※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第三部 霊脈篇   作:炭団

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もう一度書いておきます。このプロットを書いたのは昨年の暮頃です。
正直発表するかどうかも迷いました。ですが現実と小説は違います。フィクションとしてお読み頂ければ。
皆様のご寛恕を賜りたく思います。


127、衝撃

「あなたの予測では『文字通り』、とは行かんのだな?」

「そう、『死んだ』とは断定できない。そんな証拠も何もないからね。だけどあの『現象』と現在の不気味なまでの『静かさ』。そこから予測できる事はある。そこでこれはある種、死徒化するのと似た方法ではないかとね」

「魔術に拠る、英霊化」

「そうだ。世界のシステムに介入できるほどの術者だ。それをやったのではないかと考えている」

 

 と、偉そうに話しているが、実はこれらはカリフォルニアで会ったエルやエルヴァが話していた事を元に、僕なりの考えを足しているに過ぎない。

 あの時、エルはもっと複雑怪奇な事を話していた。つまりはこうだ。世界のシステムに介入出来るという事は、システムという『現象』に彼女が『昇華』された結果だと言うのだ。

 それは『アラヤ』や『ガイア』を支配下に置いたという事だ。英霊は宇宙の運行と同レベルの自然現象だ。そこに介入するという事は……『神』という言葉が浮かんだがエルは否定した。

 それで彼女は、どちらかと言えば仏教の『転輪王』に近いだろうと話してくれた。また元が『エル君』なら、本当に世界の幸福を願っているだろうとも。

 だけど、それで良いのか? 僕達はただ見ているだけなのか? と、同時にこんな歪んだ男が今更何をという気持ちもある。アーチャーも同じなのだろう。話を理解した後は複雑な顔をしていた。

 

「何故だ? 何故、そのような事を? 私の知る彼女はそんな事を考えないと思うのだが」

「わからないけれど。絶望したのではないかとエルヴァは話していたね」

「絶望か……『エル』に逢ってみるべきか」

「だね。今、どこに居るのかは不明だけれど、僕がアメリカを立つ前には居たらしい」

 

 そうだよ、あの子はあの段階で株を見ていたんじゃないか? ニューヨークでも会ったとエルヴァが話してくれていたんだ。ウォール街の値動きを見ていたんだろうなぁ。

 その後の僕は食事までお呼ばれしてホテルに戻った。明日はドバイを引き払ってニューヨークに行く。エーデルフェルトへの報告が終わっているアーチャー達も日本に帰るそうだ。そうして僕の中東での仕事は空振りに終わった。

 

 

 

 学園祭が近いという事で、いよいよ部活の活動時間に制限が掛かってきた。特に本日は初めて学園祭を迎える1年生のためのレクチャーというか、体育館での生徒集会があった。

 1時間目を丸々潰してだから結構大掛かりだ。こんなの前の世界であったかなぁ? ちょっと思い出せないが、ともあれ新人戦も近い弓道部1年生は道場でお昼を摂り、制服かジャージで足袋だけ履いて練習に打ち込んだ。

 そこに本来なら私も立ち会うべきなのだが、本日のみトロンメルに付いて軽音楽部の部室を伺った。これは当の本人のトロンメルだけでなく、エルマからも頼まれたからだった。

 やっぱり1年生が2~3年生も多いところに、幾ら誘われたからと言ってもホイホイ行けるものではないからだ。度胸の問題でなく、礼儀や遠慮の問題だった。そこで姉であり3年生でもある私が付いて行った訳だ。

 お昼休みは短い。だからお弁当はトロンメルと一緒に大慌てで頂いた。それで家から持参したギターを持たせて部室に伺った。

 

「ある意味、オーディションだな?」

「ですね」

 

 一緒にお弁当を広げていた吉川クンまでが着いてきていた。ジャカジャカと奥から音が漏れている。これはノックをしても聞こえない。なのでガラガラと扉を開けて声を掛けた。

 扉近くで練習していた2年生がすっ飛んできた。

 

「エ、エルヴァ先輩」

「すみません、練習中に。妹がバンドに誘われたそうなので付き添ってきました」

「は、はい。どうぞお入り下さい」

 

 中に入ると剣道部のエースと弓道部の私が居るので、皆さんが驚いて一斉にこちらを向いた。そんな中からトロンメルに駆け寄ってくれた女の子達は、学年章が1年生と2年生だった。

 女の子4人のバンドで、トロンメルを入れて5人だ。誘われた切っ掛けは、同じクラスの子がこのバンドのメンバーで、話が弾んで彼女のギターを借り、教室で1曲弾いたからだった。

 トロンメルは早速ギターを取り出して、チューニングを始めた。この分なら大丈夫だろう。『studio』とは言え本物の『Gibson』だったので皆んなギョッとしていたけれど。

 そんな軽音部の面々は、記憶にあった子も居たが知らない子も多かった。そんな中から3年生の男子がこちらに近づいた。私に黙礼し、吉川クンと気さくに話し始めた。

 

「吉川、剣道部は引退だろう? 高校生活最後だぜ。ギター、弾けよ?」

 

 私は思わず二人を見た。

 

「ああ、アインツベルンさんは知らないか。こいつ、剣道以外の趣味がフォークギターでさ。結構上手いんだ」

 

 ほぅ~、並行世界を含めて初耳だ。そんな趣味があったとは。

 

「なら、吉川クン。1曲お願いしますよ」

「ええ~? 仕方ないなぁ」

 

 そう言って照れながらも彼は『なごり雪』を歌いながら弾いた。選曲が渋過ぎる。イルカでなく伊勢正三バージョン? 結構、声が良いぞ?

 

「上手~、上手~」

 

 歌い終わった彼に拍手を贈った。

 

「エルヴァも演ってみろよ。トロンメルが自慢してたろう?」

「アインツベルンさんも弾けるの?」

「下手の横好きですよ」

 

 そう言いつつ、吉川クンからフォークギターを受け取った。そこで私は部員の彼からカポを借りて2フレットにハメた。演目は『Simon & Garfunkel』の『Mrs. Robinson』だ。

 歌い終えると吉川クンだけでなく部員の皆さんが拍手してくれた。トロンメルのオーディションが終わっていたのは横目で確認済みだ。

 

「英語の歌かよ。さすがだな?」

「いえいえ」

 

「姉さんはエレキも上手いんですよ?」

 

 トロンメル、余計な事を!

