※この作品はR-18です。

万能細胞を使ってIS学園を洗脳・改造・侵蝕・ハーレム!   作:地球最適化プログラム

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 データが吹っ飛んでその後に身体も吹っ飛んだおかげで完全にエタりました。
 閃ハサ公開決定したので投稿します。


第十一話 学び舎に潜むパラサイト(寄生虫)③

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「授業を始める前に、再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を選出しようと思う」

 

 二時限目が始まり、千冬姉は開口一番にそう言った。

 ……のだが、俺にとってはクラス対抗戦とか代表者とか、ちんぷんかんぷんである。

 そんな俺に配慮したのかしてないのか、千冬姉は至極丁寧に説明を付け加えてくれた。

 

「クラス代表者とはその名の通りクラスの代表者を担う人間のことだ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席、……俗に言う学級委員だな。

 クラス対抗戦は、各クラス代表同士によって行われるトーナメント戦だ。特に再来週行われる対抗戦は、代表者の実力がそのままクラスの実力に反映される。……今の時点では実力にあまり差はないから余談にはなるが、競走は向上心を生む。一度決めたら一年間は変える予定はないのでそのつもりで」

 

 ほうほう。つまりこのIS学園でのクラス代表というのは、一般の学級委員の担うような仕事に加えて、戦えと言うのだな。

 ……たたかえと。はあ(脳が理解を否定しているようだ)。

 

 とにかく、後者の対抗戦とかいうものは戦うということ以外よく分からないが、クラス代表って面倒な仕事を色々と押し付けられる奴だよな、多分。なるやつはご苦労さまだ。

 

「自他推薦は問わん。誰かいるか?」

 

 と、俺の後ろの方から声が上がった。

 

「はいっ! 私は織斑君を推薦します!」

 

 ──ん? 織斑ってこのクラスにもう一人いたのか。千冬姉のインパクトが大きすぎて自己紹介殆ど頭に入らなかったからなぁ。そいつは奇遇だ。

 

「私もそれが良いと思います!」

 

「さんせーい」

 

 次々と賛成の声が上がっていく。いいぞ。俺以外なら。

 

「では候補者は織斑一夏……他にはいないのか?」

 

 織斑一夏って同姓同名の人がもう一人いるのか──、んなわけあるかっ!

 

「俺ェ!?」

 

 俺は今日二度目の立ち上がりを見せた。そして降りかかる視線の一斉射撃。FPSゲームならまだしも、こちらは百発百中だから非常にタチが悪い。

 どこかで聞いた話によると、人の視線というものは大きく分けて二種類あるらしい。『視線を交わすことによって他者のパースペクティブ(視点)を交換する視線』と『相互的な関係を拒絶する視線』だ。あまり詳しく話す気はないが、今俺がビシビシと貫かれ続けているこの視線は、言わなくても分かる、確実に後者だ。『コイツなら何とかしてくれる』とかいう無責任かつ放任的な視線だ。

 

「織斑、座れ」

 

「ちょっと待て、俺は」

 

「自他推薦は問わないと言った。選ばれた以上覚悟をしろ」

 

「そ、そんな」

 

 俺が狼狽えたところで、なんだかのほほんとした声が遮った。

 

「私はぁ、キョウキョウがいいなぁ、って思いまーす」

 

 キョウキョウって、……ああ、キョウジのことか。もう渾名までつけられているのか。

 ──いや、待てよ。アイツがいるということは、俺はクラス代表にならなくてもいい可能性があるということだ。同じ男子だし、この代表決めは完全にイーブンな状況ではないか。

 後ろでただ黙って聞いているキョウジの方がクラス代表の任をしっかり背負ってくれて適任だと、俺は思うなぁ。

 

「候補者は織斑とイクリプスだけか。それでは──」

 

 俺とキョウジでの決戦。あとは投票結果を神に祈るだけ、そう思った時だった。

 甲高い声が、千冬姉の声を遮った。

 

「納得がいきませんわ!」

 

 バンッと音がする程強く叩いて立ち上がった声の主は、……えーっと、なんだったっけ。

 

「セシリア・オルコットですわ!」

 

 そんなことを考えていたら、件のその人がこちらを向いてご丁寧に名乗ってきた。

 ……え、俺今声に出したか? それか、俺は女子に心を読まれやすい体質でも持っているのか?

