東方逃亡失敗談 作:みずねかつは
誰かが言いました。
「快楽も反射できると良いね」と。
そういうお話です。
それは、逃げ出した妖精を追いかけて山へ辿り着いた主人と従者の一幕。
「………咲夜、私達と来い。見つけた瞬間に捕らえる」
「はい」
そこが運命の分かれ道だった。
十六夜咲夜は人間である。
その心がたとえどれほど魔に傾倒していようが、魔そのものではないが故に。
彼女は神社に張られた結界を通り抜けうる。
神でさえ気付くことのない止まった世界を咲夜は歩き、妖精の首を掴んで戻った。
主人は妖精の頭を持ち、目を合わせた。
吸血鬼。満月。魅了の魔術はその効果を十全に発揮した。
妖精の力が抜けた。
神社から人影が出てくる。
レミリアはそれを見ながら思う。
(……この妖精の巫女服。ここの神に仕えたのか?……私の所有物の分際で)
「咲夜。時間を稼いでおけ。得意だろう?」
「ええ。幾らでも」
「フラン、帰るぞ」
「早く帰ろう!早く帰って、そしたら……」
「いっぱいあそぼうね」
△△△△△△△△△△△
「ここは……?」
私が目覚めたのはベッドの上だった。
……………見覚えがある。これは、たしか、紅魔館の、
ガチャリ。
部屋のドアが開いた。
思わず身を固くする。
入ってきたのは咲夜さんだった。
「メ、メイド長」
「起きたようね。ついてきなさい」
私は咲夜さんの後をついて行った。
メイド妖精は一回も出会わなかった。
「浴場……?」
「身を清めずにレミリア様と対面できると思っているの?」
咲夜さんは私の巫女服を脱がした。
固く結ばれているところはナイフで切り裂いてしまった。ああ、せっかく貰ったのに……。
お風呂はミルクのような薄く甘い香りがした。咲夜さんは私の体を洗い始めた。
なんだか意識が蕩けてくる。お風呂ってこんな気持ちよかったっけ……
「メイド長、その」
咲夜さんは何も言わない。
「わ、私、これからどうなるんですか?………逃げたのは謝ります、ごめんなさい、今度は真面目に働きます」
咲夜さんは何も言わずに私を風呂から引き上げ体を拭き薄い下着のようなものを着せた。
そのまま何処かへと連れて行かれる。
辿り着いたのは大きくはないが精巧な意匠が凝らされている扉の前だった。
「失礼します」
咲夜さんが扉を開く。
内側は薄暗くてよく見えないけれど、どうやら寝室であるようだ。
そのまま咲夜さんは扉の横で立ち目を閉じた。
……え?入れってこと?
私が部屋の中に入った途端、扉が閉められた。窓から差し込む月光だけが唯一の明かり。思わず後ろを見て、扉を押してみるが……びくともしなかった。さっきはあんなに軽そうに開いたのに。
そうして視線を前に戻す。
暗がりにも目立つ真っ赤な瞳が二対こちらを見つめていた。
「ひっ」
「おや、察したかな?注文の多い料理店という奴だ」
「お姉様、何言ってるの?」
「そういうお話だよ」
レミリア様が近づいてくる。
その目が私を観る。
力が抜け、ぺたんと絨毯に座り込んでしまった。
「あ………」
そのまま私を抱え上げ、大きなベッドに寝かされた。
「フランは直接吸うのは初めてだろう?私が最初にやり方を見せるから」
「わかった、見ておく」
そしてレミリア様は私の上に跨った。
「吸血、とは。相手の魂の一部である血を自分のものとすることで相手の魂を支配下に置くいわば儀式のようなものだ。だからね、フラン。その性質上相手の魂が揺らいでいたり思考が鈍っていたほうがいい」
まただ。またあの目。
「私を見ろ」
「や………です……」
視界がぐわんぐわんとする。脳が柔らかく溶けてゆく。
………
私はレミリア様を強く睨むように見た。
レミリア様は一瞬驚いたような顔をした後、今日見た中で一番の笑みを浮かべた。
「……そうか。そんなに支配されたいか。ふふ……私は前戯程度にしておこうと思ったが、やめだ」
