来ると、もっと制限のキツい『トロンメル人形』を『エル』は用意している事だろう。それで仕事仲間や学園の友人達との関係を緩やかに細くして行き、キリの良いところで海外に転校……そんなシナリオが頭に浮かんだ。

 正直酷いと思うのだが、だからどう酷いのだと訊かれれば困ってしまう。それまでトロンメルが築いて来た人間関係を壊さず、自然解消するにはそれしかない。誰も間違っているとは断定できないと思うのだ。

 

『トロンメル、つかぬ事を尋ねますが、そのトントと交換したというテレキャスターって、どんなものでした?』

 

 トロンメルが眉を寄せた。新しいギターでなくテレキャスターの方を訊くのかという顔だ。だけど私にはちょっとした確信めいたものがあった。

 

『ええと。フェ◯ダーの赤い、ヴィンテージと同じようなシングル・ピックアップのテレキャスター・カスタムです』

『フロント・ピックアップがチャーリー・クリスチャンで、回路が51年以前と同じ?』

『え?』

 

 知らないか。

 

『フロントがカバードでなく、ポールピースがバー・タイプだったでしょう?』

『は、はい。それに、そうです。スイッチをフロントに倒すと妙にモコモコした音になっていました。それが?』

 

 その情報で十分。

 

『あなたの認識ですと、セレクター・スイッチをフロントに倒せばフロント・ピックアップで、リアに倒せばリア・ピックアップ、センターだとミックスした音なのでしょう?』

『違うんですか?』

『そうなったのは67年以降ですよ。52年から67年までは、フロント側に倒せばフロント・ピックアップのプリセット・トーンで、センターですとフロント・ピックアップのプリセットなし、リアでリアピックアップのみとなります。この全部のポジションでトーンコントロールが使えるのが特徴ですが、残念な事にミックスが使えません。そして51年以前は、フロント側に倒せばフロント・ピックアップのプリセット・トーンで、センターだとフロント・ピックアップのプリセットなしとここまでは同じで、リアにするとリア・ピックアップなのですが、トーンコントロールの位置のノブを回すとフロント・ピックアップの音が徐々にミックスされていきます。要はトーンがなく、ブレンダーになっているのです』

『そんな変わった回路を?』

『ですが、それこそがレオ・フェ◯ダーが求めた音でした。そしてそのテレキャスターは間違いなくその回路です』

 

 どういう経緯なのかは知らないが、『エル』が言うには『ミト』のものだったそうだ。彼女が日本に来ていたなんて記憶はないから、『エル』がドイツから持ち帰ったのかも知れない。

 そして私は、そのチャーリー・クリスチャンが付いたテレキャスターの音が好きだった。と言うのは、この世界で最初に有名になったエレクトリック・ギターには随所に素晴らしいアイデアと、無骨で合理的な造りと、残念な部分を併せ持っていたからだ。

 テレキャスターの弱点は幾つかあるが、ギター好きな人に聞けば、まずコンターがないので身体にフィットしない、ブリッジのイモネジや折り返された部分が痛い、かと言ってカバーを付けるとピッキングし難い点を挙げるだろう。

 元々スティール・ギターのアイデアから産まれたギターだ。コンデンサーで調整されたプリセット・トーンがメインで、キンキンしたリアの音は、レオ・フェ◯ダーにとっては論外だったのだろう。

 だけどカントリーのミュージシャンも、ロックのギタリストも、あのリアの綺羅びやかな音こそがテレキャスターだと考えた。そういう理由から、カバーされたフロントの弱さが、テレキャスターの弱点だと考える人もまた多いのだ。

 決してフロント・ピックアップの音は悪くない。テレキャス・マニアなら、あの丸く甘い音が最高というがほとんどだろう。ただし単体で使う場合に於いて。リアとの音量差は、どんなに高さを調整しても限界があるのだ。

 なので自分の音楽に合わせて、フロント・ピックアップを付け替える人は多い。レス・ポールのようなハムバッカーにしたり、ファイヤーバードのピックアップにしたり、P-90やグレッチのピックアップにしたり、ダンエレクトロのリップスティックに替えたり、ビザールギターのロボットみたいなものに付け替えたり。それはもう色々と。

 リアをハムバッカーに替える人は、フロントも同時にハムにしている場合が多いように思う。あれはきっと軽くソリッドな、ロングスケールのレス・ポールを求めているのだ(正確にはSGかも)。だからテレキャスターとはちょっと違う。

