あと、すでに気づいた方もいるかもしれませんが、3月1日の夜に前話の「篠崎愛の真実」を中盤から書き直しました。勝手なことをして申し訳ありません。
「ちょっとあんた!?営業妨害も大概にしろってーの!」
童守町の繁華街。そこにデートの下見にやってきていたゆーくんは、突然女子中学生に呼び止められて身に覚えのない因縁をつけられることになった。
黒い長髪のなかなかスタイルのいい美人なので、一度でも会っていれば覚えているはずなのだが、ゆーくんがいくら首をひねっても思い出す様子はない。
そんな態度に業を煮やした彼女はリップクリームを数本取り出して詰め寄った。
「この子達を見てもまだわからないわけ!?」
「あっ!?」
彼女が構えたリップクリームから飛び出したのはニョロニョロのパチモノみたいな謎のナマモノだ。その姿にゆーくんは見覚えがあった。
ここ数日頻繁にゆーくんの近くを飛び回り、または付け回してくるので引っ叩いて撃退していたのだ。彼女がこれらの元締めだというなら文句を言いに来るのも納得ではある。
迷惑を被ったのは彼女の管理不行き届きのせいだが。
「あー……ごめんなさい。お姉さんのペット?を叩いちゃって。でもずっとついてくるから……」
「……やっぱり……あんたこの子たちが見えてるわけね?」
「え?」とゆーくんが驚いたように言うのを尻目に彼女――葉月いずなは唇に指を当てて思案する。
東北の霊能者――イタコの家系に生まれた彼女は、つらい修行を放り出して手っ取り早く霊能力を駆使して有名になって金儲けをするために都会に出てきたという、まあわかりやすい若者だった。
そんな彼女の日課は修行と称して未熟な霊能力を使った小遣い稼ぎだ。イタコの霊獣であるくだ狐を使えば人の心を覗いたり遠くのものを盗み見たりは簡単にできるので、恋占いや失せ物探しなどでよく当たる占い師と最近では評判になっていた。
しかしここ数日女子小中高生、果てはいい大人までが一人の男の子について占ってほしいといづなに依頼してくるようになった。趣味趣向に相性、好きなタイプにどこに住んでいるのか。要は恋占いだ。
彼女にとってそれはくだ狐を使えば簡単に調べられること……だったはずなのだが。
どういうわけか調べるために飛ばしたくだ狐たちが追い散らされて帰ってくるのだ。これでは占いも何もあったものではなく、お客の信頼を失った彼女の占い師業は閑古鳥が鳴く有様になったので当人に文句を言いに来たというわけである。
ようはただの八つ当たりだ。
(てっきり妙な守護霊でもついてるのかと思ったけど……この子も霊能者ってわけね。お客の娘たちが夢中になるのも分かる美少年ね。一部男にも人気が出そうな感じだわ。これは使えるかもしれないね!)
