※この作品はR-18です。

青藍島のメリークリスマス!~性の六時間作戦~   作:みころ(鹿)

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最終回なので初投稿です。


04 We can not walk without your smile

・・・

 

「淳!ちょっと起きなさい、淳!」

「ぶあはっ!?」

 

肩を揺さぶられ、埋もれていた雪の中から淳之介は跳ね起きる。側には腕を組んだ奈々瀬がおり、どうやら淳之介を雪の中から掘り起こしたのも彼女のようだった。

 

「寒い…」

「そりゃあ雪の中に埋まってりゃあね、はぁ…」

「…そうだ、皆は!?」

 

全身を貫くような冷たさに身を震わせながら淳之介は辺りを見渡す。

降雪の止んだ雪原からはグレイと特殊部隊たちは消え去り、記憶の最後に見た化鳥もその姿をくらませていた。

そしてマジッくミラー号の側にはヒナミ、文乃、そして麻沙音を抱きかかえた岬の姿があった。少なくともNLNSのメンバーは無事のようだった。

 

「アサちゃんも雪に埋まって体温を奪われていたのだわ。今は一番体温の高い岬が温めてくれてるけど…意識が戻らなくて」

「…」

 

麻沙音の元に行こうと淳之介は立ち上がろうとする。

だが身体が思ったように動かない。連戦に加え冷えた身体はとっくに限界を迎えていた。

とはいえ化鳥の光線は淳之介に直撃したものの破壊力は無く、ただとてつもない風圧で身体を押し倒されただけだ。もしあれがアニメとかによくあるレーザー兵器だったなら死んでいただろう。

 

「ん」

「あぁ、ありがとう。奈々瀬」

 

奈々瀬に肩を貸してもらって淳之介は立ち上がる。

その時、道路側から何台もの車が止まる音がした。やがて何人もの大人たちが現れると、倒れていたSSの救助作業を行い始めた。

SHOだ。そう気がついた時、雪原を横切って黒いトレンチコートの男が近づいてきた。

 

「やぁ、久しぶりだね。淳之介くん」

「あんた…仁浦知事!?」

 

暖かそうな服装をした仁浦は少し苦々しく笑っていた。

奈々瀬に支えられた淳之介の姿をちらりと一瞥した仁浦は深くため息をつき、おもむろに雪原にしゃがみこむと何かを拾い上げる。

 

「全く。今回ばかりはしてやられたよ…完膚なきまでにね」

 

そう言うと仁浦はほらと拾い上げたものを投げてよこしてきた。

何とか受け取り奈々瀬と共に掌に収まったそれを見た淳之介は思わず息をのむ。

 

「これ…ゴム弾!?」

 

受け取ったものそれは指先ほどの大きさのゴム弾だった。

ゴム弾とは主に暴徒鎮圧などで使用されるゴム製の弾丸であり非殺傷性能に特化している。だがその威力は高く足など撃たれれば歩けなくなるし、当たり所が悪ければ死に至ることもある。

そしてそんな弾丸を彼らが使っている理由は一つしかない。

 

「彼らは誰も殺さない、殺す気が無い」

「それは、いったいどういう…!」

「もし彼らが人を殺していれば流石に国が黙っていなかっただろう。自衛隊だって動いていたはずだ。しかし生憎とこの島の立ち位置は微妙でね、怪我人が出た程度じゃあ本土からの増援は見込めないんだよ」

 

見れば、SHOに救助されたSSたちはその誰もが死んではいなかった。身体中に痣を作り肌の色は青ざめていたが、大きな出血や致命傷も見えない。

そしてそれは女部田も同じだった。そこには刀を杖に立ち上がった女部田の姿があった。恐ろしい表情の女部田は頭をおさえ、肩を貸そうとするSHOを払いのけて一人雪原を歩き去っていった。

彼らの目的は敵を撃滅することにはない。一連の流れから、この環境、この状況を維持することこそが彼らの目的の一端と見ていいだろう。

故に彼らは人を殺さず、防衛線を守っているだけでいい。彼らの作った冷たさが、じわじわと島を凍死させるまで。

 

「…いったいあいつらはなんなんだ!?」

「彼らの名は『ノースマイル』。それが正式名称化は解らないが少なくとも彼らはそう呼ばれている。なんでも戦場でも恐れられる凄腕の傭兵団だが、その正体は大戦時から存在するロシアの隠し刀なんだとか。いやまぁ、噂でしかないんだけどね」

「ノースマイル…笑わない部隊か」

 

仁浦知事は続けてトレンチコートの中から数枚の写真を取り出すと淳之介に手渡す。

覗き込んだ写真は僅かにぼやけているものの、そこには吹雪に包まれた黒い化鳥の姿が確かに映り込んでいた。

 

「そして恐らくそれが彼らの目的だ。その兵器はどうやら『リプレス』と呼ばれているらしい」

 

どうやらリプレスはあの敵キャンプ地で見た黒い柱が変形した兵器のようだ。

他の写真を見ればその怪物の姿が様々な角度から撮影されている。どこか鳥のようなフォルムだが、どちらかといえば戦闘機に鳥足をくっつけたような姿の方がしっくりとくるかもしれない。

武装は口元についた吹雪を発生させるレーザー砲のみ、とはいえその巨体で踏みつけられるだけで人には致命傷だ。そしてリプレス上部には楕円形のコクピットが映っており、その中にはVRで使用されるようなゴーグルをつけた人間がリプレスを直接操縦しているのが見て取れた。

恐らく敵キャンプで見たあの研究者風の女性だろう。てっきり非戦闘員だと思っていたが、リプレスのパイロットなのだろうか。

 

「リプレスから照射された冷凍光線が空を冷やし、そのせいで雪が降っていることは確認済みだ」

「…でも、どうしてそんなことを」

「さぁね。誰かに依頼されたのか、はたまたロシアによる兵器実験なのか。…まぁ、どちらにせよこの島は終わりだが」

 

そう仁浦知事は言い切った。

目を細めた淳之介は思わず叫ばずにはいられなかった。

 

「そんな…そんな簡単に何故そうだと言い切れるんです!?」

「最高戦力であるSSが完膚なきまでに負けた。これが何よりの証拠だ。それに正面からやりあって勝てるほど彼らは甘くない。もしSHOも含めて全戦力を投入しても返り討ちにあうだけだ。なら生き汚く足掻くより、僕は潔く負けを認めよう」

 

仁浦知事はそう言うとくるりとこちらに背を向ける。

最後に文乃を一瞥したその瞳はどこか寂し気でもあった。

 

「…あの娘ももはや必要ない。欲しいのなら精々君が拾っておくといい」

 

仁浦知事が去っていく。

淳之介は手元に残されたリプレスの写真に目を細めた。

絶対的なノースマイル。加勢に来たリプレス。そして殴られたグレイ。

強烈な疲労を覚えた淳之介は奈々瀬の身体にもたれかかったまま動けなくなる。

 

その後は特段何かが起きることはなく、NLNSのメンバーと文乃は美岬の運転するマジックミラー号で橘家に帰還した。文乃の足の怪我を治療し直し、全員で体温回復に努めながらNLNSは長い一日を終えたのだった。

 

・・・

 

パァン!と頬を打つ音が痛々しく野営地の中に響く。

雪に倒れたドクターを冷たく見下ろしたキーマンは背を向けると吐き捨てた。

 

「無事に本国に帰りたいならば今後は身勝手な行動は慎む事だ…セルゲイ、怪我の治療をしておけ」

「…了解」

 

ノースマイルの軍野営地にて。

女ドクターの頬にガーゼを張り終えたセルゲイは治療箱を閉じる。今しがた行われたキーマンの制裁だが、本来の命令違反からすればかなり手加減されている。

ただ当の本人であるドクター。ドクターアンジェはずっと俯き、治療中も足元を見つめたままでいた。

 

「…」

 

先程のリプレスによる強襲はドクターアンジェによる完全な独断行動だった。

リプレスの起こした吹雪によって我々は退却を余儀なくされ、そして敵にリプレスの姿を露呈するという損失まで招いた。

これに対し詰問したキーマンにドクターはだんまりを決め込み、結局何故ドクターがそんな行動に走ったのか解ることは無かった。

どうして必要も無くわざわざリプレスを動かしたのか、その意味はキーマンにとって謎でしかなかっただろう。だがセルゲイには何となくだがその理由が解るような気がした。

野営地の中でもドクターの機材が多く詰め込まれたこのテント内に二人以外の人影はない。周囲を確認し終えたセルゲイは置かれたベンチにドクターの隣になるよう腰かける。

 

「…何か?」

 

驚いた表情を見せ、訝しむような視線をドクターは隣に座った巨漢に向ける。

顎先をかいたセルゲイは自らの緊張をほぐすように息をつくと、あたりに聞こえないよう小声でそれに返した。

 

「勘違いしないでほしんだが…別に俺はあなたを責めたいとか慰めたいとかそういうわけじゃない。ただ一つだけ確認がしたいだけなんだ」

「…何についてですか?」

「リプレスについて」

 

そうセルゲイが言うとドクターの表情がサッと陰った。

また沈黙を貫かれてはかなわんとセルゲイは畳みかける。

 

「なぜあなたがリプレスを動かしたのか。あなたが来たせいで優勢だった状況から俺達は撤退するしかなくなった。もし劣勢だったならともかく増援を、ましてやリプレスを動かす理由はない。…だが逆にもしも『俺達を撤退させること』こそがあなたの目的だった、ならどうだ」

 

ドクターは何も言わない。

一つ息を吸い込んだセルゲイは続ける。

 

