社会人になって2年目の夏。
俺は一人で旅に出た。
といっても、昔住んでいた田舎町へだ。
車を持っていないから、列車を乗り継ぎ、ローカルバスへ乗り換えての不便な旅。
朝早くに出たのだが、見知ったバス停にたどり着くまで4時間もかかってしまった。
もう昼過ぎじゃねーか。
「ようやく取れた連休だってのになぁ……」
ぽつりとつぶやく。
そう。
去年の春に新卒で働きだしてから、正月以外では初めて取れた連休だったのだ。
のほほんと学生をしていたころにはわからなかった、社会人生活の厳しさ。
そんなものに打ちのめされていたのだろう。
気がつくとふらりと、懐かしい町へと向かう列車に乗っていたのだった。
そんなわけだから、手荷物も極めて少ない。
宿すら取っていない。
どうしよう。
日帰りは厳しいかも知れないなぁ。
「といっても、もう俺んちもないしなぁ」
バス停の時刻表を見て、ため息をついた。
さび付いたバス停の時刻表には、およそ一時間に一本バスが来る旨が記してあるわけだが。
なんと13時から15時の間は一本も走っていなかった。
昔はその間も一本は走っていたのだけど、過疎が進んだのか、ダイヤルが改定されたらしい。
明らかに改悪だ。
「これじゃ、浜に行くのは無理だなぁ」
このバス停からさらに乗り継いで30分ほどで、人気のない内浦に出ることができる。
そこでぼんやりと海でも見て過ごしたかったのだが……。
しょうがない、あきらめるか。
額に流れる汗をハンカチで拭い、辺りを見回す。
周囲の光景は、俺がここに住んでいた5年前とあまり変わっていない。
広々とした道と、わずかながらの民家と、山が広がっているだけ。
再開発の波は、こんな田舎町には無関係らしい。
青い空を眺めていたら、なんだか気持ちが落ちついてきた。
都会で働いていると、ゆっくりと空を眺める機会すらなかったからな。
よしっ。
浜には行けないけど、その代わりに、昔住んでいたあたりを散策するか。
それならなんとか日帰り出来そうだしな。
* * *
そんなわけで、ぶらぶらと田舎道を行く。
20分ほど歩いていたら、すがすがしい水の流れの香りが鼻をくすぐった。
耳に心地よい、ざぁぁっていう流水の音も聞こえてくる。
懐かしいな。
一の谷渓流だ。
子供の頃、よくここで遊んだっけ。
俺が昔住んでいた家があるあたりはここからもうすぐなのだが、そこに行ったってもう何もないわけだし。
渓流を見ていこうかな。
そんなことを考えて、行き先を渓流の方向へ。
ちょっとした山道を入っていくと、水の音がさらに大きくなる。
と同時に、何やら可愛らしい声も聞こえてきた。
子供の声だろうか?
「きゃーっ、冷たくて気持ちいいよ。ほらほら、真白ちゃんもはやくはやく」
「早く来ねーと置いてくぞー」
「う、うん、ちょっと待ってね」
元気にはしゃいだ声が二つと、ちょっとおとなしそうな声が一つ。
渓流で遊んでいるのかな。
すっかり過疎が進んでいるかと思ったけど、まだ子供たちはいるらしい。
そういえば、俺が住んでいた時、すっごく懐いてくれてる女の子がいたなぁ。
名前、なんて言ったっけ。
今もここに住んでるんだろうか。
昔を思い出して、ほほえましい気持ちになりながら渓流が見える位置へと足を踏み出した。
すると目の前に広がっている光景は……。
「それーっ!」
「ひゃんっ。もー、かずきくん、ひどいよー」
「あはは、ましろちゃん、ずぶ濡れだー」
3人の子供たちが水遊びをしている光景だった。
日焼けしたいたずら小僧な雰囲気の男の子と、ちょっとボーイッシュな感じの短髪の女の子、それからサラサラの髪をした透き通るような肌のおとなしそうな女の子。
互いに水を掛け合って遊んでいる。
それだけだと単に微笑ましい光景のはずなのだが、問題は。
「ごくり」
俺は思わず唾をのんだ。
どの子も、ほとんど裸同然の格好をしていたからだ。
というか、日焼けした男の子と、ボーイッシュな女の子に関しては完全な裸。
真っ裸だ。
おとなしそうな女の子も、子供っぽいプリントパンツ一枚だけである。
「す、すごい」
思わずつぶやく。
そういえば、ここみたいな田舎だとまだまだ開放的で、水遊びの時は平気で服を脱いでいたんだっけ。
しかし問題は、二人の女の子がとびっきり可愛いってことだ。
ボーイッシュな女の子は短髪で子供っぽいけれど、くりくりしたおめめと八重歯が実に魅力的。
