※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第三部 霊脈篇   作:炭団

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まぁしかし、アメリカの最新情報は凄まじいですね。と言っても大手メディアは日本のテレビと変わらず、世界の闇に箝口令ですが。
いやそれ以前に中身が半島人ばかりだから、中共に忖度しまくり。どうしようもありません。

一方アメリカでは、そろそろ戒厳令発動かも知れません。サーバは押収済みですし、CIA長官や政府に巣食っていたスパイも軍に逮捕済み。オバマもクリントンも行方知れずで、バイデンは逃げられないよう足にGPSという話もあります。


170、遅れた結婚式

 スイスでの名物料理くれば、大抵チーズフォンデュかラクレットだろう。特にラクレットは、チーズ名でもあり料理名(食べ方の名前?)でもあり、その溶かしたチーズを茹でたジャガイモやオーブン料理などに掛けるだけという素朴さが万人に受け、このチーズの生産地のみならず国土の隅々にまで普及している。今でこそ専用のラクレットオーブンやヒーターがあるけれど、その昔はチーズを串に刺し、暖炉で炙っていたのはハイジを見ていた人なら知っているだろう。

 私はこのラクレットが大好きで、昨年末にチューリッヒに来てから、毎朝パンかレシュティに掛けて貰っていた。ちなみにレシュティとは刻んだり磨り潰したジャガイモの形を整えて、フライパンで焼いたものだ。油を多目にして揚げ焼きにするのがコツで、上手く焼ければ少し固目のハッシュドポテトのようになる。ハッシュドポテトは英語でハッシュドブラウンと言うが、レシュティと同じく『エル』の好物であり、私の好物でもある。彼女は『朝だけでなく、昼間も売って下さい』と日本本社に数回手紙を出している。今だに実現していないけれど。

 そして、チーズフォンデュだ。この有名なスイスの鍋料理? しゃぶしゃぶ? が、この1月2日になってもまだ出ていなかった。理由はクロエちゃんやおチビちゃんにスイスを嫌って欲しくないので、私とエルヴァちゃんとでストップを掛けていたからだった。

 世には鍋奉行という人が居る。新婚さんの彼女には、本場のバーベキュー・マスター(奉行)は凄まじいと聞き、改めて『やっぱり』と思ったものだ。これは私も彼女も『エル』の中で、何度もアメリカやオーストラリアに行った経験があるからだった。それがカリフォルニアではもっと激しいというのだ。要は大きな肉の塊を美味しく焼き上げるには、相当の熟練が要るところに、彼女の住む地域が比較的生活にゆとりのある中産階級が多い場所だからという理由もあった。スーパーに行けば、60センチはありそうな牛の骨付きあばら肉が普通に売られているそうだ。そんなの欧州でもまず見ないし、日本でも見ない(内臓が結構出回っている点で、日本は別の意味で凄い)。

 そしてお祖父様はフォンデュ奉行だ。私の記憶だけでなく、エルヴァちゃんに聞けばここでもそうだった。これがオイルフォンデュやブイヨンフォンデュなら、小煩いお祖父様を無視すればまだマシなのだけど、チーズフォンデュとなると……。

 

『絶対にクロエやイリヤには食べられないと思います』

『だと思うし、食堂にも入れない気がしますね。日本のお料理って薫りも穏やかですから』

『お姉様の仰る通りです』

 

 唯一の例外は北陸へ家族旅行に行った時、民宿で嗅いだ『たくあんの煮物』だ。チーズ慣れしているので、発酵臭は割合平気な私でもあれはダメだった。シュールストレミングが平気な『エル』でも、あの『う○こ』っぽい臭いに驚いていた。だけどその悪臭から、『これは食品に熱を加えている匂いだ』と見破ったのは、さすが食品会社のオーナーだろうか。

 何が言いたいのか、もう大体わかったと思う。本場の、それも観光客を考慮しない、むしろコダワリの奉行が仕切るチーズフォンデュの薫りは────友の名をアテるのも失礼なもので、まるで3日間履きっぱの靴下で登山に行った後のような、一瞬意識がブラックアウトしそうな臭いに近いのだ。そしてそれが家で焼き肉をしたかのように、何日も残るのだ。日本じゃないので、真冬の夜に空気の入れ替えだと窓を全開にすると軽く死ねる。だから日本人の焼き肉のように、普通はそういうお店に食べに行くものなのだ。

 だけど世の中には、これを頑なに家庭料理だと言い張る酔狂な人が居る。お金持ちなのだから、庭にフォンデュ小屋でも作って欲しいとエルヴァちゃんは言ったらしい。だけどそれはそれで移動の時に寒い。今は日本の焼肉屋さんのような専用換気扇を輸入しようかと考えているそうだ。

 

『それならバーベキューにも使えますし、醤油ダレの焼肉やジンギスカンもイケると思うんです』

 

 日本に来てからエルヴァちゃんは、本当に色々調べたようだ。この子の口からジンギスカンが出るとは思わなかった。そこで私は新婦の彼女やエルマやトロンメルに、夕食後声を掛けた。ここに新郎のフンボルト君や、パミちゃんが加わったのは彼女の人間関係を現しているかのようだった。あちらの私(エルヴァ)はパミちゃんを子供扱いせず、普段からこういう会話に参加させているようだ。多分、『現象の彼女』がそうだったのだろう。それを見習ったという感じに思えた。

