※この作品はR-18です。

万能細胞を使ってIS学園を洗脳・改造・侵蝕・ハーレム!   作:地球最適化プログラム

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クラスメートの扱いと性格の確認に難儀して二ヶ月以上放置してました。ごめんなさい。

今話を含めてあと二話くらい織斑一夏視点が続きます。Hシーンを期待されてる方には申し訳ありませんがもう少しお待ち下さい。


第十話 学び舎に潜むパラサイト(寄生虫)②

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すらっとした長い足で立つその男───────キョウジは、周りに座る女子からの視線に物怖じせずに、淡々と自己紹介を進めていく。一夏は立っていることさえ忘れて彼の度胸に一種の感銘すら覚えていた。見た目に依らず精神力は自分以上か、と心の中で褒め称える。

 

「───────僕は日本が好きで、特にサブカルチャー、ロボットアニメが大好きです。ガンダムやマクロスなど、日本のロボットアニメはとても素晴らしいと思います。お台場にあるユニコーンガンダムの立像も、見に行きたいと思っていたんですよね。こんな事情がありますけど、日本に来れたことがとても嬉しいです」

 

 そう言ってお辞儀をすると、教室の中からパチパチと拍手が起こる。

 

「見たか口下手。自己紹介とはああやってやるものだ」

「ぐっ……」

 

 織斑先生からやれやれと言われ、渋々座る一夏。

 それにしても、とても日本語が流暢であったな、と一夏は思う。確か彼の出身国であるK国は、日本との繋がりが深く、出稼ぎに来るK国民も多いと聞く。

 ただK国の公用語は英語だ。英語圏の人間からすると日本語というのはとても難しく、頭が良くないと習熟出来ないらしい。独特の文体に何千もの漢字、慣用句など、日本人ですら誤用したり知らなかったりする程の日本語を、彼は殆ど学んだというのか。

 そう思うと、一夏はこの自己紹介という数分の時間において彼に大きな差をつけられた気分がして焦らざるを得なかった。

 悔しい、という気持ちも少なからずあるが、置いていかれるのではないか、という不安が大きかった。それだけに留まらず、この天下のIS学園のハイレベルさが一夏に追い討ちをかける。

 この瞬間にして、一夏の頭から余裕という二文字はすっかり消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

(殆ど、分からなかった)

 

 自己紹介の後に間をおかず始まった授業だったが、案の定とでも言うべきか、内容は殆ど頭の中に入って来ず。

 予鈴が鳴り机の上に突っ伏して、へたり込む一夏。疲れで重くなった瞼を半分くらい持ち上げて、改めてこの学園の厳しさを再確認していた。

 そもそも、入学式初日から授業があるとは一体どういうことだ。

 ここでは人間の持久能力と時間の許す限りIS関連教育が行われる。それは今日という日でさえ例外ではない。一限目が終わったわけだが十分程の休憩を挟んだあと(時間配分は一般的な学校とさほど変わらない)二限、三限と続き日が傾くまで授業が行われる。

 勉強の場とはいえ、生徒間のコミュニケーションは最低限しか出来ないというのか。いや、そもそもここに通う生徒は少ない休憩時間の中で仲を深められる程スペックが高いのか。

 そんな風に思慮していると、今の自分が惨めに感じてきて、一夏は大きく息を吐く。

 

(取り敢えず、状況を何とかしないと、どうにもならないよな)

 

 だが、いつまでも悲観はしていられない。すぐに頭を切り替えて、周りを分析し始める。

 廊下には授業参観の如くこちらの噂を聞きつけて詰めかけた他学年や他クラスの生徒がぎっしりといる。

 クラスの女子達は同じクラスというアドバンテージを持っているとはいえ話かけるのは難しい模様。女子特有のコミュニティとでも言うべきか、あまりガヤガヤと騒いではいなないのだが「誰か話しかけなさい」とでも言いたいオーラと、「抜け駆けはするな」というオーラ、二つの相反するものが渦巻いて、勝手に一夏の周りに結界のようなものを作り出している。

 ただ、ならこちらから話しかければいいのではというツッコミをするのは無粋である。

 

(誰かこの状況を何とかしてくれ……)

 

