外国人だし、まあ、単なる嫌がらせでしょうけど、そう言われた時、がっくりと力が抜けてしまった、ここはゲームの中の世界ではなかったのか、いや、現実なのかと思いながらベッドで寝ていると髪を染めましょうかと言われた。
「金髪にすれば少しは誤魔化せるんじゃない」
髪の色を変えたぐらいでと思ったが、そんな自分の目の前に鏡が差し出された、よく見てと言われて覗きこむ、鏡に映った顔を見て感じたのは違和感だ。
自分の顔だろうか、いや、髪の色もだ、以前、自分で何度か染めた事はあった、だが、もう随分としていない、それなのにこんなに薄い色だったろう。
まるで、自分ではないような気がした。
「さあ、染めてあげる、ブロンドはありきたりでつまらないわね、ブルネット、いえ、赤毛もいいかもしれないわ」
ところが、その髪染めで彼女は酷い目にあった、染め粉をつけて数時間後、我慢できないほどの痒みと頭痛に慌てて洗い流したまではよかったのだ。
だが、鏡を見た瞬間、外に出たくないと思った、何故なら、まるで老婆の様な真っ白な髪色になっていたのだから。
男は支配人室を出ると、階段を降りて一階に、女神像の前まで来ると当たりを見ながら、誰もいない事を確かめると壁に手を触れた、壁が沈む様に押され、男の体は飲み込まれるようにして消えた。
(やはり落ち着くな)
オペラ座の支配人という立場でありながら、こうして地下に来るとほっとする、結局のところ、ここから離れる事はできないのだ、外に出て常人の様に振る舞っていても、どこかで物足りなさ、虚無感を感じてしまう。
「それにしても、あの女、何をしているのか」
十日ほど前、突然、尋ねて来た女の頼み事、地下を使わせて欲しいと言ってきたのだ、許可など取らなくてもあの、部屋は元々彼女のものだ、好きに使えばいいと言ったのだが、それをよしとせず改装して使いたいと言ってきたのだ。
地下で暮らすつもりかと思ったが彼女の性格からして、それはあり得ない、一晩だけならともかくだ、家具、寝具、生活に必要なモノ全てを運び込んでできるなら他所から誰も入って来られないようにしたいと言い出したとき、愛人でも住まわせるつもりかと思ったのだ。
だが、聞いても笑うだけだ、こういうときは黙って放っておくに限る、知り合って随分とたつが、この女は酷いところがある、昔、愛人の始末を頼まれた時は正直、呆れた、だが、引き受けたのは相手が罪人だったからだ。
一度だけ様子を見に行こうとしたのだ、ところが通路は見事に塞がれていた、邪魔されたくないと思っているのだ。
十分過ぎる程の前金は、そういうことかと思ったが、ここはオペラ座の敷地、自分の領域でもあるのだ、一度くらい確認するぐらいはいいだろう、だが、それを後になって後悔するとは思わなかったのだ。
そう、オペラ座の支配人、仮面の男は。
しばらく、ここで暮らせばいいわと案内されたのは地下だ、オペラ座の地下に住むことになるとは、まるで自分が怪人になったみたいと思いながら、彼女はそこでしばらく暮らすことにした。