勢い込んで来てはみたものの、ゆーくんに文句を言ったところでいまさらどうにもならない。第一、事情を話したところで心を読まれることを良しとする者はそういないだろう。
いまさらだが、いずなはゆーくんと敵対するよりはこの女性に異常な人気を持つ彼をうまく利用した方がうま味があると考え、先ほどまでの険悪な態度を一変させて笑顔を作ってゆーくんの手を取る。
「コホン……実は、私はあんたに霊能力があるかどうかを試したわけ。無自覚な霊能力者は危険だから、みたいな?」
「え、さっきと言ってることが違――「とにかく!」」
「とにかく、あんたには強い霊能力があるわけよ!このままじゃおかしな悪霊に憑りつかれかねないから、このイタコのサラブレッドのいずな様があんたを弟子にしてあげる!みたいな!?」
勢いで強引に押し切ろうとするいずなに戸惑ったような態度をとるゆーくんだったが、すごい霊能者(?)らしき美少女に才能がある、とボディタッチとともに誘われれば悪い気はしない。
しばし悩んだが、面白そうだと思ったゆーくんはいずなの提案を受け入れることにした。
「う~ん……わかりました。お姉さんの弟子にしてください」
「お姉さんじゃなくって葉月いずなよ。えーっと?」
「ユーでいいですよ。よろしくおねがいします、師匠!」
「ユーね。私のこともいずなでいいわよ。堅苦しいのは嫌いだし」
自己紹介を終えた二人は手をつないで繁華街の人ごみへ消えていく。
霊能力者の弟子とは具体的になにをするのか聞いてくるゆーくんに、師匠の言うことには絶対服従などと自分に都合のいい嘘を教えつつ、いずなは初めての弟子を使ったうまい金儲けの方法に思いを馳せるのだった。
こうしてゆーくんのいずなの弟子生活が始まった。その最初の活動は――
☆
「さあさあ!よってらっしゃい見てらっしゃい!イタコ美少女いずな様の霊能力ショーだよ!」
「みなさーん!美人のお姉さんのスペシャルショーだよ!特に男の人は見ないと後悔するかも?」
上記の通りの掛け声を繁華街の道行く人に宣伝してのショーの客引きだった。しかもなぜかゆーくんはいずなとおそろいのセーラー服姿である。
今回は男性客メインの商売なので、いずなの命令でイケメンであると同時に男の娘でもイケる外見のゆーくんには女装してもらうことになったのだ。これも修行、というかなり無理のある言い分だったが、ゆーくんは面白そうだったのであっさりOKした。
「なんだなんだ」「霊能力ショー?」「美少女だって?」「ふ、二人とも可愛いなぁ」「ゆーくんハアハア!」
2人の美少女(?)が大声で何かの催しをするということで、急ぎの用事のない人々がぞろぞろと集まって2人を囲んで輪が作られる。
「さーって、それじゃ本題。今から私が霊を呼んでこの子がポラロイドでその霊を写しまーす。見事撮れたら買ってくださいね。おひねりも受け付けてまーす♪」
しかし中学生と小学生の少女が霊能力だのなんだのと言っても説得力がない。見た目につられた人の中の何人かが輪から抜けようとしたが、真剣な表情で数珠を構えたいづなの気迫に息をのんでその場に留まった。
「観自在菩薩 行深般若 波羅蜜多 うんたらかんたら――」
ゆーくんがカメラを構えるといずなも経文を唱え始め、進むにつれて周囲の温度が下がっていく感覚を感じて周りの人たちが冷や汗をかき始めた、その時――!
「いや~ん♪」『うおおおおぉぉおおおおおぉ!!』
突如、突風が吹いたと同時にいずなのスカートが大きくめくり上がった。白いパンティーが衆目にはっきりと晒されると、カメラのシャッター音と男どもの歓声が繁華街に響き渡り、おひねりの小銭が乱舞する。
「いずなさん。確かに映ってましたよ。その……白い……」
「OKOK♪はい、大成功です!確かに今、この場に悪霊が現れて突風を起こす瞬間を写真にとらえました!いくら出す!?」
「五千円!」「おれは一万だっ!」「一万一千」「けち臭い値上げすんな!二万!」「「わ、わたしはゆーくんの写真を……」「三万だすぞ!!」
