ふむふむ。78年頃に『Charvel Explorer』に取り付けたのが最初。その年にフランケンや白いフランケンでもない新しいストラトのボディに移植して愉しみ、翌79年のレコーディングではそれを使った……と。その後『Charvel Star』のボディに取り付けて、80年にストライプにペイントした。なるほど。これが『ESP』の高崎晃モデルの元か。
同年、後年ルードと呼ばれるボディに付け替えられ、モデファイを受けダイバー・ダウン・ツアーで使用され、84年以降は使われなくなった……。
何の話かって? エディ・ヴァン・ヘイレンが持っていたダンエレクトロのネックの歴史だ。信じられないだろうが、アメリカのネット掲示板ではこんな事を書き込むマニアが普通に居る。アニメを筆頭としたサブカルのマニアなら日本だろうけど、工具やエレキ、こういうのはアメリカの方が遥かにマニアックだ。
そして目の前に、そのダンエレクトロ風の細いヘッドが特徴のネックを取り付けた、『Charvel Star』を基にしただろうギターがある。基というのは、きっと『Charvel』では既に扱っていないと思われるからだ。その昔、『Ibanez』にも『DT355』として『Star』があったとアメリカのサイトに載っていた。
その他の『DT』は『Explorer』っぽいデザインで『Destroyer』というそうだ。その画像を見ると『Jackson』の『X-stroyer』に似ている。これ、多分逆だろうな。『Destroyer』のデザインを『X-stroyer』がアレンジして使っているんだ。だって使用者の名前に被っているギタリストが居る。エンドースメントの関係か何かだろうね。
それはさておき、その漆黒のボディには、神聖幾何学模様が金線であちこちに描かれていた。ピックアップはリアがダンカンのジェフ・ベック(SH-4)、フロントがJB Jr.だ。1ボリューム、1トーンにフロイドローズ。バリバリのヘビメタ仕様。送り主は『アメリカの姉さん』。受け取ったのは例のごとくエルマと言いたいが、何故か私の宝具の方に来た。どうやって私の座標を掴んだんだ? そもそも私はエルマと違ってあの人とほとんど接触がない。
だけど到着したなら仕方ない。私のできる事なんて姉さんやエルマに相談するくらいしかないのだから。なのでパソコンを切って姉さんに声を掛けた。
「エルには『エル』の記憶とデータがありますから、あなたの宝具のアドレスもわかっていたのでは?」
なるほど。だけど宝具にアドレスって……。
「単純な住所だけでなく、MACアドレスのようなセキュリティ・アドレスも併用しているでしょうね」
自分の体にあるモノなのに、そんな事を考えたこともなかった。今、私の部屋には姉さん2人(エルヴァと英霊のイリヤ)とエルマが居る。
「学園祭であなたを見掛けたかして、ギターを弾くって知ったからじゃないの?」
「私もそう思いますよ、トロンメル」
そうか。どこかで見ていて。お近づきの印ってやつかな?
「それでか。やっとわかった」
そう言って今度はエルマが、宝具からまたまたギターを出した。茶色いボールの箱に入った新品だ。
「こっちは手紙も何もナシで、送り主不明だったんですよ」
「どういう事?」
「アドレスを探っていたとか? で、その時たまたま、うっかりで手紙も何も付けなかった?」
姉さんの意見に皆んなが頷いた。その線だ。つまり送り主はエル姉さんではない。荷主はあちらのエルヴァ姉さんで間違いないが、送り主は違う。多分、あちらの姉さんに親しい人だろう。誰だろうか?
「この『Epiphone Goth 1958 Explorer』は……?」
姉さんの言う通り、そのギターはエピフォンのゴシック・シリーズで、ところどころパーツが交換がされたものだ。日本でも5万円以下で買える初心者向けの、でも真っ黒な、いかにもメタルなギターだ。だけどスピード・ノブはクリアー・レッドで、セレクターレバーの頭もクリアー・レッドになっていて、ピックガードは……クリアーの裏から赤いラップ塗装?
「エルマ、メタルに目覚めた?」
「実は……んな事あるわけないでしょう? そもそも私は楽器が弾けないんだよ?」
「だよね。エルマを手掛かりにして、私のアドレスを探っていたかもって姉さんの推理だし」
私達は首を捻っていた。だけど……。
「あ」
と声を出して姉さんが部屋に戻った。戻ってきたのは10分後くらい。パソコンのメールボックスに、あちらの姉さんからのメールが入っていたそうだ。そりゃそうだね。詳細は姉さんに届いて然るべきだ。そして数枚の画像が添付されていたらしく、1枚だけプリントして見せてくれた。そこには……。
「ヒッ!?」
イリヤ姉さんの悲鳴。
「か、彼女に何があったの?!」
姉さんまでが動揺している。でも画像を見て納得した。
「カッコいい……。こういうお姉様もありだよね?」
「いや、ないだろ」
裏拳でツッコませて頂いた。なぜならその画像には、メタラーなあちらの姉さんが写っているからだ。
その身に纏うは、黒い革のスリムパンツに革のブラと革ジャン。お顔は死人のような血の気のないメイク。だけどアイシャドウは真っ赤っか。唇が紫ってエグいな。そして髪はモヒカンだ。サイドを剃る方でなく、髪をセンターに寄せて結び目を3~4コ作って逆毛を立てる方。これで適当に散らしてスプレーで固めれば、昔の『X JAPAN』みたいになる。おまけにスプレー缶を1本も使わない。コームでの逆毛立ては覚えて損のないテクニックだ。だけど姉さんと同じはずのサラサラした髪は染めた(?)のか、緑や赤や青ととんでもない事になっていた。それがビビビンと立っているのだ。
で、肩からは鋲が一杯のストラップ。そこに下がっているギターは下地が真っ黒な『Les Paul Studio』のエピフォン版だった。光の反射でわかりにくいが、そこに金か銀でラップ塗装してある。
「あ、そういう事か。この子、アメリカでギターコンテストに出たのね。その時の衣装だったみたい」
「本当ですね。メタルのコンテストだったようです」
メールにそう書いてあったようだ。それを見てイリヤ姉さんとエルヴァ姉さんは心底ホッとしていた。だけど、これも持ち前のサービス精神から来ているんだって直ぐにわかった。やっぱりこの人も姉さんだなぁ。
「エルヴァ、あなた。サービス精神が良すぎ!」
「私に言われても……」
いえ。私もそう思いましたよ? そもそもイリヤ姉さんだって人の事は言えない気がする。この人も目に見えないところで、あれやこれやと私達に気を遣ってくれて。だからエルマも私も、『イリヤさん』でなく『イリヤ姉さん』になってしまったのだから。それとこれは余談だけど、御二人(2人の姉さんの事)の転身姿も大概だと思わない? メタルよりイッてる気がする。クロエちゃんが哀しむから絶対に言わないけど、もうちょっとどうにかならなかったのかな? あれならエルマの天使の方が少しだけマシなような……。いや、あれを見て私は魔杖と契約しないと決めたのだった。そう考えると、アメリカのエルヴァ姉さんのこれは健全なものだ。
それでどうやらそのコンテストに向こうの姉さんは優勝したらしい。その賞品がエルマに来たゴシック・エクスプローラーだったとか。ショボくない?
