陰鬱な話展開&炭カナ好きの方には辛いシーンがあります。
苦手な方はお気を付けください。
「んっ……」
差し込む朝日の光に栗花落カナヲは目を覚ました。微睡の中の意識が徐々に覚醒していく。
瞼を擦りながら隣を見ると恋仲となった竈門炭治郎の姿、彼の姿を目にするだけで顔が綻ぶ。視線を外すと、昨夜自分達が着ていた衣類が散らばっている。昨日の情事の跡だ。こうして見るとちょっと恥ずかしい。……そろそろ起こさなくては。流石のこの姿を第三者に見られるのは恥ずかしい。
「起きて、炭治郎」
布に包まる彼の身体を揺する。すると重い瞼を上げた彼が、先ほどのカナヲと同じく瞼を擦りつつ、目覚めた。
「あ……おはよう、カナヲ……」
「うん、おはよ」
もはや日常の一コマとなった光景。寝ぼけ眼の炭治郎に、カナヲは柔らかく微笑んだ――
――鬼舞辻無惨との闘いが終結、多くの犠牲を出しながらも勝利を収めた彼らは脅威の去った平和な日常を過ごしていた。行き場のない竈門兄妹は、現在しのぶの遺した蝶屋敷でカナヲたちと共に暮らしている。
戦いの後、カナヲは想い人の炭治郎に想いを告げた。好きだ、と。しかし彼の中には姉代わりだった胡蝶しのぶへの想いが残っていたのだ。彼としのぶは互いに想いあっていた、しかしその二人の想いはしのぶの復讐を誓う強い意志と覚悟、なにより彼女の死をもって終わりを迎えてしまったのである。
想い人を喪って、後悔と自責の念に駆られる炭治郎を励まし続け、『自分が二番目』であることを承知の上で彼と結ばれたのだ。行為の後、寝ている彼の口から姉の名が漏れるのを聞いたこともある。それを聞く度にやるせなさが胸に飛来し、切なさが込み上げてくる。例えどんなに彼を愛しても、彼に愛されても、彼の心の中には『胡蝶しのぶ』という女が亡霊の如く居座っていた。
(それでも……)
それでもいいと、許容したのは自分のはずなのに。それを心の中で許容できない自分がいる。彼の中の『胡蝶しのぶ』を思い出に出来ないのは、自分の魅力が彼女に及ばないからだ。そういった劣等感が知らず知らずのうちにカナヲを蝕む。カナヲの気持ちを読み取り、未だに彼女への思いを引きずっていることを謝る炭治郎の言葉を聞く度に、不甲斐なさを自覚させられる。
姉を敬愛する心と、いい加減彼の中から消えてほしいという嫌悪の相反する思いがぐちゃぐちゃに混ざり合う。こんなことを思いたくない。こんなままでは駄目だと思っているのに、解決策が見当たらずにいた――
◇
――その日、カナヲはしのぶの遺品を改めて整理していた。姉が充用していた服や物には、懐かしい思い出が詰まっている。どれもこれもが幸せで、悲しい記憶だった。
「ぁ――」
ふと鏡が視界に入る。大きな姿見だ。しのぶの部屋である以上、ここで彼女は鏡で身なりを整ていただろう。……そういえば彼女はどんな風にやっていたのだろうか。ちょうど手元には彼女の衣類や身に付けていたものがある。
「こう、かな……?」
何気なくだった。もう一着残されていた
髪型はどうだろう? 興の乗ったカナヲは次に髪を弄り始める。髪を解き、遺品である彼女の蝶飾りを使って髪型を整えてもう鏡を見つめた。そこには『胡蝶しのぶ』そっくりな栗花落カナヲの姿。
(しのぶ姉さんにそっくり……)
しのぶを良く知る者であればすぐにバレるだろうが、あまり面識のない者ならば騙し通せそうな恰好だ。それくらいに似ていた。そんな時――
(ぁ――)
――まるで水溜りにポツンと落ちた水滴が一つ落ちたように、心に波紋が広がった。
その波紋は徐々に円を描くように広がっていく。その波紋が行きわたったとき、彼女の心情を表すかのように、鏡の中のカナヲが薄く笑った――生前のしのぶを思わせるような笑みで。
◇
「カナヲー! カナヲー?」
――後日の朝
炭治郎は広い屋敷の中、カナヲの名を呼びながら彼女を探していた。最近元気のなかった彼女を、善逸の入れ知恵で茶屋に誘おうとしていたのだ。炭治郎自身カナヲと恋仲であるというのに、しのぶへの思いを捨てられないことを申し訳なく思っていた。例えカナヲが承知していたといても、罪悪感は離れない。
(……あの部屋かな?)