 なお、本日の夕食はチューリッヒ名物のツーリッヒャー・ゲシュネッツェルテスだった。日本語でいうと仔牛肉のクリーム煮で、これを別皿でなく餡のようにレシュティに掛けたりして頂くのだ。だから何だ、そんなのどこにでもあるだろう? 食べ方の問題じゃないか? 御飯の上にクリームシチューを掛ける日本人の方が凄いぞ……ご尤もだ。だけど一度でいいから本場で食べてみて欲しい。『あ、違う』ってわかるから。これは本当に美味しい。そして仔牛肉が簡単に手に入る地域でないと難しい料理だってわかるだろう。カツレツとシュニッツェルが別物というのもここにある。仔牛肉のシュニッツェルは、やっぱり別格だ。

 

「あなた、本気でチーズフォンデュを?」

「そうです。ダシで割るのは無理でもワインを使わず、ブイヨンで割って臭いを抑えれば」

「エルヴァ、やってみましょうよ。明後日の午後にはミュンヘンに行くんでしょう? チャンスは明日だけですよ。それに折角のチューリッヒだしさ。あの子達、前回も前々回もフォンデュだけ食べていないんでしょう?」

 

 新婦のエルヴァには驚かれたが、エルが賛成してくれた。

 

「確かにワインを抜いて、ブイヨンで割れば臭いは少しマシになると思いますが、それだけでは弱いですよ?」

「そこで、もう1つの鍋にカレーフォンデュですよ。それに具材もパンだけでなく、フォンデュ・シノワーズのように」

「あ。焼く前の串焼きみたいに、色々揃えるんですね」

「そうそう。野菜も下茹でしたりしておいて」

 

 ここまで話すと彼女も賛成してくれた。ということで明日は私達年長組プラスαで買い出しに行く事にした。

 

 翌日の1月3日の午前中。私とエルヴァ組でクルマを出した。マアエモ・ママに声を掛け借りたのは、小型のバス型のクルマだった。運転は私とフンボルト君で、行きが私だった(可愛い奥さんには運転させられないらしい。とても大切にされているようで何だか羨ましくて悔しい)。メンバーにはモードレッドも入っていて、彼女とエルはメイド服のままだった。と言っても、2人とも頭巾は外している。アハトの家ではないので、何かの行事がない限り普段は被らない。これはどこの家もそうだった。アハト家以外でキッチリ被っていたのは、『エル』くらいなものだ。

 

『アインツベルンのメイド服に頭巾は必須です。これは県頭巾に匹敵するアイデンティティです』

 

 ぷりぷり県じゃねぇよ。ここでエルマがパミちゃんに気を遣ったのか、お菓子を渡していた。滋養豊富、風味絶佳なあの黄色いパッケージのキャラメルだ。

 

「エルマ、ハイソフトはないの?」

「どうぞ、お姉様」

 

 持ってるし。『一緒に行きたい』という声にエルマは食玩付きのキャラメルを一箱ずつ配っていた。この子がイリヤ姉さんから可愛がられるのは、このマニアックさにある。エルマ本人はそんなにお菓子をパクパク食べるタイプではないけれど、こういう気配りを忘れないし面倒見が良いので、妹達からとても慕われていた。

 対する姉さんは、年少組と居残りだった。これはお母様に関してだけど、裏方のお手伝いがあるのだ。実は今日の午後、お祖父様からのサプライスで、お父さんとお母様の結婚式がある。2人は何だかんだとあって、これまで式を挙げていなかった。なので本日の午後にお御堂で式を挙げる事になっていた。午前中は撮影で、午後からの式に年少の妹達が参列するのだ。OKを貰えれば私達も参加するが、『恥ずかしい』と断られる可能性もあるので、参列用の制服とドレスを、クローゼット前のハンガーに掛けるだけに留め、こうして知らぬ振りで出て来たという訳だ。

 雪道をシャリシャリ走っていると、トロンメルがフンボルト君に質問していた。

 

「今更ですが、姉さんのどこが気に入りました?」

「何でも話せるところだね。しかも大抵のジャンルで『ほぅ』と唸らされる知識の幅広さがある。それで以って考えが柔軟で、相手の意見も尊重して話すんだ。可愛いのに美人だとか、声が良いとか、良い香りがするとか、料理が美味しいとか、そこも素晴らしいけれどそれは僕の主観も入るでしょう? やっぱり女性としても、人としても尊敬できるところが最高かな。だから彼女となら何でも乗り越えられると思えたんだ。日々の家事や子育て、仕事に追われても、楽しく生活できるってね」

 

 べた褒めだ。ミラー越しに見える彼女は私と同じく顔を赤らめていた。尋ねたトロンメルだけでなく、エルマもエルにモードレッドも耳をそばだてていた。

 

「じゃ、姉さんしか居ないって感じですか?」

「うん。初めて会った時からビビンと来たよ。そして少し話して『この人は……』って……一目惚れだね。それから何度も話すようになった訳だけれど、そのどれもが期待以上だったよ」

「結婚を意識したのは?」

「え? まぁ……それはサンタモニカで……」

 