肌の白いおとなしそうな子は、こういう田舎に似つかわしくないぐらいの、ザ美少女という感じで、整った顔立ちはジュニア雑誌のモデルでも十分に通用しそうなレベルだ。
そんな女の子二人が、裸同然の格好で水遊びしている。
たった一人そこに交じっている男子が羨ましすぎる。
というか、事実その男子は鼻の下を伸ばしているようで。
「な、なぁ、ましろもパンツ脱いじゃえよ。もうぐしょぐしょだろ?」
そんなことを女の子に問いかけている。
こいつ、わざと水をかけていたんだな。
「え、えと、その」
一方、おとなしそうな女の子は顔を真っ赤にしてもじもじ。
「だ、だめ……」
ふるふると首を振った。
「えー、なんでだよ。ひかりなんてすぐにすっぽんぽんになってるのに」
「かずき、それってあたしをバカにしてる?」
男の子の言葉にボーイッシュな方の女の子……ひかりちゃんがジト目になった。
「ば、バカにしてるわけじゃねーけどさ。ましろだけ絶対にパンツ脱がないじゃん」
「まー、それはそーだよね。ましろも脱いじゃえば? 気持ちいいよ」
ひかりちゃんがいたずらっぽく笑うのだが、おとなしい女の子……真白ちゃんはやっぱりふるふると首を振った。
「は、恥ずかしいから」
「「え~?」」
恥ずかしがる方がおかしいというかのように二人の声がハモる。
「そ、それに……」
真白ちゃんが続けた。
「た、大切なところは、その、す、好きな人にしか見せちゃいけない、から」
真っ赤になってそんなことを言った。
真白ちゃんって子は少しおませさんみたいだ。
「大切なところって、ここ?」
なんとその瞬間。
ひかりちゃんが無邪気な顔で、自分のわれめを広げて見せた。
「!!」
俺は思わず釘付けになった。
ここからは少し遠いけれど、きれいなタテスジを指でくぱぁっと広げているのがわかる。
男の子……かずきとやらも食いつくように見ている。
「ちょ、ちょっとひかりちゃん、だめだよ」
「全然平気だよ♪ あ、かずき、エッチな目で見てるぅ」
「ち、違うって」
「ほんとかなぁ。おちんちん、大きくなってない?」
「な、なに言ってるんだよ」
そんな風にわいわいやっている子供たちを見ていたわけだが。
「ん?」
かずきとやらが、ふと目線をこちらにやった。
「あー! 大人のおっさんがこっち見てるぞ!」
俺の方を指さして叫びやがった。
女の子二人も、驚いたように俺の方を見る。
や、やばい。
いやらしい目で見ていたとか言われたらマズい事態なりかねない。
「た、たまたま通りがかっただけだから!」
俺はそう言って退散した。
* * *
「はぁ、はぁ」
走って逃げると逆に怪しまれるかと思って早歩き程度にしたけれど、案外息が上がっていた。
都会での生活で、相当運動不足になっているらしい。
「はぁ……」
ちょっと息をつく。
まぁ、よくよく考えたら、盗撮していたわけでもないんだし。
犯罪になるってことはありえないだろう。
そう考えると、気が楽になってきた。
通りがかりに裸の女の子に遭遇した。
それだけのことだ。
「と、無意識にここまで来ていたのか」
息をついて冷静になり、周囲を見ると、そこは俺が昔住んでいた家のあたりだった。
あの渓流からは歩いて10分ほど。
「やっぱり、何にもなくなっちゃったんだなぁ」
つぶやいた。
俺の家があった場所は、単なる空き地になっていた。
もともとは両親と祖父母と暮らしていたのだが、祖父母が亡くなったのを機に6年前に引っ越したのだ。
古い家はもうなくなっていて当然。
しかし、寂しい気がした。
父親の職場に近い町に引っ越した後、俺はすぐに大学進学をして一人暮らしを初めて。
そのまま就職したから、家族のいる家庭のようなものにはもう長く接していない。
高校生のころまでずっと住んでいた実家がなくなっていることで、根っこをなくしたような気分になった。
ぽすんっと、土の上に座り込んだ。
なんとなく、この何もない空き地を眺めていたい気分になった。
「………………」
数分ぐらい、ぼんやりと座り込んでいただろうか。
感傷に浸るあまり、人の気配に気がつかなかったのだ。
いつの間にか、俺の真後ろに立っていた小さな人影が、言った。
「あ、あの……」
「え?」
驚いて振り向くとそこには。
先ほどの水浴びをしていた女の子が立っていた。
おとなしい方の女の子だ。
改めて見ても、すっごく可愛い。
って、そんなことを考えている場合じゃないぞ?
