空港ロビーをカツカツと歩く僕の後ろで、ガラガラと僕と自分のカバンを乗せたカートを押す金髪の少女。僕は自分の荷物を自分で運ぼうとしたのに取り上げられてしまったんだ。
「何も君が押す必要はないだろうに。代わろうか?」
「いえ、気にしないで下さい」
そう言いつつニコリと笑顔を向けてくれる。僕もエルヴァと出逢ってから様々な事を体験した。そしてエルヴァからも聞かされていた。だから並行世界の『僕』に召喚されたアーサー王が、どれだけ『僕』を嫌っているかも知っていた。さすがに『エル君』のセイバーは経験も多く、また僕と似た『僕』を知っているだけに最初から態度は柔らかかった。
一方、エルヴァも僕達家族の事を考え、『エル君』のセイバーに似たセイバーが来るよう願いつつ召喚したという。普通はそんな事をできないし、同じ英霊にそんな差があるなんて知らない。だけどエルヴァはやってしまった。イリヤやクロエの事をちゃんと考え、凛君やルヴィア君にアドヴァイスを贈る……そんなセイバーを召喚した。
イリヤが巻き込まれたあのカード騒動は、今回のように僕が居ない間の出来事だったからアイリも不安だったろう。だからエルヴァはああいうセイバーを喚んでくれた。ふと、僕の横でシートベルトを締めるセイバーを見た。『何だ?』という疑念でなく、『何でしょう?』という柔らかさが先に立つ仕草。その首の傾げ方はエルヴァに似ている。
「いや、用はないが、君という存在を考えていた。あの二人とは限らないが、どこかのセイバーの若い時分だというのも理解した積もりだ。妙な話だけれど、君は幾つだと自覚しているの?」
「15歳です。王を選定する岩の剣を抜いた直後ですね。ですから戴冠の儀を済ませていません」
つまり玉座にはまだ座っていなかったって事だ。昔の僕なら、そんな年齢で一国を率いるという選択を執らせた当時の人々に腹を立てたろう。だけど世界を巡り、それなりに経験を積めばわかる。誰しもがどこかの局面で大なり小なり『心の剣』を抜く時がある。そこに年齢は関係ない。僕もいつしか年頃の子の親になっていた。
「よく抜いたね? 怖くなかった?」
彼女は目を大きく瞠った後、ポツリポツリと話してくれた。本当は怖かった事。マーリンに滅亡のビジョンを見せられていた事。それでも王国を救えるのは自分しか居ないと決意した事などをだ。
「その選定の剣が抜けるかどうか、そのイニシエーションに当時は重要な意味があったろうともわかる。けれど本当に君でなければならなかった?」
「もっと相応しい人が居たかも知れませんね。ですがそれがブリテン人とは限りません。今と違い人の少ない時代でしたから。なら生粋のブリテン人であり、ブリテンを思う心を持ち、前王の遺児でもあった私が一番……民にとっても最良でした」
ああ、この子は『若く』『聡明』だ。きちんと理解した上での選択だった。いや、きっとどこのアーサー王も彼女と同じだったのだろう。だけど儘ならない王国の運営で、徐々に疲弊して行ったんだ。そして経験値は積んでも、精神は肉体の若さに引き摺られ、判断が『青く』なる。
青臭い王と青臭い殺し屋。そりゃ合わないはずだ。『士郎』と合った理由もそこだ。精神年齢も肉体年齢も近い。だけど『僕』は理想こそ青臭いが、精神も肉体もそれなりに歳を取っていた。
ああ……『エル君』の意図が見えて来た。この子は『不完全燃焼』なのだ。座の記録から王国が滅んだ事も、騎士達が死に絶えた事も知っている。だけどそんな事で納得できる筈がない。だって彼女自身は、まだ何もしていないんだから。
「『エル君』がここに君を残していった意図が段々見えて来たよ。君は新たな人生を歩むべきなんだ。もう終わった事は忘れて、君自身の幸せを掴むべきなんだ。割り切るのは難しいと思うけれど、時は止まってくれない」
「はい。現世を生きるとはそういう事だと。他者と関わるから時間が流れるのだと教えられました。それでここで学生となって友人を作りなさいとも」
そうだ、それしかないんだ。言ってみれば彼女は甲子園目前で肩を壊したエースだ。もう優勝を目指す事も、プロを夢見る事もできないんだ。そんな若者を癒やしてくれるのは、ありきたりだが『友』しか居ない。そしてマスターである『エル君』がここに居なければ、彼女を縛るものは何もない。
ランサーもランスロットもアーチャーも、エルヴァに凛君にルヴィア君、それに士郎にイリヤにクロエも。僕達は誰も彼女と『聖杯戦争』で繋がっていない。そうだ、長女が元セイバー。あちらの『僕』はアーサー王を召喚していた。そこを危惧してここへ残したのだろう。
聞けば転入試験というのか編入試験というのかそこは知らないが、何と彼女は既に合格していた。つまりこっちの世界には早くから送られていたって事だ。
「素知らぬ顔で、あなたのお嬢さんと学園で出会う方が面白いからと話していました。勿論、そんな騙すような真似はできませんと言いました。ですが……」
そうだ。エルヴァは自身のセイバーと随分仲が良い。お互いがお互いを信頼し信用しあっている。それはエルヴァがニュートラルだからだ。あの子はセイバーに姉の思い出を重ねていない。召喚後に一から友情を育み今の関係になっている。きっと『エル君』はそこに期待しているんだ。
そう考えるとトロンメルがここに送られた事や、『巫女のイリヤ』や『小さなイリヤ』がやって来た理由も見えて来る。それは『小さなイリヤ』のためであり、もう一人の『小さなイリヤ』のためでもあり、また『英霊のイリヤ』のためでもある。人は人と触れ合って成長できるものだ。そしてその間で接着剤、或いは潤滑油となって自然と動けるのがエルヴァという子だった。
『エル君』の中や外で活躍する『分割思考の一つ』。その『47番目』でしかなかったエルヴァ。ふ~む、もしやエルヴァは『エル君』にとってはとても大切な存在だったのではないか? いや、エルヴァが『皆んな』の意見を纏めていたんじゃないか?
もしそうなら、あの子が欠けて『エル君』は……。いや、この考えは甘い。それに対処しない……何らかの手を打たない『エル君』ではないだろう。
そこまで考えて隣のセイバーの事を考えた。座に本体が居る。英霊やサーヴァントはその分霊だ。『エル君』が居る。エルヴァも、アメリカのエルヴァやエルに、ある意味エルマやトロンメルも『エル君』の分霊みたいなものだ。つまり『エル君』は若いセイバーをエルヴァのように感じた。いや、エルマやトロンメルなのかも知れないが。ともかくそんな風に考えた。
だからエルヴァに託したかった。だけど何でもかんでもエルヴァだと負担が大きい。アメリカのエルヴァはそういう意味もあったのだろう。確かにモードレッドが見違えるほど変わっていた。そういう目に見えない『影響力』。周囲の人々に幸せを伝播する能力……。
そうだ! その先にあるのが『掌握』や『魂の改竄』なのではないか? そしてその『影響力』が世界規模になれば? 今回の『現象』もそういう事ではないか?
