「……」
「戦術人形たる者、色に惑わされず常日頃から研鑽に励むべきです」
「…………」
「これでは運気だって下がってしまいます……指揮官もそうお思いでしょう?」
「………………なあR93、そろそろ膝の上から降り――」
「い、嫌です!」ぎゅ
戦術人形には気を付けよう!
指揮官が執務をすべくデスクに向かうこの構図はこの日だって変わることはなかった。
しかしそんな中、ふと指揮官の自室に来客が。
この日のこの時間帯は誰も訪ねて来ないものだと彼は思っていた。
やってきたのは――
「やあ。指揮官」
――M16A1だった。
彼女を部屋へ通すと、彼は再び執務に取り掛かった。
……執務という程立派なものではなく、彼が能動的に行っているだけの時間外労働……サビ残の様なものだ。
ここは指揮官の為に用意されたただの個室。デスクを広々と使って用紙を並べ、執務に励んでいる。しかし、彼の本来の業務の遂行及び運営は、やはり主に作戦司令室となる。
もはや職場と自室の境なるものは、ワーカーホリックな彼からすれば全く差は無い様に感じられる。
「そういえば指揮官、催しには?」
近くのソファーで静かにくつろぐM16A1が聞く。
「ああいうのは上官がいては盛り上がらんからな。抜きにして皆に好きにやればいい」
(……おやまあ)
M16A1はパーティーは盛り上がらないことを静かに悟る。
指揮官がパーティーに参加してくれた方が盛り上がるのを彼女は知っているからだ。
そして彼のこの判断は英断であり、パーティーで戦術人形たちに滅茶苦茶(意味深)にされてしまう世界線が見事回避された。
日常にも危険は潜んでいるってはっきり分かんだね。
「そういうお前は催しに出なくていいのか。今頃皆集まっているだろうに」
「んー?」
言葉に反応し、M16A1は指揮官の方にゆっくりと顔を向ける。
そういえばどうしてやってきたのやら。
「皆、眠らずに明日を迎えようと盛り上がっていると風の噂で耳にしたぞ」
「別にいいさそんなの。ここがいい」
予想もしない言葉に思わず指揮官は執務の手を止めた。
「よりにもよってここが? なーんも無いぞココ」
指揮官が軽く見回すも、彼にはいつもと変わらぬ自室が目に映る。
「何も無い、か」
M16A1の目には指揮官が映った。
(私にはあるんだよ、指揮官。言わないだけで)
しばらくして彼女の視線に気づいた指揮官が、今にも何か問いかけてきそうだった。
「いいや。なぁんにも」
そう言って彼が口を開くよりも先手を打っておく。
静かに笑みを浮かべ、目を瞑るM16A1はどこか上機嫌に思えた。
以降は特に頻繁な会話も無く。
だが部屋で二人っきりの静寂も、これがまたなんとも心地良いのだ。
M16A1は執務に打ち込む指揮官の顔を横目で見、静かに隻眼を閉じる。
「――M16」
指揮官が名を呼び、ポンポンとM16A1の肩に軽く触れた。おそらく執務は終えたか、一段落着いたのだろう。
彼女はすぐさま目を開けた。
「起きていたか。もう数十分もすれば日付が変わるぞ」
見やった壁掛け時計もそう告げている。彼の言う通りだった。
日付が変わる、“この日”の日付が。
「こんな辺鄙な場所で空しく年明けを迎える必要はあるまいよ」
「……」
すると――
M16A1は指揮官が着用しているネクタイを掴み、空いたもう片方の手は腕を取って彼を手繰り寄せてソファーに引き倒し、アッと言う間に指揮官に覆い被さる。
M16A1の形も良く豊かな双丘が指揮官の胸板に押し当たって拉げた。
「なっ……」
その流れる様な素早い事の運びに指揮官は呆然としていた。
はっ、と現実に戻ってきたその次、視界に飛び込んできたのはやたらと近いM16A1の顔だった。
彼女の笑みはどんどん深みを増していき、そしてそれは酷く妖艶なものとなっていった。
時点で、指揮官はひとつ悟る――
(っ、捕まった……ッッッ……!)
……と。
せめて風紀良く年末年始を迎えたい思いが彼にはあったのだが……
「悪いねぇ指揮官……♥ |年末年始は私と一緒だ♥」
M16A1が進んで互いの掌と唇を重ね合わせ――
次第に両者の理性は蕩けていき、やがて互いを激しく求めていった。
――その日、両者は理性を手放し、そして結局、新たな年を淫らに迎えたのであった。
新たな年を迎えようが、我々のやる事は変わらない。
在りし日をなぞるようにして新たな年を迎え、日はまた昇る。
『今年もよろしく、指揮官』
M16A1と年越しックスからの姫初め直行ルート回