※この作品はR-18です。

万能細胞を使ってIS学園を洗脳・改造・侵蝕・ハーレム!   作:地球最適化プログラム

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 今回からしばらくキョウジ中心に戻ります。
 相変わらず稚拙な文章ですが見て貰えれば幸いです。



第十二話 What's your secret?(隠し事は何ですか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏と別れた俺(・)は一人、ボストンバッグを片手に、部屋までの道を歩いていた。

 

(それにしても、な。織斑一夏があそこまでISを舐めているとは思いもしなかった)

 

 織斑一夏に関しては、驚きを通り越して呆れを感じさせる程だった。姉がISで世界一に輝いているというのに、自分はISに関して何も知らないという体たらくなのだ。当然だ。

 

(まあそう言っちまえば確かに、あの縦ロ(セシリア)の言うことも一理あるんだよなぁ……)

 

 個人のプライドの問題はどうでもいいとして、クラス代表には最低でもある程度実力と経験と知識、あとはリーダーシップがいる。珍しいからという理由であの馬鹿を選べば、いざという時に必要な情報が行き渡らなかったり、クラスの統率が上手くいかずに学級崩壊、なんてことも起こりうる可能性だってある。

 ここは優秀な生徒が集まるIS学園だから、そこまで深刻なことは起きないとは思うが……。

 

 というかあんな醜態見せるような奴をクラス代表にしたくないという気持ちは痛い程わかる。向こうはある程度女尊男卑思想も乗っかってるだろうけど。

 

(ま、色々擁護してもあいつも馬鹿だな)

 

 ただ、どうしてこんな極東の島国にIS学園が建ってるのかちょっとは考えてみてほしいものだ。確かにISを開発した篠ノ乃束は日本人だし、それを産んだ責任を日本に押し付けているという答えもあってはいるだろう。だが、ならば篠ノ之束が(そもそも開発者など篠ノ之束でなくても良かろう)もし発展途上国のアフリカ出身だったらどうするって話だ。日本のシステムは世界と比べても非効率で後進的な部分もあるし、文化も欧米とは全く違う。少子高齢化など問題も山積みだ。それでも世界中から生徒を呼び込んで教育を行うIS学園が日本を主導として建っている理由は、様々な問題を抱えつつもそれでも経済が先進していて多くの魅力を内包している国であるからだ。後ろ向きな理由ばかり浮かんでしまいがちではあるが、そんな淡い希望もあると俺は信じたい。

 俺はもう人間ではないし、人類の倫理観から外れた存在にあるが、別に人類の積み立ててきたものを全て否定するわけじゃあないのさ。あの縦ロは文化が後進的とか言っていたが、別にそんなことはない。これ以上は宗教的な話になるのでお茶を濁すことにするが。

 

 しかし、織斑一夏がこれほどまでに馬鹿なのはこれまでにない好機だ。

 俺の計画の最大の障害は織斑一夏と織斑千冬。彼らには触れることは出来ても、まるでファンタジーに登場するような加護が存在しているように侵蝕が通じなかった。あの『白騎士』の人格と、DG細胞のそもそもの由来──あれは織斑一夏の遺伝子情報を元に作られたものだからな──に関係しているのか。いくつも推測は挙がれど、あの姉弟が何故俺の侵蝕を跳ね除けるのか、そもそもこれらは意図して組み上がった代物なのか。白騎士のコアを侵蝕した時は篠ノ之束を奇跡的に侵蝕出来た時の余韻が残っていたために有頂天になっていたが、しかし今の今まで明確な解があがることはなかった。

 織斑と篠ノ之は繋がっている(実情は束が接触するように色々と操作しただけだが)。もし織斑一夏が遺伝子細工によるものだろうとなかろうと、篠ノ之束に次ぐような天才であれば、いつか俺への対抗策を作る可能性もある。実際千冬は戦闘のプロだ。

 だが、それは杞憂に終わった。留意しておくべきことは多いが、凡そはこちらのシナリオ通りに事が進んでいくだろう。

 

(ククク……ハッハッハッハ!)

 

 俺は心の底から湧き出てくる笑いを噛み殺しながら歩き、そしてあるドアの前まで辿り着いた。

 

(ここか……。俺の根城、もとい寮部屋は)

 

 1034という数字の貼られたドア。手元の紙と確認する。ここで間違いない。

 一夏とも別れる間際に少し話したが、アイツと俺が別の部屋ってことは、つまり俺とアイツはそれぞれ女子と相部屋っていうことになる。

 誰が決めたか知らないが、運がこちらに向きすぎてかえって不気味なほどだ。

 

 俺は慎重に扉をノックする。

 

 コンコンコン。

 

「はい?」

 

 すぐに声が帰って来た。大人しめの声だ。

 

「貴方に少しお話があるんです。とりあえず開けて貰ってもいいですか?」

 

 …………。

 

 とりあえず男と同部屋だなんて事実を突然言われたらパニックになるだろうからそこは伏せておいたのだが、ドアの向こうでは沈黙が続いた。

 ……いや、仕方ないよな。そもそもドアの向こうから男の声がすること事態イレギュラーなことなのだから、頭の中大パニックに陥ること間違いなしだ。かと言って誤魔化してもしょうがないわけであるが。

 しかし、こちらとしてもここで入室を拒否されて寝る場所がなくなるのは困る。そうなった場合、強硬手段に走る他ない。しばらくはあまり手を出さずに、普通の学校生活を送ってみたい気持ちもあるのだが。

 

 大体、数分間が経過しただろうか。その瞬間は不意に来た。

 

 ガチャ。

 

