ありふれた職業で世界最強~出会いと帰還への道のり~ 作:リュウコウ
語りは、ティオの目線と桜と鈴と優花の目線で書きます。
~~~
桜と鈴と優花がやってくる少し前。
それは、身の内で燃え盛る憎悪と憤怒の炎。
500年以上前、歴史上から
『無力な者を、あれほど
同時に、炎の津波がティオを
「そうじゃな。国も種族も、理由も関係なく、
淡々と言葉を返しながら、ティオは腕を一振りした。
着物の袖を優雅に
巨大な炎の竜巻が虚像を逆襲した。
『あの時代、我等に救われたことのない者がどれほどおった。我等の揚げた道徳と善意に!
炎の竜巻が
「最強にして、最高の国と
黒の光が試練の間に輝いた。一瞬にして
歴然とした力の差が、そこにはあった。
勢いづいた虚像が叫ぶ。
『楽園であったはずじゃ!弱き者も強き者も!種族も
簡単な道のりではなかった。
夢でも見ているのかと、まるで
だが、
強く、温かく、揺るがず。
そう、
ーーー世界の守護者
ーーー平和の
ーーー真の王族
であると。
「そうじゃな」
どこか寂しそうに、ティオの口からぽつりと
壁に叩き付けられる寸前、再びティオを黒の光が包み込んだ。
だが、白竜と壁の間に押し潰されたティオの姿はなかった。代わりに、
「ーーー〝
ティオは、壁に叩き付けられる寸前で、〝
強烈なカウンターを食らった白竜の虚像は、しかし、
純白の閃光は、驚いたことに昇華魔法を使ったティオのそれより強力だった。空気そのものを
それが、あっさりとティオを呑み込んだ。
あまりの熱量に氷の地面が一瞬で融解し、巨大な穴ができる。そこには人がいた痕跡など1つもなく、全て消し飛んでしまったかのようだった。
虚像が〝竜化〟を解いて着地した。そして、何事もなかったように言葉を続けた。
『その全てを、神は、人々は、
虚像の視線が横を向いた。
そこには、ティオがいた。先程の虚像のブレスに呑まれたのは、熱を利用した幻影だったのだ。ブレスで白竜の虚像を吹き飛ばした際、一瞬視線が切れた瞬間に行使したのである。その技の
とはいえ、技がなくては力負けしているのは事実で。
ティオと虚像、両者から同時にブレスが放たれた。互いに片手を突き出し、対極にある2色の閃光でしのぎを削り合う。
試練の間が、黒と白の美しいコントラストで
と、そこで、不意に気配が3つ、試練の間に増えた。見ずとも分かる。
それを、虚像が一瞬だけ確認した。
途端、にやりと嫌らしい笑みを浮かべる。飛び入りの立会人に、己の醜さを披露してやろうという意思が透けて見える。知られたくない部分を他者に知らせることで、更に追いつめようというのだろう。
『
それが
桜と鈴と優花が「え?ま、気づいていたけど?それが何か」という反応を見せる3人に、ティオはおろか虚像もその反応に驚いていた。
虚像はますます笑みを深め、あの日の悲劇を紡いでいる。
『.........』
「お主たち、
「ティオが過去を話さないのは、何かあるとは思っていたよ♪」
「それが、守護者として、守ってきた人々たちが、神に唆され、その裏切りにあっていたことまでは、知らなかったけれど」
「だからって、私たちとティオの関係には、関係ないこと。魔物ってのも、関係ないの」
『.........』
「.........」
「「「私たちが、仲間.....いや、一緒に同じ人を好きになったの」」」
「お主たち♪」
『でも、その凶暴性はいつ暴走してもおかしくない。世界の守護者としての顔の裏には、目的のため
「「「そんなのは、
『.........』
「あ....あはははははっ」
私たち3人の返答に、
確かに、人の身でありながら完全に獣の姿へ
けれど、だからこそ、
にもかかわらず、
『その目的とは、神に
その一言。
それだけで、人々の認識は裏返った。まるで悪夢のように、あっさりと。
そして、国が焼かれた。
父ハルガも、母オルナも、
今まで
黒の閃光が、また
『ふふふ、感じるのじゃ。
「.......」
やたらと
桜と鈴と優花が、代わりにというかのように悲痛な表情になる。ティオの過去を3人は知らない。
3人の知らないティオ。そこにはもう1つ〝
『のぅ、
夜一を助ける大義名分があってよかった。虐殺の理由が〝
面倒なく、確実に滅ぼせた。実によかった。都合が、よかった。
