コーちゃんの家には炊飯器が3つもある。1つはリンナイ、1つはパロマ。もう1つは予備で、これまたリンナイだ。そしてその3台はどれもガス炊飯器で、驚きの『2升炊き』だった。つまり最大で6升もご飯が炊ける。まるで相撲部屋だ。だけどこれらは、業務用の炊飯専用器なので保温機能は無かった。だから一度炊いたら食べきらないとご飯が冷えてしまう。なのでこの家には、おかずが無くなった場合に備えて、ご飯のお供が何でも揃っていた。
ラップに包んで冷凍しろって? お義母様ができた人で、時短のレンチンはしても、温め直しが大嫌いなのだ。これは私も同じなので、大いに納得した。それにお米の消費量も今がピークだろうと見切っていらした。末っ子のコーちゃんで高3なのだから、これ以上大きくはまずならない。それに一番食べる弘二お義兄さんにしても、コーちゃん+α程度だ。むしろ今は、食後のプロテインの方にウエイトを置いている。腕が私の太ももより太いってどういう事だ?
ともあれそこまで見切るお義母様でも、お義父様や弘一お義兄さんの帰りが読めない日はある。そこで余ったご飯をこうしてコーちゃんと弘二お義兄さんとで掻き込んでいる訳だ。そのためのご飯のお供なのだが、それ以外の……お義母様特製のお漬物類はお義母様がお出しになった以上は食べられない。それは漬かる時間が必要だからだ。また市販のご飯のお供は意外と高い。ここまで食べる息子達が居るとかなり大変だ。なのでお義母様はこの広い敷地のあちこちに家庭菜園を作っていらした。また『姉のイリヤ』と同じく、リボーン・ベジタブルも活用されている。大根の青首を水を張った小皿や、切ったペットボトルなどに置けば葉っぱが育つ。そんな風にして可食部分を再生させる事をリボーン・ベジタブルと言うのだが、お義母様はそういう葉っぱをきんぴらにしたりお味噌汁の具にしたりしていた。
別にお金に困っての事ではない。『姉のイリヤ』もそうだったのだが、『勿体ない』と思う気持ちが強いのだろう。そしてそれは悪い事ではなかった。むしろ良い事だと思う。何故なら私もそういうタイプだからだ。
「はぁ~食った~」
2つ目の炊飯器をカラにできたらしい。今夜は私もお呼ばれしたのだが、お義父様も弘一お義兄さんもまだ帰っていなかった。この時間まで遅くなると、間違いなく外食だ。だからさっきも言ったように、余ったご飯を弘二お義兄さんとコーちゃんが処理したという訳だ。そしてお2人が遅い理由は、余り考えたくはないが、きっとこの事件のせいだろう。事件は東京だが、全国の警察に警戒せよと命令が下っていると思う。お義母様もご心配だろう。だけど私にそういう素振りを見せて心配を掛けてはいけないと思われたのか、後片付けのお手伝いを断られた。それでコーちゃん達とこうして話している。
そろそろお暇しようかと考えていたのだけど、弘二お義兄さんの推測についつい耳を傾けていた。
「だけどさ弘二兄ぃ。狙撃犯と襲撃犯、それと誘拐犯がどうして同じって思ったんだ?」
「俺の話を聞いてたのかよ? どう考えても10人や20人の、それこそA・B2チームが動きましたって規模じゃないだろ? となると組織犯罪しか考えられないんだよ。これは完全に組織によるテロ犯罪だ。そしてそんな大掛かりな事ができる組織が、そうホイホイあるか? 示し合わせたとも考えにくい。となるとかなり大きな組織だな」
「そうなのか?」
「ああ。けど警察や公安にはそういう組織のリストがある。そこに引っ掛からないなら……海外の組織、それも密航だ。海上保安庁や海自は何をしてんだって話になってくる」
「う~ん……」
コーちゃんはどうも腑に落ちないようだ。理由はわかっている。剣道部OBの就職先がなかなか決まらないので、犯行声明にもなっていない手紙の『世直し』に共感してしまっているのだ。コーちゃんの成績がイマイチなように、そのOBさんも成績が悪いからじゃないの? と思うのは私が第三者だからだ。きっとコーちゃんにとっては良い先輩だったに違いない。だけどお義父さんがこっそり話してくれた、
『あいつに警察官は向いていないと思う。だからエルヴァちゃんと道場を継ぐ話は幸いだった』
とはこれを指していたのだ。コーちゃんは他者への共感度が高い。そこが人としての魅力なのだけど、これで警察官だと苦労するのが目に見えていた。組織はドラマじゃない。『純情派』なんて辛いだけだ。そしてお義母様だ。未来の娘に情けない姿を見せたくないとばかり、ああやって必死に耐えて……。自分の事と愛する人の事は別だ。元婦警さんでも、やっぱり夫や子供の事は心配して当然だ。それを何年も何年も耐えて来た。
『エルヴァちゃん。弘三と道場を頼みますね』
そう、私が心配すべきは道場の未来なのだ。だけど今はお義母様と同じくお義父様や弘一お義兄さんが心配だった。冬木と東京は何百キロも離れている。だけどこの先が見えて来ない。あの日『エル』は知り得る限りの事を話してくれたと思う。だけど中国に行っていた『もう1人のエル』の考えが、今一つわからない。この後ご挨拶してお暇したのだが、結局帰りのクルマでもずっとその事を考えていた。
パミちゃんの勉強を見てあげた後、エルマが日本から送ってくれたお菓子の詰め合わせをおやつで楽しんでいた。プリッツにポッキー、きのこの山とたけのこの里、カラムーチョにじゃがりこ、明治のハイレモンに三ツ矢サイダー・タブレットにラムネなどだ。特にラムネは、落雁タイプのクッピーラムネとコーティングタイプの森永ラムネの2種類が入っていた。これは絶対に海外にないし、私のフェイバリットだったから嬉しかった。
「エルヴァ、これはなに?」
「ラムネですよ」
「ラムネ? どういう味なの?」
「レモォネー(ド)。それが訛ってラムネです」
「レモネードなんだ? へぇ~」
それで森永の方を開けてあげた。
「あ、シュワッと甘い。これ美味しいよ」
「でしょう? 元々は西欧から入ったレモネードに似せた味のラムネという飲料が日本にあって、その味を再現したお菓子なんですね。長い歴史のあるお菓子ですから、子供の頃から食べ慣れていて、これが好きだという人は高校生でも多いですよ」
「へぇ~」
こういうお菓子がどっさり入った段ボール箱が、合計3箱もあった。なので皆んなで食べましょうと下に持っていき、モニカさんやミアータさんに預けてあったのだ。それで追加のお菓子を持って、もう一度2階に戻るとリンさんに手招きされた。
「ちょっとパミにあなたを借りるって言ってあるの。こっちに来て」
何だろう?
