妹、痴漢される《1》
俺には妹が2人いる。
しかも血の繋がりのない義理の妹である。
ちょうど2年くらい前に父親が再婚し、その相手の連れ子としてやって来たのが彼女達だった。
当時まだ中学三年生だった俺は、突如出来た2人の妹にそれはもう歓喜した。昔から姉や妹といった存在に憧れていたからだ。しかもその妹達が超のつく美少女だったのだからその喜びは更に跳ね上がった。
こんな漫画みたいなことが本当にあるんだな、と思ったね。
上の妹のソフィアちゃんは現在16歳の高校一年生。俺の1つ下だ。
160センチくらいの身長で、出るところは出ているモデルのような体型。
顔は全てのパーツが完璧に配置されていて文句の付けようがないくらいだ。髪型は、銀色の美しい髪を肩まで伸ばしたボブヘアーで、毛先をゆるくカールさせている。
彼女はとても明るい性格でいつも笑顔を見せてくれる。それもあって綺麗と言うより可愛いと言う印象を抱かせる。
名前から予想出来る様に彼女は日本人ではない。
俺の父親は仕事で海外を飛び回っており、その時にソフィアちゃんの母親と出会って仲良くなったらしい。北欧のなんとかって国の出身だとか。
そんな遠い国からいきなり日本にやって来た彼女達は最初こそ文化の違いに戸惑っていたが、あっという間に日本語を習得し、今では見た目以外は全く日本人と変わらない。
下の妹のリリアちゃんは現在14歳の中学二年生。
あまり見た目で妹達を比べるのは良くないが、美しさと言う点では彼女の方がソフィアちゃんより上だろう。
どちらかといえば可愛い系の姉と違い、彼女はこの歳で『美』と言うものを体現している。
切れ長の瞳にスッと通った細い鼻、そして卵型のとても小さな顔。
髪は姉と同じ銀色で、腰の辺りまでまっすぐ伸ばしている。
姉がトップアイドルやハリウッド女優などの生身の最上位の美人と比べられるくらい可愛いのに対し、リリアちゃんは人形とかアニメキャラといった作り物の完璧な美と比べるべき存在だ。
性格は大人しく、読書などを好んでいる。
今だに俺との距離感を測りかねているようで、気軽に会話をするような仲には至れていない。以前こちらから声を掛けた時には随分と緊張した様子で顔を強張らせていたので、俺としても無理に話しかけて距離を詰めるのは辞めている。
姉のソフィアちゃんとは良く楽しげに話しているので、会話そのものが苦手と言う訳ではないのだろう。その内親しくなれば俺にも笑いかけてくれるのではと期待しているが、2年経った今でも『一緒に住んでいる男性』程度にしか認識されてない気がする。
それでもやはり俺からすれば可愛い妹である。
☆
コンコンと部屋のドアがノックされたのは俺が学校から帰宅して少しした頃だった。
上の妹のソフィアちゃんはまだ帰って来ていなかったので、リリアちゃんが訪ねて来たのだと分かった。
食事の時くらいしか顔を合わせることのない彼女が何の用事だろうと不思議に思いながらドアを開ける。
「リリアちゃん?どうかしたのか?」
そこには予想通り、天使の様に美しい俺の妹が立っていた。
しかし、今日はどうも様子がおかしかった。その顔は不安げに伏せられ、自分から訪ねて来たにも関わらず中々要件を言おうとしない。
家族になった始めの頃ならともかく、流石に今は俺と話すだけでここまで緊張する事はない。
「取り敢えず入るか?」
何か事情があると察した俺は、ドアを開けて彼女を部屋の中に招き入れてみた。
リリアちゃんは少しだけ考える様な表情をした後「失礼します」と言って入ってくる。
普段誰かが入る事のない俺の部屋にはイスという物がない。仕方なく俺はベッドに腰掛けながらリリアちゃんを隣に座らせた。幸い特に拒否反応を示す事なく彼女は小さなお尻を布団の上に降ろす。