ふと少し前にある部屋の戸が僅かに開いている。その部屋は以前、しのぶの診察を受けた部屋。中からは人の気配、鼻を利かせると微かにカナヲと薬品の匂いが漂ってくる――この部屋にいるのだろうか? いや、自分とカナヲ以外は今この屋敷にいないはず。今日は偶には2人切にしてあげようと、気を利かせた皆は自分とカナヲ以外を残して出払っていた。帰ってくるのは明日の朝方だ。彼女達の気遣いを無駄にするのは憚れる。ともかくカナヲと会って出かけよう、そう思って炭治郎はその戸を開けた。
「カナヲ、ここに――?」
――瞬間、時が止まる。
「――あら」
――そこには、
「いらっしゃい、炭治郎
死んだはずの『胡蝶しのぶ』がそこにいたのだ。
(――――!?)
ドクンッと炭治郎の心臓が大きな音を発てた。『胡蝶しのぶ』の姿を認識した瞬間、一気に鼓動が速くなり、身体の熱が上昇していく。これは夢か? 彼女と再会できたという感情が湧き上がる中、冷静な自分が自身を落ち着かせるように言い聞かせる。いや、思い出せ。そんなはずはない。『胡蝶しのぶ』はもういない、死んだのだ。墓もあるし、毎日墓参りを欠かしたことは一度たりともない。
――では目の前にいる『胡蝶しのぶ』は誰だ?
「もしかして……カナ……ヲ……?」
一瞬、カナヲの姿がタブる。そうだ、目の前にいる彼女は栗花落カナヲだ。服装こそ『胡蝶しのぶ』のもの、僅かに化粧も施してあるようだが、彼女の輪郭は、顔の造形はカナヲのもの。間違いない、彼女は『胡蝶しのぶの恰好をした栗花落カナヲ』だ。
「ど、どうしたのカナヲ……、しのぶさんの恰好して……」
『胡蝶しのぶ』に一目会わせようとカナヲが気を使ったのか、と最初は思った。――だが、次の言葉はそんな微笑ましい理由ではないということを炭治郎に知らしめた。
「……
「ぇ――?」
彼女の言葉に、炭治郎は身体が固まる。いや、彼女はしのぶじゃない。カナヲだ、それは間違いではない。口調は確かに『胡蝶しのぶ』のものだが、声色は、匂いは紛れもなくカナヲのものだ。間違えようがない。
「か、カナヲ、どうしちゃったんだよっ!? しのぶさんはあの戦いのときに死んで――!」
「もう炭治郎君、嘘でもそんなこと言わないでほしいです。私だって傷つくんですよ?」
「――」
まるで自分が『胡蝶しのぶ』であるような返答に、炭治郎は酷く動揺しながら彼女に詰め寄って両肩を掴んで揺さぶる。そして言い聞かせるよう炭治郎は言った。
「カナヲっ! 本当にどうしたんだっ!? 忘れちゃったのっ!? しのぶさんは死んだんだよっ! カナヲはその瞬間を見たじゃないかっ!」
声を荒げ、説得するかのように、炭治郎は『しのぶ』の目を見つめる。瞳孔が震える彼に対し、彼女の瞳は揺るがない。そればかりか、肩を掴んでいる炭治郎の腕を優しく掴み、やんわりと離したのだ。
「……炭治郎君、嘘でも言っていい嘘と悪い嘘があるんです。冨岡さんのように嫌われてしまいますよ? それに――」
「――
「っ……! ぁ――」
彼女の口から出る言葉は、何もかもが『胡蝶しのぶ』としての言葉だった。そして彼女の中では栗花落カナヲは今、ここにはいないことになっている。旅に出たなど初耳だ。見聞を広めたいということも聞いていない。昨日だって彼女と会って会話もしていたのだ、しばらく前なんて絶対にありえないのである。じゃあカナヲは?
