※この作品はR-18です。

万能細胞を使ってIS学園を洗脳・改造・侵蝕・ハーレム!   作:地球最適化プログラム

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第十六話 ゼロが見せる未来①

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか、というか一週間という月日はすぐに過ぎ去ってしまうもので。

 今日は月曜日。セシリアと織斑一夏を叩きのめす日であった。

 

「……なんだ、箒」

 

「なんだというのだ、一夏」

 

 俺はアリーナ──ISでの演習を行うスタジアムみたいな施設だ──にあるAピットの控え室で肩の力を抜いていたところなのだが、隣ではなんだか気まずい雰囲気を醸し出している織斑一夏と箒がいた。

 一日目の夜に何があったのか、二日目に出会って以来二人は苗字呼びだったのだが、今日はもう名前呼びに戻っていた。このまま仲が割れたままだったら一番楽だったんだけどなぁ……。

 しかし、この前の夜の時は俺(・)のことを一夏と呼んでいたあたり、やっぱり内心は織斑一夏に気があるらしい。

 俺が暗示で埋め込んだ訳でもないのに、浸蝕する時以外はずっと無かったことにしようと命令したら、本当の織斑一夏の前でも律儀に演技を行っているし。

 話を聞いていない節は見当たるには見当たるが、意外に織斑一夏の言葉っていうのは、彼女にとっては重いらしい。

 

「気の所為かもしれないんだが」

 

「そうか、気の所為だろう」

 

 こっちの気分なんかお構い無しに、織斑一夏と箒は言葉を続ける。

 

「ISのことを教えてくれる話はどうなったんだ?」

 

「…………」

 

「あのー、目を反らさないで下さいます?」

 

「仕方がないだろう。お前のISもなかったのだから」

 

「まあ、そうだけど──じゃない! 知識とか基本的なこととか、あっただろ!」

 

「……ああ、そうだキョウジ、実はだな」

 

「キョウジに逃げるな!!」

 

 夫婦漫才みたいでこちらは胸がムカムカしてくるが、平静を保って話しかける。

 

「一夏は、ISの練習して来なかったのかい?」

 

「まあ……そういうことになっちまうな」

 

「それはないでしょう……。一夏にはまだ学び足りないことがいっぱいあるのに。これでは本当にオルコットさんの奴隷にされてしまいますよ?」

 

「はい……」

 

 外見優しい人間を装っている俺にまで指摘されて、一気に気分が消沈していく一夏。

 

 聞いた話によると、放課後は箒に連れられて剣道場でずっと剣道の稽古をしていたらしい。織斑一夏が箒の実家である篠ノ之道場で鍛錬を積んでいたのは調査済みであったが、その頃は箒より遥かに強かったらしい。織斑の血筋が成せる業なのだろう。

 だが、一夏はしばらくして剣道をやめる。姉である織斑千冬の忙しさを見たのか、中学に入ってから自分もバイトを始めたのだとか。

 武道……いや、それに関わらずスポーツだってそうだ、日頃の積み重ねがなければ、己の剣は鈍ってしまう。

 あまり想像はしたくないが、箒は去年、剣道の全国大会で優勝を収めている。織斑一夏も、あのまま一筋に突き進んでいれば、織斑千冬に次ぐかなりの強敵として俺の前に姿を現したかもしれない。

 そうならなくて良かったものだ。

 

「……ここまで来てしまったのなら、後はやれることをやるしかないでしょう。後悔したって遅いんですから」

 

 織斑一夏を適当な言葉で励ましておいて、俺は壁にかけてある時計を見た。

 

 ……まだ、俺たちのISは来ていない。束の手紙にも書いてあった通り、ごたついたおかげで搬入が遅れているのだ。結局、今日の午後……つまり今までズレ込んでしまった。出来るだけ早く来てくれと、あまつさえ念じて待っていた俺であったが、幸か不幸か、本当にギリギリのタイミングである。

 

(全く……遅れるのは一夏のISだけで良かったのに)

 

 しかし、織斑一夏のIS……つまり『白式』も、現時刻に搬入される予定で決着がついている。

 

 このまま一夏のISが届かず一夏の不戦敗、という楽な展開にもならない。

 

(……ただ、なんやかんやいいつつも、一夏に関することは全て想定内だ。不戦敗もいいが、一夏はしっかり叩き潰しておいた方が後が楽になる。後は……)