ゆーくんが頬を染めて写真を持ってくると、いずながその写真を見て満足そうに笑って観客に写真を売りつける。
当然さっきの光景を見ていた男たちはゆーくんの「白」の言葉もあって、中学生美少女の見事なパンモロ写真だと疑わずに競って値段を釣り上げていく。
「はい!三万円のお客さん、あんたに決めた!毎度ありー♪」
「よっしゃあああああああああ!!」
「じゃ、あたしたちはこれで。また来てみたいなー♪」
落札した男性がガッツポーズをとり、買い逃した男たちは膝をついて悔しがる。そんな中をいずなとゆーくんは、素早くお金とおひねりを回収してそそくさとその場を離れる。
「ちくしょおおおおおおおおおっ!!?」
その直後、写真を買った男の慟哭が周囲にこだましたがその時にはすでに2人はいなくなっていた。後には血涙を流してうなだれる男と件の心霊写真――スカートがめくれ上がったいずなのパンティーを隠すように白いくだ狐が写った写真がひらひらと宙を舞うだけであった。
☆
ゆーくんの弟子活動。二日目。
「いずなさん。これでいいんですか?」
「いいわいいわー!体育座りになって……そう!そんな感じで首をかしげて上目づかいで!チョベリグよ!」
マンションの一室。そこでゆーくんを着せ替えして写真を撮る――つまりコスプレ写真撮影会である。
裸にYシャツというあざとい格好で言われるがままにポーズをとっては、それをいずなが写真に収める。
ゆーくんのきわどい格好とポージングで色々見えそうで見えない、という絶妙な写真を次々撮影してはその一枚一枚が札束に変わると思うといずなはにやけが止まらない気分だ。
「うーん……もう少し刺激が欲しいわね……そうだわ――えいっ!」
「ぴゃあっ!?うぇ~……いずなさん……なんですかこれ?べたべたしますよ……」
十分きわどい写真なのだがいずなはさらにもう一歩進みたいらしく、しばし思考した後で何か思いついた様子で台所まで行くと、戻ってきた途端ゆーくんに持ってきたコップの中身をぶちまけた。
「大丈夫ただの牛乳だから。乳ってのは宗教的に命の雫って意味があって霊能者にうんたらかんたら(大嘘)ってわけよ。これも修行には必要不可欠、みたいな?」
「牛乳……ぺろぺろ……あ、ほんとだ♪」
ゆーくんは顔や手足に掛けられた白濁液を気持ち悪そうにして涙目になるが、それが牛乳だと解ると指で掬ったそれをぺろぺろちゅぱちゅぱ♪と舌でねぶるように美味しそうに舐めとる。その淫靡な雰囲気に適当な嘘を言っていたいずなも頬を染めて無言でカメラのシャッターを切るのだった。
(やばっ、この子めっちゃエロいわ!お客の娘たちがこの子に惚れ込むのもわかるわけ。……あの娘たちには悪いけど、この子を私がいただいちゃうっ、てのもアリ……みたいな♪)
「んちゅっ♪……いずなさん?次はどんなポーズをとればいいんですか」
「ふぇっ!あ、ああ次ね、次!次はこのチャイナ服よ!中国は式占、風水の本場で霊能者としてうんたらかんたら(大嘘)というわけでこれを着なさい!」
「は~い」
どう聞いても嘘としか思えないいずなの言葉を疑いもせず、ゆーくんは明らかに丈の短いチャイナドレス(女物)を渡されると、Yシャツのボタンをぷちぷちと外して――
「ちょっ、ばっ!?」
☆
いろいろハプニングもあったけど、ゆーくんの弟子活動三日目。
「さあさあ!美少女イタコいずな様の霊能力ショーだよ!今日は特別に――除霊の現場をぜんぶ見せちゃいま~す♪」
「はーい。今日はいずなさんがこちらの髪の伸びる人形に憑いた霊を除霊しますね。まずはデモンストレーション……えいっ」
最初の活動同様――今日は観客を集めての霊能力ショーだ。
今日のゆーくんは艶やかな浴衣姿(やっぱり女物)で、口コミのせいか初日よりもゆーくん目当ての女性客の姿が増えている。……男性客も増えているが。
ともあれ観客の黄色い声を聴きながらゆーくんが髪の伸びる人形を持ってきてその髪の毛を少しだけ切ってみると、ゾゾゾ……と切った分だけ見てわかるほどの勢いで伸び、その光景を見た観客から驚きと恐怖の悲鳴が上がる。