絶望があったにせよ、誓いを破って死者も出しているが、根底にあるのはエルヴァと同じ『善意』だ。『エル君』は立場上仮面を被らざるを得ないだけで、本質はエルヴァと同じく優しい子だと僕も気付いていた。なのに気付けなかった。それは『影響力』というものがわかっていなかったからだ。
それは征服王や英雄王が持つ『カリスマ』ではない。似て非なるものだろう。だけどそれは未熟な、今の僕達人類にはあって欲しい存在であり能力なのかも知れない。強大な『カリスマ』を持つ王が統治する時代ではない。さり気ない言葉や仕草で皆んなのモチベーションが上がる存在。そういう人が増えなきゃならない。そしてきっとエルヴァは、周囲の人々を無意識でそんな風に変えている。
『何だ……。あの子が選んだ相手なら、それで良いじゃないかと思えてきた。でも、どういう相手を選んだのかは興味あるなぁ。帰ったら早速調査だ。ン? オーギュストが調べている可能性は高いな。戻ったら確認しよう』
僕とセイバーは、いつの間にやら機内で仲良く眠っていた。
私はお姉様の妹だ。と同時にお姉様を『愛して』いる。それはもう、お姉様を思ってあんな事やこんな事、思いつく限りの事をやった。自分でもおかしいとわかっている。バカどころか狂っているとさえ思っている。それでいて『もうこんな変な事はヤメよう』なんて一切考えないし思わない。快感の後に虚無感を懐いた事も、後ろめたさを懐いた事もない。
むしろ私の思考や感情、モチべーションなどすべてのエモーションがお姉様をお慕いする『愛』から発生していた。そしてそんな私の痴態を、ゾウケン君はいつも知らない振りをしていてくれた。
『じゃからと言って、人のものを盗んではいかんぞい』
今の私は学園指定のスクール水着姿だった。肩のパイピングは3年生用の青。今までは自費で購入したものを使っていたが、今着ているのはお姉様のお部屋のクローゼットにあったものだ。プールの授業もとっくに終わった。そしてこれはもう使われない、役目を終えた悲しき存在なのだ。だから私が回収した。
勿論バレちゃ困るので、クローゼットには新たに用意した新品の水着が押し込んである。クロエちゃんは精々それで満足なさい。フフ……。
『何でそんな『邪気のない』笑いができるんじゃ……』
おっとそろそろ脱がなきゃ。この『お姉様が使用していた本物』だけは汚せない。あくまでも本日は『学園祭準備の諸々で疲れた気持ちを、盛り上げるため』だった。夜、電気を消して楽しむ時は『買った方』でする。当たり前の事だ。
『儂よりマニアックじゃ。しかし、エルマや。ギリギリを狙って楽しむのはわかるがの。程々にせんとエルヴァに嫌われるぞ?』
「わかってるよ。でも、今のお姉様は吉川先輩との事で、私やクロエちゃんに後ろめたさを懐いているからね。そういうのを感じる必要はなんだよってわかって欲しいというのもあるの」
『ほぅ?』
「ホムンクルスは基本両刀遣いなんだよ、ゾウケン君。勿論、個体差はあるし、精神的なものも大きな差になるけど。この辺はクロエちゃんや私を見ていたらわかると思うよ? イリヤちゃんもそうだよね? 対象がお兄ちゃんに向いているだけでさ」
『む? あの年代特有の兄への憧憬、それがホムンクルス特有の性的嗜好とリンクしておると?』
「そういう事。だから本当の意味での『困ったチャン』はイリヤちゃんだけなんだよ。それで、そろそろあの子達も初潮が始まるでしょう? だけどそんな年齢まで、『お兄ちゃんへの思い』を引き摺っちゃったりしたら大変じゃない。それで、お姉様やクロエちゃんが上手くコントロールしているってワケ」
『ほうぅ~。エルヴァはわかるがクロエもか?』
「うん。あの子はおませさんだからね。言わないであげて欲しいけれど、あの子もお姉様を思って自分を慰めたりした経験があるんだよ」
『そういう話を?』
「ううん。この手の仲間は自然とわかるよ」
『あっけらかんと、事も無げに言うでない。偈にホムンクルスとは謎じゃのう。じゃが、ユスティーツァもそんな感じじゃったのぅ』
「お姉様と、英霊のイリヤさんや巫女のイリヤさんを足した感じでしょう?」
『そうじゃな。懐の深さや、決断した時の強さとか……確かに似とる部分は多いの。じゃが、言ってみれば皆んな子孫ではないか』
「そうだね。けれど血を継いだのでなく、アインツベルンとしての在り方を継いでいるの。これは私だけの感じ方かも知れないけれど、『イリヤさん』や『エル様』よりお姉様の方がユスティーツァ様っぽく感じるな」
『うん? それはどうしてじゃ?』
「だから性格というか在り方というか。そうだなぁ……『器』のための『器』っていうか」
『ふむ。面白い考えじゃな。じゃが言いたい事はわかる。大聖杯の礎(いしずえ)となったユスティーツァ。それは正に小聖杯を抱えし子孫の『器』とも言えるのぅ』
「うん。皆んなそこに還ろうとしたんじゃないかなって。そう信じられたからこその『自己犠牲』でしょう?」
『自己犠牲……。エルマや続けておくれ』
「うん。アインツベルンのホムンクルスにロボット三原則は無いけれど、遠い昔にそんな『自己犠牲』の萌芽となるような感情を獲得したホムンクルスが居たんだろうね。それでユスティーツァ様が完全で完成された感情を獲得した。またアイリスフィールさんが素晴らしいのは、その複雑な感情を子を成す事で獲得した。つまりそれは『完全な人間』の『完成』だったんだよ」
『完全な人間の完成……』
「そう。アハトが聖杯に目を晦ませず、ちゃんと理解していたら。スイスで稼働しているメイドのほとんどは、そのユスティーツァ様の型を利用して鋳造されているの。それで、今の型は人間以上だって聞いたよ。ゾウケン君。ユスティーツァ様は人間だった。江戸時代の日本で泣いて笑って、あれが面白いこれが楽しいって……」
『村人がの、差し入れてくれた握り飯を、旨そうに食っておったな。頬に米粒を付けてな。そうか、じゃから儂は……』
「うん、私もわかっているの。いつかは男の人と恋に落ちて、その人との赤ちゃんを産むんだって。でも、お姉様が好きなのも間違いない事実なんだ。それがおかしいのも自覚している。だけど、それもまた人としての感情だと思うんだ」
『そうか……』
「子供ができたら抱っこして欲しいな」
『儂がか? そりゃエーテル出力すればできると思うが……』
不思議なもので『永遠の命』なんてものを本当に得て、人とはかけ離れた姿となったゾウケン君。なのにこうやって話していると、日に日に人臭さが濃くなった。今や私の子やお姉様の子を抱きたいと願う祖父のようなところがある。だからいつか抱いてあげて欲しいと話したのだ。そしてその子にゾウケン君を託し、その子の手から、その子の子に託される。
そうやってリレーをしていかないと。永遠に生きるってそういう事だぞ? ゾウケン君。
エーデルフェルトの門を潜ろうとしたところで、待ってと声がしたので門扉を開けて待っていた。ほどなくトロンメルが外灯の灯りに浮かんだ。私の2~300m後ろを走っていたようだ。
「ありがとうございます。今日も練習をみて頂けますか?」
「お帰りなさい。どうぞ」
それで中に入り、先の戻っていた人達に挨拶をして2階に上がった。今日はアンプを通したいと言うので、部屋から『TL52-75』とコードを持って行った。曲名を聞いてわかった。初代『HGB』の曲でなく、バンドブームだった90年代の曲だ。高校生が作ったと思えない、ちょっと凝ったリードのある曲だけど、そこはアレンジしても許される。
