青藍島のメリークリスマス!~性の六時間作戦~ 作:みころ(鹿)
・・・
――――ちゅん…ちゅんちゅん…!
「寒っ…」
朝、淳之介はこごえるような寒さに目を覚ます。
かけていた薄いブランケットを身体に巻きつけブルリと身を震わせると、はぁーとかじかんだ手に息を吹きかけた。
恐る恐る足をベッドの外に出すと痛いくらい寒い。半袖半ズボンの寝間着を上からさすりながら窓際まで歩くとカーテンを開いた。
「まだ降ってるのか…!?」
窓の外では昨日から引き続き雪が降っている。
輝く白雪はうっすらと景色を覆い美しい別世界を創り出していた。
わずかに冷気を放出する窓から離れた淳之介は暖かさを期待して制服に着替える。しかし学校指定の制服も半袖で腕が冷えた。やけくそにインナーシャツを二枚にしてみるが全くと言っていいほど寒さは緩和されなかった。
「どうなってるんだ全く…!」
身体を抱きながら淳之介は部屋を後にする。
冷えきった部屋には静寂だけが満たされ、鳥のさえずりが時折聞こえていた。
・・・
味噌汁と白米をレンジで温めて朝食を作る。その間お湯を沸かしてコップ二つぶん茶を作ると、片方を持ってアサちゃんの部屋へ向かった。
「アサちゃん、起きてるか?」
部屋の扉を開けて中を確認する。
いつも寝落ちしているパソコンの前にはいない。代わりにベッドの上には予備のブランケットや服までもが覆いかぶさった布の塊が鎮座していた。
恐る恐る淳之介が周りこむと布の繭の中にはアサちゃんがくるまり、青い顔をして歯を震わせていた。
「さ、寒い…死ぬ…!」
とりあえずお茶を渡して暖をとる。両手でコップを包み込んだアサちゃんはふーと息を吹きかけるとちびちびとそれを飲み始めた。
昨晩から続く謎の寒波。昨晩の時点ではまだ降り始めという事もありそれほど寒くはなかったが、一晩のうちに気温は真冬並みの落ち込みを見せている。もしこれが本島ならまだしも、常夏の島には温かい服や掛け布団を『持つ必要がない』ためそもそも存在しない。よって今あるもので寒さに対処するしかないのだが…
「ふー…というか流石に今日は休校…休校じゃない?」
「…どうだろうな、学校から特に連絡は来てないけど」
「えぇ…いやぁ今制服で外なんか出たら凍死するでしょこんなん…」
「そんな大袈裟な。…とりあえずご飯を食べてから考えよう、味噌汁温めておいたから」
布団から出る事を渋るアサちゃんを強引に剥いて制服を着せると食卓へ向かう。
暖かいご飯で手と身体を温めていると学校から一斉メールが届き今日は通常通り授業が行われることを知らされた。確かに異常気象ではあるが登校できないほどではない。学校側も迷っての判断だろう。ただメールに書いてある防寒対策をしてくるように、という一文には思わずため息が漏れた。
嫌がるアサちゃんを説得して状況確認のためにも学校へと向かうことにする。しかし家から一歩外に出ると冷たい風が肌を撫で、その余りの寒さに二人で身体を震わせた。せめてコートがあればまだしも半袖の制服でどう防寒しろと言うのだろう。
傘をさしながら雪の降る街を歩く。しんと静まり返った町には生気がなく、誰とすれ違うこともない。
ふと気になりヌーディストビーチの方に足を運ぶ。いつもならこの時間絶対に近寄ってはいけない場所だが、恐る恐る近づき覗き込んでみると案の定そこには誰もいなかった。
セックスの行われていない砂浜に違和感を覚えながらヌーディストビーチを横断する。風の吹きつける荒れた海の方を見れば灰色に濁った空が絶えず雪を吐き出し続けていた。
傘に当たる雪の音が静かに心地いい。流石にここまで歩いてくると身体が温まってきたのか寒さも和らいできた。
「あ、セックス」
砂浜を抜け、市街地に入ったところで初めてセックスしている男女を見つけた。
そこでは寒さに負けない系気合男子と熱血系テニス女子はバックで熱く交わり、激しく腰を打ち付けている。この異常事態の中初めての日常的な光景に自然に目が惹きつけられ、いつもなら目を合わせないところを注視してしまう。
「うおおおお寒いと思うから寒いんだ!気合いだ!気合いだ!」
「ああんっ♡あんっ♡あなたのガチガチのテニスラケットが私のコートをライトハンドレフトハンドしてるのぉ♡」
「どういうことなの…」
だがこのわけのわからなさが逆にいつもの性乱島らしい。久しぶりの日常風景に淳之介は不覚にも少し嬉しくなる。
