気に入ってくれると嬉しいですね。
吸血鬼+眷属化もの
瞳を見つめ合い、これまでのことを頭の中に走馬灯のように巡らせる。
初めて会った夜。輝く満月の前に真紅の影を映し出した、あまりの美しさに私の瞳を捉えて離さなかった貴方。私の討伐対象だった貴方。その美しさから我に帰ったときはもう遅かったあの時。一瞬のうちに私は見つけられ、距離を詰められ、弾き飛ばされた。
次に出会ったのは三日月の夜。満点の星空の中、月を椅子にするように座っていた貴方。先制攻撃とばかりに相棒であり形見でもあるマスケット銃で撃ったが、貴方はそれをひらりと交わした。
「こんな素敵な夜なのに、無礼者もいたものね?」
近寄ってくる貴方を銃で狙撃するも、弾丸は空を穿つばかりで、貴方は私に着実に近づいてきた。近寄られて、自決を覚悟し、銃を口に加えた私。そんな時に貴方がしたのは、私の武器を弾き飛ばして、頬をさすることばかり。
「かわいい顔してるわね?」
貴方のルビーの瞳と、私のサファイアの瞳が、一瞬だけ向き合った。私は、その言葉を聞いた瞬間に、その瞳が合わさった瞬間に、訳のわからない衝動が胸の中で爆発し、全速力で逃げ帰った。
次に出会ったのは新月の夜。真っ暗な空の中で、貴方のルビーの瞳が月かと思うほどに輝いていた。貴方は私を見るや、大きな蝙蝠の翼をゆっくりと上下させ、まるで鳥が寄ってくるように私に近づく。その間私は、武器を固く握っているのにもかかわらず、貴方の瞳に見惚れるしかできなかった。
「今晩は?素敵なお嬢さん。今夜も私を狙いにきたの?」
手を伸ばせば届く距離で、武器を振り回せば確実に命を奪える致命の距離で、まるで友人に挨拶するようにお辞儀をしてきた貴方。私はふと我に帰り、銃口を貴方に向け、トリガーを引くが、中から聞こえたのは空砲のみ。
「びっくりさせようとしてくれたの?でも、こうしたほうがロマンチックよ?」
なぜ弾がでないのか、困惑する私を差し置いて、貴方は指を鳴らし、私の銃に触れる。私の手のひらに伝わる、何かが銃に込められた感覚。そのまま貴方の柔らかく繊細な手は、私と重なって、銃口を貴方に向けたままトリガーを引かせる。先端からは銃弾ではなく、真紅の薔薇の花束が飛び出した。
「ほら、綺麗で、ロマンチックでしょ?」
私の手から手を離し、美しく微笑みかけながら、一本薔薇を抜き取る貴方。まるでそこにあるものが当然そこにあるように、美しい薔薇に負けず劣らず美しい貴方。そんな貴方を前に、その時の私は、胸の高鳴りを自覚しつつも、再び見惚れるしかなかった。
「次にあったときは勝負をしましょう?戦って、勝った方が、負けた方の言うことを聞くの。素敵でしょ?」
そのまま私に一本、約束の証と言わんばかりに薔薇を差し出してきた貴方。肯定するかのように私が薔薇を受け取ると、貴方は微笑みながら夜空に消えていった。
……薔薇は私に今夜向かう場所を示した。最初に出会った頃と同じように美しい満月の夜。ただ一つ違うのは、満月は貴方の瞳と同じように、真紅に輝いていた。月の真ん中で、私を待つ貴方。お互いに薔薇を交換するのが、私と貴方の戦いの、無言の合図となった。縦断でこちらに近づかせまいと弾幕を貼る私と、体を霞や蝙蝠に変え、弾をかわしつつ私に近づく貴方。そして、貴方は私を倒して喉元に爪を突き立てる。それと同じように、私は貴方の心臓に銃を突き立てた。
「あら?素敵なお嬢さん。結構強かったのね?」
貴方の言葉に微笑みをもらずが、そのまま心臓を狙い、トリガーを引いた。
帰ってきたのは、空砲がなる音のみ。
そうして、今に帰ってくる。私は負けたのだ。喉元に爪を突き立てられて。命を目の前の貴方に握られて。
「それじゃあ、私の勝ちだし、言うことを聞いてもらいましょう」
瞳を閉じて、最後の時を待つ。しばらくの静寂。耳元に聞こえるのは、風がの音と、それにより草花が揺れる優しい音。そして、私たち二人の息遣い。
「貴方は……私の眷属になりなさい?貴方みたいな可愛い眷属がちょうど欲しかったところなの」