 だけど吉川クンの友人はノリノリだ。休憩しているロックバンドの人からギターを借りてきてくれた。アンプは部の『JC-120』。これは変わらないらしい。

 当然、『Ch-1』の『Hight』と『Ch-2』の『Low』を短いコードで繋ぐ。それで『コーラス』のある『Ch-2』にギターを繋いだ。これは昔からあるゲイン稼ぎで、『JC』に限らず『Marshall』でも行われていた事だ。だけど良いケーブルを使わないとノイズが盛大に乗るのと、『Ch-1』と『Ch-2』のボリューム加減が慣れないと難しい。

 でもノイズは乗らなかった。皆んな良いケーブルを使っている。それでアンプに繋げたマルチ・エフェクターで、手渡された『Fernandes FR-55S』の音程を確認した。さすがはロッキングアームで狂いはない。素早くアンプの設定を終えると、今度はマルチの設定を決めていった。

 うん、良いエフェクターだ。それにギターも大切に使われているのがわかる。最初の1音から気持ちが乗る。指板のRは350Rくらいか。私はテレキャス好きなのにフェ◯ダー系のキツいRより、こういうフラットな指板の方が好きだった。

 そしてこの時の私は、さっきの『Mrs. Robinson』で久々に大勢の人の前で演奏する事に酔っていたのだろう。だから自然と『Joe Satriani』の『Crushing Day』を弾いていた。

 この時『JC』側の『Distortion』は入れていない。よくカチリとつまみを回さず、スイッチだけ入れるという人が居るが、どうも音が遠くなるような気がする。なので私はそれをしない派だった。

 勿論入れても良いのだ。その方が奥行きが出るという意見も間違いではない。音楽とはそれくらい表現の幅があり、一人一人違うものなのだ。

 ささくれない粒の揃ったディストーションが、スピーカーから飛び出てリフの迫力を淡々と表現する。それがあるから、トリッキーなアームが浮き彫りにされて活きるのだ。

 強いて言うなら、ツマミをゼロにしたディレイをディストーションの前に入れたい。ある種のエキサイター兼バッファーとして使いたいのだ。またこうするとしつこくないサスティナーにもなる。いよいよソロのパートだ。

 そこで私は魔術を使ってしまった。ソロ前半でのストレッチフレーズの一部で、『見えない指』を使って押さえてしまったのだ。

 ショートスケールの『Mustang』なら、ストラップでぶら下げながら弾ききる自信があるが、ロングスケールの『FR-55S』だとやはり厳しかった。

 指は動くのに目的のフレットに小指が届かないのだ。なのでインチキだとわかっていたのに魔術を使ってしまった。後半部分は魔術を使わずに弾けた。指板を見ずに早いパッセージを弾ききった。それだけに悔しかった。

 演奏を終えても拍手はなかった。だろうね。私も不本意だ。バレてはいないけれど、あの魔術はダメだ。シーンとする部室。何故かそれぞれのバンドのギター担当らしき人達がガックリと肩を落としていた。

 

「姉さん、やり過ぎ!」

「あ」

 

 それでトロンメルを頼みますと頭を下げつつギターを返し、吉川クンを引っ張って猛ダッシュで部室から退散した。部室から『Steve Vai』を演ってくれと声が聞こえたが、『扇風機がないから無理』だと返事した。

 

「『Vai』なんてそれなりのアンプとワウやワーミーにギターがないと真似すら無理ですよね?」

「知らないけどさ。お前はとんでもない奴だな……」

「そうですか? あの『HSH』のギターがあれば、結構弾けそうな気もしますよ」

「うぇ~……」

 

 それでお昼休みが終わったので吉川クンと別れ、教室に戻った。

 

 

 

 本日はロングホームルームのある日だが、1時間目にレクチャーのあった1年生と、受験の近い3年生だけは午後からも1時間だけ授業があった。

 だけど我が2年生はチャイムが鳴るやいなや、学園祭実行委員が教壇の前に立ち次々と決を採って行った。ただし私は、アメリカのエルヴァからエルマを通じて渡された本から抽出した手書きのリポートを元に、歴史や背景、考察などを内職宜しくノートにカリカリと纏めていた。それをこの時間で終えて、次の時間で発表しつつ掲示や展示の方法などを検討していくのだ。

 葛木先生の仰る通り、正直高校生の手に余る内容ではあるのだが、そこは倫理の先生だ。市民図書館どころか県の図書館まで出向いて、ファースト・ネイションズに関係する資料となる本を借りて来てくれていた。

 なのでルヴィアと数人の協力者が、手分けして先生が集めてくれた本を読み進めながらノートに抽出していた。

 

「ルヴィアさん、あなたのノート……英語なの?」

「この方が早いからですわ。どの途、後で纏めたり清書するのは私とリンです。その時は日本語に直しますわよ」

 

 これは英語担当の先生の言葉だが、2年A組は学年一英語の成績が良かった。そんな意識は余りなかったのだが、どうやらそれが私とルヴィアのせいらしかった。

『これは何?』『それはこうよ』。そんな何気ない会話が、クラスの英語に対する理解力を底上げしていたのだ。要は恐怖心とまでは行かないが、日本人特有と言って良いのかな?

 その一歩引くところ、そんな臆した感情から来る、見えない垣根を下げていたのだ。まずルヴィアがアタリの柔らかいフィンランド人(本当にクラスに溶け込むのが早かった)で、なおかつ美人だったのが大きい。男子までが彼女にはポンポンと気さくに質問していたからだ。

 次に私の存在だ。ルヴィアが少し勘違しているところや、彼女っぽい誤解釈、また皆んなが個々に持つ先入観を、私がその都度正していた。それが功を奏したようだった。

 私自身はそう思わないのだが、クラスの人から見た私はかなり『国際人』らしい。まぁ、心当たりがあるとすればそれは、キングスイングリッシュとアメリカンイングリッシュの違いだ。

 実はルヴィアはアメリカンイングリッシュが苦手であまり話せないし、綴りも時々間違う。地元の小学校や中学校では国語としてのフィンランド語の他に英語も必須科目として学ぶそうだが、それとは別に家庭教師からキングスイングリッシュをみっちり学んでいたそうだ。

 それはそうよね。だって将来は時計塔の理事なんだもの。だけどそれらと時計塔での学生生活があって、彼女のアメリカンイングリッシュは中学生レベルで止まっていた。

 会話は通じるし基本問題はないのだが、使う単語は大いに違うし用法は全然違う。砕けていると言うより、何だそれと驚くような決り文句が余りにも多いのだ。

 勿論、そんな極端な語句は教科書には出ない。だけどそっちを学ぶ方が会話力が上がるのは事実だ。それをエルヴァはわかっていたのだろう。

 だから彼女はキングスイングリッシュも使えるのに、私やルヴィアと話す時はアメリカンイングリッシュに切り替える場合が多かった。

 エーデルフェルトでは、普段英語で会話しているのかって? 敢えて混在していると言っておこう。それで私はカナダで、無意識に英語を使っていたのだから。

 こんな具合だから、直接的にも間接的にもエルヴァの存在は大きかった。残り半年でエルヴァは学園を卒業し、間違いなく倫敦へ行く。

 私は今の、エーデルフェルト居候の時間を生涯忘れないだろう。それくらい毎日が楽しく充実している。だからこそ残る時間をより大切にしたいと思うのだ。

 そんな中で、思い出作りの一つとして学園祭がやがて始まる。以前の体育祭と同じく、こういうのは欧州にはない。だから私もルヴィアもモチベーションがやたら上がっていた。

 

 

 

 3年A組の出し物は喫茶店と決まっていた。だけどどこでどうなったのか、噂では『メイド喫茶』になっていた。

 

「絶対に、エルヴァのせいだよな」

「私? どうして私ですか?」

「お前な……。妹の友人の手伝いだって、コミケでコスプレしたろうが? あれがエラい噂になっているんだよ」

 

 そこか、そこからだったの?