どうして――、とこの状況に混乱し、後ずさる炭治郎を『しのぶ』は優しく抱きしめた。
「炭治郎君、ちょっと疲れてるんですよ。大丈夫、私に任せてください。すぐに楽にしてあげますから――」
「カ、ナヲ……っ!」
自身に枝垂れかかる彼女の身体。密着されたことで伝わる女性の肉体の柔らかさ。そんな『胡蝶しのぶ』の雰囲気を纏わる『栗花落カナヲ』の姿に、例え眼前にいるのは『栗花落カナヲ』だと言い聞かせようとしても、自身の胸の内に微かに残っている『胡蝶しのぶ』への恋慕が思考能力を低下させ、かき乱す。匂いが『しのぶ』とは違うというのに、その匂いが『しのぶ』のものと誤認してしまう。
「さぁ……私に身を委ねて……」
「カナ――
死したあの人に出会えたということが、炭治郎の認識を変えていく。下弦の壱の見せた幸福な夢からも抜け出せたというのに、この夢幻のような光景からは抜け出せない。そしてそのまま、炭治郎は寝台へと連れ込まれた――
◇
「はぁっ! はぁっ、はぁっ……!」
「あっ、んぅ、はぁっ、んっ、ふぅ……!」
ギシギシと寝台が軋む。まだ昼前だというのに、炭治郎と『しのぶ』は情交に耽っていた。身に纏っていた衣をすべて脱ぎ捨て、生まれたままの姿で交わる。燃えカスような状態だった彼女への恋慕が再燃焼してしまっていた。
(凄いっ、突き込みっ……!)
『しのぶ』は、
それが今はどうだ。炭治郎は自身の感じる箇所を的確に突き、擦り上げ、子宮口を突き上げられる。ただでさえ太く長い逸物、巨根と言われるその存在が強烈な快楽を生み出す。いつものような緩やかな速度での挿入も、中々に強い快楽を得られていたが、今はそれ以上だ。
突き込みの合わせてぷるんぷるんと、胸が雄を誘うように揺れ動く。自身も相当感じている。その証拠に結合部に漏れ出る愛液が見たことのないほどに白みを帯び、泡立っていた。すでに五回は膣内に出されている精液もそれによって掻き出されていく。
いつもは一回、多くて二三回。それも休憩を挟みつつだ。それが今は抜かず、休憩を挟まずにすでに六回目。それだけで炭治郎の興奮の度合いの高さがわかる。
「んぁぁっ! はぁっ……! たんじ、ろうく――んぅ」
炭治郎が覆いかぶさり、唇を奪われる。熱い吐息と舌が艶かしく絡み合い、頭の中が情欲で染まっていく。顔の横に放り投げてた両の手に彼の手がそれぞれ重なり、指を絡ませ合って握り合う。そこまで
(しのぶ、さんっ……! しのぶさんっ……!)
炭治郎の中では今抱いている女性が『胡蝶しのぶを模倣している栗花落カナヲ』ではなく、『胡蝶しのぶ本人である』という認識に染まりきっていた。彼のしのぶへの恋慕の大きさが、そのまま腰使いにのる。自分自身の技術で気持ち良くなってほしいと彼女の反応を見ながら、彼女を孕ませたい、彼女に己の遺伝子を仕込みたいという一心で猛然と腰を打ち付けていく。
「ぷはっ……、はぁっ、はぁっ、お、俺っ……ずっとしのぶさんのコトが好きでっ……! で、でも、言えなくてっ……! 言おうとしたときにはしのぶさんは、もういなくてっ……!」
蓋をしていた本音が次々に零れていく。彼女への恋慕を自覚したのは、彼女が亡くなった後。狂おしいその恋慕は行き先を失い、伝えることなく燻っていった。そしてその思いを過去の思い出にすぐできるほど、炭治郎は大人ではない。今もなお、彼女を助けられなかったことへの後悔が巣くっていたのだ。
「大丈夫ですよ、炭治郎君。
指を解き、瞳を潤ませる彼の頬に手を添える。彼は自分が愛する『竈門炭治郎』であり、自分は彼が愛する『
「あぁぁ……しのぶさんっ……! 俺っ、俺ぇっ……! はぁっ、はぁっ……!」
「はぁっ、んぅ、はぅっ……いい、ですよ……。そのままっ……」
ぎゅぅと身体を抱きしめられ、子宮を押し上げんばかりに付き込まれる。恐らく限界が近いのだろう、より早くなる突きに、『しのぶ』は熱く身体を絡ませ、抱きしめた。
「しのぶさっ……あぁっ、しのぶさんっ……! あぁぁぁっ……! しのぶっっ!!」
ぶびゅぅぅるぅぅぅっ! どびゅびゅぅるぅぅぅうぅっ! ぶびゅびゅぅ、びゅぅぅっっ!!
