万能細胞を使ってIS学園を洗脳・改造・侵蝕・ハーレム! 作:地球最適化プログラム
前回の最後に今回は戦闘パートだと言ったな。あれは嘘だ(ごめんなさい)
その変わりと言ってはなんですけど今日は脳姦パートだったりします。上手く書けたか不安ですけど見て頂ければ幸いです。
ISについて学ぶ教育機関であるIS学園というのは創立してからまだ十年も経っていない。
ISが開発してから十年しか経っていないのだから、当たり前だ。
「校舎に幽霊が出る……ね」
だから、そんな話を聞いて嘘かと疑うのはごく自然な発想である、俺は思う。
「にわかには信じ難い話ですが……」
「私だって、そうは思いたくないけどね。怖いし」
懐中電灯をつけて道を探りながら歩くキョウジは今、教室が並ぶ校舎の廊下を散策していた。
時刻は午後八時、消灯まであと一時間を切っており、外は真っ暗である。
隣……というかキョウジの影に隠れながら歩くのは、谷本癒子であった。
「ですが……ほんの数時間前まで僕達が授業を受けていた場所ですよ……」
今朝の食事中に、谷本さんが何かを話したげにしていたから、放課後の改めて訊ねた俺であったが、彼女の口から出たのは『昨日の夜に、校舎棟で幽霊を見た』という衝撃的な言葉だった。
『私一人じゃ怖いから、一緒に付いてきて欲しいの!』
日本では怖い場所へ行って度胸を試すことを『肝試し』と呼ぶらしいのだが、その言葉に促されて俺は入学早々その『肝試し』を行うことになったというわけだ。
確かに暗い場所は何となく不気味だし、何が待っているか分からないから不安も湧く。
だが……だからといって暗い場所では怪奇現象が必ず起こるかといえばそうではないだろう。
「それで、谷本さんはどこで、どんな幽霊を見かけたんですか?」
「あれは、確か……キョウジ君、このまままっすぐ行ったところにT字路があって、そこを右に曲がってまたもうちょっといくともう一つT字路にぶつかるじゃん」
「そうですね」
「そのT字路が見えたところで、女の人の幽霊……着物をズルズルと引きずってて、なんだか泡? ……みたいなのが出てたわ。そんなシルエットが、スーッと通り過ぎていったの」
「女の人……ですか」
「あとは、そうね……髪が長くて、それで左から右に通り過ぎていったんだけど、右ってすぐに行き止まりじゃない」
「ああ……なんにもありませんでしたね。まさか……」
「あの時は好奇心に負けて後を追ったんだけどね。
……いなかったのよ。何も」
行き止まりなのだから、そこに人が行ったのなら、必ずその人はいる筈。
その後は、想像に容易かった。
血の気が引いていった彼女は一目散にその場を退散し、幽霊だと悟ったんだろう。
よくある話だ。
「谷本さんは、昨日の夜遅くに何故校舎に?」
「いやあ、教室に忘れ物しちゃってね……。まだ教室開いてるかもって思って教室に取りに向かったんだけど」
「流石に日が落ちたら閉まってますよ、教室は」
「だったんだよね〜。で、ガックリしてたんだけど、廊下の奥から変な気配がしたの」
入学早々踏んだり蹴ったりだよ、と愚痴を零す谷本は、疲れた様子をしながら肩をガックリと落とした。
しかし、このIS学園に、何故……?