 ゆっくりと開いたドアの先にいたのは、俺より頭一つ身長が低い、大人しめの少女だった。セミロングの青い髪がとても綺麗で、四角いフレームの眼鏡をかけている。理知的で真面目なイメージを、そのまま映したような人。

 

「ごめんなさい、こんな時間に。とりあえず──」

 

「貴方は、……織斑一夏ですか?」

 

 こちらの言葉に耳を傾けず、その少女は口を挟んだ。それも、織斑一夏という男の名前を大にして。

 俺は驚いた。それも、彼女の声のトーンが『私、織斑一夏のファンなんです!』といった羨望が混じったものではなく、恨み節が混ざったような声でその名を口にしたのだから。それもセシリアみたいな、女尊男卑にどっぷり浸かっているようなものでもなく。殺意までは感じないが、前に何かされたような感じだ。

 

「えーっと、ごめんなさい。俺は織斑一夏じゃないんですけど……」

 

「えっ? ……あっ、こちらこそごめんなさい……」

 

「僕も男ですから、間違えられることがあります。僕はキョウジ・イクリプスです。キョウジとお呼び下さい」

 

「キョウジ、くん」

 

「それで、重要なお話があるのでお邪魔させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「わ、わかりました」

 

 彼女は俺を部屋の中に入れてくれた。

 とりあえず俺は織斑一夏ではないので、好感度最悪スタートによる入室拒否は免れたらしい。俺に対しては特に何もないみたいだし。

 

「えっと……部屋が散らかっていてお見苦しいかしれませんが……」

 

 え? 別に部屋が汚いとは感じないのだが。謙譲か。それにしても、寧ろ綺麗にさえ感じる。高級ホテルにも引けを取らない内装の数々に、一目見ただけでフカフカそうなベッド。これ、自宅より設備いいんじゃないか、と思う程だ。それに、流石に少々の生活感は感じられるものの、その分丁寧に掃除がされているようにも感じる。

 

 だが、キッチンカウンターを抜けた先にある大きな二つのベッドの前に差し掛かったところで、俺は目を疑った。

 

 枕元の壁に、等身大のアニメのキャラクターの壁紙が貼ってあったからだ。

 それも、

 

(キャ、キャプテンジオン!?)

 

 思わず口に出しかけてしまった。

 え、あのフェネット(ロン○ル隊長)の裏垢ではないか。何故貼ってある!?

 いや、貼る理由なんて一つしかない。彼女、キャプテンジオンが好きなのか!?

 

 ……落ち着け、落ち着け。あれだ、あれ。世界は広い、こういう趣味を持っている女性だって一人や二人はいるだろう。当たり前だ。人間、多様性が資本だからな、よし俺は冷静だ、冷静だ。

 

「それで……話って、何?」

 

 こちらがしばらく硬直していたところ、彼女が後ろから怪訝そうな顔で話かけてきた。

 

「あ、ああ。そうでした。実はですね、なんといえばいいのやら……、寮の部屋割りがここ、なんですよね」

 

 俺はそう言って、先程貰った紙と鍵を見せた。

 ……のだが、案の定、彼女はこちらの手元と顔をそれぞれ一瞥してから、硬直してしまっていた。

 

「えっ、ええ? 貴方が、私と、同じ……部屋」

 

「そうなんです。もちろん、無理にとは言いません。決めたのは僕ではありませんが、もし嫌であれば何とか部屋を変えて貰えるよう尽力してみます」

 

「多分、無理だと……思う」

 

「え?」

 

「一年寮の寮長は、織斑先生だから……」

 

「あー……」

 

 さいですか。あの人が勝手に捩じ込んだとなると、変えるのは至難の業だな……。まあそんなに嫌ならDG細胞流し込んで言うこときかせるだけだけど。

 

「私は、大丈夫……。それに、もし締め出されたとしてキョウジ……くんも寝る場所……どうするの?」

 

「いいんですか? 本当に」

 

「騒ぎになったら……困る」

 

「分かりました、今日からよろしくお願いします。えっと……」

 

「更識、簪。簪でいい……」

 

 俺は眉をピクリと持ち上げる。

 

「分かりました、簪さん」

 

 とにかく、物分りのいい人で、とても助かった。なんていうか、突然の事態に冷静に対処出来る、優秀って言うのかな、彼女のような人のこと。

 俺はボストンバッグを床に置いて、伸びをする。さっさと開いて荷解きしたいところではあったが、健全な寮生活を送る上では、まだまだ決めねばいけないことがあった。

 

「じゃあ、とりあえず部屋を使用する時のルールでも決めようかな!」

 

「え?」

 

「どうしたん?」

 

「いや、その、敬語……」

 

 あ、おっと。……部屋に無事入れた安心感からつい羽目を外し過ぎてしまった。

 しかし、敬語使いまくって優しめなキャラにしておけば女子ウケが良いかもと思っていたが、実際のところよく分からない。そう思ってあの縦ロと馬鹿が口論に走ったところでブチ切れてみたわけだが、どうも女子心とか乙女心というものはよく分からないものだ。このDG細胞をもってしても。

 

「いやあ、痛いところを見せてしまった。日本詳しい友人から『日本人と接する時は敬語を使え』って言ってたから、敬語を頑張って覚えていたんだけどなぁ……。かったるくて面倒くさいものだな」

 

 とりあえず、適当に嘘をついておく。まあでも、ゴジョーさんが言いそうな内容ではある。

 

「でも、目上の人に対して敬意を表明する時に重要だから……」

 

「でも俺たちは一緒に部屋を同じくする仲だ、敬語は要らない、だろう?」

 

