「? 構わんが……」
「有難う御座います。“使い終わったら”お返ししますね。……うっへへ♥」
「??? ああ」
戦術人形には気を付けよう!
「本当に……するんですか?」
「ここまで来て今更引き返せないわ。折角用意したのに勿体無い」
物資箱を並べ、何か話し合うAN-94とAK-12の二人。
この二人は現在、アンジェリアの命でグリフィンに身を置き、指揮官の下へ配属されている。
「グリフィンに来て早々、揉め事に発展する恐れのある行動を取るのは慎むべきです」
「……」
上司のアンジェリアが二人を急遽、指揮官の下へ、もといグリフィンへと預け移し、且つ配属も決まってまだまだ日が浅い。
転属に関する事柄は一切理由を告げてくれず、少々不審に思ったが……きっと彼女なりの理由と考えがあるのだろう。
「それに、これはアンジェ自身の問題ですよ」
「よく考えてみなさい。私たちがグリフィンに身を置いている今こそ、決行のチャンスなの」
「……何の狙いが?」
「アンジェと指揮官を結ぶ仲介役のポジションに私がつくの。それが狙い」
「……へっ?」
「ほら、うちのアンジェって
「ええ、まあ。本人はあれで隠しているつもりみたいですが」
「そこで!私が一肌脱いで二人を結ぶ恋のキューピッドになろうって訳よ!」
「はあ」
「私がきっかけを作って二人の仲が急接近すれば、アンジェは私に恩を感じざるを得ない筈だし、褒美だって思いのまま!」
「……」
「間違いなくバラ色の生活が私を待っているわ!」
AK-12は自身の上司であるアンジェリアが想いを寄せる指揮官と仲介的関係を取り持ち、彼女に恩を売ろうというのが狙いであった。
あわよくば二人がくっついてゴールインすれば尚良し、といった具合だ。
「しかしアンジェの恋愛問題はあくまで彼女の個人的問題であって、アンジェの頑張り次第では…… 貴女の関与の必要は無いでしょう」
「いいえダメね! 指揮官が近くに居る時のアンジェのへなちょこっぷりを知ってるでしょう? あの様子じゃ年だけ取って終わりよ」
指揮官とアンジェリアの距離がぐっと縮まる様な案を実行する、すると、気を良くしたアンジェリアから何らかの褒美が得られる。そして指揮官の後ろ盾も得られるかもしれない、といった狙いもあったり。
指揮官の外堀を埋め、ゆくゆくはアンジェリアとくっつける為に、まず自分たちが指揮官に近づいて彼を知る必要があるのだという。
先程彼女が恋のキューピットだのなんだの言っていたのはそれで、計画を実行に移そうとしているのである。
「……」
「なぁにその顔?」
「……いいえ。何でも」
AN-94はAK-12の計画にいい顔をしなかった。
これまで場を異にしてきていても、グリフィンもとい指揮官とはアンジェリアを通して間接的に仲良くやってきたし、この度異動となった自分たちを快く受け入れてくれた彼に対して悪い気がしたからだ。
「作戦をより完璧にする為に、指揮官に対して色仕掛けすることだって考慮しているわ。確実な遂行を目指すの」
「い、色仕掛け!? そ、そこまでして……?」
冗談半分で聞いていたAN-94だったが、AK-12は思ったより本気の様だ。
「使えそうなものは活かさないとね~」
そう言ってAK-12は得意げな顔で両腕を頭の後ろで組んでわざとらしく体をくねらせ、グラビア雑誌の表紙を飾ってそうなポージングを取る。
(貴女の容姿がいいのは否定しませんが……)
AK-12は自分の容姿に自信を持っている様だった。持前の容姿すらも利用しようというのか。
「まぁ、話はこれくらいにして、お膳立てをしに指揮官の元へ向かうわよ~」
「い、今から!? えっと、この物資箱の中身は……」
「中身はただのお酒とおつまみ。この為に買い揃えたんだから、ちゃんと飲み食いして場の雰囲気作りに貢献なさい?」