 

「それと同じやるなら可愛い衣装を作ってやろうって意見があったろ? あれがな……」

 

 なるほど。噂と希望がミックスされたのか。そんな風に薫とヒソヒソ話していたら(このホームルームの間グループで固まって席を替わっていたのだ)、突然名前を呼ばれた。

 

「エルヴァさん、少し髪の毛を後ろに回して貰えませんか?」

「はい?」

 

 ポニーテールにでもするの?

 

「ゲッ?」

 

 薫が黒板を指差して呻いた。何だと見やればそこには、『弓道喫茶(意味がわからない)』と『メイド喫茶』、そして『ショタ喫茶(何だそれ!?)』と三案に絞られ、そのどれで行くのかとクラスは割れていた。思わず私は手を挙げ発言した。

 

「『ショタ喫茶』って何ですか!?」

 

 その説明を詳しく訊くと、背の高い女の子は可愛いユニフォームでウェイトレスとなり、小柄な女の子数人が男の子の格好でウェイターをするというコスプレ喫茶だった。

 思わず学園祭実行委員(副。A組の実行委員長は私)と学級長を睨むと、コンコンと『これからのボーダーレスな時代を先取りし、人に明かせぬ悩みをこの喫茶店で解消して頂く』、そのために『心理的な性別に沿った衣装でお茶を楽しんで頂き、メイク班も用意する』と堂々と光る眼鏡で、さも崇高なコンセプトだろうと言わんばかりに訴えられた。

 それ、学生がするコンセプトなの!? 挙げ句に椅子に座って窓の外の空を見ていた担任が、ブツブツと『俺、高等部でなく小学部の教師になりたかったんだ。そのために免許も取ったのに』と謎な告白をしていた。

 

「女子高生と言っても、3年生にもなりゃドンドンおばさん化していくし、野郎はオッサンばかりだ。やっぱ子供が良いよな。5~6年生くらいが一番可愛いよ」

 

 何言ってんだ、この担任は!? ダメだ、コイツ……。

 

 そしてその案は包括的な部分があって、小柄でなければ普通の『メイド喫茶』だ。だから男子の反対は一切なく、決戦投票では女子もあらかた『ショタ喫茶』に票を投じた。

 そもそも『メイド喫茶』という考えが、学生として可怪しいだろうという意見があなたにあるのならば、それは御尤だと私も賛同しよう。

 だけど我がA組はやたら運動部の男子が多く、彼らは部活の出し物で手一杯だったのだ。そこで部活を引退する間際の女子に出し物を決めてくれとお鉢が回った側面もあった。

『喧騒とする校内で、ゆったりと美味しいコーヒーとお茶を楽しんで頂きたい』。そんな私の当初の『純喫茶』コンセプトは周囲の意見で踏みにじられ蹴り倒され、挙げ句にとうとう『ショタ喫茶』なんて意味不明な出し物に変わってしまった。諸君、これが民主主義の欠点だ。

 そして案の定、私ともう一人の背の低い子が『ショタ役』になってしまった。

 

「俺、中等部からの受験組なんで冬木に引っ越す前に通っていた小学校の標準服持って来てやるよ。お袋の事だから絶対に棄ててない筈だ」

 

 その意見を皮切りにして5~6人の男子が私ともう一人の子に衣装の提供を申し込んできた。何か隠れた意図がありそうで怖い。倒錯してないか?

 

「髪はどうやって隠すの?」

「編み込めば良いだろう。エルヴァはそういうのも得意だし」

 

 我が人生はここに来て、お兄ちゃんのようにすべてが裏目に出ていた。おまけに本場ヨーロッパのメイド服をデザインしてくれと頼まれてしまった。そんな積もりで家庭科を頑張ったんじゃない!

 

『これはもう、エーデルフェルトからメイド服を借りる方が手っ取り早い』

 

 トチ狂った私は、そんな事を決心していた。

 

 

 

 1時間だけの午後の授業が終わり、いよいよホームルームが始まった。桜と私の意見は、自家製のクッキーやスコーンなどを用意した『紅茶専門店』だった。つまりコンセプトはズバリ『アフタヌーンティー』だ。

 それは事前調査で一番そういうのをしそうな凛さんとルヴィアさんのクラスの出し物が、研究発表とわかっていたからだった。

 どの途この手の事はほとんどの人が何も考えない。ましてや1年生であるならば。だから私と桜は当初から『紅茶専門店』で押し切ろうと、ほぼ全員の女子と男子の半数近くの意見を纏めていた。

 なので我が1年D組は、ホームルーム開始5分で『紅茶専門店』に決まった。衣装などはこの後に追々と詰めるが、最悪はルヴィアさんに頼んでエーデルフェルトのメイド服を借りる算段だった。

 だから急いで決めたのだ。わかるでしょう? お姉様だってルヴィアさんに頼って来るのは目に見えているんだもの。そうなれば一歩でも先に申し込んだ者の勝ちだ。当然のごとく、私は既にルヴィアさんからの了承を得ていた。

 そして急いだもう一つの理由は、弓道部の出し物にあった。クラスでの桜の負担を減らしたかったのだ。大好きな先輩と二人だけのお店番。海の家でできなかった夢を叶えてあげたかったのだ。

 それが親友だ。そして親友だからこそ夏休みの終わり頃に、桜が女の子から『女』になった事を見破っていた。本人に訊かずともわかる。

 トロンメルですら桜の変化に気付いていた。なのできっとお姉様も気付いているだろう。それもあって3年A組も『喫茶店』なのだ。それはクラスの出し物で忙しいので、弓道部の出し物は士郎さんと桜に任せるという意思表示でもあった。

 男子はいい。適当にサボって遊び呆けてくれればいい。重要なのは二人の時間を演出する事にあるのだから。なので口には出さないが、女子は先輩方も含め無言で一致団結していた。

 問題は美綴部長が、そういう微妙な心理に気付いているかどうかだ。これは弓道部女子全員の懸念事項だった。

 