 そんなちょっと違う部分を勘違いしたのが70年代のフェ◯ダーだろう。カスタムにデラックスにシンライン。どれもこれも『あ~あ……』としか思えない。

 だからあのギターは裏通しでなく(裏通しの方がテンションが強くなり高音が伸びる)、オクターブ調整のしやすいブラスの6ウェイブリッジに替えてあり(6ウェイより3ウェイの方が高域が伸びるというが、サドルがブラスである方が効果は大きい)、ナットもブラスにしてあった。

 それでもテレキャスターらしさを忘れておらず、フロント側ポジションのプリセットがハイカットでなく、フロントのノーマル、センターでハイパス、リアがブレンダーだった。

 そしてテレキャスターらしい音は、フェ◯ダーの『Vibrolux Reverb』か『Deluxe Reverb』のような、軽いコーンの10インチや12インチ・スピーカーからしか出ない(例外は古い『Hiwatt DR103』)。

 ピッキング・ハーモニクスは楽勝で憶えたけれど(どのポジションのどこでも出せる)、ボリューム奏法だけは私の手の大きさでは無理があった。『メシアが再び』なんて何回練習したか憶えていない。

 ちなみに私が愛用していたアンプは(当然『エル』の持ち物だ)、トントがモデファイしたフェ◯ダーの『Hot Rod Deluxe』だった。リバーブもあるし、クリーンとクランチに温かみのある良いアンプだ。

 この『Hot Rod シリーズ』は、日本では余り出回っていない『Hot Rod DeVille』の『212(12インチ2発)』や『410(10インチ4発)』の方が音圧があってゴキゲンな音が出る。

 なのに『エル』はそれをほとんど使わず(バンドのメンバーに貸し出してばかりだった)、Marshall JCM900 2100 SL-X(5881からKT66にチューブが交換してある)と、Hughes&Kettner Tri Amp MARK2 ばかりを使っていた。

 まぁ、そもそも彼女はテレキャスターをそんなに使わないのだけど(ムスタングなどのスチューデント・モデルか、レス・ポールの廉価版やSGなどが好みだった)。

 そんな風に、そのテレキャスターは『エル』にとってあぶれたギターだった。だからトントに譲ったのだ。それを一度はトロンメルが持っていたとは……。私はアレが好きだった。だからアレがここに来ないのかと気になったのだ。

 

『やっぱりあっちの方が良いギターなんですか?』

『好みの問題ですよ。あのソロイスト風のギターも良いですし、レス・ポールのスタジオも良いと思います。ただ、私はシングルのシャッキリした音が好きだというだけです』

 

 結局は好みだ。トロンメルが弾きやすく感じて好きになるなら、それが一番良いギターなのだ。だけど Marshall Mode Four MF350 を持つ高校1年生か。結構、仕事で儲けていたみたい。

 それにここまでパワーのある真空管アンプなら、クリーン・チャンネルで定番のオーバードライヴやディストーションを繋ぐだけで、厚みのある歪みを得られるだろう。

 

 余談だが、『エル』はオーバードライヴのICをソケット化して、オペアンプを差し替え自分好みの音にか変えている。ディストーションもトランジスタならゲルマニウムに付け変えている場合が多い。

 好きなメーカーは『BOSS』で、古いものや気になる他メーカーのエフェクターもコレクションしていた。家にある防音室にはラックも組んでいて、デジタルディレイやコーラス、ピッチシフターも使っていた。

 そのくせステージでは、マルチ・エフェクターの類は使わず(GTシリーズはかなり持っていたはず)、ワーミーにワウとボリュームの3ペダルと、オーバードライヴ、コーラスしか使わなかった。つまりアンプの音を重視していたのだ。

 対する私は掛かりの強い『Maxon』党だった。これはシングル・ピックアップに合わせての選択だ。それでもってワウとボリュームの2ペダルに、ディストーションとフランジャー、アナログディレイを愛用していた。

(マルチなら『Maxon PUE5 tube』、単体なら『OD-820』『OD-880』『DS-830』『PT-707』『PH-350』『AD-990』『CS-550』、真空管の『ROD-880』『ROD-881』『RCP-660』等々、通称お弁当箱はたいてい集めていた。同じ頃の『D&SⅡ』や『MXR』のフェイズなども持っていた。ほぼ全部中古だったけれど、あれらのエフェクターはどこに行ったのだろう? もし『エル』が保管しているなら返して欲しい)