 しかし、これは俺にも運が向いてきたな。単純計算で当たってしまう確率は三分の一、50年間頑張って交通事故を躱していくイメージ(?)だ。そしてセシリアなんとかさんが今頑張って主張を続けてくれればこちらが当たる確率は下がっていく筈だ。

 

「とにかく、そのような選出は納得が出来ません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! 私に、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと、そう仰るのですか!?」

 

 そうだそうだ、もっと言ってやれ……、ん?

 

「実力を考えれば私がクラス代表になるのは自明の理。それなのに、物珍しいからという理由で雄ザルを任命してもらっては困ります! わたくしはこのような島国にまで修練をしにこのIS学園に来ているのであって、見せ物になるためにここに来ているのではありませんわ! そこの二匹と違って!」

 

 こ、コイツゥ!? 俺達は一体いつからヒトから猿にランクが下がっているんだ!? おまけに島国なのはイギリスも同じだろう?

 

「いいですか? クラス代表とは実力があり優秀な者こそがなるべき、それはつまりわたくしのことですわ!」

 

 ヒートアップしていくセシリアの剣幕は止まらない。クラス代表にはなりたくはないが、こうも高慢な人間に上から罵倒を浴びせられるのはさすがに癪だ。アッシリア帝国時代のオリエントの民は、こんな気持ちで毎日を生きてきたのであろうか。いや、知らんけど。

 

「大体、文化としても後進的なこの国にわざわざ赴いて暮らすこと自体、耐え難い苦痛で……」

 

 は?

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」

 

 しまった、と思った頃にはもう全て口から吐き出し終えてしまっていた。

 なんというか、こういう時に思ったより先に口が動いてしまうのは、俺の悪い癖だった。

 

 恐る恐る後ろを振り向くと、怒髪天をつくと言わんばかりに顔を真っ赤にしたセシリアがワナワナと震え上がっていた。特徴的な金髪縦ロールも、今にも重力に逆らって浮き出しそうな予感だった。

 

「あっ、あっ、あなたねぇ、わたくしの祖国を侮辱致しますの!?」

 

「そっちが極東の島国とか言うからだろ!」

 

 後悔先に立たず。人の口に戸は立てられず。そして、覆水盆に返らず。俺達はもう止まることは出来なかった。辿り着く場所まで、辿り着かねばならんのだ。

 

 セシリアが喚き、俺が叫ぶ。教室は俺とセシリアのせいで物々しい雰囲気に包まれた。俺にはこの罵倒合戦が、何十分も続いているように感じた。

 

 だが、そんな所に、まるで稲妻のような怒号が走った。

 

「いい加減にしやがれ!!」

 

 俺もセシリアも揃って驚く。そしてその声の主──キョウジの方を見た。

 彼は先程──あの休み時間の時に見たとてつもなく黒いオーラと怒りを纏い、ゆっくりと立ち上がっていた。

 

「おい、お前ら二人ともさ、そんなしょうもない罵りあいしててさ、二人とも自分こと猿以下だって思わねぇのか!?」

 

「そ、そんなことっ「そりゃそうさ。知能指数が低いもんだから、自分が猿以下の地平に立っていることすら見えてないんだからなぁっ!!」……」

 

 言い返そうとしたセシリアだったが、あまりの剣幕に怖気付いてしまう。

 

「成績が良ければ頭が良いって考えてる奴がいるけどさぁ、それは違うから、な? 頭が良い奴っていうのは、こんな場所での喧嘩に労力を割かないような奴のことだ」

 

 そう吐き捨てて、今度は俺を睨みつけるキョウジ。

 

「一夏さあ、お前喧嘩下手くそか?」

 

 俺は何も言えない。

 