「う、うん。それで、まずはシャワーを使う時間帯だけど……」

 

「簪さんは部活とかやってるのか? なら、部活が終わった時間帯に空いてる方が──」

 

「私、部活入ってない……から、キョウジ……くんが先でいい……です」

 

 簪って、部活入ってないのか。全寮制とはいえ忙しい人いるからなぁ。

 

「いいのか? 自分で言うのもなんだが、男が使った後のシャワー、だぞ?」

 

 というかそもそも『男が使った後が嫌い』と『このあと男が使うのを想像すると嫌い』を両立してる人もいるから怖いものだ。

 

「別に私は……大丈夫」

 

 簪さんはそんな人じゃなくてほっとする。

 

「えっと、次は部屋の掃除当番──」

 

 そう言いかけたところで、俺の口を止めた。

 

「あれは……」

 

 簪がちょこんと座っている椅子の背後、机の上で光る空中投影のモニターが、俺の目に入った。

 青白いディスプレイの中で回転している、謎のオブジェクト。IS……のようだが、今まで見たことの無い形をしていた。新型……?

 

「なあ、簪さん。後ろの──」

 

 後ろを振り向いた簪は、ビクッとした。一瞬手をあたふたさせて慌てた後、ディスプレイがふっと消えた。

 

「あれは、IS……新型、いや、専用機のデータ、か?」

 

 気になって聞いてみたのだが、少し俯いた簪さんから返答は無かった。

 

「忘れて」

 

 代わりに飛んできた、『忘れて』という言葉。

 そう言われれば気になってしまうのは俺も同じだったが、簪さんの語気が今までとは違うと分かる程に強かったため、これ以上詮索するのはやめることにした。

 ただ、そこに何かがあることは確かだった。

 

 俺は話を戻して、部屋に関するルール決めを話し合っていたが、いつの間にか食堂が開く時間帯──つまり午後六時にまで差し掛かっていた。

 

「ふう。これで一通り決まったかな」

 

「うん。……あ、もう夕食の時間」

 

「そうだな。簪さんはどうする?」

 

「わ、私は……」

 

「俺で良ければ、一緒に行こう。食は身体の資本だ」

 

 モジモジしている簪が焦れったくて、俺は簪さんの手を取って半ば強引に外へ出すことにした。

 

「えっ、ちょっと!?」

 

「いいよ、俺の奢りだ。好きなものを食べるといい」

 

 そう言って、俺は簪さんを寮の食堂まで引っ張っていく。後から思えば、俺は些かはしゃいでいたのではないか、と思うほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 夕食を終えた午後七時過ぎ。俺は一人で、校舎の廊下を歩いていた。

 何故そんな場所を──更に言えば食堂とは反対側なのだが──そこを歩いていたかというと、一番近い男子トイレがそこだったからだ。

 IS学園は元々女子校なのだから、男子トイレなんて必要がなかった。ところがどっこい、俺と織斑一夏は男だ。だがしかし、当然のことながらたった二人の男子生徒のためにトイレを増やすことなど税金の無駄であるわけであって、俺たちは校舎の端にしか存在しない男子トイレまで足労することを強いられているわけだ。

 夕食のあとに急に尿意を催した俺は簪と別れ、暗い廊下をひた走って、青い背景に白い男のピクトグラムがある看板の部屋に飛び込んだ。

 

 え? DG細胞持ちなら排泄行為なんてする必要ないだろうって?

 気分だよ、気分。それにまだ十代中盤のくせにトイレ行かないなんて怪しまれるに決まってるじゃないか。本当に便秘だったとしてそれはそれで引くし。

 

 ……まあ、そうこうしつつも俺は無事にトイレへたどり着き、今は帰路に就いている。

 まだ荷解きを終えていないから、早く戻らなければ。もしかしたら、簪が荷物を開けているかもしれない。俺(・)の(・)た(・)め(・)の(・)I(・)S(・)はまだ調整中らしいから入っていないだろうけど、そのかわりにそのことも含めた重要な伝言が入ってるであろうと考えている。見られたら困る。あの真面目そうな簪がそんなことをするとは到底思えないのだが。

 

(簪といえば、彼女はかき揚げうどんが本当に好きなんだな)

 

 彼女が夕食の食券を選んでいた時(食堂はもちろん食券制だ)、かき揚げうどんのボタンのところに赤い『売り切れ』のランプがついているのを見て、凄くがっかりしているような顔をしていた。

 それを見ていた俺は『だったら素うどんとかき揚げをセットにして頼めばいいんじゃないか?』と言ったのだが、そういうわけではないらしい。どうやら、かき揚げうどんのかき揚げと、素のかき揚げは微妙に味が違うそうだ。簪によると、かき揚げうどんのかき揚げは、うどんのダシに絡みやすいように調整がなされているそうな。細かい所まで一切の妥協は許さない、凄いなIS学園。

 

 階段を上がって、特に変わりもなく歩いていく。

 

 しかし、学園乗っ取り計画は誰から始めようか。束に頼まれていた箒に関しては、昼間の反応を見るに馬鹿にベタ惚れだった。どうしてあんな奴に靡くのだか。束の言い分通りに当人とは似ても似つかない見た目と性格をしているが、束に負けず劣らず胸がデカいし、彼女の目付きはまるで研ぎ澄まされた刃物のようだが、その刃を自分のものにしたい征服欲に駆られる。白い着物と腰に日本刀をこさえれば、戦国系のソシャゲに出てきそうな出で立ちだ。

 早く自分のものにしたい気持ちもあるが、しかしただ単に織斑一夏から寝とってしまうというのも面白くはない。

 だから、彼女には別(・)の(・)ア(・)プ(・)ロ(・)ー(・)チ(・)で攻めていこうと思う。

 

