僕は尋ねた。一段落ついたところで軍扇を持った男に。爽やかな、でもどこか怜悧な部分がある、まさに軍師と言ってよい存在。不思議だが英語でも日本語でも言語が通じた。聖杯の知識でなく世界の知識なのだろう。
「中原に覇を唱えんとした者達も、政敵を斃して来た者達も、民をここまで虐げる事はなかった。もしあのような者達が我らの遠い子孫と言うなら余りにも悲しい。何の血の繋がりもないのであるなら、それこそ未来のために斬り捨てねばならない。あれは人の所業ではない」
男は怒りに震えていた。歴史の事実を知ったのだろう。
「人が人の内臓を売って良いものか。兵卒でない女子供まで囚え、子孫が望めぬ身体にして良いものか。ここまで残虐な事ができる者が人であるとは、到底私には思えない。我らも我らの主も、まずは民を考えた。大義名分はそこにこそある」
そう、ここだ。国民あっての国家なのだ。その民を守るべき国のトップが、不穏分子や革命分子を抹殺するならまだわかる。どの国の首相も大統領もそれくらいはして来ている。あのアメリカでもこの僅か200数年、初代から第43代までで、抹殺命令を3千回近く出しているという(ほぼ実話。44代のオバマは1人で3千以上出していると一説にはある。つまり3千人以上を大統領命令で殺したという意味だ。その方法はドローンに拠る毒注射針の発射だとか)。
為政者が民を顧みなくなった時、そいつは必要か? まして天命でも易姓革命でもなければ、選挙でもない。日本軍怖さに『大逃亡』をしていた奴らだ。中華民国とすり替わった偽物だ。最初から、前の政権から民を守るためでなく自分の欲のためだった。その欲を実現する近道が共産主義だっただけだ(すべからく共産主義思想はそうなってしまう。何もかも壊して1からという発想は、旧来のシステムでは上がり目がないと自らの才能の無さを悟っているか、知能が子供だから生まれて来るものだ)。この人物のように戦火に喘ぐ民を救わんと立ったのでは決してない。
「他国と争うのも、自国の民を安寧に導きたいがゆえ。魏王や呉王が息子やかつての仲間と立ったのもそれゆえです。ここは土地が広すぎる。一国で平定するには、余程の傑物か優れた者がそばに居らねば無理です。しかもそれは長く続かない。あの時代と人々の気風が合った『漢』が例外なのです。また三国に分けても地方の太守は独自の権勢を得て民を虐げる。我らの時代からそれは変わっていない。当方の長髯公が怒り心頭なのも、そこにある訳です」
そうだ。あの人物こそが、今も廟に祀られ民の信仰を集めている人だった。
「では、何故それぞれの持場がこうも入れ替わったのでしょう?」
「はて? それが世界の意思なのか……はたまた我らがそう願っていたからか。そこは測りかねるが、少なからず蜀を攻め込む担当は居ないようだ。二千年近く経つのに成都は人気がありませんね。ああ、あなたの問の真意がわかりました。『何故権力を得れば自分の懐を温める者ばかりなのか?』ですね? それが我らの業と言いたいが、偏に貧しいからでしょう。管仲が残しています。『倉廩満ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る』と。詰まるところ富が偏ってはいけないのでしょうね」
僕は彼の言葉に頷いた。この色白でどこか線の細い美丈夫こそが有名なあの人物だった。それも正史の方でなく演義などの要素を強く感じた。それが信仰なのだろう。解放軍の遺骸が次々と大八車のような貨車に積み上げられ、スウッと消えていく。
「ど、どこへ消えたんだ?」
「あれだけの躯をこの世に残せばあなた方も困りましょう。二度とこの世に生まれぬよう世界の外で廃棄します」
時間にして約6時間。ビデオのテープはまだあるが、バッテリーがとっくに切れていた。今回ノイント老が投入した人員は千人強。中国各地に散らばっているが、使い魔の通信ではどこもこんな感じだという。ノイント老の後押しでロシアは南下している。東トルキスタン開放を大義名分として。
歴史上モンゴロイドとコーカソイドが同一の国で平和に暮らしている実例を持つのは、ほぼロシアに限られてくる。例外もあるだろうが、大国となるとロシアだけだ。そんなロシアがウイグル族を組み込むのが無難だろう。山間部はインドが主体となり、それ以外の長江下流などはアメリカやイギリスが好きにすればいい。
それはともかく、恐ろしいのはこれだけの大事件なのにアメリカなどには、まだ情報が伝わっていない点だった。つまり領事館も大使館も事件を知らないのだ。この虐殺はある種の固有結界の中で行われている。となると民衆の中から誰かが立たないと、各国の草刈場となるのは時間の問題だった。だけどその心配は必要ないと彼は言った。何か手があるのだろうか?
