※短いです(約2000字)
本作は某氏の作品からインスピレーションを得て、書いた次第でございます。
もっとも途中から作風が別物になっていますけども。
――鬼舞辻無惨との闘いは終結。
多くの犠牲を出しつつも、鬼殺隊が勝利を収め、世に平和が訪れた。鬼殺隊はその存在意義を消失、解散。各々は鬼とは無縁の生活に戻っていった。それからしばらくして、
「あ、禰豆子ちゃんっ、いらっしゃい」
「カナヲちゃん、お久しぶりっ! アオイさんや皆さんもっ」
人間に戻った禰豆子は大戦終結から初めて蝶屋敷を訪れた。以前は発せられなかった声も発せられるようになり、本来の彼女の姿に、カナヲたちも感涙深くなる。しかしそこで気が付く。いつも一緒にいるはずの彼がいない。
「あれ? 禰豆子さん、炭治郎さんは?」
「あ、お兄ちゃんは遅れてきます。なんでも行くとこがあるみたいで……」
苦笑いしながら答える禰豆子。本当は一緒に顔を出したほうがいいのだが、兄には兄の事情というモノがある。どこに行くかは聞いていなかったものの、行先の予想はつく。きっと兄は――
◇
――墓地
多くの者達の魂が眠るその場所に、炭治郎の姿があった。眼前の墓石に花を添え、手を合わせる。そこには彼が密に思い焦がれていた人が眠っているのだ。
「お久しぶりです、
顔を上げ、その名を呟いた。胡蝶しのぶ――鬼滅隊の強者・蟲柱の名を冠した女性であり、決戦で命を散らした女性の名前。遺体すら残らなかったしのぶ、故にこの墓の下にあるのは遺骨ではなく、代わりに入れられた彼女の遺品数点だけ。この墓下に彼女はいないものの、きっとここにいることだろう。姉と同じ墓に刻まれた名が、彼女がここに眠っていることを物語っている。
「……はは、どうしてだろ。話したいことがたくさんあったのに……」
いざ墓石を目の前にすると、どうにも言葉が紡げない。言葉が詰まる。
「……どうして――」
「――どうして、教えてくれなかったんですか……?」
すべてが終わった後、カナヲからすべてを聞いた。以前から藤の花の毒を体内に入れ、身体を毒の塊にしていたことを。鬼を討つ為、自分の命を犠牲にすることを前提とした手段を選んでいたことを。
まったく知らなかった。しのぶが姉を亡くしたことは聞いていたが、そこまでの執念を燃やしていたとは。……そうだ、彼女の復讐劇に、自分は完全に蚊帳の外だったのだ。
「っ……」
今思うと、当時の自分が滑稽に思えてくる。二人きりで出かけては、内心舞い上がっていたり。微笑む彼女から怒りの匂いがしない、心からの笑みを見て、自分が彼女にとって『特別』であると勝手に思い込んでいた自分が。
悲しみがあった。怒りがあった。苦しみがった。もし知っていたのなら、そんなことはさせまいと止めていた。自分も共に戦うと言ったはずだ。死なせなかった、死なせたくはなかった。なのにどうして話してくれなかったのか、それを問いかけても返す相手はもうこの世にはいないというのに。
(……いや、わかってる。……わかってるんだ)
立場を入れ替えて考える。自身がしのぶの立場だったとしたら、絶対に話そうとはしなかっただろう。自分の復讐に巻き込みたくなかったことと、それによって命を散らしてしまえば、己を責め続けてしまう。――どうして巻き込んでしまったのか、と。そうなってしまえば、悔やんでも悔やみきれない。
理解できる、しのぶがそう思っていたと想像できる。だが、それでも、そうだったとしても、納得できていない自分がいた。すべてはあり得たかもしれない『もしかしたら』の可能性の世界。自分が共に戦っていれば、しのぶは死ななかったかもしれない。逆に結果は変わらなかったかもしれない。
それでも――、それでも思わずにいられなかった。もし、何かが変わっていれば、今も彼女はここに、蝶屋敷にいたのではないか。
(いやだ……、嫌なんです、俺は……しのぶさんを忘れてしまうかもしれないことが)
生者が亡者に対して出来ることといえば、忘れないこと。しかし、人の記憶には限界がある。記憶とは薄れゆくものだ、ずっと覚えていると誓おうともそれが揺らぐことはない。例え覚えていたとして、時が経つにつれてほんの少し、ほんの僅かに、あるいは徐々にその色は鮮やかさを失うだろう。年老いてしまえば、脳に何が起こるかわからない。もしかしたら、彼女の声も、姿も、思い出せなくなってしまう日が来てしまうかもしれないのだ。
炭治郎にとって、彼女の存在は心に深く根付いていた。それこそ、添い遂げるなら彼女しか考えられないとさえ思うほど。告白を断られれば、諦めもつくだろう。だがしのぶの口からはっきりと拒絶の言葉を聞いていない以上は、別の女性など一切考えられない。考えたくない。考えようとは思わない。
