万能細胞を使ってIS学園を洗脳・改造・侵蝕・ハーレム! 作:地球最適化プログラム
日本の首都である東京の
そして最近、その臨海部でまた埋め立て工事が行われ、新しく1つの施設が作られた。
その施設とは、国立の学園である。総工費に国の予算の数パーセントをかけて作られたその学園は、色々な意味で特殊であった。
まずは、学園内の設備である。一般的な公立高校や私立高校とは比べ物にならない程のハイテクノロジーを誇っていた。
例えば、各部屋の表札や様々な表示を3Dの立体投影で表現し、あらゆる物品や備品、システムがデジタル化されて、ネットワークで管理されている。
教室においても黒板などはなく、巨大な液晶スクリーンに文字や映像が出力される。更には生徒の机や教壇もタッチパネルと立体投影が搭載された特注品で、わざわざ黒板にまで出向かなくともスクリーンに出された文字を書き込むことだって出来る。
それ以外にも、話し出せばキリがない程に先進的な技術を詰め込んだ学園であった。
しかし、たかが国立の学園一つにここまでの技術を詰め込むのは、些か疑問を呈する者が多い筈だ。嘗て成田や大阪に先進技術を活用した授業を行う実験的な学校をいくつもの作っていたことがあったそうだが、それだって教育に充てる予算の一部分に限られていた。
予算を大幅に使ってまでこの学園を作った理由には、やはりインフィニット・ストラトス、ISの存在があった。
IS操縦者育成機関、IS学園。それがその学園の名前である。
この学園は『IS操縦者育成の為の教育機関』と理念付けられており、世界で最強の兵器であるISの操縦者を育成し、安全な利用を続けていくために存在する、世界で唯一の施設である。
そのために未来を担う若者たちに最上の施設を供給していたのである。
また、この学園の特殊さはそれだけでは留まらない。
ISの特性故にこの学園は事実上の女子校であり、また世界で唯一の専門機関でもあるためにISの運用協定に参加している国から多くの生徒が学びに来る。そのため国際色も豊かである。
極めつけにはIS学園は日本国内でありながら日本の法律は効かず、基本的にどの国の影響も受けないものとなっている。
ISに関するものは、殆どが特別視される。それはこの学園においても例に漏れなかった。
IS学園とは、そんな学園である。
そして、その学園内の一室では、周りの生徒に視線を釘付けにされている一人の
「織斑一夏君?」
「は、はいっ!?」
その男、織斑一夏は、目の前にいるやや低めの身長をした女性に急に声をかけられて、返事が裏返ってしまった。
クスクスと、堪えた笑いが微かに聞こえる。彼の耳は真っ赤だった。
「ご、ごめんね?今『あ』から始まって次が『お』だから、次は織斑君の番なんだけど……自己紹介、出来ますよね?出来ない?そ、そこを何とか、だ、ダメかな?」
「い、いや、出来ます!出来ます!大丈夫ですから、先生は落ち着いて下さい」
慌てる女性にそれを宥める男性。女性が教師で男性が生徒なのだが、これを見ればどちらが教師でどちらが生徒なのかよく分からない程だ。一日だけ入れ替わってますなどと言われたら信じる人も多少いるかもしれない。
この女性教師は、一夏が必死に宥めると、まるで死んだ魚が息を吹き返したかのように機嫌を取り戻し、彼に詰め寄る。気分の浮き沈みが激しいというより、彼女は極度のあがり症で心配性であった。それに、今年は史上初めての出来事が多すぎることもあって、彼女にはとんでもない重圧がかかっていることは明白であった。
なんせ、この女性教師、山田真耶は、男性の生徒に対して教鞭を執るというのは、初めてのことであるのだ。
そもそも、この学園の教員になるためには、ISの分野において一定の功績を挙げていなければならない。
例えば、彼女は日本の元代表候補生であった。同期には有名な
このように、ISについての学び舎だからこそ、それを教えられるに足る知識と技倆を持っている人材が適用される。授業では実際に教員がISを装着して実技を行うこともある。
だが、問題なのはここからだ。そうして集められた教員は、長らくISという女性しか参入出来ない分野に浸り続けて来たために、男性への免疫が無い人が大半を占めていたのだ。……怪物は例外であるのだが、山田真耶はその例には漏れていなかった。なので、史上初とも言える、ISが動かせるという稀有な事情で入学してきた男子に四苦八苦していたのだった。
(この人……大丈夫なのだろうか)
織斑一夏は、そこかしこに撒き散らされた不安要素、特に目の前の爆弾に顔を歪めて、引きつった笑みを浮かべる。