朝食を終え、一服付いたところでテンプラ・パーティーの買い出しに出ようとした。そこでエルにこんな事を言われた。
「ちょっと別口でお買い物したいものがあります。申し訳ありませんが、フンボルトを借りていいですか?」
「え? フンボルトを? どこへ?」
「楽器店」
ああ、そういう意味ならわかる。彼が嫌でなければ、キューピッドでもあるエルの頼みを断る理由はない。なので彼女のレシピを聞き、食材は私とシロウさんとで買いに走った。モニカさんやミアータさんを伴わないのは、日本人街に行くからだ。ある程度レシピをお教えすれば90%の人に美味しいと言わしめるアインツベルンのメイド機能も、その先の領域は個々人で磨く以外にない。
何だそんなものかと言わないで欲しい。むしろ磨ける余地があり、磨けばそこに至る可能性がある事にこそ、お祖父様の腕の高さの証明なのだから。それでも和食の壁は高かった。マアエモ・ママやルオン・ママを『エル』がお祖父様から買い取れたのは、そのホムンクルス育成能力の高さを買われたからだった。リンさんの体調は戻ったが、大事を取ってパミちゃんとお留守番だった。
少し違和感のある組み合わせかも知れないが、実は私とシロウさんはこのひと月の旅で、よく一緒に買い物に出ていたのだ。それはリンさんとシロウさんのペアと私とフンボルトのペアで、レシピを考えるのが概ねシロウさんと私だったからというのがある。またシロウさんは私の『兄』の異世界同位体であり、『弟』の異世界同位体でもある。なので妙に異性を意識せずに済むという点、更にフンボルトもリンさんもオトナな点があった。だから交代しての料理が被らないよう、また皆んなが飽きないよう、相談しながらレシピを考えられたのだ。
シロウさんの運転するアコードが、トーランスの街に入った。さっきまではエルとフンボルトのジオ・トラッカーが前を走っていたが、彼女達はいつの間にか消えていた。多分、405号線に乗って州道2号に向かうのだろう。サンタモニカでのデートを思い出して顔がニヤけてくる。
「何だか楽しそうだな?」
「はい。お料理を考える時ってワクワクしませんか?」
「ああ、するする。それで副菜は何を考えたんだ?」
「私の案が焼き茄子で、エルの案が南京の煮付け。そこに酢の物をどうするかですよ」
天ぷらの種はエビとサーモン、ナスとカボチャ、それとブロッコリーなどだ。アメリカだとこの辺りが限度になる。イカ天や豚天があっても面白いが、イカは魚介の弱いアメリカではキツイ。豚も量がムダに多いし、それなら衣を付けずにステーキを丸々揚げる方が良いだろう。今日のコンセプトとは外れるけれど。
「酢の物か。キュウリとニンジン、それからブロッコリーの芯はどうだ? ナスとカボチャをテンプラとは別に、焼き茄子や煮付けにするのもわざとだろ? 短冊でなく千切りにしてゴマをタップリ振って。どうだ?」
「それですね。それなら米酢でなくリンゴ酢でも行けます」
「だろ? そこにご飯と豚汁だ。メインはテンプラなんだから、極端に言えば豚汁も少々の豚とネギだけでも良い。欲しいのは糠漬けだなぁ」
「あったら驚きですが、まぁ、何かお漬物は欲しいですね」
そうして私達は日本の食材なら『ここ』というスーパーにクルマを滑り込ませた。シロウさんも私もこの界隈の日本系スーパーではほとんど会員になっていた。最初から何を買うか決めていたので、お買い物はササッと済んだ。
「君と買い物に来ると本当にあっという間に終わるなぁ」
シロウさんは学祭で士郎クンを見ていた。横に立つ桜ちゃんも。ロシアで会った美遊ちゃんの士郎クンにもショックを受けたそうだけど、桜ちゃんと士郎クンには本当に驚かされたらしい。だけど普通に見える彼も聖杯戦争の犠牲者であり、桜ちゃんともども父や母が見守っている事を教えたら、何とも言えない、だけどとても幸せそうな顔をしていた。
『桜のウエディングドレス姿を見たんだよ。あれが良かった』
そこで私は初めて美人コンテストの話を聞いた。ドレスを用意したのは『エルヴァ』達だろう。リンさんが泣いた話も聞いたから間違いない。そのドレスの由来は私も記憶にある。
『シロウさんにはサクラさんという選択肢はなかったんですか?』
『君にとっての彼と同じで家族だった。妹のように思っていたからなぁ。だから恋愛感情はなかったよ』
『気持ちにも気づかず?』
『学生の頃は……ホント、朴念仁だ。今ならわかってあげられたのにな』
『でも、リンさんが居るから応えられないですよね?』
『うん。でも宙ぶらりんにはしなかったと思う』
シロウさんなりにオトナになっていた。今なら同じ失恋するにしたってサクラさんも納得できるだろう。何とか元の世界に戻してあげたい。
お買い物を済ませた私達は、コートでお寿司のお弁当を頂いた(1998年からこのスーパーは出店しているが、白人が滅多に入らないスーパーなので、そこそこ良いお弁当がリーズナブルに手に入ると知らない人が多い。この一角に珍しい豚骨の旭川ラーメンの店が入るのは2006年から)。
お昼には少し早いが、今のうちに食べないとハンティントンまで保たないからだ。トーランスからハンティントン・ビーチまで40kmはある。ロサンゼルスはやたらと広いのだった。
トラッカーの助手席には、フンボルトが乗っている。目指すは『Gibson』の専門店だ。初デートの帰りに寄ったという。エルヴァには楽しい思い出だったのか、フンボルトとよくそのお店に行くのだそうだ。だからあんなにギターが増殖していたみたい。まぁ、『エル様』からあんなに頂いているのだし、霊脈の件もあるから100本でも200本でも好きなだけ買えばいい。だけど本日のお目当ては、後年ちょっとやそっとじゃ手に入らなくなる代物だった。
おそらくこの2004年が『Gibson』の全盛期だ。『Historic Collection』は充実し、『Reissue』も1999年の『40th Anniversary』の流れを汲んだ、ある種の完成形だった。そんな中から今年限りでレギュラーから外れる『Les Paul Custom』の『Alpine White』と『Les Paul Standard Limited Edition』の『Sante Fe Sunrise』と『Pacific Reef』に『Manhattan Midnight』の4本を手に入れようと来た訳だ。
白いカスタムは前々から欲しかった。今年を逃せばもう新品は手に入らなくなる。リミテッドエディションも今年だけの限定で、赤いバーストの『Sante Fe Sunrise』と青いバーストの『Pacific Reef』『Manhattan Midnight』はどれもバリトラだ。ヘッドのインレイも独自のものでカッコいい(翌年からも『Manhattan Midnight』の『Limited Edition』だけが数年続いたが、トラ杢がバッチリ出ていたのは2005年までだった。『Gecko Burst』やら『Class5』、『Ultima』や『Elegant』、シグネチャーだけど『Blackwater』などなど面白いのがたくさん出ていた年だった)。