 

 一方、トロンメルはパット見た限り、ワーミーとワウの2ペダルに、ディストーションとコーラス、それとデジタルディレイを使っているようだった。彼女もメーカーは『BOSS』で揃えているみたい。

 ところがトロンメルに楽器を教えていたのであろうトントは、私の知る限りコンパクトは使わず、『エル』とは真逆に完全なマルチ・エフェクター派だった。

『BOSS』の『ME-33』から始まって、中古で『ME-X』を手に入れ、変わってなければ今は『ME-50』と『ME-X』の併用のはずだ。

『ME-X』は、デカいは重いはループの切り替えが無いわと、時代が時代の古いモデル(93年発売)だ。けれど、コンパクト・エフェクターが3台までセットでき(パワーもサプライされる)、使い勝手は悪くなかったと思う。

『ME-33』は2001年頃のモデルで、97年に出た『ME-30』の改良版だったと記憶している。だけど2003年に『ME-50』が出るやいなや、『ME-33』を売り飛ばして『ME-50』を入手していた。

 

 今どきの高校生ならトントのようなマルチ・エフェクターを使う場合が多いと思う。それと併せて手に入れるのが小型の練習用アンプだろう。

 そしていざステージに立つチャンスを得たなら(文化祭や学園祭が多いと思う。有志でどこかのホールを借りる場合や、ライブハウスで弾く機会を得る場合もあるだろう)、レンタルかその会場にあるアンプを使う場合がほとんどだと思う。

 そういうレンタルアンプにエフェクターを繋ぐと、音が中々決まらない場合がある。その理由は、普段使っていないので会場でどう聞こえるか想像できないからだ。

 また、歪み系のエフェクターに中々好みのものがないとか、アンプシュミレーターがよく売れる現状。これらは全部、ちゃんとしたアンプを手に入れるのが、金銭面でも環境面でも高校生には難しいからだ。

 皆んな本当はわかっている。実はそういうプロが使うような高級なアンプを、無理をしてでも手に入れる方がギターの上達が早くなるって。

 狭いお風呂のリバーブと大きな銭湯のリバーブの違いはわかると思う。箱の容積で臨場感が変わるのだ。と、言ってもここまではデジタル・シミュレートで何とかなる。

 だけどどんなにシミュレート技術が上がっても出て来ないのが、音圧レベルだ。会場を箱ごと揺らす音。それこそが100Wクラスのスタックを2台3台と使った、あのロックの音だ。

 そんなのがシミュレーターを噛ましたからと、小さなスピーカーしか付いていない数万程度のアンプで出るはずがない。だからエフェクター沼にハマる。

 プロのステージを見ても、彼らは別にフルアップしているのではないし、ギターのボリュームも7~8程度だろう。当然ほとんどの音はマイクで拾ったP.A.からの音だ。

 だけど4発4発の上下計8発を、複数台使用した音圧はP.A.外からも聞こえるし、ホールの中の空気を揺らしているのは間違いない。

 その証拠とも言えるのが野外ライブだ。意外と音がショボく感じなかった? それは震わせるべき空気が無限大に広がっているから。天空から震わせる雷でもない限り、ちょっと無理があるのだ。

『エル』のように風の魔術を応用して、1kmに渡って空気を震わせれば、P.A.屋さんが逃げ出すような、大音声でホールは満たせる。だけど音質は使ったアンプそのままだ。

 

 高いギターと安いギターの違いは、プレイヤビリティと音程の確かさにあって、音そのものはそこまで差が出ない。

 だけど高いアンプと安いアンプでは、確実に差が出る。安物だと、どんなに血の滲むような練習を重ねて運指が上手くなっても、プロっぽい音は出ないのだ。

 またそれをエフェクターで誤魔化すと、ヌケの悪いおかしなサウンドになる。キャビネットとスピーカーも大事だけれど、音はアンプで決まると考えて間違いないし、忘れてはならない事だ。

 

『トロンメルはバンドを組むのですか?』

『はい、誘われています。学園祭に間に合えば良いですけど』

 

 なるほど。『エル』はこちらでもバンド活動をするだろうの読んで、トロンメルの楽器を送ってきたのか。

 

『あの二つのキーボードは?』

『イリヤ様のではありません。中古で私が買ったものです』

 