 旧友の五反田は、電話をする度に俺の事を羨ましい羨ましいと連呼していたが、この状況を見て一体どういう感想を口にするのだろうか。今からでも遅くはない。代わってくれ。

 ……気分転換に外へでも出るか。ゾロゾロついて来そうだ。というか、周りの、あの廊下でひしめいている人達が何か仕掛けてきそうだ。

 どうすればいい。

 一夏はさっきからの状態のまま、打開案を頭の中でねり続ける。

 いっそのこと誰かに話しかけるか。いや、周りから気があるなんて言われたら嫌だ。そのまま流されるままゴールインなんてことは御免である。そもそも、話すとしても何を話せばいいのか。今日はいいお天気ですね。朝食を教えて下さい、今夜は月が綺麗ですね───────って違う違う!今は夜ですらない。

 やはり、女子と会話するというのは恐ろしく前途多難なものか、と溜め息をつく一夏……であったが、不意に一条の光が差し込んだ。この絶体絶命の状況を何とかしてくれる、かもしれない考えがふっと浮かんできたのだ。

 …………そういえば、彼───────キョウジはどうなんだろうか。

 キョウジ・イクリプス。一夏と同じくISを動かすことの出来る男で、同じ一年一組のクラスメイト。

 そうだ、キョウジだ。彼に協力を仰げばいい。俺はまだ孤独ではなかった。頼もしい人間はまだいる。彼だって、この状況に四苦八苦して、動けていないだろう。ここは二人で力を合わせて、この気まずい空気からなんとか抜け出そうではないか。

 ぱあっと顔が明るくなった一夏は身体を起き上がらせて、左後ろにある、窓際のキョウジの席を見た。

 

(アイツは……あれ?)

 

 嘘、だろ?

 彼は既に幾人かの生徒と既に談笑している。

 

 一夏は言葉が出なかった。否、言葉が浮かんで来なかったと言った方が正しいだろうか。

 生きている、世界が違う。

 数秒間硬直した末、足りない頭で一夏が出した結論は、それだった。

 しかし、その答えというのはあながち間違ってはいない。

 

 彼は既に人間を捨てていたのだから。

 

「……少し、いいか?」

 

 内心で頭を抱え込む一夏だったが、不意に声がかかった。生徒が勝手に作ったATフィールドを抜け出したらしい。

 

「……箒?」

 

 それは、久しぶりの再会となった、幼馴染みの篠ノ之箒だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 今、俺と箒は廊下で向かい合っている。箒が廊下で話したいと行ってここまで出向いた(別に廊下までそんなに距離はないけど)のだが、今から決闘が始まるか果たし状でも渡されるのか、そんな雰囲気だ。

 周りでは四メートル離れて生徒が包囲網を作り、聞き耳を立てているし、なんだか本当に決闘を言い渡されるのかと思ってしまう。

 

 ……それで、一体何のようがあるんだ、箒。この気まずい空気から救ってくれたのは非常にありがたいんだが、このままだと場所を移動しただけで、何も変わらない気がするぞ。

 

 ――彼女は、俺が通っていた剣道道場の子で、同い年ということもあって気がついたら幼馴染みになっていた。髪型は今も昔もポニーテールで、その長い黒髪を後ろで束ねて下ろしている。髪を束ねているリボンが白いのは彼女が道場の子であると同時に、神主の子でもある由縁だろうか。

 ポニーテールを束ねて(・)い(・)る(・)リボン、なんつって。

 

「…………」

 

 なんてことを考えていたら、箒の目がこちらを睨んでいた。いかん、箒はこちらの考えを何故だか分からないけど看破することが出来るのをすっかり忘れていた。

 良からぬ考えをすれば、すぐに睨まれる。会ったばかりの頃からそうだったよな。

 

「そういえば」

「何だ?」

 

 ふと感傷に浸っていると、思い出したことがあったので、俺から話を切り出すことにした。

 

「去年、剣道の全国大会で優勝したってな。おめでとう」

「…………」

 

 おかしいな。こちらは賞賛の言葉を送ったのに箒は口を歪ませて顔を真っ赤にしている。なんで怒ってるんだ?