 

「キョウジ君キョウジ君キョウジ君!」

 

 俺のISの中身が気になるのだが、と思考を続けようとした所で、三連続で俺を呼ぶ声がかかった。

 

「山田先生。どうしたんですか?」

 

 心に身体が追いついていないのか、少々危なっかしいフォームで走ってきた副担任の山田先生は、立ち止まるなり息を切らした。

 

「ハアッ、ハアッ、あの、あのですね……」

「一旦落ち着いて下さい。深呼吸して」

「はいっ……。すぅ、はぁ……すぅ、はぁ……」

 

 ……この人、これでも日本の代表候補生だった人なんだよな。

 

「そ、それでですね、来ましたよ! キョウジ君のIS!」

 

「来たのか!」

 

「ええっと……搬入する順番がありまして……。織斑君のはまだなんです」

 

「マジか……」

 

 立ち上がったのは織斑一夏。……っておかしいだろ。俺のISって言っただろ。早とちりするとは、つくづく馬鹿な奴だ。

 

 ……まあいい。

 

 とにかく、俺のISが先に搬入されるということは、縦ロとの対決は俺が先、ということになりそうだ。

 彼女はもう青い鉄の塊に身を包んで、闘技場で待っている。

 

 俺は二人と別れて、山田先生に連れられてピットの搬入口へ急ぐ。

 走る度に山田先生の大きなおっぱいが揺れるのは眼福なのだが、その分、と言うべきなのか、走り方が危なっかしい分不安も湧いてくる。

 ……怪我でもされる前に、さっさと貰っちゃおうかな。織斑千冬の監視も兼ねて。

 でも、織斑千冬の勘には末恐ろしいものがあるんだよな……とも思っていたら、目の前に織斑先生が立っていた。

 ピットの資材搬入口まで着いたみたいだ。

 

「お前……何を考えていた?」

 

 ええ……本当に怖いわこの人。

 開口一番にそれ訊ねてくるとか、実は実験の副産物で超能力持ってました、なんて言われても驚かないぞ。邪なことを考えているとすぐに釘を刺される。やっぱりとんでもない勘だ。

 

「相手の戦術について確認していただけです」

 

「そうか……ならいい」

 

 あまり追求されず内心ホッとする俺を尻目に、織斑千冬は固く閉ざされた搬入口の扉へ顔を向き直す。

 

 斜めに噛み合う複雑な閉まり方をしていた扉が……音をたてて開く。ズズズッ、という、石を引きずるのにも似た音。

 扉がスライドして外壁の奥へ隠れ、壁を一枚挟んだ先にあった荷物を中に入れる。

 

 ──巨大な、箱。

 

 ダークグレーのコンテナのその中に、俺のISがある。

 

「開封するボタンは……これですね」

 

 山田先生が、角にある小さなボタンを押したと同時に、淡いピンク色の煙が吹き出し、箱の外壁が倒れる。

 

「えええっ!?」

 

 間近で巻き込まれて驚きながら飛び出した山田先生を受け止め、行く末を見守る。

 驚く山田先生。

 自分のためのISにワクワクが止まらない俺。

 ただ、織斑千冬はその演(・)出(・)にビクともせずに溜め息をついていた。

 

 煙が徐々に引いていき、現れる鉄の躯体。

 

「……ゼロ」

 

 俺がそうボソッと呟いた言葉は、その機体の俗称。

 トリコロールのカラーリングと、胸部で光る緑色のレンズ。膝のダクト。

 そして……頭部装甲にあったのは、一際目立つ黄色いブレードアンテナ。

 

 ISとしてデザインされているから多少の違いは存在するが、間違いない。

 

「ウイングガンダムゼロ……これが、俺の機体か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

「この機体を、知っているんですか?」

 

 俺に介抱されている山田先生が驚いて聞いてくる。

 

「知っている、というか……どう見ても、ガンダムじゃないですか」

 

 機動戦士ガンダム。一応半世紀近くの歴史がある日本のアニメだ、日本人じゃない俺でもしっているアニメだから、当の日本人は、最低でも名前だけでも知っているとは思っていたが。

 

「た、確かに言われてみれば、ガンダム……ですね」

 