だが、爆弾は目の前の低身長の女性教師だけではなかった。
この教室にいる生徒は、彼ともう一人を除いて、全員女子生徒なのである。
ISを扱えるのは女性だけであるから、ISの操縦技術や整備を学ぶのは、女性だけである、というのは当然である(更に言えば、ここは世界最高峰の学び舎であるから、ISにあまり携わることの出来ない男子は禁制であるのは、女性権利団体の圧力もありなおのことであった)ので、この学園には女子生徒と女性教員しかいなかった。一夏ともう一人はイレギュラーであるためにこの学園に入学することを許されたのだが、それ以外の男性は基本入るこはと許されない。女の園なのである。
そのために、織斑一夏にとっては脳を惑わせるほどの、自然の罠が幾多も待ち伏せていた。
例えば、女性特有の色香。男性を引き寄せるための本能として、フェロモンと言っても差し支えの無い程の甘い匂いが、この学園内には充満している。
それだけじゃない。この女子校という閉鎖された空間で、平常に疲れた女子生徒達のもとに男子生徒が投下されるということは、それは飢えた猛獣を詰め込んだ檻に肉餌を投げ込むのと同義である。
そう、彼女らは今、投下された肉にありつこうと、必死に機会を伺っているのだ。
織斑一夏は、それを何となくであるが、肌で感じ取っていた。恐怖と羞恥で叫びだしそうになるのを必死で抑える。
張り詰めた空気の中、必死にこの状況を打開する案を探すも、頭に思い浮かぶものに決定的なものは皆無だった。
もう一度、彼は奇跡的に在籍していた幼馴染みの方へ視線を向けた。もう一度というのは、この山田先生が自己紹介をしている時に彼女がいることを目撃して、藁にもすがる思いで目線を向けていたのだ。彼女なら、この状況を打開する何かを持っているかもしれない。ただその時は、嫌そうな顔をされてそっぽを向かれてしまった。
そして、今度は──完全に視線を外して、外を眺めている。完全に、その幼馴染みは彼を見捨てていた。悲しいかな、一夏は心の中で涙を流す。
だが、そうこうしているうちに時は過ぎていく。時は誰に対しても無情である。誰の助けがなくとも、これから自分が死んでしまうと分かっていても、彼は立つしか無かった。
出来るなら、こんな場所から逃げ出したい。逃げ出せるものならば。
織斑一夏は、ゆっくりと椅子を立って、ギリギリまでこれからやってくる土壇場へのスケジュールを引き伸ばそうとした。
腰を上げて、机に手をついて、膝を伸ばす。その一連の動作を、ゆっくりと行う。まるでご老体が最後の力を振り絞って立つ様に似ている。
人は皮肉にも、変えられない運命に必死に逆らおうとして、惨めに抗った挙句、最期には無様に散っていく。織斑一夏はまさに今、それを体現していた。
彼は、極度なまでに緊張した面持ちをしながら、口を開いた。
「お、織斑一夏です……」
取り敢えず、名前だけ言ってみる。これだけで終われば、なんと楽なものだろうか。だが、現実はそう甘くはない。それどころか、張り詰めた空気がゾワゾワして、更に居心地の悪いものになっていくのを、一夏は感じ取っていた。
「え、名前だけなの?」だとか、「自己紹介って自分の情報を他人に説明する場だよね?まだ説明責任果たせてないよ?」だとか、そういった聴衆の心の声が聞こえてくるんだが。これが、無言の圧力、という奴なのか。というかなんだ、説明責任って。
そもそも俺には万人受けする趣味や情報など、持ち合わせてはいない。サボテンの株分けと育成が趣味と言って、共感する人がいるのかという話だ。もしこれが植物違いの家庭菜園なら立派に共感出来る趣味だろう。だが、サボテン栽培が趣味というのは百歩譲ってギリギリ許容出来るかどうかといったところか。食用サボテンの栽培なら尚更だ。事実、もしそういう人がいたら俺は心の中で絶対引いてる。顔には出さないけど。
あと、念の為自分の趣味がサボテン栽培ではないことは断っておく。家庭菜園もやったことはない。やりたいとは思うが。
「…………」
それにしても、何も浮かんでこない。何か言わなくちゃ駄目なんだ。
なのに…………。
史上初めてISを動かした男は、立ったまま身体を硬直させて、微動だに出来ない。視線が交わった者を石と化してしまうメドゥーサの如き好奇の目に晒されていたのである。
そんな中であった。グラインダーに押し付けられてゴリゴリと削られるように精神を摩耗させながらも、脳内で打開案を必死に模索していた一夏だったが、不思議な違和感を感じた。一つだけ、違う印象を持った視線があることに気付いたのだ。