『無理だと思う』

『あの綾子にそんな気遣いを期待する方が無茶だぞ?』

 

 皆んなそういう。頼もしくて良い先輩なのは間違いないが、乙女心が皆無なのが痛かった。新発売のゲームを朝から並んで買い求める部長。

 それでもって好きなジャンルは逆恋愛ゲームか、もしくはヒロインに自己を投影できる純然な恋愛ゲーム……。リアルで痛いが、あのゲジ眉で強面な先輩は誰よりも『乙女』に憧れていた。

 

『まぁ、今回の衛宮と間桐への応援に気付けば、アイツも変わるんだろうけどな……』

 

 練習を見てくれた3年生の先輩のお言葉だ。頑張れ部長。ゴールは目の前だぞ、美綴綾子。……とこんな風に美綴部長を気に掛けている1年生は多かった。何だかんだ言いながら、部長は愛されているのだ。

 

 

 

 通りを歩いて角を曲がったところだ。数十フィート先でアフリカン・アメリカンと、プエルトリカンがストリートファイトに興じていた。

 どうせつまらない事で揉めているのだろう。無視して通り過ぎようとしたら、一人の白人? が私の肩を掴もうとした。そのキッズはアルさんに頭を鷲掴みにされ、アフリカン・アメリカンとプエルトリカンをなぎ倒してフェンスに当たった。

 

「若者が荒れていますね」

「何時の時代も変革は若者から起きる。とうとう一連の『現象』から、心理的な影響を受ける者が現れたと見るべきだろう」

「そうですね。と同時に相当近い」

「ああ、逆方向からセイバーが追っているが。上手く行けば良いのだが」

 

 場所はニューヨークのサウス・ブロンクスで時刻は深夜1時を回ったところだった。

 

「ここまで来ればわかる。やはり『君の気配』が濃厚だな?」

「はい」

 

『現象』に昇華した私。それは薄まったり(拡散したり)、濃くなったり(濃密に集まったり)していた。ニューヨークのここらにはこれといった霊脈は存在しない。なのに僅か数百年でここまで栄えたのは、イーストリバー沿いに霊脈の一部が川底から露出していたからだった。

 私はこれの調整を自分の世界では政府から頼まれ行っている。だけどここでは誰も行っていないようだった。だからあの『私』はここを根城にし、霊脈からマナを吸い上げ、己の魔術を完成させた。

 起きた事象に振り回され、後手後手に回っていた私だったが、ここに来てエルとエルヴァが素晴らしい手を打ってくれた。ネバダの霊脈を押さえ、イエローストーンに流れるマナともども、スイスのアインツベルンに繋ぎ変えたのだ。それで漸く掴んだ尻尾が眼の前に現れてくれた。

 光の屈折にしか見えなかったモヤのような何かが徐々に人型を結んだ。だけど高次存在へと至った相手は磨りガラス越しに見るように輪郭すら曖昧だった。

 

「あなたは何を望んで……?」

『QAWSEDRFTGYHUJIKOLP……』

「それ、『くぁwせdrftgyふじこlp』でしょう? ここでそういう返しをするって『私』だなぁ」

 

 この会話でここまで追い込んでくれたセイバーの緊張が解れた。だけど念話で彼女が質問しようとするのは止めた。何故ならもはや世界のシステムとして『現象』となった相手だ。なので、その行動理念も思想も人類とは別の観点から行っていると予想されたからだった。

 先程の『言葉』以降、妙な音声とも付かぬ言葉が頭に直接響いた。まるでヒトとしての言語を思い出しているかのようだった。

 

『Peace……平和……Love……愛……』

 

 唐突に、とても胡散臭い、街角に貼られた船のポスターみたいな文言が頭に浮かんだ。だけどそこには深い哀しみと絶望の色合いも濃く乗っていた。

 

「あなたは一体……?」

『Miyu……イリヤ……Illya……ミユ……美遊……ミナ……皆……シ……死……』

 

 美遊や姉さんが死んだ!? だから絶望したの……?

 

 先程から『彼女』より流れている様々な光景がクリアになった。だけどそれはぶった切られた映画のフイルムと同じで、欠けている部分が多く、時系列に整合性を感じなかった。だけど原因らしきものはわかった。

 それはウィルスが切っ掛けだった。人から人へ飛沫感染する、風邪とよく似た症状を引き起こす新しい型のインフルエンザだった。特に肺に重篤な症状を引き起こし、それにより各国で千人から数十万人が死んだ。

 基礎疾患のある者、体力の弱った高齢者は軒並み罹患した。人口から言えば僅か数%だが、その致死率から世界はその目に見える現象と目に見えぬウィルスによってパニックになった。

 だけど真の恐怖はその後に来た。『彼女』の美遊もイリヤもお母様も、セラもリーゼリットも『それ』で死んでいた。ミトもお父さんもお祖父様もママも死んでしまった。実に人類の2/3、約46億人が死んだのだ。

 それはある国の有力者が作ったワクチンだった。そのワクチンの接種後に合併症を発症させ死んでいった。どの国も自国の国民を守るために、法令化までしてワクチンを一月以内に接種していたのだ。だけど接種した全員が、翌月には帰らぬ人となった。当然病院のベッドは足りず、病院の廊下や玄関で亡くなる人もいた。いかに進行が早かったかがわかる。

 お母様もママも美遊の部屋で死んでいた。冷たくなった美遊を抱きしめながら。だから『彼女』は絶望し、宝具で世界を滅ぼした。ワクチンで金儲けを企んだ者達を、殺して殺して殺し尽くし皆殺しにした。

 その行動には『彼女』の王様も姉さんも参加した。二人の子も死んでしまったのだ。お兄ちゃんの姿とアルさんに巫女の姉さんを見なかったので、そんなところから歴史が変わったのかも知れない。

 ともかく『彼女』が手を下さずとも経済はズタボロだったので、その世界の人類は終わっていただろう。だから、絶望の中で生き残ってしまった『彼女』は、パミとともに『現象』になる道を選んだ。あちらの世界はもう帰って来ないが、救える世界は救いたいと願ったのだ────。

 

 どうしてそう思えたのか? 『彼女』の親友は『遠坂凛』で魔法使いでは無かった。先生もシロウさんも居ない。なのにあの第四次で生き残り災害を防いだ。間違いなく私以上の魔術師だ。

 そしてそれは特級の神秘である『竜』の心臓や肝を食べていないという事だ。だから私だけでなくパミやミトが、自分自身を抑制しコントロールできるようにという先生からの手解きもない。そもそもその肝心の先生との出会いがない。

 だから並行世界を渡っての修行もなければ、その経験をミトやパミに送る事もできない。そして並行世界を渡っていないからお兄ちゃんやアルさんや巫女の姉さんとも出逢っていない。結果、セイバーもアサシンも喚び出していない。