しかしそんな感慨に浸る淳之介の前、カップルに突如として異変が起こった。
「あんっ♡…あん♡…はぁ……あー…あのさ」
「はぁはぁ…何?」
「やっぱりもうやめない?寒すぎてこれ以上したら風邪ひいちゃうよ」
「あー流石に無理があったかなぁ…俺も寒すぎてちんこ萎えてきたし、帰って何か温かいものでも食べるか…うー寒っ…」
「…!?」
二人はそう言うといそいそと服を着て足早にどこかへ帰っていってしまった。
性乱島の住人が途中でセックスをやめるという衝撃的な光景。まぁ雪の屋外でセックスしている方が狂気的なのかもしれないが、こと性乱島ではセックスをしないという選択の方がありえないのである。
何にも邪魔されることがないためかいつもより断然早い時間に悶々とした淳之介は校門の前に着く。ここまで来ると何人かの生徒を見かけるが誰もろくな防寒ができている様子はなかった。
そして今日はSSの荷物検査はないようだが校門の前では礼が一人で立っていた。
「おはようございます、礼先輩」
「あ、あぁたた橘か…お、おおおおはよううう…」
ビニール傘をさした礼は顔を青くしてがたがたと身体を震わせている。
風紀委員長としての仕事なのだろうが、ただでさえ痴女のような格好のSS制服ではこの寒空の下に立っているだけでも辛いことだろう。
「こんな日ぐらい無理しなくても…」
「な、なんのこれしき!ブリザードよろしく心火を燃やせば…」
「それ最後の変身になりません?」
「大丈夫だ、Vシネがまだ残って…ふぁっくしょい!!」
このまま校門の前で立っているという礼先輩と別れを告げ校舎へ向かう。
学年が変わるところでアサちゃんとも別れ自分の教室へと歩く。階段を昇り教室の中に入るとクラスメイトと挨拶を交わし席に着いた。
それからHRの時間になると先生がやってきて通常通りの授業が始まった。思ったより教室全体の出席率は悪くないがやはりまばらに空いた席がぽつぽつと見える。閉め切った教室は人が多い分暖かいが、生憎とエアコンに暖房はついていないタイプでヒーターも何もない授業は寒くてしょうがなかった。
寒い授業を4限目まで終え昼休みになる。いつもなら校内のいたるところでセックスが行われる大乱交となるところだが、今日は誰も服を脱ぎ始める様子はない。それどころかクラス全員がどこかぎこちなく昼ご飯を食べ始めたり、仲の良い相手と喋ったりして過ごしている。その様子はどこか普通の学校生活のようにも見えた。
「あ、あの皆さん?セックスは…」
ついに我慢できなくなったのかSSでありクラス委員長でもある花丸蘭さんが全員にそう呼びかけるが、誰も反応を返さなかった。
本来であればSSに逆らえば粛清が待っている。だがこの寒さの中でセックスをしたがるものはおらず、この環境でセックスをすることの正しさを説くことは誰であっても難しい。そしてそれが全員となればSSとしても粛清のしようが無かった。
押し黙ってしまった花丸委員長が席に戻る。強烈な違和感を覚えながら淳之介は教室から出る。誰からも襲われない安全な廊下を通り、何事も無く購買部から昼食を買って教室へと戻った。
「うわ…!」
午後の授業中、ふと外を見ればかなりの厚さまで雪が降り積もっていた。
一面の銀世界はもはや北国か何かを思わせる風景であり、舞い落ちる雪がそれを更に加速させていく。
五限目の途中で担任教師が今日はもう休校になることを告げた。寄り道をせず、危険な場所には近づかないようにとだけ担任は言ってHRも早々に終わった。鞄を担いだ淳之介はこれからどうなってしまうのか案じつつ、とりあえず地下基地へ向かうためエレベーターに乗り込んだ。
「あ、淳之介くん」
地下基地にはヒナミが一人で待っていた。
地中にあるおかげか基地は外ほど寒くないが、それでもソファに座るヒナミの顔色は少し優れないように見えた。
「ヒナちゃん先輩、体調は大丈夫ですか?」
「え?あぁ大丈夫大丈夫…ふぁあ…でも朝から凄く眠くて」
「やばいやばい死んじゃう死んじゃう」
「あーおばあちゃんが向こうで呼んでるー…まぁまだ生きてるけどー…」
「戻ってきてヒナちゃん先輩!」
眠たげなヒナミの肩を揺さぶったところでエレベーターが到着し、奈々瀬、美岬、麻沙音の三人が続々と降りてくる。どこか浮かない表情から察するに三人ともいつもと違う学校の様子にかなり困惑しているようだった。