殺気にも似た、それはそれは冷ややかな視線であった。一夏は不快感を感じて、今が自己紹介中であるにも関わらず、その正体を探ろうとした。しかし、それに近付けば近付くほど、不快感はどんどん増していく。氷の手が一夏の頭蓋を鷲掴みにして、何かが彼の瞳を覗き込んでいるかのように錯覚した。
「深淵を覗くものは同時に深淵から覗かれている」とは言ったものだが、一夏はそれを身をもって体感していた。
これは底知れぬ……闇だ。
一夏はそれでもその闇を覗こうと不快感に抗う。
彼がそこまでしてその闇の正体を探ろうと思っていたのは、興味本位、というよりは彼の持ち前の正義感からであった。だが、その正義は自分自身のエゴによって歪められていた。
そして、それを闇の正体は知っていた。
クラスメートから発せられる好奇心の荒波を越えて、凍てついた極地を目指す。溶けきらずに残った流氷が極地への道を示して、それを辿って一夏は進んでいく。
いつの間にか、時化に加えて吹雪も吹き荒れ、視界は真っ白に霞んでいる。彼はそれでも進んだ。
………目的地だろうか。島が見える。そこには、黒い人影が一つだけポツンと見えていた。その人物は……。
「………くん?織斑一夏君?」
「はいっ?」
背後から、聞き覚えはあるがまだ聞き慣れない声が聞こえた。山田先生であった。
「あの、まだ名前しか言ってませんよね?だ、だ、大丈夫ですか?」
それはこっちのセリフだ、などとは言えなかった。彼は自分の世界に入り込んでしまっていたからだ。これでは、山田先生に文句は言えない。
「あ、え、えーっと………」
俺は一回離れかけた頭を完全に元に戻すことは出来なかった。というより、完全に元に戻すことが出来たとしても良い案は浮かばなかっただろう。
脳の回路はオーバーヒートを起こして、最終的には醜態を晒してしまう。よくあることだ。
「以上です!」
ガタッ。派手にすっ転ぶ音が聞こえた。すまない。何も思い浮かばなかったんだ。
………ん?
「い゛っ!?」
このままではもう緊張と疲労で倒れてしまう。そう思い脱力しようと思った瞬間のことだった。
背後に何かを感じ取ったと思ったら、頭にとんでもない衝撃が走った。痛い!脳天が割れる!
誰かに何か硬い物質で頭を叩かれた。
……のだが、痛いのは確かなのだが、心の中に別の感情が湧いてくる。
決してドMに目覚めた訳では無い。この叩かれ方、妙にある人に似ていたからだ。いや、違う。恐らくその人本人だ。
「全く。碌に自己紹介も出来んのかお前は」
未だに慣れない痛みに頭を擦りながら、恐る恐る振り向く。
スリムなボディラインにピッチリ張り付いた黒いスーツにタイトスカート。それは鍛えられて世の女性ならば誰もが理想的な身体だと言うだろう。威圧感を増す組んだ腕と、魔狼の如き瞳。
「げっ、関羽!?」
「誰が三国志の英雄だ、馬鹿者」
バシーン、という子気味のいい音が教室の中で反響する。つまり先程の強打をもう一度食らったと言うことだ。いや、俺が悪いんだけどさ。
それにしても、どうして我らの千冬姉がここいるのか。失踪して数年、身内である俺には行き先も何も伝えずに、そして今日ここで出くわした。
どういう再会の仕方なんだ、一体。
織斑一夏という名前は、彼にIS適正が判明する以前はさほど有名では無かったが、その姉である織斑千冬の知名度というのは世界で知らない者は少ないと言えるほどのものだった。
彼女はISが台頭して混乱を呼びつつも世界に馴染みつつあった時から急速に頭角を表していた。対IS戦闘において、まるで
それも、武器は刀を一振だけで。
その鬼神の如き姿は嘗てモンド・グロッソで世界一を争った相手をして『怪物』と言わしめる程であった。
彼女の専用機である『暮桜』の最大の特徴というのは、『雪片』と銘打たれた刀にある。彼女は、この刀の特殊な性能と、それを扱うための極まった太刀筋によって頂点へと上り詰めた。
通常、ISにはある程度機体と操縦者を防御するエネルギーシールドが張られており、それによって人間の限界ギリギリの駆動能力や外部からの物理干渉を防ぐことが出来る。また、相手の攻撃がシールドの防御力を上回り、尚且つ攻撃が操縦者に深刻な被害を及ばせる場合に限り、『絶対防御』と呼ばれる強力なシールドを張るシステムが発動する。通常のシールドと比べて多量のエネルギーを消費し、操縦者を攻撃から守護する、その名の通りの代物である。
『雪片』は、そのISのシステムを逆手にとった能力を有していた。
ただ、この特殊能力にISの膨大な処理能力の大半を回してしまっているために、他の武装を装備出来ない欠点が生まれている。
更にこの能力を使用している間は自らのシールドエネルギーを湯水の如く消費していくために、ある種の諸刃の剣でもあった。