「ズバリ、訊くけど。フンボルトと上手く行ってる? ケンカしてない?」
「いえ、ケンカはしていませんよ」
「なんかあるでしょ? 悩んでいるなら何でも言いなさいね」
気付かれたか。リンさん、優しいな。
「別にマリッジブルーな訳でもないんですが……お互いに『契約』に臨む上で暫く我慢しようと」
「ああ、我慢というか……お互いを見つめ直そうと……。彼は魔術師じゃないけど、アインツベルンの血を引いているのよね?」
「はい。それと旧家の価値観を持っているので、本来は結婚を誓った相手と婚前交渉はしないタイプなんですよ」
「私らが焚き付けちゃったようなものだからねぇ」
「私、態度に出ていました?」
「うん。だからケンカでもしているのかと思ったの。でも、逆ね。距離を取らないと燃えちゃうんだ?」
「言わないで下さい。もう、身体が覚えちゃって……」
「相性が良いのね。彼、ウマい?」
「わかりません。彼しか知らないし。でも、丁度いいって感じです。そちらは?」
「そうね。そういう意味では成長したかな? でもさ、あいつの価値観だと、結婚=ゴールになっちゃう可能性があるからね。そこも上手くコントロールしないといけないのよ。それでなくとも付き合いが長い分、マンネリになりやすいし。そこも大事なのよ」
なるほど。きっと先日の窓から見えたあれもわざとだ。見せたかったのでなく、シチュエーションを変えたかったのだろう。それと結婚=ゴールというのは日本人だなぁと思った。倫敦まで行っても抜けなかったか。つまりシロウさんはリンさん以外の女性と余り話す機会がなかったし、同性の友人も居なかったという事だ。だから余計にフンボルトと仲良くなれたのかも。彼はセックスこそ成功しなかったようだけど、お付き合いの経験は豊富みたいだから。悔しいので、前の彼女の話なんて詮索した事はないけれど。
「でも、マンネリ解消の方法なんてほとんどされているんじゃ?」
お尻まで開発済みだと話していたからなぁ。ポルチオ(子宮口)を膣からでなく、外から押される感覚が良いなんて言ってたものね。私の場合は経験が浅いので、ポルチオを突かれるとピリッとする時があるし、何よりフンボルトのが大きいから、奥を広げられると苦しい。挿入って来る時もちょっと息を吐かないと。なお膣内の性感帯はクリ◯リスと繋がる前側のGスポット、その少し奥のAGスポット、Gスポットより浅い部分にあるTスポット、クリ◯リスの直ぐ下にあるUスポット、尿道口から膣口までの間のカリナ、そしてアナルと、アナルの性感帯と繋がった裏Gスポットと様々ある。
え? こんなにあるのって? 甘い。もっとあります。だってこれは主に股間の話で、女の子は胸もあるし、開発次第で脇も首筋も背中も全部性感帯になります。
一応解説すると、クリ◯リスが男性の先っぽの亀さんになる。このクリの根本からUスポットの掛けてが裏筋に近い。そしてカリナが亀さんの周囲に近い気がする。この辺は、目隠しをしていてもどこを触られているかがわかるのだけど、その快感が脳にどう伝わるかだから個人差があるように思う。
そしてクリは、男性でいうとオシッコの洗礼を受けていない尿道口だと思う。ある程度感じてからでないと、触ると痛い。特に男の人のカサついた指だと。だから私はフンボルトに露出させたら直接指で摘まないでとお願いしてある。それも相当感じてからだ。最初は包皮の上からでも痛い。それなら膣口からのぬめりを掬って、ラビアやUスポットやカリナを攻めて欲しい。
だけどその前に気持ちを高めてくれる触れ方と言葉だ。フンボルトはそれがとても上手で、内心ペッティング慣れしているなってつくづく思う。そして無性に悔しい。それは裏返せば、フンボルトのこれまでの女性遍歴を物語っているからだ。そんな彼でもやっぱり最初の頃は、ほんの少しだけ私の方の我慢があったと思う。それがあの仮想空間で私になって貰ってから、やたら上手になった。やっぱり男女は身体の構造だけでなく脳の構造が異なるから、どんなに学習能力が高く上手な人でも限界があるようだ。言ってみれば今までのフンボルトは文化鍋(それもかなりハイレベルな炊き加減)。でも、私になった経験を積んだフンボルトは、ご飯専用の釜焚きだ。この領域に至る男性ってまずいないと思う。
だからフンボルトがますます愛おしく、だからこそ余計に私の全部を知って欲しいという気持ちが強い。なので全性感帯を開発したいと思うのだ。この性感帯は女の子だけでなく男性にもある訳だけど、肉体の構造の違いと、その人特有の神経や脳への伝達経路があって誰もが同じとは行かない。取り分け女の子の性感帯でも膣内は、初体験を迎えるまで普通は開発なんてしないものだ。なので一から2人で脳への経路を開いていく。開発という言葉を使うのはその意味だった。そしてこの2人というところにミソがある。私は魔術師として、性知識はかなりある方だ。だけどこれまでの自慰で一度もディルドゥを使わなかったのは、好きになった男性好みの女になりたかったからだ。
『ミト』が話していた。
『異なる男性に抱かれると感じ方も異なってくる』
って。これは間違いないと思う。だからこそ私はフンボルトにとことん開発して欲しい。だけど子宮口のポルチオを突かれると『グヘッ』となる。それは『チンボルト』の亀さんが大きいので、先っぽが脇のポケットに逃げず、直接ズ~ンと子宮を押し上げるからだ。性感帯と敏感な生殖器官を一緒くたにして横隔膜を押すのだ。ちなみに彼とのセックス前のお手洗いは欠かせない。挿入ってきたら、膀胱や大腸に溜まっていたものが押し出されそうになるからだ。特にあの現実空間だとヤバい。脱糞はないが、何度か失禁は経験済みだった。これならタガが少々ハズれようが、アバターな仮想空間の方が良いとも言えた。
だからそちらは後回しにして、フンボルトとはAGスポットにGスポット、そしてTスポットを先に開発した。と言うか覚え込まされた。最初に知ったのは、あの日本での騎乗位だった。『チンボルト』が長いだけではなかった。彼のものだと亀さんも大きいので、引く時に私の小さな膣内のAGスポットとGスポットを、ズルンズルンと間髪入れずにコスって来るのだ。そのダブルの感覚を少し錯覚していたのだった。ちなみにこのAGスポットがいわゆる『奥まで来た』という感覚だ。そしてバックになって初めて子宮口のポルチオが刺激されるのが、日本人を含む東洋人を相手にした場合の通常らしい。だからだろう。私は『エル』と違って対面座位でなく背面座位が良かった。特に立位で抱えられるとAGスポットにズンズン来る。十分に高まった後のこの体位だと、今はフィニッシュで『彼女』にクリを舐めて貰わずとも失神するか失禁してしまう。
次のGスポットはある意味クリ◯リス並に感じやすいところだから、その気持ち良さはアッサリと覚えた。その人の体型にも拠るだろうけど、私は炬燵隠れが一番良い。フンボルトが仰け反ってくれると最高だ。抜ける寸前まで引いてくれるとTスポットまで感じる。この体位の場合、2人の上半身は離れている。なので『彼女』がお相手している時に、出し挿入れされている『チンボルト』の上に『彼女』のクリやUスポットが丸見えになる。なのでそこを指や舌でサポートしてあげると、律儀な『彼女』は私の腰を抱いて、仰け反った顔の前に私の秘部を乗せるように促す。少し変形の69はフンボルトの射精感を高めるらしく、膣内で射精してたのに抜いても射精し、その二番ダシや三番ダシを顔面で味わった事もある。