「ああ、あれのオリジナルか。確か、こうだったかな?」
そう言いつつ防音結界を張り、お手本を弾き始めた。ハーモニクスを鳴らしながら1弦12フレットをチョーキングし、ビブラートを掛けながら2弦14フレットでダウンさせた。つまり1弦は中指で押し上げ、次のピッキングの時に素早く2弦を薬指で押さえ、ピッキング後にダウンチョーキングするのだ。
普通は1弦14フレットの薬指チョーキングから始まって、2弦12フレットの人差し指ダウンチョーキングに繋げる。このチョーキング後の弦を変えてのダウンチョーキングはジミヘンがよくやっていて、ジミヘンコードとともに有名だ。
なのにそれを、こんなおかしな指使いにさせるのは、この2弦14フレットをその次にもう一度1音分チョーキングして、ビブラートしながら、再度半音チョーキングしなければならないからだ。この繋がった二段チョーキングは、どこかフロイドのギルモアっぽい。
口でいうとこんな感じ。『ツ~チュウゥ~ンチュウウ~ン』。わかんないか。でもこの曲は全編こんな風に凝った指使いをする。だから作曲者本人が簡単な指使いのアレンジ版を残していた。
トロンメルが言うには、オリジナル版にチャレンジしようと皆んなで決めたのだそうだ。その分、ドラムとベースも凝って新しいアレンジにしたいとの事だった。ヤル気あるなぁ、『HGB』は。
「姉さん、こう?」
「うん、そうそう。もう少しゆっくりで良いですよ」
「ゆっくりだと音がバラバラになって……」
「でもそうやって覚えないと、早く弾いた時に誤魔化しばかりになりますよ?」
「そうですよねぇ。もう一度お願いできますか? できればアンプを通して」
「はい」
それで自分のギターからコードをアンプに挿した。もう一度オリジナル版を弾いた。
「あ~。先輩方がオリジナル版を薦める意味がわかりました。音が繋がって歌詞の切なさと合うんだ」
「ですね。それと私もわかった事があります。この曲はストラトかテレキャスで作曲していますね。ちょっとあなたのレス・ポールを貸して下さい」
それでトロンメルのギターを担いで、アンプのトーン・セッテイングをややトレブリーにした。そうそう、こんな感じ。ライブのジミー・ペイジみたいに。しかし良い音だなぁ。
「ああ、良い。自分のギターがこんなに良い音なんだって思ったの初めてですよ」
「ね? 返す返すも不思議なギターですね。指板がエボニーのドット・ポジションは『studio』の初期型にしかありませんよね? なのに『studio lite』みたいに軽量化されていた(だけどそれは解析すると『Traditional Weight Relief』や、後年の『Modern Weight Relief』とも違い、音響板が張り巡らされたようになっていた。やっぱり、ライブ向けに『エル』が作ったのだろうか?)。トロンメルは何か聞いていませんか?」
「いいえ。ただ単に『あげる』と言われただけです。持った時に軽いなとは思いましたが」
わからないか……。だけど、何だこれ? このトロンメルのギターは。音が良過ぎだ。絶対にこのピックアップは498Tや490Rではない。ゴリッとした中域に、この噛み付くようなバイト感。まるで『Seymour Duncan』の『SH-4/JB』だ。アンプのトーンを絞ったから見えて来た。
低域を削ってもペナペナにならないのは、ボディがほぼホロウ構造だからだろうか。段々見えて来た。これジャンクか壊れた『studio』の塗装を剥がして、トップとバックをバラしてバックをオリジナルの音響板付きに替えて貼り直してあるのかも。そこから再塗装して……。そしてその空洞には……あった。魔方陣の描かれた札。
あのEG6やMR2と同じだ。楽器にまでこんな事を……。
「姉さん?」
「ううん。良い音だなって」
魔力でのイコライジングだけでなく、倍音をコントロールするって、そんなのアリか……。
以前『エル』は、『Fender』のスチューデント・モデルを好んで使っていたと話したと思う。それは身体が小さく、ショートスケール(24インチ、609.6mm)でないと弾けない頃があったからだ。勿論、今はミディアムスケール(『Gibson』スケールともいう。24 3/4インチ、628.65mm)も、ロングスケール(レギュラースケールとも。25 1/2インチ、647.7mm)も弾いている。
だけど学祭でストラトやテレを、歌いながら弾く場合は決まって『Fender Japan』のミディアムスケールモデルを使っていた。当然そんなモデルは中古でしか存在しない。日本に来る前にカタログから消えたか、数年おきの少量生産だったからだ。そして『エル』は、その初期モデルの中古や少量生産の新品を日本に来た頃から買い漁っていた。また同じくらいレギュラースケールのギターも集めていた。それくらい楽器が、中でもギターが好きだった。
そうなったのにもちゃんとした理由がある。『Fender Japan』然り、『Orville by Gibson』然り。出来が余りにも良過ぎたのだ。その昔、日本ではコピーモデルが全盛だったという。それらが日本国内に留まらず海外にまで輸出され、本家を脅かした。何故なら日本のコピーモデルには海外の人も待ち望んでいた、往年の50年代や60年代の、所謂『Vintage』タイプが多数含まれていたからだ。そしてその出来は商業主義に走りコスト削減で年々質が落ちた本家を凌駕した。贋作が本物を越えたのだ。それが70年代末期から80年代に掛けての話だった。
そうして『Fender Japan』プロジェクトが始まった(『Orville by Gibson』はもっと後だったし、『Gibson』そのものを名乗らせなかった)。この80年代から90年代初めの『Fender Japan』を支えたのが『Fujigen』だ。また『Fujigen』は本家『Fender』に『技術指導』していた。それが『ジャパンクォリティ』だった。そして『Fender』の読みは当たった。技術が一気に底上げされ、往年の魂を取り戻せたのだ。その頂点が『Custom Shop』だった。
なお後年の『Fender Japan』を支えたのは『Greco』の『神田商会』や『東海』であった。『東海』はあれだ。『Tokai の Strat』という言葉になるくらい真に迫る『ストラト』を作り、『Fender』から訴えられた『錬木?』の会社だ。
以上が『エル』が日本製を買い漁っていた理由だ。日本という島国には剣でなく、本物を越えたギターが突き刺さっていた。剣は歴史を重ねても文化的側面に乏しい。どこまで行っても武器であり兵器だ。だけどギターは楽器という工芸品であり、奏でる人が奏でれば芸術へと昇華される文化の申し子だった。
幾らお兄ちゃんが『煩い、静かにしろ』と言っても、言い負かされてショボンと踵を返す他はなかった。
ここまで話せば、『エル』もヴィンテージを持っていそうだが、意外とそうでもない。例えば1千万に迫ろうかという、59年ものの『Les Paul』なんかはまず持っていない。凄い杢目の『Reissue』や『Historic』『Custom Shop』は何本か持っているが、学園に持って行って自慢する事もなかった。あれは純粋に自室のオブジェクトであり、ズバリ言ってしまえば床の間の観賞用だった。
実のところ、そのヴィンテージが持つ微妙な『わかる人がわかる領域』のサウンドは、ほとんどの場合『弾き手』にしかわからない範疇なのだった。ボディやネック材の枯れ具合。ピックアップの経年変化に拠るコイルの劣化や磁力の弱まり。こういうのはほとんどの聞き手はわからない。つまり表現者とそれを甘受する者とでギャップがあるのだ。