「相手と張り合ってどうする。喧嘩で打ち勝ちたいんだったらさぁ、素早く相手の弱点をつかなきゃダメじゃないか。唾飛ばしあったところで、意味無いことは目に見えているだろ。

 もう一回言うけどさ、こんな下らない喧嘩に労力割くのは猿以下の馬鹿のやることだ。ちょっと調べてみろ、ニホンザルだって喧嘩を未然に防ぐよう色々努力してんだぜ。いつでも穏便にとは言わん。しかしだな、お前達の喧嘩は汚い。誰も得得ない。品がない。そんな喧嘩はあとあと虚しいだけだ」

 

 ぐあ。キョウジの言うことはまあ言う通りだ。ついカッとなって色々言ってしまうが、本当はもっと頭を使わなきゃいけないところなんだよなぁ……。

 

 キョウジにお説教を食らったところで、教室内は彼の豹変にザワついていた。

 

「キョウジ君って、実はドSなの?」

 

「ベッドヤクザ、とかいうんだっけそれ?」

 

「織斑先生もだけど、彼にも罵られたいかも……♡」

 

 う、うん。なんというか、実に賑やかで何よりだ。

 そう思って俺はとりあえず席につこうとしていたのだが、ふと後ろを見ると、セシリアはまだプルプルと震えていた。

 

「決闘ですわ!」

 

 バンッとまた机を叩いて、セシリアが声をあげた。

 決闘……ってことは、ISによるバトルなんだよな。

 

「決闘で勝った方がこのクラスの代表になる。それでよろしくて?」

 

「分かった。これなら四の五の言うより分かりやすい」

 

「言っておきますけど、わざと負けるなんてことがあれば、わたくしの小間使い……いえ、奴隷にして差し上げますわ」

 

 ふざけんな。齢十五にして、ましてやこの現代において奴隷人生なんて歩んでたまるか!

 

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜く程腐っちゃいない」

 

「そちらの方もよろしいですわね?」

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 ま、まただ。さっきの気配と打って変わって、いつの間にいつもの(先程会ったばかりだが)真っ白なキョウジに戻っている。二重人格……なのか? 凄い濃い奴だな。

 セシリアも、幾分か彼の豹変ぶりに戸惑いながらも、初対面の時のような上から目線に戻っていた。

 

「で、ハンデはどうする?」

 

「あら? 早速お願いかしら?」

 

「いや、俺がどれくらいハンデをつけたらいいのかなーと」

 

 俺はそれが当たり前かのように言ったが、教室内からどっと笑いが巻き起こった。

 

「織斑君、それ本気で言ってるの?」

 

「男が強いなんて発想、もう前時代的じゃない?」

 

 その言葉を聞いて、俺はふっと思い出した。

 あっ、しまった。すっかり忘れていた。現在、男は圧倒的に弱い。それはもちろん、女性がISという兵器を使え、男性は使えないからだ。

 素手で戦車に立ち向かうのと全く同じで、単に腕っぷしが女性より強いからといって、ISを着た女性に勝てるわけが無い。もし男女間で戦争が起きようものなら、世の男性は三日、いや、三時間も経たずに壊滅状態に陥るだろう。これは決して誇張ではない。ISの数は限られているが、その数的不利をものともしない圧倒的なポテンシャル──既存の戦闘機や戦車等の全ての兵器を凌駕する火力、機動力、対応力等──を持ち合わせているのだから。

 

「……なら、ハンデはいい」

 

「そうでしょうそうでしょう。寧ろわたくしがハンデをつけなくていいか迷うところですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて、日本の男子はジョークセンスがあるのね」

 

 先程までの激昂はどこへやら、その目に明らかの嘲笑を浮かべている。

 ……悪役令嬢のキャラが似合いそうな人だな。

 

「そちらのお方は? ハンデが必要ならば遠慮なく申し上げて下さっても構いませんわ」

 

「いいえ、僕も必要ありません。その代わり、僕が勝ったら、貴方にひとつ、お願いがあります」

 