全員が集まったところで淳之介が麻沙音に尋ねる。
「アサちゃん、校内のSSの数は?」
「はいほい…えっ?」
備え付けの端末を起動した麻沙音が声をあげる。
「何かあったのか?」
「それが…もう学校には五人も残ってない」
「え?」
「みんな家に帰っていってる、この様子じゃ警戒も何もされてないよ…?」
そんな馬鹿なと思って淳之介も見てみるが、SSを表す赤点はまばらに校舎の外へと移動していっていた。
その後、これ自体が罠である可能性を考え慎重に外に出てみたが本当に警戒されてないばかりか校舎に生徒は殆ど残っていなかった。
寒さに身を寄せ合いながらの家路はいつもの何倍も早く、そして平坦に感じた。あまりのあっけなさと身を刺すような寒さに一同は自然と口を閉ざし、ただでこぼことした雪に足を取られないことにだけ意識を集中させる。
途中でヒナミと美岬の二人と別れ、淳之介宅の前に着くと勝手知ったる奈々瀬が玄関を開けながら言った。
「淳、シャワー借りても良いかしら?」
「良いが…親御さんとかに心配されないか?」
「連絡するから大丈夫よ。あそうだ、アサちゃんも一緒に入る?」
「 や っ た ぜ 。投稿者、変態島在住者…」
「やっぱりやめようかしら…」
二人がシャワーを浴びに行き、居間で一人になった淳之介はどさりとソファに腰を降ろす。
そして何の気なしにいつもは点けないテレビのリモコンのスイッチを押すと、やはりいつものような狂った内容ではない真面目なニュースが放送されていた。
『――――…繰り返しお伝えいたします。昨日から続く異常気象にSHOは現在島外から暖かい服や暖房器具の大量搬入を急いでいるとのことです。ですので皆さまは慌てず出来る範囲で防寒対策をしましょう。なおこの件について知事である仁浦俊明氏は次のように回答しており――――』
SHOはまともな対応をしてくれているらしい。
それでも島に暖房器具が行き渡るまであと一日二日はかかるだろうか。
(いやそもそも…)
この異常気象はいつ終わる。一晩で変わってしまった環境を一度に理解することは淳之介には難し過ぎた。
なぜこんな奇妙なことが性乱島に起こっているのか、いくら考えても解らない謎に思いをはせて淳之介はひとまず目を閉じた。
・・・
次の日、雪はやんでいた。
厚く降り積もった白雪は美しく輝き、いたるところで小さな山を作っている。寒さ対策に昨晩は一緒に寝ていたアサちゃんを揺り起こした淳之介は制服を着ると、昨日奈々瀬が作り置きしておいてくれたご飯を温めた。
部屋に戻り二度寝に入ろうとするアサちゃんを再び起こし朝ご飯を食べる。傘を持って学校へと出発すると雪の積もった町を歩く。昨日と比べ風が無い分寒さは和らいではいるがそれでも町の中に人の姿はなくセックスは行われていなかった。
雪に足をとられながら校門へ。今日は礼先輩が立っていなかったので特に立ち止まることも無く校舎へ向かい、午前中は普通に授業を受けた。
昼休みに入り、トイレにでも行こうと教室を出たところで校内放送が鳴り響いた。
『×年〇組の橘淳之介くんは今すぐ生徒会室までお越しください。繰り返します、×年〇組の――』
「…」
淳之介は思わずスゥと息を吸い込み、目を細める。
学生組織であるSSの本拠地、生徒会室。その主である彼女とは今までも何度か対面しているが、こうして改めて会うとなると緊張が身を貫く。
目的地を変更した淳之介は寒い廊下を突き進み階段を一つ昇ると生徒会室の前にやって来る。再び息を吸い込み淳之介は気合を入れ直し、コンコンとドアをノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
清潔感あふれる生徒会室の中、並べられた長机の奥にかけられたSS校章の下には生徒会長専用の椅子が厳かに設置されていた。
そしてそこに座る緑髪の少女こそが冷泉院桐香。我が高校にて絶大な支持を集める生徒会長その人であり、その掴みようのない在り方と特異な戦闘能力からNLNSでは要注意人物として認識されている。
「来たな、橘」
椅子の脇に立っていた礼先輩に会釈し淳之介は桐香と向かい合う位置に立つ。
軽く指を組み深く椅子に腰かけた彼女はゆるりとした笑みをしており、この寒さの中でなお余裕を持っているように見えた。何のために呼び出されたか解らないが