「はい!見てわかる通りこの人形には恐ろしい悪霊が憑りついています。で・す・が――心配はいらないみたいな♪いずな様がきっちりこの場で除霊するわけ!見事成功したらおひねりお願いしまーす♪」
『わあああああああぁぁぁ!!』
百人近い人数が集まって歓声を上げる中、人形を持ったゆーくんに数珠を構えたいずなが向き合って瞳を閉じて真剣な表情をつくる。
先ほどまでの歓声も空気が変わったのを感じて徐々に静まり、人の多い繁華街にもかかわらずシーンとした静けさが支配すると、いずなが目を見開いて経文を唱え始める。
「色即是空 空即是色 色不異空 空不異色 うんたらかんたら――」
大声というわけでもないのにいずなの経文を唱える声が奇妙に周囲に響き渡り、それが一分も続くと突然ゆーくんの手に持つ人形がガタガタと揺れだし、周囲から悲鳴が上がる。
悲鳴を引き金にしたように人形の髪が急激に伸び始め、近くの――ゆーくんへ向けて無数の髪が襲い掛かった。
「ひゃわあっ……!ん、くうっ……縛られて、苦し……っ!ひゃんっ!?や、そこぉ……!髪がぁ……こしょこしょしてぇ……っ!くすぐった……んあぁっ!」
浴衣姿のゆーくんが髪に縛られて苦しそうに呻く。
それによって服がはだけてしまい、半裸に近い格好になる。すると今度はそこから服の中へと髪が入り込み、先端が柔肌をくすぐることでゆーくんが足をばたつかせ、小学生とはいえ男とは思えない柔らかそうな白いふとももが晒される。
くすぐったさに身を悶えさせたことで体温が上がったのか、ゆーくんの頬は上気して赤く染まり、髪が服の下で動くたびに嬌声が上がり身をよじる姿には少年とは思えない艶があった。観客たちはゆーくんのその姿に言いようのないイヤらしさを感じ、唾をのんでその光景を目に焼き付けようとする。
「……(じゅるり)……はっ、いけないけない!でたな悪霊、このスーパー美少女イタコいづな様が除霊してやるわ!怨霊退散!はあっ!」
観客と一緒に美少年が悪霊に責められる姿をついついガン見していたいずなだったが、正気に戻るとごまかすように口上を並べて数珠を持った手で人形を叩いた。
すると人形から黒い影のようなものが飛び出し霧散していき、それと同時に伸びていた髪が逆再生のように元の人形の髪の長さまで戻る。
あとには息を荒げて乱れた服で肌を隠そうとするゆーくんと、ショーの終わりに残念そうな声を上げる観客たちが残った。
「あー……」「残念、もう終わっちゃったのか」「最後まで見たかったなぁ」「色っぽかったぞー!」「すごいショーだったわ!少ないけどこれ、とっておいて!」「ゆーくん……すっごくエッチだった……♡」
「はいはい、ありがとうございまーす!今日はこれで終わりだけど、またショーはやるから見に来てね♪ほら、ユーも何か言いな!」
「はぁ……はぁ……。み、皆さん……また会いに来てくださいね……♡」
ショーの終わりに残念がりながらも観客からかなりの金額のおひねりが渡され、それをいずなが次々と回収していく。いずなに促されていまだ息の荒いゆーくんが挨拶すると、観客たちが「また来るよ!」と一斉に答えた。
「よく頑張ってくれたね。ほら、ジュース買ってきたから、あんたはここで休んでな」
「えへへ……ありがとうございます、いずなさん」
ジュースを買ってきたいずなは、今回の功労者のゆーくんを道のベンチに座らせてねぎらう。
しかし、そうやってゆーくんを休ませる間にいずなは先ほどの観客たちに声をかけ、先日撮影したゆーくんのコスプレ写真を売りつけるのだった。
「あそこの子の写真……いくら出す!?」
「五千……いや、一万!五枚セットで!」
「まいどありー♪」
いずな編なのに何故かゆーくんの微エロ回になってしまった。次はいずなが大変なことになるかも。
ちなみにゆーくんはいずなの思惑を大体察したうえで弟子になりました。
理由は面白そうだったから。