 その言葉に、セシリアは眉をピクリと上げ、瞳を動かしてキョウジの顔を覗き込んだ。

 

「あら? わたくしにお願いごとですか。それは何でしょう?」

 

「それは決闘が終わってからお伝えしましょう。心配なさらないで下さい。あまり無理なお願いではないので」

 

「そうでして? ……分かりましたわ。万が一、わたくしが負けるようなことがあれば、それこそ小間使いにでも奴隷にでもなって差し上げましょう。もちろん、貴方に勝たせる気は毛頭ございませんわ」

 

 そう言って高笑いを始めるセシリア。それはまだ勝負が始まってすらいないのに、勝ち誇ったような表情であった。いや、実際そうなのであろう。

 

「ねえねえ、織斑君、今からでも遅くないよ? オルコットさんに頼んで、ハンデつけてもらったら?」

 

 右後ろの子が、俺を心配してか、こっそりと声をかけてきてくれたが、生憎武士に二言はないのだ。

 

「今更言ったことを覆せるか。ハンデは要らない」

 

「だからって、代表候補生を舐めすぎだよ」

 

「…………」

 

 実際、勝てる見込みがあるかどうか全く分からない。ISの戦い方なんて、千冬姉の現役時代の動画を少し見た程度だ。興味が無かったわけではないが、如何せん千冬姉がISに触れさせてくれなかった。

 だから俺は知識が殆どゼロの状態からここに来ているわけであるが、千冬姉は手のひらを返してISについて学べという。

 

 必要なのは分かっているが、酷ではないか!?

 

 ……話を戻すと、あのセシリアがどれくらいの実力を持っているか見当がつかない。俺と同程度の語彙力なのは分かったが、それがそのままISの実力に直結する訳でもないし。

 

「よし、話は纏まったな。それでは勝負は一週間後の月曜日、場所は第三アリーナで行う。お前達三人はそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」

 

 傍らでずっと聞いていた千冬姉がパンっと手を叩いて話を纏める。というか千冬姉、こうなること全部予期でもしていたのかというほど手際が良すぎるのは気のせいか?

 

 ……とまあ、俺はモヤモヤした面持ちをしながら席に着く。悩みの種は主に、勝負とセシリアと、あとキョウジ……かな。

 

(一週間あればISの基礎ぐらいなんとかなりそうだし、そんなに難しいものでもないだろう。入試の時一発で動いたんだから、もっと精度を高めれば)

 

 それにしても、本当になんとかなってしまうと、俺はクラス代表になっちまうんだよな。それでいてセシリアに勝たないといけないわけだし。

 

 ……ん? でも、……そうか、俺とセシリア、セシリアとキョウジが戦うんだったら、俺とキョウジも戦うってことになるんだよな。そこで負ければ……いや、それこそ友達との勝負で手を抜く訳にもいかないよな。どうしたものかね。

 

(ま、なんにせよ一週間でISについて学べるだけ学ばなくちゃな)

 

 そう思って俺は授業へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

「ダメだぁ……、ぜんっぜん分からん」

 

 机に突っ伏した俺は、顔を腕で覆いながらそう呟いた。

 

 キーンコーンカーンコーン。終業のチャイムが鳴る。

 窓から西陽が差し込んでいる。顔を少し持ち上げてそちらをチラリと除けば、外にあるグニャリと捻れた中央タワーに茜が重なり、綺麗な景色を見せていた。が、それは今の俺にはあまり響かなかった。

 

「い、意味が分からん。なんでこんなにややこしいんだ?」

 

 ISはとにかく専門用語が羅列している。ISが持つ高い敏捷性の一翼を担う(らしい)モーションパターンシステム一つに関してもAMC(アクティブ・ミッション・コントロール)だのICN(推論型ナビゲーション・コントロール)だの接頭語が大量に存在する。だが残念なことにISに関する辞書は存在しない。

 押し寄せる分からない言葉の波を補完することが出来ない俺は今日一日、何もすることが出来なかった。

 

(それにしても、……元気だなぁ)

 