レミリア様が私の首元をはだけさせる。
「妖精についても同じだ……これは珍しいことに妖精でありながら魂の自覚がある。ヒトよりやり易い」
首元に口を近づける。
寸前、こう言った。
「あぁ、言い忘れていた。私のは凄いぞ」
つぷり。
牙が突き刺さる。
痛みを感じる前に、熱が逃げていくような喪失感と私という存在が受け入れられる悦びが混ざり合う。
これは……とても、まずい。微睡むような心地よさ。
全身が溶け出すような………
「……ぷは」
首からレミリア様の口が離される。その熱さえ名残惜しいと思ってしまう。
「……そうか、月の妖精だったか。実に良い、良いぞ。親和性が高い……よく馴染む。それに、お前。能力を使ったな?」
そうだ。確かに私は吸血を反射した。したはずだ。
「いいか?吸血ってのは格下にやるものなのさ。その弱さで……私の魂なんぞやるものか。……ああ、でも。私が与えた感覚は反射できたみたいだな、私も気分が良い」
そうして、耳元で囁く。
「どの程度まで反射できるか知らないが……本当は、もっと」
心地良いぞ。
思わず靡きそうになった。
あぁ、あのとき跳ね返さなければ、もっと──
「さぁフラン。どれだけ吸えば良いかは私が観る、先にやって良い」
「ほんと?じゃあお姉様、見ててね」
次はフラン様が跨る。
金色のサイドテールがさらりと揺れた。
耳のそばで、『かはぁ』というような吐息が漏れて。
「んっ……!」
先程とは違った。
脳髄にばちばちと直接響くような快楽。
脳細胞が壊れる音が聞こえるような、絶頂に近い気持ち良さ。
「あ、ふらんさま、まって、むり」
反射できているか怪しい。私の反射は視線上のものに対してだが、視界が涙でぼやけてはっきりしない。
腕が持ち上げられた。
指先に生暖かいものが走り、噛みつかれたのがわかった。
途端、指先から感覚がなくなって蕩けたように錯覚した。
動と静。相反する快楽。
そして私は、ただ痙攣して快楽を享受するだけのモノに成り下がった。
△△△△△△△△△
或る日のの紅魔館。
「ん、フラン。調子は?」
「元気だよ、お姉様。たまに壊したくなることもあるけど───」
フランは腕に抱えた妖精を見せた。
体液が溢れないように、上にも下にも
「この子が受け止めてくれるわ」
「……久しぶりに私も同席して良いかな?」
「お姉様なら大歓迎よ!この子、私が吸うとビクビク震えて少し抑えなきゃいけないのよね……。でも、お姉様がいればどうとでもなるものね!」
フランが抱えた妖精が一際大きくふるえた。
書いててめっちゃ楽しかった。
いいねぇ吸血。隠れ蓑では誰か書いてーっていったけど、我慢できなかったし見つからなかったから自分で書いたのです。
まぁ結局レミフラです。うちの子はそれを引き立てるスパイスになれば良いなくらいにしか思ってません。紅魔館ってどの組み合わせも尊くて好き。
でもルミフラも好き。だいたい好き。
ここからは蛇足です。あまりに蛇足すぎて本編では描かなかった短い文。
読む必要のない方は飛ばしてください。
△△△△△△△△
咲夜は全て聞いていた。
羨ましかった。レミリア様の寵愛を受けること。血を吸われること。された行為全てが……どうしようもなく羨ましい。
血を吸われる感覚なんて知らない。レミリア様がどうして私を人間のまま側に置くのかも知らない、けれど。
私はレミリア様の側に居たい。ああ、無知で幼い私がレミリア様を狙った事への罰だと言うのなら。それでも、その決まりを破ってでも。
血だ。私の存在が薄れるほどの血をレミリア様が口にするだけでいい。それだけで私はレミリア様のモノだ。
あぁ、直接でもなければ私を支配しようと意識することもないだろうが。
これで私が倒れようが成功しようが……きっと。
罰が降るだろう。
その罰をこそ最も甘美な楽しみとしながら、咲夜は自分の腕を何度も切り裂き流れ出る血を瓶に溜めた。