哀しいかな、表現者(演奏者)が凝れば凝るほど、拘れば拘るほどそのギャップは大きくなる。ところがオールチューブのしっかりしたアンプで、セッテイングを詰めたりする方が、誰にでもわかるほどの差が顕著に出る。もっと言えば、一音一音を正確に出す運指と、『色付け』できるスケール(ネックの長さでなく音階パターンの事)やポジション選び、ピッキングのニュアンスなどの方が『人の耳に残る』。
何より音楽とはメロディーとリズムだ。良い曲があってこそなのだ。つまり素材ありき。その他の要素は調味料だ。ではギターはというと、包丁だと言えるが調理範囲が些か狭い。それならエレピやオルガンやシンセがあっても良いじゃないかとなってしまう。そっちの方が表現の幅(調理範囲)が確実に広くなるからだ。
それで、あれは……98年頃だったと思う。『エル』は突如『Gibson Les Paul Studio』を買って来た。それは『Gem Series』と言って、アメジスト・トパーズ・エメラルド・サファイア・ルビーの全5色があった。インレイはスタンダードなどと同じ台形で、『P-90』が着いていて音が良かった記憶がある。それが琴線に触れたから、纏め買いして来たのだろう。
程なく『エル』は『SmartWood Exotic』というのも続けざまに揃えていた。こちらはクルベイ、タベリヴァ・グァス、カンチャラナ、ベローバ、バナラ、アンベイ・グァスなど、木目より色合いが珍しい木がトップに使われていて、全部で6種類のドット・インレイだった。弾いたところも見なかったし、弾かせて貰った事もない。たぶん木が珍しいだけで音はイマイチだったのだと思う(96年から2002年頃まであったらしい。またこれとは別に価格が倍近い『Studio SmartWood』というのが、『Standard』や『Custom』とともに店頭に並んでいた。これらと2003年限定の『Studio Swamp Ash』を指して『SmartWood Series』というそうだ)。
それらを通じて『エル』は『Les Paul Studio』を見直したのだろう。『エル』が言うには、83年頃から『studio』はあったらしく、最初期モデルはボディが薄く指板はエボニーでドット・ポジションだった。台形ポジションに変わったのは90年代の初頭の『studio lite』発売とほぼ同時だったと話していた。その『studio lite』は最初シングルみたいな、細くカバーされたハムバッカーが着いていて、コイルタップできたという。そちらの白と黒を持っていた。貴重品らしく弾かせてくれなかったけれど(アーム付きの『studio pro lite』なんてのもあったらしい)。
そんなバリエーションの多い『studio』は、90年台に入って更に機種が増えた。その内の一つだが、『studio lite』に『M-Ⅲ』というほぼアメリカでしか見ない『HSH』の3ピックアップ・モデルが出たのだ。1ボリューム1トーンに5ポジションスイッチとタップスイッチ。つまり『HSH』が『3S』にも使え、ハーフトーンも出せるという妙にプレイヤビリティに溢れたモデルだった。
長々話したが、要は『Gibson』系の音が欲しい時のメインが、『エル』はその『M-Ⅲ』だったのだ。アームを使う時は私が使った25フレットのソロイスト・タイプ(駅前の楽器屋さんのオリジナル・ブランドで、パーツの割に安く12万円だった)を、枯れた音やリズムに徹する時は『Fender Japan』を使っていた。
こういう経緯を知っているから、トロンメルのギターが謎だったのだ。わざわざ(たぶんこれを作ったのはお祖父様だ)特注までしたものを人にあげるだろうか? 『エル』にそこまでトロンメルへの思いがあったとは考えられないし……。
ともかく夕飯が近いので練習に集中した。もう一日あればトロンメルも弾きこなせるだろうというところでエルマが食事だと声を掛けてきた。しまった、制服のままだ。だけど明日がローテーションの日だったから、そのままの格好で晩ご飯を頂く事にした。ギターを肩から降ろしてアンプに立て掛けた。トロンメルは自室なので専用のスタンドに立て掛けた。当日は立って弾くので、ストラップを使って練習していたのだ。
すると、私はベストを着ていたのでそうでもないが、トロンメルのブラウスは肩の部分が黒くなっていた。
「あ~あ。汚れましたね。残りの半袖、全部クリーニング中だし、明日は長袖だなぁ」
「ふむ。明日明後日までの数日なら貸せますよ。半袖は3枚ありますから。とは言え、そろそろベストを羽織るなりしなさいな。朝夕は冷えますよ?」
「そうですね。姉さんは時々長袖を着ていますね? それはどういう理由で?」
廊下に出て歩きながら話しているのだが、トロンメルの指摘通りで、確かに私はこの調整期間中、長袖や半袖をランダムに着ていた。最初は風を当てておきたかっただけだったのに、何故かそうなってしまっていた。
「深い理由はありません。体温の調整でもないし。気分かな? 今まで、長袖を捲くるなんてした事がなかったので、それが新鮮だったというのもありますね」
『エル』は優等生だ。変な事はするし、正論で先輩も先生も泣かす場合があった。それでも成績は常に上位で、品行も方正だった。それも偏に『姉のイリヤ』と『理事長であるお母様』のメンツを潰さないためで、本人は先輩と揉めようが先生に嫌われようが屁とも考えていなかった。その理由は相手の『人間力』と『接点』にあった。
穂群原には優れた教師が揃っているが、その方達がビジネスパートナーとして『エル』のお眼鏡に適うかどうかは別問題だった。何よりスイスのエルヴァちゃんと同じで、彼女は元々、世界有数の大金持ちの令嬢である。第四次が無ければ姉や両親と逢う事もなかったし、日本で暮らす事もなかった。住む世界が全然違うのだ。
だからこそ考えてしまう。ちらりと頭の隅に吉川クンが浮かぶだけでドキドキする私は何だと。だからこそ思う。おチビちゃんと出会い、セイバーと出会い、クロエちゃんやお母様やお父さんに士郎クンと出会い、エルヴァちゃんや姉さんやエルマやトロンメルと出会い、凛やルヴィアと出会い……私は今が楽しいし幸せだ。
きっと『エル』はそれを願ってここに私を残らせた。だからこそ、もう一人の『私』とエルの幸せを願った。
その日の夜、私はモニカさんとミアータさんの手で下着からカッチリ変えさせられ(こんなの倫敦以来だ)、着飾られ、メイクも髪型もバッチリ施されていた。そして随分と可愛いパーティ・ドレスに着替えさせられた。
それでエルにドンと背中を押されたら、家の前に止まったポル◯ェの傍で、花束を抱えたタキシード姿のフンボルト君が待っていた。
文句を言いたかったし、何をされるのだと逃げようともした。だけどモードレッドに押さえつけられ動けなかったのだ。
「やぁ、綺麗だ。美人に磨きが掛かったね?」
「もう~。騙し討ちですよ」
「あれ? そっちはそうだったの?」
「そちらは違うんですか?」
「うん。デートの用意を整えさせるから頑張れって、それだけ」
「そ、それだけ?」
「うん。嫌になった?」
「騙し討ちには腹を立てていますが、あなたも知らなかったのでしょう? それに楽しませて下さるようですし」
ちらりとポル◯ェを見ながら言った。借りてきたのかな?