「えぇ……→」(困惑)
「当然よ。貴女も付き合って貰うんだから」
「えぇ……↘」(当惑)
当然の様に頭数に加えられていた。
「あ、そうそう。この計画はアンジェと指揮官の仲がいい具合に発展するまで続ける予定だから」
「えぇ……↓」(戦慄)
聞けばAK-12は既に指揮官とアポを取り、待ち合わせの予定を組んでいた様で、彼はわざわざ時間を割いてくれていた。
私たちのしょうもない企てに指揮官がこれから巻き込まれていく……そうと思うと良心の呵責に苛まれる。
おまけに指揮官の自室に転がり込んで話をする為の算段として、彼の自室で酒盛り……所謂宅飲みという手段を行使する様だ。
(用意周到なことで……)
完全に巻き添えを食らうAN-94であった。
そんなこんなで荷物を抱え、指揮官の元へと向かう。
◆◆◆◆
「ほら!しゃんとしなさい!」
「……はい」
AN-94とは対照的にやる気満々のAK-12。
「成功すれば酔ったアンジェの愚痴とダル絡みから解放されるんだから!」
「それはそうかもしれませんけれども……」
……AK-12の言い分に全く賛同できない訳では無かった。
飲んだくれる度に『指揮官にもっとお近づきになりたい!』……などと、ボヤく上司に辟易しないのか、といったら……しない訳ではない。最近はうんざりしてきている。
グリフィンに来て以降はアンジェリアのダル絡みから解放され、正直気分が晴れやかになった。
ぶっちゃけ、皆でクリアすべき共通の課題の議論をするのならまだしも、しかし全く関係の無い個人の悩みをダラダラと吐露されても正直、反応や扱いに困るのだ。
酔ってダル絡みしてくるアンジェリアの相手は結構めんど……手間がかかる為、AN-94にもこの状況をなんとか変えたいという思いはあった。
勿論、一人形としてアンジェリアにはいい人と結ばれて幸せになってほしいとは思っているし、それはAK-12も同じ。
しかし、AK-12がこれから取ろうとする手段は褒められたものではないのは確かだ。
いい加減にうんざりなもので、アンジェリアの想い人である指揮官とくっつけて黙らせようとしているのに過ぎないのだから。
「アンジェもいい年だし、いい加減誰かに貰ってもらわないと」
「だからって指揮官に……彼にも彼の人生があるでしょうに……」
酔いつぶれてボヤくアンジェリアを見てその都度、“ああ、また始まった”と、二人して顔を見合わせてやれやれと呆れる流れが様式美であった。
全く。フィクションに出てくる恋愛下手キャラじゃあるまいし。
「ふっふっふ。指揮官には悪いけど、私はこの面倒な状況を手っ取り早くなんとかしたいの」
(うわあ)
「……そして尚且つ、しっかりと自分の利益になるように、ね♪」
「な、なんてことを……」
「大丈夫。あの指揮官ならうちの“お嬢さん”一人養うことくらい造作も無いわ。ちゃんと高い給料貰ってるわよ、きっと」
「……今にバチが当たっても知りませんよ」
~指揮官の自室ドア前~
プランを立ててノリノリなAK-12と、脳死で激流に身を任せるAN-94の二人はやっぱりやってきた。
指揮官との約束の時間も刻一刻と迫り、もうすぐだ。
「いい?最初は普通に会話を楽しみ、それから徐々にアンジェの話題に移行するの。最初からぶっ込むのはナシよ?あまり不自然のないように」
「ハイ」
「少しずつ彼にアンジェの事を意識させるの。アンジェと指揮官なら素敵な夫婦になれそうですねーみたいな感じで持ち上げて」
「ワカリマシタ」(アバカンロボ)
「ちょっと、どこ見て話してるのよ……」
コイツ大丈夫か?といった視線をAN-94に向けつつ、雑な作戦会議は終了。
AK-12はドア横のパネルに触れ――
≪ハァイ。こんばんは指揮官、私よ。少し早いけど来ちゃった≫