一般的に幽霊とかゴーストとか──まあ妖怪でも悪魔でも名称はなんでもいいのだが──いうのは、東洋と西洋である程度の認識は違うものがあるにはあるのだが、根本的なところは同じだ。
長い歴史を抱えた建物だったり場所に住み着いていて、そこに訪れる人を化かしたり脅かしたりする。
しかし、何度も言う通りIS学園は創立してまだ十年も経たないし、何か事件が起きたという話も調べた限りでは出てこなかった。
ここは校舎だから、普段使われていない場所に幽霊は出やすいという例にも合致はしない。
上級生に聞いても、恐らくこういう異変染みた話は出て来ないだろう。
幽霊は別に自然に発生するものではない。メタフィクション的な発言をすれば、妖怪やお化けの伝承というのは、全てが我々人間の心に起因しているという説が一般的である。自分は、そんな存在については懐疑的であった。
また、仮に本当に、本当にそんな超常的な存在がいたとしても、何らかの原因が存在している筈である。
今は一年生の教室の前を歩いている彼らだったが、女子トイレの前に差し掛かったところで、谷本が恐る恐るキョウジに話しかけてきた。
「キョウジ君は、トイレの花子さんは知ってる?」
「初耳ですね」
「古い学校のトイレにいると言われている妖怪でね……個室のドアの前で儀礼を行うと現れて、トイレの中に引きずりこもうとするのよ」
「……そんな伝承があるんですか。でも、この学校は古くないですよ?」
「それは、そうなんだけどね?」
女子トイレの看板のマークを照らしていた俺は、一度立ち止まったが、すぐにライトの光を逸らした。
女子トイレを調べてみたいのも山々であるが、入ったら最後、嫌な噂が無限に湧いてくるのは分かりきっているため、入るのはやめておく。
──そもそも儀礼をしてやっと現れるって、何なんだそれは。こっちから襲って下さいと言っているようなものじゃないか。
後ろに谷本さんを伴って、廊下を歩いていく。
「後ろを確認してください。幽霊ならば、どこから出てきてもおかしくはないですから」
「う、うん」
谷本が後ろに向けて懐中電灯を照らす。窓の外には、校舎とは対照的に今だ灯りがついている寮の建物の姿があった。
向こうには、まだ人で活気づいている空気がある。
こちらといえば……不気味なまでに静かだ。
また何かが出てきても、おかしくはない。
「それにしても──」
一つ目のT字路が見えてきた辺りで、またキョウジは口を開く。
「よく入学してすぐにこんな二人きりの状況を、取り付けましたよね」
「ええっ!?」
キョウジが振り向いて、一言。
それを言われた谷本の顔は、一瞬で赤くなった。
「い、いや、それは……」
図星を突かれた……というよりは、完全に予想外だったようで、完全にしどろもどろになってしまう。
谷本としては、キョウジがそのような発言をするとは夢にも思わなかったらしい。
その顔を見て、キョウジはクスリと笑みを見せた。
「……なんで幽霊なんです?」
「だから、本当にいたんだってば〜!」
じたばたと首を振って、『別に釣ろうとした訳じゃないんだから!』とでも言いたげな顔をする谷本。
まあ、少なくともお近づきになりたいという気持ちはあったのかもしれない。
ただ、話を聞いていた時のの谷本さんの顔といえば、照れ恥ずかしがっている、というより本当に頼れる存在が欲しい、という勇気を踏み出したような顔をしていたから、とてもじゃないが断れなかった。
いくら俺が稀有な存在だからといって、彼女の顔は抜け駆けを主体として行っている人間の顔では、無かった。
「あ、でもまだ僕達は会ったばかりですからね。結論はまだ出ませんよ」
「ですよね……」
えへへ……と笑いながら内心では床を何度も叩きたくなるほど悔しがる谷本。
このIS学園で、男子と二人っきり(しかもイケメン)なんてシチュエーション、これまでだったら有り得ないし、夢にまで見たものである。
それを今、谷本は実現してしまっている。
「それにしても、キョウジ君って、そんな冗談言えるなんて思わなかった」
彼の意外な一面まで知ってしまう程である。
「話術……というほどでもないですが、それくらいは持ち合わせていますよ」
運というか、思わぬ出来事が功を奏していたことに気付かされて、こんな状況であろうことか舞い上がる谷本であったが、そのままゴールイン、とはいかないのが世の常である。
ただ、幽霊さまさまではあるな、とも谷本は思っていた。
(でも、これだけリードは奪った! このままグイグイ押していけば、ゴールインも夢じゃない!)