 ちなみに周りの状況は放課後になっても全く変わらない。相変わらず俺から一定距離離れてキャイキャイと騒いでいる。その数は一向に減る気配はない。

 

 昼食を食べに学食へ赴いたときは、それはもう凄かった。江戸時代の大名行列のようにゾロゾロとついてきて、進行方向ではモーゼの海割りが起きている。

 ……別に俺は指導者じゃないんだけどなぁ。

 あ、でも学食は美味しかったな。

 

「あ、織斑君とイクリプス君「呼びにくいでしょう。キョウジで結構です」はい」

 

 ふと、山田先生が教室に入ってきた。言われてキョウジもまだいたことに気付く。俺はぐったりしていたんだが、キョウジは一体何やってたんだ?

 

「二人ともまだ教室にいたんですね。良かったです」

 

 山田先生が机の前まで寄ってきたのだが、やっぱりこの先生は身長が低い印象を受けるよな。実際は平均っぽいけど。

 

「どうしたんです?」

 

 キョウジが聞く。

 

「えっとですね、寮の部屋が決まりました」

 

 そう言って、山田先生は部屋の番号が書かれたメモと鍵を、それぞれ預けてきた。

 

 このIS学園は、全寮制となっている。生徒は全て学園内付随された寮棟に入ることが義務付けられている。これは多国籍の生徒を確実に収容するだけでなく、在籍する将来有望な生徒を保護する名目もあるんだとか。確かに、未来の国防を担う逸材を失うようなことになれば大問題だもんなぁ。勧誘を通り越して誘拐するような過激集団もいそうだし。

 

「俺の部屋、まだ決まってないんじゃなかったんですか? 前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学して貰う約束でしたけど」

 

「そうなんですけど、事情が事情なので、折り入って部屋割りを強引に変更したんです。……そのあたりのこと、政府から聞いてます?」

 

 山田先生が耳打ちして聞いてきた。因みに政府ってのは日本政府のことだ。実感はないが、俺がここに入学するまでの保護と監視は日本政府が責任を負うことになっていたらしい。

 ISの適正が判明した後、自宅の前には野次馬が出来、マスコミやら政府機関の人間やら果ては何処かの研究機関の人間やら大勢の人間が押しかけてきた。『是非とも君の身体を調べさせて欲しい』だなんて笑顔で言ってくるんだもの、誰が頷くか。

 

「そんなわけで、そんな特命があるので、二人には暫く相部屋で我慢して貰うことになります。一ヶ月もあれば個室が用意出来ますので、ね、ね?」

 

 ……っていうか、いつまで耳打ちしているんですか。周りの人間が変な妄想始める前にやめて下さい。

 

「……あの、山田先生、息がかかってくすぐったいんですが」

 

「あっ、あっ、これはわざとではなくてですね……」

 

「いや、分かってますけど……、それはそうと、荷物がありますし、一旦自宅まで帰らないと」

 

「あ、荷物なら……」

 

「私が用意してやった。ありがたく思え」

 

 ピシャーン。雷が鳴った。稲光を背に受けて現れた黒い影は勿論千冬姉。そして脳内で勝手に流れ出す怒りの日。聞く側にとっては恐怖の日だよな、あれ。しかも恐ろしいのは、得になにかやらかしたわけでもないのに流れてくるところ。登場BGMは帝国のマーチとかターミネーターの奴とか他にも様々なバリエーションがあるが、その中でも特に多いのはワルキューレの騎行だ。

 

「ど、どうもありがとうございます……」

 

「生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があれば十分だろう」

 

 いや、もっといるでしょう、歯ブラシとか歯磨き粉とか。それに人間、日々の生活には潤いが必要なものなんですよ。

 

「イクリプス、受け取れ」

 

 と、俺の心の叫びを当然無視して千冬姉は持っていた迷彩柄のボストンバッグをキョウジ目掛けて放った。

 

「ホテルにいるお前の母(・)親(・)からだ。中身に関しては……コイツ(一夏)とそう変わらんそうだ」

 