 金髪の縦ロ(セシリア)は完全に保留。というか、自分から決闘を申し込みにいくくらいだ、成り行きに任せていれば、なんとかなりそうだ。顔や容姿は……肥満率が高いヨーロッパ諸国のことを鑑みれば悪くない、寧ろ上物だ。性格もDG細胞と調教でなんとかすればいい。

 ただ、オルコットといえば、イギリスの有名財閥だったよな……。確か、列車事故でこの財閥の名前が出てた気がするんだが。でもあの会社って鉄道会社だったか? 後で調べてみる必要がありそうだな。

 

 簪については、しばらく──。

 

 俺が歩きながら思考の海にすっかり沈んでいた時のことだった。

 

 それは、不意に来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザシュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急に視界がグラリと傾いた。

 

 いや──違う。俺の首が上から転げ落ちているんだ、これ。

 コロコロとボールのように回転し、落ちていく最中、俺は横回転している世界の中で一人の女性を見た。

 

 それは、IS学園の制服を着ていて、しかし、リボン色が見慣れなくて、しかし、その髪色は簪とそっくりで、しかし、彼女では非ずだった。

 彼女はその手に扇子を持ち、スラリと伸びた美脚を伴って立っていた。

 

 ゴトッと、地面に落ちた衝撃が走る。

 その後何回転かして、俺の動きが止まった。

 

 足音一つしない静まり返った廊下の中、首のない俺の身体が直立している。

 

 どうせ見つけざまにこちらの処理に向かうような輩だ。おおかた、こっちがバケモンなのはバレてるんだろうな。

 

「あーあ、いきなり首切らないでくださいよ」

 

 それをふまえて、俺は声を出してみた。もちろん落ちた頭から。

 そして広いあげて、頭と身体を接合する。

 ──あ、頭の向き前後ろ反対だわこれ。

 

「やっぱり。この学び舎に、とんでもない化け物が潜んでいるだなんて、私も驚きだわ」

 

 頭の向きを180度回転させて、首狩り魔と対峙する。リボンの色が緑、ということは、一つ上の先輩だな、こりゃ。

 

「えっと、何のようです?」

 

「あら、貴方こそ何をしらばっくれているのかしら? 化けの皮はとっくに剥がれているというのに、まだ誤魔化すつもり?」

 

「俺(・)は別に意地を張るようなタイプではありませんよ。こちらを知っているということならば、そちらが俺の前にいる目的を問うのは不自然なことではないでしょう。……暗部の更識楯無サン」

 

「……! 私の名前は悪い意味でも知れ渡っているようね」

 

 楯無が身構える。日本に移送されてホテルにいた時に流し読みしていた束が作成した要注意人物のリストがあったのだが、目の前の彼女が載っていた。要注意人物には織斑千冬なども存在していたが、人物に添えられた説明欄は、織斑千冬に次いで多くのことが書かれていた。

 しかしながら、束の手にかかれば筒抜けなこの情報群も、彼女にとっては第一級に匹敵する機密事項、なのであろう。

 彼女の名前は、更識楯無。ロシアの国家代表(候補生ではない、正真正銘の代表だ)であり、暗部の家の出。楯無という名も、暗部の当主とやらに与えられるものだそうだ。日本人であるのに対して日本じゃなくてロシアで国家代表となったのには、その暗部──簡単に言えば諜報組織の俗称とでも言うべきか──の関係で多国籍を使っているかららしい。諜報組織の一員の癖に表舞台にも出ているという、摩訶不思議な人間だ。何を追っているのやら。

 そして、このビッチはこのIS学園の生徒会長であるそうだ。

 IS学園の生徒会長は、業務は一般的な日本の学校とそう変わらないそうだ。行事の企画を立てたり、生徒がより良い学校生活を送るために日々活動しているとのこと。しかし、生徒会長にはそれ以上に必要とされているものがあった。

 どの生徒よりも強く、常に最強でなければならないらしい。いついかなる時も無敵を維持し、もし負けることがあれば勝った相手にその称号を差し出さねばならないとか。生徒会長から勝利をもぎ取るために不意をついて襲ってくる輩が絶えないと書かれていた。

 リストの説明文にとある事例が載っていたのだが、掃除用具入れから飛び出してきた刺客をひらりと躱し、飛んで来た弓道部の矢を首を傾けて避け、最終的には背後からの竹刀の袈裟斬りを白刃取りしたらしい。なんていうか、ここだけ世紀末をやっているらしい。

 

「それで? 暗部の当主でロシアの国家代表で生徒会長の更識楯無サンが一体何の用です?」

 

「そんなもの、分かりきってるでしょう。貴方は危険だから、今のうちに処分しちゃうのよ」

 

 刹那、右手に蛇腹状の剣が展開された。彼女はセシリアとかと同じ専用機持ちで、あの鞭のようにしなる剣は彼女のISの武器の一つか。先程首が切断されたのもあれの所為だろう。

 

「危険、ね。自分達で勝手に作っておいて、失敗だと判断したらすぐにポイ。いやあ、残酷だねぇ」

 

「貴方の計画は知ってるわ。『UC計画』。人工多能性幹細胞を超えた、万能細胞の開発……いや、違うわね。あれは人間のDNAそのものを書き換えてある種の進化を促す最終目的への礎だった。そして、その被検体の一人が、貴方だった」

 

「!」

 