「結構大きなコンテストだったらしく、審査員も有名なミュージシャンだったとか。それで各社から協賛を得て、優勝賞品も4つくらいあったと書かれていますね」
「へぇ~、何があったのかな?」
「大きな楽器店の主催だったみたいですね。5千ドルの商品券とレスポール・スタンダード……メタルなのにレスポール・スタンダードは解せませんが、それとガレージ・エフェクターにそのエクスプローラーのようです。お店での売れ残りだったのかな?」
なるほど。そういう事ならわかる。けれど5千ドルは大きいな。
「要は、その変な形のギターをあの子は要らなかったってコトね?」
「まぁ、Vならともかくエクスプローラーはないなって私も思いますから、それで送って来たのだと思いますが」
うわ。姉さんはV派なんだ? 今、こっそり直しているのがジャクソンのランディVなんだよね。例の楽器倉庫で発掘したギターの内の1本だ。80~90年代のジャンクばかりだから、必然そんなメタルチックなのばかりになる。他もエクスプローラーや、交換して姉さんのものになったディンキーと似たようなスーパーストラトだものね。もしかしてそれを予想してのスター? でも私はメタラーじゃないんだよ。
ちなみにこれらの持ち帰ったジャンクと思わしきギターは汚いだけで、拭けばほとんどキレイになった。断線もエルマでなくとも私レベルで直せた。パーツも分解して洗剤で洗ったり、重曹に浸けたり、ピカールで磨けばどうにかなった。フレットやペグも磨いたし指板もまぁまぁキレイにした。後は塗装の傷だなぁ。
「ところがメールには、アンプを通して弾いて欲しいとありましてね。ピックアップが彼女の自家製らしいです」
へぇ~。自家製なんだ?
「じゃ、このエクスプローラーはお姉様向け?」
「でしょう。トロンメルは使いませんか?」
「スターがありますから」
「ですね。ピックアップだけで良いのにな」
それでアンプに繋いで防音結界を張った。私のベッドに腰掛けてギターを抱える姉さんにピックを渡す。コードを鳴らして右肘を気にされた。当たるんだ? そっか、人によってそういう場合があるのか。
「クラプトンがここを切った理由がわかりましたよ。当たるからではなくてバランスです。この出っ張りの重量がヘッド落ちを誘うと言うか。SG並みにバランスが悪いです。レーナード・スキナードも聴くのにエクスプローラーに苦手意識があったのは、これを何となく感じていたんですね」
なるほどねぇ、変形ギターだとそういうのがあるのか。おっと、姉さんが本腰を入れて弾き始めた。それで首を捻った姉さんがトーンノブを回した。何だ? カチって? すると食い付くようなバイト感のあるサウンドに。え?
「どうして? シングルの音?」
もう一度トーンノブを回すと、今度はもっと線の細い音になった。
「トロンメル、アンプをクリーンに」
「はい」
うわ。すごく爽やかなカッティング。何だこれ?
姉さんは弾くのをやめて解析を掛けた。
「わかりましたよ。とんでもないですね。このピックアップは板状の磁石でなく、このポールピースそのものが磁石です。多分、アルニコのⅡかⅢ。もしかしたらハムの時のもう片方がⅢで、こちらのネジになっている方がⅡかも。そしてこのネジの方がクセモノで、モンスタートーンみたいに途中から線が出ているようです。つまりハムの時は最小巻きで、タップしてシングルの時は巻数が二段階で増えています。あの前に出る音が最大巻数で1万以上は巻いてあるようですね」
そんな複雑な事を?
「ええ。だから1ボリューム、1トーンに、ロータリー・スイッチなのでしょう。近藤クンのお父様の発想を逆手に取りましたね。見事です。ハムもシングルの一段目もヴィンテージ・トーンで抜けが良いし音も良い。それでシングルの二段目が『P-90』を模しているのかな? これは良いですよ」
そういう事か。ああ……凄い。やっぱりあの人も姉さんだ。
「ですけど、これがメイプルトップだと煩いでしょうね。だからオール・マホガニーのエクスプローラーであり、多分この画像のスタジオなのでしょう。審査員もびっくりしたでしょうね」
なお、そのスタジオにはアーケードゲーム用のキル・スイッチ・ボタンが付いていた。バケットヘッドで有名なこのスイッチング奏法は、それまでのセレクタースイッチに拠る奏法を置き去りにした。ここぞというところで押すのでなく、これでリズムを刻んだり、フレーズを作るのだ。リズムに合わせてゲーム名人よりも速く連打できれば……。ただしそんな過酷な使い方をすればボタンの寿命も短いだろう。ハンダゴテと予備のスイッチもギターケースに入れておかないと。
そして私は姉さんにもう1人の姉さんのメアドを教えて頂き、そのピックアップとロータリースイッチにキルスイッチを、代金を言い値で振り込むので送って下さいとメールした。翌々日、私の部屋にはピックアップ交換を待つ、12フレット目のインレイが『E』の、日本限定ゴス(ゴシック)・スタジオが並んでいた。海外版も、これ以外のゴス・シリーズも、12フレット目は『ⅩⅡ』のインレイで、正面からはここ以外のどこにもポジションマークがない(一応、上から見た時のサイドマーカーはある。姉さんはそれすら要らないと言っていたが)。どっちにせよクールなギターだ。
またこのスタジオの下にスペシャルⅡというのがあって、そっちだと1万5千円以下で買えてしまう。だけどネックがボルトオンになってトップがフラット、1ボリューム・1トーンだという以外はほぼ同じで、ピックアップもスタジオと同じハイパワーなものが着いている。
これも90年代の中頃から出ているらしく、楽器倉庫に何本かあった。それもジャンクじゃなくきちんと手入れされているものが。だけど誰も使わない。皆さんフェルナンデスかオービル・バイ・ギブソン、それかフェンダー・ジャパンの中古か、同じフェルナンデスかヤマハ・パシフィカの新品を手に入れられている。ここまで人気がないのはエピフォン版レスポール全般に言えるのだが、ヘッドの形が違うからだと思う。だけどあちらの姉さんは、それでコンテストに出ていた。
「ボルトオンですからセットネックとは音が異なります。つまりあのピックアップでタップしたら、もっと頭の中にあるシングルっぽい音になるのだと思います。ん、コンテストはセットネックだった? ああ、スタジオはセットネックでしたか。それはある程度の伸びが欲しかったからでは?」
「では、狙った音が得られるならエピフォンだからとか価格が安いとかは関係ない?」
「いえ、ネックを握って弾きやすいかどうかはあるでしょう。フレットの反り具合や端の処理なども重要です。まぁ、そこは彼女も私なら自分好みにフレットを処理しているでしょうけれど。それと本家のギブソンでもボルトオンのギターがありました。私だってスタンダードとカスタム以外はそこまでこだわりません。ある意味どうでも良いかな? レスポールっぽい『何か』と割り切って使うでしょうし。そう考えると、このエクスプローラーのデザインは崩れていないので良いですね」
なんて事を話してくれた。バリトラのスタンダードを持っている『ゆとり』だろうか? 普通の高校生はそんなものを持っていないし、憧れていてもそれを贖うお金を出せないんですよ? だから少しでも似たものをとあれこれ悩むのに。でも、本物を持っていると自慢するような人でもないし、弾きやすい、お得だと思えば、チープなものでも買っちゃうんだろう。
話は前後するけれど、これを聞いたから私もエピフォン版ゴスのスタジオを買ったのだ。そして実際に弾きやすさに何ら支障は無かった。ボルトオンのスペシャルⅡは、何本か『ん?』と思うのがあったけれど、これも自分で初期調整や手直しができるなら致命的な欠陥ではない。
その後アメリカから届いたピックアップに入っていた手紙には、『私がこのギターを有名にするのだというハングリーさを持って下さいね』と認(したた)められていた。
あの楽器街で裏通りに入った私は表通りをきちんと見ていなかった。だから2日連続して『和平門』に行った。それでわかった。随分な値札だけど、普通に『Fender』も『Gibson』も置いてあった。香港経由で入るのだろうか? 自由経済のロシアならわかる。だけど中国は、あの何もなかった頃のソビエトと同じ共産国家だよ?