お、追いかけてきたのか?
俺は慌てて立ち上がった。
少女は、体も吹かずに俺を追いかけてきたのか、水が髪に滴っていて。
それどころか、ワンピースを両手に抱えて、その、パンツ一枚姿のままだった。
え、エロい。
いやいやいや、ヤバい。
追いかけてきたってことは、俺を告発するつもりなのか?
脳裏に、明日の朝刊の片隅に自分が載っている様子が思い浮かぶ。
「え、えと」
なんと言えばいいのだろう。
言葉が思いつかない。
少女はというと、あたふたする俺を、澄んだ瞳でじぃっと見つめていた。
そして、決意するかのように唇をキュッと噛むと、つぶやいた。
「も、もしかして、こーくん、ですか!?」
* * *
一瞬、どういうことかわからなかった。
けれど、呼ばれてみて、徐々に思い出がよみがえってきた。
こーくん、という呼び名。
俺をそんな名前で呼ぶのは、一人しかいない。
俺がこの田舎町に住んでいた6年前、すごく俺に懐いていた近所の女の子。
まだ小学校に上がる直前ぐらいの年齢で、いつも俺の後をついてきていて。
《こういち》っていう俺の名前がうまく呼べなくて、いつもこーくん、こーくんって言っていた女の子。
思い出した。
真白ちゃんだ。
「ま、真白ちゃん?」
俺が恐る恐る問い返すと。
女の子の表情がぱぁっと輝いた。
「!! や、やっぱりこーくんなんですね?」
「お、おぅ」
「よかったぁ!!」
がばっ!
真白ちゃんが俺に抱きついてきた。
た、体温が高くて、めっちゃ暖かい。
というか、下着姿だから、その、素肌が直接触れてしまっている。
「ちょ、ちょっと」
しかし、俺の戸惑いなんかよそに真白ちゃんは猫みたいに頭を俺にこすりつけてくる。
「こーくん、会いたかったです。急に引っ越しちゃったから」
「あ、いや、その」
「さっき目が合ったとき、すぐにわかったんです。あ、こーくんだって。ずっとこーくんのことばっかり考えてたから。それで追いかけて、見失なっちゃったけど、お家の方かな?って思ったら、正解で。ここにいるなら絶対にこーくんだって」
溢れ出る気持ちを伝えるかのように、一生懸命に話してくれる。
そんな様子はすごく可愛いんだけど、その、とりあえず服を着てほしい。
「あ、あのね、真白ちゃん、まずは服を」
そういった瞬間だ。
「ましろ、こんなとこにいたの? やっと追いついた!」
「ちょ、ましろ。お前、足速すぎ。普段はとろいくせに」
残り二人の子供たちが追い付いてきてしまった。
「「あ」」
二人が俺たちを見て固まる。
そりゃそうだ。
パンツ一丁の真白ちゃんが、大人の男に抱きついている。
こんな状況、どう説明すりゃいいんだ。
「「ち、ち、ち、痴漢だー!」」
案の定の叫び声が、人気のない田舎道にこだました。
* * *
その後、真白ちゃんが丁寧に説明してくれたことでなんとか事なきを得た。
「へー。お前、ずっと前にここに住んでたのかよ」
まだ少しうたっがてる感じでかずきが俺をにらむ。
「俺、お前のこと覚えてないんですけど」
「そりゃまぁ、たぶん君が5歳ぐらいの頃のことだからな」
俺こいつのこと覚えてない。
「ね、ね、それじゃあたしのことは覚えてる?」
好奇心に満ちた雰囲気で、ひかりちゃんが自分を指さした。
「ええっと」
俺は記憶の糸をたどる。
が、思い出せない。
うーん。
改めて、目の前に座っているひかりちゃんを見る。
さすが田舎の子供だ。
土の上であることも気にせず、地面に直接座っている。
というか……スカートでM字開脚して座ってるから、パンツが丸見えだった。