「あなたの目的は俺達を邪魔することだった。じゃああなたは俺達を裏切ったのか?いいやそれは違う。研究者として監視されてきたあんたが他国に寝返る隙は無かった。あなたがリプレスを動かした理由はもっと単純だ。それは――――あの子の、グレイのためだろう?」

 

グレイの名前を出すとドクターアンジュは僅かに反応したような気がした。

 

「あなたはグレイに人を殺させたくなかった。あなたがリプレスを動かさなければグレイは確実にあの少年を殺していた。だからあなたは俺達を撤退させるためにわざわざリプレスで加勢に来た…あの子を戦わせないために」

 

考えていたことを全て吐き出して、セルゲイはドクターを見つめる。

ゆっくりと顔をあげたドクターは薄く息を吐きだすと、僅かに微笑みを浮かべて見せた。

 

「それは、所詮妄想に過ぎません。あなたのおっしゃっていることには何の根拠もない。ただ…」

 

そう言うとドクターは肩の力を抜き、座ったまま虚空を仰いだ。

 

「これは亡き父が考え、国が実行し、私が受け継いだ計画。数年前の私は父の残した研究を完成させる程度にしか考えていなかった。でも最近になって…ようやくあの子のことを知って、初めて自分のしていることの恐ろしさに気がついた」

 

環境破壊兵器リプレス、そしてそれに付随する形で実行された超兵計画。

リプレスによって生み出される環境に適応すべく、生まれながらにして寒冷耐性を持った人間を創り出そうという試みが三十年ほど前に始動した。しかしこの実験は殆ど頓挫し、テストベイビーたちもまた廃棄された…グレイという成功例を除いて。

 

「リプレスだけならまだよかったかもしれない。でもフロストコアは使うだけで使用者の命を蝕んでいく、いくら適性があったとしてもそれは変わらない」

 

リプレスの中枢にあるフロストコア。

白兵戦もさることながら冷気による暗殺も可能なこの特殊装備だが、放出する冷気をまず一番に受けるのはグレイであり、例え適性があったとしてもその身体にかかる負担は確実に命を削る。それはグレイが戦いに身を投じる限り変わらない。このままではいつかそう遠くない未来、彼は死ぬだろう。

目を細めたドクターは腕を組み、顔を伏せた。

 

「だけどあの子の死は無駄にならない。その犠牲は次の研究に活かされる」

「…あなたはそれで良いのか」

「研究者ってそういうものよ、軍人さん」

 

それ以上セルゲイが言葉を返すことはできなかった。

ただそう言って笑う彼女の瞳には深い苦しみがあるような気がしてならなかった。

 

・・・

 

「俺の金玉がフリーズドライッ…!?」

 

次の日、最悪の夢を見て跳ね起きた淳之介はまず自らのチンコを確認した。

大丈夫、淳之介の金玉はシャーベットにはなっていない。今も元気に分身を量産中だった。

 

「はぁ…」

 

どうやら昨日の経験がそのまま悪夢になって現れたらしい。ちなみにどんな夢を見たかというと黒色の鳥型侵略宇宙人が地球人の股間にピンポイントな冷凍光線を照射していくという夢だった。ギャグにしても極まりすぎでは?

ぽきぽきと肩を回した淳之介は大きく身体を伸びする。疲労は完璧とはいえないが抜けた。ただ筋肉痛とも打撲ともとれる痛みが身体中を覆っていた。

 

「…みんなは」

 

起き上がった淳之介は痛みに耐えながらえっちらおっちら服を着替え、リビングへの階段を降りる。

 

「あ、おはよう淳。身体はもう大丈夫なの?」

 

そこにはキッチンに立って朝ご飯を作っている寝間着姿の奈々瀬がいた。

いつも通りの姿に少しほっとした淳之介はソファには腰かけテレビを見ているヒナちゃん先輩と文乃を発見する。これまた寝間着姿の二人は寄り添って座り、普段に比べればまともなテレビの天気予報を見ていた。

 

「おはようございますヒナちゃん先輩。文乃、足の具合はどうだ?」

「おはようございます淳之介様。元々大した傷ではありませんでしたので、もう大事ないかと」

 

そう言うと文乃は座ったまま怪我した方の足を伸ばしたり曲げたりしてみせる。

また無理をしていないかと淳之介は危惧したが、どうやら本当に問題無いようだ。

 

「美岬は?」

「アサちゃんのところ」

 

そう奈々瀬に教えて貰い淳之介は麻沙音の部屋に向かう。

あまり音をたてないように部屋の扉を開けると、掛け布団が大きく盛り上がったベッドがあった。

 

「ほーらアサちゃん、美岬布団ですよー!」

「暑い臭い汚い離れろこの豚メスカスぅ…!」

「あれあれいつもの抵抗はどうしたんですかぁそんななまっちろい力じゃいつまでたっても抜け出せませんよぉ?赤ちゃんみたいな腕力でかーわいいですねぇ!」

「うぎぎぎ…!」

 

…かけられた布団の中では何故か美岬が麻沙音の上に覆いかぶさってマウントをとっていた。どうやらいつも虐げられているぶん美岬は大きく出ているらしい。その結果のキャットファイトなのだろうが相手が病人だという事を忘れてないだろうか。淳之介は訝しんだ。

 

「おはようアサちゃん、大丈夫か?」

「脂肪に殺される…」

 

美岬と寝技していることを抜きにしても麻沙音の顔は真っ赤になっており、その体調はやはり良さそうには見えない。

美岬が夜通し温めてくれていたようだが一度崩れた体調はそうすぐには戻らない。ぜーはーと呼吸する麻沙音は発熱とくしゃみで辛そうだった。

 

「食欲はあるか?」

「あー…いやまったく…でも、喉乾いた」

「解った、水持ってくる」

 

水を入れるために淳之介は一度リビングに戻る。

すると朝ご飯を用意し終えた奈々瀬に声をかけられた。

 

「アサちゃんごはん食べられそう?」

「とりあえず水だけで良いって」

「そっか。でも治すにしてもどうにかあったかくしないと…」

 

コップに水を入れて淳之介はキッチンから出る。

ふとリビングでつけられたテレビを見ると本島から届いた毛布や服といった支援物資が配給されるという旨の報道がされていた。これで少しはこの寒さもマシになるだろうか。

 

・・・

 

空を仰いだ淳之介は目を細める。

 

(あぁ…改めて見ると)

 

島の中心から空に向けて水色の光線がうっすらと放たれているのが見て取れた。

だが注意深く見なければ解らない程の薄さだ。淳之介も文乃に教えてもらわなければ気がつけなかっただろう。

灰色の空に突き刺さるあの冷凍光線が空を冷やし天候を変えている。それは今もなおあの根元でリプレスが稼働していることの何よりの証拠だった。

SHOからの防寒グッズ配給を受け取った淳之介は家への道を歩く。途中寄り道をしたのだが、そちらの方は失敗してしまった。

 

「スポンサーの反応は無し…と」

 

休校となった学校の地下基地に行ってみたのだが、NLNSスポンサーの老人は通信に応答しなかった。

グレイとの会話の中で気になることがあった。いやそうでなくても島がこんな状況になって一切連絡を寄越さない事がありえるだろうか?淳之介の中でわずかにあの老人への不信感が増してきていた。

 

「…」

 

とはいえ今考えるべきことはもっと他にあるだろう。ノースマイルのこと、リプレスのこと、グレイのこと。仁浦知事はこの島はもう終わりだと言った。ドスケベ条約はこの冷たさの中で息をしておらず、島から活気を奪った。

冷えた空気を吸い込みながら考えごとをしているとすぐに家についた。防寒グッズの入った紙袋を抱きなおし家の中に入ると、まずは麻沙音の部屋に向かう。

 

「アサちゃん、毛布持ってきたぞ」

「あ、ありがと兄…ふぇべえっぐしゅ…!」

「…」

 

熱にうかされ滝のような汗を浮かべた麻沙音の額を淳之介は濡れタオルで拭う。

朝から看病を続けているが病状は回復しているとは言い難い。全身にかけた毛布で少しはマシになるだろうか。

辛そうな麻沙音の姿に淳之介の心は痛んだが、かといってどうしようもできずに部屋を後にする。もやもやとした気分を抱えながらリビングに行くとキッチンに立つ文乃の姿が見えた。

 

「ただいま。文乃が料理してるのか」

「はい。ですので少し台所をお借りしております」

 

時刻は夕方で夕飯時。

大量に並んだ食材を文乃は丁寧かつ迅速に捌いている。何を作るかは解らないが、素人目に見ても文乃は料理慣れしてようだし任せても大丈夫だろう。

リビングに入ると奈々瀬とヒナミの二人がいた。

 

「ただいま」

「おかえり、淳」

 

二人が額を付き合わせて覗き込んでいる机の上にはマップとメモ用紙が散乱しており、島の中心である山の一所には赤い×印が書かれていた。現状の確認と淳之介が見た敵拠点を纏めた戦況マップであり、どのように現状を打破するかのプランでもある。

紙袋を机に置いた淳之介は歩き疲れた身体をソファに腰かける。そのまま戦況マップをぼんやりと眺めているとジッとこちらを見つめていたヒナミに尋ねられた。

 

「あれ…大丈夫、淳之介くん?元気ないね。なにか辛い事でもあった?」

「いや、特には…疲れてるからそう見えるだけかも」

「…本当に?何か言いたいことがあればなんでもおねえさんに相談してもいいんだよ?おねーさんに!」

 

ドンと胸を張った得意げな顔のヒナミはなおも尋ねてくる。

こういう時の彼女の勘の鋭さに淳之介は一切隠し事をできる気がしない。信頼できる仲間同士隠し事は無しだ。観念したふーと息をつくと淳之介は、それでも僅かに躊躇いながらずっと考えていた自らの思いを吐き出すことにした。

 