十代乙女の思考回路は、肝試し中なのも忘れてピンク一色であった。
──だが、そんな束の間の温かな空気は、一瞬で消え去った。
「ここが谷本さんが幽霊を見たという場所ですか……」
T字路を抜けて、俺たちは遂に谷本さんが幽霊を見たと言い張って止まない場所へと辿り着いた。
「そう。ここで、左から右に、人影が通り過ぎていくのを、見たの」
T字路の奥にある窓からは、月明かりが照らしている。白くて大きな灯り。あれがあれば、何かが通り過ぎてもはっきりと見ることが出来る。
時刻は、八時十分。気配に注意しながら歩いていったため、ここまで来るのに十分もの時間がかかってしまっていた。
二人は懐中電灯を消した。
「少し、待ってみましょう。谷本さん、幽霊を見たのは、何時頃ですか?」
「確か、八時半頃だったような……」
谷本は視線を上へ向けて、昨日のことをまた思い出しながら答える。
──そもそもあれは、今キョウジ君と二人っきりという、絶好のシチュエーションであることを完全に失念させるほどのインパクトであった。
谷本自身もIS学園に通っていて怪奇現象が遭う筈がないと考えていた訳であるし、今どき幽霊騒ぎなんて時代錯誤である。
だからこそ大いに衝撃を受けたし、怖かった。
だから、正体を見て恐怖を克服したいし、見間違いなら見間違いで解決したい。
何事にも、怖気付いていてはいけない。
「……これは私の勝手なイメージだけど、こういうのって、特定の時間とか日にちに現れるものだと思うの」
「なるほど」
「だから、今日現れないかもしれないけど──現れるなら、昨日と同じ時刻、つまり八時半が勝負ね」
「あと、五分ですか……」
待機し始めて、いつの間にやらもう十五分。
向こうの道に、変化はない。
一度、T字路まで歩いて誰かいないか確かめたが、谷本の言っていた幽霊はおろか、人っ子一人いない。
一応IS学園は、消灯時間になるまでは校舎に入ることが出来る。
だが、よっぽどの用がない限り夜遅くに校舎を歩く人はいない。
電灯はつけられていないし、教室は閉まっている。歩けるのは廊下とトイレだけなので、使うのはトイレに行きたい場合だけである。
「しかし、見回りの一人二人は歩いていてもおかしくないのですが……」
「そういえば、見回りがいるっていう話は聞いたことはないわね。それだけセキュリティがしっかりしているということかしら」
そこに、織斑先生が歩いていてもおかしくはないが、とキョウジは付け加えると、谷本は笑み零した。
「よくよく考えると、そっちの方が怖いわね……」
暗闇の中から織斑センセの顔が現れたら、間違いなく驚く。
「なんていうか……だんだんお化けが怖くなくなっちゃった」
「帰ります?」
「とりあえず、確かめたいわ。現れるならもうすぐでしょうし、待ちましょ!」
そして、遂に──手元の時計の長針は、一番下を指した。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「気になるジャ!」
二人は手前のT字路に身を潜めて、奥を覗きながら、小声で合図をとる。
月明かりが室内を照らしているから、薄暗くても誰かが通り過ぎようものなら、必ず見える。
「…………」
時計の秒針がカチカチと音を鳴らし、否が応でも時が来るのを知らせている。
秒針が、ゆっくりと一周していく。
幽霊は、現れるのか、現れないのか──。
そして──秒針は一周する。長針が、一つ左に傾いた。
誰も、来なかった。
「今日は……来なかったみたいですね」
谷本の目撃は、ただの見間違いだったか、幽霊は今日はお休みなのか。
それは定かではないが、どちらにせよ、今日は現れなかった。
キョウジはT字路の前に身を起こして、谷本の方へ振り向く。
「とりあえず、一旦は安心できますかね──」
──そう言おうとした、瞬間だった。
「!!」
廊下の奥を見つめる、谷本の色が変わった。
キョウジはすぐに後ろに身を翻す。
──まさか。
キョウジは目にした。
廊下を横切る、怪異の姿を。
女のようなシルエット、長い髪、着物を引きずり、何か泡のようなものを出している。
谷本が言っていたのと、同じ。
「あれって……」
谷本が言葉に詰まっていると、その影は、行き止まりに消えていく。
「……行きますよ!」
……確認しなければ。
キョウジはその思いに駆られ、急ぎ足で廊下の奥に急行した。
谷本も後に続く。
「…………」
T字路に踊り出て、行き止まりの方に目を向けた。
……いない。
行き止まりの筈だ。そちらに行ったのなら、いるのは当たり前だ。
だが、そこには何も無い。
谷本が口元を抑える。
「そんな、筈は」
キョウジは震え出した。
──幽霊? そんなものいる筈がない。
所詮あれは人間の心が生み出した産物。
心の中で想起したものが勝手に実体化するなんて有り得ないし、そもそも幽霊は実体がないのに見えているという矛盾だらけの代物だ。
根性とか人間の精神論ならまだしも、幽霊なんて非科学的なものを俺は信じない。
なら、目の前で通り過ぎていったのは一体?