「エル、白いカスタムはわかるけど、この赤いサンタフェサンライズと青いパシフィックリーフはコレクションなのかい?」
「『Pacific Reef』がフンボルト。『Sante Fe Sunrise』がエルヴァ。『Manhattan Midnight』が私。ご機嫌取りにね」
「ああ……。彼女、喜ぶよ。君と言い争いになった事を随分気にしていたから。だけど、僕にまで?」
「うん。自己満足だけど、そうさせて? フンボルトには感謝しているの」
「そうかい。なら遠慮なく頂くよ。けど君ってそんなにレスポール・マニアだったんだ?」
「ストラトも好きだけど、あれはあの1本で十分かな。クリスマス頃にはフライングVかな?」
「まだ買うの?」
「今年のは出来が良いからね」
そして会計を済ませ、ケースをクルマに積み込んだところで、斜め向かいに中古専門店があるのに気付いた。
「フンボルト、あそこは?」
「セカンドハンドだね。行ってみるかい?」
それでクルマを回して入ってみた。するとそこは文字通り玉石混淆だった。90年代の『Classic Premium Plus』のようなバーストもあれば、塗り直した塗装の下から前の色が覗いているテレなどもあった。アコースティックやホロウはエルヴァに任せるが、ソリッドには面白いものがチラホラある。
「へぇ~。これは凄いな」
入って直ぐにフンボルトが呟いた。彼の視線の先には、1997年製の『'58 Reissue』が数本あった。どれも『Custom Shop』製だ。これが真っ先に目に入るとは。1本はハニーと言うよりタバコ。とても濃いダークサンバーストで、その見事なトラ杢より、あちこちに入っているフレックの方がカッコいい。
この杢目とは別に入るスジがその昔は嫌われ、それを隠すためにフレックを外側になるようブックマッチして、濃いめのサンバーストに塗っていたという。それでチェリーが退色してタバコ色のダークサンバーストになったという。だからダークサンバーストやタバコにはフレックが入っている場合が多い。
そしてフレックがあるという事は、トップがハードロックメイプル(※)という事だ。なのでダークサンバーストは反応の早い、音の良いモノが多いと言う伝説になった。ただし問題点はある。それはネックの握りが太いところだ。人によっては『'59 Reissue』でも太いという。そういう人は『'60 Classic』しか選択肢がない。それがあって杢目の綺麗な90年代の『'60 Classic』は取引価格が少し高いのだ。勿論『Custom Shop』の『'58 Reissue』や『'59 Reissue』の方が元から高いのだが、レギュラーモデルでない『'60 Classic Premium』なんかもエラく高い(昨年から杢目のほとんどない『'58 Standard』も出ていた)。
※)ハードロックメイプル。メイプル材には幾つか種類があり、ギターに使われるトーン・ウッドのメイプルは、主にハードメイプルとソフトメイプルに大別される。その中で東部で採れるハードメイプルを特にハードロックメイプルと呼ぶ。とても硬く加工し辛いが、その分音の反応が良いので目立った杢目が無くとも価格が高い。本来のカーリーメイプル(フレイムメイプル)やバーズアイメイプルなどの杢目は、このハードメイプルの方の数%に現れる特徴を指す。対するソフトメイプルには、キルト模様が時々現れる。トラ杢も出る場合が多いが、家具でなくギターのトーンウッドとして使うなら、ハードメイプルの方のカーリーメイプル(フレイムメイプル)とは分けて考えるべきものだ。
そしてハードロックメイプルにはフレックという虫食いのようなシミが避けて通れない。それを隠すための職人技が経年変化とともに様々な色合いを生んだ。つまり50年代のレスポールは全部ハードロックメイプルなのだ。そして再生産の杢目の美しいモデルはほとんどソフトメイプルだ。だからこの『'58 Reissue』は現代の伝説でもあったのだ。
フンボルトは単なる音楽好きの楽器好きではない。家具職人の息子として、きちんと木材を見ていたのだ。
「お金に困らないなら全部買えば? ただし後でエルヴァに笑われても自己責任だよ」
ついついフンボルトをチラ見していたら、そんな風に言われた。だけどフンボルトってこんな話やすいタイプだったっけ? 真面目なところも冗談に上手く乗るところも変わっていないけど、エルヴァと付き合うようになってから? 妙に女の子の微妙な心理がわかっているように感じる。エルヴァ、本当に良い人に出会えたね。勧めた私が言うのも何だけど、こういう化け方をするなんて思わなかったな。
「何? 僕の顔に何か付いている?」
「ううん。前より格好良くなっていない?」
「う~ん……。もしそうならエルヴァのお陰かな?」
サラリと言われたぞ。クソ~~。
「僕もエルヴァも心配しているんだ。君は『いい人』が見付かったのかい?」
「居ると言えば居ますよ。遠距離恋愛だから3週間くらい逢っていないけれど」
「え? いつの間に?」
「スイスに戻って直ぐかな? ちょっとした出張先で」
お互いのヴァージンを交換した。結局セックスは全部で10回もしていない。だけどその全部で彼の精子は回収できた。
『どこに行くんだ? また逢えるんだよな?』
『家の魔術に関わる私用です。3~4年経ったら逢いに来ますから。それまでにお金を貯めておいて下さいね?』
いや~、ミイラ取りがミイラになったというか。結局惚れたら負けだね。大王には正直に全部話したし、お祖父様にも打ち明けた。敗因はシンクロ率を上げ過ぎたところだ。なのでスイスに戻ったら即倫敦だ。つまり私が彼に早く逢いたい。それに……あれだけ手伝ったんだから、逆らうアーチボルトは居ないだろう。婚約解消したソフィアリ家は知らないが、大王(英霊)持ちのウェイバーに面と向かって手を出す者も居ないと思う。それでも心配だ。
「エル……君、本当に恋をしているの?」
「……はい」
「君のお眼鏡に適う相手って誰だろう?」
「ん~……未来の『ロード』?」
結局、クルマには10本近いギターケースを積んだ。何を買ったかは後のお楽しみだ。その後、別のお店でケンタウルスのオーバードライヴを買って、軽く食事を摂ってからハンティントンビーチに帰った。この頃はケンタウルスの新品がまだ売っていたのだ。
ハンティントンビーチのとある交差点で信号待ちしていたら、一つ前の交差点でジオのトラッカーが停まっていた。エルとフンボルトだ。帰りはほぼ同じだったらしい。前庭にクルマを入れたらフンボルトがシロウさんを呼んだ。
「シロウ、こっちの荷物を僕と運んでくれ。食材は彼女達に任せよう」
そのクルマに満載のギターケースを見て呆れた。
「エル、あなた?」
「ここはアメリカです。パーッと行かないと」
その気持ちはわからなくもないけれど、彼女は一体何本買ったんだ!?