「ちょっと考えてたんです。本当にノースマイルは敵なのかって」

「…それってどういうこと?」

 

怪訝に眉をひそめた奈々瀬が尋ねる。自分でも馬鹿な考えだとは思う。でも思わずにはいられない理由があった。

それは皮肉なことに彼らの作り出した今この状況がNLNSの目標を果たしているということ。実質的なドスケベ条約の撤廃、性行為の強要は行われることは無く、誰に襲われることも無く平坦な道を歩いて行ける。

俺はお前の敵じゃないと言ったグレイの言葉を思い出す。その意味を淳之介は正しく理解し、理解しすぎていた。

 

「この雪は確かにあいつらのせいでこうなってる。だけどそのおかげでドスケベ条約が機能しなくなったこともまた事実でもある。それに島の活気はなくなるかもしれないけど、それがドスケベ条約を撤廃すれば遅かれ早かれそうなっていたっていうことなら、俺はただでさえ勝ち目があるかどうかわからない敵相手に挑んでみんなを危険に晒したくない…」

 

淳之介にはもはや何が正しいのかわからない。

人が戦うにはどうしても理由が必要なのである。こじつけでも嘘でもいい。ただ迷いを抱えたまま挑めるほどノースマイルは甘くない。淳之介は指先を組み、深く息を吐く。その身に深く焼き付いた冷たさが精神的にも物理的にもノースマイルに挑むことを拒んでいた。

沈む淳之介の姿にヒナミは深く息をのむ。だが暫くのち、ゆっくりと微笑みを浮かべ頷いた。

 

「…そうかも、しれないね」

 

そう言ってヒナミはおもむろに立ち上がり、淳之介のそばに近づくとまるで我が子を慈しむ母親のようにその頭を抱いた。そして軽く目を見開く淳之介に優しく語りかける。

 

「無理に戦わなくたって良いんだよ。淳之介くんはもう充分頑張った。それにそのおかげで文乃ちゃんは助かったんだもん。それだけでも充分立派なことだし、みんなのことをいつも考えてくれてる淳之介くんは凄いカッコイイと私は思うよ」

 

そこまで言ってヒナミは淳之介から身体を離す。

そして真剣な瞳で淳之介を見据えると、尋ねた。

 

「でも、この状況が本当に淳之介くんの最善なの?本当にこの状況に満足して、後悔しないならどうしてそんな顔をしているの?」

「それは…」

 

真っ先に思い浮かんだのは辛そうな麻沙音の顔だった。直接的な原因は違えど、この寒さのせいで彼女は苦しんでいる。果たしてそれは一時的なものか?いいや、寒がりで身体の弱いアサちゃんはこの雪が降る限りきっとこれからも身体を壊すだろう。

瞳の色が変わり始めた淳之介を見てヒナミは朗らかな顔で笑う。

 

「…私は嫌かな。産まれて初めて雪を見て、最初はワクワクしたけど最近は眠くて眠くて」

 

そういえばヒナミは最近あくびをしていることが多かった。表に出すことは無かったが、身体が小さく南国で生まれ育った彼女にこの環境の変化はかなりの負荷をかけていたのだろう。

ヒナミがちらりと奈々瀬の方へ視線を向けると、うーんと腕を組んだ奈々瀬は続ける。

 

「私も嫌。寒いのはともかく洗濯物が乾きにくいのはちょっと困るのだわ。それにあんなのが島にいつづけるのも怖いし…だから私はノースマイルは倒すべきだって、そう思う」

 

奴らが実験を続ける限り実害は出続ける。行動を起こさない限り青藍島に陽は差し込まない。

その時、リビングのドアがズパンと開かれると美岬が現れた。話は聞かせてもらったとばかりに美岬は便乗する。

 

「その通りですよ、淳之介さん!この寒さだと全裸オナニーも辛いですし露出徘徊もできません!最初は雪オナとか考えてましたけど流石に無理があって…」

「ちょっと黙って」

「あっはいごめんなさい」

 

すごすごと美岬の扉が閉められる。

とはいえ寒いとオナニーがしづらいこともまた事実、美岬のようなハードオナニストにとっては辛い気候なのだろう。知らんけど。

 

「はは…俺は馬鹿だな」

 

最後不純物が混ざったような気がしなくもないがともかく淳之介は自分の間違いに気がつく。

結局、淳之介は大きなものを見過ぎていたのだ。

ドスケベ条約でも青藍島でもない、淳之介の戦う理由はほんの目と鼻の先にあった。それはもっと小さな一人一人の仲間達。かけがえのない彼女達の、かけがえのない気持ち。

淳之介の何のために戦う?そんなもの最初から決まっている。それは――仲間達の為に!

 

「――ノースマイルを倒そう!」

 

もはや迷う必要は無かった。

決意に満ちた淳之介の表情にほっとNLNS他三人は胸をなでおろす。今改めてNLNSがノースマイルに立ち向かう準備が整ったのだった。

いつのまにかリビングに入り直していた美岬を加えて四人は戦術マップを囲む。敵は強い。そのためにはしっかりとした作戦が必要だ。

 

「じゃあ、まず敵戦力の確認といきましょうか」

 

敵名称ノースマイル。凄腕の傭兵部隊である彼らは一人一人が精鋭であり、実際の戦場を潜り抜けてきた完全武装の化け物どもが最低でも20人以上はいる。

次にリプレスだが恐らく戦闘能力は低い。ただそれはあくまで見た目に反してというだけであり、冷凍光線は当たれば失神は免れないので注意が必要だ。

 

「…勝利条件ははっきりしてる。リプレスを倒せばノースマイルは撤退するはずだ。だから、問題はそこに行くにはどうするかだな」

 

リプレスがいる敵陣地は山奥。そこまで行くにはノースマイルを突破しなくてはならないが、数で負けているうえに敵一人一人が淳之介よりも強い。

それにもし運よくこれを突破できたとしても、敵陣地には恐らくグレイがいる。

 

「『Ash of absolute』か…」

 

その正体は時間停止、ではなく高濃度の冷気を放出することで周囲一帯を文字通り凍り付かせるという規格外の必殺技だ。発動すればグレイを中心に半径10mに吹雪が吹き荒れ生物の動きを止める。言わば人間に対しての絶対特攻、範囲内の相手になら誰に対しても無敵というまさに切り札。これをどうにかしない限りリプレス打倒は不可能だ。

頭を悩ませるNLNS四人。圧倒的な彼我の戦力差を埋めるためにはどうすればいいか。考えているとピンポーンと家のチャイムが鳴る。こんな時間に誰だろうか、立ち上がろうとした淳之介を美岬が制した。

 

「私が行きます!」

「あぁ、頼んだ」

「イグッ♡」

 

汚い効果音を発しながら美岬が席を立つ。どうやら一発ネタのためだけに応対を引き受けてくれたらしい。純粋に感謝できない罠だ。

玄関に向かった美岬と入れ替わりにミトンをはめた両手で大きな土器を運ぶ文乃がリビングに入ってくる。慎重に歩みを進めた文乃は食卓の上に大きな土器を置くと。その蓋を取り去る。すると中からもわっと大きな湯気が立ち昇り、ぐつぐつと泡をたてる器の中で煮られた多種多様色鮮やかな具材が姿を現した。

 

「ああ、鍋か!」

「はい…身体は内側から温めるのが一番でございますから」

 

これならばみんなでもつまめるし冷えた身体も温められる、加えて後で雑炊なんかも作りやすいのでアサちゃんにも食べさせやすいかもしれない。気遣いのできる文乃らしい料理だと思う。

 

「…うん?」

 

『身体は内側から温めるのが一番』。ふとそんな文乃の言葉が気にかかった。

淳之介の頭の中でいくつかの要素が細い線で結ばれていく。細かった線は徐々に太くなり、やがて完全に繋がった。

 

「…そうだ!それなら、あれにも弱点はある!」

 

不思議そうに見つめてくる他三人の視線を受けながら、淳之介の頭の中では確かな勝算が組み上げられていた。

同時に、玄関に行っていた美岬が顔を青くして戻ってくる。

 

「じゅ、淳之介さーん…」

「ん、どうした?」

「えっとそのー…助けていただけるとー…」

 

美岬の後から入ってきたのはガウンを羽織った女の子。

緑色の髪を揺らした女の子はいつものように不敵な笑みを浮かべている。

 

「こんばんは、先輩。私もお鍋ご一緒してもよろしいですか?」

「冷泉院!?」

 

そこにいたのは私服の冷泉院桐香。

突然のSSトップの来訪に全員が身構える中、悠々と歩く冷泉院は机の側に腰かける。

鍋の中を覗き込み子供のように無邪気な笑みを見せる冷泉院に淳之介は尋ねた。

 

「お前、どうしてここに?」

「それは勿論、共闘のお誘いに。生憎ともう私も手段を選んでいられませんから」

 

そう桐香は笑う。

今、決戦に向けて全てのピースが揃ったのだった。

 

・・・

 

その翌日、木にもたれかかり早朝の空を見上げたセルゲイは深く息を吐きだしていた。

思い返すのは一昨日の博士の言葉。本当に自分には何もすることができないのか。がんじがらめのもどかしさに辟易するがこれも自分で決めた道だ。今更覆す事もまたできない。

 

「セルゲイ、敵だ」

 

そんなセルゲイに通信から戻ってきたキーマンが声をかける。

前回の戦闘から二日。今更来たという敵に眉根を寄せたセルゲイは尋ねる。

 

「…相手は?」

「SSだ」

 

SSと聞いてセルゲイは更に困惑する。

どうしてあれだけの大敗を経験しておいて彼らはなおも挑んでくるのか。

 

「いったいなぜ…」

「解らん。だが挑んでくるならばまた倒すまでだ。自らの愚かさに気がつくまで、何度でもな」

 

