東方逃亡失敗談 作:みずねかつは
つまり一話。
───どうして、こんなことになったんだっけ。
私は頭を抱え──られずに、ため息をつくだけに留めた。
△△△△△△△
紅魔館から逃げ出す筈だったあの日。
メイド妖精なんて立場から解放される筈だったあの日。
たまたまフラン様の食事配膳なんて受け持ってしまったあの日。
あの時。フラン様の破壊を跳ね返したあの時。
脇目も振らず逃げれば良かったのだ。固まるフラン様を見てどうしたのかな、なんて思わなければ良かったのだ。
「……初めて。初めてなの。全部壊れるはずなのに。あなたが私の初めてよ。だから……離さないわ」
そう言ってフラン様は私の首を絞めた。
私の能力は言ってしまえば現象反射で、一時的なもの──例えば衝撃とか──は7割まで跳ね返せるけど、紐で縛るとか水に沈めるとかはどうしようもない。これもその中の一つ……
どこか冷静な部分でそんなことを考えながら、私は意識を闇に落とした。
△△△△△△
眼が覚めると、そこはベッドの上だった。
「ここは……?」
「目覚めたわね。簡単に説明だけするから黙って聞きなさい」
そう言ってドアを開けて入ってきたのはパチュリー様だった。
「一つ。あなたはここから出られないわ。この部屋を囲むように転移の結界を張ったから、ドアを出ればベッドの上に移動する。
二つ。さらにこの部屋には月の魔力を増幅する魔法陣を張り巡らせてある。早い話が──この部屋の中では、あなたは再生し続ける、と言うことよ。これからあなたにはフランの相手をしてもらう。異論など……聞く意味もないことを知りなさい」
「ま、まって──」
しかしパチュリーはそのまま部屋を出てしまった。
入れ替わるように入ってきたのは金髪で七色の羽を持つ彼女。
「ああ、おきたのね!待ってたわ、待ってたわ!私の初めての──壊れないお人形さん!」
「私は人形じゃないです……!」
思わず声を荒げる。
「何言ってるの?あなたはこれからずっと、ずうっとこの部屋で私と遊ぶのよ。これがお人形じゃなくて……なんなのかしら?」
「そ、それは……友達!友達とかどうですか!?」
「それはダメ。友達なんて……みんなすぐいなくなってしまうもの。そんなことより……遊びましょ!私、私ね……お姉さまから、
あぁ、
「だからね、まずは……あなたがどれだけ壊れないか確かめようかしら」
これはダメだ。
「じゃあ……えい♪」
右足が弾け飛ぶ。
「まだまだ!」
今度は左足。
「すごいすごい!想像の何倍もつかえるじゃない!」
次は右手だけでは足りなかったようで。左手も持っていかれた。
つづく。つづく。
何度も吹き飛んで、その度に生えてくる。
けれど本当に恐ろしいのは、私が反射した破壊を一身に受け続け──それこそ3:7で──それでも笑いながら破壊を続けるフラン様。
「本当に壊れない……。凄い、初めて、大好きよ!あなたのお名前は?」
「………ヴィーです」
「ヴィー、ヴィー!素敵な響きだわ!」
そう言ってフラン様は私にキスをした。それは別に甘くもなく……
ただただ、血の味だった。
△△△△△△
「あなたの体で遊んであげる」
もはや日にちなど意味をなさない。フラン様が遊び疲れれば寝て、起きたら遊ぶの繰り返し。たまにご飯が来るけれど、それが朝なのか夜なのかはわからない。
「あぁ、あったかい……♡」
そう言ってフラン様は私のお腹に指を、その鋭い爪を突き立てた。
「ぐぅっ……っ、うっ、ぐえぇ……」
反射はしている。フラン様にだって腹に穴が開く、その筈なのに。
ずっと、ずっと笑っているのだ。
「あは……捕まえた」
腹の中で拳を作り、引き抜いた。
私の腸が溢れ出た。
「〜〜〜〜っっっ!!!!」
気持ちが悪い。こんな感覚味わったことも味わうつもりもなかった。
痛みはそのうち消える。そういう部屋だった。魔法陣は自動修復された。私にこの部屋を壊す力などなかった。
「見て、見て……お揃い」
フラン様は自分の腸をも引き摺り出した。
私の腸と絡まる。腸膜がちぎれる。血の水たまりの中でフラン様が笑う。
数分もすれば元どおり。
「……ありがとう。私に付き合ってくれて。本当は知ってるの。こんなこと普通はしないって。ごめんなさい。ごめんなさい」
これも恒例の儀式となった。
最初に許したのが間違いだったのだろうか。
濁りきった瞳で縋るように謝り続けるフラン様を拒絶すればよかったのだろうか。
兎に角、後の祭りとやらである。
△△△△△△△△
今日も。
「貴方を持ち運びしたいの」
そう言ってフラン様は鉈を取り出した。
振り下ろすこと4回。
一時的に直されないように金属のカバーがつけられた。
口は真っ赤な紐で縫い付けられた。
私は、お人形になった。
館内をフラン様に抱きしめられながら歩く。
初めに向かったのは図書館だった。
小悪魔がこちらを見て目を見開きよろめく。
その気持ちわかるよ。だから助けてくれないかな。
「……フラン、それは?」
パチュリー様が問う。
「私の可愛いお人形さんよ!」
そう言ってフラン様は私のほおをチロリとなめた。
「……そう。大事にすることね」
私はパチュリー様に視線を向けた。
目線は合わなかった。
紅魔館の中を巡る。巡る。
メイドだった時には先輩なんて呼んで慕ってくれたあの子も。
そそっかしくていつもサポートをしていたあの子も。
部署リーダーを任せてだいぶ慣れてきたねなんて話したあの子も。
みんな私の目を見ない。
△
この姿になって一週間が経った。
寝るときにフラン様は私を抱きしめる。
母親に縋るかのように。
私はフラン様に愛情のようなモノを注ぐようになった。
何をされても笑って許せるようになった。なってしまった。
おそらく私の心は既に壊れた。
あぁ、フラン様は。
本当に、なんでもこわせるんだね。
四肢欠損は私の趣味。
堪りませんね、マスコットにされるの。