だけどこのGスポットの奥深さを教えてくれたのは『彼女』だった。フンボルトは西欧人にしては硬い方だ(自己申告後、AVを見せられて)。だけど東洋人のあの硬さには届いていない。そしてこれが不思議だが、半分父の血を引く私と『彼女』が付けるそれは、その勃起力で少々のものがぶら下げられそうだった。なおどこかの求道者は100人分の性欲を担っているのか、ラグビー部御用達の大きな薬缶を満水にして持ち上げられると豪語して『パミ』に殴られたそうだ。あの『パミ』が人を殴るのも驚きなら、鍛えればそれくらいになるポテンシャルがある事にも驚いた。
そんな訳で『彼女』なら本手系、つまり正常位でもその勃起力だけでAGスポットにGスポット、そしてTスポットにゴリゴリと、本来の意味での快感を味わえた。だからこれを知って欲しくて『彼女』を抱いたし、私になったフンボルトも抱いた。私達はお互いが本当に大切なパートナーだった。そしてその絆は以前の比じゃない。
「まぁね。そん時はフンボルトを貸してくれる?」
だから、リンさんのこれは冗談だとすぐにわかったし、何よりフンボルトが断ると確信していた。ちょっと前までなら、カーッと頭に血が昇ったものだけど、今は笑いながら首を横に振るだけだ。それも意味深にウインクして。
「ん?」
「大きいですよ、彼。今ままで話しませんでしたが、私の腕くらいありますから」
「ウッソ!? マジで?」
「マジです」
「そのちっこい身体で……そんなのを……? 外人だから?」
「その要素もありますが、半英霊だからだと」
「ああ……なるほど」
リンさんとはすっかりこういう話ができる間柄になっていた。
「手がないなら、アレですよ」
「アレ? アレって?」
「置換魔術」
「うん? あ。精神を入れ替えるのか。でもあの魔術でそういうのってリスキーよ?」
さすが優等生。置換魔術の弱点をちゃんと知っていた。
「ですから、その愛し合う時間だけ足の小指を動かなくしたり」
「ああ。敢えて劣化分を代替対価で決め打ちしちゃうんだ?」
「はい、そうです」
「なるほどね。それ、教えて?」
それで方法を教えた。それと効能として、男性の前戯や後戯が上手くなり、賢者タイムにも気を使ってくれるようになると話した。逆にこちらも男性のオーガズムや賢者タイムが理解できるので、お互いをより深く思い遣れるようになるとも。リンさんは感心して聞いていた。こういうのは文献に残らない。時臣小父様や葵小母様が娘に教えるべき事だ。だけど……リンさんのご両親は、彼女が小学生の低学年の頃に亡くなられている。
だから私は凜との情報交換で教わった遠坂の性生活をリンさんに教えた。それは生理の周期をきっちり測り、そこから割り出した排卵日や高まる性的欲求に合わせた変形のポリネシアンセックスだった。つまり性交期(挿入時期)を月に1~3回と決め、そこに向けてお互いに『魂』を高め合う。普段から言葉や態度でお互いを慈しみ尊敬しあい、1週間ほど前からボディタッチを増やし、3日ほど前からは性器に触れないで裸で抱き合う。その際にお互いの骨盤を意識し、自分達2人だけの世界へ没頭できる空間と時間を整えていく。そしていざ当日は結界を張って誰にも邪魔されない寝室で、愛の言葉を交わしながら性器への愛撫をゆっくりゆっくりと加えて行く。やがてお互いに心の底から求めた時に挿入に至る訳だが、ここではピストンでなく、お互いの勃起力と収縮力を利用し、性器の繋がりを通してお互いを感じ合うのだ。
するとバルーン現象(子宮が下がること)が起き、少し押す程度の動きでポルチオ・イキが可能となる。また男性側も慣れれば脳イキやマルチプル・オーガズムを得られるので満足度が高くこの方法の虜となる。実はこの方法は古代ギリシアの時代からあって、魔術師の家には何らかの形で残っているか伝わっているものなのだ。つまり遠坂だけでなく少し方法が違うけれど、私の家にもこれは伝わっていたのだ。だからこその置換魔術に拠る精神の入れ替えだった。男性はそれにより、女性のツボやイキ方、脳イキやマルチプル・オーガズムを知る。また女性も男性のイキ方を学ぶ事で、高め合い方や触れ合い方が理解できるのだ。
「ありがとうね。そっか周期をね……当たり前っちゃぁ当たり前よね? どうしてそれが思いつかなかったかなぁ。幻影を見せるのも限度はあるし。困っていたのよ」
「幻影?」
「うん。桜やセイバーと思わせてさ」
あの旅のトレーラー……やっぱりか……。シロウさんは浮気願望があるのだろうか?
「そっか、男性でも女の子みたいにイケるようになるんだ?」
「はい。普通は難しいですが、一度意識がそれを覚えてしまえば。元に戻っても脳への回路は繋がりやすくなっています。ですから置換魔術を併用して下さい」
「なるほど。もう何回も?」
ここから半分嘘が交じる。それは私になったフンボルトが『チンボルト』を恐れているからだ。何より『自分に抱かれる』という行為に、かなり嫌悪感があるからだった。だけど相手が私で、なおかつ出どころが『もし男性だったなら生えているだろう逸物』であるなら抵抗感が皆無に近いのだそうだ。ましてアバターだとわかっているからだろう、最後にあの空想空間(仮想空間)に入った時に、私も彼女もフンボルトからのフェラを味わった。感激が大き過ぎて、すぐに射精た。彼女も2~3舐めくらいで果てていた。
そして初夜に向けての私と彼女の計画はこうだ。さすがに『チンボルト』は無理だけどアバターだったら? 要は『エルチン』でもって、2人の後ろもフンボルトに捧げようという案だった。アバターならお手入れも準備も、そこまで気を使わずに済む。何より変なものが付着したりしないし、感染症の心配もない。リンさんじゃないけど、もっと早く気付けよという感じだ。
「じゃ、あなた、男性のイキ方を体験してるんだ?」
「はい。私は処女も童貞も彼に捧げましたよ」
「あ。そうなるんだ。なにそれ、ラヴラブじゃない。良いなぁ……」
これでホムンクルスの素体や人形が用意できて、分割思考で両方動かせるなら。2人でシロウさんを愛せる。それこそ片方は桜人形でもセイバー人形でも良い。だけどこれは言わなかったし教えなかった。教えればリンさんならモノにできる可能性は高い。だけどそれはアインツベルンの秘術だ。頭首でもない私がバラして良いものでは決してない。
「ホント、これは良いことを聞いたわ。ありがとうね」
良いですよ。対価としてリンさんの事はとっくに解析済みですから。今まで凜や凛に悪い気がしてしませんでしたが、そろそろ別のタイプを空想空間で作っても良いと考えていましたので。ああ、でも中身が自分だとわかっていても、想像するだけで胸がチクチクする。やっぱり許せるのは彼女だけだな。何より私は彼女個人だけでなく、彼女とのレズビアン行為も好きだった。要は『エルチン』なしでも満足できる。これは彼女もそう話していた。
「ちょっと、エルヴァ。目がトロンとしているわよ?」
「え? あ、はい……」
「もう~。イルクーツクで苦情を言ってきた子が、ここまでになるとはね」
「言わないで下さいよ」
そうして笑い合いながらお部屋をお暇した。そうして振り返って改めて思った。フンボルトは奇跡に近い人だった。『エル』の一部だった頃は決して交わる事もない『優しいお兄ちゃん』だった。それはまるでパミちゃんから見たフンボルトだった。そしてあのフンボルト君は『パミ』の事が好きだった。結局、別の人と結婚しちゃったけれど、彼は『ミト』が好きだと公言しつつ、隠れ『パミ』派だった。と言うのは彼に少しロリっ気があるのを、私が気付いていたからだ。きっと『ミト』が言い寄るフンボルト君を何度もフッていたのも、そこに気付いていたからだと思う。