「んんんっ……!!」
子宮内に再び吐き出される灼熱の白濁に、『しのぶ』も絶頂を迎えた。ドロドロのそれらが、子宮内にある卵子と結合すべく押し寄せていく。量も濃さも、今日以前よりも明らかに増しているのがはっきりとわかった。
「ぁっ……ぁ……」
「んっ……ぅ……」
身体をぶるっと微弱な痙攣をさせながら、絶頂の余韻に浸る。ぼふっと『しのぶ』の顔の真横に顔を埋める炭治郎は、汗を滲ませ熱い息を漏らす。まだ情交は続くのだろう。絶頂の波が収まれば再び再開される。その証拠に膣内にある逸物は未だに硬さを保っているのだ――
「あっ! あぁっ! んはぁっ、あぅ、んふぁっ……!」
――まだ二人だけの時間は終わらない。
朝から始まったソレはもう夜を迎えていた。収まりの見えない獣欲と恋慕の炎に焼かれ、延焼し続ける二人。両手と両膝を寝台に付き、背後から逸物を突き込まれ、『しのぶ』は嬌声を上げる。尻肉が波打つほどの強い突きに、身体が吹き飛ばされては細い腰を掴む炭治郎の手によって引き戻されるの繰り返し。
『しのぶ』のなだらかな背と臀部に、炭治郎は興奮を冷ますことなく腰と打ち付ける。一向に引かぬ情欲と性欲、恋慕を一心不乱に彼女へぶつけていく。嬌声を上げる彼女の声と自身を締め付けて射精を促す媚肉に、生殖本能が強烈に刺激されて超高速で精子が製造される。
髪飾りも外れ、もう『胡蝶しのぶ』としての要素はないというのに、口調と雰囲気などの僅かなところで、炭治郎は今抱いているのは『胡蝶しのぶ』だと思い込まされていた。
「激しっ……! 炭治郎く――、んぁ、あぁぁっ、んふぅぁっ……!」
腋下を炭治郎の両手が通り、羽交い絞めするように身体を起こされる。汗塗れな二つの身体が密着すると、片手は乳房へ向かい、もう片方は自身の後頭部へと周り、炭治郎の方へ振り向かされて唇を奪われた。濃厚な接吻に口周りはあっという間にベトベトになっていく。
胸は激しく揉みしだかれては、乳首を爪で引っ掻かれ、指で摘ままれ、ビリビリと快楽の電流が迸る。その愛撫の激しさに、自身を気持ちよくさせようという彼の感情が伝わってくるようだ。昨日までのソレよりも強いその思いが。
どびゅびゅびゅぅぅぅっっっ!!! ぶびゅびゅっ! びゅぅぅぅっっっ!!!
「んんぅぅっ……!」
自身の絶頂に合わせるように、膣内の肉棒が爆ぜた。衰えを知らぬ射精に身体が痙攣し、子宮内が彼の子種汁で満たされていく。
「っ――はぁぁっ……!」
口を解放され、二人してそのまま寝台にうつ伏せに倒れ込む。熱い息が二人の口から漏れる。汗塗れな彼の身体に押しつぶされるこの感覚が心地よい。もう身体は限界だ、それは彼も同じようでようやく膣内の逸物が衰え始めた。
ここまで情熱的に求められ、ここまで彼が自身の身体を気遣いながらも欲望を吐き出したのは始めてだ。しかし満たされる子宮とは裏腹に、心が伽藍洞になっていく。だってそれはつまり――
(あぁ――)
『しのぶ』の目から涙が零れる。それは快楽故か、はたまた別のナニカか。そんなことは、もう彼女にはわからなかった――
◇
――翌日、帰って来たアオイや禰豆子たちは彼女の姿を見て驚愕した。
それもそのはずだ。今、自分達の目の前には死んだはずの人間がいるのだから。驚く彼女達に、炭治郎は事情を説明。アオイはカナヲに目を覚ますように説得するも、彼女はあくまで『胡蝶しのぶ』として振る舞い、断固としてそれを認めなかった。
ひとまず炭治郎達は話し合いの末、一旦様子を見ることにした。自分ではない誰かの模倣をするのは想像以上に疲労を蓄積するはず。その内、カナヲも自身が『胡蝶しのぶ』ではないことを改めて知るだろう。それまでは自分達も彼女を『栗花落カナヲ』としてではなく、『胡蝶しのぶ』として接しようと判断した。――が