その打算的でどろりとした復讐心を聞いて、案の定、桜と鈴と優花も目を見開いて固まった。ティオが否定することを期待するが、反論はなし。その無言は、まるで虚像の言葉を肯定しているようだった。
ティオのブレスが一瞬揺らぎ、いよいよ危険域まで虚像のブレスに呑まれたことも、それを示しているようで。
気を良くしたのか、虚像の舌はますます
『最初に、
夜一の力は異常。そして、その力は必ず神の目に留まる。あの大迫害の黒幕に。
『神が牙を
普段の、夜一に好意を寄せる姿からは想像もできない内心だ。
しかし、虚像が語る言葉は、決して
だからこそ、
ティオが私たち3人の反応に対して僅かに視線を向け、先程まで感情のなかった、その
『人間、亜人、魔人、そして神。あの時、大切なものを奪い去った全てが憎い』
500年以上経っても、消えることのない心の
そこへ、更なる燃料を投げ込むべく、虚像が声を張り上げる。
『その憎しみは、怒りは、
ティオの中に、確かな共感があった。
もう1人の自分の言葉を肯定する感情があった。
同時に、復讐を否定する感情もあった。常に他者を
その感情の
『
桜と鈴と優花の3人は、
守護者ともあろうものが、異世界からの人間に、見守られているなんて、なんという
『それとも、試しに
虚像が放った言葉を聞いて、
それは、誘惑だ。ティオさんの
しかし、もし、この
純白のブレスはますます勢いを増し、もはや黒のブレスはティオさんの心を示すように追いやられて
その光景は、そのままティオの心を示しているようだった。
「ティオさん!聞いちゃダメだよ!」
「いつものティオさんに戻ってよ!」
「ティオさんは、あんな虚像を打ち負かし、下僕にしてやりなよっ!」
危機感と焦燥感と満ちた怒声と相手を屈服させろという応援の声。桜と鈴と優花が、必死の
その場合、事の目撃者である桜と鈴と優花を、ティオはどうするのか。
だが、今、桜と鈴と優花は自分達の危機なんてものを
それとも、虚像をも
さりげなく自分達を見ていてくれて、必要な時に背中を押してくれる、頼れるお姉さんのような存在であるティオの
あんな無表情のティオより、夜一にまとわりついて、お仕置きされて、
そうして、いざ飛びだそうとしたその瞬間、桜と鈴と優花は気が付いた。
ティオさんの視線が、いつの間にか自分達へ向いていることに。その目は優しげに細められていて、口元は僅かに
言葉はなくとも伝わった。心配無用。相手を屈服させると。そこで大人しくしておれ、と。
直後、それが間違いでなかったと証明するように、視線を戻したティオさんが口を
「
静かな
「この身は獣か、あるいは人か。世界の全てに意味あるものとするならば、その答えは
『その言葉は........』
虚像が目を見開いた。同時に、自分の放つブレスの侵攻がピタリと止まっていることに気が付いて動揺を見せる。
「答えなく
『っ、力が..........馬鹿な。いったい何がきっかけでーーー』
一瞬、
その僅かな間にも、黒の閃光が純白の輝きを染め返していく。容赦なく、あまりに
理解できなかった。確かに、心の隙があったのだ。負の感情に屈しようとしていたのだ。実際に虚像は強化されていたのだ。
なのに、なぜ!と、虚像が混乱する中、ブレスの
「
獣の瞳なれど、それは誰かを恐怖に
それは知性の象徴。人々を
「
いかなる敵も打ち砕いてみせよう。守るべき者がそこにいるのなら。
竜の爪は、ただ悪意を
「
強大で、人とはかけ離れた姿であるからこそ厳しく己を
揺らいだならば、
憎悪、憤怒に心を許し、理性を失うことなど
「
ただ感情のまま力を振りまき、
「されど、理性の
静かなる
そうして、
「
ティオ・クラルスとは何者か。その答えが、誇りと共に宣言された。
同時に
単なる魔力の放出ではない。
それは、人が
言うなれば、
『........まさか、
息を
きっかけもなく、まるで
ーーーティオは、
虚像は、ティオさんの感情を読み取れていたのではない。
大迷宮の試練すら
「大迷宮の意思よ。感謝するのじゃ。
『試練そのものを利用したのかえ........自分が神の誘惑に
「もちろん、
(な......なぁんだ。最初から、ティオさんの
(本当に心配したよね)
(は.....迫真の、演技だったからね)
(((ふぅー)))
その言葉に、虚像はあり得ないと頭を振る。知らず1歩
『.