 76鍵の『ROLAND VR-760』と、ピアノ音が増加された88鍵の『KORG TRITON Le』は正に姉さんの愛機だったのだ。ただしトロンメルの『TRITON Le』は76鍵だった。

 

 余談だが、『姉のイリヤ』はトライトン好きで、76鍵の『TRITON pro』と88鍵の『TRITON proX』の時代から使っていた。時々そこに、『エル』から借りた、『Minimoog』や『Arp Pro Soloist』などを併用していた。

 では『エル』はというと、一々何を使っていて何を持っているのかと思い返すのも馬鹿らしい。アイツは2年の時の学祭で幾つかのバンドに参加し、その内の一つで『EL&P』の『Tarkus』を全曲再現したのだ。

 その腕前も笑えるが、学祭に『Hammond』とか『Moog Modular System』とか、自分で操作するキーボードだけのミキサーとか持って来るなよ? 1っこ上の、当時3年だった先輩方のバンドが本当にお気の毒だった。

 特に『エル』達の後が出番だった先輩方のバンドは悲惨だった。会場からは『音がショボい』『見窄らしい』なんて散々な言われようだったのだ。私はあれで酷い格差を見た。ドラムはトントだったけれど、ドラムセットの後ろに大きな銅鑼が掛かっていたし、同じ軽音楽部のベースの人は、校外で社会人の人とバンドを組んでいるセミプロだった。

 そして締めというかトリが、生徒会主催のミニコンサートで、ここにも姉さんと『エル』が出ていた。姉さんがキーボードで、『エル』がアコースティック・ギターだった。

 曲は『Landslide』で、この時の『エル』は15年くらい前の『MARTIN D-28』を使っていた。ちなみに彼女のメインのアコギは、97年か98年の赤い『Gibson Hummingbird』だった。

 ところで皆さんは『Orville by Gibson』というブランドを知っているだろうか?

『Fender Japan』に対抗して立ち上げられた、日本国内で製造された日本マーケット向けのブランドだ。フジゲンや神田商会が携わっていた頃の『Fender Japan』と同じく、80年代の後半から2000年を迎える数年前まであったと思う。

 そしてその出来が、アメリカ産のオリジナルより良いのではないかというくらい良かったのだ。中古で程度が良ければ即買いして間違いない逸品だ。

 なので新品の『Gibson』なんかに、到底手が届かない当時の高校生に人気があった。そんなバンドブーム全盛期の先輩方だけでなく、私達現役の高校生の間でも、その中古は高い人気があった。なので『エル』も『トント』も数本持っていたと思う。

 そして『エル』と同じ軽音楽部に、同学年で坂上真帆という子が居た。オリジナルの曲を書き、女の子ばかりのバンドを組んでいる人で、とても魅力的な声の持ち主だった。

 また毎週土曜夜の冬木駅前で、彼女はその『Orville by Gibson』の『Hummingbird』を引っ提げて路上ライヴを行っていた。

『エル』の中で何度かそのライヴを見たし聴いた。オリジナルの曲も良いし、声もいい。何より熱くて優しくて切なくて……。私は彼女のファンだった。

 あの『エル』も負けたと言い切っていた。そんな坂上さんがここには居なかった。父親の転勤であちこちに引っ越している。だから『エル』の居ないここでは関係性を築けず、中等部卒業後に他県に移っていたのだ。

 逆に砂浜でキャンプしていた鎌倉のあの人を『エル』は知らない。それが並行世界だった。

 

 ともあれそんな具合だったので、学園で見掛けるトロンメルは、実行委員と併せてとても忙しそうだった。一見するとぶすっと愛想なしに見える彼女も、いざ蓋を開てみれば人との関わりの多さはエルマ以上だった。

 陸上部に在籍しながら弓道部のマネージャーも兼任するところから、その傾向は見受けられた。私が知らないだけで、クラスでは人気者なのかも知れない。

 バンドのメンバーが決まり、学園祭のステージに立てると報告があったのは、それから二日後だった。

 

 

 

 最終調整を終え、アラモを出る日の朝だった。

 一人の少女が運転席に座る私と助手席のエルをじっと見詰めていた。少女はネイティブで、凛のような黒髪だった。

 

「あなたは?」

 

 窓を開けてエルが尋ねた。

 