「え、えーっと……分かりました」

 

 キョウジも千冬の大雑把さに、少し引きつつ応える。千冬姉は、仕事に関してはピカイチだけど、プライベートに関しては結構どうでもいい反応ばかりなんだよな。もうちょっとだけ気にかけてくれれば嬉しいんだけど……。

 

「織斑、何か言いたいことがあるのか?」

 

「イ、イエマリモ」

 

「それでは、時間を見て部屋に行って下さい。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で摂って下さい。お風呂に関してですけど、各部屋にはシャワーがありますが、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が決まっているのですが……二人は今のところ使えません」

 

「え、何でですか?」

 

 なんでだよ、日本人と言えば風呂文化なのに。

 

「馬鹿野郎。お前はそんなに問題を起こしたいのか?」

 

 後ろでキョウジがまたあの凶暴な口調を伴いながら、肩を掴んできた。

 心なしかだんだん肩を掴む力が、あ、いたいっ、いたいっ、ちょっと待てっ!

 

「いっつー……」

 

 あー、そうだったな。女子生徒と一緒に風呂に入る訳にはいかないもんなぁ。

 それにしてもさっきの握力強すぎだろ。心なしかミシミシいってたぞ、鎖骨が。

 

「織斑君!? 女子と一緒にお風呂に入りたいんですか!?」

 

「い、いや、入りたくないですよ!?」

 

 お風呂の水バシャーやられるのはアニメだけですからね。そもそも倫理観どえりゃー破綻してまっから。

 

 ……なんか口調がおかしいな。

 

「ええっ、女の子と一緒にお風呂入りたくないんですか? そ、そ、それはそれで問題じゃないですか?」

 

 !?!?!?

 

 やだ、どうしよう。この人話聞いてないし頭の中恋愛関係で殆ど占めてるんじゃないですか!?

 そして、山田先生が騒げば、それが伝播して周りの女子の話題になる。しかし、人のコミュニケーション能力は悲しきかな、人それぞれの解釈や理解力によって如何様にも曲解されてしまうもので。

 

「織斑くん、男にしか興味がないのかしら……?」

 

「まさか、隣のキョウジくんを虎視眈々と狙っている……?」

 

「織×キョウ……、いやキョウ×織……、それもいいわね」

 

「とりあえず中学時代の交友関係を洗って! 今すぐ! 明後日までには裏付け取っといて!」

 

 なんの話しだ! 何の!

 

「えっと、私達はこれから会議があるので、これで。二人とも、道草食っちゃダメですからね」

 

 寮までたった50メートルしかないのに、どうやったら道草を食うのだ?

 それは確かに、IS学園には各種部活動、ISに関するアリーナ、整備室、開発室その他もろもろが存在するためとても広いが、今の俺にとっちゃそれは関係ない。何れ知っておかなければならない場所でもあるが、今の優先事項は……勉学と休息だ。これだけ女子から興味の視線を向けられては、もうたまったものではない。それらから早く解放されたいという気持ちもあった。

 

「俺は、もう部屋に戻るよ。キョウジはどうするんだ?」

 

「僕も部屋に戻るよ。荷解きしなければいけないしね」

 

 というわけで、周りの女子達の反応はもう一切無視して、部屋に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

「……そういえば、キョウジはIS適正が判明してから一体どうしてたんだ?」

 

 寮までのんびりと歩いている俺たちだったが、ふと俺はキョウジに聞きたいことあることを思い出した。

 俺は日本人でIS学園からも近い場所にあったから自宅にずっと待機していたわけであったが、キョウジは日本人ではない。ヨーロッパのK国出身だ。だから、どういう手順で日本へ来たのか、そして日本に来てからは何処でどういった生活を送っていたのか、辺りが気になったのだ。

 

「確か、適正が分かったのって、三月の頭だっけ」

 

「はい。適正検査で適正があることが判明してから、すぐに保護されましてね」

 