食材を運んで仕分けしつつ冷蔵庫に入れ、途中で買った本をパミちゃんに渡した。リクエストは『The Great Gatsby』。アメリカを代表する名作のひとつだけれど、12歳の女の子が読むような小説なの?
「あれは皆んなが皆んな上っ面のスペックばかり見る中で、読者とニックだけがスペックでなく、その人そのものを見るから面白いのよ」
こんな事を、本当なら6年生の女の子に言われてしまった。思わず顔を見詰めたら、『あなたはあなたのままでフンボルトにロックオンしてれば良い』だって。女の子ってどこかで急にオトナになる。そう感じた一番最初の体験がこれだったと思う。
その後はシロウさんやエルとともに、テンプラ・パーティの仕込みを始めた。ケリィのところへはとっくに電話済みだ。そして夕方6時にリョーコのホストファミリーが全員やって来た。ケリィの妹のケティの相手は、パミちゃんが買って出てくれたので助かった。
この時に私はリョーコとアメリカで始めて会ったのだけど、その顔は覚えていた。2年B組『鈴木凉子』。恐ろしい事に弓道部の子だった。当然あちらも私の顔をまじまじと見ていた。日本の『エルヴァ』とは別人だとエルが話していたらしいので、何とか誤魔化せている状態だ。だけど仕草とか細々したところはマンマ『エルヴァ』と同じだろうから違和感があるだろうなぁ。
私は私で別の違和感を覚えていたのだけど。それはリョーコとケリィの服装だ。ここが日本人と判断すべきか、そういう私の知らない校則があったのか、それは不明だけれど、何とリョーコとケリィは学園の制服姿だった。ケリィはリョーコから予備を借りただけだと思うけれど、人んちのパーティに誘われたからと制服なんて着て来る?
確かに日本国内では、学生の冠婚葬祭の出席に制服は認められている。だけどブラウスの襟にある臙脂の縁取りと、胸元を飾る金糸の飾りが入ったリボンにとっても違和感がある。今日のようなパーティは良いとして、『葬』は無いでしょう?
対するケリィは日本の文化の一端に触れた気分なのか、この子にしては珍しいくらいテンションが上っていた。それを家族のみならずミアータさんやモニカさんもニコニコと見守っていた。
「私らも着替えてこようか?」
「何、その虎穴に入って大暴れか、火中の栗を思いっ切り頬張る図式は?」
「エルヴァ、それ面白い~」
とは言え、ホームシックに『鈴木凉子』さんがなったと聞けば、なるほどだけれど(それくらい大人しい印象しかなかった)、先程からリョーコさんの笑顔が絶えない。そのくらいテンプラも他のおかずもウケていた。そして最後の最後は3ポンドの『プライム』クラスのリブアイを素揚げしたものを出した。いわゆる揚げステーキだ。
勿論揚げる前に油を濾して、100%ヴァージンのオリーブオイルを足している。味付けは塩と胡椒のみ。ちなみにアメリカに於ける牛肉の等級は『プライム』『コマーシャル』『チョイス』『ユーティリティ』『セレクト』『カッター』『スタンダード』『キャナー』の8種類で、『プライム』が最上だ。
ところでリブってどこだと思ったあなたは正しい。リブはスペアリブのリブで、要はアバラの肉、バラでありカルビの事だ。そのリブロースにリブ芯という赤身の肉が入っている。この柔らかな部分がリブアイとなる。アメリカでは、ヘレとサーロインを含むTボーン(T型の骨の左右にヘレとサーロインがある。切り方の違いでそうなるのだと考えればいい)と並んで人気のある部位だ。
マニアは芯の周囲のスジや固い部分、いわゆる『かぶり』を楽しめるリブロースの方を好むが、一般的には柔らかいリブアイの方が好まれる。ただし火を通し過ぎると固くなる。アメリカでレアが好まれ、バーベキューで『ダディ・クール』となるのは、このリブの焼き加減が難しいからだった。
以前も話したが、アメリカのバーベキューは焼肉パーティではない。何かを摘みながら、ダディが味付けや火の番をして、メインの肉がじっくり焼き上がるのを待つ事をいう。
そして本日のメインはそのリブアイの素揚げだ。表面はカリッカリ。中はピンクで肉汁たっぷり。ステーキソースも用意したが、敢えてこの肉を薄切りにした。まるでローストビーフのようなこいつをわさび醤油で頂くのだ。
これを一口運んで皆んなが美味しいという。その言葉に釣られてリョーコも自然と英語で美味しいと言った。しかもケティのお父さんのステーキ肉話に耳を傾け、普通にヒアリングしていた。お漬物はイマイチだったけれど、南京の煮物と焼き茄子はあっという間に売り切れたし、酢の物も豚汁もウケていた。
「最後の最後でステーキに持っていかれたな」
「和食ばかりをゴリ押ししても。そこですよ、シロウさん」
「だな。けどこれだけの肉を丸々揚げるって発想が凄い」