・・・

 

森南東部にて、既に戦闘は始まっていた。

南東から攻めあがるSSに対しノースマイルの部隊が迎え撃つ。一度は勝利した相手とはいえノースマイルに油断は無い。始まったばかりの戦闘はまだ決定的なものではないが、やはり学生とプロでは大きな地力の差があるためそれも時間の問題と言えた。

 

「…やつら、以前よりも動きが良いな。警戒しろ」

「無論」

 

木の陰から射撃するノースマイル兵は雪森を駆けるSS達に狙いをつける。

彼らの見立てはあっていた。というのも本島から届いた支援物資によってSS側も多少防寒が可能になり、ある程度寒さが緩和されているというのがその理由だ。

加えてノースマイル側がゴム弾を使うと解っていることも大きい。死なないと解っているならば死を恐れて動きが鈍ることもない。前回の戦闘よりは動けている。だがだからといって彼我の差が埋まるわけでもなかった。

森に散開するノースマイルは基本ツ―マンセルで互いをカバーしあっている。木の入り組んだ戦場で射線を維持するその技術はまごうことなきプロだ。

 

『W7から各位へ。敵は奇妙なグレネードを携帯している。注意されたし』

 

全員の無線に通信が入る。

どうやら敵は以前とは違う武装を携帯しているらしい。奇妙な、という言葉が気になるがグレネードであるならば対処は変わらない。

 

『キーマンとセルゲイが到着。これより最終防衛ラインを確定する』

 

それを聞いて兵士の口角が僅かにあがる。ノースマイルの英雄である彼ら二人がいて勝てなかった戦場は無い。だがAKMを覗き込んだ先で、SSが何かを投げようとする姿を見たところでその口角は即座に戻った。

 

「…グレネード!」

 

投擲物の爆発に備えノースマイル兵二人は迅速な動きで木の陰に隠れる。

空中で弧を描いた紫色の丸いグレネードは雪の上に落ちるとバシャリと音をたてて炸裂した。衝撃で爆発するインパクトグレネードかとも思ったがそれにしても威力が弱すぎる。爆発したはずの雪は変化があるようには見えず、あえて言うならば少し輝いているように見える程度だろうか。

顔を見合わせたノースマイル兵たちはまたAKMを構える。危険性のないグレネードなど警戒する必要はない。また防衛網の維持に戻った。

一方、SS側の最前線から20mほど後方にて。全体の指揮を執っていた冷泉院桐香はSSの精鋭達を前に決起を行っていた。

短い演説が終わり、おおー!と決意を新たにしている戦士達を前に桐香に礼が小声で喋りかけている。その脇では日本刀を抱いた郁子が目を閉じており、精神統一を図っていた。

 

「では、参りましょうか」

 

桐香の一言で全部隊が動き始める。仕込みは終わり、部隊は揃った。

生徒会長である冷泉院桐香を筆頭に、郁子の率いるSS一番隊と礼の率いる精鋭部隊。今まさにここに揃っているのはSSの中でも屈指の強者たち。

先陣を切るのは郁子とその一番隊。目指すは前線からその奥。知らず駆け始めた彼らは仲間の背中を通り抜け、銃弾の飛び交う戦場にその身を投げ出す。

そしてそれはノースマイル側からも確認できた。

 

『っ…こちらC2!敵部隊の突出を確認!やつら中央突破する気だ!』

 

雪森を走る学生たちはまっすぐにこちらを目指し、がむしゃらに走ってくる。

だがそれは無謀な突撃に過ぎない。いくつもの射線が通った戦場で突出すれば、それは良い的になるだけだ。

即座にAKMで狙いをつけたノースマイル兵は引き金に力をこめる。放たれた弾丸は敵の行軍を挫くべく、その先頭集団に襲い掛かる。

 

「なっ…!?」

 

弾丸の雨をくらった無謀な兵士たちは雪に倒れ伏すしかないはずだった。

AKMによる正確な射撃は確かに彼らを捉えた。だがその動きは一切止まることは無く直進してくる。生身で銃弾を受けて平気でいられるはずがない。改めて敵集団を確認したノースマイル兵はその理由を理解した。

 

「ゴム弾の弊害か…クソッ!」

 

SS一番部隊である彼らはその身体に鉄製のアーマープレートを着込んでいた。もしこれが実弾であれば仕込み鉄板程度貫き、命を奪われていただろう。これはノースマイル兵がゴム弾を使うことが解っていたからこそ可能な作戦である。

一番隊の目的は後続の為の道を切り拓くこと。最も運動能力のある彼らだからこそ重い鉄板を身につけて行軍することができる。とはいえゴム弾を弾けるアーマープレートといえど全身を覆っているわけじゃない。銃弾の雨に一番隊の何人かは倒れた。しかしその何人かが倒れる間にSS達はノースマイル兵の目と鼻の先まで肉薄することができた。

戦闘は近距離戦に入る。だがノースマイル兵は射撃だけでなく格闘能力もまたSS程度では勝てない程に卓越している。近づいたからといって有利になるほどノースマイルは甘くない。

道を作り、楔を打った一番隊の後ろから左右に向けてSS精鋭部隊がノースマイル兵たちに向かっていく。その胸には一番隊の努力を無駄にしないための決意、そしてその手には事前の作戦通り紫やピンク、あるいは黄緑色の丸い物体が歪むほど握られていた。

 

「っ…!」

 

接敵と同時に彼らは手の中のそれを振りかぶる。

敵であるノースマイル兵がAKMを構えるのが見えた。ゴム弾で撃たれることは怖い。しかし勝機は今この瞬間、この方法を逃せばもう訪れない。

いま全身に力を込めて、声の限り叫びながらSS生徒たちは『それ』を投げつけた。それは一撃必殺の矛であり、起死回生の一撃。

投げつけられたそれはまっすぐにノースマイル兵に向かう。ノースマイル兵もけして油断していたわけではないが、至近距離で投げつけられた何個ものカラフルなそれを避けることはできなかった。

死を覚悟したノースマイル兵の頭にぶつかったそれはパァン!と炸裂すると、ばしゃりとその中身をぶちまけた。ノースマイル兵の頭をびっしょりと濡らしたそれはトローッと糸を引くと雪の上に垂れた。

 

「「「ローションくらえオラァァァァッ!!」」」

 

それは、ローションであった。

それもただのローションではない。極薄コンドームに詰め込まれたローション爆弾であった。

 

「なんだこれは…ふざけているのか?」

 

とはいえそれはただの水風船と変わらない。

頭の濡れたノースマイル兵たちは最初こそ困惑したが、ただのローションであることが解ると即座に反撃に移ろうとした。

 

「いいや、ふざけてなどいないさ!」

「なにっ…うおっ!?」

 

一歩踏み出そうとしたノースマイル兵だがつるっと足を滑らせる。

 

「これは…!」

 

先程SS生徒たちがむちゃくちゃに投げていたグレネードだと思っていたローション風船で周囲の雪はローションまみれになっていた。これでもまともに動くすらできない。

そのせいで至る所でノースマイル兵たちがずっこけ、隙を晒すことになった。

 

「そして!」

「!?」

 

倒れた雪に倒れたノースマイル兵にSSたちが群がる。

ただでさえ動き辛いはずのぬちゃぬちゃとしたローション内でSS達は迅速な動きを見せ、ノースマイル兵の服を手早く脱がせると装備を奪う事に成功した。そして女子SS生徒が数人がかりでしなだれかかる。

 

「ふふ、お兄さんこういう店初めてですか~?」

「はーい力抜いてー♡脱ぎ脱ぎしましょうねー♡」

「くっ貴様ら何を!?」

「男と女が服脱いですることっつったらセックスしかないだろうが!オラッ交尾ッ♡」

「んごおっ!?」

 

ローションで倒れたノースマイル兵達とSSのレイp…セックスがいたるところで始まる。

そう、戦いで勝うつことができないのなら自分たちの得意なことで勝負するしかない。

島を雪で覆ったノースマイルが自分達に有利な環境を作り出したように、こちらもローションによってそれを作る。彼らが戦闘のエキスパートというのならSSは寝技のエキスパートだ。ローションの取り扱いならば例えノースマイル相手だろうと絶対に負けない。ぶちまけられたローションの上をSS生徒たちは羽が生えたかのようにイキイキと駆けることができた。

 

「なにが、どうなっているっ…!?」

 

中央から食い破られた戦線がSS達からの猛攻を受けてますます崩れていく中、キーマンは苛立ちをこめて叫ぶ。

今でこそ投げつけられる水風船を辛うじて避けられているが、周囲の足場はますますローションがそのぬるぬるを拡大させており徐々にその逃げ道を減らしていた。

 

「ぎゃあっ!?」

 

キーマンの近くにいた兵士の一人が悲鳴をあげて倒れる。

気がつけばそこには日本刀を振りかぶった青い髪の女がいた。

 

「邪魔…!」

「フンッ!」

 

振るわれる重い日本刀の一撃をAKMの銃身で受け止めたキーマンは膂力でそれを押し返すと更に蹴りを加える。

腕を交差させて蹴りを受けた女部田にAKMの銃口を向けたキーマンだが、おもむろに回避行動をとる。乾いた銃声が響き、ハンドガンを撃ちながら突進してくる長身の女の姿が見えた。

 

「うおおおおおおおおっ!」

「チッ…」

 

突撃した礼の蹴り上げによってAKMが弾かれる。

舌打ちしたキーマンは即座にコンバットナイフを引き抜くと礼のナイフとつばぜり合う。

直後痛烈な反撃を行おうとしていたキーマンの頬を何かが撫でる。流れた血を拭ったキーマンがそれを確認すると、弾丸のように通り過ぎたのは数枚のコインだった。

 