「エル殿、わかりました。こちらです」
ハサンが調べてくれたリポートには『崔健』という人物の詳細が綴ってある。生い立ちとかそういうのはいい。知りたいのはあの曲だ。
「おそらくこれです。この『一无所有』という曲は、天安門の虐殺があった頃に流行り、あそこに参加していた若者が皆んな歌っていたそうです」
呪腕のハサンが訳してくれた歌詞は、貧乏で何もない男が女に告白し求婚する歌だった。何度も何度も何年も何年も掛けて、遂に男は悟る。『你爱我一无所有』と。お前が愛してくれていたのは何もない頃の俺だったんだな、と。つまり長い年月で男はそれなりにお金を貯めていたろうし、地位も得ていた。だけど女はそれで変わってしまった男への愛を失ったのだ。
これが中国で最初のロックと言われる、『崔健』の大ヒット曲『一无所有(俺には何もない)』だ。彼のコンサートは毎回満員で、これを危険視した共産党が、とうとうコンサートの許可を下ろさなくなったという。やっと許可が出たのは去年の事で、それも『SARS』で流れ(絶対ウイルス兵器の流出だ。今年の鳥インフルもそうだろう。タツタを返せ馬鹿)、今年の3月にあったコンサートが復帰第一弾だったのだとか。
彼のことを知ったのは庁舎の職員やホテルの人に聞いたからだ。流行っているロックやポップスはないのかって。それで教えられた『新长征路上的摇滚』という、『一无所有』が入っているCDを買いたくて繰り出したのだ。
無意識で口ずさむのは『まちぶせ』だ。この歌を知ったのは某局の『プリンプリン物語』を知ったからだ。日本に行ったばかりの頃、私はユーミンにハマっていた。それとは別にアニメにもハマっていたから、アニメばっかりみていた。そこから昔の人形劇も知って、『三国志』の再放送にハマった。この『三国志』の前の番組が『プリンプリン物語』だ。こうなると同じ頃に流行った『西遊記』も見たくなる。
私は両親からお小遣いを頂いても全部貯金していた。そんなお金を使わずとも財布にはいつも20万円くらい入れていた。今にして思えば変な小学生だ。で、『西遊記』のビデオをまとめ買いした。美遊の部屋にある『セラムン』や『CCS』のビデオも全部私が買った。今ならお小遣いで家が買える。
こうなって来ると口先の上手い政治屋に票を入れ、わりかしまともな候補者に票を入れないオトナが馬鹿にしか見えなくなる。テレビや新聞のウソやデタラメを信じて。どうしてアレがCMを流すためだけの箱だと思わないのか。無料の番組に真実なんてあるものか。だから本当は公共放送の方に文句を言わなきゃならないのに、そこに気づかず政治家に不平不満ばかり言う。
だけど抗議デモまではできない。スパイや外国への協力者が起こすデモを見て胡散臭く感じているからだ。黒い街宣車にしてもそうだ。あれこそが愛国心を削ぎ落とすスパイ工作だ。まともな人なら菊の御紋をボロいクルマに描くものか。どこの王や大統領に聞いてもそれは許されないと言うぞ。
思い出した。6年生のとき、駅前で余りにも喧しいので10台一度に取り込み、翌年赤の広場で出したのだ。それで暗示で『北方領土を返せ!!』と拡声器で言わせた。ロシア語で。全員連行されたけれど、その後は知らない。興味なかったし、私は今思い出したくらいだ。
それはそれとして。『国』という漢字は戦後に常用漢字として定められたもので、元の字は『國』となる。『口』は城壁で『戈』が兵。小さな『口』がお城で、その下の『一』は門を表すそうだ。じゃ、徳川8時45分の『圀』は? あれは國の異字体で、あの人の名前以外では残っていないという。伝説残したよな? ドーン!
それで当用漢字を定める時、『国』で揉めたそうだ。城郭に王はわかるが、陛下は王ではないぞ、と。それで『丶』を付けて『玉』にしたらしい。だから玉体というのかと妙に納得したものだ。ところで英語だと国は『Land』と『Nation』と『State』と使い分けられるのは何となく知っていると思う。だけどその違いは、日本人だとなかなかわからないと思う。これはもう陸続きで隣の国と戦争ばかりしていた民族でないとピンと来ないものだ。国は故郷であり古里でありといった、感情に訴える言葉だと『あ~そうそう』という人も居るけれど、それって地方も表すので少し違う。そこでこうだ。無理して漢字で表そう。『Land』が『國』、『Nation』が『囻』、『State』が『圀』だ。どう? 漢字で表すと英語の意味がピンと来るでしょう? この漢字の使い分けをして『国』のあり方を訴えた人が日蓮さんだ。それ以外ダメって寛容さに欠けるから、周囲から嫌われていた。頭が良い人なんだろうけど、日本人なら十七条憲法を飛ばしたらダメだよね~。
人は祈っても願っても、幸せになれるかどうかは不明だ。量の多寡も関係ないだろう。重要なのはその人の行動だ。その行動を起こす上での、一歩目を補う心の栄養ドリンク? 潤滑剤? 宗教なんてそれ以上も以下もあるものか。だけど1万円札は誰しもを差別も区別もしないで、幸せを運んでくれる。これは現代社会に於いての絶対の真理だ。
それはともかく遊んでいてもお金が入る『身分』になってしまうと、益々『彼ら』の考えもわからなくもないという風に変わって来てしまった。それが余計にイライラさせる。人の命を蔑ろにしたい訳でも、お金がある事を鼻に掛けたい訳でもない。だけどプロパガンダに簡単に乗るのはいつもそういう、どうでもいいテレビを見て、くだらない議員に票を入れてしまう人達ばかりだ。
「そんなにイライラしていてはウマい飯もイマイチですし、ウマく行くものも行かなくなりますぞ」
「ウマいこと言ったつもりなの?」
「いえ。その歌に共感を覚えましてね」
ん?