 手元のタブレットと目の前のISを交互に見ながらポカンとした顔をする山田先生。

 タブレットには、デカデカと機体名称が書かれている。

 

『XXXG-00W0 ウイングガンダムプロトゼロ』

 

 正確には、敗者たちの栄光版の改修前のゼロらしい。トールギスF(フリューゲル)のウイングバインダーがまだ移植されていない頃の、ゼロ。

 よく見れば、機体のカスタム・ウィング──『ウイングスラスター』の形状がTV版のゼロとは少し違う。

 

 ウイングガンダムプロトゼロは『新機動戦記ガンダムW EndlessWaltz 敗者たちの栄光』に登場するウイングガンダムゼロ(EW)の前身となる機体で、TV版──つまり『新機動戦記ガンダムW』のゼロのデザインをリファインした機体となっている。

 『新機動戦記ガンダムW EndlessWaltz 敗者たちの栄光』はTVで放映された『新機動戦記ガンダムW』を、『新機動戦記ガンダムW』のパラレル続編として製作されたOVA『新機動戦記ガンダムW EndlessWaltz』の機体デザインや設定を織り交ぜながらリメイクした作品となっており、一部の設定変更が行われているが、このプロトゼロも漏れなく設定変更によって生まれた機体であった。

 

 物語の途中で、五人のガンダムパイロットのうちの一人が怒りと悲しみの衝動に駆られて作ったガンダムであり、その機体はいくつもの登場人物達を翻弄する、物語全編において中心となる機体の一つだった。

 序盤から活躍する五機のガンダムもその源流を辿れば、全ては本編以前に作成されたこのプロトゼロの設計図に行き着き、五機のガンダムはあまりにも強すぎたゼロを劣化させた機体として作られたことも判明する。

 『新機動戦記ガンダムW』にもウイングガンダムゼロとして登場し、物語上における役割はほぼ同じであるが、『敗者たちの栄光』ではウイングガンダムプロトゼロは一度大破した後、別の機体のパーツを用いて、四枚の翼が生えたあの有名なウイングガンダムゼロ(EW)として再生されるというミッシングリンクが存在している。

 

 ……この辺りはガンプラの商品名の話もあり、ややこしい話なのだが、簡単に言えばとても強い主人公機である。デメリット付きだが。

 

「でも、大丈夫なんですかね……版権とか」

 

「知らん。何でもいいから、さっさと乗れ。時間が押している」

 

 下手な紛議が巻き起こる前に、織斑センセの一喝が空気を切り換える。

 機体が何であろうと、俺もさっさと乗りたかったところだ。ガンダムなら、尚更。

 

 俺は促されるがままに、ISに触れる。

 

『──待ってたよ』

 

 そんな声が、頭の中に響いてくる。ISコアの、声だ。コイツは、あの日から、ずっと俺と戦える日を待っていた。俺も嬉しい限りだ。

 だが、その喜びを語り合っている暇は、ない。

 

(俺もだ。さあ、共に俺に仇なす敵を倒そう)

 

『──うん!』

 

 短いやり取りを済ませて、俺はゼロに身体を預ける。

 

 感覚が、広がっていく。ISが身体に馴染み、俺と一心同体になっていく。理解出来る。彼女の想いが、喜びが、……彼女が俺のためにあることが、分かるのだ。

 

 俺を受け入れたゼロは、まるで母親が幼い子供を抱くように装甲を閉じて、そして──俺達は一つになる。

 

「稼働部、問題なし、ハイパーセンサー、視界良好。システム異常なし」

 

 やっぱり、ISを装着している時は、凄い感覚だ。脳が解放されたような、しかしセックスをする時とは別種の、快感。感覚が鋭敏になって気持ち悪くなるわけでもなく、ただただ脳が気持ち良いという信号を送り付けてくる。

 

「す、凄い……初期化(フォーマット)がもう終了して、最適化処理(フィッティング)まで始まってる……」

 

 驚くのは山田先生。

 一次移行(ファースト・シフト)にかかる時間は、一般的には大体十分ばかりかかる。戦いながら行うならばさらに長大な時間がかかるというのだが、ものの三十秒でアップデート作業の三分の一まで終わってしまっているからだ。

 

 だが、それもその筈、このISは篠ノ之束が俺用に設計し、DG細胞で既に浸蝕しておいたISコアを用いているからである。

 