そして、ごくりと生唾を飲み込む淳之介に桐香は笑みを絶やさぬまま口を開く。
「お゛は゛よ゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛、せ゛ん゛は゛い゛」
「声汚なっ!?」
聞こえてきたのはガラガラになった彼女の声。
地獄からの呼び声さえ生ぬるく感じるようなその破裂的な声に思わず淳之介がツッコミを入れると桐香の笑みがちょっと崩れた。どうやら本人も気にしているらしい。即座に振り向きスプレータイプの喉薬を使うと、何事もなかったかのようにまたこちらを向いた。
「んん…おはようございます、先輩。お元気そうで何よりです」
「俺はお前の体調が心配だけどな…」
「あら心配してくださるんですか、先輩ったら優しい゛ん゛っ…あ゛ー」
どうやら喉を傷めている彼女は時々デスボイスが飛び出してくるびっくり人間になってしまったらしい。
先程までの笑みもどこへやら涙目になった桐香はゴホゴホと咳ばらいをすると、のど飴をポケットから取り出し口に含んだ。ころころと飴を舐め始める桐香に代わり、何やら書類を手に取った礼先輩が引き継いだ。
「おほん。会長に代わって私から説明するぞ。今回お前を呼び出したのは、とある作戦に協力してもらいたかったからだ」
「作戦?」
書類の端をパシンと指で弾いた礼は説明を続ける。
「お前も気がついているだろうがこの異常気象のせいで島内のセックス係数は低下の一途を辿っている。屋外セックスは消え去り、残っているのはお風呂場ソーププレイくらいだがその数も今は減少中だ」
セックス係数って何だと思いながら淳之介は頷く。
大雪によるこの町の惨状についてはもはや語るべくもない。そしてその結果一番の打撃を受けるのは勿論性乱島であり、性産業を営むSHOもまたしかりだ。
「この状況がこのまま続けば人はセックスを忘れ、性乱島の観光業は衰退してしまうだろう。そこで我らSSは、変態ドスケベセックスを望む人々に性を提供することにした。それが――――」
「――――性の六時間作戦」
飴を舐め終え声を復活させた桐香がそう微笑む。
性の六時間。それはかのクリスマスにおける伝説、日本中で最もセックスが行われるという時間帯。
髪をはらい立ち上がった桐香は淳之介に微笑みかけ、挑戦的な視線を投げかける。
「明日の夜00時から6時までの間、サンタコスをしたSS生徒が島の各家をまわりセックスをします。性技術に長けたSS生徒ならば島民の皆様にも満足していただけるでしょう」
「ただそこで問題なんだが、ある程度家を絞ってもどうしてもSSの数が足りていない。そこで今回橘には助っ人としてこの作戦に参加してもらいたいわけだ。どうだ?」
まぁこの際狂った作戦内容には目をつむるとして。
問題は二つ。一つにこの作戦に参加した場合セックスしなくてはならないこと。これはNLNSである淳之介にとって超えられない壁であり、もはや語る余地はない。
ただもう一つの問題は淳之介にとって無視できないものであった。
「…そのサンタが来る家ってどれくらいの範囲でなんですか?」
「ん、ある程度絞るとはいったが殆ど全ての家に行く予定だぞ。行かないのはご老人宅とかそれくらいだ」
それはNLNSのメンバーの家にサンタが来た場合。
もしセックスを拒否すれば家族から疑われるだろうし、寝たふりをしても良い子のまんこに睡姦サンタちんぽが届けられてしまう可能性がある。
家に直接来られてはNLNSとしても対処のしようがない。
(ふざけた作戦だと思ったが、思ったよりもマズいな…!)
どうすればセックスを回避できるのか、淳之介は素早く思考を巡らせる。
そして一つの結論に達すると礼先輩に返答を返した。
「解りました、参加したいと思います。ただ家の数は少しでも良いですか?」
「あぁ少しでも手伝ってくれると助かるよ。他に要望があれば何でも言ってくれて良いからな」
「そうですか?なら場所も指定できると…」
かくして淳之介は性の六時間作戦に協力することを決めた。
それはNLNSメンバーを守るため、しかしこの選択が後に大きな事件に巻き込まれることを淳之介は今はまだ知らなかったのだった。
・・・
何か中途半端に切っちゃったけど次回説明するから本編終了後にマックスウェルが死んでも何の問題もありません。マックスウェルどこから来た。