 ほう。あの計画を知っていたのか。

 UC計画は、俺が被検体となったあの計画の略称だ。アルティメット(Ultimate)細胞(Cell)の頭文字からとられている。俺が死の淵から這い上がったかと思いきや、訳の分からぬ計画に利用され、最終的に篠ノ之束に殺されかけるという、振り回され続けた日々のことを思い出す。

 だが……ここまで辿り着くのがどうやら今のようだ。早いと言えば早いし、遅いと言えば遅い。どこからか情報提供があったと見るべきか。

 

「今の貴方の反応のおかげでようやくあの計画の全貌が分かったわ。あの記録映像は計画の最終段階。貴方にDNAを書き換える試料と細胞増殖を抑えるナノマシンを投与されていたのね。そして貴方は、化け物になった。他者をマインドコントロールする、化け物にね!」

 

「…………」

 

「正直、貴方を殺せと言われた時は忍びない気持ちだった。でもね、貴方が嬉々としてその力を奮うというなら、私は貴方を殺すわ」

 

 俺は彼女の発言に眉をピクリとあげた。

 

「言われた? どこからです?」

 

「貴方に答える必要は……」

 

 その瞬間、俺は冷ややかな殺気を感じた。

 

「ないわ!」

 

 楯無が動き出すと同時に、横から蛇腹剣が飛んでくる。だが、俺は身を翻して避けようとする。しかし、それは叶わず、右の腕を持っていかれてしまった。

 

「ぐうっ!」

 

 宙を舞い、天井にぶつかってそのまま楯無の目の前に落ちた、俺の右腕。切断された部分からは血がドクドクと流れて、床を濡らしていく。左手で抑えようとするが、もう手の平は暗い夜の中でも真っ赤で、指の谷間から血が溢れていく。

 

「暗部と繋がってそうな場所……『モ(・)ザ(・)イ(・)カ(・)』の奴らか!?」

 

「『モザイカ』? それは一体──」

 

「あんな研究が出来るほどの金がある奴らだ。いくつも他の研究やってるに決まっているだろう?」

 

 戦闘をする気は無かったが、やむを得ない。

 俺は楯無が言葉に気を取られた隙に、斬られた右腕を変異させ、植物の蔓のように楯無に巻き付かせた。

 

「!? しまっ……」

 

 みるみるうちに腕以上の太さを持った蔓が楯無を巻き込み、彼女は完全に束縛されてしまった。腕を締め付けられ、蛇腹剣を床に手放す楯無。

 

「こちらとしては、戦う気はないんですよ。あっ、『清き熱情(クリア・パッション)』ごときではこれは破れませんよ」

 

(私のISの能力を、知っている!?)

 

 楯無は、動けなければナノマシンの散布も無意味と、歯噛みせざるを得なかった。

 

(それにしても、俺の計画は知ってるのに、織斑計画については何にも知らないのか)

 

 俺は新しく右腕を再生させながら、頭を回転させる。知っていたら、真っ先に織斑一夏に接触を図ろうとするものではありそうだが、一夏を監視していた限りでは、楯無は一度も一夏の前には現れなかった。『モザイカ』を切って手に入れたかったのは情報提供元ではなく、彼女が『モザイカ』を知っているかどうかを確認するためだった。そもそも提供元に関して口を割るはずが無い。この状況は好都合だ。

 しかし俺はここで手札を二枚晒してしまった──特に織斑千冬に。これ以上こちらの手札がバレるのを避けるためにも『モザイカ』──つまり『織斑計画』という手札を楯無にチラ見せした。これには恐らく楯無が千冬に密告したとしても『織斑計画』と『モザイカ』が同一であるということをペラペラと喋らないだろうことを考慮して、できるだけ被害範囲の及ばない、低リスクな札を見せたという側面もある。

 だが、目下最大の難敵である織斑千冬にこれを晒すのは少し痛いところでもある。それは個人的に織斑千冬を攻略させるには、『如何に彼女を動揺させるか』が重要であると考えているからだ。

 原典のDG細胞には『強靭な意思を持つ人間対しては、それに服従する』という性質が存在する。東方不敗マスター・アジアは、その人間離れした意思の力によって、自らはDG細胞に侵されずに、デビルガンダムを指揮した。俺の持つDG細胞はまだ分からぬところも多いが、織斑千冬にも、それ──つまり、意思の力によってDG細胞を跳ね除けることが出来るのではないか。だとすれば、織斑千冬の影響色濃く受けた白騎士のコアにあのようなバリアが出来ても不思議ではない。そしてバリアを破るためには織斑千冬を動揺させる何かが必要となってくる。織斑千冬を動揺させ、絶望させ、心を折る。その先に白騎士突破の鍵があると俺は思う。だから今ここでその手札を切ってしまったのは、少々痛いものだった。織斑計画とUC計画の繋がりをいい頃合に見せるつもりだったのだが……。あとは、篠ノ之束と繋がりくらいしかないのだが、これはパンチが足りない気がするんだよなぁ……。

 

 しかしながら、あちらの方がトップシークレット且つ中核を担う計画というのに、お零れを貰った派生計画に過ぎないこちらが成功して、向こうは失敗してお(・)家(・)騒(・)動(・)が巻き起こるとは皮肉な話だ。しかし、それが逆に俺という成功作へのカウンターが失敗作になるというもう一つの皮肉が生まれるのが玉に瑕ではある。

 

 閑話休題、俺は話題を目の前のビッチに向ける。

 

「……でもって、貴方の言いたいことってまだあるんじゃないんですか?」

 

「ええ、あるわよ」

 

 もうすっかり初めの余裕を無くして、噛み付いてきそうな顔をしながら楯無は言った。

 

「どうして、簪ちゃんと貴方が同じ部屋なわけ!?」

 