.....じゃが、
虚像の言葉に、ティオさんは目を細めた。黒い着物の
きっとこの場に夜一がいたなら、
「
ーーーお前の中に生まれた黒い炎と生まれた時から持つクラルスの
ーーーよく生きよ
かつて、父ハルガ・クラルスは、そう言った。
ティオに
その通りに生きてきた。負の感情も、醜い感情も、そして良心と矜持も、全て胸に抱き締めて、何1つ切り捨てることなく。
託されたもの、受け継いだもの、その全てがここにある。決して砕けぬ絶対の核がある。
故に、胸を張って宣言するのだ。
「誇り高き
だから、折れはしない。心を黒き炎だけに染めはしない。
ただ、それだけのこと。
虚像に言葉はなかった。その表情には、どこか納得したような、参ったと言いたげな、そんな
そんなもう1人の自分へ、ティオは
「
直後、ティオのブレスががドクンッと
白い髪を垂らし、先ほどまでの
「
『...............』
「なら、
その言葉に、
「どうじゃ、この提案は?イイと思うのじゃが?」
『あなたは、本気でそのようなことを?』
「本気じゃが、おかしいかの?」
『おかしいでしょう。今の今まで、
「だったら、未練を残して、死ぬのかの?」
『...........いやじゃ』
「?、ハッキリせんかの」
『未練を残して、死ぬのは、.......いやじゃ!
「なら、
『わたしとあなたが、1つになれば』
「『最強じゃ』」
お互いが、手を握ったら、
先ほどの状態は、〝
「3人共、すまんかったな。予定通りだったとはいえ、随分と心配させてしもうた。だが、あの声援は嬉しかったぞ。感謝するのじゃ」
「あ、いえ、そんな.......うへへへへっ」
「ティオさんの、力になれたのならよかったです」
「私は、ティオさんが
「それでよいよい。桜、
不審者ばりに挙動不審な桜と鈴と優花に、ティオさんはきょとんと首を
そんな
そんな3人の様子を疑問に思いつつも、ティオさんは桜達が通ってきた背後の通路を見る。
「ふむ。試練の間は
「そうだね。他の人は見ていないよ」
桜の言葉に、「そうか」と
なんだかやたらと切なそうな
3人は、夜一がティオさんが付いてくると言った時、断らなかったのは、たまに見せる色気に気づいていたのだろう。
だが、そこは
「ご主人様がおればなぁ。打算的な考えを見抜かれていたかもしれないけれど、そんな
「「「残念なのは、あなたですけどね」」」
思わず、
やっぱり変態なティオさんを見て安心したとは、なんだか負けた気がするので口にはしないのだった。
それがら。
今度は4人、ティオさんを先頭に鈴と優花、
「いやぁ~、すまんの。シリアスが続いた反動で、ちょぉ~っと
「「「.........ちょっと?」」」
桜と鈴と優花の息がぴったりだ。ジト目までそっくりである。
だいたい反動というなら、3人も同じだ。普段見ないティオさんの
「
「素直に称賛できないよねっ、鈴!私もよ♪」
「みんな。それでも、ありがとう、ティオさん。こんな変態にした
「どういたしましてじゃ。が
ティオさんに、
「その件につきましては、
「よいよい♪
4人が近づくことで溶けるように消えた
「むぅいいいいいっ、ユエのおたんこにゃすぅううう!!」
「........うるひゃいっ。このむっちゅりしゅけべぇ!」
「ああもぉ!お2人共いい加減にやめてくださいよぉ~~~っ」
「何してんの........」
「また、夜一の取り合いね♪」
「ほんとに........。桜が1番なのにね♪」
「いつもの。
ティオさんは
私たちが和んでいると、3ヶ所の通路が開通してユナとソーナとアルテナが一緒に現れ、その後に、リリアーナとアイリスとミュウとレミアが、そして、最後に
これで、合流できていないのは、
それぞれが、どのようにして、攻略できたかを話す。
~~~
彼は、この