思わず目をそらしつつ、
「ご、ごめん、あんまり覚えてないかも」
その一言に、ひかりちゃんは大爆笑。
「あははー、そりゃそうだよ。だってあたし2年前に隣の町から引っ越してきたんだもん」
「おい!」
思わず突っ込みを入れた。
どうやら、3人とも同い年で、よくさっきのように遊んでいるらしい。
「ひかりちゃん、冗談ばっかり言うんですよ」
俺の腕の中にすっぽりと納まって座っている真白ちゃんが俺を見上げて言った。
久しぶりの再会でよほど嬉しいらしく、さきほどからすごく甘えてくるのだ。
濡れたままだった真白ちゃんのためにひかりちゃんがバスタオルを持ってきてくれたのだが、それを受け取るとこれに「こーくんに拭いてほしいです」とおねだりしてきたってわけ。
断り切れず、俺はいま、真白ちゃんのサラサラの髪をバスタオルで丁寧に拭っている。
「ところでこーくんは、これからずっとここにいてくれるんですか?」
期待に満ちた目で真白ちゃんが問いかけてきた。
うっ。
そういうわけじゃないんだよなぁ。
ちょっと言い出しにくいんだけど、仕方がない。
「いや、そういうわけじゃないんだ。日帰りだよ。今日中に出ていく」
「え!?」
真白ちゃんの表情が絶望の表情に変わる。
おとなしそうに見えて、案外表情が豊かだ。
「ど、どうしてですか?」
「そもそも宿も取ってないからね。もう実家もないし」
俺がそう言うと
「え、それなら、うちに泊まってください」
真白ちゃんがこともなげに答えた。
「こーくん、よく泊まってくれましたよね? おかーさんも大歓迎のはずです」
満面の笑み。
嬉しそうに、体を俺にスリスリしてくる。
「へー」
にやにやとひかりちゃんが俺を見つめる。
「どうするの? 泊まるの?」
「いや、えと」
「だ、だめですか?」
真白ちゃんが涙目に。
うぅぅ。
どうしよう。
よくよく考えたら、連休だから別に明日仕事があるわけでもないし……。
「わ、わかったよ。真白ちゃんのお母さんがいいよって言ってくれたらね」
「!! は、はい!!」
真白ちゃんが嬉しそうに両手を挙げた。
* * *
それから、真白ちゃんの家に行くと真白ちゃんを大人にしたようなきれいなお母さんが出てきて、宿泊許可は簡単に下りた。
俺のことを覚えてくれていたらしい。
「うちはお父さんがいないから。こーくんが泊まってくれるとむしろ助かるわ♪」
笑顔でそんなことを言う。
あ、そういえば思い出した。
真白ちゃんちって、お父さんが亡くなっていたんだった。
それもあって、小さい頃の真白ちゃん、身近な年上の男である俺にすごく懐いてくれていたのかも。
「今夜はここを使ってね」
通されたのは、きれいに整理された畳部屋。
あ。
多分、お父さんの部屋だった場所だ。
俺はなんとなく、頭を下げて部屋に入った。
人が使っていなかった部屋の独特の香りがする。
けれども、いやな香りではなかった。
大切に保管された部屋って感じだ。
むしろ、ここを使わせてもらうのがちょっと気が引けるぐらい。
座布団に座って、そんなことを考えていると、こんこんと戸を叩く音が聞こえた。
ふりむくと、部屋着に着替えた真白ちゃんがいた。
「え、えへへ」
はにかんだように笑う。
「ば、晩御飯まで、一緒に遊びませんか?」
そう言って両手で大事そうに抱えた児童書を見せてきた。
* * *
再び、真白ちゃんをお膝の上にのせて、一緒に児童書を読む。
知らなかったけど、高学年向けの児童書というか絵本ってのもあるらしい。
声に出して絵本を読む真白ちゃんが実に微笑ましい。