 彼女がフンボルト君の腕をつねった。ほぅ、そこで初めての夜を経験した訳だ。『サンタモニカの夜』。このキーワードだけでロマンチックだなぁと思う女性は多いだろう。おまけにトロンメルのインタビューが上手い。お祖父様の伝手らしいけれど、新型のポ◯シェで玄関まで迎えに行き、花束を渡した事まで聞き出した。やるなぁ。そしてその花束は魔術でバッグにしまい、今も時間凍結して部屋に飾ったり、一部をドライフラワーや押し花にして、読書の際の栞にもしているそうだ。ラブラブじゃないか。

 フンボルト君が気の利く人だとは知っていたけれど、それはあちらの世界のフンボルト君の情報だ。だけどここでのフンボルト君は『私』を落とす程なのか。10歳上なんだよなぁ……。学園祭前の夜に感じた通り、確かに包容力を今も感じた。その意味では、孤立して寂しかった彼女向きな男性だと思う。コーちゃんは4年後に期待だね。お兄さん達が居るから同世代の中の異性ではマシだけど、やっぱりフンボルト君と比べてしまうとまだまだだ。

 そうこうしているウチに、目的のお店にたどり着いた。そこでフンボルト君が彼女に何かを話して離れていった。

 

「あれ? 旦那さんは?」

「お土産の下見です。カリフォルニアでお世話になっている方達への。こういうのが良いのではと、昨夜話し合っていたんですよ。明日はお昼からミュンヘンに行きますので、そこまで時間が取れないんですね」

「ああ、そっか……」

 

 フンボルト君のお祖父様にもご挨拶したいと話していた。それで2人の新婚旅行はお仕舞いだ。とは言え、そもそもこの結婚式が新婚旅行を兼ねたようなものだし、今の仕事とは別にお祖父様から依頼されている仕事もあって、そちらにも彼女が着いて行くそうだ。モーターハウスでアメリカ大陸って、壮大で良いよね。ちょっとと言うか、かなり羨ましい。

 そこからは私の書いたメモを、全員で見てテキパキとカゴに入れた。なのであっという間に買い物が終わった。

 

「フンボルト君は携帯を持っているの?」

「持っていますが、欧州では使えないでしょう。大丈夫ですよ。念話が通じますから」

「え? あ、魔術回路があるのか……」

「そうそう」

 

 どうやってパスを結んだかなんて、聞かずとも歴然としている。夫婦だものね。だから……。

 

「1時間ほど頂いて良いですか?」

 

 下見にもう少し掛かるらしい。式は午後だから1時間程度なら大丈夫だ。そこで私達は買った食材などをクルマに置いてカフェに入った。楽しい会話の中で、彼女から念話が届いた。

 

『知りたい事があればどうぞ。エッチの事も話せる範囲で話します』

 

 そのお言葉に甘えて、かなり詳しく聞いた。男の人の感じるところとか感じ方、そして自分のツボなどだ。それでわかった。やっぱり10歳も年上だけあって、彼は女性経験がそれなりにあるようで上手いらしい。しかもそのタッチやタイミングがバッチリ合うという。う~ん……吉川クンとはお互いに手探りだろうなぁ。

 

『それはそれで良いのでは。それよりも同じ学園生なのですから、私はそこが少し羨ましいですよ』

 

 どういう意味かと問えば、共通の思い出があるからだと言われた。たしかにその通りなのだけれど、クラスも違うし……登下校のほんのひとときと、お弁当の時間くらいしか会っていない。

 

『そこでしょうに。同じ時間を同じ空間でともに過ごした記憶。つまり時間の背景です。それがあなたと吉川クンにはあり、私とフンボルトにはないのです』

 

 うん。それはそうなるけれど?

 

『鈍いですね。私が穂群原の制服を着ても、同じ空間での思い出がありませんから、フンボルトは懐かしがりも興奮もしてくれないって事ですよ。つまりマンネリ打破に、この手が使えないって意味です』

 

 ええ~~~っ!! そんな事まで考えないといけないの……?

 

『子供ができたり、20代後半になれば厳しいと思いますが、今から……そうですね、24~5歳までは大丈夫かな』

 

 ど、どういう分析だ。だけど……制服が似合うとか、弓道着が似合うとかも言われたなぁ……。それに私もコーちゃんの、学ランでなくワイシャツの袖を捲くった姿は確かにキュンと来る。アリと言えばアリなのか?

 

『まだ、ピンと来ませんか……。ところで彼は、自分本意でなくあなたの話をキチンと聞いてくれますか?』

『まぁ、そこは』

『その話し合いこそが1番ですよ。吉川クンは魔術師じゃないでしょう? 話し合ってお互いにわかり合うしかありませんからね』

『まぁ、そうですね』

 

 こんな風に、彼女は何だか経験豊富な姉のようだった。実際、姉のイリヤに聞いてもわからないような事を彼女は知っているし、実践的に教えてくれた。おまけに同じ身体を持ち、同じ考え方な訳だから反論なんてあろうはずもない。微に入り細に入り、『ああ、そうだな』と納得するばかりだった。

 