「テンプラは蒸し料理です。なら衣を付けない揚げ物は? ある種のオーブン料理ですよ」
「熱の観点から言えばそうなるよな。俺、やっとアメリカが見えた気がするよ」
「そこですよ。本質から知らないと入れないタイプか、表面から少しずつ知って輪に入るのか。誰もが美味しいと思えるものは国境を越え、それを称える言葉は言語の壁を壊します。シロウさんがすべき事は誰かを救う事でなく、困った誰かを救おうと動ける人を増やす事。そういう風に考えられる人を増やす事です」
「まったく、君の言う通りだ」
それでも宗教上食べられないものなどが出て来る。だけどそれは別の素材でどうにかなる。重要なのはもっと大きく全体を見て本質を掴む事だと思う。そして最近のシロウさんは見違えるほど変わった。
さて、洗い物や後片付けも終えれば、後は交代でお風呂だ。そしてお風呂からあがったら、フンボルトとともにエルに工房へ呼ばれた。そこで何とギターをプレゼントされたのだ。それも限定ものの『Les Paul』で赤いの(Santa Fe Sunrise)と青いの(Manhattan Midnight Blue)と緑色(Pacific Reef)。3色3人で持とうと言ってくれた。それはパミちゃんの事で揉めた事に対するエルからのお詫びだった。だからありがたく頂戴した。
この『Limited Edition』には、この他に『Black Cherry』と『Trans Amber』があったと思う。つまり5色展開だ。『エル』なら迷わず5色買いだろうけど、皆んなで分けようというところがエルだろう。何より彼女の目玉は2本ある『'58 Reissue』なのは目に見えている。どちらも『タバコ・バースト』で1本は杢目とフレックスが凄い。おまけに新品同様だ。もう1本は杢目も弱く、ところどころ剥げていた。こちらが普段遣い用だろう。米国に置いて行くと睨んだ。
その次が真っ白(Alpine White)な『Les Paul Custom』。これは前から欲しいと言っていた。スイスにあるという『'59 Reissue』は、これで観賞用に決定だろう。次に私の『Studio』に触発されたのか、彼女も『Studio』を手に入れていた。どれも程度の良い中古だ。それも限定ものばかり。
この『Studio』は昔から限定ものが多数あり、メーカーのカタログに載っていない、ショップがオーダーした限定ものも数多くあった。新しいところなら私が買ったような、杢目の凝ったゴールド・パーツの『Premium Plus』だけれど、これは『Premium Plus』でない『Studio』もあれば、『Premium Plus』な『Standard』もある。そこで彼女は2002年頃の『Studio』にしか存在しないメタリックカラーのを手に入れて来ていた。ブルーにグリーンにイエロー。どれもエボニー指板でポジションマークがない。これはカッコいい。
「こんなのあったんだ?」
「知らなかったでしょう? 1998年頃のジェム・シリーズに『P-90』でないノーマルサイズ・ハムバッカーのがあったりしたのと同じで、このブルーとグリーンには普通のインレイのタイプもあります。イエローの代わりにシルバーだったかな?」
そう言いつつ開けてくれたケースにはダブルカッタウェイの『Studio』が入っていた。これも1998年頃の『Standard』と『Studio』にしかなかった希少なタイプで、確か『Studio』の色はこの緑の他は赤とサンバーストがあったと思う。そのドットポジションは24フレットも刻まれていた。『Standard』はブリッジとテールピースが別体だけど、この『Studio』はバーブリッジだ。オクターブが狂ったらチューニングが合わないよ? けれどエルにとても似合うと思った。
それと驚きなのがパイン材の『Telecaster』だ。『Fender』でなく『Nobrand』で、ピックアップが『Jazzmaster』だった。普通このパターンだと、コントロールパネルとリアのピックアップとブリッジがノーマル・テレのシンラインが多いと思う。フロントに『P-90』を選ぶか『Charlie Christian』選ぶか、『Filter'Tron』を選ぶかは好みだろうけど、フロントもリアも『Jazzmaster』のピックアップというのは珍しい。おまけにシンクロナイズド・トレモロが付いた左用だし。『Les Paul』は全部右用だ。左右で分けるのはアームがあるかないかなの? ちょっと謎だ。
タワーから双眼鏡で覗くと、上海の海上が煙に包まれていた。停泊していた船が全部燃えているのだ。いや隣の市の港にも煙が昇っているのが見える。きっとこの国の港の船全部が燃えているのだろう。宝具……なんだろうな、これ。『連環の計』?