 とどの詰まり、私より魔術師としての才能が高いのに、視野が狭かった。だから商人としての才能を伸ばせなかった……その結果、そんな『毒(ワクチン)』をバラ撒く勢力に気付けなかった。それが断片から読み取った『彼女』の世界だった。

 

 この予感はあった……なのでスイスのエルヴァちゃんのためにエルとエルヴァを造って正解だと思った。あのエルヴァちゃんがそうなると断定してるのではない。餅は餅屋という意味だ。得手不得手の得手だけで生きていける道を示してあげたかったのだ。ただ、そのためにエルヴァには辛い思いをさせてしまった。彼女の気持ちを考えると申し訳ないばかりだ。

 そしてその『現象』となった『彼女』は、性格というかこちらに伝わる感触からエルヴァと似ていると感じた。するとストンと腑に落ちた。『彼女』は本気で……善意だけで動いていたのだ。ここの世界を少しでも良くしたいと。

 その事実に改めて気付いて、驚くと同時に打ちのめされた。そんな目にあっても、そんな風になっても、そう考えるのかと。パミは『彼女』の一部に戻ったのだろうか……。

 よろめく私にセイバーが駆け寄り支えてくれた。

 

「ありがとうございます。これはダメですね。私でもキレます」

「え?」

「深い深い絶望の中でも、まったくの善意で行動し、しかもこの世界では本物の悪党以外には手を掛けていない。また性急過ぎないギリギリで人類全体が『気付ける』ように動いています……」

 

 私の送った記憶を読んだのか、『彼女』は悲嘆した。その時、動けなかった自分に後悔したのかも知れない。そしてモヤが拡散し気配が消えた。私は深く溜め息を吐くばかりだった。

 

「雨が降って来ましたね」

 

 私は『彼女』が泣いているような気がした。だからホテルまで濡れるままに帰った。だって私の頬にも涙がたくさん流れていたからだ。

 

 

 

 久々に朝からサーフィンに行って、午後はスケートボードを楽しんだ。その後、モードレッドだけを置いて、私とエルは家に帰った。

 目的はガレージ裏の木工工房だ。そこには母屋に置いていたアンプも全部運び込んである。こうするとここに防音結界を張るだけでご近所迷惑にならないのだ。

 私は自分のギターの音に酔いしれた。本当に良い音がする。買って正解だった。しばしの休憩で、エルが出掛けているフンボルト君のギターを手に取った。

 好きに使ってくれと言われているので問題はないが、こちらはこちらでシングルコイルの良い音がした。リアは少しボリュームを絞るとダン・エレクトロのリップスティック・ピックアップのような音がした。

 そしてフロントはその昔のゴールドフォイルっぽい。テスコというブランドで扱われていた、日本製のビザールギター。ライ・クーダーが惚れ込んだという、あの枯れたサウンドが出ているような気がするのだ。

 

「フンボルト君は引きが良いですね。このピックアップはアタリですよ」

 

 私も賛成だ。巻き(ターン数)が多いのか磁石の強さなのか。いや、逆に少なく弱いのかも知れないが、どうも耳に馴染んだテレキャスの音ではない。もっと枯れていて音に奥行きがあるのだ。

 

「『JC』でも鳴らしてみたいですね?」

 

 これには私も頷いた。『Roland』の『JC-120』、ジャズ・コーラス。12インチ・スピーカーが2発に、コーラスとヴィブラート、そしてリバーブが入ったクリーントーンがウリのトランジスタ・アンプだ。

 おそらく日本なら、どこのレンタルスタジオでもホールでも最低1台は置いてあるだろう、スタンダードなアンプだった。学園の軽音部(あちらでは軽音楽部とは言わなかった。楽しむのは観客だという伝統だった)には、古い70年代か80年代の『JC-120』と、90年代に入ってからの『JC-120』の2台があった。

 後に(高2の秋から冬に掛けて)『エル』が『Marshall』の『MG100DFX』2台と、『MESA/BOOGIE』の『F-30』『F-50』『F-100』の3台にシンセやエレピを立て続けに寄贈したので機材はかなり充実していたと思う。

 その『JC』だけど。昔はセンドリターンがなく、電極の位相スイッチがある『JC-120』や10インチが4発の『JC-160』などがあった。『エル』はその『JC-160』と、ヘッドとスピーカー・キャビネットが別体となった『JC-200』と、エミネンスの10インチが2発入った『JC-90』を持っていた。

 どうして良い歪みの得られるアンプがあるのに(それもクリーンでも暖か味があると定評があるアンプばかりだ)、『JC』まで持っていたのか。

 それは『JC』でしか得られないクリーンさと、エフェクターの『掛かり』があったからだ。そしてその『クリーン』はピックアップの素性を素直に出していた。だから鳴らし比べてみたいと思ったのだ。

 だからだろう。エルはギター側のボリュームを絞ってクリーンを作り、とってもジャージーなフレーズを弾いていた。

 

 サラリと流したけれど違和感を感じない? 私やフンボルト君はギターを普通に構える。で、エルは左利きのように構えていた。それがあってのジミヘンだ。なのに今はフンボルト君のテレキャスを右利きと同じように構えていた。

 ちなみに彼女のために私が選んだストラトはカスタムショップの68年モデルだった(携帯電話で予算5千ドルと即答していた。人の事は言えないが、お金持ちだなぁ)。

 

「あなた、どっちでも弾けるの?」

「ええ。どちらでも」

 

 あなたはマイケル・アンジェロか?

 

「それで、どう? ジャージーで良いよね、そのピックアップ」

「ピックアップの選択も良いけれど、ボディの木ですね。焼いてより乾燥されてタイトになった」

「ああ、なるほど」

「ええ。それと容積というか体積というか。それが大きくなると中低域が強調され音にコシが出ますね」

「ボディの?」

「そうです。『Bo Diddley』はそこを経験で知っていたのだと思いますよ。デザインの元は『Cigar box guitar』でしょうけれど」

 

『Cigar box guitar』とは、葉巻の空き箱を利用して作る南部の伝統的な3弦前後のスライド・ギターの事だ。

 

「『Explorer』や『Flying V』……いえ、『Explorer』ですね。そちらにテレのピックアップを移植したり、手に入るなら『Alnico V』や『P-90』を乗せてみたいですね」

 

『Flying V』にストラトのピックアップとトレモロを乗せたギターを見た覚えがある。ピックアップはピックガードを使わずボディに直付けしてあり、トレモロはフロイドローズだった。

 それでセットネックの仕込み角をかなり変更してあったように記憶している。良いギターかと言われれば首を捻るが、コシのある音を求めるならアリなのかも知れない。

 そんな『Flying V』より大きな『Explorer』に『P-90』か。『P-90』と聞けば、レス・ポールのジュニアやスペシャルが思い浮かぶが、元々は1956年頃までのレス・ポールに乗っていたし、『ES-175』などにも使われていた歴史あるピックアップだ。何よりホロウ・ボディならブルースやジャズに合う。

 最高なのは『ES-350』や『ES-5』に『Super 400』だ。あの甘くメロウな『ES-350』、キレのある『ES-5』の音。あんなのが新品で売られていた時代があったんだよね。

 

「いえいえ、あなたと私と『エル様』が『ES』シリーズなんて持った日には、漫談にしか見えないでしょう?」

 

 待て待て。あれって三味線とアーチトップの『L-48』だったよね?