『生まれも育ちも、背景となる国の文化も、風習や習慣も違うわけです。となると『好きだ、好きだ』だけだとそのうち口論となり、最悪な結果を産むのは目に見ている訳です。だから先程も話した、自分本意でなくお互いが話し合える仲なのかどうかが重要になるんですね。それと想像力と、その違いを楽しめるかどうかです。つまりは心に余裕があるかどうか。そういう精神状態を維持してくれる空間を2人で作れるかどうかです。少し未来を考えましょう。吉川クンはあなたを守ってくれますか? 精神的に支えてくれますか?』

 

 これは頷いた。

 

『では一緒にいる未来が想像できますか? 家にお金が無い。子供は泣いている。洗濯物は溜まっていて、流しには食器が積み重なって……』

『それは絶対にありません!』

『あなたが健康ならね。彼が倒れても大丈夫なのはわかります。ですがその逆ですよ』

 

 私が病気になったり、2人目や3人目を出産するために病院に入った場合か……。今度は彼女が頷いた。そっか。フンボルト君はそれでも大丈夫と確信できる相手なのか。

 

『それと、あなた1人じゃありませんし、彼との2人切りでもありません。お父さんやお母様、セラにリーゼリット、大勢の姉妹があなたの味方です。もちろん私も。頼る時は頼れば良いんですよ』

 

 なんて強い言葉だろう。これが結婚するって事なのか。彼女は、もう母親になる決心をしている……そう思えた。

 多分、これが切っ掛けだったのだと思う。後日、倫敦に行ってからも、彼女とは何度もメールをやり取りした。翌年、彼女は男の子の赤ちゃんを産むのだけれど、お産はお母様の居る日本でなくママの居るこのチューリッヒだった。私も倫敦から飛んで抱かせて貰ったが、その時は本気で私も早く赤ちゃんが欲しいと思ったものだ。

 そして余談だけれど、彼女はお産後すぐにエルから譲られたMX-5(NA)と、カリフォルニアから持って来たアキュラRSX Type-Sを乗り回していた。RSXは北米で買った2004年までの涙目モデルで、彼女が乗っていたのをそのままこちらに持って来てママに譲ったらしい。本人はその頃カリフォルニアで、2006年の最終型に乗っていた。そしてエルマまでが日本でDC5に乗っていたと知り、私も倫敦でMX-5(NA)を中古で買ったのだった。その頃のトロンメルは卒業後に彼女を頼ってアメリカに行き、あちらの音楽学校に通うと話していた。凛が卒業後、ルヴィアと一緒にプラハに行ったものだから、かなり刺激を受けたらしい。

 同じように美遊ちゃんの士郎クンに相談したりもしていたのに、日本に残ると決めたのはエルマだけだった。この、私が倫敦に行っていた期間、残されたクロエちゃんやおチビちゃんの面倒をずっとみてくれていたのがエルマであり、相談に乗ってくれていたのが、時々日本に来ていた彼女でありパミちゃんだった。だから私は妹達の居る間にと、戻って弓道部のコーチの話を承けたのだ。

 彼女が念話で知らせたのだろう、丁度いいタイミングでフンボルト君が戻った。それもかなりの荷物を抱えて。全部傷まないもので、先に買って大丈夫なものばかりだという。かなりの量だけど、パミちゃんの宝具があるから問題ないらしい。『エル』でわかっているのに、返す返すも便利な宝具だ。

 

「食品類はドイツで買うよ」

 

 作りたてのヴァイスブルストも時間凍結で持って帰れそうだけど、それはしないらしい。

 

「バラマキ用のグミとチョコくらいさ。チョコは今も買ったしね」

 

 この淡白さには理由があって、ほとんどの物がアメリカでも手に入るからなのだそうだ。それとドイツのビールを飲んで、『おお、異国情緒あるなぁ』とはならないらしい。お付き合いのある人達がそうなのか、あまり変わったのを口にしないのだという。要は欧州人もそうだけれど、頑なに生活習慣を変えないのだ。ただしそこは移民の国なので、一度受け入れたらとんでもないリピーターになるらしい。気にいったお店を見つければ、一ヶ月連続そのお店にしか行かないとか、そういう極端な人ばかりなのだという。アメリカ人だなぁ。

 それとわかった。この2人はパスなんてなくても、繋がっている。私と彼女が入れ替わって裸になっても、ピアスとか関係なしに絶対に見破る。そう強く思えたのだった。

 

 

 

「なんだぁ、この白いの? 団子が潰れたのじゃないよな?」

「いい線、突いているよ、それはな……」

 

 皆んなで食堂に集まってワイワイガヤガヤと集まって頂いたのは、今日の午後に中国やスイスへ、それぞれの人がそれぞれの目的地に出発されるからだ。用意したのはアーチャーさん特製の御雑煮だ。私もお手伝いしたので、作り方を覚えたと思っていたら、どうやらこの作り方だけではないらしい。お祝い事に絡む食べ物だけれど、宗教的な意味や歴史的側面は薄れているのに風土色が濃厚で、郷土の違う者が集まると、同じ日本人とは思えないほど別物になるのだとか。

 まずお餅を入れるのか入れないのか、入れるお餅は丸いのか四角い切り餅なのか、そのお餅を事前に焼くのか焼かずに煮るのか。ダシは何か、味付けはすましかお味噌か。それともお汁粉のように小豆なのか。そのお味噌も何を使うのか。お餅以外の具は何か……。