≪私も居ます。こんばんは。指揮官≫
パネルからマイクで自室内にいるであろう指揮官に呼びかける。
――カチリ
呼びかけに対する返答は無かったものの、指揮官はドアのロックを解除し、出迎えてくれた。
「夜分に申し訳御座いません。(本当に、申し訳御座いません指揮官……)」
「さあ指揮官、飲むわよ~♪ 今夜は寝かさないわ~」
AN-94が申し訳なさそうに頭を下げ、AK-12が持っていた物資箱の蓋を開け、中から酒の瓶を一つ取り出して嬉々として掲げる。
指揮官も挨拶を簡単に済ませると二人を部屋に招き入れてくれた。
(あら、指揮官のお部屋…………悪くないわね……)
(とても片付いたお部屋ですね)
こうして指揮官の部屋に足を運ぶのに成功した二人。しかしながら彼の自室にお邪魔して内心大はしゃぎな二人であった。
((――あれ? そういえば……))
そんな二人に、やがて気付いたことが一つあった。
(私……男と一緒に飲んだ経験なんて、無いわ)
(男の人とのお酒の席は初めてですね……)
思えば自分たちの身の回りは女所帯。二人には男性経験が全くなかった。
しかし計画遂行の為には、この酒宴を即興のアドリブで何とかこなすしかない。ましてやここまで来てしまったのだ。
内心不安だが、表情は普段そのままに二人は互いに顔を見合わせる。
(……まぁ、AN-94なら経験あるでしょ。きっと大丈夫ね)
(……まぁ、AK-12なら経験済みでしょうね。問題ないでしょう)
しかし顔を見合わせた際に、何故か見事に互いが互いを勘違いし……
引き返すことはもはや叶わず、そのまま楽しい夜が始まった……
男性とお酒の席を共にした経験などまるで皆無な二人にとって、この状況は新鮮で大はしゃぎ。
気分を良くした二人の飲酒ペースはどんどん進んでいった。
「あ。指揮官のグラスが空いてますねぇ。お注ぎしますよー」←酔っ払い
「あ、ありがとう」
「ほ~ら指揮官~♪こちょこちょこちょ~♪」←酔っ払い
「零れる!零れる!」
それゆえハイペースで飲酒したのが祟ったのか、指揮官が程良く酔う前に既に二人は酔っぱらっていた!
初めこそ対面の席で飲んでいた二人だが、話の盛り上がりに乗じてしれっと指揮官の両隣に移動し、すっかりキャバクラ状態。指揮官へのボディータッチ(二人は無自覚)も増えていった。
まるでホスト通いが癖になってしまった女の子の如く。アルコールも回って二人は色々と緩くなり始め、徐々に場の雰囲気は怪しくなっていく……
「彼女とか、いらっしゃらないんですかぁ?」
「えっ、そんなの関係無いでしょう」
「またまたぁ。貴方くらいになると沢山いるのでしょう?」
「実際居るんじゃなぁい? 道行く
(えっ、何それは……)
「そのうち指揮官押し倒されちゃったりして……あっはは!なんてねっ」
「そっ……そんなことが起きたら大変、だな……」←※経験済み
「ふふっ、気を付けて下さいね指揮官」
「女の子の多い職場で貴方は格好の獲物よ~? 女の子は狼なんだから」
「そうですよぉ」
「…………うーむ」
これまで男性との関わりなどあまりなく、実際にこうして生の男性と間近で飲み交わすのは初めてで、二人は大はしゃぎ。
ましてや男の部屋に上がり込むなどもっての外……
加えて酔いと場のイイ雰囲気がAK-12とAN-94の二人を徐々に、そして確実に狂わせていく。
今の二人は酔っていて口もよく回ること。
「指揮官、私思ったの。
「私もそう思います」
「だから私も負けてられないわね~♪」
「!?」
AK-12が指揮官にしなだれかかり、指を絡める。 驚く指揮官。
一方、その光景を目にしたAN-94はというと……
(うわ……始まりましたね……色仕掛け…… まさか本当にやるなんて……)
最初こそやれやれと見ていたAN-94であったが、指揮官とイチャイチャできて役得であることが理解でき……