 

「なんで、そんなことを知っているんだ」

「なんでって、新聞で見たよ。箒が優勝したって……」

「なんで新聞なんか見てるんだっ」

 

 えぇ? 俺は新聞見ちゃ行けなかったのか? 新聞は記憶力向上に良いんだぞ。とりあえず好きに読ませてくれよ。

 

「あー、あと」

「あと、何だ!?」

「…………」

「……あ、いや……」

 

 相変わらず、口調は男勝りというか、サムライみたいな感じなのだが、今日はなんだか剣幕が凄い。

 一体何に興奮しているというのか。

 

「えーっと、な。久しぶり、箒。六年ぶりだな」

 

 箒が、道場を去る――つまり、俺と離れてから、六年。

 ここで再会したのは、とても奇遇ではあったが、箒があまり変わっていなくて、安心した。

 

「いやー、箒って、すぐに分かったぞ」

「え……」

「ほら、髪型一緒だし」

「よく、覚えているものだな……」

「いや、忘れないだろ、幼馴染みだし」

 

 ギロリ。また睨まれた。何故だ!?

 と、急に授業の予鈴が鳴って、俺たちの会話を遮った。決闘は中断され、周りの観衆は散り散りになって各々の教室に戻っていく。流石IS学園、勤勉なお方達だ。

 

「俺たちも戻ろうぜ、箒」

「わ、分かっている」

 

 顔をぷいっと逸らして、スタスタと足早に教室に戻る箒。来た時もそうだったが、彼女の脳内には俺を待つという選択肢はないらしい。お堅い部分は全く変わってないな。

 

(もうちょっとだけ臨機応変にもなってくれれば嬉しいんだけどなぁ)

「…………」

 

 ぐえ。また睨まれた。なんで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 二限目。やはりというかなんというか、授業の内容がさっぱり分からない。

 山田先生がすらすらとした口調で説明を続けているのだが、飛び出てくる単語の意味が殆ど知らないものばかりである。分かるものといったら助詞と接続詞くらいか。

 このなんとかセンサーだとか、反動型なんたらとか、みんな本当に分かるのか!? これ全部覚えなきゃいけないのか!?

 

 そう思いながら、一夏は机の上にどっしりと積み上がった教科書の山から、一番上の一冊をペラッとめくる。

 ――ああ、いかん。とりあえず目眩がする。

 

「お、織斑君?」

 

 そんな様子を察してくれたのか、わざわざ山田先生が訊いてきてくれた。

 

「あ、はい」

「分からないところあったら、訊いて下さいね、何せ私は先生ですから」

 

 山田先生が胸を張る。なんと頼もしい先生だろうか。同時にプルンと揺れる胸に関してはあまり考えないようにするが、多分なんとかしてくれるだろう。いや、してくれ。

 

「山田先生」

「はい、織斑君。なんでしょうか?」

「全部分かりません」

 

 ドンガラガッシャーン。何かが崩れるような音がしたのは気のせいだろうか。だが、山田先生の眼鏡は確実にずれていた。

 ……あれ?

 

「え、ぜぜ、全部……ですか?」

 

 大丈夫じゃない、らしい。困り顔100%でこちらを見ている。

 

 頼もしい先生は、どこへ行った。

 

「え、えーっと……織斑君以外で、この段階で分かっていない人は、どれくらいいますか?」

 

 シーン………。

 

 え、いないのか? 本当に大丈夫なのか? 何事においても始めが肝心だって言うじゃないか。ここでつまづくと後々大変なことになるんだぞ。

 本当に、いないんだな!?

 

「織斑。入学前に支給された参考書はどうした」

 

 と、ここで教室の隅で腕組みをして立っていた千冬姉が口を挟んできた。

 参考書といえば。

 

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 

 パァン!

 

「必読と書いてあっただろう馬鹿者が」

 

 ちくしょう、親父にもぶたれたことないのに! ……って、親の顔見た事なかった。

 

「再発行してやるから、一週間以内に全て頭に叩き込め」

「え!? あの分厚さを一週間」

「やれ。いいな」

「はい……」

 

 俺は、理想郷とは名ばかりのユートピア(超効率化社会)にいそうな鬼を前に、ただ了承の返事をすることしか出来なかった。

 

「えっと、えっと、織斑君。分からないところは、授業が終わってから教えてあげますからね? 頑張って下さい、ね?」

 山田先生が俺の席の前にまで寄ってくる。身長が低いから、必然的に上目遣いになる。

 

「はい。それでは、放課後に宜しくお願いします」

「えっ」

 