 地方で具材が異なるのは、手に入るものが異なるのだから理解できる。家ごとに異なる部分があるのも理解できる。丸餅か切り餅かも歴史背景を聞けば納得できる。このように概ねの事は理解できるけれど、すましとお味噌って……。

 

『基本はすまし汁と見て間違いないだろう。味噌の地域は圧倒的に少ないからな。それも白味噌に限定しているところがほとんどだ。つまり、餅を主体としたお祝いものな訳だ』

 

 本格的入植が明治以降の北海道は、家ごとにバラバラで、沖縄に至ってはお雑煮を食べる習慣がなく、お祝いの汁物はイナムドゥチという豚汁らしい。松江の小豆はぜんざい発祥の地だからで、白味噌も関西の一部だけだ。それ以外のお味噌を使う地域は忍者と関係あるのではないかとの話だった。また山の多い岐阜や長野は、山間部と低地で具材が随分と異なるようだった。

 

「ランサー、毎年それで死人が出るのよ?」

「おいおい。お祝い事なんだろ? 毒なのかよ?」

「凛。喉に詰まらせやすいからだと言わんか」

 

 ランサーとランスロットが目を丸くして、中華の英霊2人はそういう知識があるのか、頷くだけだった。それで追加追加で1人でお餅を10個は食べていた。濁るのを避けるために、アーチャーはお餅を汁と煮込まず、別口で焼いてからお椀に入れていた。かなり大きなお鍋だったのに汁も売り切れてしまった。

 

「では、凛。また会いましょう」

「またね~」

 

 そう言い残して、『エル』と2人のヘラクレスとシトナイが出て行った。『エル』だけが後で冬木に戻るそうだけれど、ここに寄ってくれるかは不明だ。もしかしたら円蔵山に直行して元の世界に帰るかもしれない。だけどまた近いうちに会える事を、私は信じて疑わなかった。

 それから2時間くらいした後に、ランサーとランスロット、そして呂布と魏延が出て行った。またガラ~ンとしてしまった。

 

「感傷に耽っとらんで、妹の家に遊びにでも行ってこい」

「え? き、昨日の今日だし、と、突然だと迷惑よ!」

「なら、時間が空いているかどうか電話でも入れろ。まずは行動だ。それが『遠坂凛』ではないかね?」

「わーったわよ!」

 

 

 

 という訳で姉さんが今、目の前の……おこたの反対側に入っているのですが……。私は薄いピンクのスウェットだし、お父さんもグレーのスウェットで、その上に『どてら』です。一応私もお父さんも顔は洗っていますが、髪は括っただけだし、昨日の夜に帰ってきたお父さんは、さっき起きたところで……髪はボサボサ。お髭も少し伸びていました。

 

「ゴメンね。情けないところを見せて……」

「いえ、こちらこそ。突然お邪魔してしまって……」

 

 玄関でお父さんと新年のご挨拶をした後に、帰ろうとする姉さんを引き止め上がって貰ったのですが、私もお父さんに記憶が戻った事をメールで知らせただけで、昨日一昨日と姉さんや先パイと、禅城のお宅でお呼ばれしたり泊まっていった事をまだ話していなかったのです。

 

「実はお父さん……」

「何かな、桜」

「はい。メールでもお知らせした通り、昨年末に突然記憶が戻って姉さんの事や実の……両親の事を思い出せたんです」

 

 ここまではメールでも知らせてありました。

 

「それで姉さんのお誘いで、大晦日の夜に先パイを交え初詣をして、禅城さんのところへ……」

「ああ……ご挨拶に?」

「そこで一泊して……」

「良いよ、良いよ。俺が居なかった訳だしね」

 

 

 この時の俺は凛ちゃんに目で、『桜はどこまで思い出せた? 問題はないか?』と凄まじいまでの問いかけをした。すると聡い凛ちゃんはすぐに気付いて、『大丈夫』だと合図を返してくれた。それで桜と話しているうちに気付いた。いや、『記憶が戻った』とメールで知って、大慌てで帰ってきたんだけれど、桜と逢ってわかっていた。どんな奇跡か、『悪い記憶』だけが抜け落ちている事に。しかも都合良く、養子に出た事も凛ちゃんの事も『良い解釈』しかしていないんだ。

 更に今度も僕の娘として暮らしたい、だけど姉と時々逢ったり遊んだりする事を許して欲しいなんて……そこで凛ちゃんは、声に出さないで口の形を『エル』としていた。ロシアで会ったあの子達や、切嗣さんが迎えたエルヴァさんの大本の魔術師だ。僕もその『エルさん』や彼女の姉の『イリヤさん』と一度会っていた。その後、数回時計塔に探りを入れると、当然その存在を知っているし、かなり強い信頼関係を結んでいたり、シンパシーを感じているロードや理事が存在している事がわかった。

 当然ながら、あの魔杖に関わる事件があっての事だろうけれど、今、世界で起きている事や、ここでのアインツベルンやエーデルフェルトとの関わりもあると思う。と言うのは段階を追う毎に親密度が増している気がするからだった。切嗣さんの話では、その『エルさん』は、自分の世界で時計塔の理事でありプラハの理事も兼ねているという。ならここでも相当食い込んでいるだろう事は想像に難くない。何より『魔法』に至ったあの凜ちゃんまでが居る訳だ。