「ティーネ。ティーネ・チェルク」

「私はエル。エル・フォン・アインツベルン。何も壊していませんから」

「…………」

「この土地があなた達にとって神聖な場所だというのはわかります。でも霊脈に飲み込まれるほど一体化するなんて」

「……去りなさい。私達はここで産まれ、ここで育ち、子を成し、そして死んでいく。それが先細った道だと今更識っても時は帰らない」

「諦めるのですか?」

「…………」

「真面目ですね。抜け道なんて幾らでもあるでしょうに」

 

 そしてエルは1枚の紙を、そのティーネという少女に窓から手渡した。

 

「私の名刺です。もし考えが変わったのなら、電話かメールを下さい」

 

 そうして私達はアラモからラスベガスへ向けて走り出した。

 

「何だったんだ、あのガキは?」

「たぶん、今代の巫女……という表現はおかしいのかな? ともかく呪い師と言うかそういうのです」

「あんなチビが? いや、神秘に年齢なんて関係ないか」

「そういう事です」

 

 私達は霊脈を調査した段階で、その表層部に溢れるマナが、この地域に存在する一部の人に流れているのを感じていた。

 そしてそれは何だと調べてみれば、そのマナを受け取っている人達全員がネイティヴで、そのマナを受け取らないと死んでしまうほどに先鋭化された魔術回路の持ち主ばかりだとわかった。

 

「霊脈と共生って、驚きの生態ですね?」

「それだけ自然に近いってこったろ。昔からそういう部族は居た。土地が痩せ衰え、まともに飯にもありつけねぇ奴らがああいう風になる。ピクトもそういうのに近かったからな。ピクトって現代も謎なんだろ? マナが枯れりゃ絶滅だからな」

 

 そういう事なのだろう。だから私達はバイパスを作って、地表にも今まで通りマナが溢れるようにした。

 ただし地下の奥深くでは、この北米を走る他の霊脈と繋ぎ、溢れるマナ以外の……アメリカ大陸全部のマナがお祖父様の家に流れるようにした。

 これに気付く者はどのくらい居るのだろう。世界のどこにも怪しい者は居る。神秘を識っていると喧伝し、それを商売としている者達だ。

 霊が取り憑いていても気付きもしなければ、本物の『呪い』を掛けても運が悪いと信じ込む。私はやった事無いが、酷いのだとこんなのがある。

 風を引いて咳が止まらず、これは可怪しいと医者に行けば入院を薦められ、次の日には死んでしまうという病気にしか見えない『呪い』だ。本当にこんなのがある。

 そして引いた風邪なり悪化した肺炎は本物だから、遺体解剖すれば菌が出る。『エル』でない『エル』は、どうもその手も併用しているらしかった。

 ラスベガスで買い求めた新聞には、そういうインフルエンザのような病気が世界中で流行っていると書かれてあった。そしてその罹患者は徐々に増えているようだった。だけどそこまで警戒している書き方でなく、危機感は薄かった。

 

 

 

 予定をかなりオーバーしてハンティントン・ビーチに入った時は午後の2時だった。家の前でお兄ちゃんが実体化した。

 

「トレーラーを外してやるから、お前達は中で休んでいろ」

「良いんですか?」

「構わん」

「『鎌◯ン』ね。浴衣の柄ですか?」

「それは『鎌◯ぬ』だろうが!? そもそも鎌の絵が文字セットにないのだから、文章で無茶振りするな!」

 

 相変わらずメタな人だ。でもお言葉に甘えて家の中に入った。するとリンさんが、ソファーに座るシロウさんの膝を枕にして甘えていた。

 

「だからぁ~、息抜きよ。ね? 遊びに行こう? 士郎ぉぅ~」

「遠坂……。買い物に出掛けたミアータさん達から留守番を任されているんだぞ? それにフンボルトも次に必要な資料を集めに出ているんだから。我慢しろよ」

「ええ~、つまんない、つまんなぁ~い」

 

 そうやって足をバタバタするリンさん。エルが人差し指を二人に向けた。ガンド? ガンドなの?

 

「エルヴァ? どうして干将を握っているの?」

「ええ。あなたのガンドが仕留め損なった場合を考えてです」

「任せて下さい。確実に息の根を止めて見せますから」

 

 エルの指先からガンドが放たれた!