学園祭からこっち、一部の思考をこの金髪なお姉さんのナイス・ボディに入れてこちらの世界に残っているが、思った通り『彼女』は私にボディガードを付けてくれていた。『百貌』と『呪腕』のハサンだ。『百貌』は自分でも契約して使っているので、その能力はわかっているし使い勝手も良い。だけど『呪腕』は初めてだった。
「エル殿」
エルでもエルヴァでも良いけれど、日本とアメリカの彼女を思って、ここ半年以上私は『エル』で通している。だけど日本の『エルヴァ』が、自分のセイバーに『エル』と呼ばせているのは面白い。どうも剥離直後は『私』という意識が強かったからだという。元が47番。今は『エルヴァ』として確立しているが、サブセットだったので当初は自我が少し曖昧だったのだ。
「どうでした?」
「周瑜殿や陸遜殿とは連絡が取れました。内陸の方もほぼ平定が済んでいます」
「わかりました」
『彼女』の計画だ。この……どこの並行世界でも人類の敵となる国家と政権。独裁政党を解体するのでなく、全土を覆う固有結界内で幹部を入れ替えるなどというおよそ考えられない方法。明日からの指導者は曹操や劉備という錚々たる面子に入れ替わって、人民が2世代は交代してから元の世界と融合する。
英雄は竜や化け物を斃したから英雄になるのではない。それだけなら一時の偉業でしかなく、やがて褒め称える噂も萎むだろう。後世に残るのはその偉業が、その時代の大衆に大いにウケたからだ。つまり役に立った。ここを見逃すと英霊は見えて来ない。
とはいえ、それら全てを支配下に置き、こんな結界内と結界外が混ざり合うような混沌とした広大な空間を創り出すなんて。ミャンマーでもそうだった。メキシコに固有結界のエキスパート(お兄ちゃん)を送ったから見えた事。こんな巨大な魔術は知らない。
そして私と違い、血を流す事を厭わない。だけれど辻褄は合わして来る。7人のトップを排除したなら7人の『誰か』にすげ替える。悪は確実に滅し、国民には不安を与えない。それで組織を内部から、トップダウンで構造改革する。私の洗脳(掌握)とは全然違うのに、その効果と結果は似て来るのが想像できる。並行世界の『私』。面白いじゃないか。
だから意識の一部を使っていた人形に残し、この世界に置いていった。当たり前だ。あの『諸葛孔明』や『龐統』が、魏の『荀彧』『賈詡』、呉の『魯粛』らとともに、ハードランディングに見せかけたソフトランディングで経済を安定させると父に言い切ったのだ。この情報を得て、香港や澳門に投資しない者は居ない。実際それがあちらの助けになるだろうし、見返りは大きい。香港に進出している西側も、短期の乱高下はあってもゆくゆくは安定する。その時、どれだけIT株を『買い』で動けるかだ。
その他の細々した銘柄もそうだ。中でも一度は株価暴落で喘ぐのが目に見えている、この国に進出している米国企業と日本企業の株は狙い目だ。この情報は『彼女』からお祖父様にも流れている。買い支えに入るであろう、香港側のユダヤ資本の富をこちらが奪うチャンスだった。どうせ持って帰れない『数字』だ。この際だからとことん増やしてやる。
後は国民や民衆に蔓延る『ルサンチマン・プロパガンダ』や『恐怖プロパガンダ』に『ストローマン・プロパガンダ』『レッテル貼り』などなどの嫌政・諦観ムードの素となるものを取り払い、『自由化に於ける輝ける未来』を『信じられる』よう示さないと行けない。ここのロシアは、お祖父様の後押しがあっても私の世界ほど儲からないだろうなぁ。だけどその方がバランスが良いと『彼女』は考えたのだろう。パミちゃんをアメリカで育てるとなれば、そうなるのも仕方ないか……。
ククク……欧州はエルヴァちゃんで北米はパミちゃん。じゃアジアはおチビちゃんやクロエちゃんか。どんな『三国志』だ。だけど、本当に面白い。私は双眼鏡から目を外すと、直ぐさまホテルに帰り香港に旅立った。
目を瞑った飛行機の中で、睦み合うアメリカのエルヴァとフンボルトが視えた。本当に好きだな、あの2人は。と同時に、あの2人が結ばれるように仕向けた私ですら、『彼女』に部分的ではあるが操られていた感は否めない。日本のエルヴァにも彼氏ができた時点で気付いた。『現象』となった『彼女』は、フンボルトとの子を宿していたのではないか……と。それを諦めなければ、パミちゃんを救えなかったではないか? 私はそれをほぼ確信している。
日本のエルヴァの子を先達として、エルヴァちゃんの子に道が拓けたならと漠然と考えていたが、どうやら『彼女の思い』は、そんなヌルいものでは無かった。アメリカのエルヴァ、あの子が将来産む子はそれこそ『曹操』であり、『蜀』も『呉』も飲み込むのかも知れない……。
しかしそれは良いとして、さすがは私の一側面であるエルヴァだろうか。それはきっと『現象』となった『彼女』の一側面でもあって……否、偶然だが『彼女』とエルヴァはとことんまで『似ている』のだろう。だからあの子は絶大なまでの『加護』を得つつ、思う存分にフンボルト君との愛を育んでいた。
ここまで彼氏に尽くすか……? そんな風に私なんかは疑問が先立つが、『誰かの役に立ちたい』という『私の願望』と『お兄ちゃんから引き継いだ思い』が見事にフンボルト君への愛情に転化されていると感じた。それはきっと1人の女の子としては幸せな形態だろう。ただあるがままにこの世界を受け入れ、2人の愛のみを信じて突き進めば幸せしか来ないのだから。
確かに私の側面でもあるので、変態的な行為も時々ある。そもそもフンボルト君があなたになって、あなたに抱かれる事を良しとする点に疑問を持たないのか? それも『彼女』の影響だろうに。かつて私のお祖父様は、女性の心を知るために、メイドのホムンクルスと意識を置換し、『フリューゲル』という『義姉』を産んだ。