月夜に照らされた雲の影が人に似ていた? ──いや、完全に着物を着た人間の姿だった。
完全な幻覚? ──違う。谷本も見ている。
集団幻覚という線は? ──捨てきれないが、俺は冷静なつもりだ。
じゃあ、あれは一体──?
本当に、幽霊──?
──否。そんな筈がない。
全ては俺の仕組んだことなのだから。
キョウジの後ろにいた谷本の脇に、不意に腕が回される。
「っっっっっ!?」
谷本の顔の血の気がサーっと引いていくのに、差程時間はかからなかった。
後ろに、誰かがいる!
谷本は、恐怖に苛まれながら、まるで人形のように、ギ、ギ、ギ、と動かす。
「!!!!!!」
横から顔が、覗いている。
死んだような目をした、女性の目。
いや、本当に死んでいるのか。
だが、彼女は、さっき横切った影。あれと同じ。
──幽霊。
「ご……なさい、ご……な…い、………なさい」
彼女の口は、ひっきりなしに何かを呟いている。
それが、更に恐怖を引き立てる。
(イヤ、イヤッ! 何とか、しないと!)
谷本は、何とか目の前のキョウジに助けを求めようとした。
しかし、それは一番やってはいけないことだとは、知る由もなかった。
「さて、と。タイミングバッチリだな」
「……え?」
谷本は、キョウジが何を言っているのか分からなかった。
「箒。今日は俺が協力してやったんだから、明日からは自分でやれよ」
「は、はい……」
箒……と聞かれて、谷本は振り返る。
彼女はいつものポニーテールでは無かったものの、紛うことなき箒だった。しかし、いつもの不遜な態度は鳴りを潜めている。
彼女に一体なにが……。
谷本に後ろから抱き着いた女性……篠ノ乃箒は、抱き着いたまま、その足元から発生している泡で、谷本を包んでいく。
「な、何を言ってるの……? キョウジ君」
「ああ、ごめんね、谷本さん。ちょっとした実験に付き合わせてもらって」
口調も変わったキョウジは、ゆっくりと歩いて窓際にもたれかかった。
「これ……なんなのよ!?」
段々と冷静になってきた谷本であったが、その声は段々悲鳴に変わりつつある。
「俺さ……まあ色々あって人間やめちゃってさ。人を改造して、信頼出来る『仲間』を作ることが出来るようになったんだよ」
このようにね、とキョウジが続けたと同時に、彼の右腕は変容した。
触手のように細長くなったと思えば、機械の作業用のアームに様変わりし、次いで生々しい口に変貌する。
その様子を見て、谷本は絶句した。
「ああ、もう食べていいよ、箒。もうだいぶお腹が空いてるだろうからさ」
背後の箒──いつもとは違って髪型がポニーテールではなく、タオルで纏めておらずそのまま髪を下ろしていた──は、涙を流していた。
だが、植え付けられた本能には、逆らうことは出来ない。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
繰り返し呟きながら、箒は谷本を泡で包んでいく。
「いや……助けて、助けてぇっ!」
叫ぶ。
しかし、その声は虚しく響くだけだった。
首元まで包み込まれて完全に身動きが取れなくなったところで、泡の中から細い触手が何本も飛び出した。
彼女は目を見開く。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいいい!」
「いや、いや、いやあああ、あ゛っ」
悲鳴をあげた瞬間、谷本の耳に何本もの触手が突き刺さる。
谷本が短く濁った悲鳴を上げたのも始まりに過ぎず、触手の束が耳を蹂躙し、そのまま一直線に脳を目指す。
「あっ、あっ、えっ、いやっ、はいら、ないで、えっ」
「ごめんなさい……ひっ、ごめんなさ、いぃ……」
奥へ奥へ、グイグイと進んでいく度に、ビクン、ビクンと跳ねる谷本。
それを抱きしめる篠ノ乃箒はといえば、その姿は段々と、人という形を逸脱していった。
白装束の内からはち切れんばかりの触手の大軍が現れ、先っぽの形状が変化して、蛇の顔が現れる。
それはしゅるしゅると谷本の頭に近づき、噛み付いた。
「ああっ!? あ゛っ、あっ、ひゃあ゛っ!」
だが、彼女は痛みを感じない。
もう、既に触手は脳髄に到達している。
脳を弄られ、痛みさえ快楽へと変化しているために、蛇に噛まれたとてそれは快感にしか感じない。
蛇はその牙から黒い液体を流す。
皮膚が黒く盛り上がる様を見て、キョウジは呟いた。流石のキョウジといえども、この姿には、驚き混じりの声を上げる。
「凄いや、箒」
「も、もう、らめぇ、あ、お゛っ、お゛っ、お゛っ♡」
目をひん剥き、涙を流す谷本。
いや、涙だけじゃない。鼻水も、口の端から透明な涎も一筋、月の光に反射してキラリと光っている。