(……………………)
正直なところ……
(…………いいなぁ)
――羨ましかった。
……二人のホットなやり取りを見ていると言葉にできない、妙な感覚が湧き上がっていくのが分かった。
◆◆◆◆
……そんなAN-94の気持ちなど露知らず、一方のAK-12は……
「~~♪ 指揮官の手、冷たくて気持ちいい……」
お酒で火照った身体には心地良いのだろうか、AK-12は愛おしそうに彼の手を抱き寄せて頬に当てて浸っていた。
アルコールが回っているせいなのか、顔はほんのり紅潮し、それらはAK-12の銀髪と色白の肌によってより際立って見え、彼を見つめる爛々とした目は潤んでいて妙に扇情的であった。
(あら……? こうして改めて見ると指揮官って……)
じーっ……
(結構…… イイ男ね……)
とくん♡
(……AK-12でもあんな顔をするのですね……色仕掛けの為の演技でしょうけど)
(そういえば……アンジェもあんな顔を……)
好きな男の事について話す時のアンジェリアは本当にイイ笑顔を浮かべ、頬は緩み、全く関係ない筈なのに惚気話を聞かされている様な気にさせられたのを覚えている。
(似てる…… あの時のアンジェの顔に……)
ふと自分の上司の顔が浮かぶ。所謂雌の顔だ。
その間、AK-12の行動は徐々にエスカレートしていった……
「はあ……ちょっと、暑くなってきたかも…… あ、そうだわ……♪」
そう言うとAK-12は服をたくし上げると指揮官の手を取り、自身の腹部に導いて押し当てた。
「なっ……AK-12!?」
「んん~♡ 冷た~い♪」
「(!!?)ぅぶ……」
滑々した肌で張りのあるスッキリとしたイイお腹。
酔いのせいなのだろうか今の彼女はすっごく大胆。傍で見ていたAN-94は思わず飲んでいたお酒を吹き溢しかけ、目を丸くしていた。
「AK-12……これは、流石に……」
「遠慮しないで指揮官……ねっ、ほら……もっと触って……♡ ……ねっ?♡」
(……え!?触っ……)
AK-12は自ら進んでボディタッチへ導き、しかも満更でもなくノリノリときた。
AN-94はそりゃあもうたまげていた。
(い、色仕掛けとはいえ流石に……積極的過ぎるというか……)
AK-12に抱いていたイメージが音を立てて崩れていき、同時に一抹の不安が過る。
(まさか目的を忘れて普通に楽しんで…… いいえ、そんな。AK-12ならきっと大丈夫……)
この計画を持ち寄ったのは他でもないAK-12自身。計画に誰よりも乗り気だったのもAK-12だ。
(ここは……様子を見ましょう)
以降AN-94はAK-12の動向を窺っていくことに。
しかし、一度出た不安は徐々に大きく膨らみ上がっていくのだった。
◆◆◆◆
「どう~?これでもちょっとは自信があるのよ?」
AK-12はそりゃあもうグイグイと指揮官に迫ること。
スッゴイ積極的。
「もー、指揮官ったら照れなくてもいいのよ……♡」
(……)
AN-94様子見中。
「貴方には私のコト、隅々まで知って貰わないと……♪」
(………)
「ふふふっ、いいじゃない。これから先、一緒にお仕事する仲なんだから……♪」
(AK-12…… 演技……なんですよね……?)
「ねぇ指揮官……この後どこかで二人きりになれないかしら……」
(………………)
(……あれ? これマズいのでは?)
アンジェリア云々そっちのけで指揮官にグイグイと迫って口説くAK-12に危機を抱くAN-94。
AK-12があまりにもノリノリ過ぎる。すごいよこの人。
このまま彼女を放っておいたら指揮官を連れて夜の街に消えかねない雰囲気だった。
さっきから指揮官もタジタジ。
(AK-12……まさか……)
……AK-12は目的を忘れ、この場を楽しんでしまっていないか?