ごくごく一般的な家庭に生まれた彼には、今でも心から尊敬し憧れる人物がいる。
その人物とは、光輝の祖父だ。
名を
長期の休暇となれば家族揃って祖父の家に遊びに行くのが恒例行事で、完治の妻ーーー祖母が早くに他界したこともあり、一人暮らしだった祖父は孫である光輝を大層可愛がった。
そんな祖父を光輝もよく慕っており、
中でも光輝が1番好きだったのは完治の経験談だった。
長年の弁護士としての仕事で得た経験を、絵本を読んでもらうが
幼い光輝にも分かりやすいように、また現実的なことを言えば守秘義務から、相当アレンジの入った話ではあったが、それでも弁が立つ祖父の話は人間ドラマに満ちていて、光輝は幾度も心躍らせた。
弱きを助け、強きを
完治の〝お話〟は結局のところ、そういう教えを含んだものだ。現実に
そんなわけであるから、光輝にとっては完治こそがヒーローだった。
〝いつか自分も祖父のように〟と。
自分の正義を信じるあまり、
『なぁ、
「やぁ、
『そうだね、解放してやらないと。じゃあ、この俺からプレゼントをやろう』
「天之河。なぜ、お前がここに.......」
聞こえたのは、聞き慣れた、けれど、今は憎き声。
そして目に飛び込んできたのは、最も見たくなかった光景。
そこには、夜一がいた。雫を背負っていた。
視線が引き寄せられる。焼き印でもされたみたいに脳裏に刻まれる。
雫の表情が、夜一の肩に頬を預け、心から安心しきった表情で眠るーーーーー幸せそうな表情が。
視線の先には、見知った顔。けれど、見たことがない顔。
(正気じゃねぇ。まぁ、中村の誘いに乗って、魔族側に付いたから、元から正気じゃなかったんだろう)
凶相もいっそう増している。
危険と判断し、夜一は大きく飛び退く形で回避を行った。
直後、今の今まで夜一がいた場所を轟音と
虚像と1つになった光輝が、ニヤニヤと
夜一は光輝へ
「.........で?なんのつもりだ、
地面に埋もれた魔剣を握り締めながら、光輝は小さな声で何かを呟いた。
「.......れが、.......するんだ。........達を」
「あ?聞こえねぇよ。取り敢えず攻撃をやめて、冷静に」
「何を言っているんだ
「.........馬鹿なこと言うなよ!桜達は、自分で決めて俺に付いてきてくれている。
案の定、俺の言葉は届かず、光輝から殺意と漆黒の魔力が噴き上がる。
「.........あぁ、終わらせるよ。お前なんかに一々言われなくても、全て終わらせてやるさっ」
カッと見開かれた光輝の目。ひりつくような殺意とヘドロのような憎悪を放ちながら、光輝は突進した。魔剣に闇の
「チッ。完全に魔族側に
「黙れ!お前が消えれば全て元に戻るんだっ!さっさと消えろぉおおおおっ!!」
「ーーー〝
「うおっとっと」
最小限の動きで、襲い来る闇の斬撃をすり抜ける。
「落ち着け、天之河。
今の天之河にまともな会話ができるのだろうか。
「
「おいおい、束縛男は嫌われるぞ♪天之河」
夜一の言葉に激昂し、更に苛烈な攻撃の嵐を乱れ飛ばす。
そこでようやく、眠り姫が目を覚まし始めた。疲労の極致にあったとはいえ、少々気が抜けすぎというか、そんなに俺の背中が心地よかったのか。
「ん、んむぅ、な~にぃ?もう少し寝かせて........」
「この状況でよく寝ぼけられる。今すぐ起きないとキスするぞ」」
俺のキスの言葉に反応をして、
「早く起きろ!今、大変なんだ」
「わ......私は、
「........。天之河を
「なら、起きる♪」
「
俺の言葉に、周りを見渡す。
「ど.........どういう状況。何で天之河くんと夜一が戦っているの?」
信じられないといった眼差しが注がれる。
自分達を攻撃しているーーー天之河に。
無理もないだろ。明らかに殺傷性の高い攻撃を放った相手が
「どうやら魔族側に行くと決めたときから、