 

『あてら陰気な鋳造娘~♪』

 

「陰気とか鋳造とか言うな!!」

 

 

 だけど今は良い時代になったもので、そんな『Explorer』などを作らなくとも『P-90』が付いたゴキゲンなモデルが出ている。それが『Les Paul Junior Special』だ。

 まず、元来の『Junior』はリアだけで、ブリッジもオクターブ調整できないバータイプだ。このブリッジは2ピックアップの『Special』でも同じ。だから時々出るリイシューは見た目のシンプルな格好良さは認めても、ハイフレットで音痴になる欠陥楽器になってしまう。

 そこでメーカーは91年頃からブリッジとテールピースを分けた2ピックアップの『Les Paul Junior Special』を出した。そしてこれがアメリカでは全然人気がない。決まってリイシューかハムバッカーの乗ったタイプが選ばれる。アメリカ人にとって同じ買うなら見た目重視かモアパワーかになるのだろう。

 だから『Epiphone』の方では2ハムバッカーの『Les Paul Special II』となって出ていた(96年から)。安いし、手の大きな人なら小指でボリューム奏法が出来る位置にポッドがあるしで結構売れている。

 スチューデント・モデルと言ってしまえばそれまでだし、木材も安物だと想像がつく。だけど、ちゃんと『ギター』しているんだよね。先日はフレーム模様や骸骨模様を見掛けたので、そういうちょっと凝った限定モノも時々出ているのだと思う。

 もしハムをシングルにできるタップ線がピックアップから出ているのなら、学園祭でボーカルが持つのには丁度良いかも。アジアのどこかで作られているのであろう、プライスタグは200ドルだった。レギュラー・カラーなら175ドルだ。たぶん、日本でも1万8千円くらいだと思う。

 もし私がまだ学園生ならあれを選んだかもしれない。それで塗装を剥がしてフェ◯ダーのダフネブルーやサーフグリーンに塗り替えたかも。パステルカラーのギターって可愛いと思わない?

 

「日本で買うなら『Fernandes Burny』の『PLC-45』でしょう?」

 

 それはペールカラーの、レス・ポール・カスタム・タイプ・モデルだった。女性の方が企画したらしく確かに可愛かった。しかも定価4万5千円でキチンとしたセットネックだ。

 だから店頭で見掛けて少し心が動いたのは事実だ。『エル』は絶対にそういうのを選ばなかったけれど。彼女がもし今の『Fernandes』から選ぶのなら『RAVELLE』だろうな。

 

『トランスティ◯ク・ナーヴのタ◯? あの人のギターがカッコいい』

 

 確かにあれは『RAVELLE』っぽい。もしかしたらあれを原型として再デザインされたのかも知れない。それでもってゴールドトップならミニハムにしたいと言っていた気がする。

 それでもって彼女はリップスティック×3の『JG-55』と『ZO-3』を持っていた。『Hiwatt』も『DigiTech』も『Fernandes』扱いだから結構お世話になっている。

 だけど『microKORG』と『ZO-3』をトイレに置くな。信じられないだろうが、彼女はトイレに小型アンプやレコーダーを設置し、用を足しながら作曲したり歌ったりしていた。つまり自分で音消しもしていたのだ。

 汚いとかバッチイとか色々あるだろうけど、取り敢えず彼女の部屋に近いトイレは、彼女専用で個室が無駄に広かった。本当のお金持ちはこういうところでお金を使い、時間を無駄にしないのだと学んだ。

 では何を作曲していたのか? 実は自社のCMソングや販促ビデオ用のBGMだった。その音声ファイルを『MP3』に落とし、ドイツの企画部門にあるサーバにアップロードするのだ。それを元に曲を選んでどこで使うとか、アレンジャーに依頼して正式な曲にしたりを企画の人が決めていた。

 なおドイツには本社ビルとは別にサーバ管理をしている社屋もあって、そこで『エル』やミトにパミがこれまでに撮影した膨大な動画が置かれてあった。その中の旅行記的なものや食べ物に関するものは、BGM付きで編集され、会社のホームページから誰でも視聴できるようになっていた。

 女の子ばかりの旅行記に、現地のグルメ案内だ。何とかの『ワールド劇場』のようにお茶の間に居ながらにして、珍しい国の見知らぬ土地で珍しいものを食べたりしている。優良ドキュメンタリーとしてEUから表彰される程の内容なのだ。だからアクセス数は億を行ったり来たりで、再生数は毎回数千万だった。

 何故なら音声こそドイツ語主体だが、字幕は英語・フランス語・スペイン語・イタリア語、そしてロシア語に日本語まであったからだ。しかも3人とも凝り性なので、汽車に乗ればオタクっぽい事をペチャクチャ話し、日本にある駅弁文化を熱く語ったりしているのだ。

 あの先入観があったから、私はお弁当の本質を見誤っていたのだと思う。ともあれスタッフの頑張りには敬意を表したい。ちなみにこれは巨大な動画再生サイトが立ち上がる数年前の話だ。

 

「エルは『DTM(デスクトップミュージック)』には興味ないの?」

「無い訳ではないですが、『Computer Music』はシーケンスありきでしょう? ビートが画一的になるのがどうかなと」

「ああ、それならドラムやベースをマルチで録って自分でって?」

「そうです。でもあなたとやる方が楽しいですね。二人で曲でも書きますか?」

「そうですねぇ。『microKORG』と、今出ている『TRITON Extreme』を買おうかな?」

「それなら私、ドラムとベースを買いますよ。作曲して録りませんか?」

「そうしましょう」

 

 そうして私達は二人だけのバンドを結成した。そうなると『TRITON Extreme』だけだと物足りない。88鍵の『MOTIF ES8』ともども『TRITON Extreme』も88鍵にして、併せて『YAMAHA S90』も手に入れようかな。『YAMAHA EX5』や『Roland V-Synth』も捨てがたいけれど、そこは我慢だ。それと『microKORG』が2台。それで大概の事はできるだろう。

 もしプラスするなら『Clavia』の『Nord Lead 2X』だね。

 

「ドラムは何を?」

「ドイツの『SONOR』と言いたいところですが、実は日本の『TAMA』が好きです。ですがシンバルは『PAiSTe』一択です」

 

『PAiSTe』はスイスのメーカーだ。シンバルは他にアメリカの『Zildjian』、カナダの『SABIAN』、ドイツの『Meinl』が有名で、私も『PAiSTe』が好きだった。

 

「それをキース・ムーンのように並べて叩きたいですね」

 

 ハイハットを使わんのかい!?