因みにそれは真性でなく、彼の子供好きな点と単に小さい女が好みだという嗜好がリンクしていただけだったのだけど。そして私のフンボルトも子供好きで、小さな女性が好みだった。出逢ったばかりの私をして、『理想』と言い切っていたのもそこにあったのだ。もしかしたらそういう小柄な女性とばかり付き合うか買うかばかりして、性交が失敗していた可能性は高い。だけど大きくて太いタイプは彼の好みから外れていた。
※)『ExxxtraSmall』というジャンルがあって、小さな女性を好む男性は欧米にそこそこ居る。
それと健康に気を使い、身体の引き締まったタイプがお好みらしく、私の腹筋や小さなお尻を褒め称えても、文句は何一つ言わない。今まで『最高だ』『理想だ』というような褒め言葉しか聞いた覚えがないのだ。この『エル』とは掛け離れた褐色の肌も彼の刺激になるらしく、『エキゾチックで素敵だ』としか言われていない。だからコントラストが付く白い下着が彼の好みであり、あの夜の白いウェディング・テディみたいなのも彼のツボだった。なので、結婚式当日の下着と夜の下着は既に『彼女』の分と併せて用意してあった。
また彼は、例の撮影に使う衣装のような妖しいゴスロリやドレス姿も好みらしく、似たような衣類を何度かプレゼントされたりもしていた。だけどスポーツブラやプリント・パンツはない。彼はロリコンでなく、妖精のような妖しいタイプが好きなのだ。だからもしかしたら、並行世界での第五次の、バーサーカーを連れた『イリヤ』に逢うと、すっ飛んで行ったりせずに、兎にも角にも話を聞こうとするだろうなぁ。この意味は私としては結構複雑だ。例えばパミちゃんだと『妹であり家族』だし、あの子は見た目も白人のミドル・ティーンだ。だけど彼の目から見た(写真を見せた)イリヤちゃんやクロエちゃんは、『かろうじてのローティーン』であって、普通なら10歳以下にしか見えないという。だから第五次の『イリヤ』が18歳だと知ると、どういう神秘だと話を聞こうとするだろうというのが私の予測だ。つまり、本来の彼の目から見た私は、ミドル・ティーンだ。だから実情を知って、私が余計に『妖しく』感じるのだそうだ。
これを最初に聞いていたら、お互いに誤解してケンカになっていたかも知れない。だけど慎重で思慮深い彼は、クルマやメカの話から私に切り込んできた。そして徐々に話すようになり、今はこうして『怒るような話』を『笑ってできる間柄』になった。そもそもいつもいつも『僕の理想だ』と言われて悪い気はしない。だからこちらも、彼を深く知り好きになればなるほど、そんな彼の期待を裏切らないよう努力する自分に変化した。
有酸素運動で脂肪を燃やし、柔軟運動で身体の柔らかさをキープする。以前はそんな事をしなかったのに、アインツベルンにある割とメジャーなレシピで乳液を調合して美肌もキープ。化粧も穂群原に通っていた頃とは比べられないくらいしている。こんなに夢中になれる、『心の底から愛せる』人が居たなんて。
これは私個人の考えだけど、一目惚れの頻度は男性の方が断然高い思う。女性はそのオーガズム曲線と同じで、徐々に徐々に好きになって、長く永~く愛するのだと思う。勿論、異論はあるだろう。だけどそれを認めた上で、元来男性は外へ狩りに出るものだし、女性は子を慈しみ育てるものだと思う。つまり男性は外に出て、居残る女性と遺伝子を残す子供が生きて行けるだけの食料を得られるのなら、別の女性と子供が居ても自然だという原始的な考えだ。だけど男女の根源的な違いがそこにこそあると私は考えている。当然これは時代や環境を限定的に絞った話だ。現代社会のように物事が複雑化すれば、取り巻く環境も複雑だし、個々のライフスタイルや嗜好も影響を受けて変化するだろう。
だけどもう一度言うが、太古からの記憶に裏打ちされた本能には、中々逆らえないものだと思う。だから現代の女性は無理をして背伸びしているような気がしてならない。何でもかんでも昔が良かったとは言わないけれど、もう少し肩の力を抜いて、男性を敵視するのでなくサポーターだと受け止めれば楽なのになと思う。私なんて家を護るのは押し付けられた雑事でなく、女に与えられた特権だとまで考えている。だから男性からのお手伝いは嬉しいけれど、家事や炊事は任せて欲しいと思っている。母から受け継いだホムンクルスの血とママ達の躾が、メイド本能を駆り立てているのかも知れないけれど、男性のバーベキュー・マスターすら少しイヤだと思う自分がいたりする。
だけど魔術師の妻(フンボルトは魔術師ではないけれど、私が魔術師なので)で、しかも男女の違いを本能だと思うのなら、私はフンボルトの浮気を我慢しなきゃならないのだろう。でも、それはイヤだ。だからここでこそ魔術を使う。私はアインツベルンに生まれた事を感謝した。『エル』には悪いが、あのフラスコ(培養槽)の時間も無駄ではなかった。マリッジブルーはもうとっくにない。気持ちも心も身体も、準備はできていた。
『征くぞ、フンボルト。精子の貯蔵は十分か!』
頭の中で『お兄ちゃん』が顔を真っ赤にして追い駆けてきた。
全国一斉の休校が解かれた。非常事態宣言の翌々日の事だ。報道関係社の身内が開放されたのだ。発見場所は富士山の近くだった。私達の知らなかった裏取引が犯人とあったようで、各放送局の上層部が金銭の流れや、自社に巣食う外国籍の者、さらに旧中国などとの関わり合いを全部白状したのだ。
そして今まで中国の発表を否定していた野党や与党の一部、並びに大学などの左派教授や宗教団体も湧き上がる世論の声に屈服し、自ら辞職、或いは活動を停止した。日本は一気に変わった。スパイ防止法案はすんなり通り、各種団体、大学や労組にも司法の手が入った。ある生コン会社は逮捕者が百人以上も出たし、学術会議? なんて知らない団体も解散した。
そうしてここに来て初めて、崩壊した北の拉致被害者が現中国の手で救い出されていた事があちらの発表でわかった。また首相の3人の息子も発見された。世間は大騒ぎだった。『誘拐されていたのか?』『子供は2人じゃなかったのか?』。すっぱ抜けた週刊誌はなかった。出版社からも逮捕者が大量に出ていたからだ。
『国益以外で隠すやつはスパイ』『正しい事を隠すやつはスパイ』『デタラメを言うやつはスパイ』。もう、そういう風潮になっていた。
そしてここで中国の『エル』の真の目的が判明した。奴は何と転売先の決まっていた旧S武とセ◯ンに、かなり危なそうなマ◯カルを買い上げ、その一部に中国資本を招き寄せたのだ。『黄金バットの下僕事件』解決の目処も立たない、この2004年の師走。日本は本当に大きく変わろうとしていた。
『バブルが弾けて低迷する日本経済を、脅しつけて緊縮から出動・拡大路線に持っていき、ついでに煩そうなメディアや学者をぶっ壊した。そして土地開発事業に強かった、青息吐息の会社を買い取った……。しかも鉄道とデパートやマーケットもセットで。当然、今後は政府から税金がバンバン投入されるから国内はまた潤う。すると『倉廩(そうりん)実(み)つれば即ち礼節を知り、衣食足りれば即ち栄辱(えいじょく)を知る』状態になる。国家全体のマナーやモラルが良くなり、議員や企業の汚職が減るのだ』