少しむつかしい漢字が読めるのが自慢らしく、読めたら、褒めてと言いたげに俺を見上げてくるので、頭をなでてあげる。
真白ちゃんの髪の毛は、ふわっとした太陽みたいな匂いがする。
あぁ、そうだった。
5年前もよく、こうやって絵本を二人で読んだっけ。
その頃からおとなしかった真白ちゃんは絵本が好きな子で。
俺はよく、膝の上に乗せて絵本を読んであげたんだった。
し、しかし……。
あのころと違って今は真白ちゃんは、高学年に差し掛かるぐらいの年齢。
あんまりこう、俺の股間にお尻を密着されると……。
ちょ、ちょっとドキドキしてしまう。
「ふぅ」
読み終わって真白ちゃんが一息ついた。
少し前のめりになって本に集中していた体を、これまで以上に俺の体にゆだねてくる。
小さな体重が俺に預けられる。
「こーくん」
「な、なに?」
「もうすぐ、晩御飯の時間だから、それまでずっとこうしていていいですか?」
「う、うん」
思わずうなづいてしまったけど。
な、なんだか不思議な気持ちになる。
だってほら、なんていうか。
体を密着させて、背中をゆだねられているって、恋人同士の行為みたいなんだよな。
真白ちゃんは子供だから、もちろんそんなつもりはないんだと思うけど、おとなしい分大人びた雰囲気があるから。
なんだか変な気分になってしまいそうだ。
「…………」
すると。
きゅっと、小さな手が、俺の手を握ってきた。
「うぇっ?」
俺が驚くと、すっごく照れた表情で真白ちゃんが微笑んだ。
「え、えへへ。こーくんの手のひらって、大きいですね」
よく見ると、真白ちゃんもほっぺが真っ赤だ。
あまり意識していないから平気でくっついてくるのかと思ったんだけど、真白ちゃんは真白ちゃんで照れているのか?
そ、そういえば、渓流でも裸になるのは躊躇していたし。
と、その時。
がらっ。
戸が開いて、真白ちゃんのお母さんがお玉片手に顔を出した。
「ご飯できましたよーって、あら♪」
俺と真白ちゃんを見て、にやつく。
「お邪魔だったかしら?」
「ち、ちちちがうからー」
真白ちゃんがあたふたと手を振った。
* * *
それから、3人で食べた晩御飯はすごくおいしかった。
急だったからあまり大した料理ができなくてごめんなさいと真白ちゃんのお母さんは頭を下げたが、俺にとっては最高のごちそうだった。
だってそれは、丁寧に作られた家庭の料理だったからだ。
手作りの、お惣菜に、煮魚に、お味噌汁に、ご飯。
都会で一人暮らししていると、なかなか食べる機会がないものだ。
その味わいに、一口食べて感極まってしまった俺は、しばらく言葉をなくしてしまった。
そんな様子に心配した真白ちゃんとお母さんが、料理が口に合わなかったのかとわたわたして問いかけてきたので、俺は首を振った。
「ち、違うんです。その、こういう味が、懐かしくて……」
俺がそうつぶやくと、真白ちゃんのお母さんはすごく優しい瞳でうなづいてくれた。
* * *
晩御飯を終えると、お風呂。
一番風呂なんて申し訳ないと辞退したのだけど、「お客様なんだから」と押し切られてしまった。
ごく一般的な家屋でも、さすがに田舎の風呂場は広い。
ちゃんと足を延ばせる湯舟。
こういうお風呂にも、久しぶりに入った。
「ふぅ……」
湯船に体を横たえ、嘆息する。
なんて気持ちが良いんだろう。
「あの、お湯加減はいかがですか?」
目を閉じていると、そんな声が聞こえた。
「最高だよ」
「よかったです♪」
って、ん?
なんか、すぐ隣で声が聞こえなかったか?