へっ?と目をあげる。その瞬間、首筋に痛みを感じる。貴方は私の首元に牙を立てたのだ。痛みで思わず声が漏れる。
「あら可愛い声、安心しなさい?仲間になるのは、とっても気持ちいいのよ?」
頭の中に貴方の声が響く?その言葉の通りに、痛みは徐々に引いてゆく。そして首元から広がっていくのは、変わってゆく快楽。細胞一つ一つが気持ちいいことをされているかのように、普段は何も感じないところも風が吹くたびに痙攣するように快楽を訴える。その感覚は次第に胸に、腹に、そして子宮に。甘い甘い、人間ではとてもじゃないが感じることのできない、甘すぎる快楽が私の中を響き続けていた。痛みの声はいつしか快楽の声に置き換わる。私の口の奥、喉の奥からは、喘ぎ声とも捉えれるような、甘い叫びが絶え間なくで続けた。
そうしてその波動に身を任せるうちに、私の体は変化してゆく。背中の快楽が強まった瞬間、何かが解放されるように貴方と同じ蝙蝠の羽が飛び出る。ふと口中に甘さが爆発した瞬間、私の犬歯は肌を突き破るための牙となり、舌は血を味わうためのものになる。世界が真っ白に輝いた瞬間。サファイアの瞳は貴方と同じルビーの瞳に変化する。貴方の肌の感触を確かめるうちに、貴方と同じ白くきめ細やかで傷のない、美しい肌に染められる。腹部は心地よい満足感のようなものを感じた瞬間、血を完全な栄養として消化吸収できる器官として変化する。
「最後が一番気持ちいいからね?」
そして最後に感じたのは、腹の奥、子を成す器官。人が人の種を受け取り人の子を育む場所から、吸血鬼が吸血鬼の種を受け取り、吸血鬼の子を育む器官へ。そして、それは、人間の女性としての象徴の器官で……。そこに気持ちいい波が集まってくる。貴方は牙を立てたまま、にっこりと微笑んでくる。私の子宮はキュンキュンと音が聞こえるほどに伸縮を繰り返しており、快楽が与えられるたびに、この快楽を与えてくれる貴方と言う存在にも屈していく。そして貴方が私の下腹部、子宮の上に手を乗せた時、体内で響いていた快楽の振動は、一斉に子宮に向かって飛びかかってくる。そのことを感じて、とっさに下腹部に力を入れるが、すべては無駄だった。子宮から放たれる、人が感じれる中で最大級の快楽と幸福。それがいっぺんに、いつまでも続くと錯覚すらするように、私の体の中を満たしてゆく。世界がピンクのハートに埋まってゆく。ふわふわとそのハートと共に飛んでゆく。そう、あの瞬間、私は生まれ変わったのだ。その生まれ変わりの快楽を受け取りつつ、ふわふわとした意識の中に埋れていたら……気がつけば、意識を失っていた。
次に目が覚めたのは、豪華な洋室の、天蓋付きベットのなか。私は服を着ておらず、子宮の上の皮膚と首筋には、吸血鬼であり、更に吸血鬼の眷属である証が、真紅の模様として肌に残っていた。
「目が覚めたのね。よく眠れた?綺麗な新しい家族ちゃん」
ドアを開けて入ってきたのは貴方だ。普段通りと言った動きで私の服の支度を行い、その次に私の体を見て、眷属化の出来具合を確かめる。
満足したように私から離れて、改めてと言う顔で話しかける。
「もしかしたら手配書とかで知ってるかもしれないけど、私がこの館の主人にて、吸血鬼の姫、ソフィア・ルーシーよ。これからはよろしくね?」
美しい貴方……いや、美しいご主人様は私の目の前で可愛らしくお辞儀をした。
「貴方の名前は?そういえば一度も聞いたことがないわね」
私の名前……私の名前……私の名前は……
「私の名前は……三玉。三玉 十一(みたま じゅういち)です」
私の名前を聞くと、ご主人様は少し悩んだ顔をして、はっと決めたような顔に変わって、口を開く。
「貴方の名前ももちろん素敵だけど、同じ名字にしましょうか?三玉……みたま……御霊……そうね、ソフィア・アニマとかどう?これが貴方の私の眷属としての名前」
名付けられた瞬間、ふと気がつくと、涙が溢れてきていた。そんなに嬉しいのとご主人様に言われたが、なぜこんなに涙が出るかわからなかった。
「それじゃあアニマちゃん。よろしくね?」
ご主人様は私に向かって手を差し伸べた
私は応じるように、強く応じるように、手を掴んだ。