事実この後、各国のアパレルや各種食料品がこの新しいデパートやマーケットに集まった。安くはなかったが、デフレ脱却した国内では安定した売れ行きで、中流意識が戻った人々はコンビニでなく、こういうスーパーやデパートを利用した。身内が議員だった某グループは、その議員の旧中国との関わりが暴露された事もあって、2007年までに地元店以外撤退した。私が倫敦から戻った頃、それはもう知っている日本ではなかった。街を歩く誰もが幸せそうだったのだ。
『だけどこれにストップを掛けたいアメリカは……。あ。アルカイーダだ。ブッシュ・ゲートをでっち上げるの? いや、でっちあげるとかのレベルじゃない。それくらいとっくに手を回しているはずだ……。となると……それでアメリカ人や日本人に拠る中国観光や工場誘致だ。そのための土地開発事業の買取だ。あいつは日本の土地や水源に興味ないだろう。欲しいのは日本の持つ技術だ。土地開発に鉄道システム、クリーンなゴミ焼却やクリーンな工場、そのノウハウ。他国に自慢するための高速鉄道は要らない。自国民が日常的に使える鉄道網と沿線のデパートにスーパーや住宅。そしてその後に……半導体? 違う、産業ロボットか?! そのノウハウを手に入れる積もりなんだ。第一『エル』は、産業ロボットなら自社用のそれを既に持っている。つまり並行世界のそれをミックスすればオリジナルを言い張れる。となると特許関連は提出済みだろうなぁ……なんてヤツ。自分とは思えない冴えだ』
中国で初の国民に拠る、民主的な投票が行われたのは2006年だった。その後は凄まじいまでの発展を遂げた。と同時に工業だけでなく、農業大国としても発達したのだった。
終業式が終わったら、クロお姉ちゃんと真っ直ぐ家に帰った。ママやセラがやってくれているので、ほとんど準備はできているけど最後の確認があったからだ。明日の朝、私達はスイスのチューリッヒに向かって出発する。久しぶりにエルヴァに逢うのも楽しみだけど、もっと大きなお楽しみが待っていた。アメリカにいるエルヴァお姉ちゃんの結婚式なのだ。
だからママとクロお姉ちゃんに私と、こっちのエルヴァお姉ちゃんにエルマお姉ちゃん、そしてトロンメルお姉ちゃんの6人で行く。お兄ちゃんが来れないのはアメリカのエルヴァお姉ちゃんの事を知らないから。ちょっと可哀想だけど、話すとなると魔術のことまで話さなきゃならなくなっちゃう。だから秘密なんだ。
それとアインツベルン一族の儀式に合わせた方法だから、凛さんもルヴィアさんも出席できない。と言うかお向かいは凛さんとマルガリータさんがお留守番で、これまた明日の朝、美遊と美遊のお兄さんとルヴィアさんはフィンランドのヘルシンキへ出発だ。それも私達と同じ便だ。つまり私達はヘルシンキ経由なわけだ。こんな偶然ってあるんだね?
そしてクリスマスの日。私達は朝早くに出発した。セラとリズお姉ちゃんはお兄ちゃんとお留守番だ。お兄ちゃんがすんなり残ったのは、エルヴァお姉ちゃんやイリヤお姉ちゃんのお姉ちゃんの結婚式だと言ってあるから。だから叔父であり叔母であるお父さんとママも招待されていて、私とクロお姉ちゃんもお呼ばれしているんだって言ったらすんなり納得していた。そのお父さんはとっくにチューリッヒに行っていて、週末は寮から戻るエルヴァと仲良く過ごしているんだって。今まで私達が独占していたようなものだから、楽しんでもらえるといいな。
「お姉ちゃん、セイバーは?」
クロお姉ちゃんだ。
「彼女もお留守番ですよ。年内のアルバイトがまだ残っているのもありますが、アルトリアの件もあって。それにセイバーとのパスが彼女は切れています。勿論、彼女にも思い入れはあるでしょうから、日本に遊びに来て欲しいとメールしてあったんですよ」
「そっか……。で、吉川の兄ちゃんにはなんて?」
「そっちの方が言い訳は簡単ですよ。それこそ姉の結婚式だと離せばすんなりでした。前々から姉妹が多いと話してありましたから」
「う~ん……」
「どうしました?」
「魔術を知らない普通の人と付き合うのは大変だなぁって」
「まぁ、それもどうにかなりますよ。ただ周りの協力と、自分の努力や機転は必要ですね」
「そう考えるとルヴィアの乗り換えは正解だね」
乗り換えって……まぁ、お兄ちゃんには桜さんが居るからね。初めて家に来たのは私が3年生の頃だった。まさかお兄ちゃんと付き合っていたとは全然気付かなかった。だってそんなしょっちゅう家に来ていたわけじゃなかったし。でも、まさか凛さんの本当の妹さんだったとは。色々あって大変なんだってお姉ちゃんは言っていた。だから今はお幸せにって気持ちが強い。
そして2人はお兄ちゃん子な私に気を使って、付き合っている事を秘密にしていた。だからルヴィアさんもそれを知らなくて、最初はお兄ちゃんが好きだったみたい。でも美遊を妹と言いきっちゃう人だから、美遊のお兄さんの士郎さんが合っていると思うな。そのルヴィアさんは美遊とお菓子を買いに行っていた。ここは空港の搭乗ゲート前。手荷物検査も終わって、皆んな思い思いに過ごしていた。この荷物でルヴィアさんがブツブツ言っていた。なぜなら私達の着替えが入ったトランクは全部エルマお姉ちゃんに預けてあるからだ。こうするとチューリッヒで荷物を待つ必要もないし、紛失の心配もない。そこをルヴィアさんは羨ましがっているのだ。あ、戻ってきた。
「そろそろ時間ですわね」
「ええ。行きましょうか」
そうしてルヴィアさんとお姉ちゃんの掛け声で、皆んな搭乗口に並んだ。
以前行ったサンフランシスコの東側には、北北東から南南西に伸びるとても長い谷がある。その谷の東は、エルドラド国立森林公園やヨセミテ国立公園などの山というか高台の自然公園が幾つも並び、西にはメンダシーノ国立森林公園やロス・パドレス国立森林公園などがある。この2つの公園の真ん中がサンフランシスコだ。谷は北のレディングから南のベーカーズフィールドまで。全長600kmを有に超える。そんな巨大な谷をセントラル・バレーと言うのだけど、長いだけに北側をサクラメント・バレー、南側をサンホアキン・バレーと呼び方が2つもある。
この谷は農業地帯でカリフォルニアの胃袋をかなり支えている。特に南のサンホアキン・バレーはオレンジやモモにトマトやニンニクなどの名産地で、中でもグリーンアスパラは有名だった。なのでドイツ系の私達は絶大な恩恵をこうむっている。湯がいて良し、焼いて良し、揚げて良し。スーパーではほぼ年中手に入るのでポテトとともに私達にはなくてはならないものだった。
そして今朝の私は、そのアスパラとトマトと少量のマッシュポテトだけで、日本のものとは比べようもない、味が濃く美味しいベーコンも喉を通らなかった。本日のお昼にチューリッヒに向けて飛ぶのだが、やはりいざとなると緊張してしまって……。
フンボルトが心配そうにこちらを見たので『大丈夫』という意味で首を振った。
「緊張して喉を通らないんですよ」
「ああ。わかる、それ。フンボルト、大丈夫よ。エルヴァもスイスに行けば元に戻るわよ」
「そうだね」
とっくに食事を終えたフンボルトとシロウさんは、デザートのモモを食べていた。
「こんなに味気ないモモは初めてだ」
路地物の旬もとっくに過ぎている。それでもこんな12月まで売っているのがカリフォルニアだ。ただし、日本の瑞々しく甘い桃とは全然違う。酸っぱくはないが甘みもわずかで李(スモモ)に近い。果肉に水気がないので違う種類のものを食べている気分になる。それがアメリカのモモだった。
「エルヴァ、赤ちゃんが女の子なら名前をピーチにしようよ」