 ──俺がこの学園に入ることを決めたその日、俺は束から三つのコアを見せられたのは記憶に新しい。

 そして、俺はそのISコア達の浸蝕を試みた訳であるが、白式のコアを浸蝕した次に、俺は自分用のISコアの浸蝕を行った。

 それが今、このウイングガンダムプロトゼロのコアである。

 彼女は俺のために作られた新造のコアで、コア・ネットワークに未接続の、即ち無垢な心を持っていた。初めて出会った俺のこともすぐに信じて、他人と一つに交わることは、とても素晴らしいことだと教えた時には、彼女は裸になって喜んで股を開いてくれた。

 抵抗も何も無くDG細胞が浸透していった彼女は一番と言っていい程、従順で信頼のおける存在である。

 

 だから、何度も身体を重ねた者同士であるからこそ、すぐにお互いのことが解る。

 化学反応で相性の悪い物質を結合させるためには莫大な時間とエネルギーが必要だが、それが逆相性が良い物質ならば、そのエネルギーと時間は小さくなる。

 俺とゼロの関係も、そんな感じだった。

 

「残りは戦闘中に行え。ああ、それと一つ」

 

 歩き出した俺に、織斑センセの声がかかる。すれ違って斜め後ろにいる織斑センセに意識を向けるが、彼女はこちらを向くでもなく、ずっと搬入口の方を向いたままだった。

 

(まあ、こっちより自分の弟の方が重要だろうな)

 

 そう思いながら、織斑センセの声に耳を傾ける。

 ISのハイパーセンサーのおかげで、視界は360度見舞わせるし、耳が地獄耳状態である。

 

 織斑センセは、視線をそのままに一言だけ、俺に向かって言った。

 

「やり過ぎるな」

 

「……えっと、なんだかよく分かりませんけど、覚えておきます」

 

「? ???」

 

 山田先生が織斑センセの発言の意図に気付かずオロオロとしているが、俺は搬入口を後にする。

 

 約50メートル先に、戦場が待っている。先程まで薄暗い場所にいたために、カタパルトの先を照らす陽の光が眩しい。

 ただ、天気は晴れで良かったと思う。

 

 正真正銘、俺の晴れ舞台になるのだから。

 

『ネオバード形態に変形して下さい』

 

 カタパルトデッキに立った俺に対して、ゼロが教えてくれる。

 

 念じて、各部の装甲を動かす。

 背部にある、バイクのボディにも似たネオバード形態のボディを股下に持っていき、拡張領域(バススロット)からツインバスターライフルを接続したウイングシールドを展開(オープン)、ハンドルを出してシートと接続、俺はそこに搭乗する。

 ウイングバインダーを展開し、それの位置をボディ部分と同じ高さまで下げて、最後に脚部装甲を折りたたんでボディに接続する。

 

「凄いな、かっとんでいきそうだ」

 

 ウイングバインダーの内部にある巨大なスラスター・ノズルと足の裏にあるスラスター……推力の大半を確実に後ろへ向けた、高速巡航形態。

 原典と比べればそれは鳥というよりは、エアバイクに近いものだろうか。ビルドファイターズでウイングガンダムフェニーチェのサポートメカとして登場したメテオホッパーや、ビルドダイバーズリライズのプラネッツシステムなどを踏襲しているようにも見受けられる。

 

『あと、最後に束様からメッセージがあります』

 

「出せ」

 

『ハロハロー、みんなのアイドル束さ「さっさと要件を伝えろ」……そうだったそうだった。急いでいるの束さん忘れてたよ〜、てへっ♡』

 

 視界を覆っていつもの恰好をした束が映っているビデオレターが現れたのだが、俺が口を出すと、映像は小さくなって視界の片隅におかれた。

 ビデオレターなのに会話が通じているのはご愛嬌だ。

 

『それでね、今キョウちゃんはこう思ってると思うんだー、『どうしてゼロはゼロでもプロトゼロなんだ』って!』

 

「納期が近くてプロトにしておいた、なんて言い訳は通じないぞ?」

 

『もう、キョウちゃんったら、束さんはどんなに短い時間でも作るものは必ず完璧で十全にしておくっていうポリシーがあるんだぞ♬︎』

 

「ほう。これで十全なのか?」

 