「そんな..........」
夜一の視線の先には裏光輝と一体となった表光輝がいる。
「天之河くん!ダメよ!私の
「雫。
「えっ?なんで、私が好きでもない人の名前を呼ばないといけないのよ!」
「なぜだ!」
「なぜって、
「
絶句してしまった雫から視線を転じ、今度は夜一を見る天之河。
「.......鳴神、元クラスメイトでも俺の幼馴染を傷付けてただで済むと思うな。お前を倒して、
仕舞いには、
もはや言葉もない。
あまりに意味不明な天之河の主張に絶句していた雫は、露呈した天之河の内心に苛立ち、言葉を荒らげる。
「天之河くん。勝手に決めつけないでくれる!私は私の意思で夜一の元へ、香織と一緒に行ったのよ♪」
「雫.......、そこまで、洗脳されているんだね。待っててくれ。鳴神を倒して解放するから」
「だ・か・ら、洗脳なんてされていな........。これは、何を言っても、聞く耳を持たないね。夜一、あなたの手で、天之河に引導を渡して」
ご都合解釈ここに極まり。
「覚悟しろ。これ以上、お前の好き勝手にはさせない。雫も香織も、桜達も、みんな解放してもらう!」
その言葉と同時に、手首を返して横薙ぎへ。
しかし、やはりというべきか。夜一はあっさりと受け止めた。
それも、今度はドンナーの銃口というピンポイントで。
「なっ!?」
「馬鹿に馬鹿と罵るほど無意味なことはない。だが、これだけはいわせてもらおうか。ーーーてめぇ、誰の許可を得て俺の
「ッ!?」
刹那、
至近距離から、化け物の本気の威圧を叩きつけられて天之河の体が意図せず硬直する。
電磁加速された弾丸が、銃口に陣取る魔剣を、まるで小石を蹴りとばすような容易さで弾き飛ばした。手首から先が吹き飛んだと錯覚するような凄まじい衝撃に耐え切れず、天之河の手からすっぽ抜けた魔剣がくるくると
そして、片手だけ強制万歳させられた天之河に、
「ガハッ!?」
およそ人体が奏でたとは思えない肉体の
遠心力がたっぷりと乗せられたそれは、よほどの威力だったのだろう。天之河はまるで、大型トラックにでも衝突されたような猛烈な勢いで吹き飛んでいく。
だがその無意識レベルの耐ショック姿勢のおかげか、氷壁を放射状に粉砕する勢いで背中から激突したにもかかわらず、天之河は辛うじて気絶を免れた。
とはいえ、大ダメージに違いはなく、地面に滑り落ち
天之河のように〝限界突破〟を発動せず、武器すら使っていないただの蹴りで、漆黒に染まった国宝級アーティファクトの鎧を着た天之河の内臓にダメージを与える.........
その事実に天之河は苦々しく思い歯噛みした。
だが同然、悠長に悔しがる暇など夜一がが与えはしない。
連続した破裂音が木霊した。
だがしかし、それも通用せず。
回避方向すら読まれていたようで、着地した瞬間に3発目の弾丸により肩に風穴を開けられた。
頭の中をヤスリで撫でられたよえな激痛に襲われる中、しかし、天之河は別の事態に
(弾速がっ、違うーーー)
そう、最初に回避した2発と、肩を撃ち抜いた3発目の弾速が明らかに桁違いだったのだ。その理由は簡単。3発目以外は、ただ魔力を纏わせてレールガンに見せただけの
そして、通常弾にした理由は、
「ぐぁっ!?」
「ぐっ、っ........来いっ、魔剣!!」
地面をゴロゴロと転がり、肩と足から血を流しながら倒れ込んだ天之河は、少し離れた場所に落ちていた魔剣に手を伸ばした。
天之河の求めに応えて、魔剣が真っ直ぐに飛んでくる。
実に見え透いた軌道だった。故に、天之河の手元に納まることなく、寸前で夜一に踏みつけられてしまった。
忠誠か、機能か。魔剣が
「無様なもんだ。なぜ付加機能を使わない。もう少しマシな戦いができるだろうに」
呆れも、