「あぁ――ごめんなさい、炭治郎君。最近調子が悪いのか、調合が上手くいかなくて……」
――一向に戻る気配はなかった。調子が悪く、薬品の調合が出来ないのも当然だ。彼女は『胡蝶しのぶ』ではなく、あくまで『栗花落カナヲ』。彼女が振る舞う『胡蝶しのぶ』はカナヲの記憶の中の彼女を模倣しているだけ。『胡蝶しのぶ』としての姿は模倣出来ても、知識までは模倣できない。
技も同様だ。しのぶの技は花の呼吸から派生した蟲の呼吸。無論カナヲは蟲の呼吸の技を使うことはできない。それを『調子が悪い』と苦笑いで誤魔化す彼女の姿が酷く痛々しく映った。
――しかし、それも最初の内だけ。
日が経つにつれ、炭治郎やアオイたちが恐れていたことが現実味を帯びてきて、嫌な汗を流すようになっていた。
『栗花落カナヲ』が『胡蝶しのぶ』として振る舞うようになって一月も経つ頃、彼女は少しづつ調合を行えるようになってきたのだ。それだけではなく、蟲の呼吸の技も一つずつではあるが、ゆっくりと確実に身に付け始めている。そして三か月も経つ頃には、『胡蝶しのぶ』が使っていた技をすべて会得し、調合も同様にこなせるようになっていた。
徐々に『胡蝶しのぶ』に近づいていくその様に、炭治郎やアオイは焦り始める。これ以上は取返しのつかないことになると判断した彼らは、知り合いにも協力を仰いで説得を試みるも、返ってくる答えはあの時からまったく変わらなかった。
皆が諦めていく中、炭治郎だけは諦めずに毎日説得し続けた。しかし彼女と身体を重ねる度に、その意識も徐々に刈り取られていく。やがて炭治郎も説得を止めてしまった――
(俺が、悪いんだ……。俺がしのぶさんの事を引きずっていたから……)
炭治郎は己を責め続けた。しのぶへの恋慕を絶ちきれず、カナヲを思うという判断をした己の思慮の浅さを。あの時、カナヲを受け入れるべきではなかったと。だがその罪悪感も、彼女と交わっている間はすべて溶かされ、湧き上がるのは情事を終えた朝。これは彼女を受け入れてしまった己への罰だ、と徐々に受け入れるようになっていった。
――やがて『胡蝶しのぶ』は竈門炭治郎の子を身籠り、元気な女の子を出産した。
「この子には、
「……」
我が子をあやす『しのぶ』の姿に、炭治郎達は素直に喜ぶことが出来なかった。今もカナヲの部屋は定期的に清掃されているものの、彼女の持ち物は何一つ使われることはない。未だに『栗花落カナヲ』は旅に出たまま戻っていないことになっている。
「もうっ、あの子もいい加減戻ってきてくれてもいいのに……。何処で何をしているのやら……」
そう呟く『しのぶ』に、炭治郎は拳を握りしめ、唇を噛む。『栗花落カナヲ』は今ここにいる。今赤子を抱いている君こそが『栗花落カナヲ』なのだと。そう言いたかった、いや言ったところで彼女は聞き入れはしない。
「ほら、炭治郎君もカナヲを抱いてあげて?」
「……」
「あ、ごめんなさい。炭治郎、でしたね。ダメですね……まだ呼び方慣れなくて……」
前までは『炭治郎』と呼んでいたのに。それすらも忘れてしまったのだろうか。ニコリと笑って差し出された赤子を、炭治郎は優しく抱きかかえる。きゃっきゃっと笑う自分の娘に、涙腺が緩むのがわかった。
「うん……元気な子だよ。きっと……カナヲみたいな子になる……」
「……ごめ"ん"っ……ごんなはずじゃ、ながったっ……! 俺が、もっどっ、しっかり"してれ"ばっ……!」
「ふふ……、炭治郎くんったら。この子が生まれてから涙脆くなっちゃいましたね」
腕の中で無邪気に笑うカナヲに、炭治郎は嗚咽を漏らし、涙を流す。『栗花落カナヲ』を殺したのは自分なのだ。もう彼女は未来永劫自分達の下へは戻ってこない。妻と娘が笑う中、ただただ彼は泣き続けた――
実はラスト、顔も声も完全に変わってしまうホラー展開もありましたが、
流石にやりすぎだと思って断念しました。