「私は歴代の教主より劣っていました。だからこそ余計にハサンの名が欲しかった」
「あなた、もしかして恋人が……?」
「昔の事です。魔神の腕を手に入れ、顔を削いだ者に女など……。エル殿、あなたはあなたのままで」
言外に『自分を見失うな』と言っている。そして『人としての幸せを棄てるな』とも。
「ハサン……。ありがとう」
きっと後悔なんて、数え切れない程しただろう。手に入れたかったモノの正体は、掴んでみれば大した事はなかったと思ったろう。だけどそれで彼の血縁者は貧しさから開放されたはずだ。何もない砂漠で何もなかった若者だった頃の彼……。
「ハサン、あなたの真名は?」
「…………」
声に出さず、唇の動きで教えてくれた。彼もわかっているのだ。『現象となった彼女』が何故顔を復活させて召喚したのかを。本来の腕を贄にして手に入れた、魔神の右腕は私の魔術で普通にしか見えない。だから今の彼は、中東の遣り手ビジネスマンだ。教義より何よりまずはビジネス。もともとそういう人だったのだろう。痩せぎすだけど、『大切なもの』は忘れていない、そういう強い意志を感じさせる瞳。マグリブのハムサじゃないだろうに、碧色のその瞳は『邪眼』として忌み嫌われたろう(中東では古くから青い瞳は不幸を呼ぶという迷信がある)。
だけど彼は信頼できる。間違いなく。与えた仕事を淡々と卒なくこなし、そこに一切の私情を挟まないタイプだ。私の部下にも、こういう人が時々いる。それなりの役職を与え身分を与えると、こちらの期待の何十倍もの働きをしてくれる人が。それはハングリー精神から来ている。
その人に必要だったのは、『自分を活かせる場』だったのだ。寂れた村で襤褸(ボロ)を纏っている若者を見て何も思わない人にはわからない。その目の奥にある光をキャッチしないと人材は見付けられない。彼の前か、その前の教主はそれを見付けていた。他の候補を置いて教主になれたのもそのハングリー精神があったからに他ならない。
「私はこの身に『宝具を得る資格がある』と証明するために、左腕を斬り落とした事があります」
「なんと……」
その驚いた顔が面白かった。私は笑った。すると彼も困ったように笑っていた。
「これからもよろしく」
「勿論ですとも」
文官からの依頼で百貌は分裂して散っていた。そんな昼下がりの一幕だった。
予定通りスペツナズ(特殊任務部隊)が合流地点にやって来た。全部で50人くらいの編成だ。そして『ズドラーストヴィチェ』と挨拶を交わした後、適当にアサルトライフルを撃って貰い、こちらも被弾して血を流すフリをする。これはあちらも同じ。実弾を使っているが銃口は明後日の方向で、血は映画と同じ特殊装置を迷彩服の下に仕込んでいるだけだ。それを数台のカメラで撮影し後で編集する。これで交戦の事実が出来上がる。
撮影が終われば全員で移動して、取ってあった会場で酒盛りだ。『スペツナズ』とは特殊任務を帯びた部隊全般を指す言葉で、ある特定の部隊を指す言葉ではない。そして彼らはロシア軍に属していても、この仕事の意味を理解しているエリート集団でもあった。
「ガスパジーン、ケリィ?」
ガスパジーンはミスター。そしてロシアでは姓で呼ぶ風習はない。大抵、父称(父親の名に因む愛称/オーチェクトヴァ)かファーストネームで呼び合う。だから自己紹介後はこんな風になる。
「ガスパジーンは要らないさ、ヴィクトル」
彼の名はヴィクトル・ミハイロヴィチ・ペトロフスキー。この真ん中の『ミハイロヴィチ』が彼の父称になる。彼の父親は間違いなくミハイルだ。それで息子だからミハイロヴィチになる。もし彼が娘だったなら、ミハイロヴナ・ペトロフスカヤだ。このようにロシア語では男性か女性かでミドルネームと姓が変わってくる。だからペトロフスキーやミハイロヴィチなんて名乗ってくる女性が居たら、そいつは間違いなくスパイか馬鹿だ。
ややこしいだろうがこれがあちらのルールだ。まぁ、理解を示した上でなら、たまに間違っても許されるけどね。だからルヴィア君はともかく、凛君は結構失敗していそうだ。それでも上手く行くのは持って生まれたビジネス運が強いからだ。『エル君』が示唆したという、そのロシアのビジネスはきっと成功するだろう。
ところでこのヴィクトル・ミハイロヴィチ・ペトロフスキーと僕はノイント老を通じての知り合いだった。覚えているだろうか? あのエルヴァと士郎を襲った闇の組織、あそこの情報をくれたのが彼だったんだ。カーチェイスの方の組織と、ユグドミレニアが雇ったマフィアは『エル君』が壊滅させた。だけどその前の傭兵部隊は彼が特殊任務を帯びて壊滅に追いやったんだ。そんな関係だったんで僕とヴィクトルは早々に打ち解けあっていた。
「で、何だい?」
「こっちも命令で動いているからな。無意味な詮索はしない。だが、どうしてこの土地を中共が明け渡す?」
ああ、それか。
「まだ早いが、中共は確実に滅ぶ」
「政権交代か。なるほど」
その新政権にノイント老が絡んでいるとこれで彼も察したろう。本当の意味でロシアと中国が手を組み、覇権でなく自国の民衆を食べていける国にする。それが真の目的だ。今のロシアでは弱い。中国だけでも弱い。三つ巴にもならない。蓋を開ければそんなものだ。結局メディアが煽っている程にはカーテンの後ろの城は大きくなかった。藁と枯れ枝の城だったんだ。アメリカはちゃんとしたレンガなのに。