そう思って目を開けると湯船に使った俺を愛おしそうに見つめる真白ちゃんがいた。
一瞬幻を見ているんじゃないかと思ったが、どうやら現実のようだ。
子供特有の華奢な体つき。
脂肪が薄いからか、あばら骨が浮いて見えるぐらいだ。
そして、お股のところには。
すっと線を引いたような、可愛しいワレメが。
そうなのだ。
真白ちゃんは本当の真っ裸だった。
渓流では恥ずかしがってパンツを脱がなかった真白ちゃんが、いま俺の目の前で大事な部分をすべてさらけ出している。
「え、えへへ」
ちょっとはにかんだように笑った。
裸が恥ずかしいのかもしれない。
それでも真白ちゃんは、きれいな体を隠そうとせず、俺に言った。
「あ、あの、お風呂。一緒に入ろうと思って」
俺は、何かにとりつかれたかのようにこくこくと頷いた。
* * *
そんなわけで俺は今、真白ちゃんの背中を洗ってあげている。
淡いピンク色の子供用バスチェアにちょこんと乗った小さなお尻が何とも目に毒だ。
本来なら、小さくて可愛らしいと表現するべきなのだが、ほんの少しだけ女性らしい丸みもあったりして、なんだかエロく感じられてしまう。
細い背中の肉つきも、繊細な雰囲気があって、洗うために手が触れるたびに俺はドキドキする。
そんな俺の気苦労も知らないかのように、真白ちゃんは楽しそうに話しかけてくる。
「こーくん、覚えてますか? 6年前まで、よく一緒にお風呂入っていましたよね」
「あ、あぁ。覚えてるよ」
あの頃は真白ちゃんも本当に小さかったから、こんなにドキドキしなかったけどな。
「あの頃からずっと、大切なところは、こーくんにしか見せないって決めてたんです」
「うぇ!?」
真白ちゃんの言葉に思わずタオルを落としそうになった。
た、大切なところって、つまり……。
さっきお風呂に入ってきたときに見た、真白ちゃんのワレメが脳裏に浮かんだ。
まだただの線みたいなワレメ……。
というか、真白ちゃんたしか水遊びしてた時に「大切なところは好きな人にしか見せない」って言ってたよな。
ということは、俺のことが?
「ま、真白ちゃん。それって……」
「あ、そ、そのっ」
問いかけようとすると、真白ちゃんがあたふたと遮った。
「は、恥ずかしいから、やっぱり今のは忘れてくださいっ」
そんな言い方が可愛くて、しかも真白ちゃんのタテスジを想像してしまったってこともあって。
こ、股間が……。
その、起き上がってしまった。
つんっ。
起き上がってしまった俺の一物が真白ちゃんのお尻に一瞬触れる。
「ひゃんっ」
真白ちゃんがかわいい声を上げた。
「もー、いたずらでつんつんしちゃダメですよ」
指でつんつんされたのと勘違いしたのだろう。
くすぐったそうに身をよじる。
それから、唐突に俺のほうを振り向いた。
「こ、今度はわたしがこーくんの体、洗ってあげますっ」
と、俺からタオルを奪った真白ちゃんの視線が、俺の股間にくぎ付けになった。
「あっ……」
ぼんっと煙が出そうな勢いで真白ちゃんのほっぺが真っ赤になる。
こ、この反応。
性的知識、そこそこあるのかもしれない。
「あ、あの、こーくん、こ、これって」
消え入りそうな声で俺のことをチラチラ見る。
ど、どうしようか。
俺、通報されちゃうのか?
い、いや待て。
もしかしたら、単に形が変わったことに驚いているだけかもしれないぞ。
とりあえず、確かめてみよう。
「ま、真白ちゃんはその、こ、こういう状態のおちんちんを知ってるのかな?」
って、何なんだそのアホな質問は。
小さな女の子相手に俺は何を言ってるんだ。
自己嫌悪に陥りそうになっている俺に、真白ちゃんが恥ずかしそうに、こくりとうなづいた。
「う、うん……」
し、知ってたぁぁぁ。
「か、かずきくんが、一緒に水遊びとかしてる時に、時々そうなってるから……」
うぉぉぉ、かずきぃ!
お前、真白ちゃんになんてもの見せてんだよ!
俺より先に、真白ちゃんに勃起ペニスを見せていたかずきをうらやましく思いつつ、それどころの状況じゃないと頭を抱える。
かずきなら子供の生理現象で済むが、俺みたいな大人が真白ちゃんに勃起ペニスを見せつけちゃダメだろ。
完全に事案だろ。
あぁぁ、どうすりゃいいんだ。
と、自問自答していたら。
「んっ」
真白ちゃんが、なんだかなまめかしい声を上げて、俺のペニスをそっと指で包み込んだ。
え、え、何してるの?