 それは俺も知っている。(参考書を捨ててしまったおかげで)やることもないのでテレビを見ていたら、速報が流れて二人目が見つかったって、大騒ぎになっていた。

 情報センターのスタジオに映像が切り替わり、中継で大勢のシークレットサービスによる警護がつきながら、キョウジが護送されていくのを俺は見ていたからだ。

 余談だが、あの時幾分か肩の荷が降りる感触がした。

 

「日本への受け入れ準備が整ってからは、すぐに飛行機で移送されました。そして、監視と保護の役割が日本政府に切り替わって、ずっとホテルで過ごしてましたね」

 

「そうなのか」

 

 IS学園の運営は確か日本政府が負担しているんだっけ。だから最終的にIS学園に移送するためにも、日本政府の窓口が必要なんだな。

 

「僕も一週間はホテルから通って下さいと言われていたんですけど、とんだ風の吹き回しですよね」

 

「そういや、あのホテルには、キョウジの母もいるのか? さっき荷物用意したの、お前の母親なんだろ?」

 

「ええ。でも、今日から寮生活になるので、母は帰ると思います。忙しいのでね」

 

「忙しい? ……というか、大丈夫なのか? 誰かに誘拐でもされるかしれないじゃないか」

 

 特に、日本には重要人物保護プログラムというものがある。ISの登場に際して作られたこのシステムだが、主にISに関わる人間の身柄を保障するものとなっている。その名の通り重要人物の保護を目的としたプログラムのことだ。

 俺に関しては千冬姉は……まあ、うん、ここで教鞭をとっているし、両親もいないので特に適用する必要がないのだが、キョウジに関しては、彼らは日本人ではないが、母親が日本にいる以上、それが適用される可能性があるかもしれない。また、母国に戻ったとして何が待っているか分かったものじゃない。

 

「「大丈夫なのk」大丈夫だと思いますよ。強いので」

 

 キョウジは俺が心配の言葉を言い終える前に答える。だが、その時の顔は、俺を戦慄させた。

 張り付いたような、そんな表現を想起させるような笑顔。あの二重人格とは違う、一種の狂気を感じた。なんというか、彼の口から発せられる一つ一つの言葉全てに、裏を感じる……そんなイメージを持たせてくるのだ、今のような礼儀正しい時のキョウジは。

 

「お、おう……そうなのか」

 

 俺は一歩後退りながら、分かったと首肯する。

 だが、その行動がいけなかったのか、キョウジが心配した声で聞いてきた。

 

「一夏、君こそ大丈夫かい?」

 

「あ、ああ。だ、大丈夫だ」

 

「ほら、もうここ一夏の部屋じゃないか。僕には君がだいぶ疲れているように見える、ゆっくり休んだらどうだい?」

 

 キョウジの指摘に俺が後ろを振り返ると、『1025』と刻印されたドアがある部屋の前まで差し掛かっていた。確かにここは、紙に書かれた部屋の番号と一致している。

 話に夢中になるあまり、もうここまで来ていたらしい。50メートルなんてあっという間だ。

 

「というか、俺とお前は同じ部屋じゃないのか」

 

「どうやらそうみたいです」

 

 ……ということは、女子と相部屋ってことか!?

 

「それでは一夏、おやすみなさい」

 

「ちょっと待て、お前は……」

 

 俺はキョウジを呼び止めようとしたが、キョウジはもう廊下の向こうまで歩き去っていってしまう。

 というか、キョウジを呼び止めたところでどうにもならないよな。決めたの学園側だし。

 

「とにかく、部屋に入ろう」

 

 俺はもう一度部屋番号を確認して、ドアに鍵を差し込む。

 

 ん? 空いてるではないか。

 

 俺はドアを開けて、部屋へ入る。

 

 …………。

 

 この後俺は、シャワーを浴びて出てきた箒に出くわして死にかけるとは思いもよらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 暗い校舎内の廊下の上を歩くコツコツという音が響く。もうすっかり夕日は見えない。代わりに月の光が、最低限の明かりとして廊下を照らし出していた。

 時刻は午後七時過ぎ。寮内はまだ電灯が点いているのであるが、校舎の方はもう利用する人数も限られるため、消灯していたのだ。

 

