開発部「ば、バカモン!年齢制限を跳ね上げる気か」
戦術人形には気を付けよう!
(……疲れてきたな……)
今日も今日とて書類とにらめっこ。指揮官は相変わらず執務に追われている。彼の眼はディスプレイや用紙の繰り返し見で疲れ、悲鳴をあげていた。
(少し休みを挟もう……続きはその後だ……)
疲れた体に鞭打ってもただただ能率が落ちるだけ―― 指揮官はペンを置いて伸びをした。
久々に引き延ばした身体からはパキパキと小気味よい音が鳴り響く。指揮官は執務机の椅子からソファーへ移動し、背もたれに深々と背中を預けた。
そのまま横になって眠りにつきたい衝動に駆られたが、仕事はまだ残っている。やすやすと眠りにつく訳にもいかない。
目を瞑ってソファーで休んでいると、
シューッ コツ コツ
指令室のドアが開いてM590が静かに入室し、やがて指揮官の傍に立った。健康的な褐色の肌に映える白銀の長髪の美しいこと。彼女は何やらトレイを持っている。
「こんにちは指揮官。お疲れの様ですね……」
「ああ……。恥ずかしい所を見せたな……」
「いいえそんな。寧ろ……よかったらこれをお使いください」
彼女が手渡してくれたのは――、なんとホッカホカのタオル。
「おお、これは……ありがとう。ありがたく使わせてもらう」
「クスッ♪ どうぞどうぞ。ゆっくりお休み下さいね」
目を閉じてタオルを乗せて横になる。タオルの熱が瞼に続き眼球へじっとりと浸透していき、心地良い熱が疲れ眼を包み込んでいく。
古典的かもしれないが、疲れ眼にコレはいい。
その場しのぎに目薬を点眼するのも清涼感があっていいが、
一方、その光景を見守るM590だったが――
「……」
目の前にはソファーで横になる指揮官。無防備なうえに、彼は今蒸しタオルを乗せているので視界も塞がれている目隠し状態。
「……」ソワソワ
徐々にM590の内に邪念が燻り始めた――。
「……」ワキワキ
(……無防備な……指揮官……)トクン… トクン…
M590は横になる彼の上でぶつからない様にゆっくりと手と膝をつき――、
彼の上で四つん這いになる。寝ている彼を見おろせる絶景がそこにはあった。
鼓動が煩い――。彼に気付かれない様に……と、背徳的な行為の興奮から鼓動が急速に騒がしくなっていくのが分かる。
(指揮官の顔が……もっと見たい……)
ゆっくり、ゆっくりと姿勢を下げていき、ただでさえ近い指揮官との距離が徐々に狭まっていく。
「ふー……ふー……」
指揮官の顔は息もかかるであろう距離。しかし興奮のあまり荒い呼吸が止められない。
――ふわりと垂れたM590の長い髪が指揮官の顔を撫でた。
「ん……? モスバー……グ……?」
ここで指揮官は異変に気付いた様で、慌てて蒸しタオルを取っ払うと目の前にはM590の顔――。彼女は今にも覆い被さり身体を密着させてきそうな勢いであった。
「あ、これはその……ごめんなさい指揮官……」
熱を帯び、とろんとした目つきでM590は言う。
「しばらく、貴方の傍に居ても……構いませんか……?」
「あ……あぁ……分かった……」
思わず要求を呑んでしまう。それは酷く扇情的で、心臓が跳ねたような気がした。
「失礼、しますね……」
M590はゆっくりと姿勢を落とすと自身の豊かな双丘を始めとし、ふんわりと指揮官に覆い被さる。
(指揮官……あったかい……♡)ポー
温もりや身体の柔らかさも感じるし、なんならいい匂いだってする。だが興奮しているのは指揮官だけでなく、彼女にとっても同じことの様だ。