「うぐっ……、だ、だめ……私達の……、いや、ちがう、仲間に、なりな……さいっ!」
「しの、のの♡ さん? ♡♡ にゃに……言って♡ るの、? ……らか、ま♡ んっ♡ んっ♡ なる♡ なる♡」
箒は、言動すらも快感に乗っ取られかけていた。
彼女は他人を浸蝕していく度に、この上ない快感を感じている。心の中に広がっていく、多幸感。
他人を浸蝕して、乗っ取ることは、とても、とても、キモチイイ。
瞳からはいまだに涙を流し続けていたが、口は谷本を食べた多幸感で、端が釣り上がっている。
笑っていた。
「あっ♡ あっ♡ なにか、く♡ くる♡ くる、来る!」
完全にDG細胞に浸蝕された谷本は、拘束の中でまるで地に揚げられた魚のように跳ね続ける。
「ああ……谷本さん、それはイクって言うんだよ」
「イク♡ イク♡ イクイクイクイクゥゥゥ♡」
……果てた。
ビクン、と大きく跳ねて、彼女は完全に俺の支配下におかれた。
もう、俺のものだ。
キョウジは身体を震わす箒の耳元に赴いた。
「箒、人の食べ方はもう分かったよね?」
「…………」
谷本の拘束を解いた箒に、俺は声をかける。
唾液と涙と鼻水が床にぶちまけられて、下着はぐっしょりと濡れている。
拘束されているなか、何回もイッたのだ。
谷本は、解放された瞬間に、力なく倒れるが、すぐに気が付いて、起き上がる。
月明かりの下に、彼女は生まれ変わったのだ。
「あれ? キョウジ
「気付くのが早かったな。谷本さん、明日から箒の補佐を務めてくれないかな? 一人で何とかなるとは思うけど、一応のお目付け役ってことで」
「はーい! 分かりました。精一杯、篠ノ乃さんをフォローしたいと思います!」
元気一杯に返事をする谷本癒子だったが、その目は深淵と呼べる程に真っ黒だった。
背中からは蝙蝠のような翼を生やし、尻尾が伸びている。
あの蛇の所為だろう。口ではごめんなさいと言っておきながら、なんて悪趣味な奴だ。
一度翼や尻尾の具合を確かめてから、収納した。
「勿論、お前も食べたくなったらいつでも食べていいぞ」
「やったー♡」
そう言って腕に抱きついてくる谷本の頭を撫でてやる俺。
──これでまた一人、仲間が増えた。
将棋やオセロで盤上が自分の駒で染まっていくように、少しづつ世界が俺色に染まっていく。
しかも、自分の駒が取り返されない親切設計ときた。安心して、遊ぶことが出来るというのは、嬉しいことこの上ない。
昨日の夜、俺は箒を校舎内に呼び出して、そのまま箒をDG細胞で浸蝕した。
束の願いもあり、早めに確保しておこうと思ったからだ。
だが、ただ食って俺の奴隷にするのはつまらない。
箒には織斑一夏という男がいる。
織斑一夏をいたぶっていたぶって、絶望のどん底に落としてから寝取らなければ、面白くない。
だから、彼女の意識を一旦戻した状態にしておいた。
心は元の人間のままなのに、身体は見境なく反応して仲間を増やそうとしてしまう。
彼女にとっては、もう学園内の監視システムは掌握済みのため、人目にさえつかなければ自由に仲間を増やすことが出来る。
襲いたくなる衝動と、理性の間でせめぎあう。
その姿が俺には可愛く見えて仕方がない。
これは、織斑一夏という男に靡いた箒への罰でもある。
そして、然して蓄積された苦しみを、一夏は一手に受けることになる。その日まで、箒は俺に代わって人知れず勢力を広げていって貰うのだ。
「も、もうやめよう……
「箒……まだ始めたばかりじゃないか。こんなに楽しいことを辞めるなんて、どうかしてるよ」
俺は箒の、ストレートに下りた髪を撫で、匂いを嗅いだ。
いい匂いだ。
箒はDG細胞が覚醒しているこの時だけ、俺のことを一夏だと思うようになっている。
だから、彼女の目には昼時の仮面を被った一夏と、夜の本性を現した一夏の、二人が見えている。
「どうして……一夏、一夏ぁ!」
「ごめんな……箒。愛してる」
泣き崩れる箒を、俺は胸で受け止める。
俺だって、あまり酷いことはさせたくはない。俺の女が可哀想な顔をするのは、本当は許せない。
俺が欲しいのは……愛。
あの冷徹な世界に、愛など存在しなかった。
誰かを蹴落として上へと登り続けることでしか、自分の存在を証明することが出来ない。
そんな世界は、嫌だ。
だから、俺は君を愛することで、君は俺を愛することで新たな世界を作り、慈悲のない、古き世界を塗り替える。
富と権力が支配する世界から、俺の愛が支配する世界に変わる。
でもな……箒。これはお前の罪なんだ。俺の世界で俺以外の人間を愛することは罪である。罪は償わなきゃ、だろ?