今の彼女からはピンクな雰囲気を漂っていて、なんだかとっても危険。
……酔ってるし。
「ねぇ……指揮官、私とキs――」
いかん!
「――ごほんっ!(AK-12!まずいですよ!)」
AN-94が注意喚起の如く咳払いをし、AK-12にアイコンタクトを送る。
(当初の目的を忘れぬよう……)
「ん゛ん~?」
AK-12がアイコンタクトに気付いたのか、こっちを見た。
しかもいい所を邪魔されたせいか露骨に不機嫌だった
(ほら!指揮官にアンジェをアピールアピール!彼とアンジェをくっつけるのでしょう!?)
「んー……」
必死に扇動しようとする、が……?
(あ、あれ……?)
酒で酔っているせいか、AK-12の返答は鈍い。ぽわぽわしてる。
「……」
「…………?」
「…………………あ!そうだわ!」
(そう……!そうです!思い出して下さい……私たちはアンジェの為に――)
「貴女も混ぜて欲しいのね!」
「……へぇっ!?」
必死のアイコンタクトがとんでもない解釈に……どうしてそうなった。
「え、いや、あの、違っ――「そうならそうと言いなさいな!ほらっ!」
「うわ!?」
AK-12がAN-94の手をぐいと掴んで引き寄せる。すると、二人で指揮官を両側からサンドイッチ。
指揮官はすっかり抱き枕状態に。
(わ、指揮官がこんなに近くに……)
「……すまんAN-94、嫌だろう……無理せず離れた方がいい……」
「い、いいえ!別にそんな……あはは……」ドキドキ
「いいじゃない。今のうちにあやかっておきなさいよ~。どうせ貴女に男運なんて無いんだから」
「むっ……」
しかし、彼女の余計な一言で湧いて出たちょっとした怒りも、この状況ではすぐにどうでもよくなってしまっていた。
(指揮官の身体……男の人の……)
――とくん
(ごつごつしていて……恰幅がよくて…… やっぱり私の身体とは違う……)
――とくん とくん
(生きていて…… 温かくて…… どきどきする……)
酔いと異性への興味と興奮で、AN-94の理性の歯止めが徐々に狂い始めていった。
(それに……いい匂いも……)
寝入った様に瞼を閉じ、感覚に浸る。AN-94は無意識に指揮官に腕を回し、そして、思考に耽る。
(これは……アンジェの為……計画遂行の為…… だから、そう……必要なこと……)
(それに、今はお酒の席で……私もちょっとお酒入っているし……)
(だから……多少の粗相は……し、仕方の無いこと……ですよね……?)
(……ちょっとくらい……いいですよね……?♡)
AN-94に異変が発生。
あれこれ理由をとってつけ、自分に言い聞かせ始めた。
「指揮官……失礼しますっ……♡」
「!!?」
――ぎゅ♡
「~~~♡」
AN-94は回した腕に力を込め、愛おしそうに抱きつく。
彼女は長いこと欲しがり続けた玩具を買い与えて貰った子供の様な、満面の笑みを浮かべていた。
そんな彼女があまりにも嬉しそうで、指揮官は何か言いかけて途中で止め、制止に至ることが出来なかった。
(彼女はただ酔っているだけだ……)
激流に身を任せ、どうかしている指揮官。
(じっとしていれば、この場は収まる……下手な刺激は……)
自身に言い聞かせるも、心の内の何かが緩みだしたAN-94の行為はエスカレートしていく。
呼吸を荒げながら怪しい手つきで指揮官の身体を撫でまわし、挙句は彼の身体に顔を埋めて深呼吸したり……うっとりと何かに浸る彼女は、人様の前にはとても出せない様な表情を晒していた。
「指揮官……私、もう……」
「――ちょっと! 私も居るのよ~? 二人で盛り上がってくれちゃってぇ……」
「……」
AK-12の声で途端に興ざめし、現実に引き戻されたAN-94は苛立ちを覚える。
渋々、AN-94は手を止めた。
イイところで、しばらく蚊帳の外だったAK-12が再び再燃。タイミング的に先のAN-94へのちょっとした意趣返しの様な気がするが、定かではない。
普段まとまりのある筈の二人なのだが、今回はどういう訳か互いが互いの足を率先して引っ張っている様に見える。
(そうだった……彼女も酔っていた……)
酒の席を共にしただけで逃げ場を失う男、指揮官。
彼の受難は続き……
「さっきから指揮官にベタベタし過ぎじゃなぁい? はしたないコねぇ?」
(不覚……この子が彼に積極的になるだなんて……)
「ぜーんぜん、そんなことないですよー? ねーしきかぁん?」
(このチャンス……逃す訳には……!)