「ああ、レストランも予約してある。乗ってくれるかい?」
「ええ」
こうして私とフンボルト君とのデートが始まった。幼い頃の『お兄ちゃん』ではあるけれど、彼はそのフンボルト君ではなかった。どこまでも私に好意を寄せる真摯な男性だった。だからデートくらい良いかなと思ったのだ。
クルマは405号を小1時間ほど走り、LAX(ロサンゼルス国際空港のコードネーム)の脇を回って、マリーナビーチ(マリナ・デル・レイ)からベニス(ヴェニス)ビーチに向かった。それで近くの駐車場でクルマを止めて歩く事になった。おいおい。こっちは無意味に高いヒールで余り歩きたくないんですが。
「ここ、ここ。こんな有名なビーチでのんびり散歩とは行かないよ」
ふわぁ~。もう、日も沈もうかというのに凄い人だかりだ。このヴェニスビーチはヤシの木が並ぶ遊歩道(オーシャンフロントウォーク)が有名で、ところどころにある広場やコートでパフォーマーが何かを披露し、でっかいキッズがダンクを決めていた。
「この人だかりを見ろと?」
「それとあのヤシの先にある砂浜だよ」
目を凝らせば驚きだ。ほとんど誰もビーチで遊んでいない。時折ロングボードを抱えた女の子が歩いていたり、同じくロングボードを抱えた男の子がスケボーに乗っていたりはするけれど。ここはロングボードが多いなぁ。
「時間帯? サーフィンの人が帰ろうとしているだけで」
「ところが昼間もこんな感じでビーチはまばらなんだ」
「どういう?」
「広すぎるんだよ。砂浜の、海までの距離がかなりあるのと、横幅。サンタモニカまで含めると6kmはあるよ」
「何が言いたいのですか?」
「人口密度。改めてアメリカは広いなって。それなのに広場は人だらけだろう?」
「そうですね。それが?」
「娯楽だよ。娯楽が多過ぎて人々が厭きている。だけど何かせずにはいられない。だから当て所もなく集まるんだろう。それが国の豊かさと言ってしまえばそれまでだけど……。以前もここに来てね。その時僕は、ここで儲ける方法の幾つかと、この虚しさの来歴と、シロウなら何を思うのかなって同時に考えてしまったんだ。エルヴァ、僕はある場面なら有用だろう。だけど何でもできる訳じゃない。所詮、限度のある人間なんだ。そんな等身大の僕を知って欲しかった」
ジャグリングをしているパフォーマーの向こうでギターを弾くパフォーマーが居る。『誰しもが何でもできる訳じゃない』……か。そうかこの後のデートもありのままの自分を見て欲しいって意味か。真面目だなぁ。そして女の子と居るのに、『他人の幸せは喜んで眺めるのに、自分の幸せには鈍い』友人が気にもなったと。
「お腹が空きました。ちゃんとエスコートして下さいよ?」
「ああ、勿論さ」
それでサード・ストリート・プロムナードにある、ちょっと高級そうなレストランに入った。ウェイターが持って来たメニューを見ながら尋ねた。
「無理していませんか? あのポル◯ェ、夏に出たばかりの997でしょう?」
フンボルト君の乗って来たポル◯ェは、最新のカレラだったのだ。お祖父様はハイパフォーマンスな限定モノや特別仕様のモノしか集めない。だから発表されたばかりの『一般向け』には手を出さないのだ。そしてハイパフォーマンス・モデルが出るなら、メーカーかディーラーから電話が入る。『いつ納品するのか』について。
そうしてスイスのあの家の地下か、バーゼルのビルの中で大切に保管される。そうやって集められたクルマを売る事は滅多に無い。お祖父様にとってのクルマは、投機の対象でなくコレクションの対象だ。子供がミニカーを集める感覚でしかない。最近はあまりワクワクしなくなり寂しいのだそうだ。
『ベンツェのな、SSKLって知っとるか?』
日本人ならルパンで知っているという人が多いと思う。あの黄色いクラシックなオープンカーだ。SSKはスーパー・スポーツ・クルツ(短いの意)の略で、SSKLはそれのレース用軽量化バージョンだ。このSSシリーズは1928年から1932年の僅か4年間しか出ていなかった。1927年の180hpだったSを、200hpに改良したSS(W06)は、最終的に225hpまで上がったが、その生産台数は僅か102台だった。同じく200hpからスタートしたSSK(W06Ⅱ、W06Ⅲ、WS06)は最終モデルが250hpだったが、何とたったの37台しか出荷されていない。300hpも絞り出したSSKL(W06RS)に至っては出荷記録は1台のみ。それも現存していないとされている。それでもガラス乾板には、軽量化のためにフレームが穴ぼこだらけになったレース用SSKLの勇姿と、おそらくSSKを改造したであろう、フレーム前側に穴ぼこが少ないツーリング仕様のSSKLが2台写っていた。
そして私の記憶にある、あちらのお祖父様はレース用SSKLを3台(!?)と、SSKを4台も持っていた。勿論、滅多に乗らないし、『エル(私)』が触る事も許さなかった。
『はい、知っています』
『あれがな、欲しいんじゃ。儂の上がりはあのクルマじゃよ』
あちらのお祖父様は、アルファロメオの6C1750もグランスポルト・クアトロルオーテもお持ちだ(第2シリーズのアイキャッチでハンドルが取れるクルマ。そのどちらかと言われている)。似たようなクルマだし、同じものが3台もあるなら1台くらいと言いたいが、それはタブーだった。工業製品の世界間移動は修正が大きいのだ。未来のものではないからマシだとも言えるが、危険は冒せない。
また、私の知るお祖父様と違い、こちらのお祖父様はフラメンコやジャズだけでなく、AORなどもお好きだった。老練で老獪な部分は変わらないのに、たぶん精神的に若い。もっと言えば新しいもの好き? と言うのは、以前見せて頂いたのだが、58~60年の『Les Paul』こそお持ちではないが、58年の『Explorer』と『Flying V』をお持ちだったのだ。
お祖父様の年齢で、あの当時にその二つを同時に手に入れる人は中々居ないだろう。何が言いたいかというと、マニアとはそういう人種だという事だ。だから話しながらピンと来たのだ。
「もしかして、あの997はお祖父様が?」
「やっとわかった? つまり、君とのデートは会長が全部ご存知で、むしろ応援して下さっている」
ああ……。
「お祖父様を籠絡したのはエル?」
「たぶんね。だけど会長は君やエルの将来をとても心配しているし、エルも君を心配している。君がエルを心配しているようにね」