「もう今日は部屋に帰った方がいい。谷本、付き添えるか?」
「勿論! ご命令とあらば必ず達成して見せましょう」
「よい殊勝だ」
制服姿に戻った箒を谷本が介抱し、寮まで歩いていく。
その姿には痛々しいものがあったが……まあ、仕方がない。
「さて、と」
その後ろ姿を見届けた俺は、ズボンに手を突っ込んで廊下の反対側の振り向く。
そこには……憤った顔をした生徒会長の姿があった。
「止めなくて、良かったんです?」
「止めたかったわよ……この壁がなかったらね……!!」
楯無の怒りで裏返った声は、こちらには酷くくぐもって聞こえた。
それもそのはず。
楯無とキョウジの間を仕切る、一枚の透明な壁。
楯無はそれを何度も強く叩いて見せたが、強化ガラスのようにびくともしない。
楯無は寮内にキョウジが見当たらないことに気付いてから急行し、すんでのところでDG細胞に浸蝕されている谷本を発見したのだが、そこへの介入は適わなかった。
この一枚の間仕切りによって。
そして、谷本は誰にも邪魔されずにDG細胞に飲み込まれていって……
楯無の目の前で、生まれ変わってしまった。
キョウジの従順な奴隷に。
俺は、もう間仕切りをする必要もないので、それを消滅させる。
「あなたはァァアァァッ!!!!」
その瞬間、楯無が、飛び出した。
一歩を踏み出すと同時に瞬時に蛇腹剣『ラスティー・ネイル』を展開し、飛び上がる。
そして、キョウジに斬り掛か──
ることは、それも適わなかった。
楯無の身体が、空中で制止したからだ。
「…………!」
腕を振り上げて剣を上段に構えたままピタリとも動かない。それは展開した蛇腹剣も同じだった。
それはまるで彫像の様に、見事に空中で制止している。
(なん……で……?)
誰がやったのかは、分かりきっている。
不遜な笑みを浮かべる、目の前のキョウジだ。
だが、どうやって、自分の身体、そして蛇腹剣までもを止めたのか。
動いた気配はない。
いや、動かなくても出来るものなのか。
「最近、俺、超能力覚えたんですよ。
嘘だ。これにはもっと別の、メカニズムがある。
「もう、諦めて下さいよ。もう楯無サンに勝ち目ないですから」
パチンッと指を鳴らすと、全身が動かなかったところから、首から上だけが動けるように緩和された。
「……ッハアッ! ……ゼエ、ゼエ……」
息まで止められてしまっていたために呼吸が出来ず、息を切らす楯無。
「さっき間仕切り作ったところでもうお分かりかと思うんですけど、俺は別に人にだけ浸蝕を使える訳じゃないんですよ。物にも……こうやって」
そう言ったキョウジは、自らの腕を触手に変えるのだが、そのまま壁を破壊することなく、突き抜けた。
「昨日姿を消したのも、自分の身体を床と同化したからなんですよね。だから、空気を浸蝕して操作すれば、風を起こしたり、今みたいに
「……解説……ありがたい、わね」
「強がっても無意味ですよ?」
「分かったわ……でも、貴方は自分から約束を破ったのは、どうしてなの!?」
楯無はここぞとばかりに食ってかかる。
楯無が、忘れる筈もない、約束。
昨日の夜、楯無とキョウジはここで約束をした。
身分を保証する代わり、生徒や教師に一切手は出さない。
そう契りを交わし、その身体まで差し出した。
なのに、自分から取り付けておいて、早々と約束が破られるなど、許されるべきではない。
「貴方は、私の目の前で約束を破った!」
激昂する楯無だったが、
「怒らないで下さいよ。別に俺、約束破ってないんですけど」
しかし、キョウジは飄々とした態度を崩さない。