 え?『えっ』って何。

 

「ほ、放課後……。二人きりの教師に生徒……。あっ! ダメですよ織斑君……。先生、強引にされると弱いんですから……それに、お、男の人……初めてですし……」

 

 いきなり頬を赤らめだしてそんなことを言い出す山田先生。いや、男に免疫がないとか言っても妄想を周囲に吐き出すのはやめてくださいよ。それに周りの視線が痛い。物理攻撃力があったら俺は蜂の巣だ。

 

「で、でも、織斑先生の弟さんだったら……」

「あーっ、んん! そうだ、キョウジ。お前はどうだ」

「僕は大丈夫です。ISについては男女関係なく履修範囲だったものですから」

「そうか。だが、放課後の補習はついて行け。コ(・)イ(・)ツ(・)が問題を起こさないようにな」

「あ、はい。分かりました」

 

 千冬姉、俺を問題児扱いにして……、いや、問題児か。

 

 千冬姉の咳払いによって現実に戻された山田先生はそそくさと教壇に戻るが――段差につまづいてコケた。

 

 大丈夫だろうか、この学園……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 二限目が終わってすぐのこと。俺はとある人物に話しかけられた。

 それは、かの白い髪と赤い瞳を持って、俺と同じくらいの背丈の男の子。

 

「やあ、君が一(・)人(・)目(・)の(・)操(・)縦(・)者(・)か。初めまして」

「えっと、君は……」

「キョウジ・イクリプスだ。キョウジと呼んでもらって構わない」

「分かった、キョウジ。俺は織斑一夏だ。こっちも一夏でいいぜ。宜しくな」

「こちらこそ」

 

 差し出された手に、俺は気前よく握って応える。

 なんて言うか、とても爽やかな人だ。一昔前にK国出身のアイドルが日本でブームを巻き起こしたことがあったが、まさにK流アイドルのような見た目と人柄をしている。

 彼の地元でファンクラブでも建っててもおかしくないと思う程だ。

 彼は言葉を続けた。

 

「それにしても、君は面白いね。参考書を電話帳と間違えて捨ててしまうなんて」

 

 ぐえ。にっこり笑ってるのに平気な顔して人の傷抉ってくるとは、コイツは悪魔か。

 いやまあ、悪気はないんだろうけどさ。

 

「あ、ああ。そっくりだったもんでな」

「表紙に大きな文字で『必読』って書いてあったのにかい?」

「見落とすことだってあるだろ?」

「そうなのかな……? でも、君は面白い人間だね。K国ではそんなお(・)笑(・)い(・)番(・)組(・)を(・)放(・)映(・)し(・)て(・)る(・)暇(・)は(・)な(・)い(・)か(・)ら(・)ね(・)俄然君に興味が湧いてきたよ」

 

 ん? なんでいきなりお笑い番組の話に飛ぶんだ? 俺はお笑い芸人の特性でもあるのか?

 というかK国ってお笑い番組もやってねぇのか。寂しい国だな。

 

「キョウジ、そういえば――」

「ちょっと宜しくて?」

 

 キョウジといくらか会話している最中、俺は気になっていたことを質問しようと思っていたのだが、急に横槍が入った。

 

「へ?」

「はい?」

 

 俺とキョウジはそれぞれ声を返す。……俺はいくらか素っ頓狂な声で返事してしまったが。

 

 だが、サッと振り返って、俺は『あ、これ面倒くさい奴だな』というのが一瞬で分かった。

 

「訊いてます? お返事は?」

「ああ、訊いてるよ。……それで、要件は?」

 

 俺がそう言うと、彼女はかなりわざとらしい声を上げて周囲の注目を集めさせた。……これまでも十分集まってはいたけど。

 

「まあ! なんてお返事ですの!? わたくしに話しかけられること自体光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

 そう叫ぶ目の前の女子生徒。鮮やかな金髪が一際目に引いていて、彼女の白い肌と青い瞳を見れば、彼女が外国人――特に白人であることは容易に察せる。

 緩やかにウェーブがかかっているその髪はいかにも高貴なオーラを醸し出していて、そのオーラの中には『今どきの女子』といったものもほのかに感じられる。良い意味でも悪い意味でも。

 