 きっと桜の記憶を安全に取り戻すための『何か』をしてくれたのだ。それは絶対に間違いない。俺は心から感謝した。できれば会って直接お礼を言いたい。けれど後でわかった事だけれど、凛ちゃんが言うには、別件でスイスに旅立ったという。なら仕方ない。また機会が巡るだろうと気持ちを入れ替え、俺は『姉妹』の語らいを眺めながら桜お手製のお雑煮と、お節の余り? を、頂いていた。士郎君がアルバイト先で頂いてきたものだそうだけど、彼は何でもするなぁ。

 

 

 

 やたら霊格の高いセイバーに何度も何度も料理を振る舞う私だった。ここは言わずと知れた愚妹の宝具の中にある、幾つかの空間の中にある小屋だ。先日の、雪が積もった寒そうな小屋は引き払い、今は暖かな春の小屋に来ている。窓の外に見える丘には、マーガレットが咲き乱れていた。

 

「この建物は、また作りが違いますね?」

「ああ。この宝具の中には四季折々の空間があってな。そのそれぞれの小屋が全部違うデザインなのだよ。メチャクチャな奴だが、ああ見えて乙女なのさ。純情なところもあるから面白い」

「まだ10代でしょう。どれだけ優れていようと、そういう部分は他の者と変わらないのでは?」

「かも知れん」

 

 私がこうして彼女と過ごし、メシ使いをしているのには理由がある。表向きは食事の提供など身の回りの世話をしつつ、飽きないよう話し相手になるという、いわゆる接待だ。しかし裏の理由は少し違う。こうして会話したり、食べ物の好みを聞いて、果たして本当に大魔導師とシロウのセイバーなのかを探っているのだ。そして何品かシロウでないと作らんだろうという献立を出して、『懐かしい』という言質が取れた。これはもう、間違いないだろう。

 そう確信した矢先に、空間への侵入者があった。シトナイとヘラクレスだ。

 

「どうしたね?」

「うむ、この子とこちらで待機しろと言われてな」

 

 そうしてヘラクレスから紙袋を手渡された。

 

「暑~い」

 

 まぁ、そんな厚いコートだとなぁ。うん? ああ、袋の中身はこの子の春・秋向けな衣類か。そこでシトナイを呼んで着替えさせ、後で飲み物を用意するから遊んでこいと言った。その時にヘラクレスから聞いたのだが、どうも『エル』は霊体化したアルさんだけを伴って、現在飛行機で移動中らしい。まぁシトナイの事を考えれば、これが正解だろう。現に『エル』はここに『シロウ』という名のクマを出していたからだ。屈託のない笑顔で、草花の中をクマやヘラクレスと戯れる少女。その窓の外に見える姿は、正に記憶通りのイリヤだった。

 いや、この言葉には語弊があるかも知れない。何故なら私は百人からの、世界に祈り守護者となった『衛宮士郎』の統合体だからだ。つまり生前、百人のイリヤや凛と会っている。思い出の中の人はそれぞれ百人だ。おそらく……概ねの人は変わらないと思うのだが(特に『藤ねえ』なんかは)、微妙に違う人も当然居たろう。だが、それら生前に知り合いだった人々がほとんど思い出せない状態だ。それでも強く、こんな錆びれた心に残っている数少ない人が……全員、聖杯戦争に関わった人達ばかりだった。

 

『士郎クン以外、女の子しか覚えてないって。終わってるな?』

 

 ち、違う! これは守護者となっても、何度も召喚に応じ参戦したからに他ならない。つまり記憶と経験の重複による、印象の塗り重ね故だ。

 

『でも、一成クンもヘタレ慎二も覚えていなかったでしょう?』

 

 そこだ。こうして『エル』を座にしている状態なら、『記憶』を掘り返して貰ったにせよ、かなりの事が思い出せている。これは守護者として派遣されている場合もそうだ。なのに聖杯戦争に召喚される場合のみ、記憶にリミッターが掛かるのだ。まぁ、そこも次の『アーチャー』を産み出すための世界修正なのだろう。だから印象という言葉を使った。そこだけ厚塗りになったと言えば通りが良いか。

 

『なら、ヘタ慎や桜を思い出してあげなさいよ? 中には桜を守って死んでいく、慎ちゃんみたいな人も居たでしょうに』

 

 そこは思うに、『生きている者が救わねば意味がない』のではないかと、その昔にこの頭の中で喧しい妹と結論付けた。だからこそ並行世界の介入が抑止の反発を招かんのではないかとも。何れにせよ世界とは度し難い。世界が世界としての秩序を得るためなら、霊長の人類ですらノミやシラミと変わらん扱いだ。新世界秩序がどうとか言っとる相手もまだまだだ。その後ろには、ローマの時代からハプスブルク家を経て今もエッシェンバッハ家、レーゲンスベルク家、サヴォイ家、キーブルク家、フローブルク家、ラッパースヴィル家、トッゲンブルク家などの欧州貴族が控えている。この欧州貴族を影から操るのが、アインツベルン家、エーデルフェルト家などごく少数の魔術師一族だ。

 もう一度言おう。『世界の闇』という陰謀論に出て来るワイン屋などは、その欧州貴族の使いっぱしりでしかない。なのでこれらの名はまず表に出ない。ましてアインツベルンやエーデルフェルトなどは。ではこの世の真の悪はそれら魔術師の家か?