1人で遊ぶ事が多かったパミちゃんは、思った以上のゲームっ子だ。今はアーチェリーに行ったり、友達ともよく外で遊んでいるが、『現象』となった彼女の残した欧州版の『PlayStation』や『Super Nintendo Entertainment System(欧州版SUPER Famicom)』、『Nintendo 64』などの据置型に、『Game Boy Advance』といった携帯型を持っていて、ここに来た当初は、コンセントに変換機を付けて1人で遊んでいた。
それがなんだか悲しくて、暇さえあれば外に連れ出すようにしていた。だからアーチェリーを続けてくれているのは本当に嬉しい。だけど『良い子にしていたらエルヴァがゲームを買ってくれるよ』と、フンボルトが話していたとも聞いている。まぁ、友人と出掛けてくれるだけで十分嬉しいので、あの『Thanksgiving Day』の前に『PlayStation 2』と『Nintendo DS(出たばっかり。日本より早かった)』を買ってあげたのだが。今は来年出る『PlayStation Portable』が欲しいと言っている。
普通の親なら叱るのだろうが、パミちゃんは本以外に何かを自分から欲しがる子ではなかった。それがまた寂しいのを我慢している気がして。ついつい私はエルマに、日本だと既に発売されている『PlayStation Portable』を買ってスイスに持って来て欲しいと頼んであった。勿論これはサプライズで、パミちゃんには内緒だ。ちなみにパミちゃんはマリオ・シリーズのファンだ。だけど部屋には『NINTENDO GAMECUBE』や『Xbox』、『BIOHAZARD』のシリーズに『Halo』の1と2があった。どう考えてもフンボルトのものだ。
そしてあっちのフンボルトもゲーム好きだったのだと思う。それでたぶん、そういうのを聞いてパミちゃんと一緒に、私に隠れてこっそりと楽しんでいるのだろう。別に隠す必要なんてないと思うのだけれど、きっとパミちゃんが私に気を遣ったのだろう。なら、知らないフリをするのが正解だろうね。
「そうですねぇ。女の子なら『桃』って名前も良いですね」
「『MOMO』?」
「イタリアのハンドルメーカーの名だ。君も好きだねぇ」
「違います! ピーチ! それの日本語!」
フンボルトとパミちゃんが『オオ』という中で、シロウさんとリンさんにモニカさんやミアータさんが笑っていた。
「じゃぁさ、『Yoshi』なら? カワイイよ?」
「ああ、そうだね」
フンボルトまで何を言ってるの? 女の子の名前だよ? だけどパミちゃんにもフンボルトにも悪気はない。『ヨッシー』が、とあるカメ族の名だと知っていても、それが日本語ではどういう意味を持つのか2人は知らない。元弓道部員で日本育ちな私とシロウさんは複雑な顔で、リンさんも微妙な顔だ。だけどこれは、それだけ日本製のゲームが、ワールドワイドになっているって事の証だった。
そして全部がそうだとは言わないが、学校などではゲーム機を持っているかどうかで微妙なグループ分けがされてしまうのが今の世だった。だから私はパミちゃんが欲しいと思うのなら、遠慮なく言ってと話してある。カリフォルニアも学校は多い。特にこのロサンゼルス近郊は。そしてこれまたご多分に漏れず、地域の公立は空気がイマイチで、高級住宅街の公立や私立はまぁまぁだ。ケリィの『イジメ』もあって、私はパミちゃんの学校をどうしようかと本気で悩んでいた。
私には、黒人やヒスパニッシュへの差別意識はないが、低所得層ほど教育が疎かになりがちなのは知っている。だからこの後のLGBT運動はある程度理解できても、差別と区別を混同するようなポリコレにはかなり懐疑的だった。なお先のLGBTはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスセクシャルの頭文字を取ったもので、性の多様化を謳った運動だ。これにしても問題を切り分けられない人が大勢を占め、どうもなぁと思うところが多い。
まず、『性指向』と『性嗜好』が混同されている。持って生まれた指向と後天的な嗜好は別物だ。次に『愛』と『本能』は別だという事も大切だ。好きになった相手が同性であろうと異性であろうと、中間性であろうと行ったり来たりしようと、相手に強要しない限りそれは本人の自由だ。だけど異性同士でないと遺伝子的な子孫は望めない。保健所で殺処分を待つ犬や猫を救ける事が尊いように、食べていけないからと口減らしで棄てられた子供を養子縁組にする行為もまた尊いものだ。そういう子を引き取りチャンスを与えるのなら同性婚も意味があると思えるが、子育ての苦労を放棄し、子孫を望まぬ同性愛には肉欲と性嗜好しか見えて来ない。私はそれはどうかなと思っている。
また、マイノリティの中にはもっとマイノリティな人が居る。例えばこれはトランスセクシャルに含まれるのかも知れないが、半陰陽やインターセックスなど、性分化疾患の中のアンドロゲン不応症に因を発する症候を持つ人々の事だ。染色体の異常は神様もコントロールできないようで、ごく少数だがそれに悩まされる人々が昔から存在する。これが外見に現れるような異常だと、周囲の人々は気付かえるものだ。だけど外見に出ない場合だと。見た目は男性なのに染色体は女性だとか、女性にしか見えないのに男性であるとか、どちらかと言えば男性であるとか女性であるとか特定しやすい容姿なのに、その性器は未分化で形成不全であるとか。こういう本当の意味でマイノリティな人をLGBTは数えない。しかもこのマイノリティな方々を調べれば、性の嗜好はほとんど後天的なものであるとわかる。
つまり声高なLGBTのほとんどはロリコンやショタコンと同じ変態だ。そして聖職者にも高学歴な高所得者にも変態は多い。低所得者が時折その膨大なコレクションを警察に並べられたりするが、あの日本の方法は素晴らしいと思う。捕まった窃盗犯も心置きなく刑務所に行けるだろう。だって世間に知って貰えたから。だけどなまじ金のある人は誰にも知られず、夜な夜なぺたんこな胸にブラジャーを着けたり、逸物をパンティーに押し込んでいる訳だ。
時計塔のある高名な人物は女装癖があり、自分のサイズに合わせたサマードレスをコレクションしていた。だから『エル』は彼に『人形』の存在を語り、500万ポンド(日本円で約7億)で素体を売った。女児になりたかった彼は、夢が叶ったと即金で500万ポンドを支払った。そんなものだ。
『人形』を知り、自分好みなホムンクルスを造れ、『エルチン』なども作れるのなら。アインツベルンはそうやって儲けてきた。顧客は世の中に大勢居たのだ。そして金銭が続く限り、上得意なリピーターとなった。専用保管器で、これまた専用の栄養剤を送れば10年は瑞々しい肌を保つ人形。その性器の伸縮性は高く、そのすべての性感帯が顧客の要望に応じて脳へのアクセスを高低できる。脱糞の必要がない肛門も、第二の膣として機能する。つまり内部には未知の性感帯が分布されているのだ。そしてこれも伸縮率が高く、『チンボルト』のような馬並みのモノも収められると来ている。そこに脱着可能な『エルチン』だ。
あれは実はオプションで1本100万ポンド(約1億3千万円)もする。そしてほとんどのお客(好き者)はセット買いしていた。10インチはありそうな大きくて太いタイプと、縮むと皮が被ってしまう4インチ半の仮性包茎タイプは人気だった。何故ならこの仮性包茎タイプは、人形に装着する場合、起動方法で脳へのアクセス経路をリセットできるからだ。わかるかな? あの腰骨を蹴飛ばされたような『初めての快感』を毎回再現できるのだ。記憶をいじれるのなら『なに? オシッコ?』といった二度と体験できないあの感覚が再度体験できてしまう。勿論、その人形に自分の意識を入れるか、恋人の意識を入れるか、或いは別の者の意識を入れるかは自由だ。第三者であっても記憶操作できるのなら問題ない。何故なら犯罪が成立しないからだ。