それが逆に、天之河の神経を逆撫でし、憎悪の炎を膨れ上がらせる。夜一を睨む瞳には、もはや召喚される前の天之河の面影は皆無。その表情は、裏光輝と表光輝が合わさり、殺人を狂おしいほどに求め欲に堕ちていた。
そんな天之河の額に、ドンナーが突き付けられた。
夜一もまた、常人ならそれだけで心臓を止めてしまいそうな殺意を纏っている。
誰が見ても、〝チェックメイト〟という状況。後は指先ひとつ。
だからこそ、
「夜一!闇に堕ちた天之河に引導を!」
『さぁ、
「そうだなっ、やっと
裏と表が、今、ひとつになり、光を吸収し、闇が強く
「どれだけ待たせるんだ」
「いや、すまない。少々時間を取らせてしまった」
「裏と表がひとつになっても、お前は俺には勝てない」
「好きに
天之河が魔剣を構えたーーー刹那、その姿がぶれた。
「はぁっ!!」
気合の声が聞こえたのは夜一の背後。一瞬で回り込んだのだ。
夜一は振り向いてすらいない。
(
喜びと共に、天之河は確信したーーーその瞬間、聞き慣れた
同時に、魔剣が弾かれ、ガラ空きとなった天之河の腹に衝撃が走る。
ヘヴィ級のボクサーが繰り出す本気のボディーブローを食らったかのような衝撃に、天之河は息を詰まらせた。
弾かれるように後方へ飛ばされつつも、どうにか空中で姿勢を整え着地する。
(反応、できてなかったっ、はずだっ)
腹の奥に響くような鈍痛を
その答えは目の前にあった。ドンナーの銃口が逆さの状態で後方に、天之河に向いている。そう、夜一は手首の返しだけで天之河を狙い撃ったのだ。
反応できなかったのではない。
振り返る必要もなかった。
「ふざけるなっ」
激情が沸き上がる。屈辱で気が狂いそう。その全てを殺意に転換して、再び魔剣を振り下ろす。
「〝
憎悪と殺気を纏わせる。広範囲に拡散しながら敵を狙う幾百の
だが、そんな幾百の斬撃の嵐を、夜一はゆらりゆらりと木の葉が風にそよぐように揺れながらかわし、かわしきれないものは打ち払い、あるいは逸らしていく。
見えざるとも魔法である限り、夜一の
そこに
余裕があれば当然、反撃とて可能。回避行動と完全に連動した銃技は、呼吸にも等しい自然さを
一見無造作に放たれた弾丸は、風刃の隙間を冗談のようにすり抜けながら天之河の足下に突き刺さった。外したわけではないことは、刹那の事象が証明する。
「うわぁ!?」
紅い衝撃波が
気が付けば、目の前に夜一が。同時に、ヤクザキックの再来。
ゴッと背筋が震えるような音と共に、天之河の体がサッカーボールの如く蹴り飛ばされた。
「くそっーーー!?」
悪態を吐く暇もない。空中に投げ出された天之河には、既にドンナー&は&シュラークの
「ぐはっ!?」
その閃光に、貫かれたのは、天之河の両肩だった。
両肩を貫いた直後、ドンナー&シュラーク放たれた弾丸は、それぞれ3発ずつ。
子供が操るマリオネットのように、ガクンガクンと体を揺らしながら放物線を描く。1発目が直撃した後の体勢まで計算に入れた精密射撃が、次々に天之河を仕留めていく。
一拍。
両肩をだらりと落とし、両足をガクガクしながら、魔剣を支えに、立ち上がる。
「俺を殺すつもりか?クラスメイトを」
両腕も撃ち抜かれているので、魔剣を支えに、立ち上がっても、直ぐに、倒れる。
「本当は、こんな風になぶりながら、
「っ、ふざけるなっ!い......命......を、ギリギリ保って.....いる状......態だ。殺すなら.......跡形もなく、葬ってくれ」
天之河は、これ程の力の差を見せつけられて、悟ったのだろう。逆立ちしても、敵わないということに。
「わかった、雫!後ろを向いて、目を瞑っていてくれ」
雫は、俺の言うとおり、後ろを向き、しゃがんで目を瞑り、耳を塞いでくれた。
「ありがとう、
「それには、俺も同意だ!」
俺は、シュラークを取り出し、天之河に照準を合わせ、発射。
放たれた紅い閃光の跡には、天之河の姿はなく、硝煙だけが。