このレンガとは言うまでもない。人の事だ。人が国を創り上げ運営しているんだ。だから無能な政治家は選挙で落とされる。それが中国には無かったし、かつてのソビエトにも無かった。ロシアはそこからの立て直しで手一杯だ。今の大統領が終身大統領になったとしても難しいだろう。共産主義が踏み躙った跡が残る国土は、回復するまでに統治時代と同じか、それに倍する年月を必要とする。
そんな風に皆んなが寛いでいるところに伝令が駆け込んできた。
「どうした?」
「魏延を発見しました」
「よっしゃ、行くぜ!」
加速装置でも付いているのか、あの男は? ランサーは風を残して消え去った。結局彼が戻ったのは2時間後だ。彼の足の問題でなく、それだけ魏延が遠くまで逃げていたのだ。だから蜀の別働隊に見付かった。ご苦労な事だ。
「呂布、来い」
「はっ」
ヘラクレスの前では随分と素直な呂布だ。これが暴力の弱点だ。単調な暴力は、より強力な暴力の前ではひれ伏すしかない。なぜならそこに思想も信条もないからだ。つまり小さな、その時だけの虚栄心が満たされれば良いという空っぽな男が呂布だったのだ。遠くを見据え、12の試練を潜り抜き、見事功業を打ち立てた真の漢(オトコ)に適うものか。
そしてヴィクトルの部隊の者達も、彼(ヘラクレス)だけは別格だと感じている。一番大柄な、オリンピックの重量挙げでそこそこ良い成績を残せそうな隊員が、ヘラクレスと目があえば愛想笑いをする。彼も強いからこそ彼我の差が如実にわかるのだろう。ついでに言うと、ロシアの面々は『ヘラクレス』をあだ名だと思っていた。そして建物の前が騒がしくなった。
「キリツグ、来いよ! 始まるぜ!」
組織として動くようになってから、こういう風に気さくに呼ばれる事にも慣れたけれど。あの、クー・フーリンとこんなに親しくなる未来があったなんて夢にも思わなかった。大勢の男達が囲む輪。ヘラクレスの頭は見えるが、どこにも入る場所がない。だけど場所はランスロットが取ってくれていた。上半身裸になったヘラクレスが、魏延という少し額に特徴のある男を睥睨していた。
「どうあっても自由で居たいか?」
「当たり前だ!」
「では、私を倒せ。武器は何を使っても構わん」
そう言いながら彼は肩を回し、首を鳴らした。魏延は蛇でなく龍に睨まれた蛙だった。
「ん? 来ないのか? 少し深呼吸でもしろ。きっちり座に送り返してやるから」
その瞬間魏延が飛んで僕達の輪を飛び越え、地面を変な方向に回転した。まるで暴走車に撥ねられた人のようだ。それはヘラクレスのボディブローで、様子見のパンチだったと思う。だけど魏延は起きなかった。座に帰る程ではないが、完全に意識を失っていた。あれは英霊でも……。
「内臓破裂で背骨もイッてますね」
僕もランスロットと同じ見解だった。魏延が意識を取り戻りたのは5日後で、和平交渉を終え北京へ戻る飛行機の中だった。正式な調印は第三国に場所を借り、そこで後日取り交わされる。だけど魏延が移動する飛行機の中で目覚めた時、別の事態が動いていた。
「あ、あの?」
ヘラクレスが3座席のうち2座席半を占領しているので、眠ったままの魏延は足が通路に出ていた。それをCAに咎められたのだが。
「ああ、疲れているみたいでな。構わんでやってくれ」
何故だろう? 今から彼が空港で大暴れして、いつの間にかエルヴァと合流するんだ。そして2人で誘拐されたイリヤを助けに行く……そんなイメージが湧いた。敵に言ってやりたい。彼は『ナイフで来いよ』なんて、プライドを煽って戦力を削ぐような事を言わないぞ? 『銃でもミサイルでも何でも使え』と言って瞬殺だ。魏延が目覚めたのはその直後だ。
「ん、んん……」
「起きたか?」
「お、お前!?」
「騒ぐな。静かにしろ。お前は5日前から私の部下だ。今は黙って北京までおとなしくしていろ。な?」
あんな大きな手で顔面を鷲掴みにされてみろ。誰だって声も出なければ呼吸もできない。魏延はそのまま気絶した。呂布が僕の横で震えていた。ほぼ同時刻、北京政府は北への援助を停止し、とある大義名分をロシアに取り付け宣戦布告した。
世の中には変な事があるし、奇妙な事もある。魔術などの神秘の話じゃない。どちらかと言えば運命論が近いかな。
それはパミとケリィの、ごく日常的な会話の中で取り交わされた小さな約束から始まったんだ。学校でのイジメが失くなったケリィはエルヴァに本当に感謝していて、以前よりも頻繁にこちらに来るようになっていた。そこから留学生のリョーコやパミを加えてのアーチェリー仲間にもなった。それは今まで話した通りだ。
ある日の午後。テンプラ・パーティの数日後だ。スナック菓子を摘んでいた時に、そこで何気なくケリィがギターをやってみたいと言ったんだ。それを聞いたパミがどうしてと聞いた。
「だってカッコいいから」
「カッコいい?」
僕はロックバンドじゃないかと言った。
「そうそう。バンドのギター」
「どんなのが好きなの?」
「『Gamma Ray』とか『Helloween』とか」
ジャーマン・メタルか!?