「……わかりました。『KOBE BEEF』か……。ホントかなぁ……」
「試してみようよ? 折角スポンサーが居るんだし」
そう言って彼はブラックカードをちらつかせた。それでもさすがに注文は1ポンドをハーフで2皿だ。そこにサラダと少々のパン。マッシュポテトのないところが、レストランのランクだろうか。
「なぁ、エルヴァは将来どうしたい?」
「漠然としてますね? 取り敢えずは大学に通い、そこを出たら、エルと起業ですね」
「結婚は?」
「したいです。赤ちゃんが欲しいから」
「なら、僕を候補に数えてくれるかい?」
「随分、控えめですね?」
「臆病なんだよ」
「自信を持って下さい。今のところ、あなたが第一候補ですから」
「え?」
「ですから、第二候補以下が居ないんですよ。私、全然モテなくて。今までどなたとも、付き合った経験がありません」
「本当に? 嘘だろ? エルヴァ、そっと周りを見てご覧?」
言われずとも、皆んなが私を見ているのは気付いていた。
「君はモテるよ」
「でも、誰からも声を掛けられませんよ? まぁ、背は低いですし、童顔だから犯罪を意識してしまう人も居るでしょうしね」
「そんな誤解は免許証を見せるなりすれば終わりだ。君は魅力的だ。そこは勘違いしちゃいけない」
ドイツ語訛りの英語だけれど、言い回しがお父さんっぽい。それが可笑しくもあり、安心感にも繋がった。わかっている。前々から思っていた。彼との相性がとても良いと。
「フンボルト?」
「うん?」
「大学を卒業して会社を興すまで待って頂けるのなら、真剣に考えますが良いですか?」
「ああ。待つよ。そしてその時、君の横に立つ男は僕だ」
それだけ言えれば十分だ。大学卒業と起業が23歳頃として、その時彼は30歳過ぎか。なのに全然年齢差を意識しないで話せる。運転のある彼はアルコール厳禁だけれど、少し飲みたい気分だ。
「ホテル、取ろうか?」
「え?」
「そういう意味じゃなく、飲酒運転なんてできないから、呑んで眠るだけ。僕も君と呑んで語りあいたい」
それは私もだけど……シチュエーション的にどうなのだ? だけどお祖父様はお認めだし、エルやモードレッドも後押ししているわけだしなぁ。後は私次第って事か……。
結局、レストランを出た後、サンタモニカ・ピア近くのホテルに入った。カードキーを持って二人で夜の街に繰り出した。
寮の皆んなが寝静まった頃、エメラルドが真っ暗な部屋の壁に『エルお姉様』を映していた。眠い目をこすり起き上がると、お姉様がお詫びした。
『夜遅くにすみません。タイミングが悪かったですね』
「いいえ、今ベッドに入ったところでした。何かありましたか?」
『はい、こちらでの仕事を終えたので、そろそろ元の世界に戻ります』
終わったんだ?
「では、お別れに?」
『もありますが、少し誤解を解いておきたくて。お祖父様とお話して驚きました』
何だろう?
「何がですか?」
『そちらのヘラクレスさんのお仕事ですよ』
「あ、あれは『魔女の洞窟』に」
『そう、そこは間違っていません。ですが、お祖父様は別にコーバック・アルカトラスと連絡を取りたかったのではありませんよ?』
「そうなのですか?」
あれ? 会って霊脈の事を……?
『その霊脈の使用料に関しては、お祖父様とコーバック・アルカトラスの使者との間で既に済んでいます。エルヴァちゃんがモードレッドと登校したその日の事ですよ。そこにはモードレッドもエルもエルヴァも居ましたが、その後エルヴァちゃんに逢わず彼女達はアメリカに渡りましたからね。エルヴァちゃん、英霊も元は人です。報告を忘れる事もあります。だからこそマスターがそれを補う方法を考えてあげませんと。ね? それにこの情報一つで、一歩が二歩、二歩が三歩へと他者より遅れます』
「で、では『魔女の洞窟』へは全然違うご用で?」
『そうなりますね。エルヴァちゃん? エルもエルヴァもあなたを支える存在ですが、お祖父様の跡取りはあなただけです。今は差が大きく感じても、10年20年と経てば変わらなくなります。姉達の後ろを歩くのでなく、跡取りのあなたがあの二人とモードレッドを引っぱらないと。そこを気付いて欲しいと、あの3人をあなたから遠ざけたのだと思います。勿論、向こうでの仕事もあったと思いますが。そしてエルもエルヴァも新しい成果を出していますよ』
そこで私はネバダの霊脈のお話を初めて聞いた。ああ、お二人はご立派だ。それに対して私は最初の誤認が尾を引いて、そこで止まっていた。学校の事で頭が一杯になり、お祖父様に確認を取っていなかった。
「お姉様……」
『大丈夫。落ち込まなくていいですよ。今、ここで一つ学んだ。それで良いのです』
「では、お姉様。一体何があったのですか?」
『それはお祖父様に報告してあります。全部話すには時間が足りません。ですから後日訊ねてみて下さい』
「はい」
そうして『エルお姉様』との通信が途絶えた。
『エルヴァ様。何だったのでしょうね?』
「起きた事? わからないよ、エメラルド」
『そうなると、これはお祖父様にお尋ねするしかありませんね』
「そうだね」
そうして私はモヤモヤとした気持ちのままで、ベッドに入り直し目を瞑った。
宝具のアラートが鳴った。鳴ったといってもピロリロリ~ンとかではない。私だけがわかる感覚があるのだ。
それはさておき、そろそろとこちらも考えていたので、モードレッドとともに裏手の小屋に向かった。そこで宝具を開ければ、案の定日本から送られた大量の楽器や機材だった。それらをモードレットと一緒に出して床や作業台に並べた。最後の機材を取り出すと、少し大き目の封筒が出て来た。
何だろうと見てみると、受け取り(宛て先)が私になっていた。なので封を切って中を開いた。出て来たのは、『超大手銀行のATMカード』『パーソナルチェック帳』『デビットカード機能付きのクレジットカード』『現時点での明細証』『暗証番号などを書いたメモ』だった。それも私の分だけでなくエルヴァとモードレッド、モニカさんにミアータさん、リンさんの分もあった。だけど不思議にシロウさんの分はなかった。
「何だろうね?」
「わかんねぇ。アーチャーやフンボルトの分も無いな」
「『エル様』からだと思うけど、どういう区別だろう?」
首を捻る私とモードレッドだった。そして明細証に記載された口座残高を見て腰が抜けた。1億ドル(円で百億強)もあるのだ。こんなバカみたいなプレゼントは、やはり『エル様』以外あり得ない。私達は知らない間に億万長者になっていた。だけどどういう意図だろうか?