 ISが普及した現在では、世界中の国々で――特に欧米が顕著だ――女性を優遇する政策が成されている。ISという女性しか乗れない兵器を操縦する人材が必要なのだ、これくらいの優遇をして然るべきなのだろう。

 その政策は、平等世界の枠内で作られた物だと表面で謳いながらも、『女性=偉い』という定理もへったくれもない図式を浸透させていった。そりゃ誰だって偉くなりたいし、そのために使えるものはなんだって使う。

 ――皮肉にも、かつて男尊女卑を謳ったもの達と同じように。

 これが現在の女尊男卑世界へ至った簡単なことのあらましである。現在ではすれ違っただけでパシリにされる男もいるとかいないとか。

 

 そして目の前にいるのが、そんな現代的な考えを持った女子、つまりは女尊男卑思想に染まった人間というやつだ。

 

 ちなみにここIS学園は無条件で多国籍の生徒の入学を許可する義務がある。外国人の女子なんて珍しくない。というより、かろうじて半数が日本人を占めている、と言った方が正しい。

 

 俺は、こ(・)う(・)い(・)う(・)人間が、あまり好きではない。ぶっちゃけ嫌いだ。

 偉さを武器にして、感情の赴くままに暴力を振るう者たち。大嫌いだ。

 

「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

 

 自己紹介で色々言ってた気もするが、いかんせん頭の中が千冬姉=担任でいっぱいだった。

 だが、その返しは、彼女の癪に障ったらしい。目をつりあげて、いかにも男を見下したような口調でキイキイと喚く。

 

「知らない!? このセシリア・オルコットを、イギリスの代表候補生、入試首席のこの私を!?」

「あー、確か貴方は、オルコット財閥の御息女でしたっけ」

「おや、そこの白髪はご存知でしたか。貴方は見る目がありそうですわね」

「いえいえ」

 

 セシリアっていうのか、名前。それにしてもキョウジが知っているあたり、結構有名なのかもしれん。

 

「なあ、質問いいか?」

「ふん。下々の者の要求に答えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

「代表候補生って、なんだ?」

 

 ガタターン! 聞き耳を立てていた女子数名がずっこけた!

 

「あのな、一夏……」

 

 これにはキョウジまでもが呆れている。何故だ!?

 

「あ、あ、あ……」

「『あ』?」

「貴方、本気で仰っていますの!?」

 

 うおっ!? 凄い剣幕だ。これがお茶の間アニメだったら噴火して家が揺れてるかもしれない。

 

「おう、知らん」

「一夏、正直なのはいいけどさ……」

「…………」

 

 セシリアは一周まわって冷静になったのか、こめかみに人差し指を押さえながら何か念仏のようなものを唱えている。いやはや、外国にも念仏ってあったのか。

 

「オルコットさん。大丈夫ですか……?」

「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビもないのかしら……」

 

 何を言う。テレビはあるぞ。見てないけど。

 

「で、代表候補生って?」

「一夏、代表候補生ってのはな、スポーツにおける国家代表IS操縦者の、その候補生として選出される選手のことだ。あるだろ、サッカーや野球で代表を選出するために候補に選ばれた人が選定試合に出たりするじゃないか。そういう人達のことを指すんだ」

「あ、そういうことか」

「俗に言うエリートって奴だな」

「そう、エリートなのですわ!」

 

 あ、急に息を吹き返した。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくするだけでも奇跡――幸運ですのよ。その現実をもう少し理解して頂ける?」

「そうか。それはラッキーだ」

「馬鹿にしていますの?」

 

 お前が幸運だって言ったんだろ。

 

「大体、貴方ISのことについて露程も知らないのに、よくこの学園に入れましたわね。こちらの殿方はともかく、少しくらい知的さを伴っていても良かったと思うのですが、期待外れでしたわね」

「俺に何かを期待されても困るんだが」

「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、貴方のような人間にも優しくしてあげましてよ」

 

 そうなのか。これが優しさというものなのか。優しさを持った人類が地球さえ滅ぼすって赤い彗星なのに黄色かったからダメだってダメだしされてた人が言ってたけど、これじゃ地球も滅びますわ。

 

「ISのことでよく分からないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

 入試? そういえば、あー……。

 

「入試って、あれか?ISを動かして戦うやつ」

「それ以外に入試などありませんわ」

「あれ? 俺も倒したぞ、教官」

「は?」

 