この『義姉』は、今は私のママと並ぶメイド長だけれど、そこに至るまで『大婆』の下で厳しい幼少期を過ごしていた。その『大婆』から教えられ、お嬢様である私が義妹である事も知っていた。それでも腐らず、どこまでも私の忠実なメイドたらんと自らを律していた。だから私はその能力を買ってメイド長に抜擢した。身内の愛情より先に、その能力と心意気に惚れた。そういうものではないだろうか。
なので表向きは『フリューゲル』に『お嬢様』という主人と使用人の関係だが、2人の時は『姉さん』『エルヴァ』と姉妹の関係だった。人はそんな風に様々な顔を持つ。私にしても最大限に『フリューゲル』を大切に考えているが、『姉のイリヤ』とどちらが大切かと問われれば本気で困る。比べようもないものというのはあるのだ。
なのにエルヴァはそれらの優先順位を瞬時に切り替え、フンボルト君だけを考える。それだと恋に溺れた丸っきりそこらの女子高生だ。 だと言うのに妙にバランスが良い。『ああ、そこまでは通るのか』と目からウロコだった。そこで日本のエルヴァに目を向ければ、あの子はあの子でどこまでも姉妹の模範たらんと、生真面目に清く正しい交際をしていてカンブリア紀の完全な化石でも掘り当てたかのような気分だった。
『私』だけでもこれだけ面白いのだ。となると世界の人はもっと面白いに違いない。だから人の可能性を伸ばすのでなく、踏み潰す事しかできない低レベルな為政者は表舞台から消えるべきなのだ。他者を盛り上げたり盛り立てて世の中をより住みよい場所にしようと考えられない馬鹿者。他者を妬み羨み足を引っ張る事しかせぬ愚か者。そんな歪んだ者が明日の未来に必要か? そんな選別をこの世界では『現象』となった『彼女』が粛々と行っていた。
やがて飛行機はチェクラップコク国際空港に降り立った。啓徳空港に降りる前、九龍城砦の上を飛んだあの頃が懐かしい。広東料理と四川や江蘇料理といった中華料理を習ったのも、もう10年以上も前の事だった。この夏にも中国復帰7年を祝う行進があった。
プロパガンダに弄ばれる何も知らない市民はともかく、当時はあの女は頭の中まで鉄なのかと嘆いたものだ。とあるロードの伝手で、後の首相にも会ったがボケばかりで話にならなかった。一国二制度などでいつまでも人々が満足できるものか。来年の行進は絶対に民主化運動へと変化する。そんな程度の事も想像できない事に驚いた。そして昨年(2003年)に起きたSARS騒動。あの国はまたやらかす。あれは間違いなく軍部が絡む人工ウィルスだった。だから私は自分の世界で革命を起こしたのだ。あんな危険な奴らは滅ぼすしかない。
この世界でもチベットの人々や法輪功の人々が虐げられ、内臓を抜き取られている。エンターテイメントで事実無根な小説『悪魔の飽食』ではない。プロパガンダで広まったナチス以上の悪行が、ここでは今も行われている。なのに目を瞑る世界。だから並行世界で先に知っていた『9.11』を起こさせず、真犯人と首謀者をホワイトハウスで監禁した。大スキャンダルになってお祖父様に叱られたが、ザマアミロと思っているだけで、私は丸っきり反省もしていない。その分儲けたからね。それで英国とアメリカの経済が危なくなって、懇意のロードを通して泣きついてきたものだ。
そしてタクシーを拾った私は今こう考えている。『タツタの恨みを思い知れ』と。
そこいらの店に入って『雲呑麺』を食べた。香港のこれはプリプリの海老が入ったワンタンが浮かんだラーメンの事だ。美味しいのは美味しい。値段の割に安いし。だけど頭の中はタツタ・オンリーだった。
「クッソ! タツタを返せ、バカチン共産のウ◯コどもめ!」
店のお客がギョッとしていた。まぁ、金髪碧眼のお姉さんが広東語で中共の悪口を堂々と言っているのだから無理もない。だけどその中共も息の掛かった工作員も来ない。名も知らない三国時代の英霊が苦笑いしているだけだ。
「あなたは?」
「陸抗と申します」
そのピシッとしたスーツ姿の男性こそが名将・陸遜の次男であり、落日の呉を支えた英傑の1人だった。
「あなたが?」
「はい。父や周瑜殿から伺っております」
香港は素早く呉が押さえていたのだ。主に動いたのは程普だという。肝所を足元から固めていくフットワークの軽い重鎮。呉にはこういう人が多かった。なぜ同時代に曹操が居たのだと思うし、蜀の面々をして急に横から入るな愚連隊と正史を読んで思ったものだ。
「蜀は愚連隊ですか?」
「劉邦の血が事実ならそういう事でしょう?」
「ああ……」
彼は見張りでも監視でもなく、私に対して便宜を図ろうとする陸遜と魯粛の思惑だった。この魯粛という人はキレキレの人物で、孫権に漢室は漢室、曹操は曹操と切り分けて考え、助けるにしろ自分が王になるにせよ足元(江南)を固めろと諭した人物だった。そしてそれは現代の経営者の考えと合致する。
ボールを追い掛けるサッカー小僧と、フィールド全体を俯瞰するプロ選手との違い。悪を真っ先に斃しに北京に入った蜀と、武器や軍隊の輸送手段を押さえた魏、そして国家運営に関する肝である軍資金を止めるために経済都市を押さえに来た呉。勿論共同戦線なので武将や兵卒もところどころ混ざっている。だけど主君の動きは別だった。民から慕われる道と、軍略家としての正しい道、これまた軍略として正しいもう一つの道。それは国が三つにもなろうというものだ。
「それでこの香港も澳門も?」
「はい。我らが取りました」
まさに江南を押さえた訳だ。
「で、最終的な『天命』は?」
「チベットなどの開放です。おそらく我らにできるのはそこまででしょう」
「そちらは蜀が中心に?」
「はい。その手筈となっています」
そして彼と話す内に直接の上官が呂蒙だとわかった。『虎穴に入らずんば虎子を得ず』や『士別れて三日なれば、即ち更に刮目して相待すべし』のあの呂蒙だ。
「その人に一度会ってみたいですね」
「りょ、呂蒙殿にですか?」
「はい」
そんな大化けする部下なんて最高じゃない。ね?