 ところが、そうはならないところに世の中の難しさがある。おそらくノイント老も『エル』にしてみても、かなり慈悲深く義理堅い部類だろう。しかし大きくなった一族、それぞれの当主が持つ企業の雇われ経営者、その経営者と付き合いのある企業や政治家……そこに何某か商売上の利害があれば、その取引金額に応じて相手は勝手な忖度を重ねていく。またそうして回る経済こそが、世界経済の本質だから堪らない。結局ここのジイサンにしても、あちらのジイサンにしても、やっている事は工作であり、その相手となる対象は欧州貴族以下のランクでしかない。つまり裏で繋がっている。何故ならスイスやリヒテンシュタインという国は、彼ら欧州貴族やアインツベルンが儲けた金を隠したいがために作り出した『貯金箱国家』だからだ(なので欧州中央銀行(ECB)の支配化に置かれる、欧州連合(EU)に加盟していない。そもそも誰にとって『永世中立』であって欲しいのかだ)。

 しかし、欧州貴族以下のランクとなると表にチラホラ手を出すので、時折ヘマをやらかす。ノイント老の2人目の奥方の死はそこにある。要は自分達の飼い主の飼い主をたどるとどこの誰になるのかをわかっていなかった。それが故に起きた悲劇だったのだ。

 よく『エル』が『救けた相手が殺人鬼だったらどうする?』『信じた正義が真逆だったらどうする?』と『衛宮士郎』をなじるのはそこにある。それはそうだろう。どこかの『衛宮士郎』のみならず、『衛宮切嗣』までが、そういう実行犯になってしまえば目も当てられないからだ。それで……ノイント老は結局、ソ連や東欧の共産主義国家を崩壊させ、ロシアを影で操る立場になった。養女の『エル』までが中国を手中に収め、アメリカの裏に潜む、暴走する欧州貴族の犬達に対抗している有様だ。『ミト』が爆破され、『ボーデン』や『エル』が撃たれたりしているのもそこにある。

 そんな中で、こちらの世界ではノイント老とその一族、またジイサン達がかなり動いているようだ。更にエーデルフェルトも、私が知っている以上の気がするし、もう一家くらい大家が絡んでいる可能性もある。ここでのジイサンは捨て駒でなく、ビリヤードの玉だった。それはどういう表現だという非難は甘んじて受けよう。しかし、個人活動家や国際的テロリストとなるよりは遥かにマシだと私は思う。何よりあの人に『普通』の生活は不可能だろう。

 

『そこまで考えられるのなら、ヘタ慎や桜をたまには思い出してあげなさいよ?』

 

 そんな正邪の入り乱れた世界の真実を知ったなら……彼(慎二)、彼女(桜)らを救ける……それが本来の『衛宮士郎』の限界だ。そして、それはそれでとても難しく、臓硯を出し抜いて達成できたなら十分に立派な事だと言える。願わくば凛と手を組み、イリヤも救ってやって欲しいがそれが一番難しい。バーサーカーを使役可能とする膨大な魔力を収められるその身体は、定められた寿命を越えられない。自らの双子の姉や、並行世界のイリヤまで救っている『エル』が特別なのだ。

 

「アーチャー?」

「ああ、すまん。シトナイの事を考えていた」

「そうですね。彼女はあのままで固定化する以外……」

「……ないだろうな」

 

 もう、遅いのだろうか……?

 

 〈遅いですね。完璧紺碧に手遅れです。呪いで溶かされた身体や精神のみならず、魂まで消え掛かっていた。それを『シトナイ』の呼び掛けで、ロウヒやフレイヤも協力してあそこまでになった。十分に奇跡ですよ〉

 

 念話で妹が話してくれるている。

 

 〈お祖父様にお願いして、あちらで暮らすのが正解ですよ〉

 

 そうだな。ここの冬木はあの子の知る冬木とは余りにも違いすぎる。ならば、それが正解なのだろう。

 

 〈お兄ちゃん? おにぎりと石狩鍋?〉

 

 私の目を覗いたのか。確かに私は今、ミニサイズのおにぎりをせっせと握っていた。具は昆布とほんの少しの豚味噌だ。梅干しは無理そうだし、鮭は鍋と被ると思い外した。『イリヤ』になら絶対に出さない献立だ。しかしシトナイならば……。

 

 

 朝からタキシードを着た僕は、ウエディングドレス姿のアイリと一緒に、館内のそれっぽいあちこちで、プロの写真家に拠るカメラに収めらていた。エルヴァの時と同じカメラマンとスタッフなのだけど、ぞろぞろとやたら多い。三脚を担ぎカメラを設置する人、カメラマンの指示でライトを動かしたり遮ったりする人、そのライトの光量を特殊なメーターで測り、カメラマンに報告する人、僕の髪型やアイリのメイクを手直しする人……とにかく多い。