「何を言ってるの!? 貴方は手を出さないって言ったじゃない!」
「ああ。言ったね。
その言葉の、楯無はハッとした。
楯無の顔が青褪める。
「『俺は』手を出してないよ。箒が勝手に、手を出したんだから」
楯無は次いで目を見開いた。
確かに、キョウジ自身は、手を出してはいない。箒がそれを代行しただけで。
キョウジにばかり集中してしまったせいで、失念していた。
自分が出来なければ、他の誰かにやらせればいい、と。
だが、そんな屁理屈、通すわけにはいかない。あれも浸蝕されたキョウジなのだ。DG細胞によって乗っ取られた、キョウジの一部。
「なっ……! あれも、あれも貴方でしょう!?」
「何言っているんです。あれはどう見ても箒、でしょう? 俺じゃないでしょ? 確かに箒は『仲間』ですけど『俺の一部』ではないよ。箒には俺とは違う、独立した心がある」
人間の倫理からはとうの昔に逸脱している癖に……と内心毒突きながらも、
なら、と楯無は続けた。
「箒ちゃんは、じゃあ、誰が手を出したのよ!」
「俺だな」
「じゃあ、貴方……」
「あれは約束取り付ける前の話なんで、不可抗力ですよ?」
「証拠は?」
反射的に楯無が放つ。証拠がなければ人は動かない。証拠などキョウジの前では無意味に等しいのだが……。
「ほら、俺が浸蝕したのがはっきりと」
一応、と言わんばかりに彼は天井からディスプレイを生やし、楯無の方に向けた。
階段の踊り場に設置された、監視カメラの映像。
日にちと時刻は、昨日二人が会う前を指していた。
『全く、それで、私への用事とはな──』
箒が口を開いた瞬間、キョウジの顔は形容しがたい、奇怪な姿に変わり、箒の頭を飲み込んで、貪る。
箒は最初は暴れるものの、一度大きく──暴れる動作とは違う反応だった──跳ねた後、何度も快感に身を震わせて、そして……生まれ変わった。
その映像をまじまじと見せられた楯無の顔は絶望に染まり、強ばっていた顔がどんどんと表情を失っていく。
蛇腹剣も粒子となって消えてしまった。
その様子を見ていたキョウジは、楯無を解放した。
予想された反撃も、今の楯無にはする気力は起きない。
へなへなと、地面に座り込む楯無。
「この程度で、折れちゃったの?」
学園の安全を守れると、妹が無事でいられると思っていたのに、とでも思っていそうな顔をしているが。
契約なんてそんなものだ。
オマケに契約が不履行になった場合は、黒い紋章を出すだけでは、俺は済まさない。
一気に体内のDG細胞を操作して、浸蝕させる。
楯無が可愛いから俺のものにするだけであって、もし俺のタイプじゃなければ使い捨てる予定だったのだから、本当は感謝でもして欲しいところなのだが。
「まあ、なんでもいいですけど。約束、破らないでくださいね」
俯く楯無の顔を見下しながら、ニコニコの笑顔で応えるキョウジ。
一応、楯無は箒たちを売ることは出来る。
だが……それは楯無の良心が傷んだ。
それに、諸悪の根源はこの学校に居座り続ける。
IS学園の建物自体も、キョウジに浸蝕されている。
自分だけ逃げても……いつかは地球全土をDG細胞で覆い尽くされてしまう。
今のうちに、ここで、楯無一人だけで、対処しなければならない。
あまりにもそれは、無理難題だった。
「簪は本当に手を出さないんでそこだけは安心してていいですよー」
キョウジはその言葉を残してしばらくした後、廊下の奥に掻き消えていった。
だが、涙で滲む彼女の拳は、今にも血が滲みそうな程に強く握られていた。
次回はちゃんと戦闘します。
2パートくらいに分けてクラス代表決定戦をやった後にセシリア浸蝕といきますかね…