 あー、それ言われても困りますわー。

 

「申し訳ないが、それに関しちゃ偶然だ」

 

 こちらとしてはそうとしか言いようがない。苗字から分かる通り、簪は楯無の妹だ。そら身内を気にかけるのは分かるし、むしろこっちの気持ちの方が大きいだろう。リストにも『最悪妹を盾にしましょう』とか書かれてるし。そんなに脆くていいのか、暗部。

 というか、これは少々マズイな。機械で決めたのかは分からんが篠ノ之束と繋がってると悟られたらマズイ。元々なんでもありな奴だ、アイツがハッキングして決めたとか言われたら言い返せんぞ。

 

「ウソ、貴方は──」

 

「貴方はまあ有能な人間ですから注意はしてましたけどね、貴方に時間を割いてる暇はないんですよ。別に貴方を徹底的に貶めてもいいんですけどね、俺は他にやることがあるんで」

 

「なら、貴方はどうしてここに来たの!?」

 

 半ば悲鳴に近い声で、楯無は叫んだ。助けを求める体も含まれているのだろうか。まあ、付(・)近(・)の(・)壁(・)を(・)浸(・)蝕(・)さ(・)せ(・)て(・)、防(・)音(・)仕(・)様(・)に(・)変(・)化(・)さ(・)せ(・)て(・)頂(・)い(・)た(・)のだけれど。電波も遮断済みだ。

 

「ここまで来て、やることは一つですよ」

 

 俺は一つ呼吸を挟んで、楯無の耳にそっと囁いた。

 

「楽(・)園(・)の創造ですよ」

 

 楯無は目を見開く。彼女は俺のやろうとしていることを悟ったのだろう、蔦から抜け出そうと試みるも、微塵も動く気配はない。

 

「なんて卑劣な……!」

 

 俺は動けない楯無を見て、嘲笑う。

 

「でも、今の分裂した世の中よりは平和だと思いません?」

 

「そんな屁理屈……!」

 

「でも、」

 

 しかし、そう俺は続けた。

 

「それじゃあ味気ないと思うんですよ」

 

 やれやれと言った風に手を振る俺。

 

「UC計画を知ってるなら分かると思うけどさ、俺の力をフルに使えば世界征服も何もあっという間なんですよ。でも、それじゃあ面白くないでしょう?」

 

「なら、貴方は何をしたいわけ?」

 

 楯無が訊ねる。今にも飛びついてきそうな表情をしていたが、しかし手足を縛られて絶対に動けない状況下ではどうすることも出来ない。

 俺は余裕の笑みでこう返した。

 

「ここで出会ったのも何かの縁でしょう。そこで、俺と一つ契約をしてみません?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

「キョウジ……君、遅い」

 

 椅子に腰掛けて、ディスプレイに映る自分の専用機、『打鉄弐式』のホログラムを眺めながら、上を見上げた。OSの組み直し作業をしている筈であった指先は、もうすっかり止まっている。

 

(あの人は……やっぱり不思議)

 

 キョウジという存在がが、心に引っかかって取れない。

 扉を開けた瞬間のことを思い出す度、胸がなんとも言えない、暖かい気持ちになるのを感じる。

 でも、それは完全に『好き』という感情ではない──心の中で誤魔化しているだけなのかしれないが、しかし一目惚れした訳ではないと思っていた。

 

(……異性だから? 同部屋だから? それとも……)

 

 いくつか単語は浮かぶがその気持ちは、よく分からない。

 

(それに……)

 

 打鉄弐式の開発画面を見られた時に言った言葉。『忘れて』。その一言を、今では凄く後悔している自分が、いる。

 

(これは、私だけの手で完成させなければいけないのに……)

 

『ハッハッハー! ギリアムよ、少しでも動けば、この少女の命はないぞ!』

 

『クソっ、卑怯な手を、アポロン総統!』

 

 ディスプレイを切り、手元の小型のディスプレイを起動して、録画していたアニメを流す。前回、仲間であった二人が敵の罠によって戦死し、その怒りが主人公のギリアムをつき動かし、敵の本拠地に乗り込んで、下っ端を蹴散らしたところに首領が現れたところで話が終わったのだが、今は敵の首領が対決に敗れ、人質をとるという佳境に差し掛かっていた。

 

 

 首領がその異形の手で少女の頭を鷲掴み、ギリアムと呼ばれた仮面の男の接近を阻んだ。彼の仮面は首領との激闘で、右目の部分が破損していた。

 

『これでは、ヤツに近付くことは出来ない。だが、このまま人質を取られ続けていれば、逃げられてしまう!』

 

 男が心の中で呟く。思うように動けず苦悶に満ちた表情をする男だったが、それを簪はベッドに寝転がりながら無表情で眺めている。

 

 簪は、このアニメをあまり好いてはいなかった。本当はヒーローものであっても、主人公が完全無欠であるものがもっとも好みであったが、一個人の意に沿った番組がいつでも放送されているとは限らない。熱い正義漢を持った主人公が壁にぶつかりながら成長してヒーローとなっていくというストーリーだったが、このアニメを見ていたのも暇つぶし程度のものだった。

 

 ……とここで、不意に窓の外から何かが投げられた。一般的なアルミ缶と同じくらいの大きさ、しかしそれは地面に落ちると部屋一面を覆う程の煙を発生し、周りにいた者を飲み込んでいった。

 

『なんだっ!? 煙幕か!』

 

 首領が叫ぶ中、白い世界を突き抜けて、黒い影が首領に肉迫した。

 

『!?』

 