「ようこそテロリストさん、青藍島のもてなしはいかがでしょうか?」

「さして面白くも無い…!」

 

走り込んできた桐香がワイヤーを振るう。

AKMを投げ捨てたキーマンはナイフを引き抜くとこれを受けた。

一撃、弐撃と繰り返す近接戦闘の応酬。このふざけた戦場で唯一まともに戦っている二人は互いの行動を読み合い、激しい攻撃を繰り返す。

 

「ガキ共が…姑息な策を…!」

「何と言われようと結構。ですがいつまでも私達にかまっていてよろしいのですか?」

「なに…?」

 

桐香が呼びかけた直後、キーマンの無線に着信が入る。

大振りな打撃で桐香から一度距離を取ったキーマンは無線のスイッチを入れた。

 

『こちらC1、山道を走行するトラック一台を確認!これより射撃を開始する!』

「…了解、戦果を期待する」

 

無線を切ったキーマンは別働隊の存在に大きく舌打ちする。

その様子を見ていた桐香はほんの数分前、突撃前の決起で礼に言われたことを思い出していた。

 

「――あの桐香様…非常に言いづらいんですけどその、本当にこんな作戦で上手くいくのでしょうか?」

 

不安そうな礼はそう桐香に尋ねた。

作戦というのはローション爆弾のことであり、昨晩礼がSSを召集して最後の反抗作戦のためと称して作らせたものである。

ぽかんとした表情を浮かべた桐香は軽く微笑むと、小首を傾げた。

 

「さぁ?」

「えぇ…さぁって」

 

そう言うと桐香は何か思い出したかのようにくすくすと笑い始めた。

そんな調子で大丈夫かと思わず頭を悩ませる礼に桐香は笑いながら弁明する。

 

「どうせ散るなら美しく…というのは流石に冗談ですけど。まともに戦って勝てない相手なら少しでも可能性のある方にかけるのは当然でしょう?それにここで重要なのは私達の勝利ではありませんから」

「…一番納得できない部分がそれです。どうして奴らなどに任せる必要があるのですか」

「過去はどうあれ今の目的は同じ、島を守るためなら手段は選んではいられない…まぁそっちのほうが面白そうだからってのもあるんですけど…」

「欺瞞!」

 

思わず叫んだ礼だが、変に騒いで今から士気を下げるわけにもいかずそれ以上は口出ししなかった。

 

(本当に、面白いことを考える人たち)

 

橘家で参加した作戦会議は本当に面白い内容だった。

笑わずにはいられないほどくだらなくて、でも不思議なことに最後には彼らになら任せられるとそう思った。

 

(だから、お願いしますね…先輩)

 

今は動いている彼らを思い桐香は心の中で呟く。

 

「調子に乗るなクソガキ、勝ったつもりになるのは早すぎるぞ」

 

だが気がつけば桐香の目前にキーマンが迫っていた。

振り下ろされるナイフ。だがその斬撃は桐香に届く前に郁子の日本刀に止められた。

数歩下がり日本刀の間合いから離れるキーマン。相対するは桐香、郁子、礼のSSトップ3。

 

「ならあんたは今から負けた時の言い訳を考えておいた方が良いんじゃない?」

「おいおい郁子、あんまり煽るもんじゃないぞ」

「ふふ、説教はほどほどにして。さぁ行きましょうか!」

 

キーマンに駆ける。

三対一でも勝てるかどうか解らないほど敵は強い。それでも三人には負けるつもりはなかった。

 

・・・

 

一方その頃。山頂を目指す唯一の山道を一台のマジックミラー号が雪をはねのけひた走っていた。雪積もる悪路をノンストップで踏み潰していく四輪は時折跳ね上がりながらも、正確なルートを捉えて離さない。

 

「…いた」

 

その車上にて。スナイパーライフルを構えた少女が山中に狙いを定めていた。

先程からミラー号を狙撃してきているスナイパーがいることは確認済みだ。だがその姿は白い木々の中に隠れ、常人では発見することがそもそも難しい。

 

「スゥ―…フゥー…」

 

スナイパーライフルを構え呼吸を整えた文乃の髪が風に揺れてなびく。

スコープ越しに狙うのは小さな一点。呼吸を止めた文乃はその赤い瞳を限界まで見開き、引き金を引く。ボルトアクション式のレバーから空薬莢が吐き出され、既に山上からはマズルフラッシュが一つ消えていた。

文乃が脅威を排除してくれたおかげで安全に目的地まで走行することができた。美岬が車を止め、全員で森の中に入ると走り出した。SSが引き付けてくれているおかげか森の中にはノースマイル兵は見えない。ここまでは作戦通りだ。あとは向こうの戦況が収束してしまう前にこちらでリプレスを倒せれば目的達成だ。

 

「こっちだ!」

 

淳之介の記憶を頼りにノースマイルの拠点を目指す麻沙音以外のNLNSメンバーたち。

時折文乃の記憶も参照しながら雪道を進んでいくと、やがて敵陣地の目前までやってきた。

覗き込んで確認するがノースマイル兵が駐屯しているようには見えない。やはりSSの対応に追われてここは手薄になっているようだ。そしてやはりキャンプ地の中心部では不気味な駆動音をたてるリプレスが稼働していた。

蒼い光線は今もなお空に向かって放たれ続けている。そのままキャンプ内に走り込んだ淳之介たちの前に、グレイは一人で立ちはだかった。

 

「…やはり来たか」

 

ナイフと拳銃を両手に持ち、フロストコアを装備した純雪の少年兵。

紫色のマフラーを垂らした彼はじっくりとNLNS全員を見渡すと白い吐息を漏らした。

歩み出た淳之介は穿き丸を手に、出来るだけ腹から声を出す。

 

「そこをどけ、グレイ!」

「橘淳之介…!」

 

淳之介の姿にグレイの闘気が強まる。

どうやら前回の戦闘から続きグレイは淳之介に執着しているようだ。しかしこれは好都合でもある。元よりグレイの相手は淳之介がするつもりであり、淳之介を狙ってくれるならば想定通りに動けるはずだ。

ちらりと全員でアイコンタクトをとると淳之介たちは事前に決めた作戦通りに動き始める。スナイパーライフルを構えた文乃は全員のサポートができる後方へ。淳之介とヒナミがグレイの前に立ち、そして残りの奈々瀬と美岬はキャンプ中央にあるリプレスへ走った。

あくまでこの作戦の目的はリプレスにある。淳之介とヒナミがグレイを足止めし、その間に奈々瀬と美岬でリプレスを止める。本来であれば近接戦闘型のヒナミをグレイとぶつけるのは得策ではないが、それ以上にオールラウンダーかつ機転の利く奈々瀬をリプレス攻略に向けることには大きな意義があった。

走る二人の姿にグレイが動こうとするが、その前に穿き丸を構えた淳之介とパイプ椅子をかかげたヒナミが立ちふさがる。あと少しでリプレスの元に辿り着くといったところで、白衣の女性が現れた。

 

「…ただではやらせない。リプレス!」

 

金髪の女性が叫ぶと同時にリプレスに変化が現れる。

内部から変形し始めたリプレスはその黒鉄の翼を広げ、火花をたてて別れた両足を雪の上に突き立てた。

ゴーグルを手にしたドクターがリプレスのコクピットに跳び乗り操縦桿を握りしめる。起動した機械鳥は吼え声をあげ、青く輝く冷気の吐息を漏らした。

環境破壊兵器リプレス戦闘形態。こうなっては一筋縄ではいかない。奈々瀬と美岬がリプレスに相対する。一見無謀な戦いだが、しかしあくまでここまでは想定内でもある。勝算はこちらの手の中にあった。

 

「行くぞ、ヒナちゃん先輩!」

「おうとも!」

 

ついに戦端が開かれ、淳之介とヒナミがグレイに仕掛ける。

以前と同じならば防御に徹するグレイには交互に攻めることが効果的だった。対して今のグレイは積極的に攻めてくる。以前の戦闘はこちらを殺さないという制約があったのだろう、しかし今のグレイにはそういった手加減は感じられなかった。

 

「…!」

 

殺意を乗せた苛烈な攻撃が二人を襲う。特に淳之介にはその一撃一撃が確実に命を狙われている。グレイ相手に長期戦は不利、かつまだ奥の手を持っている。だがそれを超えた先にしか勝利は無かった。

一方、リプレスを前にする奈々瀬と美岬もまた苦戦を強いられていた。リプレスが対人武装を積んでいないとはいえ、その鉄でできた身体をどうにかする方法もまた奈々瀬たちにはない。人の三倍ほどはあるその巨体で足踏みをするだけでこちらは近づけない。

それでもどうにか突破しようとする二人に口の先にエネルギーを貯めたリプレスが冷凍光線を放った。

 

「っ…大丈夫ですか、奈々瀬さん!?」

「平気!でもこのままじゃジリ貧なのだわ!」

 

かろうじて避けた奈々瀬が歯噛みする。

後方の文乃がスナイパーライフルでリプレスに射撃を行っているがとてもじゃないが決定打にはなっていない。せっかくの勝算を相手に届かせるあと一歩が必要だった。

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

淳之介とグレイの二人は叫びと共に穿き丸とナイフをかちあわせる。

切り結ぶこと十閃足らず。激しい戦闘は一秒という時間を引き延ばし、圧縮して互いの生を削り合う。

その瞬間瞬間でやはり優勢はグレイに傾いている。無傷のグレイに対して淳之介はわずかに切り傷を増やした。だが眉根を寄せたグレイは違和感を覚えていた。淳之介の胸を蹴りつけると舌打ちする。

 

「…カイロか」

「その通りだ!」

 