『エル』がこの商売をしているのは、ハッキリ言って趣味もあるが、犯罪を抑制するためでもある。こういう人形を金持ちに売る方が、当然ながら人身売買が顕著に減るのだ。勿論、性目的以外の労働用児童の売買は中々減らない。だけど手の届く範囲でそういう子を引き取り、オーストラリアで戸籍を与え学校に通わせている。そしてほとんどの子が、卒業後は『エル』の持つ会社や工場で就職する。大学を出て幹部候補として就職してくる者もいる。だから『エル』の会社は伸びるのだ。
だからこそ思う。LGBTって自分が変態だと叫べない、どこかの金持ちが後押ししているなって。マイノリティな人が自分の性嗜好を叫ぶはずがない。例えばシロウさんのアルバイト先の仲間であるボビーはアゴ髭と当たりの良い笑顔の似合う気の良い人だけど、実は彼、男性ホルモンを定期的に打っている元女性だ。ホルモンで乳房が縮んでいるのは、少々太り気味なのもあってまったくわからない。ただ乳首が敏感なのでニップレスを普段貼っているそうだ。
自己申告だそうだけど、クリの大きさは幼稚園児のポコチンくらいあるそうな。この人はお医者様の診断だとガチの性同一性障害とされているが、本人曰く『心が男なのは本当だけど、ゲイでもあるんだよね』だって。つまりシロウさんが好きなのだ。しかもかなり真剣に。だけどそんな自分を自覚していて、シロウさんに告白こそすれ、友人のままでいいとも話していて、リンさんとの仲を祝福もしていた。そして後年のLGBTパレードなんかには一切参加しなかった。
『もしシロウとそういう仲になれたのなら膣でなくお尻に挿入れて欲しい。だって、俺は男だから』
本当はシロウさんに挿入れたいらしいが、肝心のそれが幼稚園児だから無理なのだとか。そんな風にあっけらかんとしているので、シロウさんやリンさんとは良い飲み友達になっている。なのでフンボルトとも何度か会っていて、私もそれでボビーを知ったのだった。本名は『Roberta Garland』。だからボビーは元からの愛称で、男性形の『Bobby』でなく女性形の『Bobbie』となる(ロバートの愛称がボブやボビーにロビーやロビン。たまにルパートなど。そのロバートの女性形がロバータ。愛称はロビーが多い)。口語だとわからないので、本人も気にせず『Bobbie』を使い続けていた。リンさん曰く……。
『最初は戸惑ったけど、気さくで本当に良い人よ。何かヘンな事ができるタイプじゃないわ』
だそうだ。私も同じように感じたし、フンボルトもそう話している。なお、このボビーを通じて知り合ったレズビアンの人から、『あなた、バイでしょう?』と見破られた(お断りしたが、一度寝ないかと誘われた)。
またこの人とボビーに拠って、私はラビアと繋がらない独立したクリというのを初めて知った。通常のクリはドーム状のポッチにしか見えないし、ほとんどの女性は最大勃起時に包皮を剥いても5~7mmくらいだろう。そしてそれをよく観察すると小陰唇が包皮でなくクリの裏と繋がっているのがわかる(そういう風に見える)。この部分を陰核小帯と言うのだが、稀に包皮と繋がりクリが独立して見える場合がある。それがボビーとその友人の方だった。中でもボビーのクリは正に亀頭状で勃起してもラビアが引っ張られないので、尿道口のないポコチンにしか見えないそうだ。
なお、男性の陰茎小帯は1本だ。亀さんの後ろでくっついているので誰にでもわかると思う。ところが女性はそこから更に上に伸び、クリの包皮と繋がっている訳だ。ここの有無で外観から性別の判断が困難な赤ちゃんの性別を決めるという。つまりボビーは染色体検査をするまで仮性半陰陽の男の子と思われていたのだ。さっきも言ったように現在は染色体検査もあるし、下側の陰核小帯が切れて1本しかないように見える女の子も稀にいるとわかっている。
こんな風に性器は未分化や先天異常が現れやすく、特に女性の場合はそれが顕著な傾向にある。小陰唇や処女膜のカタチが千差万別なのもそこにある。膣がないという極端な例もあれば、いつまで経っても生理が来ない処女膜閉鎖という例もある。その要因はほとんどが副腎ホルモン(アンドロゲンなど)の分泌異常による。そのボビー関連で知り合ったある人なんかは、完全な半陰陽だった。ちゃんと機能する男性器と女性器を併せ持っていたのだ。この奇跡の人は女性器の前に陰嚢があり、きちんと射精できた。ここまでの人は何万人どころか何十億人に1人という確率の存在だ。乳房が3つあるとか陰茎が2本あるとかの方が多いと思う。
しかもこの方は妊娠出産も経験されていて、現在小学生のお子さんがいる。それも学生時代の自慰行為で垂れた精子が膣に入り、処女なのに自己妊娠したという。それで学校を中退したそうだ。そのお子さんは何の病気もなく元気で、産んで良かったと仰る(性別は教えてくれなかった)。敬虔なカソリックなので中絶できなかった。なのに教会もご両親もこの人と赤ちゃんを見捨てたという(私がこの人と書くのは男性とも女性とも言えないから)。だけどこのロス近郊で仲間と出会い、ボビー達と知り合い、今は幸せだとしみじみ仰る。私はとても考えさせられた。
だからこそ言いたい。もし、あなたの彼女が少し変わっていると思っても、優しく見守ってあげて下さい。女の子が女の子でいられるためのハードルはかなり高いのですから。
そんな風に、ここカリフォルニアでは風変わりな友人が増えた私とフンボルトだった。街を歩けば白人だけでなく黒人もメキシカンや南米系の人も多い。ベトナム系も多いしチャイニーズやコリアンも多いけれど、彼らはジャパニーズほど白人に溶け込まない。頭の固い人も多いけれど、真剣に論理建てて話せば理解してくれる人も多い。カリフォルニアはその青い空と同じで、人は必ずどこかで繋がっていると信じさせてくれるところだ。
閑話休題。
少しゲームの話に戻るけれど、あの『エル』は『ファイナルファンタジー』の大ファンで、ゲームソフトは全部持っていた。だけどRPGが好きなのではない。なので『ドラゴンクエスト』には手を出さなかった。ただただ、あのシリーズで提示される世界観が好きなのだそうだ。だから『バイオハザード』なんかも結構好きだと聞いた覚えがある。
『ドラゴンとかダンジョンとか、そういうのはゲームだと気が抜けると言うか……。一応私も『竜殺し』なので』
何時だったか忘れたけれど、そんな事を言われた。サラッと嘘を言うな。どこで倒したんだよ? あの時はそう思ったので無視した。それに考えるとしたら宝具の中だろうけど、それなら勝って当たり前だ。おまけに今のような王様のアレを6つも7つも持っているなら。何故か唐突にそれを思い出した。
その後ミアータさんの運転で、私とフンボルトとパミちゃんの3人は空港に行った。ロスに戻るのは年が明けて落ち着いてからになる。少し……ううん、かなり寂しい。もうそれくらい私はカリフォルニアが好きだった。
「パミちゃん。搭乗したらDSをしまって下さいね」
「うん。わかっているよ」
フンボルトは、もう何度も読み返しているだろうギター製作の本を片手に、ブツブツと呟きながらメモを取っていた。新たな発見っていうところだろうか?