「こーくんのおちんちん、お、おおきいですね」
真っ赤な顔で、俺を見上げてそんなことを言う。
「かずきくんのと、ぜんぜん形がちがう……」
そりゃまぁ、大人ですから。
「んしょっ」
うぉ。
真白ちゃんの小さな手が、俺のペニスをこすりだした。
「い、痛くないですか?」
上目遣いで俺を見上げて問いかける。
な、なにをしようとしてるんだ?
まさか手で抜いてくれるとか?
いや、違う。
真白ちゃんは、ちっちゃなおててにたっぷりとボディソープを泡立てている。
それで優しく俺のペニスを包み込んでくれている。
これ、洗ってくれているんだ。
手でやさしく、洗ってくれているんだ。
ちょっとホッとした。
ペニスを射精させるとか、そういう性知識はなさそうだ。
「だ、大丈夫。手でやさしく触ってくれてるから、痛くないよ」
俺がそう答えると、真白ちゃんはふにゃっと笑った。
「よかった……。んっ、こーくんのおちんちん、すごく熱いんですね……」
そんなことをつぶやきながら、俺のペニスをしゅっしゅっと指でこすってくれる。
真白ちゃんは、俺のペニスを洗うために、しゃがみこんだ体勢。
なもんだから。
ちょうど俺の目の前でM字開脚したような状態になっていた。
真白ちゃんが誰にも見せたことがなかった大切な場所が、いま俺の目の前で惜しげもなく披露されている。
立っていたときはただの線みたいだった大切な場所は、しゃがんで開脚することで少しだけ開いていた。
指でくぱぁってするほどじゃないけど、真白ちゃんのワレメの中身が見えてしまっている。
これまでにない興奮が、ペニスの根元からこみ上げてくる。
「…………や、やばい」
「え?」
俺のつぶやきに、真白ちゃんが反応した瞬間。
俺は射精してしまった。
びゅっ、びゅるっと白く濁った液体が、真白ちゃんの小さな指を汚した。
小さな指で受け止めきれなかった分は、真白ちゃんの細い胸板や、可愛らしいお顔に飛び散っている。
や、やってしまった。
真白ちゃんはただ俺を洗ってくれていただけなのに。
とんでもないことをしてしまった。
「あっ、あっ、やんっ」
たまっていたのだろう、どんどん噴き出す白濁液をぶっかけられ、真白ちゃんが戸惑った声を上げる。
「あぅ、こ、こーくん、これって?」
やはり射精に対する知識はなかったらしい真白ちゃんが、驚きと戸惑いの入り混じった表情で俺に問いかけてきた。
* * *
そのあと、俺は必死になって射精について説明をした。
ごまかしてしまおうかとも一瞬思ったのだが、それは、真白ちゃんをだますことになってしまう。
こんな純粋に俺のことを慕ってくれる女の子相手に、嘘はつきたくなかった。
興奮して、気持ちが昂ると出てしまうもので、赤ちゃんの元だということもちゃんと説明した。
お風呂場で正座をして神妙な顔で話をちゃんと聞いてくれた真白ちゃんは、すべて聞いたうえで、こう言ってくれた。
「わ、わたし。こーくんの赤ちゃん、作ってほしいです」
恥ずかしさの中に嬉しさがあふれたような無邪気な表情。
射精されたことは、ちっとも嫌じゃなかったらしい。
お顔にかけただけでは赤ちゃんはできないことや、まだ真白ちゃんは赤ちゃんを産める体になってないことも説明したら、少し残念そうにしていたぐらいだった。
* * *
「お風呂長かったね♬」
と、真白ちゃんのお母さんにからかわれてドキッとしながら、寝間着に着替えて部屋へと戻る。
真白ちゃんは、ぶかぶかのパジャマ姿で、枕を抱えて俺についてきた。
一緒に寝るつもりらしい。
「朝までずっと一緒がいいです」
おねだりするのが恥ずかしいのか、枕で口元を隠しながら、そんな言葉で甘えてくる。
布団をちょっとめくってやると、嬉しそうに潜り込んできた。
すりすりと体をくっつけてくる。
パジャマ越しでも、子供特有の温かい体温が感じられる。
「えへへ」
狭い布団の中で顔を突き合わせあう。
楽しそうに笑う真白ちゃんの表情に、なんだか俺はドキッとした。