「カイ・ハンセンのファンなの?」
「特定の誰ってことはないかな。バンドとして好きだから。それでエルヴァが歌いながら弾けるでしょう? それで……」
なるほど。つまりギターを弾きながらボーカルも取りたいと。僕は『Helloween』なら、マイケル・キスクが入った黄金のツインリード時代が好きだ。『Keeper Of The Seven Keys』は1も2も好きだなぁ。メロディアスでキャッチーな曲揃いなのも良いよね。
だけどケリィがねぇ。ここがカリフォルニアの凄いところだ。LAメタルなんてのもあったから、元々メタルの土壌があるんだ。そもそも僕が英語を覚えたのはこういう音楽があったからだ。
「それだと普段の指慣らし程度の練習から、歌うクセを付けないと難しいよ?」
エルヴァとリンはモニカさん達と買い物に出ている。シロウはアルバイトだし、僕とパミしか残っていなかったんだ。
「ギターは持っているの?」
「ううん。アコギならあるけど……エレキは持っていないの」
「ならそこからだよね?」
「でも、弾きながら歌うクセはアコースティックでも可能だよ。まずは練習あるのみだ」
そこでパミのこの発言だ。
「ん~。ギター、手に入るかもよ」
「え? 何故?」
「んとね、ギター・コンテストにエルヴァの名前で応募したから」
それが発端だった。そしてパミは賞品にギターがある事を知っていた。僕かエルヴァと楽器屋に行った時に目を盗んで応募したのだと思う。だけどそろそろそういう刺激があっても良いかなって思っていたし、エルヴァも日本に居る方が弓道チャンピオンだから対抗心があったみたいで承諾したんだ。だけどそれがメタル・コンテストだったと知ったのはだいぶ経ってからだった。それで僕は慌てたんだけど、エルヴァはそうでもなかった。
「アメリカは同じ超絶テクを競うにしてもグルーブ感やビート感を重視します。つまりタメですね。それとわかりやすい対比。ラップも単調なビートに乗った声という楽器の後に、必ず開放的なメロディが来ます。そこを押さえておく事と、ビジュアルとパフォーマンスがあれば。審査員が業界の人なら、欲しいのは売れる要素のある新しいスタイルですよ。そのタネなりアイデアを提供できれば、自ずと高い評価が着いてきます」
な~んて、冷静な分析を返された。つまり彼女は売れる音楽を知っているって事だ。ちょっと言えない言葉だと思う。で、選んだ衣装は昔の『Judas Priest』のようなレザーとメタルだ。そしてギターは敢えてチープなものを選んだ。理由が奮っている。
「こういうので十分音楽ができるとキッズにわかって貰えれば。メーカーもその方が嬉しいでしょう?」
それで『Epiphone』の『Les Paul Studio』を選んだんだ。元々は自分のアイデアを盛り込んだピックアップを試したいからと用意したものだった。だからコンテストの予備として『Goth Les Paul Studio』と『Xtreme G-400』も手に入れていた。前者は真っ黒な『Goth Series』だけど、後者は『Goth Series』の前に『E-Series』というモダンなタイプに属してもいた。その頃はアーム無しで、色も青などがあったと思う。SGシェイプなのに下側が大きく抉られ、どこか『BATMAN』のシンボルっぽい。そんなのにフロイドローズ・タイプのトレモロが付き、ピックガードが『Diamond Plate』と来ている。いかにもメタルなギターだ。
エルヴァは前奏者を見て、『Les Paul Studio』か『Xtreme G-400』を決めると言った。それで午前中の予選は『Xtreme G-400』で行った。アームで一気に相手を篩(ふる)いに掛けるのだ。それで楽器店の駐車場に設けられた特設ステージで、ギターコンテストが始まった。
この『Xtreme G-400』には少し秘密がある。元となった『SG』は、『Les Paul』より軽くハイポジションが弾きやすいというメリットはあるが少々音が軽い。これは使われているマホガニーの容積から来ている。エレクトリック・ギターの容積を落とすと、元のサウンドよりも軽くなるのは結構知られたところだ。
例えばエディ・ヴァン・ヘイレンのシャークがそうだ。元は『Ibanez』の『Destroyer』。丸々『Explorer』のコピーだった初期型のものだ。レコーディングではそのまま使ったらしいが、アルバム完成後に『Franken』のようにしようと思い立ち、ボディの下をV字にカットしてしまった。その『Destroyer』改め『Shark』は日本の『セン』という木材だったらしく、容積減の影響がとても大きく、音がガラッと変わってしまってエディは後悔したそうだ(こんな話が楽器屋に行けばホイホイ聞ける。彼らの出身地であるパサデナはロスの8~9km北だ)。
つまり下側を元から大胆に加工されている『Xtreme G-400』は音がペナペナだったんだ。だからエルヴァはそのカットされた部分にエディと同じターンバックルを仕込んだ。本数は2本。これで見掛けの重量を稼ぎ、フロイドローズのブロックにある金属を貼り付けた。それは1インチ角の小さな薄い板だ。だけどそこには複雑な魔方陣とスペルがぎっしりと描かれてあった。それでコシのある低音が出るようになったんだ。だからアームをダウンさせれば、スピーカーが吹っ飛ぶんじゃないかって心配になってくるような地を這う重低音がステージに響いた。サクッと予選通過した彼女は午後の二次予選と決勝を『Les Paul Studio』に持ち替えて戦った。
グルーブのあるリフも、よく見ればタッピングを入れている。メロディとベースラインを同時に弾いているのだ。そしてソロではピックを捨てて、親指まで使ったテン・フィンガー・タッピングを披露した。そんなの無理だって? 僕もこの目で見るまではそう思っていたよ。だけどエルヴァはギターを縦に抱えると、ネックを左右から掴んで笛のようにして弦を弾いたんだ。『Studio』を選んだ理由は、軽くてこれがやりやすいからだった。
以前は『Flying V』でやった事があるという。『Explorer』だったら角の部分を首の後ろに掛けてこの弾き方が逆さでできるなんて事も話していた。要はギターを左肩に担ぐんだ。嘘にしか聞こえないけれど、歯で弾いたり頭の後ろで弾くよりも音程もメロディーもしっかりしている。しかも驚くべき事に、速さに逃げていないんだ。正に緩急自在。メロディアスでキャッチーなフレーズ。そこには歌心があった。途中から審査員が立ち上がって手拍子していた。観客の熱気が凄い。こんなの僕も聞いた事がない。そしてピックを持って、元のメロディに戻って、そこでその音がシングルそのものだと皆んなが気付いたんだ。演奏が終わると喝采が止まなかった。
そしてコンテストは優勝。勝利者インタビューで彼女はこう言った。
「このピックアップを売っていきたいと思います。どこか契約して下さいませんか?」
この数日後、彼女が使ったギターの会社から人が来た。親会社の人も引き連れて。エルヴァは両社にそのアイデアを売った。また最初の5年間は1個に付き、10ドル彼女に支払う契約った。しかも『Metal Queen』という称号で大々的に広告に起用された。雑誌広告にメイクした彼女が『Goth Series』を持って掲載されている。う~ん……信じられない。