 咄嗟に手で払いのけようとしたが、黒い影の目的は、首領ではない。傍らの少女を掻っ攫い、煙の中に消えていく。

 

『しまった、人質が!?』

 

『覚悟ォォォッ!』

 

 それだけではない、首領の脳天目掛けて、巨大な剣が振り下ろされてきた。

 

『ぬおおおっ!?』

 

 手で受け止めようとするも叶わず、壁際まで弾き飛ばされる首領。

 

 煙が晴れる。

 

『お前達は!』

 

 ギリアムは驚きを露にした。彼の目の前には、二人の戦友が立っていたからだ。

 

『貴様は、死んだ筈では、無かったのか!?』

 

 首領は驚く。彼らは首領の罠によってそれぞれのコピーと戦わされ、相打ちになって死んだのをその目で見ていた、あのギリアムの戦友であったからだ。しかし、その手に長大な剣を持った男は、首領に一喝して怯ませた。

 

『黙れ!!』

 

『!』

 

『そして聞け!!』

 

『我が名はゼンガー! ゼンガー・ゾンボルト! 悪を断つ、剣なり!!』

 

 剣を持った右腕をピンと伸ばし、切っ先を天に向けるゼンガー・ゾンボルト。それはまさしく武神の如く。

 簪は、このアニメに関しては辛口な評価ではあったが、このキャラクターは好きであったため、目を輝かせながら見ている。『友よ、地獄で会おう』そう言い残して死んだかと思っていたところでの復活であったから、尚更である。

 

『ギリアムよ、相変わらずお前は頭に血が上りやすいヤツだな』

 

 ゼンガーの隣、ゴーグルをかけた男がギリアムに歩み寄る。その脇には人質であった少女を抱えていた。

 

『ゼンガー、それに、エルザム・V(フォン)・ブランシュタイン!』

 

『いくぞ、これが最後の戦いだ』

 

 三人が並び立ち、首領と対峙する。

 しかし、ここぞとばかりに敵も隠していた下っ端の機械兵を全て持ち出してきた。しかし、三人にもはや恐れることは無かった。

 

『雑魚は任せろ。いくぞ、トロンベ!』

 

 少女を守りながら、その両手に持ったライフルで周りの敵をなぎ倒すエルザム。

 そして、その手に持った斬艦刀を振り回しているゼンガーも、同じく敵を次々と斬り捨てていく。

 勝負は目に見えていた。

 

『貴様の野望も終わりだ、アポロン総統!』

 

『なにっ!』

 

 ギリアムは飛び上がる。

 

『いくぞっ、ゲシュペンスト、キィック!!』

 

 足を突き出し、ギリアム渾身の必殺技は、遂に首領の胸元に命中した。

 

『ぐああああっ!』

 

 胸を抑え、跪く首領。

 ギリアムは、その姿を見下ろしていた。しかし、その表情は決して喜んではいなかった。むしろ、昔を懐かしむような顔だった。

 

『これで全ては終わりだ……。お前も、俺(・)も(・)』

 

『!? どういうことだ、ギリアム』

 

 下っ端を倒し終えたエルザムが訊ねる。

 

『俺は、システムXNを使い、未来からやって来たのは、知っているだろう』

 

『そうだが、お前は、まさか……!?』

 

『そうだ、エルザム。俺はアポロン総統の未来の姿なのだ』

 

 衝撃の事実が出てきた。主人公は、暴虐非道を尽くした悪の首領と同一人物だったのだ。

 

『そうか、だからやけにアポロン総統について詳しかったというわけか』

 

『だが、悪逆非道を尽くしたお前が何故、過去に戻って来たというのだ?』

 

『俺は未来の世界で、君達の抵抗を叩き潰して、遂に世界征服を成し遂げた。しかしそれは、宇宙から迫り来る侵略者を撃退するために、一刻も早く地球を団結させるために行って来たことだった』

 

『な、なんだと!?』

 

 ギリアムの話は続く。予知能力を持っている彼は、宇宙人が襲来する未来を、幼い頃に予知していた。誰にも信じてもらうことが出来なかった彼は、その頭脳生かして経済を操作し、未来で世界征服を成し遂げる。その後は地球人一眼となって侵略者に立ち向かうために連日連夜地球全土で強力な兵器を生産し、軍隊を作り上げた。今ギリアム達がいる現在から十年後、侵略者達は攻めてきた。しかし、侵略者はそれを遥かに凌駕する質と量をもってして、地球軍は壊滅状態に陥った。

 滅ぶべくして滅ぶ。その未来を回避するべく、ギリアムは時を超える力を持つ『システムXN』を使いこの時代へやって来た。未来の技術を過去の自分──つまりアポロン総統へ送り、残り僅かな時間で侵略者を打ち倒す兵器を作るために。

 これまでにも、システムXNを使ってこれらは繰り返されて来たという。

 

『そうか、貴様が私の予測を先回りしてことごとく邪魔をしたことに納得がいった。だが……ならば何故お前は私を倒しに来たというのだ!? このままでは地球は滅んでしまうのだぞ!』

 

『そうだな……俺はここに来て、遂にお前に未来の技術を託すことはなかった。俺は、この世界救うことが出来るのは自分以外にはいないと思っていた』

 

『そうだ! この世界を救えるのは私だけ──』

 

『だが、それは違った。根底から違ったのだ。俺では世界を救えない』

 

『な、なぜだっ!』

 

『俺は一刻も早く世界を一つにするために手段を選ばなかった。それが、この星で生きる人々の活力を失わせていたからだ』

 

『!』

 