 そういえば、あれなら俺も教官を倒した……ことになる。開始早々、緑色の髪をした教官の操るISが突っ込んで来たから、それを避けたんだが、相手のISが壁に激突して沈黙したんだっけ。

 しかし、その事実はセシリアにとっては余程ショックだったらしく、ワナワナと震え出している。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが……?」

「女子ではっていうオチなんじゃないのか?」

 

 ピシリ。何か嫌な音を立てて、亀裂が走った。

 

「つまり、わたくしだけではないと……?」

「いや、知らないけど」

「あなた! 貴方も教官を倒したの!?」

 

 悲痛な叫び声を上げて、今度はキョウジに問いかけてきた。

 

「いいえ? 僕の教官は織斑先生でした。何度か攻撃を避けることは出来たけど、手加減していたみたいで途中からは空中でコンボを決められて負けちゃいました」

 

 あの試験、千冬姉も教官をやっていたのか。

 対してセシリアは、安堵しているのかいまだ興奮しているのかいまいち分からない表情して、こちらに臨んだ。

 

「お、おい。大丈夫か?」

「大丈夫かとお思いでして!?」

「わ、分かった。分かったから少し落ち着こう」

「これが落ち着いて――」

 

 そんな時だった。

 

「すいません、オルコットさん。僕からも言いたいことがあります」

 

 珍しいと言うべきなのかなんなのか、キョウジが唐突に口を開いた。

 

「一つだけいいですか、オルコットさん」

「ええ。よくってよ」

 

 キョウジに対してはある程度認めている節があるのか、オルコットさんはキョウジの発言を許す。

 

「じゃあ――――」

 

 俺はつい先程まで、キョウジが何を言い出すかは何となく検討がついていた。

 

 喧嘩は良くないだとか、なんだかこの場を仲裁するような発言をするかと思っていた。

 

 だが、……俺はこの瞬間に、大違いであったと認めざるを得なかった。

 

 それは、今この場を支配している空気にある。

 どす黒い、おぞましい邪悪でも詰まっていそうな、覗いてはならないとされる深淵にあるような空気。いや、それ以上、言葉では表すことが出来ない程の空気だ。

 そしてそれは、一限目の前――あの自己紹介の時に感じた空気ととても似ていた。

 同じだ、あの時と。

 

 それを発しているのは誰なのか。

 

 見まごう事なき、キョウジだった。

 

 

「そんな言動をしていると、小物臭く見られるよ」

 

 

 冷めた冷めた、冷凍庫の中よりも圧倒的に凍えた、絶対零度の言葉。

 あの温厚で爽やかな面を見せた彼の口から発せられたとは思えない、酷く嘆息の混じった発言であった。

 

 その癖に、表情は先程と同じ、微笑みを浮かべたまま。

 

 キョウジという男。彼の持つ全てに突き上げられたように狼狽えるセシリアに、今回ばかりは俺もある種の同情を覚える。

 普段温厚な奴が怒ったら怖いとはよく聞くが、実際にやられたらたまったものじゃないだろう。

 

 ……三限目の開始を告げるチャイムが鳴る。

 

「っ……! また後で来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

 

 負け惜しみなのか(そもそもなんの勝負をしていたのであろうか)、そんなセリフを吐いて彼女自身の席へ戻っていくセシリア。

 よくないと言いたいところだが、とりあえず頷いておく。

 

「さてと。……そうだ一夏、僕の参考書を貸してあげるよ。……はい。勉強頑張って下さい」

 

 先程まで凄いオーラを発していたキョウジだったが、いつの間にか打って変わっていつもの温厚なキョウジに戻っていた。

 キョウジは俺にあの『貴方の街の電話帳』……ではなくISの参考書を俺の手に持たせて、足早に自分の席へ戻って言った。

 まるで、さっきまでのキョウジは嘘だったみたいだ。

 

 ……もう一度確認するけど、じゃあ、自己紹介の時もキョウジだったんだよ……な?

 じゃあ、アイツは何故――――。

 

「え? あ、ありがとう……、って、ちょっとまっ」

 

 バシーン!!

 

「さっさと席につけ馬鹿者」

 

俺はいつの間にか背後に降臨していた織斑先生に本日四発目を食らった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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