だけどそのプレゼンツとセールストークを、あの場で言えるかどうか、それに見合う商品アイデアを持っているかどうかだ。エルヴァはそれを持っていた。僕はこの時にギターやベースの職人になろうと決めた。そしてエルヴァとともにショップを開こう。このアメリカで。そう決心したんだ。
これまで僕は少しエルヴァに臆していた。それは僕には何もないと思っていたからなんだ。だけどパミに出来上がったギターを渡した時に手応えを掴んだ。そしてエルヴァは僕のギターに乗せるピックアップを作りたいと言ってくれた。あのコンテストはそのための第一弾になったんだ。
賞金(賞品券)は、あのお店でアンプを買って使い果たした。賞品の『Les Paul』は約束通りケリィに贈呈し、もう一つの『1958 Goth Explorer』は日本にいる妹がギターを弾いているのでそちらに送った。僕は知らなかったけれど賞品のギターがもう1本あったらしい。だけどあの店の看板が『Explorer』だったと思い出した。で、彼女はエフェクターだけを自分のものにした。
ちなみにあのピックアップにはエルヴァの錬金術と魔術が使われている。だからアイデアを手に入れても、あの音の完全な再現は不可能だ。それっぽい音は出るけれど。そして今後は僕の作ったギターか、エルヴァが弾くギターにしか『本物』は載らない。パテント関係で圧えられる可能性もない。なぜなら魔術以外は誰にでも思い付く事だからだ。誰もしなかっただけで。だからこちらも作って今後のギターに載せる点も契約書に盛り込んだ。
ただし単体販売権はあちらにある。それは改良されて、より良いものになればいいという彼女の良心から来ている。もっと掘り下げると、良質な木材の枯渇が念頭にあるからだ。音楽は時代時代で変化している。それに応じて鍵盤楽器や周辺機器も発達した。だけどクラシック音楽は別として、余りにも楽器は天然資源に頼り過ぎている。
ところがこれがもっと管理された生育の早い木材で作れたなら? 高級な、枯渇が危ぶまれる木材でなくとも、その時の音楽に合った音も、旧来の音も出せる技術があったなら? そこを各メーカーも考えている。その一助にならないかと彼女は考えていたんだ。だからチープな木材のギターを選んでコンテストに臨んだんだよ。
なら僕にできる事は? 旧来の素材に囚われない楽器作りしかない。幸い僕は木工も金属加工もできる。それが僕の出した答えなんだ。だってそうだろう? エルヴァは僕にとってのパガニーニだったんだから。もし僕がストラディヴァリなら、遠い未来のイングヴェイの事なんてわからない。だけど目の前にはエルヴァが居た。
彼女はエルの『Stratcaster』のフロントを5000、ミドルを7000、リアを9000に巻き直した。そしてイナーシャブロックに錬金術を掛けた。そのサウンドはヴィンテージそのものだった。僕は悟ったよ。男としての僕がエルヴァを愛したのは間違いじゃなかった。職人としての僕も彼女を愛していたんだ。ウソ偽りなく。
僕達は北京に着いたが街に出ず、そのまま専用機に乗り換え遼寧省の丹東浪頭空港に飛んだ。魏軍は既に鴨緑江大橋他数箇所から北に進軍していた。
「なんだって宣戦布告なんかしたんだ!?」
「大義名分がこちらにあったからです」
既に孔明達が来ていた。
「大義名分だって?」
「ええ。核開発の証拠と現在知られている以外の日本の民間人を誘拐拉致した証拠を、アサシンが掴みました」
それで北を……。だけど戦後の効果はどうだ? 核開発を阻止できればロシアもアメリカもメリットが大きい。それに世界に対する心証が良い。特に日本の。
「ええ。こちら寄りの議員や官僚を利用して、企業誘致が進むでしょう。独裁者とその一族のみを滅ぼし、飢えた民は希望に沿ってこちらかロシアで引き受けます。『エル殿』の案ですよ」
しかもこの段階で、アサシンは日本に戻った拉致被害者以外の被害者もとっくに救出済み。独裁者も拉致済みだった。この国境から平壌まで約200キロ。通常兵器の効かない進軍の先頭は100キロ進んでいるという。
「南にも?」
「あちらには米軍の基地がある。手は出しません。ですが、あちらに進出している企業をこちらに引き抜きます。こちらの方が儲かると広く知らしめねば」
孔明の狙いは『元』の価値を高め、変動為替制に持って行く事にあった。
「ええ。ですから徐々に貨幣の図案を変えて行きます。それともっと細かな単位の紙幣や硬貨を発行し、そちらで日常の食料などが贖えるように致します」
つまり国際的な『元』の下落を読んでいる訳だ。だけど食料は人々に求めやすい価格で抑えると。そうなれば内需は拡大するだろうし流通が増える。言ってみれば国外と国内の二重経済だ。ある種の冒険だけど、その『元』以下の貨幣だけを国内向けにどんどん発行し、公共投資してインフラを整えれば。
「現段階での我々はクーデター政府です。ですので1年以内に選挙を行います。ただし今後10年は我々が通るのですが」
この場合のコントロールは不正とは言い難い。余りにも共産党の独裁が長かった。人々には自由主義という新しいに体制に慣れるまでの時間が必要だ。だけど世界各国には変わったんだというところを示さなきゃね。
「それで『エル君』は?」
「平壌ですよ」
「単独で?」
「ご心配召されるのもわかりますが、あんな別の場所へ瞬時に移動できる者を誰が追えますか?」
そうだった……。彼女にはあれがあったんだ……。僕達が平壌に入った頃は、政府のものが駐在していた記者に中国への全面降伏を発表していた。だけど人民は万歳と歓声に沸くだけで、誰一人として将軍様を顧みなかった。凄まじい掌握だ。だが哀れな独裁者はそれを見せ付けられ、王朝の崩壊を静かに受け入れた。
そしてこの日、北京でも記者会見が開かれた。北に宣戦布告し全面的に勝利した事と、日本人を含む拉致されていた人々(欧州人も居た)を保護した事、核施設を完全制圧した事などをだ。しかも記者に配られた資料には前政権が送り出したスパイの名簿と現在の居場所、協力者と送金相手などが克明に書かれており、それをして政権交代と自由主義への転換を大々的に発表した。
そのせいで各国は年内どころか年が明けても右往左往していた。西側諸国では赤狩りが始まり、どこの国も幾つかの政党や報道機関が消え、議員や官僚に記者が逮捕された。あの腰の重い日本ですら逮捕者が続々と出た。その影響は凄まじく、キー局と新聞社の半分、地方新聞の幾つかが営業を停止し、救済措置も申請できないままに倒産廃業した。知事が逮捕された地方自治体まであった。何故なら追い打ちを掛けるように北の極秘資料まで発表されたからだ。しかも孔明は日本政府にこんな情報を流した。
『前政権を延命させたのは日本政府である』
と。
更に続けざまに、香港・澳門の独立と台湾の国家承認、チベットや新疆の自治権回復を大々的に発表し、前政権が行っていた非人道的な行為を、全世界に向けて告発した。これにより赤狩りが各国で苛烈になった。アメリカなどは民主党がほぼ壊滅に追いやられ、共和党に対抗する新しい保守政党が生まれたくらいだ。
