先をゆく彼女に幸福を
苗字の三玉の由来は、御霊、御魂、そんな言葉から来ている。
その苗字に、魂に恥じないように、しっかりと生きるんだよ。
そんな言葉を。よく叔母は言っていた。
曰く、ある天命を持ったもの達の生まれ変わりだとか
曰く、特別な繋がりを持った人々の生まれ変わりだとか
曰く、何にも縛られない高潔な魂の証拠だとか
曰く、隠された神秘を暴く覚悟を持つ魂だとか
曰く、
曰く、
曰く、
曰く、
……なんて、そんな話を妹達と交わしたのはずっと昔の話で、あの頃は自分達の苗字の由来を聴いて、あれやこれや夢のある理由を考えて……思い思いに生きていた。
妹達といえば、私は双子で、私は0番目の娘として玲、もう一人の子は1番目の娘として一香という名前がつけられた。名前に生まれた順番をそれとなく混ぜ込むのも、私たち一族の慣しらしい。私の記憶がはっきりしてくる頃にはもう6人目の妹が生まれていた。まさか姉妹全員合わせて、13人まで増えるとは思っていなかった。小さい頃は感覚が麻痺していたから、そこまで凄い事だとは思っていなかった。
とはいえ、姉妹だけで13人制ラグビーチームができてしまうのはさすがに父と母にとっても負担が大きかったようで、父と母はいつも毎晩遅くまで働いており、それを助けるために、私と一香は18を過ぎると直ぐ様働くようになった。それでもその頃は、忙しいながらも充実した毎日を過ごしていた。毎晩帰ってきても親の顔や、妹達の笑顔を見るだけで、元気が出て、明日も頑張ろう、なんで気持ちになったりもした。……あんまり、自分のしてた仕事の事については、大きな声では話せなかったんだけどね。シノビなんていうのは、命のやり取りをする仕事だもの。
そんな生活になってから、半年過ぎ、一年過ぎ、二年過ぎ……
そして、運命は、突然やってきた
その時の後にも先にも、アレほど驚いたことはなかった。家が何者かに襲撃され、赤々と燃えていた。襲撃者は父と母と祖母が対応していて、その間に取り残されていた妹達を私と一香の二人でなんとか家から救出して、燃え盛る家から距離を取る。瞬間、親の張り裂けるような声、奥義を使用した時の強いエネルギー……強い光が爆ぜ、周囲を飲み込んでゆく。
空間が裂け、妹の殆どを飲み込み、私も飲み込まれようとした時に私を助けたのは……双子であった、一香だった。一香は、私たち姉妹を助けようと高速で次元の裂け目を跳び回り、次元の裂け目の中の妹達を助けれるものは助け、そうでない姉妹もせめて生きて行ける世界にと別の次元に放り投げ、そして……彼女は、存在が粒子になっていくように分解され、消えていった。
「あとは任せたよ、玲」
最後に私に見せて行った顔は、笑顔だった。あの時の笑顔の理由を、あの笑顔の感情の理由を、私は最後の時まで理解できなかった。なんで消えてくのに、死んじゃうのにって。
そうして、私の目の前には、気を失っている緑髪の少女と、完膚なきまでに破壊されたヘンテコな機械。そして、奥義の為に力を使い果たした親達の、息絶えた姿。
緑髪の少女も気を失っているときは、何かか弱さや、儚さをも感じる様子で、きっと壊れた機械が原因で暴れてたのだろう。……それでも、この世界に生き残った、片手でも数えられるくらいになってしまった姉妹の中には、殺そうって、親と姉妹の仇だって言い出す子もいた。
……私には、それはできなかった。妹と同じような年齢の少女を、目の前で見殺しにすることは。
結局その子の……鈴音の面倒は私が見ることになった。そして、私たち姉妹は皆、別々の道を歩んでいくことになった。
鈴音は暫く眠ったままだった。その間に彼女の身辺を調べさせてもらった。やはり、といったところか、斜歯の機械の実験作を取り付けられるような子だ。ロクな身寄りもなく、元の居場所に戻ってもまた何かの実験台にされるのは明白で……。だから、私の家に住ませることにした。
暫くしてから、目を覚ました鈴音は混乱している様子だった。当然だ。きっと、あの機械を取り付けられた時からずっと意識を乗っ取られてて、今やっと意識が元の体のものに戻ってきた、なんで所なのだろう。
機械に乗っ取られている時に何があったのか、なんて事は隠しながら「道端で意識を失っていたところを拾った」なんていう風に簡単に事情を説明して、一般人として力を隠して生きていくか、シノビとしてまた裏の世界で生きていくか、鈴音に尋ねた。彼女が選んだのは、シノビとして生きていく事、その上、私の弟子になりたいと言ってきた。私はそれを承諾し、この世界で生きていくための力をつけてやることにした。
初めは私が先陣に立って、彼女を守りながらたたかって、その中で生きる術を教えた。
次第に彼女は生きる力を身につけ、戦う力を身につけ、戦い方を身につけて……私のそばに並びたてるまでに成長した。
そして、私との関係も、ただの拾った人拾われた子から、師匠と愛弟子になって、相棒と相棒になった。
それから、修行でもただの旅行でも海にも山にもリゾートに行って、普段着ないような服とかも着たりとか……
それから……
それから……
◆
「…三玉さん。せめて…」
愛弟子の言葉によって、愛弟子が体を揺らすことによって、私は目覚める。長い長い走馬灯を見ていたようだ。
そして、
目を開けた瞬間、私は、私が負けたのだと理解する。愛弟子はわんわんととないており、手には、あの忌々しい機械が一つ。
……それなら、せめて……
「……ごめんなさい、私のエゴで、あなたの最後の願いすら……あなたを、救うことすら…私が、未熟なばかりに………。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「……いいのよ、鈴音。それで、それでいいの」
そして私は、愛弟子に……いや、私にとって1番大切なものに対して、笑顔を向けた。彼女が、前を向いて歩いて行けるように。