ドキッとしてしまったことが恥ずかしくて、照れ隠しで
「こ、こらっ。いつまでもはしゃいでいたら夜更かししちゃうぞ」
と、わざと大人っぽい声を作って言った。
真白ちゃんは素直に「はい」と答えてくれた。
本当に良い子だ。
でも。
ぎゅっ。
俺の手のひらを小さな手が握ってきた。
「ちゃんと寝ますから、手だけはつないでいていいですか?」
小声でおねだりしてくる。
「しょ、しょうがないなぁ」
小さな手の暖かさが本当はうれしくて、俺の口元はにやけっぱなしだった。
* * *
翌日。
真白ちゃんとお母さんと3人で朝食を食べて、俺は出発した。
社会人の休みは短い。
名残惜しいけれど、どうすることもできない。
バス停まで送ると言ってくれた真白ちゃんと二人で、田んぼ沿いの小道を歩く。
真白ちゃんは、俺にいろんなことを話してくれた。
俺が引っ越してしまって寂しかったこと、子供だから遠くまで会いにいけなかったこと、泣き虫だったけど一人で頑張らなきゃって思って、泣き虫をちょっとだけ克服できたこと。
そういうと、真白ちゃん、もっと小さいときは本当によく泣きべそをかいていた。
いつも俺の後ろに隠れていたっけ。
「こ、今度こーくんに会えたら、泣き虫じゃないわたしを見てほしいって思ったんです」
そんなことを教えてくれた。
都会はどんなところかと聞かれて、便利だけど狭いよ、とか言っているうちに、バス停に着いた。
バスが来るまでまだ20分ほどあったので、もう少したわいのないおしゃべりを続けた。
真白ちゃんと話すのは楽しい。
歳が離れているけど、そういうのがあまり気にならない。
だから、あっという間に時間が過ぎる。
バスがやってくる時間が近くなればなるほど、真白ちゃんは言葉数が少なくなる。
やがて、あと数分ほどでバスが来る時間になったらほとんど口を閉ざしてしまった。
「……っ、んっ……」
真白ちゃんは、泣いていた。
いや、正確には、涙を必死にこらえていた。
「こ、こぉ、くん……」
今にも決壊して涙がこぼれそうな瞳で、俺を見つめる。
俺は言った。
「真白ちゃん、泣き虫じゃないように、ずっと頑張ってきたんだね」
「う、うん……」
「でも、泣きそうなときは泣いていいよ。泣いたって悪いことじゃないから」
「あっ……」
俺がそう言った瞬間。
真白ちゃんの頬に大粒の涙が流れ出した。
「こぉ、くんっ! こぉくんっ!」
俺の胸に顔をうずめて、大きな声で泣いた。
やがて、バスがやってきた。
目を真っ赤にした真白ちゃんが、俺から顔を離すと、
ぐっと堪えていった。
「こ、こーくん! また絶対帰ってきてね!」
「おう!」
バスに乗って振り返ると、真白ちゃんはずっと手を振ってくれていた。
夏の陽光に照らされて、白いワンピースがすごくきらきらしていた。
* * *
それから、バスは山道やトンネルを抜けて。
ふと、うとうととした瞬間に思い出した。
6年前のことだ。
いつも泣いてばかりの真白ちゃんが俺に言った言葉があった。
「こーくん、わたし、もっとつよい子になりたい……」
「え?」
「いつも泣いてばかりで、こーくんにめいわくかけてるから……」
まだ小さな真白ちゃんが、迷惑なんて言葉を使えることに驚きつつ、俺は言ったのだった。
「でも、泣きそうなときは泣いていいよ。泣いたって悪いことじゃないから」
……。
…………思わず、あの頃と同じ言葉を言っていたのか、俺。
そのあと、真白ちゃんが言った言葉も思い出した。
「あ、ありがとう。でも、わたしがんばる! もうちょっとなかない子になる」
そっか。
それでずっと頑張ってたんだな。
目を閉じると、あの頃の真白ちゃんと今の真白ちゃんが重なって見えた。
「またいつか、遊ぼうな」
そんな言葉を、自然につぶやいていた。
そうだな。
今度また休みが取れたら、真白ちゃんに会いにいこう。
なんだか、気分が高揚していた。
目を開けて窓の外を見ると、夏の入道雲がきらめいていた。