本島からの支援物資のうち淳之介たちはSSから多めにカイロを融通してもらっていた。

グレイと戦っていてその動きを鈍らせないため、淳之介とヒナミはその全身にカイロを張って対策してきていた。

グレイの冷気が淳之介の身体に触れる。しかし身体を覆う熱がそれを阻んだ。

 

「…確かに身体を温めればフロストコアの威力は半減する」

 

ため息をついたグレイはハンドガンをホルスターに収め、ナイフを構え直す。

それは以前も見た必殺技の前準備だった。

 

「だが、全身を一瞬で凍りつかせれば関係ない…!」

「まずい!先輩、逃げろ!」

「くぅぅっ!」

 

走り出したグレイのフロストコアが強く輝きを帯びる。

それは半径10mの絶対零度。生物の活動を許さない氷結界。

 

「『Ash of absolute』…!」

「…!」

 

フロストコアのリミッターが外され、淳之介がヒナミを突き飛ばすと同時にグレイを中心に猛吹雪が吹き荒れた。

風が頬を叩き、雪が狂ったように宙を舞う。淳之介の身体は完全に凍り付き、指先まで氷で覆われ完全に動けなくなった。

一秒。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…カイロで対策したところまでは褒めてやろう」

 

荒く呼吸を繰り返すグレイが辛そうな表情でこちらを睨む。

二秒。振動が始まる。

 

「だがカイロごと凍らせるAsh of absoluteには無意味だ。それともそこまで頭が回らなかったか?」

 

ゆっくりと雪の中をグレイが近づいてくる。

五秒。じわりとそれが広がる。まだ早い。

 

「どちらにせよもう全て終わりだ。凍った世界の中で死ね、橘淳之介!」

 

そしてカチャリとハンドガンの銃口を淳之介の額に合わせた。

八秒。瞬間、爆発したようなエネルギーが淳之介の身体を貫いた!

 

「来世に――――」

「んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!?」

「なにッ!?」

 

九秒が経つと同時に淳之介が氷の牢獄をぶち破り、雄叫びをあげる。

そのまま額につきつけられていたハンドガンを蹴り飛ばした。思わず距離をとったグレイは驚愕の表情を崩せない。

 

「お前…どうやって!?」

「ふっふふふ!簡単な話だ!あふんっ!全身を凍らされるならおおんっ!凍った後に温めれば良い!体内からなぁ!」

「体内…だと!?まさか胃の中に仕込みを…!?」

「…まぁそんなところだ!」

 

実際のところ装置を入れていた場所は――――淳之介のケツ穴。

その装置こそアナルプラグ型振動発生装置。振動によって生み出された熱を効率よく全身に伝えるその機構は対Ash of absoluteの切り札。

例え身体の表面が凍り付いたとしても身体の中までは凍り付かない。身体を温めるなら内側から。その文乃の言葉からヒントを得た淳之介が一晩で3Dプリンターによって生み出したアナルプラグこそが虎の子だった。まぁ急造品なだけあって刺激が強すぎて思わず叫んじゃったがそこはそれ。

ちなみに装置の起動はヒナミに任せていた。もし先にヒナミがやられていたら勝つことはできなかっただろう。突き飛ばされたヒナミは僅かに冷気に侵されながら、それでもしっかりとリモコンで装置を起動していた。

 

「ごめん、淳之介くん。足をやられた!」

「充分です!後は…任せろ!」

 

かくしてAsh of absoluteは破られた。そして自身への負担の大きいAsh of absoluteを使ったグレイは今、大きく戦闘能力を落としている!

 

「行くぞッ!グレイィィィィッ!!」

「チッ…!」

 

穿き丸を振り下ろす淳之介とそれを受けるグレイ。

最終戦闘はついに始まった。

 

・・・

 

「くそッ!なめるなッ!」

「デカチンポ美味しー♡じゅるじゅれじゅぽぽ♡」

「うおっ!?その舐め方卑怯…おまえらスケベフェラ得意すぎるだろ…!」

 

南の森では凄惨(?)たる景色がひろがっていた。

戦線崩壊したノースマイル兵たちに襲い掛かるのは肉食系女子。雪の上だろうがお構いなしに始まるセックスに大の男たちは性的に蹂躙され、そんな様子を血が滲むほど唇を噛みしめたキーマンが睨みつけていた。

 

「こんなくだらん戦法でっ…俺達が負けるだとっ…!?」

「そうだ!お前たちの負けだ!」

 

キーマンと相対しているのは礼。

互いに装備しているのはハンドガンとナイフ。その戦闘スタイルは似ており、森の中を駆け回りながら射撃と斬撃を繰り返す。

 

「ふざけるな!俺達が今までどれだけの戦場を勝ちぬいてきたと思っている!それが今更、貴様らのようなガキに…!」

「だからこそだ!」

 

動揺しているとはいえ実力差のあるキーマン相手に礼は対等以上に渡り合う。

意思を乗せた連続攻撃にキーマンは腕で防御するもうめく。重い反撃を繰り出すも礼は容易くそれを躱した。

 

「お前たちの敗因はたった一つ!お前たちは青藍島を、私達を侮った!」

「戯言をッ!」

 

唾を飛ばし激昂するキーマンだがその動きは逆に鋭くなった。

巨体からは想像もつかないほど俊敏な足払い。それはキーマンの最も得意とする一撃であり、鎌のように鋭利さで礼の足を狙った。だが礼はそれを跳んでよける。

 

「そしてッ」

 

そして更に礼はキーマンの肩を踏みつけ高く跳びあがった。

キーマンの見上げた先、太陽を背にした礼は蹴りの構えを取る。

 

「愛する青藍島で、私達が負けるものかぁぁぁぁッ!!」

「ぐはぁっ!?…ぐ…」

 

礼の踵先がキーマンのあごを正確に捉えた。

鈍い音が周囲に響き渡り、体勢を崩したキーマンは徐々にその身体をふらつかせるとドシンと音をたてて雪原に倒れこんだ。

キーマンに勝った礼は雪に膝を立てていたが暫くして肩を震わせ始める。

 

「き、決まった…!完全なライダーキックだこれ!やったぁあああああっ!」

 

口上からの必殺技。それは日曜朝のお友達にはおなじみにライダーキックそのものだった。

完璧な流れに礼は感無量でいた。まぁ物理的にライダーキックって不可能だと思うんですけどそこはそれ。勝利の余韻から覚めた礼は北の空を仰ぐ。勝った…が、全身は傷だらけでもう動けそうにない。静かに息を吐いた礼は今なおリプレスと戦う彼らの勝利を祈ったのだった。

 

・・・

 

「うおおおおおおおおッ!」

「…!」

 

裂帛の気合がぶつかり合う。全力の闘争は互いの身を削り合い、血を滲ませながら勝利を目指す。戦いは泥沼に突入していた。『Ash of absolute』で疲弊したグレイは勿論、アナルプラグを起動させ続けている淳之介の身体にもかなりの負担が蓄積している。

 

「お前の弱点は二つ!」

 

穿き丸を押し込みながら淳之介は吼えた。

それに対しグレイは両腕でナイフを支えるものの、その表情は苦悶に満ちている。

 

「一つ!身体が出来上がっていないこと!」

「ぐっ…!」

 

力負けしたグレイが身体をのけぞらせて辛うじて逃げる。

グレイの戦闘能力は圧倒的な経験に裏打ちされたもの。だが彼はあくまで少年に過ぎない。成長期を終えていない身体は淳之介よりも頭一つ小さく、肩幅も狭い。もし彼が淳之介と同年代だったら負けていただろう。それほどまでに此方には出力の差があった。

そしてもう一つ。

 

「二つ!お前が本当は戦いたくないと思っていること!」

 

淳之介は吼える。

 

「お前はっ!本当は戦いたくないんじゃないのか!?殴られてまで戦う理由がお前には本当にあるのか!?」

 

拳を交わしたからこそ解ることがあった。

グレイの戦いには迷いがない。しかしそれは本来誰しも持って然るべき恐怖や喜びであり、ただの少年が迷わない事はそれだけで淳之介には異質に思えた。そしてそこに意思がなければ、戦うための理由もまたグレイにはないのではないか。

 

「言いなりになって戦うことが正しいわけがないっ!それにお前はまだ子供だろうが!だから…俺達が戦う理由はもうっ」

「黙れぇっ!」

 

切り裂くようにグレイが叫ぶ。

唾を飛ばし、歯を食いしばった少年の表情は今までに見たことの無いものだった。

 

「お前に俺の何が解る!産まれてからずっと戦い続けてきた!戦場だけが俺の居場所だった!戦いが、戦うことだけが俺の存在意義だ!」

 

思わず淳之介は足を止めた。

初めてグレイが自分らしい感情を見せた。そしてその感情に淳之介は、共感を示すことができなかった。

「…解らない、俺にはお前の気持ちは解らない」

 

自分はグレイのことを知らない。その過去も、その思いも。勝手な考えで、勝手な妄想で無責任なことを言っただけじゃないのか。

子供は親を選べない。それだけ過酷な環境に産まれてしまったなら、グレイは戦うことでしか存在証明できなかったのかもしれない。

 

「それでも!」

 

淳之介は、グレイの苦しみに満ちた顔を知っている。あんな顔をしてまで戦う彼の在り方が正しいとは絶対に思わなかった。

拳を握りしめた淳之介はグレイの蹴りを胸で受け止める。鈍い音が響き渡り、大振りな攻撃を避けられもしなかったことに驚くグレイに力強く淳之介は叫んだ。

 

「笑顔の無い勝利に、意味なんてあるかぁあああああああああああっ!!」

 

繰り出した拳がグレイの頬を殴りつける。自分のため、そして彼自身のために淳之介は負けるわけにはいかなかった。

一方、その頃後方ではスナイパーライフルを構えた文乃が暴れまわるリプレスにその照準を合わせていた。

 

