ハーレム王で世界最強 作:焼き鳥肉
快斗の目の前にある巨大な壁画。
メインに描かれているのは長い金髪を靡かせた中性的な人物。背景は草原、湖、山々と自然にあふれ、それを包み込むように、金髪の人物が両手を上げていた。非常に出来栄えが良いが、快斗は何故かこの絵に対して異様な感覚を覚えていた。
その感覚を我慢しながら、快斗はなおも観察を続ける。
快斗たち丁度いる場所は、まるで大理石で出来ているかのような美しさを持っていた。
そして何よりここは、大きな部屋の台座の部分のような場所である。
そんな中、一番の問題点は、快斗達を囲むように三十人近い人間が祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前に組んでいる事であった。
どう考えても嫌な予感しかしない、と快斗は顔を歪ませた。
ライトノベルで言えば、テンプレートと言わざるを得ないこの状況。
そしてその先の未来を考えると、少し頭が痛くなる快斗。
思わずため息をつく快斗だが、二人に心配されて大丈夫と返す。
しかし、快斗とてライトノベルを読まない訳ではない。
最近であれば、ネット小説も多いわけで時々読んでいる。
故に既に大方積んでいるこの状況を考えれば、今集団から出てきた老人が何を言うかなんて分かりきっている。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
快斗の予想の通り、老人は自分達の事を勇者と呼んでいる。
しかしながら考えていた部分とは多少の誤差はあった。
例えば「勇者様、そしてご同胞の皆様」という部分、この言葉を聞く通りだと勇者は快斗達の中の一人であり、他は勇者ではないと言うこと。快斗自身、その可能性と俺達全員が勇者である可能性、両方を考えていた。しかし後者の方が、デメリットが増える変わりに与えられる恩恵も増えるだろうと考えて、快斗はそちらを期待したのだが、意味のない事だった。
しかし、それは大した些事ではないだろうと切り替える。
その後、イシュタルと名乗った老人は快斗達を連れて、いくつものテーブルと椅子がある別の広間に案内した。尚、生徒たちが騒がなかったのは天之河光輝が落ち着かせたからである。
座った快斗達全員に飲み物が行き渡るのを確認した後、イシュタルは話し始めた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう言って始めたイシュタルの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい勝手なものだった。
簡単に言えば。
この世界はトータスと呼ばれている事。
主に人間族、魔人族、亜人族という三種族が生きている事。
その中で人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているという事。
そしてその内の二種類、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けており、
長年拮抗したこの戦いだが今は魔人族が優勢であった。
その理由は、魔人族による魔物の使役というものだ。
魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことと言われており、この世界の人間も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかったが、今やその常識が覆され、窮地に追い込まれているという事だった。
「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
イシュタルはどこか恍惚こうこつとした表情、つまり気持ち悪い顔をしていた。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろうと、快斗は容易に考えついた。
イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位についているとの事。物凄い宗教世界だな、と快斗が少し引いていると突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
彼女の名は畑山愛子。
社会科の教師であり、今年で二十五歳だ。
しかし愛子は童顔低身長。
つまるところ、本人としては本気でやっているんだろうけど、威厳は無いので、客観的に見ると少し可愛く見えてしまうだけであった。
そして、現実は無常だ。
召喚したからと言って帰還出来る訳でもないというのが、この手のお決まりなのだと快斗は知っている。
だから生徒達は、次のイシュタルの言葉に凍りついた。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
場に静寂が満ちた。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
愛子が叫ぶ。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
愛子が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。
周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
パニックになる生徒達を見て、脅迫されてんなぁ俺ら、と快斗は改めて思う。予め召喚すると分かっているなら、恐らく快斗達の分の衣食住は揃っているはずだ。勿論それは、自分達が戦う為に用意される物であって、ここで戦わない、なんて言ってしまえば、快斗達は衣食住にありつけない可能性もあるわけだ。
そんな風に考えていた時、快斗は自身の両肩からも心配する声が聞こえる。
「ねぇ、私達ちゃんと帰れるかな?」
「私達、これからどうなっていくの?」
香織と雫が不安がっている。
快斗はとりあえず二人を抱きしめた。
「大丈夫。俺がなんとかしてみせる」
そうすると、二人は安心した様子で、「うん」と返事を返してくる。
その時少し涙目になっており、快斗は自身の性欲が高まるのを感じる。
彼女達を抱いてやりたいが、彼女達の喘ぎ声を他の奴らには聞かせたくないため、もう暫く辛抱が必要みたいだと、自分に言い聞かせる快斗。
そうしてイシュタルの侮蔑の入った視線を感じつつ、快斗は天之河が動くのを期待すると、案の定テーブルを叩き立ち上がった。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
ギュッと握り拳を作りそう宣言する天之河。
うーんバカ、としか言えないと、快斗は心の中で悪態をついた。
現状それしか安全を確保できる方法が見つからないが故に、戦争参加についてはある程度は仕方ない。それに、ここで反逆しすぎると後がどうなるか分からない為、この場は即決がベストだろう。がしかし、天之河は割と本気で世界を救えると思っているのが痛すぎると、快斗は苦笑した。
どう考えても無理である。何故なら、恐らく天之河には魔人族は殺せないから。いくら残酷かつ惨虐な奴であろうと人型なら、どうせ奴は殺せないのだと付き合いの長さから分かる。
思わずため息が出そうになるのを我慢しながら、快斗は今後について考えるのだった。