「酷いですよ……しのぶさん。俺は……もっと貴女といたかった……」
彼女の死を知ってからというもの、目に映る世界が色を失ったかのように見えてしまう。ときどき心が虚無になる。もし命を絶てば黄泉の世界で会えるのではないか、と馬鹿な事を考えてしまう。そんなことをしのぶが望むはずがない。仮に望んでいたとしたら、すべてを打ち明けてくれていた、と思う。
両の目から滲み出す涙を袖で拭き、立ち上がる。すべては憶測だ。真相のすべてを、彼女の心情がわかるモノが残っていない以上、すべては確実ではない。
「……また、来ます」
踵を返し、その場を後にする炭治郎。彼がさきほどまでいた場所には彼女を思わせる花である藤の花が添えられていた――
――藤の花……その花言葉は「優しさ」
↓蛇足です。以下注意事項
※花詞(花言葉)の話ですが、ネットで調べただけなので合ってないかも
「これ……しのぶ姉さんが炭治郎に、って……」
「しのぶさんが……? 本?」
「うん。押し花の本」
彼女の死後、カナヲから渡されたのは押し花をまとめた一冊の本。約二十数ページしかない薄いモノではあるが、彼女から遺された品物だと思えば涙腺が緩みそうになる。
「私も見てみたけど左に押し花、右にその花の意味が書いてあるみたい」
「花詞か……」
花が意味するものとはいまいち炭治郎はわからない。そこらへんに生えている花や藤の花にも意味があるのだろうが、さっぱりだ。
本を捲ってみると、確かに左のページには押し花。右のページにはその花が意味する言葉が書いてある。この筆跡は確かにしのぶのものだ。
アイビー……………………誠実
マリーゴールド……………生命の輝き
白い朝顔……………………固い絆
鷺草(さぎそう)…………芯の強さ
山査子(さんざし)………希望
赤いカーネーション………敬愛
雛菊…………………………希望
枝垂桜(しだれざくら)…優美
向日葵………………………光輝
杜鵑草(ホトトギス)……秘めた意志
ブーゲンビリア……………情熱
紫蘭(シラン)……………熱意
トラノオ……………………信頼
南天(ナンテン)…………良い家庭
プリムラ……………………運命を開く
木香茨(モッコウバラ)…純潔
アザレア……………………儚さ
コリウス……………………健康
母子草(ハハコグサ)……温かい気持ち
四つ葉のクローバー………幸運
撫子(なでしこ)…………勇敢
黒い薔薇……………………愛嬌
胡蝶蘭………………………清純
紫色の藤の花………………優しさ
(なんかしのぶさんらしいな……)
言葉の選出に彼女らしさを感じてしまう。あの人はあの人で復讐に焦がれていたが、その実、お人好しな善心の持ち主なのだ。
「……ありがとう、カナヲ。大事にする」
「うん……」
その本はしのぶが炭治郎に向けて作成した本。そのページには思い思いの押し花が張り付けてあった。彼女が唯一自身に遺してくれたもの、彼は一生大事にすると誓うのだった――
――……炭治郎は知らない。花詞に詳しい人間がしのぶ以外にいなかった為に、わからなかったのだ。書かれている以外にも別の花詞が存在していることを
※更なる蛇足です。
綺麗な話で終わらせたい方はここから先読むことはお勧めしません。
これ以上読むと綺麗なしのぶさんではなくなります。
アイビー……………………誠実 死んでも離れない
マリーゴールド……………生命の輝き 嫉妬
白い朝顔……………………固い絆 私は貴方に絡みつく
鷺草(さぎそう)…………芯の強さ 夢でも貴方を想う
山査子(さんざし)………希望 私が愛するのは貴方だけ
赤いカーネーション………敬愛 貴方に会いたくてたまらない
雛菊…………………………希望 貴方と同じ気持ちです
枝垂桜(しだれざくら)…優美 私を忘れないで
向日葵………………………光輝 私は貴方だけを見つめる
杜鵑草(ホトトギス)……秘めた意志 私は永遠に貴方のもの
ブーゲンビリア……………情熱 貴方しか見えない
紫蘭(シラン)……………熱意 貴方を忘れない
トラノオ……………………信頼 貴方に私の心を捧げます
南天(ナンテン)…………良い家庭 私の愛は増すばかり
プリムラ……………………運命を開く 貴方なしでは生きられない
木香茨(モッコウバラ)…純潔 貴方には私が必要です
アザレア……………………儚さ 貴方に愛される幸せ
コリウス……………………健康 絶対的な愛
母子草(ハハコグサ)……温かい気持ち 貴方をいつも思っています
四つ葉のクローバー………幸運 私のものになって
撫子(なでしこ)…………勇敢 いつも私を愛して
黒い薔薇……………………愛嬌 貴方は私のもの
胡蝶蘭………………………清純 貴方を愛します
紫色の藤の花………………優しさ 決して離れない