そこで改めて彼女の姿を見ると学校の制服姿のままだった。クラスの女子が普通に着ている制服でもリリアちゃんが着るとアイドルの衣装か何かに見える。こんな子が同じ教室にいるとか、クラスの男子達はドキドキして仕方ないだろうな。
本当なら外で着ている服のまま布団に上がって欲しくなかったが、超絶美少女のリリアちゃんならセーフだ。全く気にならない。まあ、ベッドに座らせたの俺だしな。
「それで、何か悩みがあるのか?」
優しい声を意識して話しかける。
何があったのか知らないが、せっかく俺を頼って来てくれたのだ。ズバッと解決して頼りになるお兄ちゃんだとアピールしたいところである。
リリアちゃんは「あの…その…」と何度か言い淀んだ後、意を決した様に顔を上げる。
「私…痴漢、されているんです。ずっと…」
恥ずかしいのか顔を真っ赤にしながら彼女はそう言った。
「ち、痴漢!?」
心の何処かで中学生の悩みなんて大したものじゃないだろうと高を括っていた俺は、妹の抱える予想外の大きな悩みに驚いてしまう。
「学校までの電車の中でだよな…?いつからだ?」
「…2週間くらいほぼ毎日です。朝にされる事もあれば、帰りにされる事もありました…。時間をずらしてみても簡単に見つかってしまって…」
まさか俺の妹が2週間もの間何処かのおっさんの餌食にされていたなんて…。俺は少なからずショックを受けた。毎晩食事の時に顔を合わせていたのに全く気がつかなかったのだ。その事実が、俺がリリアちゃんと如何に関わっていないかを再認識させた。
…更に、可愛い妹が犯罪に巻き込まれて悩んでいると言うのに、俺は場違いにも痴漢される彼女の姿を想像し、少し興奮していた。どうやら俺は自分が思っているより何倍もクズだったらしい。
「犯人の顔とかは分かるか?」
俺はさらに質問を重ねた。
時間をずらしても見つかると言う話から、犯人は同一人物ではないのではないかと思ったからだ。
リリアちゃん程の美少女が電車に乗っていれば痴漢をしたいと考える変態は幾らでもいるはずだ。加えて彼女は中学生の中でも小柄な方で、見るからに大人しそうだ。痴漢からすれば良い獲物なのかも知れない。
「…すみません。私、怖くて相手の顔を見た事ないんです。でも、その、触り方がいつも同じだから、多分同じ人なんだと思います」
「な、なるほどね」
『触り方』の部分でカーッと顔を赤く染めるリリアちゃん。そう言う反応をされると此方としてもなんだか気まずい。どこをどんな風に触られているのかと考えてしまう。
しかし、何となくリリアちゃんの様子を見る限り最悪の事態には至っていないと思われる。もしかしたら痴漢モノの作品に影響され過ぎているかも知れないが、電車内で挿入とか、写真を撮って脅すとかそういった事にはなっていないのだろう。でなければ、こんな恥ずかしそうに話したりせずもっと思い悩んだ顔をする筈だ。
だが、今後も大丈夫だとは言い切れない。
もう2週間も続けているのなら、相手がそろそろ次の段階に踏み出そうとする可能性だってあるだろう。それだけは何としてでも阻止しなければならない。
「よし!それなら明日俺も一緒に電車に乗ろう」
「え、でもお兄さんの学校は反対方向なんじゃ…」
「明日の1限目は先生が用事があるとかで自習なんだよ。だから2限目までに行けばなんの問題もないさ」
ま、嘘だけどな。明日の1限目は確か体育だったか。体育の山口先生は遅刻とかに厳しく、罰として校庭を走らせたりする昔ながらの教師だ。正直、目を付けられたくはない。
だが妹の安全の為なら仕方ない。明日は大人しく怒られるとしよう。
「自習…。それなら、その、お願いしてもいいですか?」
「ああ。任せとけ」
俺の言葉に安心した様子のリリアちゃんは少し表情を明るくしながら頭を下げてくる。俺は自然に、その下げられた頭に手を置き、優しく撫でてやった。一瞬驚いた様にビクッと肩を揺らした彼女だったが、何も言わずそのまま俺の手を受け入れていた。