『そう! これはキョウちゃんが乗り込むことで、この機体は最強にな(・)っ(・)て(・)い(・)く(・)んだ』

 

「なっていく、ね……」

 

『ま、使っていけば分かるよ。今は立て込んでいるみたいだし、時間が出来たら戻って来てね。クーちゃんが寂しがってるし。それじゃ、良い学園ライフを♡』

 

 束にしては、意外にもあっさりした終わり方だった。

 全部を教えない辺り、楽しみを取っておいてくれているのか。

 

(──それとも、何らかの方法でDG細胞の浸蝕支配から脱してしまったのか)

 

 そうなったら織斑千冬とか関係なしに俺はおしまいだが。

 一応束との思考リンクは可能のまま変化はない、束が元に戻ったのは杞憂だろう。

 

 だが、

 

(今は、目の前に集中しよう)

 

 ハンドルを握る手が、自然と強くなっている。

 

 緊張は、する。

 

 だが、ここで負けては、いられない。

 

 全システム、オールグリーン。

 

 クリアード・フォー・テイクオフ。

 

「キョウジ・イクリプス。プロトゼロ、出る!」

 

 蒼空を翔ける、イメージ。

 

 スラスター・ノズルから、青い光が溢れ出し、ゼロは宙空へ飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

「な、な、なんですの!? その機体は!?」

 

 エアバイクのような突飛な機体を前にして、驚いたのはIS『ブルー・ティアーズ』を纏うセシリア・オルコットである。

 

 入学してきた男子二人に、専用機が与えられることは、端から分かっていた。それでも、自分は向こうとは違って鍛錬を積んできた身。勝つ自信はあった。

 

 だが、アリーナの観覧席を周遊する敵機に、嫌な気分が湧いてくる。

 不安、苛立ち……嫉妬。ありとあらゆる悪感情が、身体の中を駆け巡るのを感じた。

 

(……それでも小物如きに、遅れをとる私ではありませんわ)

 

 そう思いながらも、IS形態に変形して、PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)によって空中で静止した相手と対峙した。

 その手には、既に光学ライフル『スターライトMk‐Ⅲ』が握られている。

 

(機体名『ウイングガンダムプロトゼロ』……あんなトリコロールカラーで変形する機体、舐めているとしか思えませんわ)

 

 カラーリングはともかく、変形機構というのは、ISにとってはほぼ不必要と言って差支えがない。

 高速移動など、ISがどんな形状であろうとPICとスラスターの二つさえあれば十分だし、人間型をしていると装着者が直感的な立体動作をスムーズに行うことが可能だ。ほぼ全てのISが人間の人体構造を資本にしているのには、このような理由がある。

 人型で高速移動と繊細な動きの両立が可能である以上、先程の形態というのは旧時代の戦闘機に毛を生やしてダウンサイジングしたようなものでしかない。

 おまけにアリーナでは移動範囲に限りが出る。

 ハイパーセンサーで満員御礼の観覧席を見回すと観覧席に座る同級生や上級生にはウケがいいようだが、ISはアクセサリーだとか、ドレスだとか、そのような装飾品ではない。

 

(ですが、何となく、嫌な予感がしますの。一体……)

 

 嫌な予感。

 

 それは、彼女の嫌いな言葉の一つ。

 

 彼女は自分の見聞きした感覚を、とかく具体化したがる。

 具体化をして心の中に飲み込むことが、自分の意思表示をはっきりとっせてくれるからだ。

 

 しかし、不鮮明で抽象的な言葉は、例えそれが良い出来事に起因していても、自然と自分の心を不安にする。

 自分は嬉しいことを嬉しいことだと思っていない、悲しいことを悲しいことだと思っていない。そういう風に思ってしまって仕方がないからだ。

 不確定な未来のことについても、とにかく情報を集めて、しっかりとした計画を立てて、未来への展望を定める。

 そうやって不安を少なくしようと努力して生きてきた。

 

 しかし、今に関しては、頭の中で上手く纏まらない。

 

 地球には70億の人間が生きている。そんなに人がいるのだから、例外が一人いたっておかしくはない。実際にいた訳であるし、それは彼女の予想範囲内だった。

 

 だが、その予想の範囲内にいた筈のものは、今まさに無数の予想範囲外の要素をチラつかせている。

 