当然内情をバラされたパキスタンからは猛抗議があったが、孔明はこれを逆手に取り戦争をチラつかせて黙らせた。それで取って返す刀とばかりにインドとの強力な協定を結び、パキスタンとの和平を促した。また、この動きをロシアが大々的に『真の平和的行動だ』と率先して報道した。これはノイント老の指示だ。こうする事で今まであった東西の見えない線が消える。これは言ってみればグローバリスト(あちら側)への宣戦布告だった。
そしてそれに呼応して孔明は『自由を愛するものは平和を友とする。私達は真の世界平和を望んでいる』と発表した。しかもこのタイミングで保護した拉致被害者の氏名を発表し、既に亡くなった人には哀悼の意を示し、健康な人はその人の国が温かく迎えてくれる事を望むと報道した。特に日本向けに既にない政党とそこから分裂した政党が拉致に関与していた事、並びにそれに関わった議員と新聞社や記者の氏名を発表した。憲法改正とスパイ防止法がスムースに閣議決定された。反対意見を出す者はスパイと大衆から見做され総スカンを食らった。孔明はこれら一連の流れでチベットやウイグルの問題を躱す事に成功した。実に見事という他はない。
またこの人道的な行為により、香港に注視していた英国が堕ちた。それに連鎖してEUの対応とアメリカの態度も変化した。EUの中でもドイツは中国への依存度が高まりつつあったところだ。中でも自動車産業は工場の進出を加速していた。なので軟化も早かった。アメリカも英国に倣ってこちらを様子見するような態度だった。まぁ、ここはわからなくもない。なぜならこの中国もまた核保有国だからだ。だけどそれらは次々と秘密裏に削減されていた。当然三国に拠る高度な決定の上でだ。以上が冬の休暇を挟んで2005年を迎えた、僕の見た世界の大まかな動きだ。
エルマはとうとう斜め45度に飛んで行った。ただ、こちらの想定外だという意味であって、その方向は正しいと私には思えた。
それを説明しよう。あの子がエルヴァ姉さんに、一方ならぬ偏愛的な感情を抱いているのは皆んなの知るところだ。ところがあれだけ依存度の高かった彼女が11月に入ってから、あまり姉さんにベタベタしなくなった。それに学園では『お姉様』と言わなくなった。私も心を鬼にして言った甲斐があったよ。
『甘いのぅ』
学園から帰って自室に向かう途中だった。柄の部分を格納した2本のステッキが廊下を飛んでいた。ゾウケン君とエルマのルビーだ。たぶん凛さんのルビーやルヴィアさんのサファイアとお喋りを楽しんだ帰りだろう。
ゾウケン君はそうでもないのだが、3本の魔杖はお喋り好きで暇さえあれば地下へ行ってメイド達と話している。仕事の邪魔にならないかと気になるが、そこを引き締め会話を会話として成り立たせ、適度な時間で切り上げさせるのがゾウケン君とエルマのルビーだった。エルマのルビーは凛さんのルビーや、イリヤちゃんのルビーより若干真面目だ。きっとそれはゾウケン君の影響だろう。
「ただいま。何が?」
『お主が妹としてエルマを大切に思っとると信じとるからこそ言うが、エルマは最近パソコンにハマっておってな』
ん? 元からあの子は得意だよね?
『ところが何十万もする……ほれ、写真を加工する『あぷりけえしょん』とやらを手に入れて、あれこれしとるんじゃよ』
『7.0』か『CS』を買ったの? プロでもないのに? 『Elements』で十分でしょう?
「それで何を?」
『部屋に背景を垂らして、ライトを立ててな。それと『でじかめ』じゃ。全部で2百万くらい使うとるぞ』
「な、何をしているの?」
今度はルビーが話してくれた。
『コスプレしてのセルフ・ポートレート撮影です』
ん? そういう芸術写真もある……よね? 悪い事ではないような?
『それが2ポーズで撮影して、パソンコンで合成。片方の肌を褐色にして……』
「な!? まさかヌード?」
『だから、コスプレですってば』
「あ、そっか。何のコスプレ?」
『ほら、あるでしょう? 雑誌の』
「ああ。カワイイのや、カッコいい洋服?」
それならわかる。エルマはルビーを使ってなら衣類も変えられる。
『そういう場合もありますが、あれですよ『可愛い制服特集』とか』
ああ、女子校とか有名名門校のとか。本物を手に入れるとなったら大変だけど、そういう写真の載った雑誌をルビーに見せればできなくもないだろう。イリヤちゃんにはまだ難しいと思うが、エルマなら楽勝だ。凛さんも時々しているみたいな事を話していた。それは姉さんが堂々と魔術で編んだ服を来て出歩いているからだ。誰も気付かなければ神秘の漏洩もへったくれもない。姉さんはそういうところが大胆な人だった。
「それ、悪い事なの?」
ルビーが話す内容を聞いてそう返した。例えば学年章を変えて2回撮る、例えば片方は高等部で、もう片方は中等部の制服で撮る。そしてそれを加工して合成すれば、姉さんとのツーショットだ。また、私はエルマが穂群原中等部の制服を持っている事を知っていた。そしてそれを着て桜とツーショットを撮っている事も。かなりの無駄遣いだけど、幸いお金はあるし、何より桜が喜んだ事は間違いない。
私も今は彼女とよく話す仲なので、エルマに出会うまで桜には、中等部時代も含め親友が居なかったと聞いていた。エルマほどではないにせよ、桜は私にも心を開いてくれている。最近はその輪の中にアルトリアが加わりつつある。そしてその事を凛さんもまた喜んでくれているのだ。
『では何故、エルヴァさんに一緒に写って欲しいと言わないのかですよ』
あ、そういう事か。
「そうだよ。姉さんってコスプレ好きだったよね?」
『ええ。最近ご無沙汰なのは……』
『彼氏ができたんで控えとるんじゃろ。何よりエルヴァは学生気分が抜けてきておる。オトナになりつつあるんじゃなぁ』
そんな事を言うゾウケン君。チカチカ光るだけの小さなレンズが、遠い目をしているのがわかってしまう。だけど皆んなそうだよ。少しずつオトナになって行くんだよ。きっとエルマも自分の妄想より先に、姉さんのそういう変化に気付いたから言えないでいるんだろう。でもエルマ自身がそんな画像を通じて変化してきている。確かに傍から見ればまだまだ変だけど、それはきっと良い事だ。だから私は今は黙って見守ろうとゾウケン君とルビーに言った。
そうして部屋に戻り、電灯を点けた。
アメリカの対中国に対する締め上げが凄まじいですね。
そもそも海外に送金する事ができるコルレス・バンクの元締めである国際銀行間通信協会(SWIFT)を牛耳っているのがアメリカ。世界各国で使われているGPS(イージス艦やミサイルのGPSシステムも)を牛耳っているのもアメリカ。携帯電話用の小型半導体を作っているのも、特許を持つのもアメリカ。こんなところによくケンカを売れるものです。ドル決済できなくなれば国は終わりでしょう。
今更救けてと言っても、チベットやウイグルでの民族浄化や臓器強奪(日本以外では報道されています)が明るみになったのでもう無理でしょう。
日本もファイブアイズ参加を理由に、近い内にスパイ防止法を決めるでしょう。
中国の国民も日本のテレビしか見ない人も、液晶の部品が日本製で特許を持つのも出光だとも知らずに、LG電子が日本を抜いたとホルホルしているどこかの国の人と同じです。大きなしっぺ返しが来ますよ。