だが、彼女の操縦技術にかかればリスクなど皆無に等しかった。
対ISにおいて絶大的な優位性を発揮するISと、それを完璧に使いこなす強靭な肉体とカリスマ的なセンス。それが、彼女を
彼女は嘗てスポーツ競技としてのISの大会に姿を現し、観衆の目を釘付けにした。
だが、ある日、忽然と華々しい現役の舞台から身を退いた。
理由は不明だが、その少し前に、彼女がモンド・グロッソ決勝を棄権していたという出来事もあり、メディアやマスコミはその時点に何があったのかを解明するために躍起になっていた。
また、織斑一夏はメディアやマスコミには全く顔を出さなかった。彼がまだ幼く、そして姉が必死に大衆の目に入るのを止めていたからであった。
そして、紆余曲折があり、現在はこのIS学園で教師としての任に就いていた。
「私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聞き、理解しろ。出来ない者には出来るようになるまで指導してやる。私の役割は若干十五歳を十六歳にまで鍛え上げることだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな?」
最近見た警察学校のドラマ──確か主演は国民的アイドルだっけ──の主人公である教官に負けず劣らず、ドスとほのかな覇気が込められた冷徹な声で、この教室にいる者全員の脳みそに無理にでも刻み込むような喋りをしている。タチが悪いのは、ドラマはフィクションであったが、こっちは現実であることだ。寮の中で密かに銃を作っているようなサイコパスがいても簡単に黙らせられる。そんな殺気を演技ではなく本当に放つことが出来る数少ない人間だ、千冬姉は。キム〇クも顔負けである。
見ろよ、何人かの女子生徒が震えて泡吹きかけてるぞ。まさかそんな恐怖を感じることなんて覚悟も何も想定していなかっただろうから、なおさらだ。
かく言う俺は、ある程度慣れてしまったが。
……とは言うものの、それはごく一部の生徒だけで、他の生徒は何故か平気らしい。
「天下のIS学園、これくらいの苦行で倒れる者は軟弱者だ!」とかそういうことだろうか。
いや、いつからジャンプにありがちな世紀末の学園になってるんだIS学園は。
「き……」
き?
「キャアアアアアアアアア!!!」
「千冬様!!本物の千冬様よ!!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!!」
「お姉様、もっと叱って!罵って!」
「そして付け上がらないように躾して!」
あー、あれだ。ツアーライブで推しのアーティストが出てきた時の歓声にまるでそっくり。しかもこちらは30人という少数精鋭でそれを成している。押し寄せる嬉しい悲鳴の波が、いや津波だな、後ろから襲ってきた。恐らく耐えないと音波の波に押し流されて死ぬ。主に耳が。
それにしても、この学園の生徒の殆どは、千冬姉の大ファンであることがはっきりした。そりゃそうだもんな、元世界一、未だにブリュンヒルデの称号で呼ばれている人なんだもん。……いや、それ以上に何か形成されているものがある気がするが。
「全く。何故毎年こうも馬鹿ばかりが集まるのだろうか。それとも、なんだ?私のクラスにだけ馬鹿を集中させているとでもいうのか?」
千冬姉は、うざったそうに舌打ちして、硬い出席簿(先程俺はこれで叩かれた)を肩に担いだ。
「さて、と。おい、そこのお前。お前も男なんだから、自己紹介をしておけ。この馬鹿みたいな紹介だったらただじゃおかんからな」
千冬姉の右手の出席簿が、俺の横に抜けて窓際を指した。
……それにしても、男?全く気が付かなかったけど、俺以外にも男がいるっていうのか?
俺は千冬姉の行動に促されるがままに、窓際の席に目をやった。ちなみにさっきから立ったままだったが、今も俺はそれに気付かないほど、『もう一人の男』という言葉に意識を逸らされていた。
窓際の生徒──男子用の制服を来ているから、確実に男だ──は、自分が呼ばれるのを待っていたかのように、すぐに立ち上がる。痩せ気味な体型、制服の長袖で分かりづらいが、腕が華奢っぽい。俺は結構ガッシリとした体型だと言われているが、彼は反面ヒョロかった。何となくだが、彼に冬服は似合わない。夏服の方を着て貰いたい、と思うような身体だ。
印象的だったのは、サラサラとしていて、老人の
不思議な少年。
彼はその真っ赤な双眸で千冬姉を一瞥する。そして、
彼と俺の視線が交わった───────気がした。
「皆さん、はじめまして。キョウジ・イクリプスと言います」