「…見つけた」

 

雪を蹴り散らすリプレスのコックピット上部にそれはあった。

小型端末からその情報を受け取った奈々瀬は前転でリプレスの蹴りつけを躱すと、文乃の情報にあった化鳥の頭部を見る。そこにあるものとはUSBインポート…と言うには簡単すぎるがつまりシステムコンソール。リプレスの身体において、唯一ダイレクトハッキング可能な部位だった。後は『アレ』をそこまで届けるだけでいい。

 

「くぅっ…!?」

 

でもそれこそが一番難しい。巨躯で歩き回るリプレスには近づく事がそもそも危険であり、そもそもの目的が地上から8mほどあるリプレスの頭にある。

どうにかして隙を作り、奴の膝をつかせなくてはならない。でもどうやって?雪の上を転がりながら奈々瀬は鉄の巨鳥の姿を仰ぐ。リプレスを倒す、あと一手が――――

 

『――――雪怪殺すは、冷泉の檻』

 

こちらに一歩を踏み出そうとしたリプレスの足が空中で縫(・)い(・)留(・)め(・)ら(・)れ(・)る(・)。巻き付いた何十本というワイヤーがリプレスの動きを阻害していた。無理やりワイヤーを引き千切ろうとするリプレスの鼻先に弾丸もかくやというスピードでコインが突き刺さり、リプレスがその巨体をよろめかせる。

 

「…貸しですよ、先輩」

「っ…うおおお!」

 

振り返る余裕も無く、吼えた奈々瀬は手元にあるフラッシュバン型Eggをありったけ投げつけた。リプレスの眼前で破裂したそれは視界が真っ白になるほどの光を放つ。

 

「…」

 

同時に、視界を奪われたリプレスの背後の森から飛び出してきたのは女部田郁子。

いつになく鬼気迫る表情の彼女はまるで風のように、一切のよどみなく走ると一閃。奈々瀬には刀を抜くところすら見えなかったが、確かな斬撃はリプレスの『足』を斬り裂いた。

関節部分の回路を切られたのか脚力を失ったリプレスが崩れ落ちる。膝立ちになったリプレスの前に走った奈々瀬は大きく叫んだ。

 

「――――美岬ちゃん!」

「任せてくださぁあああああああああああああいっ!」

 

両足を開き、腰をかがめた奈々瀬は両手を揃えて走ってくる美岬を待つ。彼女こそがこの作戦のジョーカー。影を薄さで隠れ、体力を温存できていた美岬は万全。

全力疾走してきた美岬は奈々瀬の数歩手前で跳躍。その片足を、重ねた掌で受け止めた奈々瀬は全力を込めた彼女の身体を支え、そして上に投げ飛ばす。奈々瀬の力で大ジャンプした美岬の身体はリプレスの頭部を優に超え、そしてその手にある物は――――

 

「――――ちんぽ型USB!」

 

美岬のお気に入りである大容量USB(兼ディルド)は今太陽の輝きを受けピンク色に燃え、そしてその切っ先(鈴口の反対側の端子)をリプレスの穴(端子挿入口)に向けていた。

 

「「行っけぇえええええええええええええええええっっ!!!」」

 

美岬、渾身の一撃。

ズブリと接合を果たしたUSBからリプレスに中身が吐き出される。

つまりそれはセックス…ではなく作戦の成功を告げていたのだった。

 

・・・

 

コクピット内にてドクターアンジェラはようやく視界を回復させた。酷い光によって目をやられたが、VRゴーグル越しだったためか一時で済んだ。

しかし状況は良くない。どうやらリプレスの足をやられてしまったらしい。動く事ができなくてはレーザーの照準も合わせられない。元々戦闘用ではないとはいえ、今の状態ではもはや何も出来ない鉄の塊と言っても良い。

とはいえ相手も何も出来ないという点では同じだ。リプレスの耐久力はかなり強いし、中で籠ってあとはノースマイルの部隊が救援に来るまで待てばいいのだ。

ゆっくりと息をついたドクターアンジェラは座席で腕を伸ばす。そこでふとVRゴーグルの画面の片隅に何か異質なものが映っていることに気がついた。

 

「なにこれ」

 

そこいたのはドット絵の女の子。女の子は片手にプラカードを持っており、そこ書かれているのは確か…日本語でダウンロード。加えて女の子の下にはかなり進んだゲージが。

 

「ってちょっと待ってちょっと待って!!?」

 

アンジェラは天才発明家であるが、プログラミングの天才では無かった。

慌ててコンソールに手を伸ばすが時すでに遅し。緑色のゲージが右端に到達した瞬間にアンジェラの視界が切り替わる。

同時に視界一杯に映し出されたのは――――何百、何千というエロ画像だった。

滝のような情報量でエロ画像、エロ動画、果ては官能小説までもが次々と切り替わっていく。そこではプラトニックラブからマニアックなものまで、ジャンルに貴賤はないと言わんばかりの色欲の大噴火が起こっていた。当然そんなものをゼロ距離で放たれたアンジェラもタダではすまない。理解不能に次ぐ理解不能が脳の停止に繋がり、停止した脳に刷り込まれるようにドスケベが侵食していく。

自然と鼻血を流しながら視覚と聴覚で彼女は貪るようにエロを追っていた。数十秒と経つと表示されるエロ画像に変化が現れる。次第に先鋭化されていくエロ画像は視線の傾向を元に表示され、徐々に彼女の好みへと近づいていく。

それを成すプログラムこそが『オッナドール―Z』。美岬のオカズビッグデータを基に使用者の好みを学習、選択、提供するオッナドールは今、それを通常の一万倍の速度で処理し、もはや洗脳に近い形でドクターアンジェラ自身が気がつかなかった『性癖』を割り出していた。

段々と表示されていくオカズの時間が長くなっていく。気がつけば股に手を伸ばしていたアンジェラがイクと同時に、オッナドールはその仕事を完了させた。

 

・・・

 

リプレスのコックピットが開かれ、中からモワモワと湯気が立ち昇るとVRゴーグルを外したドクターアンジェラがズルリ滑り落ちてきた。

 

「ドクター!?」

 

叫んだグレイは淳之介に背を向け、アンジェラが落ちてくる場所へ走る。

間一髪でその身体を受け止めたグレイは雪の上にもんどりうって転がると、抱きしめたアンジェラの肩を強く揺すり始めた。

それを見たNLNSの面々は動かない。疲労していたということもあるが、雪の上で抱き合う二人を邪魔するほど無粋でも無かった。

 

「ドクター!しっかりしろ、ドクター!」

 

グレイらしくない必死な呼びかけで、ようやく股をビショビショに濡らしたアンジェラが僅かに肩を反応させる。うっすらと瞼を開けてグレイの姿を確認すると、おもむろにガバリとその身体を起こして逆にグレイの身体を押し倒した。

 

「ぐっ、ドクター!?何を!?」

 

突然の行動にグレイは抵抗するものの、激戦の後で疲弊した少年の身体は上から覆いかぶさる大人の女性の身体を押しのけられない。上に覆いかぶさったアンジェラは機敏な動きでグレイが動けないように四肢を固めると、その端正な顔を覗き込んだ。

そして、一言。

 

「可愛い~~~~~~~~っ♡」

「…!?」

 

グレイとキスできるぐらいの近距離で、でへへと蕩けきった笑みをアンジェラは浮かべる。

そこで初めてグレイは彼女の様子がいつもと違う事に気がつく。以前までの彼女はどこか陰がある氷のような女性だった。しかし今はもはやそのイメージは完全に崩壊し、知性を失った彼女ははぁはぁ♡と発情しきった雌吐息を繰り返している。

 

「まずちっちゃいところが可愛いし~♡おめめの形も可愛いし~~♡あとちょっと反抗的なところかぁ♡大人ぶった喋り方してるところとかも、かーわいい♡」

「何を言っているドクター!?正気に戻れ!」

「あとは~~頑張り屋さんなところも好きだし~♡ぶっちゃけ初めて会った時から一目惚れっていうか~~♡ん~~だからぁ~~~♡」

 

ガシリとグレイの肩を掴んだ彼女がニッコリと浮かべたのは、今まで見たことの無いドスケベな笑顔。

 

「今から私、グレイのことをレイプするわね」

「……は?」

言うが否や瞬く間にグレイのズボンが引きずり降ろされ、染み一つない真っ白な下半身が露出する。そして光速を超えた手コキによってグレイの意思とは関係なく平均より小さい子供ちんぽが勃起させられ、次の瞬間にはその先にあてがわれたアンジェラのまんこが振り下ろされていた。

 

「待てドクターっ…!?」

「待てと言われて待つ痴女があるかっ♡んん…おほぉっ♡念願のショタチンポ効く♡じゃあさっそく腰降り始めるからね♡フッ♡フッ♡フッ♡」

「ぐおっ…!?」

「あぁ~~~♡感じてる顔も可愛いぃぃぃぃっ♡♡♡」

 

挿入の感覚に舌を突き出し僅かに身体をのけぞらせたアンジェラだったが、すぐに容赦なく腰を振り始める。バツンッバツンッという激しく肉が叩きつけられる音が響き渡り始め、上に被さったアンジェラは獣のようなイキ声をあげながらグレイを犯す。流石に味方からの裏切りレイプは予想外だったのかグレイは抵抗することもできず呻くだけであり、その涙混じりの表情が更に彼女の情欲を誘った。

オッナドールZが目覚めさせた彼女の性癖、それは『ショタコン』であった。しかしそれは彼女が元々持っていた素質があってこそである。つまり彼女は元からグレイの事が好きだったのだろう。