 

「ベースはミディアム・スケールのジャズベース。当然ポッドのアースは配線を変えて。後、センターにプレシジョンのピックアップを追加したいです」

 

 1本のベースで2本分……? あ、ステレオ・アウトにして違うアンプに繋げるのか。これは高1の学園祭でやった。当時高3だった先輩方の助っ人としてギターを弾いたのだ。

 演目が北欧メタルで、先輩方は『Nightwish』のファンだった。キーボードの先輩のお兄さんが去年まではギターで、女性ボーカルの先輩も卒業されてしまった。

 なのでドラムの先輩とベース兼ボーカルの先輩が、ギターを弾きながら歌える『エル』を拝み倒したのだ。で、実際にステージに立ったのは私だ。『エル』と替わった理由は、何日も掛けて貸しスタジオで練習しなければならなかったからだ。

 この時、25フレットもあるフロイドローズ付きのソロイスト・タイプのギターを作った。それで音の厚みを得るために、フロントとリアのピックアップを別系統(ステレオ・アウト)で出力し、違うアンプで鳴らした。

 不思議なバンドで、衣装は全員制服。それもどこから借りたのか先輩方は黒い学生ズボン(穂群原は茶色)にワイシャツだった。それも袖は捲くっているのに、第一ボタンはビシッと締めていた。

 それぞれが軽音部と兼部で柔道部、剣道部、合気道部の猛者だ。身長は3人とも180cm越えだった。そこに紅一点、150cmちょいの私だ。

 私だけは穂群原の女子制服。つまりスカートは黒いので他のメンバーと合う。だけど女子なのでブラウスにラインは入っているし、リボンも結んでいる。そうやって1年の私だけが目立つようにしてくれた。そういう先輩方だった。

 だから観客席で観ていた『エル』は、打ち上げのカラオケボックスへ快く私を送り出してくれた。あの先輩方が卒業する日、私は泣いた。それくらい仲良くなれた先輩方だった。その分、『エル』は普段演技をしなければならないので大変だったようだけど。

 だけどあれだけ毎日出力されて、大手を振って校内を歩いたのは小学部以来だった。なので私にとって高1の学園祭は忘れられない思い出だ。だからきっと日本のエルヴァも大いに楽しむだろう。それが少し羨ましかった。

 

 

 

 イリヤは体育館の中で台車を押していた。台車の上にはコンテナ箱が乗っていて、その中に壊れないよう包装された5年1組の夏休みの工作作品や、自由研究の発表用に使う丸まった模造紙などが入っていた。

 私は工作だった。ルヴィアさんや凛さんと作ったワイヤー・アートだ。イリヤとクロエは深山町のセミについての研究だった。そんなにたくさんの種類がいて、それぞれの鳴き方がぜんぜん違うんだってクラスの皆んなが驚いていた。

 私は元々寒い冬木に居たから、セミそのものを見た覚えも鳴き声を聞いた経験もない。だから随分しっかりと調べたんだなぁって驚いていた。

 私とイリヤは藤村先生に付いて、今日中に5年1組の展示を終えなければならない。だって明日から6年生と一緒に、1年生や2年生の展示を手伝うからだ。それでクロエと学級委員の人は、3年生と4年生の展示を手伝っていた。

 この校内展示会は明後日からの3日間開かれる。その期間中、受付で名前を書いた保護者は自由に展示物を鑑賞できた。お兄ちゃんは、お仕事で来れない。でも作っている途中は見ていたし、出来上がりも家で見ていた。だから寂しくはない。

 それにイリヤとクロエのママと、セラさんが見に来てくれる。それで家に帰れば思いっ切り褒められるのだ。そんな時の友達の顔を想像するだけで楽しくなる。

 チラリと上を見れば蛾のような昆虫が、水銀灯の傘に止まっている。あれはエルヴァさんだ。エルヴァさんが高等部の校舎から、私達がちゃんとやっているかどうか見てくれているのだ。

 そしてイリヤやクロエと変わらず、会った時に私の作品も褒めてくれる。そう思えるから何も寂しくはなかった。

 

「さぁ、机を並べて布を被せましょう」

「は~い」

 

 藤村先生が押していた台車から机を下ろして、決められたボードの前に並べた。後ろ側のボードに研究発表の模造紙を貼って、前に置いた机に作品を並べるのだ。

 それぞれの作品には名前の札が付いていて、先生が用意した三角札をその作品の前に置いていく。それだけの作業だ。足りない机は手分けして男子が運んでくれている。やがて両手の塞がった男子がやって来た。

 展示そのものは30分も掛からずに終わるだろう。

 

 

 

「買い出しは何時(いつ)するのだ?」

「前日だよ。仕込みは家で済ませておくよ」

「クーラーボックスなどは?」

「ああ、それは大丈夫だ。氷屋さんにも頼んであるし、食材も何日に受け取りに行くって全部連絡済みだ。事前にガスと鉄板を確認したいとこだけど、レンタルだとそれは無理なんだよな?」

「うむ。済まんがそれはできんな。して、搬送は?」

「ウチの家政婦さんがクルマで運ぶ段取りだ。一応、お好み焼きと焼きそばをそれぞれ200食だからな。量が半端ない」

「それは3日間でか?」

「1日だよ」

「なんと。捌けるのか?」

「ああ。売り切る積もりだ。我に秘策ありだ」

「その秘策は姉上からの?」

「こらこら、一成。エルヴァさんは弓道部の先輩でもあるんだぞ?」

「む、そうであった」

 

 我らが2-Cは本日のホームルームにて漸く出し物が決まった。衛宮の発案でテーマは夜店であった。本物の金魚掬いなどは流石に無理だが、マグネット釣りや輪投げならぬボール入れ(番号の描かれた穴に適度な距離からボールを投げる)などなら、小学部も楽しめるであろうとの考えだ(先生の引率で5~6時間目にやって来る)。

 よって窓には星空に見えるようところどころ穴を空けた黒い紙を貼り、それぞれの屋台に木枠を組み、教室の蛍光灯は消して、そこに電球をぶら下げ雰囲気作りをする段取りであった。