 

「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!!」

「な!? 何事、シロウ?!」

「どわっ! ガンドが回り込んだだって!?」

「痛っ!」

 

 そのガンドとは反対の死角から、刃を潰した干将を二人に振りかざした。

 

「ヤック・デカルチャー!」

 

 遅い。固まって動けないリンさんを庇い、同じ干将を投影しようとするシロウさん。が、その干将は手の中で爆ぜた。

 

「な!?」

「よもや魔術の発動に干渉してくる魔術師が、この世に居るとは思わなかったでしょう?」

「そうです。人様の家で妙なところを膨らませて……。そのソファーで致す積り満々だったでしょう? 観念なさい」

 

 そういう事だった。リンさんはフェロモン出しまくりだったし、シロウさんもその気になっていたのだ。

 

「だ~~~っ! ヤメロ! お前ぇら! 何考えてやがる!」

 

 一番暴れそうな人物からゲンコツを食らって冷静さを取り戻した私達だった。とは言っても、エルのガンドも痛いだけで怪我はしない程度の『呪い』に抑えてあったし、私の干将は刃を潰してあったのだけど。

 

 

 

 喫茶店のアルバイトを終え、いつものバス停で待っていると、商店街のあるアーケードの方から在りし日の彼女が歩いてきました。

 

「アルトリア」

 

 自分で自分の名を呼んでいるようで変な気分になりますね。

 

「セイバー」

 

 私は『セイバー』ですか。まぁ、そちらがわかり良いのは事実です。彼女は英霊のイリヤと行った世界で『エル』に捕らわれたセイバーでした。

 今は深山町の洋館街、そこに家を構え一人で暮らしています。ただ、その存在は誰にも明かせぬらしく(誰にもと言っても、対象は子供達だけのようです)、今のところ私しか知りません。

 

「セイバー、明日からアルバイトを休んで暫く出ます」

 

 私は以前からの喫茶店ですが、彼女は今新都のスーパーでレジを打っていました。先日までは、夜間のガソリンスタンドでも働いていましたし、コンビニでもレジを打っていた。

『エル』に申し付けられているのか、かなりの働き者です。

 

「どちらへ?」

「アメリカです」

 

 そこで『エル』と合流しなければならないらしい。例の事に係わる事であるのは間違いない。我がマスターであるエル(エルヴァ)は、家族のためにも首を突っ込むなと『エル』から言われていました。

 だからと言って私に対しては制限を設けていない。それが『エル』の作った抜け穴だろうと、エルは話していた。私はアルトリアをじっと見た。

 

「気を付けて行かれて下さい」

「はい」

 

 口をついて出た言葉は、相手を案じる見送りの言葉だった。私は『セイバー』だ。やはりマスターを置いて勝手に動けない。その分、アルトリアには真実を見極めて欲しい。そう願って、深山町のバス停で別れた私達でした。




相手を釣る(騙す)場合、常に気を付けなければならない点は、疑われても良いので『メリット』が大きいと思わせる事です。
例えばスーパーシティ構想なら、老人や子供など弱者へのケアです。あたかも隣近所で声を掛け合ったあの頃(昭和の幻想)のように、プライバシーを守りつつコンピューターがそれを代行すると謳うのです。

そしてそこに絡むのがアジアスーパーグリッド構想です。
高域送電システムと言いつつ、ネットも乗せて家電などを遠隔操作できる近未来のシステムです。
ですが、その家電を作っているのは今やほとんど中国です。
5Gで揉めたでしょう?
炊飯器や冷蔵庫にカメラやマイクが仕込まれ、タブレットやスマホのカメラは常にあなたを監視している。

半導体事業のメモリが国内で衰退したのはパクられたからですが、家電が衰退したのは国内が長期デフレで購買力が衰えたからです。
車が売れないのも、バイクが売れないのも、少子化が進むのも、全部お金がないからです。
そうやって何十年も掛けて日本は壊されていった。
最初に絵を描いたのはディープステートと、国内にいるディープステートのやり方を学んだ者達なのでしょう。
ですがその大部分の動きが、今は中国の構想に飲み込まれています。

トランプ大統領はメキシコのフォックスコン工場の真意に気付き緊急事態宣言を出しています。
それは液晶パネルの工場と見せかけた、スーパーグリッドと同じ送電システムで、アメリカを監視しようという計画だったのです。

香港の事もありますが、これがバレたからスパイに先導させ、デモを煽ったのです。
もう既に戦争は始まっています。
首相がチャイナ組に飲まれるなら日本は終わります。逆に突っぱねるなら少しは持ちますが、予断を許しません。
9月までに何があるのか。世界情勢は刻一刻と変化していますね。注意深く観ていきたいと思います。
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