ともあれセックスしている二人は無防備。何やってんだこいつら!?とあまりにも唐突なレイプに唖然としていた淳之介と奈々瀬も今なら簡単にトドメをさせるんじゃないかと、困惑しながらもにじり寄っていく。そんな二人の前に立ちはだかる人物がいた。

 

「待ってくれ!もう戦う必要は無い!」

「アンタは…」

 

森の中から走り出てきたのはセルゲイだった。

屈強な軍人の姿に淳之介たちは身構えるが、セックスする二人の前に立ちはだかったセルゲイには戦う意思はなさそうだった、

 

「こちらに戦闘の意思はない!武装も放棄する!それでも撃ちたいというのなら俺を撃て!」

 

そう言うとセルゲイは持っていたAKMを雪の上に投げ捨てた。

そして二人に向き直ると顔を伏せ、独白を始める。

 

「俺はお前の境遇を知っていたのに何もしてやれなかった。それは何もしなかったのと同じ事だ!グレイ、今まで助けられなくて本当にすまなかった!」

「っセルゲイ!今!そう思うなら今助けてくれ!」

 

意識を取り戻したグレイが助けを求める。しかしセルゲイは涙ぐむと太い腕で顔を覆った。

 

「俺は誰かを守りたくて兵士になったのに子供一人救えない…俺は…無力だ」

「現実から目を背けるなセルゲェェェェイッ!?」

 

グレイの悲痛な叫びが森に木霊する。

本来なら感動的なシーンなのかもしれないが、激しいレイプを見ているとそんな気になれない。そろそろ何か行動しようとした時、森の中からSS部隊とSHOの職員たちが波のように走ってきた。どうやら向こうもノースマイルの本隊に勝てたらしい。

そう解るととたんに身体から力が抜けた。見れば近くにいた奈々瀬もへたり落ちている。キャンプを瞬く間にSHOたちが制圧していく。激戦を制し、勝利を収めたのはNLNS…いや、青藍島だった。

 

・・・

 

そして二日後。

折れた腕を三角巾で吊った淳之介は玄関先で空を見ていた。

 

「…いつもの青藍島だ」

 

結局あの後淳之介たちは巻き込まれた一般人として担架で運ばれ、SHOの本部で応急手当てを受けることになった。グレイとの戦闘によって淳之介は全身に凍傷を負い、左腕を綺麗に折られていたが、あの戦闘の激しさを考えればその程度で済んだとも言える。そして応急手当の後は取り調べと厳重注意も受けたが深く追求されることはなく、メンバー全員各自自宅へと送り届けられた。

そして二日が経ち久しぶりに外に出てみれば天気は完全に回復し、澄んだ青空の果てでは灼熱の太陽が輝いていた。道端に積もっていた雪は今や水たまりとして残るだけであり、慣れ親しんだ蒸し暑い風が戻ってきていた。

これが淳之介たちが取り戻したものだ。雪化粧の剥がれた景色は元通りに戻り、それを全身で感じる淳之介は爽やかな気分で背筋を伸ばした。

結局あの後ノースマイルがどうなったかは解らない。SHOがどんな対処をしたか淳之介は知らないが、こうして暖かな気候が戻ってきた以上気にする必要はないのかもしれない。ただ一つ心残りがあるとすればグレイの事だ。戦うことでしか意味を見いだしてもらえない少年が、また戦いに身を投じるというのに止めることもできないのは淳之介に歯がゆさをもたらした。

それに厳密に言えば事態は全て解決していないとも言える。NLNSのスポンサーである老人がノースマイルと関りがあったかもしれないということ。元々きな臭い人物だとは思っていたが、これからはもっと疑ってかかる必要がありそうだった。

 

「わっ…とと」

 

思考に集中していた淳之介はブロロと音をたてて走ってきたトラックを道端に避けて躱す。

少しよれた三角巾を直していると、隣の家の玄関がガチャリと開いた。

 

「んー…あら?おはよう淳之介くん。珍しいのね」

「あぁ隣の奥さん、おはようございます」

 

中から出てきた隣の奥さんがTシャツ一枚という薄着で声をかけてくる。近づいてきた彼女からは甘い匂いが漂っており、薄着なだけあって身体の形がハッキリと見えてしまっていた。まぁ性乱島この程度気にしていられないのだが。

 

「淳之介くんも朝の空気を吸いに?」

「はい、今日は早起きしてしまって」

「そうなんだ、私の方は徹夜だったよ…ふぁ」

「でしょうね」

 

昨晩は奥さんの喘ぎ声がいつもとは比較にならないほどうるさくて寝付けなかったし、なんなら早起きしてしまったのも喘ぎ声が原因だ。性乱島の常識的に文句は言えないが睡眠妨害はほどほどにしてほしい。

談笑しているとブロロともう一台トラックが通り二人で道端に避ける。トラックが通り過ぎると隣の奥さんは笑って見せた。

 

「あんなに寒いのは嫌だったけど久しぶりのセックスってめちゃくちゃ気持ちよかったし、たまには禁欲してみるのも良いかもね」

「はぁ」

「あ、さては信じてないでしょ。寒さ明けでまだセックスしてないならどれだけ気持ち良いか私と一発確かめて…」

 

奥さんが胸元を人差し指で開けて誘惑してきたところでまたトラックが走ってきた。二人で道端に避け、通り過ぎるのを待つとまた元の位置に戻る。

 

「いやトラック来すぎでしょ」

 

偶然にしても三台は多すぎる。

振り返ってみると奥さん宅とは反対側の家の前にトラックは三台とも停まっていた。

 

「あー引っ越しかな?空き家だったもんねあそこ」

 

青藍島に引っ越ししてくる人は割と多い。それ自体はたいして珍しいことでもないがこれから隣人となるのなら挨拶ぐらいすべきだろうか。

荷台から物を運び出している業者たちの中に視線を向けるとそれを指示しているらしい小柄な人影が見えた。

そこにいたのは。白い髪に紫色の瞳。透き通るような白い肌に美しい顔立ちをした、やけに見覚えのあるTシャツ姿の少年だった。

 

「あぁグレイ…グレイぃ!?」

 

そこにいたのはまごうことなくグレイだった。あまりの衝撃に一瞬脳が受け入れる事を拒否したが、あの姿を間違えるはずも無い。

思わず走って近づいた淳之介は業者達の合間を躱し抜け、小柄な少年の肩を掴む。

 

「グレイお前!どうしてここにいるんだ!?」

「ん?橘か。どうしても何も引っ越してきたに決まっているだろう。というか痛むから離せ」

「あぁすまん…いや、そうじゃなくて!」

 

最後に見たグレイの姿は…ともかく。

ノースマイルのグレイが何故ここにいるのか。ましてや引っ越しということは(当たり前だが)淳之介家の隣に住むということである。

詰め寄る淳之介に面倒くさそうにため息をついたグレイは説明を始める。

 

「まぁようするにだ。お前らせいで作戦は失敗。ノースマイルは島からの撤退を余儀なくされ、俺達は不良品として捨てられた」

「捨てられたってお前…というか俺達?」

 

グレイが気だるげに指さした方を見るとそこでは金髪の女性が資料の束を運んでいた。

見間違いでなければリプレスの操縦をしていた女ドクターだろう。彼女はこちらに気がつくと目を見開き駆け寄ってくる。

 

「こんにちわ淳之介くん!私の名前はアンジェラ、これからお隣だけどよろしくね!」

「あぁえっとそのご丁寧にどうも…」

 

思わず頭を下げてしまった淳之介だが物凄い違和感を覚える。

最後に見た彼女はもっとこう…理性の無い獣だった。ドスケベをドスケベで煮詰めたような性欲の権化だったように思う。

 

「…でだ。順序が逆なわけだが、あの後俺達はSHOに拘束されてそのままスカウトを受けた。まぁもう本国にも帰れないしな。それで俺達はあのいけすかないおっさんに協力する限り青藍島の保護を受けることになったってわけだ」

 

どうやらあの知事が悪人なりに気を利かせてくれたらしい。優秀な人材を手に入れられて彼も満足だろう。

彼らがSHOに協力するということをNLNSのリーダーである淳之介は手放しに喜んではいけないのかもしれない。しかしこれでグレイが無理に戦わせられることはなくなった。それだけで淳之介の胸には熱いものがこみあげた。

 

「…そうか。それはよかったな」

「良いわけあるか、まったく。この島は暑すぎてかなわん」

 

額の汗を拭った少年はもう首にマフラーをつけていない。夏らしい薄着を身につけたグレイは日焼け一つない真っ白な肌で慣れない太陽の眩しさ疎ましそうにしている。

そんな少年に向けて淳之介は折れてない方の腕を、ゆっくりと差し出した。

 

「ようこそ、青藍島へ」

「…あぁ。これからよろしく頼む」

 

握手を交わし互いにニッと笑い合う。

これまでなんてどうでもいい。未来がどうなるかも解らない。

ただ確かに彼は今、青藍島で笑顔を浮かべていた。

 

・・・

 

 




ふぃー工事完了です。
さて完走した乾燥ですが…めちゃくちゃ楽しかったです。キャラクターを動かしてストーリーを作っていくのもそうですが、やっぱりモブの会話を考えるのが楽し過ぎました。最初はこんなの考えるの無理だろと思っていたんですが割と自分らしいのがひねり出せたので満足ま〇こです。まぁ偉大なる原作には爪ほども届いていませんがそれはそれ。個人的には尿道が凍り付くくだりが最高に頭悪くて自分のやつの中では好きです。お前どう?(露骨な感想稼ぎ)
さてこれにて本編は完結です。この後は蛇足の日常編を投稿していきたい所存ですので読んだり読まなかったりしろ。それじゃあまたどこかで。
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