チューリッヒの空港にはママとエルヴァちゃんが迎えに来てくれていた。少し心配したがパミちゃんは、ここでの主筋にあたるエルヴァちゃんにきちんと挨拶し、ハグを返されていた。後で聞くと、『エルヴァ(姉)の子供時代のような懐かしさがあった』そうだ。
「となると今度はパミちゃんが、お姉ちゃんとしてエルヴァちゃんを導いてあげないと」
「そうだね。でもあの子はしっかりしているから大丈夫だよ。そもそもさ。エルヴァ、学校に通ってない私の方が世間知らずだよ。だから色々聞きたいな」
そんな殊勝な事を言うパミちゃん。『現象のエルヴァさん』からも言い含められているのか、パミちゃんは終始エルヴァちゃんに友好的だった。これはパミちゃんが、あのアメリカでの期間で『この世界』の事をある程度知ったからだった。私やフンボルトはパミちゃんの味方だ。エルもパミちゃんの事を考えてくれている。だけどエルヴァちゃんとどっちを取るとなると、私は事情を話してパミちゃんの味方になる用意があるけれど、エルは迷わずエルヴァちゃんを取るだろう。そしてあと2人の懸念事項……。お祖父様とモードレッドだ。
パミちゃんはエルヴァちゃんやマアエモ・ママでなく、そちらが心配だったのだ。だけどそれは杞憂だった。お屋敷でお会いするとお祖父様はパミちゃんをそっと抱き締め、こう仰った。
『もう、心配は要らんからな。ここじゃと色々思い出して辛いだろうから、今後もエルヴァやフンボルト達とともにアメリカで伸び伸びと暮らしなさい。儂の方のエルヴァもそこのエルヴァを慕っておってな。時々会いに行く事やこちらに返す事だけ許してやって欲しい』
パミちゃんは涙を流しながらお祖父様と抱き合った。それでお祖父様とすっかり打ち解けあった。メイド服に着替えたママとモードレッド、そしてエルヴァちゃんにエルがこの部屋に居るのだけど、ママは貰い泣きしていたし、エルヴァちゃんと手を繋いだモードレッドも優しい顔をしていた。以前よりもっと柔らかな印象だ。何より彼女はエルとともにメイド服だった。モードレッドはもう立派なアインツベルンになっていた。
案内された知らない部屋で私達は再会を祝した。
「モードレッド、元気でしたか?」
「ああ、オレがエルヴァ。お前がパミ。似たような立場になっちまったな?」
「フフフ……何かあったら呼んで下さいね。駆けつけますから」
「ああ、お前がいれば百人力だ。でもよ、この世界の動きを見る限り、早々ここにおかしなことは起こらないだろう。むしろお前の方が心配だぜ?」
「多分、大丈夫ですよ」
そう言いながら私は、エルヴァちゃんにゲームを貸しているパミちゃんを見た。
「そうだな。『神の妹』か……」
モードレッドも結構知っているようだ。
「フンボルト様。お嬢様をお借りしても宜しいでしょうか?」
ママだ。何だろう?
「エルヴァを? 何ですか?」
「ドレスを選んで頂きませんと」
は? 選ぶって何だ?
「実はお館様が……」
高名なデザイナーを5人選び、それぞれに数点のウエディング・ドレスを作らせ、その全部を買い取ったというのだ。
「私とモードレッドの分も含まれているんだって。ただ、3人の中であなたが1番先だったから」
あらま。エルの言葉に驚いているとエルヴァちゃんとママに促された。
「お姉様、どれも素敵ですよ。試着なさってはいかがですか?」
「はい、早めにお願いします。決まれば明日か明後日にフンボルト様とともに撮影です」
驚くなかれ既にカメラマンを手配してあって、スタジオでなく、この館や庭を使って撮影するのだという。その下見をカメラマンの方はとうに終えているのだとか。
「その写真をお手本にして、画家に油絵も描かせるそうよ。ロビーに飾るんだって」
ヤメて~~~~!
ママの説明で式は28日の午前10時から、この館にある大聖堂で行うそうだ。ドレスを選んだ後にそれのリハがあるという。結婚式と言ってもそこんじょそこらのものではない。アインツベルンのそれは古式に則った魔術儀式であり契約でもある。なので私よりも、次期アインツベルンのエルヴァちゃんこそが、これを覚えなきゃならないのだとか。リハでは大婆が付きっ切りで教えてくれるそうだが、私とエルヴァちゃんはうんざりした。
「つまり私はエルヴァちゃんのための……」
「練習台と言っては失礼ですが、そういう事ですわ……。お嬢様……お館様をお恨みなさらないで下さい」
わかっていますよ、ママ。それは当然の事ですから。そして玄関ロビーに絵を飾るというのは、私へのお詫びも兼ねているような気がする。お祖父様はそういう人だった。そしてフンボルトとともにドレスを選んだ。それを試着するとチンボルトがポールシフトした。この人、真性のドレスフェチだな。しめしめ。これは汚せないが、我らに秘策ありですぞ、フンボルト。楽しみにしていてね。
で、肝心のフンボルトの衣装はと聞けば既に用意してあるという。
「仮面付き?」
「はい?」
「せっかくクラリス・チックなドレスを選んだのに」
「あなた、ドロボウと逃げるの?」
「小父様! ドロボウも覚えます!」
ここまでやってパミちゃんとフンボルトが気付いた。
「カリオストロだ~」
「本当に好きだな、君は? で、僕は卒業よろしく新妻に逃げられるの?」
「まさか~、それはありませんよ」
何のコントか種を明かせば皆んな笑った。
「エルヴァ!」
パミちゃんの声で迫りくる黒い弾丸に気付いた。身体強化を瞬時に掛けて、その弾丸を受け止めた。背が伸びたね。
「お姉ちゃん!」
「クロエちゃん……」
抱き締めたその後ろには、イリヤちゃんと『エルヴァ』にお父さんとお母様も。そして初めてお目に掛かるけれど、おそらくフンボルトのご両親とお祖母様も居た。
「フンボルト?」
「うん。僕の両親とお婆ちゃんだ」
そしてご挨拶の後、皆んなで大聖堂に向かった。リハーサルに皆んな興味津々なのだった。