 そんな人の間をチョロチョロと縫っている僕の娘達とその他の子供。エルヴァもフンボルト君もこれに耐えたんだよね……。年長組が買い出しで居ない分、余計に酷い……。いや、彼女達に見られる事を思えば、マシなのかも知れないけれど……。いくら僕が『メッ』という顔をしても、子供達はニコニコだし、もっと笑ってとカメラマンからダメ出しされるのは僕だった……。

 

 それはともかく、目を輝かせるだけのイリヤは別として、誰のか知らないがデジカメを抱えるクロエとエルヴァが凄い。カメラマンの足の間から撮ったり、アシスタントの横で撮ったりしている。君達、叱られるよ? そしてそんな中でゲームをしている、パミちゃんとユリアーナちゃんの温度差がまた何ともだ。ユリアーナちゃんはエルヴァの親友だそうだけど、僕も知ったのは最近なのでこの態度はわからなくもない。だけど、並行世界とは言っても、パミちゃんも僕とアイリの血を引くんだろう? 『エル君』やエルヴァ達を思えば、この興味の無さはショックだし、親子関係がかなり希薄だった事が想像できる。

 エルヴァも最初はそうだったけれど、今は会話も多い。ノイント老の話では第四次で僕とアイリが死に、『現象となったエルヴァ君』がアイリだけを再現したのだという。だけど、その後もパミちゃんだけは、日本に住まうアイリやイリヤと交流が無かったそうだ。

 僕は最初、この子を知った時に引き取る積もりだった。家? もちろん建て替えるさ。だけど新婦のエルヴァがフンボルト君とともに養子に迎え、アメリカで育てると聞いて安心した。これだけ仲良くなった子供達の飛行機代も全部出そう。カリフォルニアの空の下で、伸び伸びと育って欲しいと願うばかりだ。

 そんな心静まらない撮影を漸く終えると、年長組が帰って来たようだ。食材などはとっくに冷蔵庫に仕舞ったらしく、すっかり疲れ果てた僕に『頑張って』と優しく声を掛けてくれ、アイリの美しさを口々に褒めていた。こういう時に女の子は良いなぁと思う。だけど今回は集合写真はない。それは士郎が居ないからだ。あくまでも旅先での思い出、親族の結婚式のついでに撮ったという体裁は守らないとね。昼食は軽く、タキシードとドレスのまま摂った。この後すぐに式があるからだ。娘達も皆んな着替えに戻った。

 

 

 午後1時。大聖堂の祭壇の前でアイリを待った。目の前の司祭は、これまた英霊のイリヤだ。そこはノイント老だろうと思うのだが、そうなるとアイリの介添が居なくなる。それで渋々受け入れたんだけど、どこの世界に娘が司祭で結婚式を迎える親が居る?

 

「キリツグ、不満そうね?」

 

 小さな声でイリヤが問う。だから僕も小さな声で答えた。

 

「君に不満はないけれど、何か不思議な気がしてね」

「フフッ……さぁ、始まるわ」

 

 娘達の拍手の中、ノイント老とともにアイリがやって来た。ステンドグラスの光を浴びたアイリは、とても綺麗だった。




2017年の演説より

『人生という(長い)道で、世界はいつも公平ではない事に気付く事でしょう。
あなたは、経験なんてしたくもない苦しみに耐えなければならず、不合理な挫折を経験しなければならない場合もあるという事実に気付く事でしょう。
(もし、そんな目にあったなら)それでも歯を食いしばって戦うしかない────。
────戦って(ファイト)、戦って(ファイト)、戦う(ファイト)のみです。絶対に(ネバー)絶対に(エバー)絶対に(エバー)────諦めないで下さい。
諦めず、譲らず、引き下がらないで────心の中で正しいと感じている事を止めてはいけません。

この世界で────『やる価値のある事』が、ずべて正しい事であるならば、(きっと)多くの試練と苦難を経験する事になります。そして戦う者が正義であればあるほど、危険な抵抗に遭遇する事になります。
あなたの心には『献身』や『自己犠牲』や『誠実さ』が刻まれています。なら、あなたは今外に出て、『希望』や『夢』を現実に変える行動を起こさなければなりません。

────アメリカは永遠に夢を実現する国です。それはアメリカが、真の信仰を持つ者の『もの』だからです。
────ピューリタンの先人達が、この土地に足を踏み入れたとき彼らは神に祈りました。
────建国の先賢達が独立宣言を書いたとき、彼らは『私達の創造主』を4回引用しました。

それは────アメリカでは政府ではなく、神を崇拝しているからです。

だから私達は誇りを持って『神を信じています』とコインに宣言しているのです。(特に50セント硬貨の事だと。友人の父親が描かれている)
だからこそ、私達はいつも誇りを持って『我が国は神の下の王国である』と宣言しているのです。


あなたが、あの腐敗した集団の事を間違っていると思えば思うほど、あなたは自分自身を信じるべきだし前に進むべきなのです。
自分の信念を誇りに思い、それに応える勇気を持ち、神への信仰を堅持している限り────失敗する事はありません。
アメリカが普遍的な価値観に忠実で────、アメリカ国民に忠実で────、創造主に忠実である限り────、この国の最も明るい未来は、(間違いなく)まもなくやって来る事でしょう。』
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