指揮官を巡ってAN-94とAK-12が互いを牽制しだし、やがてなぜか小競り合いに発展……
「彼にくっつき過ぎよ!言動がさっきから違うじゃない!!」
「とか何とか言って!元は輪に入れたの貴女じゃないですか!」
「それはあぶれた貴女が哀れに思ったからですぅ~、気遣いです~」
「ならいいじゃないですかそれで!」
「そんな寛大な私に敬意を表して場を譲ったりして配慮出来ないわけ?」
「……はああ~?貴女はさっきからああ言えばこう言う……雌犬め」
「それは貴女もでしょう!? 清楚ぶっていい子ぶりっこしてるのは分かってるのよ!? どうせ受け狙いでワザとやってるんでしょう!?」
「なっ!? 貴女こそグイグイがっついて慎ましやかさが足りないんですよ!自分の卑しさが分からないんですか!?」
「っ~~~!!一度輪に入れたら調子付いてがっつき出したのはどこの誰よ!?人のこと言えるの!?」
小競り合いはずるずると泥沼化……
その間も指揮官はバッチリと二人の抱き枕にされている。
ダラダラと時間だけがしょうもなく過ぎていき――
「「Zzzzzz……」」
争い疲れ、酔いも回った二人に訪れたのは強烈な眠気だった。
二人は無事沈黙し、指揮官が珍しく無事で済んだ!万歳!!
(た、助かった……のか……?)
(だが……寝落ちした二人をどうしたものか……)
しかしながら後始末に追われる指揮官であった。
◆◆◆◆
酒宴を終えて翌日、食堂の隅の席で二人が神妙な面持ちで顔を見合わせた。
「「……………………」」
「……結局、ただ楽しく酒盛りして終わりましたね……」
「…………そう、ね」
「……アンジェの事はすっかり忘れて」
「そっ……そうね……」
どもるAK-12。目論みはバッチリ失敗に終わっていた。
しばし互いに沈黙が続く……
「今回のプラン……貴女はアンジェの為だと言っていましたが……」
「……何よ」
「AK-12……貴女が個人的に指揮官に近づきたかったのではありませんか……? 実はアンジェの一件は建前で……」
「そ、その……断じてその様なことは……」
(否定するならもっとしっかり否定して下さいよ……)
指揮官との酒盛りが思っていた以上に楽しく、途中から本来の目的をすっかり忘れて楽しんでいた。
各々アルコールも程良く回っていたのもあって色々と弾みに弾み、少々……羽目を外し過ぎたかもしれない。
当初の目的は果たせなかったが、今回の酒盛りで指揮官の人となりも程良く理解でき、おそらくは距離も縮まったと思われる。
……まぁ、これは良いことだ。
「指揮官のこと、どう思いました?」
「……彼、やっぱりイイ人よ。経歴や功績を鼻にかけることもしないし、変に気取ったりしない」
「私も……同じ印象を受けました」
「いいトコの指揮官って大抵妙な曲者であることが多いんだけど、彼は違うみたいね…」
「そうですね、経験則的に……」
(アンジェが好きになる訳よね……)
アルコールが抜け、時間が経って頭が冷え、冷静になった二人は善良な人間を自分らの勝手な都合に巻き込んだことに対し、良心の呵責を感じる様に。
当初こそ作戦は継続して行うと意気込んでいたが、計画の打ち切りが見えてきた。
(今思えば、こんな自分勝手な事に彼を巻き込もうとしていたのね……)
AK-12に善良な一般人を嵌める心意気は流石に無かった様で、今回はただの酒宴に留まってよかったかもしれない。