「まぁ、便宜は図りますが、今直ぐとは参りませんよ?」
「そこは理解しています」
そうして私は、久々の香港の街を陸抗とともに楽しんだのだった。
天安門広場はすっかり元の姿に戻った。あの燃えていた紫禁城もウソのように元の博物館に戻っている。
「中の展示物は偽物だろうけどな」
この迷彩服で身を包んだ男はエドガー。僕の部下で信用できる男だ。
「だろうね」
「キリツグ、この後はどうする?」
「ウイグル自治区に行って、南下するロシア軍と合流だな」
「やっぱりそっちか」
「うん?」
エドガーはアメリカ国籍の元傭兵で、今はノイント老の部下で僕の同僚でもある。一応僕が隊長で、彼は僕の補佐の副隊長だけど、僕達の間に上下の差は無かった。彼は僕に狩猟を教えてくれた男だが、その血にチベット人やネイティブ・アメリカンの血も混ざっている。並行世界の彼が、やはり『エル君』の父である『僕』の部下であり(そちらは明確に上下関係があるそうだ)狩猟仲間だと聞いていた。あちらでの『僕』は狩猟に関してバリバリのエキスパートであり、彼には教わっていないそうだ。と言うか彼の前でナイフ1本のみで、『エル君』は撃ち殺したトナカイの解体をしたという。あの子だけはまったくだ……。
それはさておき、エドガーは妻のアイリも知っていて、彼の奥方と僕の奥さんも仲が良い。とっくに士郎もイリヤも忘れたろうが、幼い頃のあの子達を伴ったアメリカ旅行で、アウトドアの楽しさを教えてくれた男でもある。
「チベットかい?」
「ああ。どうして世界の誰も声を上げないんだ? あれだけナチスをクソミソに言っておいて、どうしてチベットの人々が殺されていく現実に目を向けないんだ? 目先の金が集まり、儲かればそれで良いのか? 正義って何なんだ!?」
「エドガー……」
「すまない……。あんたに当たるつもりは無かったのに……」
「いいさ。今はそれを糺すチャンスだ。焦るな」
「ああ」
いつもの空間のパミちゃんの家で私とパミちゃんと『エルヴァ』は、3人で話し合っていた。『エルヴァ』から今中国で起こっている事を聞かされたからだ。
「どうしたら……」
「動かなくて良いですよ。あなたの知る『エル』が人形を残してあちらで動いています」
「『エル』が……?」
これは驚きだった。また人形を残していたとは。それで幾分安心できた私だが、私の大切な人はもう1人の私と腰のぶつけ合いに没頭中だった。まぁ、こちらでこんな話をしているとは彼も知らないのでそこは責められないのだけど。
大まかな情報を貰って私達の選んだ家に行けば、2人はリビングでも睦み合っていた。その気持ち良さそうな顔を見て、こちらまで火が着く。
「エルヴァ、おかえり」
「うん」
服を脱ぎながら、イッてグデっとなった彼女から引き抜かれた『チンボルト』を口に含んだ。自分の匂いだけど、なんてイヤラシイ匂いなんだろう。いつもこのくらいなら舐めやすいのにと思う『チンボルト』がどんどん口の中で大きくなる。そして私の唾液の匂い一色になる頃、それは元の元気さを取り戻した。
早く挿入して欲しくて壁に手を付いて腰を振る私。別にそういう仕草をしたい訳ではない。興奮のあまりアソコが疼いて立っていられないのだ。だから壁に手を付いた。だけどアソコは『チンボルト』を求めて、中から潤滑油を止め処もなく溢れさせていた。
だと言うのに、フンボルトはわざと焦らして、私の乳房や腰骨を撫でるばかり。『早く挿入れて』と誘っても、指で私を弄ぶだけ。だけど指が1本から2本になり、親指がクリ◯リスを撫で、鍵型に曲げた人差し指がGスポットを押し上げる頃には涙を流してイッていた。それでも我慢ならない。もっと、もっと欲しい。
「エルヴァ?」
「うん、来て……」
ソファーで仰向けになった私は、カエルのように足を開いた。きっとご先祖様も悠久の長い刻を、愛する男性の前でこんなポーズを取ってきたのだろう。だけどフンボルトは来なかった。ソファーの下に跪き、私の足の間に顔を埋めたのだ。
「あ、アア……」
フンボルトの舌が小陰唇の裏側を、包皮を剥いたクリ◯リスの根本を舐めあげる。そこが女の子の1番汚れが溜まりやすい部分だ。ああ、白い恥垢が残っていないか、変な匂いがしないかとても気になる。だと言うのに脳天に快感だけが突き抜ける。知らずに私は自分の手の甲や指を噛んでいた。
「ダ、ダメ……イヤ……」
何がダメで何が嫌なのか? 実は私、今気を失っている彼女とはとっくに『そういう関係』になっていた。その痴態をフンボルトにも見せているし、フンボルトの許可の上で彼の前でお互いの『アレ』を挿入れていたし挿入れられてもいた。他の男性だと絶対に許せないだろうけど、彼は彼女に抱かれる私や、私が抱いて乱れる彼女を見るのが好きだった。最初は避妊具のゴムを被せたディルドウだったのに、とうとうここまでになってしまった。彼に向かい合って抱えられた私は、しがみついて気をやった。
「エルヴァ、爪を立てないでよ。背中が痛いよ?」
「本人、聞いていませんよ?」
「あ、気を失ったか……。で、君が気付いたと?」
「はい。それで……」
「ゴメン、本当に休憩させて? 君の存在を望んだのは僕だけど、幾ら何でもこう連続だと……」
私が気付いたのはベッドの上に運ばれた後で、その時2人はクスクスと笑い合ってピロートークを楽しんでいた。だけど不思議と嫉妬心は起きない。彼女は同じ男性を愛する、私の仲間だった。
現実世界での中共の壊滅は三峡ダムとどちらが早いのかという感じですね。あのデモと暴動の後ろにソロスだけでなく中共が絡むとわかって以降のアメリカの動きの速さ。
あの手この手で締め上げに来ています。それもこれもクリントンやオバマ時代の反省からです。『悪』とわかっていても、儲かるからと目先の欲に囚われ中共を甘えさせて来た。
それがもう許されない時代になってしまった。武漢ウイルスに於けるアメリカの犠牲者は既に第二次世界大戦の犠牲者の数を上回っています。歴史は思った以上に早く大きく動いています。
野党もそうですがメディアのスパイの多い事。日本も本気で立ち上がらないと、世界の嗤いものであり、明日の儲けが得られない国になります。世界情勢をしっかり調べて、皆さん、選挙に行きましょう。