『俺も最初は、そんな根性論がボタン一つで発射出来るビーム兵器やミサイルに勝てる筈がないとは思っていた。だが俺はこの時代に来て、人間の活力は時にそれに勝るということを知った。仲間と手を取り、強大な敵に立ち向かう。それはビーム兵器やミサイルよりも、何全倍も強固な力なのだ。

 だから、その力を見出せなかった俺では、世界は救えない。未来を救うことが出来るのは、今という世界を精一杯生きる、彼らなのだ』

 

 その言葉を聞いたアポロン総統は、必死にもがいていた手を止めて、ゆっくりと這い寄って、部屋の中央に存在する総統の玉座に座った。

 

『ふっ……そうか。私は、私は……あの日、地球を攻撃する侵略者達の存在を予知してから、ずっと地球に生きる者達を守ろう守ろうと考えて、この世界征服計画を打ち立てた。街を襲って人を攫い、工業区画を占拠して、兵器を作るための資源を奪った』

 

 大部屋に朝日が差し込む。一条の光は総統の座る玉座を照らした。

 

『だが……それは間違いだった……。人の底力を信じず、一人で戦うことを選んだ。だが、それはもう人の行う所業ではない……人類の未来は人類で掴むことに意味がある。私は人類のためにと考えていた筈だったが、いつの間にかそれは人類のためではなくなってしまっていたのだな……』

 

 アポロン総統の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。それは宇宙人による地球侵略の惨劇を予知したあの日を最後にすると誓って以来の、久しいものだった。

 

『俺たちの夢は、きっと彼らが成してくれることを信じよう。もう、静かに眠れ』

 

『頼む……』

 

 そう言い残して、アポロン総統は絶命する。その顔は、とても安らかなものだった。

 過去の自分の亡骸を見て、ギリアムは呟いた。

 

『さらばだ、私よ』

 

 すると、ギリアムの身体から光に包まれていく。タイムパラドックスにより、ギリアムは消滅するのだ。

 

『そこの少女よ、非道な行いをしたこと、誠に申し訳ない』

 

 ギリアムはエルザムの傍らについた少女に頭を下げる。そして、エルザムとゼンガーの二人に向き直った。

 

『お前たちと戦えて、良かった。さらばだ』

 

『ギリアム!』

 

 エルザムが駆け寄る。だが、ギリアムの肩に触れようとした手は、虚しく空を切った。ギリアムは笑顔で首を振った。

 

『全て覚悟していたことだ。この地球(ほし)を、頼む』

 

 そして、ギリアムは光となって消えた。途中からバックで流れていたエンディングテーマの曲のボリュームが大きくなり、そのままエンディングの映像が流れていく。そして、次回でこの番組は最終回を迎えることになる。

 

 

 簪は、ディスプレイを閉じた。溜息をつく。

 今見なければ良かった、と後悔していた。自分が今必要な物の姿が、ギリアムの人間像に重なって見えてしまったからだった。

 仲間と協力して、困難な敵や課題を乗り越える。それは、彼女が本当は心の中で欲していたものだった。だが、それは出来ない。

 姉である楯無は、そんなものを必要とせずに、一人で成し遂げた。一(・)人(・)で(・)I(・)S(・)を(・)組(・)み(・)上(・)げ(・)た(・)。

 ずっと姉の影に隠れ続ける人生は嫌でしょうがなかった彼女は、姉を超えることを望んだ。

 だから、自分の力だけでこの『打鉄弐式』組み上げなければならない。何事にもたった一人で臨み、全てを難なく乗り越える『完全無欠のヒーロー』を目指さなければならない。しかしそう考える自分の姿が、生き急ぐ過去のギリアム──すなわちアポロン総統の姿に重なってしまってしょうがなかった。

 

 完全無欠のヒーローなんてものは、存在しない。ギリアムの中は仲間達や見知らぬ誰かのために己の全てを捨て、時には悪に堕ちる事さえ辞さない確固たる信念と、その信念故に義理人情を捨てきれない事に苦悩する人間的弱さが入り混じった不器用な生き様が存在していた。自分の信念と人情の間で葛藤し、それでも自分のやるべき事を探して突き進んでいく。それがヒーローの本質なのではないか。

 しかし、そんな矛盾に孕んだものなのだと今の簪は気付くことはなかった。いや、気付いていながらそれを必死に否定しているのであろうか。簪の表情は沈んでいた。

 

 全身の力を抜き、ベッドに身を預ける。

 

 私は、どうしたらいいのだろうか……。

 

 巡り巡って、結局はそんな言葉が湧いてくる。そして、自然と隣のベッドを見てしまう簪。キョウジが今日から就寝するベッド。まだ使用感は存在しないが、何故か暖かい気がする。ベッドの上には彼が持ってきたボストンバッグが置いてあった。

 

(…………?)

 

 簪は、そのボストンバッグのサイドファスナーが半開きになっていてそこから白く薄いものが顔を覗かせていることに気付いた。珍しく興味が湧き、ベッドから降りて、ボストンバッグに近付いてみる。

 

(これは……何?)

 

 どうやら、真っ白な封筒の角らしい。

 

(送付先は、一体……)

 

 誰から宛てられたものなのか、それをつまんで持ち上げてみた。

 

(!?)

 

 送付先を見た瞬間、彼女の目の色が変わる。同時に、封筒を手放した。兎を模した封蝋で止められた、紙がヒラヒラと落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「篠ノ之……束!?」

 

 

 

 

 




 勘のいい方ならお気付きであろうと思うのですが、メインヒロインは簪です。
 あと自分で書いててなんですけど、キョウジ君って打算的なのに凄く杜撰だなぁと思いました(KONAMI感)。
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