考案者であるAK-12は指揮官に近づいた目的を忘れて彼を口説きにいくし、AN-94は途中まではまともに機能していたものの、お酒の席くらいイイ思いしてもいいよね?――と具合に絆されて泥濘に嵌り込んだ。
二人はもうガバガバ。両者は無事泥沼の底に沈んでいった。
当初指揮官を嵌めようとしていたが、酔った勢いで指揮官をハメようともしていた始末。
今回は互いの目があり。それゆえ足を引っ張り合って牽制止まりだったが、もし指揮官と二人っきりだったら高確率でコトに及んでいたと思われる。
「「はあ……」」
二人揃ってさてどうしたものかと溜息をつき、頬杖をついてぼんやりと耽る。
(……まぁ失敗には終わったけれど、楽しかったわね……これで、よかったのかも)
(皆で飲むお酒、とても美味しかった……)
昨日の夜がまるで祭りの様……しかしそれは、既に終わってしまったのだ。
(……彼とは……もっと話がしたかったわ……)
(またこういう機会に恵まれるでしょうか……)
「…………」
「…………」
(また、誘ってみようかしら…… 今度は……指揮官と二人きりで……)
(近いうちに……指揮官へ挨拶に向かいましょうか…… ……一人で)
..。o○(AN-94に邪魔されたくないし……)
..。o○(AK-12に邪魔されたくないし……)
……お互い無言のまま、ぐるぐると考えを巡らせているうちに、奇妙なことに二人のアンジェリアに対する心境が変わり始めていった。
何気に両者共々似た考えを持っている。
(……あんなイイ人……うちのアンジェには勿体無いんじゃないかしら……)
(……指揮官にはもっといい相手が……)
元より二人はアンジェリアと長く時間を共にしてきたゆえに、良くも悪くも彼女一面の数々を知ってしまっている。
長く時間を共にすると徐々に分かってくる欠点……言わば短所だろうか。
家族や友人、仕事仲間、一緒に過ごせば負の側面は嫌でもいつかは気づくもの。人には各々、何かしら一癖あるものだ。
(もしアンジェが指揮官と結ばれたとして……指揮官を独り占めされる訳よね……)
("あの"アンジェのことだからがっつくに違いないわ……)
(アンジェと指揮官が同棲……ってなったら、指揮官と一緒に居られる時間が減ることに……)
(やがて二人の間に…… くっ……考えられることだわ……)
(……アンジェの毒牙が指揮官に……? う……)
((そう思うと、なんだか嫌だな~……))
互いにこの考えを言葉として口にする事こそ無かったものの、面白いことに二人とも似た様な考えに至っていた。
これでも、最初は自分たちの上司の売り込みを目論んでいたのだが。
(……アンジェに、取られるくらいなら……)
(それなら……いっそのこと……)
「「(私が……)」」
……おや?二人の様子が……
これを機に、指揮官を個人的に気に入った二人が、暇を見つけてはちょくちょく一人で会いに行く様になるのだが、それはまた別のお話。
~後日、指揮官自室前~
「「あっ……」」
ばったり。
椅子に深々と腰かけ、グラスを傾けるアンジェリア。
(…………おかしい。あれから一向に二人からの連絡が来ない……)
(二人をグリフィンに送り込めば、そこで何か私の為に働きを見せてくれると思ったのに…… その……私と指揮官の関係をお膳立てしてくれたりとか……)
(クソッ……読みが外れたか……? だが二人なら…… いやしかし現に……)
(……まさか!この目論みが二人にバレていて……いいやまさか……ありえない……)
(落ち着け……私はただ吉報を待てばいいんだ……)
(そうだ……そうすればいつかきっと二人が私の為に……)