小屋の戸締まりをして封筒を抱えて母屋に戻った。当然皆んなと相談するためだ。するとモニカさんが青い顔で震えていた。
「どうされました?」
「ボストンの方に…………」
ピンと来るものがあったので、封筒を見せ、『エル様』からのプレゼントだと話した。
「サプライズも度が過ぎると酷いな」
お兄ちゃんの意見に賛成だ。だけどリンさんだけはシロウさんがドン引きするくらい露骨に喜んでいた。
「だって! はしたないとは思うけど、私達無一文なのよ、士郎? 宝石魔術が金食い虫だとかの前に無一文なの。わかる? あんたの服もパンツも靴も、フンボルトが回してくれたお金や、モニカさんやミアータさんが用意してくれたものなの。これがどれだけ情けないか……わかってんの?!」
おどおどするシロウさん。そこへニヒルな男が一言。
「その男にまともな収入なぞ望むべくもない。それを見越してリンなのだろう。それ以外のメンバーは言ってみれば『エル』からの礼だろうな。ネバダのあそこを押さえたのが効いたのだと推測するが」
「ですが私どもは!」
「わかっている。例えそれが役目であっても、エルヴァやエルに親切な君達に義妹の『エル』は感謝している。あって困る事はないだろうし、投資などをしても良いだろう。君達にも幸せであって欲しい。それが並行世界の総裁の意志だ。汲んでやってはくれんかね?」
それでそれぞれが受け取り、ここに居ない『エル様』に皆んなで感謝した。お兄ちゃんは帰る日が近づいたとポソリと言った。
ベロンベロンになったエルヴァは、歩き難かったヒールを脱いで、肩に掛けるようにして素足で砂浜を歩いていた。時々思い出したように振り返り、僕にキスを強請る。もう何十回しているかわからない。おまけに僕の靴も砂だらけで、そろそろ足が痛かった。
「エルヴァ、部屋に戻ろう。もう、今夜は休んだ方が良いよ」
「ダ~メ。今夜はフンボルトを寝かさない~」
ダメだ……。完全に出来上がっている。それに酔った彼女はやたら可愛い。僕の理性が飛ぶまでの、マージンがもうない。狙っているのか、キスするたびに舌を僕の唇に当ててくる。受け入れて開けてしまえば確実に飛ぶ。だから乙女のように必死になって唇を閉ざす僕だった。
そもそもこういうおかしなキス合戦になったのは、僕に今までステディな相手が居なかったと話してからだった。その時にはもう良い塩梅で酔っていたのだと思う。会計を済ませて外に出た瞬間、突然ジャンプして僕の首に腕を回しキスして来たのだ。そこから『潮風に当たりたい』という彼女の言うがまま、ビーチまで歩き、キスのお強請りが始まった。
淫乱とかそういうのではない。甘えているだけだというのが良くわかる。ルーマニアにロシアにアメリカ。日本に居る家族も捨て去るを得ない状況。不安や不満に寂しさと侘びしさ。それらを僕にブツケているだけ。痛いほどそれがわかる。また、それだけ僕は気を許して貰えたというのも理解できる。だからこそだ。この状況は不味い。
僕の腕を抱く柔らかさ。下から見上げて来るクリクリした眼。大きいな。そして月の明かりを反射する銀にも近い薄い金髪。それが彼女の褐色の肌と妙にマッチする。背は低い。並んで歩くと凸凹だ。だけどスポーツで引き締まった身体はプロポーション抜群だ。パーティドレスから伸びた足はスラリとして長い。小顔だし、頭も身体とマッチして大きくないから、遠目だとモデルのようだ。
なのにしっかり胸もあるしヒップもそれなりにある。その妖精かエルフのような見た目と、ある種の神秘を纏った存在感。酔って魔力が溢れているのかも知れない。月の下を歩く彼女はこの世のものとは思えなかった。
「よぉ、金出しな? 色男」
1、2、3……不味い、5人以上居るぞ……。
「エルヴァ!!!」
エルヴァが男達に掴まった! 急いでエルヴァの下に走ろうとしたら、思いっ切り殴られた。
「フンボルト!?」
僕はエルヴァの悲痛な叫びを聞きながら意識を手放した。
「よくも~~~~っ!」
私は既にドレスから戦闘服だった。防音・人避けの結界も張り終えている。手には血の滴る干将莫耶。私を掴んでいた男の肩から先に腕はない。
「人を襲う時は襲い返される覚悟も必要です。覚悟なさい」
悲鳴をあげて逃げようとする男達。だけど僅か4本の剣が男達の足を貫き地面との抱擁を促した。全員の足止めが成功したのを確認してから、フンボルトを介抱した。良かった。軽い脳震盪のようだ。直ぐに意識が戻るだろう。
「ねぇ? 助けて欲しい?」
「た、助けて! こ、殺さないでくれ!」
「お前とお前は二度とこういう真似をしないと言うなら助けましょう。ですがお前とお前。今までこうやって何人レイプした? 5、4、3、2…………」
「ふ、二人だ!」
そいつの膝から下を切り落とした。
「お前は六人だったでしょう? 内三人を殺している。ですね?」
そうして私はそいつの両腕を三回に分けて切り落とした。
「お前は? 5、4、3…………」
「さ、三人、三人です! た、助けて!」
「で、内一人は11歳の少女? もう、その器官、必要ないですね? 自分で切り落としなさい。それで命を助けます」
「あ、悪魔!」
「その少女も、お前の事をそう思ったでしょう。ほら」
カチャカチャとズボンを脱ぎ、男は私の暗示で、自分のそれを私の投影したナイフで涙を流しながら切り落とした。
「残りの助けるといった二人。それを拾って食え。吐けば殺す。5、4、3、2…………」
「うわぁ~~~ん! だからヤメようって言ったのに!」
「言い訳は良いから早く食え」
そこで後ろから肩を優しく掴まれた。
「ヤメろ、ヤメようエルヴァ。これ以上はダメだ。処置して記憶を消そう。な? 僕はもう大丈夫だから……」
正気に戻った私はフンボルトの胸でしゃくりあげて泣いた。そして泣きながら止血し治癒魔術を使い、記憶を消去した。そしてその場からホテル裏まで飛んだ。ドレスに戻り、部屋に入った。
「シャワー、浴びてくる」
「うん」
私はシャワーを頭から浴びながら泣いていた。
バスルームに消えたあの子の顔を見て泣きそうになった。
エルヴァは本物の魔術師だった。何度か見ていたのに、何もわかっちゃいなかった。あの結界の中で彼女は相手の悪行を過去から全部『読んでいた』。だから裁いた。だけれどそれは行政に任せ司法に委ねるべきものだ。
切っ掛けは僕だったろう。だけど彼女は『読んでしまった』。だから許せなかった。特に11歳の子をレイプした奴に対してはかなり我慢した思う。だってそれはスイスのお嬢さんと同い年で、日本に居るお嬢さんの姉妹と同い年だ。だからこそ許せなかった。許せないから切り落とさせた。
矛盾しているけれど、常識からみたその残虐さも、魔術師としてなら理に適い、同時に明日以降の彼奴等が犯したであろう犯罪を防いでいる。あんな目に遭えば、もう二度と悪事はできない。というかできない身体にされた。そしてエルヴァはそうして血に汚れた自分を嫌悪していた。
どうしてあれだけの魔術師が、あんな『まともな精神』を併せ持つんだ。それは余りにも辛い。もっと非道であっても、あれだけの実力があれば誰からも咎められないだろう。なのにあの子は……困っている人に手を差し伸べ、貧困に喘ぐ人を思い遣り、少ない食材で食べられる料理を考える。
「エルヴァ。何があっても、僕は君の味方だから……」