「キョウジが言っていた場所は、ここでいいんだよな……?」

 

 横に長い階段の踊り場で立ち止まる人影。その影は後ろに長いポニーテールを垂らしていた。

 宵闇に少し不安を覚えるその少女は、篠ノ乃箒だった。織斑一夏の幼馴染みにして、寮部屋の同居人。

 

(しかし、キョウジが私に何の話があるというのか)

 

 確かに、キョウジと箒は今日一日、目立った接触はしなかった。確かにキョウジと一夏はここではたった二人の男がために友達になったが、一夏の幼馴染みだからといって箒に関わる義理はない。また、当然だが初対面である。

 だが、キョウジはわざわざ伝言を遣わしてまで箒を呼び出した。

 

 ISを動かせる、もう一人の男。興味が全くない訳ではない。だがキョウジの一挙一動を見ていると、言いようがない不安感が身体を襲ってくるのだ。

 

 キョウジは実は人の皮を被ったバケモノなのではないか。そんな突拍子もない妄想まで飛んでくる始末だった。

 

 ただそうでなくとも、何か嫌な予感がする。行くことを躊躇い、断りたくはあったが、個人的な感情を理由として断るわけにはいかない。

 

 窓から外を覗く。階段は中庭に面しており、綺麗に手入れされている桜の木がもう青々とした葉を広げているが、しかし夜の闇はその色を発現することを許さない。噴水は日中は清涼な水が勢いよく吹き上がり、撒き散らされた小さな水の粒が太陽の光に反射してキラキラと光るのだが、しかしそれも止んでいる。

 ふと空を見た。月明かりが出ているものの、今日の夜は雲の多い空だった。夜風を浴びたいとは思わなかった。

 

 ……コツ、コツ。

 

 誰かが歩いてくる音が聞こえた。自然と二の腕を掴む力が強くなっていく。そして、急に自分が孤独であることを実感した。悪寒を覚える。身体の底から恐怖感が湧いていくのを感じる。こんな恐怖は、人生で初めてだった。お化け屋敷のように作られた、紛い物の、予め予期されているものとは違う、本当の恐怖。キョウジへの不安感と視界に映る不気味な風景が、彼女を錯乱状態へと陥らせていた。

 

 急に空が暗くなったのを、箒は感じた。見れば、煙のような雲が月明かりを隠していた。

 

 少しづつ、だが着実に、足音が大きくなっていく。廊下を反射してここまで届いていた音の発生源は、もうすぐそこまで迫っている。

 動悸が上がっていく。窒息しそうだった。思わず手摺に掴まって、ジリジリと後退りする。一刻も早くここから立ち去りたかったが、恐怖で足が震える。

 

 コツ、コツ、コツ……。

 

 音が変化した。これは──階段を下る音。階段は壁で囲まれていて見通しがあまり良くないが、もうそれとは10メートルも離れていないのは明白だった。。

 

(お願い……助けて、一夏……!)

 

 箒は心の中で叫んだ。最愛の人物へ。最後の望みを彼に託した。来てくれることを願った。

 だが──頼みの綱は来ることはなかった。

 

 目を見開く。もうすぐ音の主と邂逅する。

 そして、私は──。

 

「すいません、お待たせしてしまいました」

 

 キョウジの声がした。自己紹介の時と変わらない、物腰の柔らかい声。姿は見えないが、確実にキョウジだと分かった。

 

 その瞬間、張り詰めていた空気が離散したような、肩の荷が降りたような、そんな感じがした。極度の安心感に解放された気分だった。

 何より、キ(・)ョ(・)ウ(・)ジ(・)へ(・)の(・)心(・)配(・)は(・)杞(・)憂(・)だ(・)と(・)感(・)じ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。

 

 箒は身を持ち直し、踊り場の向こうの上り階段へ向かう。

 

「全く、それで、私への用事とはな──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを言い終える前に、辺りは静寂に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回からキョウジ視点に戻ります。
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