なんだって戦術人形というのはこうも……怨めしい限りだ。
目の前にはぽわぽわした笑顔のM590。
しかも目が合うや否や嬉しそうに見つめ返してくる。なんとも甘酸っぱいムードに、指揮官は恥ずかしさから逃れるべく蒸しタオルを再び乗せて、やり場に困った視界を遮った。
今やそれはアイマスクの役割を果たしていた。
まだまだ冷めぬ蒸しタオルの熱と暗黒の視界が少しだけ、心に平静をもたらしてくれた気がする。このままじっとしていればM590は満足し、そのうち退いてくれるだろう――と、指揮官は思った。
それまで拝めた指揮官の表情がタオルで隠れて窺えなくなって以降、M590は途端に物寂しさを感じ始めた。
そんな時、ふと目についたのは――、彼の唇。
「……!」
直後、M590の頭上に明かりが灯った電球のマークが浮かび上がる。
(ちょっとだけ……)ドキドキ
目元は隠れて見えないけれど、これからするコトに胸の高鳴りを抑えきれない。
徐々に、M590の艶のある唇が指揮官の唇に迫る――
――ちゅ♡
「!?」ング
突然指揮官の唇に湿り気のあり、それでいて熱を持つ柔らかいものが触れる感触――
勿論驚いたが、彼は不思議とM590が口づけをしてきたのだと直感的に理解できていた。慌てて蒸しタオルを取ると、うっとりと目を閉じて指揮官とのキスに浸っているM590が居た。
視覚を封じられた人の身体は触覚や嗅覚、聴覚が自然と平常時より研ぎ澄まされるもの。
そのせいだろうか、唇を重ねるM590の息がやたらとこそばゆくも感じるし、食む様なキスの触感と彼女の息遣いがよくよく聞こえてきてしまっていた。
うっとりと目を閉じていたM590が目を開け、指揮官と目が合う。すると彼女は笑みを浮かべ、
「ダメですよ指揮官……♡ しっかり休まないと……」
と、指揮官の両目を手で覆って隠してきた。M590の手は温かく、再び唇に湿っぽい触感――今度は舌を入れての濃厚なキスだ。
「ちゅぅ……ちゅぷ…… んむっ…… はーっ……♥」
M590も興奮している様で、息遣いも先程よりよっぽど荒く感じられた。
彼女が覆い被さっている為に身体の自由は利かず、ほぼ拘束状態。口も舌を入れてのキスで塞がれて声もあげることも叶わず……。
そのまま目隠し状態でM590によるキス責めが延々と続いた。
彼女の柔らかい身体に体温に、段々と思考が心地良く蕩けていき――
それはやがて睡魔となる。
M590に抱き着かれつつ、指揮官は段々と眠りに落ちていった。
◆
◆
◆
「指揮官……?……眠ってしまいましたか」ナデ
「私も、補給させてもらいますね……♡」カチャカチャ ジー…
ちゅく……♡ ぬぷぷ……♡
「あっ……♥ んっ……♥ はっ……♥」
「指揮官っ♥ 貴方を……お慕いしていますっ……♥」
たんっ♡ たんっ♡
ギシギシ♡
◆
◆
◆
やがて指揮官はM590の膝枕の上で目を覚ます――。
「おはようございます。指揮官」ナデ
「……モスバーグ、か」
「はい♪貴方
「っ……ま、まぁ……お蔭で休まったよ。ありがとう」
(妙に気怠いが……)
「いえいえ、また来ます♪」
「え」
「今夜にでも、指揮官のお部屋に…… 参りますね?♥」
M590、参戦――!
「ふ、ふふふ……ついに手に入れた……」
「16Lab印の惚れ薬ッ……!これで指揮官の心を……!」ウヒヒ
ガチャッ
「――ッッ!?」バッ
「大きな独り言を聞いたわアンジェ。……その薬、頂くわよ」
「指揮官は貴女に渡しません」
「クソッ……お前たちまで私の恋路の邪魔をォ……!」(血涙)