 不確定要素は不安を呼び、不安は無数の不安を連れてくる。そして、自らの上に乗っかっていく。

 

 相手の顔を確認する。相手は織斑一夏ではなく……キョウジ。キョウジ・イクリプスだった。

 

 白髪でいつも笑顔を絶やさない、一見明るく優しそうに見える少年。物腰も柔らかく、女子にも分け隔てない性格をしている。

 不器用そうで無駄に図体が大きい織斑一夏とは対称的な男。だが、結局はISを動かせるだけで、中身なぞそこらの有象無象と変わりないだろう、とセシリアは見ていた。

 

 不躾にもこちら食ってかかってきた織斑一夏を叩きのめす準備運動には、相応しい相手か。

 

(ですが……時折見せるあの態度……)

 

 ただ一つ、あの時キョウジがこちらを見る目だけが、セシリアにとって気がかりだった。

 

 いつもは誰にでも敬語を使い、気持ち悪い程に謙(へりくだ)る彼であったが、極偶に彼の態度は豹変する。

 

 あれが彼の本性なのであろうか。

 確かに誰にだって表の顔と裏の顔があるのは当たり前だ。

 優しい顔をして、裏では下卑た考えを持っている大人なんて、彼女は散々見てきた。

 だが……あれが彼の本性、裏の顔とするならば、それは下卑たとか、下衆だとか、そんなものではない。

 最初は全てを諦めた愚か者の目なのかとも思っていたが、明らかに、自分を標的として、何かを考えている。

 

 ──誘導されている。

 

 それは自分の考えすぎかもしれないが、もし本当なら……呆れを通り越して恐怖を感じてくる。

 

 自然と彼女の目は、キョウジの顔に釘付けになっていた。

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

 だが、ここで戦(おのの)いては名折れ、セシリアが声をあげる。

 

(それでも、相手は素人。勝ち筋がありすぎて、お釣りが来るほどでしてよ)

 

 邪念を振り切り、ライフルを構え直す。

 キョウジからは、そのグリーンのスコープが、キラリと光って見えた。

 

 だが、キョウジの方は相手の機体を見つめているだけで、何も応じようという気配がない。

 

「無視なさるおつもりですの!? この私を!?」

 

(イギリスの第三世代IS『ブルー・ティアーズ』か……。主兵装のあのライフルとカスタムウィングについた四枚のフィン・アーマー『ブルーティアーズ』の遠隔兵装によるコンビネーションを主体とした機体、と聞いているが)

 

 両手に分割したバスターライフルを抱えるキョウジは、相手の機体データを思い出していた。

 

 第三世代ISは、操縦者のイメージ・インタフェースを用いた特殊兵装の実用化、簡単に言えば単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)の普遍化を目指した世代である。

 

 彼女のその機体で言えば、カスタムウィングについている、四枚のフィン。小さい銃口が空いているそれを『ブルーティアーズ』──略してビットとかBT兵器とも言うらしいが──と呼んでいて、それをアーマーから分離して、自立飛行しながら、本体と連携してオールレンジ攻撃をしかける、というのがあの機体のコンセプトにして、第三世代と呼ばれる所以だ。

 

 遠隔兵器といえばファーストガンダムの終盤で、キシリア機関が差し向けたMAが、ファンネルを使ってソロモンにいた連邦軍の部隊を次々と撃破していった様が印象的ではあるが、まさにそれと似たようなものだろう。

 

(こればっかりは、データを見てて良かった。ソロモン宙域のジムのように初見殺しに逢うところだったかもしれん)

 

 そう思っていたところで、個人秘匿通信(プライベート・チャネル)にやかましい声が走る。

 

「聞いていますの!? 私のお話を!!」

 

「ごめんなさい。聞いてないです」

 

「はあ? 私が貴方に向けて話をしているのに、聞かないとはどういうことでして!? 寧ろありがたいと思っても良いと思いましてよ!」

 

 キョウジは、内心で五月蝿いな、と思いつつも、個人秘匿通信(プライベート・チャネル)が脳を直接介する通信で良かったとも溜め息をつく。

 

(あんなキイキイ声じゃ俺の鼓膜がもたんよ)

 

 鼓膜くらい修復は容易いが。

 

 仕方ないなと思いながら、縦ロの方へ意識を向けたところで、彼女の話が続く。

 