そう呟きながら彼女が脱ぎ捨てた衣類をハンガーに掛ける僕だった。小さく丸まったパンティーとブラを広げ、ベッドの上に置いた。僕の存在が目に入っていなかったのか、躊躇せず脱ぎ捨てていった。ふむ、無毛だとは気付かなかったなぁ。
シャワーを浴びて酔いも興奮も醒めた。いや、別の意味で興奮している。私は膝から崩れ落ち、シャワーを流しっぱなしで泣いてしまった。
しゃがみこんでしまったのは、自分が信じられなかったからだ。シャワーで流しても流しても内腿にヌルっとした分泌液が垂れて来る。しゃがんだ姿勢なのでどうなっているのか足を開いた。するとシークレットなリップが充血してパックリ開き、その中心にある孔からは透明な液体が止め処もなく湧き出していた。性的興奮の自覚もないのに身体が求めている。
何だこれはと思いつつ、左右対称だなぁとか肌の色の割に結構白いなぁとも考えている。そのお陰なのか涙が止まったので、シャワーを止めてタオルで身体を拭いた。しまった。下着が外だ。そ~っとドアを開き首だけ出して部屋の様子を伺った。ベッドの上にブラとパンツが広げてあった。一瞬文句が出そうになったけど、見当たらないドレスで気付いた。彼が片してくれたのだと。
彼はもう一つのベッドで、下着姿で仰向けになっていた。眠っているのかどうかはわからない。戸惑ったけれど産まれたままの姿で出ていった。するとポソリとこう言った。
「大丈夫かい?」
私を見ないように目を瞑っていた。それでもってその声はどこまでも私を心配してくれていた。もうダメだ。
「灯りを消すね」
そう言って、私は空いたベッドに入らず、彼の横に入った。
「エルヴァ?」
「フンボルト。私が嫌になった?」
「そんな、そんな事ない。僕はずっと君の味方だ」
「なら、ここで眠らせて? 心を許せる人の傍で……」
そうして私達は貪るようにキスをした。彼の舌が私の舌と絡む。姿勢を変え、今度は向き合って抱きしめあった。彼のTシャツが、私の乳首に不思議な感覚を与える。彼はそっと、私の湿った髪を掻き上げ頬を撫でてくれた。だから首に腕を回してキスをした。
「僕は君が好きだ。それはこれからも変わらない。ずっと傍に居て良いかい?」
「あ……」
『うん』というつもりが声にならなかった。耳元で囁いたかと思えば、そのまま耳の後ろから首筋へと彼の唇が移動したからだ。
「好きだ、エルヴァ。愛しているよ」
そう囁く声は肩から左胸に降りた。彼の左手だろうか。男の人特有の少しカサついた指先が私の右腰を優しく撫で、やがて期待に膨らむ右胸に届いた。
「……ァ……」
正直上手い。指先のタッチは断然『エル』だけど、この焦らし加減は好みに合っている。他人の手なのに、まるで自分でしているかのようだ。彼とは相性が良いとは思っていたがここまでとは。両乳首を堪能した彼の唇が脇に流れ腰を吸い、オヘソを啄み、遂にそこに来た。だけど彼は私の内腿にキスしながら、空いた方の手で反対の内腿を逆手に撫で上げた。
見られて恥ずかしいという意識は一瞬だった。いや、恥じらいはある。だけど期待の方が大きい。そしていよいよかと思っても唇は太腿の付け根から骨盤に逃げ、指は一本も生えていないデルタを撫で上げるばかり。
私の左手は無意識に自分の乳首を転がし、乳房を揉みしだいていた。そして右手が性器に行こうとした瞬間に手首を掴まれた。思わず首を上げて下を見たら、いたずらっ子のように笑いながら、上目遣いで女の子のスイッチを吸われた。後は言葉にならない快楽の嬌声を上げるだけだった。その時の私は、かなり強く彼の頭を挟み込んでしまったらしい。
息が落ち着いたところで、彼がTシャツを脱ぐのを手伝った。トランクスはどうしようかなと思ったが、自然と跪いて足から抜くのを手伝った。目の前には屹立するソレ。私の座高だと見上げるようになるのだけれど、私の手の大きさだとコブシ二つ分より長く、たぶんくびれたところより先が飛び出る。それに握っても指が回らないほど太そうだ。
凄い。『エル』が着けていたのより大きい。ロシアで私が着けていたのよりも。『こんなの入るの?』『収まるの?』『内臓が押し上げられる?』なんてコトを一瞬で考えてしまった。考えてしまって『怖い』と感じているのに、その見上げた先にある彼の顔に対して頷いていた。
わかっているよ。どこがどう感じるのか。どの辺が良いのかも。右手で輪を作り先寄りな部分を握ってあげる。中指は傘の膨らんだ部分。小指と薬指は茎の部分を少し強めで。そして人差し指で先から滲み出ているカウパー腺液を広げ、親指で一番敏感な裏側を軽く撫でてあげる。そうしながら全体で前後する。
勿論、左手も遊んでいない。彼の内腿や尻タブを触れるか触れないかのタッチで撫でる。脛毛は処理してあるし、陰毛も刈り込んであるので清潔感がある。お尻もスベスベだ。だから女の子のと言うか、私が倫敦で『エル』に教えられた部分に触れた。それは腰骨と肛門の間の何もないところ。そこに指先全部を触れるか触れないかのタッチで、広げたり窄めたりするのだ。おお、彼の膝がガクガクしてきた。男の人でも感じるんだね、ここ。
彼の期待も高まっているのを感じる。だから先っぽにチュッとキスをしてから、それを右手で上に向け、舌を伸ばして裏側の部分をなぞって上げる。左手で『エル型』には着いていない袋の攻略に取り掛かった。中の塊はかなりの急所だ。だから優しくそっとそう~っと包むように撫でてあげた。
そこからおもむろに先っぽ全体を口に含んだ。上から彼の感嘆の色が濃い喘ぎ声が聞こえた。やっぱり相性が良い。彼の性器から発する香りが全然嫌じゃない。だけど大きい。口の中が一杯だ。歯を当てないように唇でカバーしているが、口中に舌を動かすスペースが残っていない。私の口が小さいのもあるだろうけど、これだと満足できないだろうな。
それでも彼は無理に喉へ押し込もうとはしなかった。ここまでの事でわかった。彼は付き合った女性こそ今まで居なかったろうが、きっとお金で買った女性との経験はそれなりにある。なら無茶はしないと思う。私は口から彼のものを引き抜き、ベッドで仰向けになった。
「フンボルト、来て」
「ああ。あ、でも避妊具を……」
「今日は安全な日だから」
コクリと頷いた彼は私の股間をまず自分の指で確認した。しっかり濡れて広がっているとわかると私の足の間に入ってきた。それでも入り口が小さいようで何度か滑っている。だから指先で導いてあげた。
「痛かったら、言ってね?」
「うん。たぶん大丈夫だから」
だけどむっちゃ痛かった。痛い、痛い、痛い! しまった! 私、日本の彼女と違って処女なんだ?!
終わった後、彼は感激していた。かなり大胆な事をしていたから、夢にも処女とは思わなかったらしい。良かったね。
「この子は寂しがり屋の甘えん坊ですから。大切にして下さいね?」
「ああ。僕はエルヴァを一生大切にするよ」
そうしてキスを交わし、後始末をしてから眠りに就いた。痛かった……。拭ったティッシュは真っ赤だし、シーツも汚してしまった。この後、『エル』は体位を次々変え、5~6回は責めて来た。だから気を失うほどの絶頂まで体験したし、自分からしがみついて腰を振ったりもした。
彼も頼めば二~三回戦は行けるだろう。ノッたら四回戦はイケると見た。だけど今夜は私が無理だった。フンボルトがこんな巨根の持ち主だったとは……。