 また店番の者は浴衣で接客すると決まった。景品なども子供の喜びそうなものを卸問屋で調査済みだ。アレルギーなどが怖い昨今だ。なので玩具か塩煎餅程度で済まそうと決まっていた。

 ここまで決まれば後は屋台作りとカンバンなどの作成だ。そちらは既に何人かが取り掛かっておる。うむ、1年の頃とは違い、皆手慣れてきておるな。善哉善哉(※)。

 

※)サンスクリット語の『Sadhu』を漢字に音写したもので意味は『それで良い(Better)』『実に良い(Much Better)』の両方で使われる。なお小豆を使った『ぜんざい』の漢字は『善哉』だ。それは『しるこ(当時は小豆のしるこ。◯◯の炊いたんと似た方言的意味合いが濃い)』を振る舞われたお坊様が『美味』の意で『善哉』と言った事から広まったとされる。

 ちなみに、そのお坊様は一休さんだったという説や、出雲大社の神在祭で振る舞われる、しるこ餅である神在餅が出雲弁のまま伝わったという説もある(ズゥンザイモチのような発音)。

 なお関西では汁気のない粒餡タイプを『亀山』、汁気のある粒餡タイプを『善哉』、漉餡から作るタイプを『汁粉』としている。関東では『亀山』が『善哉』となり、『善哉』が『汁粉』となっている(第一部の修学旅行で書いた通り)。

 また、これは未確認情報だが、自販機の缶入りお汁粉は関西から広まったという説がある(サンガリアを疑っていたが、あそこのラインナップには汁粉がなく頓挫中)。

 

 

 

 家に帰り、制服から私服に着替える間にパソコンを起動しておいた。ハンガーに脱いだスカートを掛け、クリーニング済みのブラウスとリボンも掛けておいた。脱いだ方のブラウスとリボンは洗濯カゴだ。

 私は基本、ブラウスは毎日変えていて、リボンは1日おき、スカートやベストは2日おきのローテーションだった。ローファーは扉横の棚に収め(茶色いローファーを2足と黒いローファーを1足、それとお嬢様気分な日に履く、黒いストラップシューズ1足を持っていた)、白いスクールソックスも脱ぎ、屋内用のサンダルに履き替えた。デニムのホットパンツとサマーニットに着替え終わる頃に起動が終了した。

 

 早速メールをチェックしたら、『代金をあなたの口座に振り込むので、以下の物を買ってエルマを通して送って欲しい』という旨のメールがアメリカにいるエルヴァから届いていた。

 何々とリストを見て驚いた。日本製のシンセサイザーやエフェクターにアンプなどが羅列してある。

 

「これ、総額200万近く行くよ?」

 

 そのくらいの金額なら、私も自由に扱えるだけの収入がある。だけどあちらのエルヴァはどうなのだ? これはエーデルフェルトに霊脈の情報を売ったとか、共同で開発しているからとかではないだろう。

 ロシアでのエルヴァちゃんの事業もまだだろうし。私と同じなら、お祖父様に甘えるタイプでもないはずだ。となるとあちらのエルが何かした?

 しばしモニターの前で考え込む私だった。それでコンビニまで走りATMを確認したら、私の取引先の銀行だと時間外だった。

 なのでトボトボと家まで歩いていると。

 

「エルヴァ?」

「はい?」

 

 振り向くと吉川クンだった。

 

「こんなトコでどうした?」

 

 そうなのだ。一番近いコンビニはマウント深山にある。だからこの時間は学園生が結構たむろしている。ちらりと見た彼の手には焼き立てパン屋さんの売り切りサービスの袋がぶら下がっていた。

 一袋に3~4個の惣菜パンが入って200円だから半額以下だ。運動部の男子はこの売り切りパンか、たこ焼きやミニお好み焼き(キャベツ焼き)で晩ご飯までの空腹を凌ぐのが常だった。

 

「今日は部活が無かったのでしょう?」

「文化祭の出し物の準備があったんだ」

 

 彼は3年D組だけど、この回答ではクラスの出し物か部活の出し物なのかわからない。それで顎に指を差して首を傾げた。

 

「あ。クラスだ。D組の」

「何にするか決まりました?」

「ああ。模擬店はソフトドリンクとフライドポテトだ。ほら、前に教えてくれたベルギーの……」

「フリッツ?」

「そう、それだ。揚げたてにソースやマヨネーズをお好みで掛けて貰ってな」

 

 ちなみに欧州では揚げ物全般をフリッターという。語源はラテン語の『frictura』からだ。そしてフリッツはそれに親しみを込めて縮めた言い方で、定番のおやつ的に馴染みがあるというベルギー人の心意気でもあるなんて話したんだっけか。

 

「それで教室の一部にステージも組んでな。アコギとキーボード程度で生演奏しようぜって」

 

 あの日、軽音楽部で吉川クンにギターを持たせた彼もD組だった。なるほど、そういう方向で。良いと思う。コストも安そうだし、油さえ管理すれば問題ないだろう。

 

「でだ、エルヴァ……」

 

 出てくれと?

 

「その……」

 

 私はA組だ。D組に助っ人って許されるの?

 

「俺と……」

 

 こんな往来で『演らないか』は危険なワードだぞ?

 だからここで変な事を言わないでと、辺りを見渡した。すると彼の友人達が遠巻きに、けれど息を呑むように静かにこちらを見ていた。何だ……?

 

「エルヴァ……。その……俺と付き合ってくれ」

 

 はい!?




ゲイツのやらんとてしている事は先に行われたインドでも大問題となり訴訟になっています。
(ケケ中辺りから政府に『ワクチンの強制投与』をと既に話が出ている可能性もあります)
アメリカもとんでもない事が起きています。明らかに香港から目を逸らせ、あわよくばトランプ再選を阻みたい中共の工作なのはミエミエです。
世界は今、リアルに危ない。
今こそ東大的憲法解釈を改めて、東京外大の篠田英朗教授が提唱するような正しい解釈をしなければなりません。
第二次世界大戦で各国は国と国が戦う事の虚しさを共有したのです。だから野心があって他国を侵略してくる国は世界の敵なのです。
俺たちが行くまで持ちこたえてくれよ。それが敗戦国だった日本にも認められている集団的自衛権です。
憲法は古くなり時代にそぐわない部分も増えましたが、9条に関しては間違っていません。解釈が間違っているのです。
だから自衛隊があるのは当然なんです。軍靴の音が? 今の時代にそれをやれば『世界の敵』です。だれもそんな事はしませんよ。
それをするのは、メディアの好きな中共だけです。
先日トランプ大統領が、『(韓国なんて)誰も知らない遠い国の事なんてどうでもいい』と、現代に於けるアチソン・ラインを引き直すかのような発言をしました。
もう各国は『vs中共』で舵を切ったのです。ここを理解しない国の政権は確実に倒れるでしょう。
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