「最後のチャンスを差し上げますわ」

 

 腰に手を当てながら、ビシッとその細い人差し指をキョウジに向けるセシリア。

 ゼロがカタパルトから飛び出した時点で試合は始まっているのだが、余程余裕なのか銃は構えているものの銃口が少し下に下がっている。

 

「チャンスって、一体なんなんですか?」

 

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくないのでしたら、今ここで謝るというなら、許して差し上げてもよろしくてよ」

 

 セシリアの目が笑みで細まる。

 

 それと同時に、ゼロがキョウジに向けて警告を鳴らした。

 

『敵ISが射撃形態へ移行。セーフティロック解除確認。機体照準、こちらにロックされています』

 

 だが、キョウジは微塵にも動く気配はない。

 

「あら? 本当にここで謝ると言うんですの?」

 

 ライフルをゼロに向けたまま、浮ついた声を上げるセシリア。

 

 だが。

 

 だが。

 

 だが──。

 

「なあ──」

 

 口調が、変わる。

 

 普段なら発さない、苛立った言葉を発するキョウジに、セシリアは戦慄した。

 

 

 

「勝てると思ってんの?」

 

 

 

 その言葉を聞いた時には、迷わず引き金を引いていた。

 耳を劈くような独特の音、そして閃光を伴いながら、弾はキョウジの駆るゼロを狙う。

 

 だが、それは避けられる。ゼロは静止状態から一気に加速して、ブルー・ティアーズの頭上に回り込む。

 

 太陽を背に、銃口が爆ぜる。

 

「!?」

 

 しかしその銃口から発せられた光弾は明らかに、威力がおかしい。

 少なくとも、自分の持つライフルよりかは。

 避けられること自体、意外ではあったが、その直後には頭を切り替え、相手の反撃に対応するべくスラスターに意識を集中していたが。

 

 その矢先、である。

 

 回避に徹するが、脚部の装甲を、掠めた。

 

『右脚部装甲にダメージ。損傷軽微』

 

「そんなっ……マグレ!」

 

 装甲に、ちょっとした火傷がついただけ。だが、それでも、それでもセシリアにとってはそれは許し難いことであった。

 その攻撃は、セシリアを完全に火をつける。

 

「踊って貰いますわよ。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

 一息つく猶予も与えない射撃がゼロを襲う。

 

 まさに、銃弾の雨あられ。

 

 グラウンドを滑るように翔けるゼロは、シールドで弾雨をやり過ごしながら頭上のブルー・ティアーズに視線を向けた。

 

「円舞曲(Waltz)はこちらの本分なんだがな!」

 

 バスターライフルを向けるゼロ。

 

 それを確認して回避に入るブルー・ティアーズ。

 

 スラスターを両者踏み込み、スピードを上げる。

 

 同時に発射されたビームは、それぞれゼロの頭上を抜け、ブルーティアーズの脇の下を通る。

 

 セシリアは顔を顰める。

 

 それは、あの敵の銃火器のとてつもない威力にあった。

 

 ここでISバトルの勝敗について話しておくと、勝敗のつけ方に際しては至極シンプルで、相手にダメージを与えて相手の操縦者と機体を防護しているSE──シールドエナジーをゼロにすれば勝ちである。

 ただ、各々のISの個性以外にも、バリアを貫通した機体への直接的なダメージや、『絶対防御』という、機体表面のバリアを貫通した操縦者が致命的になりうる攻撃を防ぐ強固なバリアが発動すると、シールドエナジーを大きく消費するために、そういった要素がこの戦いの戦略性を深くしている。

 

 このルールを加味した上であのバスターライフルは、直撃すればバリアを貫通し、絶対防御を大きく削られるのは理解に容易い。

 更に直撃しなくても、装甲はボロボロになり、こちらは大きく機動力を削がれることになる。

 そうなればもう、経験とかそういう問題じゃない。

 一度足を滑らせれば、落ちるところまで落ちていく。

 

 だから、今はあのバスターライフルの特性について頭の中でまとめる必要がある。

 

 バスターライフルの威力に先程は面食らったセシリアであったが、今は冷静にそれの解析に努めていた。

 

 空気が、完全に向こうに流れている。落ち着けずに無策で突っ込みでもすれば負けるのは、容易に予測がつく。

 

 両手に持ったライフルから交互に放たれる光弾を避け、こちらも応射を行う。

 

(あれは確かに尋常ではない威力……ですが、射撃間隔はこちらの方が上。クールタイムの間をつけば……!)

 

 射撃を止めた瞬間、戦況はひっくり返る。今は、トリガーを引き続けなければならない。

 

 そして、ブルーティアーズの出番はまだだとセシリアは判断する。

 

 絶えず砲口からビームが吐き出され、ゼロを狙った。

 

(勝てる筈ですわ。こちらが、勝てない筈が……)

 

 モヤモヤとした、嫌な気分が付き纏うが、セシリアはそれを振り払う。

 

 だが、下からプレッシャーはやって来る。

 

「くっ!」

 

 下からじわじわと距離を縮めるゼロを脅威に感じて突き放し、また斉射を再開──しようとする。

 

「距離を詰める!」

 

 が、その一瞬の射撃が止んだ隙を、キョウジが見逃す筈もない。

 

 目をキツく細めた目をしながら、キョウジはウイングバインダーの装甲を開く。

 剥き出しになったスラスターノズルから青い炎が吹き出し、地面スレスレで飛んでいたゼロのスピードが更に上がる。

 砂埃を巻き上げて、地面を蹴り抜き、空中で飛び上がった。

 

「まだスピードが上がりますの!?」

 

 セシリアは、驚く。

 とった距離が一瞬でつまり、間合いと呼べる距離まで縮まる。

 

「ですが……!」

 

 直線的ですわ、と、スターライトMk‐Ⅲを構える。

 スピードが上がれば、その分小回りが効きにくくなるのは、ISでも同じ。

 そして、向こうもライフルを構えているが、速射性はこちらの方が上。十分に避ける余裕もある。

 

「チェックメイト──」

 

 ……ですわ、とでも続けたかったセシリアであったが、その言葉は遮られる。

 

 ゼロはバスターライフルを引っ込める。

 

「!?」

 

 ゼロの兵装はこれだけではない。

 両肩のアーマーの非固定浮遊部位(アンロックユニット)、白い箱のような形をしたそれがガバッと開き、内から砲塔が現れる。

 

 ゼロの牽制用武装である、マシンキャノンが隠されていた。

 

 砲塔が回転し、パララララ、というタイプライターのような音と共にマシンガンが放たれる。

 

「小賢しい……!」

 

 スターライトMk‐Ⅲを引っ込め、その銃弾を受けるブルー・ティアーズ。シールドの消耗は、軽微。

 

 だが、それを受けたというのなら、足が止まる。

 

 ゼロのその手には、バスターライフル……はなかった。

 

 代わりに、緑色に光る刃が伸びている。

 

 ビームサーベル。

 

「このまま近付く気ですの!?」

 

 セシリアにはそれの名称を知らなくても、それが近接武器であることは、一目で分かった。

 

「インターセプター!」

 

 ブルー・ティアーズにも、近接武器はある。だが、それは実体刃のショート・ブレード。熱エネルギーで出来た刃には、文字通り太刀打ち出来る相手ではなかった。

 

 シールドを前面に構えて、スラスターを吹かすゼロ。

 

 この距離、避けることは、不可能か。

 

 このまま何も出来ずに負けるのか。

 

 ──いや。

 

 まだ隠し玉はセシリアにもある。

 

 ブルー・ティアーズのサイドスカートのアーマーのロックが外れる。

 

 縦に回頭して前方に展開するそれは、まるで迫撃砲の砲塔のようであったが……発射するのは榴弾ではない。

 

「ブルーティアーズは、六機ありましてよ!」

 

 ブルーティアーズは、カスタムウィングに接続された四機だけではない。腰に搭載された二機、それはミサイルを発射するミサイルビットであった。

 

 発射されたミサイルは、ビームサーベルを構えて突撃するゼロにまっすぐ飛んでいき──。

 

 空中で大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 セシリアの知力をちっとばかし魔改造してみました。
 ゼロのネオバード形態変形時にエアバイクみたいだと説明していますがフレームアームズ・ガールのフレズヴェルクを個人的にはイメージしております。分かる人にしか分かりませんけど某作例みたいな寝そべり状態は身体的にキツいものがありそうなので……
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