パサージュとはアーケード商店街だと思って下さい、パリの街はお洒落です。
オペラ座の近くにジュフロワというパサージュがあるんです、知っていますかと聞かれて、首を振った、自分一人でふらふらと待ちを歩くつもりだったが、友人にジュスティーナに頼まれましたからと言われては結構ですと断ることもできない、しばらく歩いていると通りの入り口に着いた。
パサージュは日本でいうならもアーケード付きの商店街のようなものだけど、通りが明るい思わず上を見上げると屋根がガラス張りであることに気づいた、流石パリ、お洒落だなあと思ってしまう。
古道具、菓子、本、色々な店が並んでいる店時代は決して広くないし、窓から中を覗くと綺麗に整頓されているというよりは何でも乱雑に積み重なったという感じがしないでもない、でも見ているだけで楽しい。
何か欲しいものがあるのかと聞かれて、返事に困ったのはお金をあまり持って来てなかったからだ、フランスの通貨に詳しくないのは、ここが現実でなくてゲームの虚飾の世界なら、どうなっているのかわからないからだ、だが、金貨二枚は持ってる。
歩きながら話しかけようとして気づいた。
「ムッシュウ、聞いてもいいですか、貴方の名前を」
「そうでした」
互いに自己紹介をしていなかったことに気づいて男は名乗った、エリックと。
驚いたのも無理はない、何、仮面も名前まで一緒とはびっくりだ。
「よくある名前です、オペラ座の支配人もですよ」
よくある、その言い方に確か原作の怪人もと思い出した、普通の平凡な名前をつけたと、母親が名前をつけてくれなかったので自分で勝手につけたのだと言っていた。
ふと部屋に残っていたジュスティーナと仮面の男の姿を思い出した、あまり仲良さそうではなかったと、どちらかというと楽しんでいる様な感じだ、彼女は、本当に正確が悪い。
そんな事を考えながら隣を見た、この間は自分ばかりが喋っていて気づかなかった、だが、この人の声は似ていると、思い出したのだ、いや、外人だから思うのかもしれないと、そんなことを考えていると気になってしまって、つい、見てしまう、だが、足が止まったのは店先に出ているワゴンに山積みにされた本を見たからだ。
窓から中を覗きこんだが、よく見えない、多分、目があまり良くないせいだろうと思ったのは現実でもそうだったからだ。
自然に足が向いて店のドアを開けると、湿っぽい空気の臭いがした。
奥へと進むとカウンターには一人の老人が座っていた、ちらりと見るだけで出て行けとか言うつもりはないようだ、もしかしてズボンにシャツという格好だから男と思われているのかもしれない。
そのとき、ドアの開く音がした店の中は決して広くない、本は棚だけでなく通り道にも溢れんばかり積まれているので邪魔になってはいけないと避けようとしたのだが、ぶつかってしまった。
「すみません」
謝って移動しようとして相手の顔を見て凝視してしまった、男の顔は肌が赤黒く、火傷、いや、痣の様に広がっていた。
ノートルダム寺院近くの通りで声をかけられた男は通り過ぎようとしたが、何故かそれができず老婆に声をかけた、すると占ってあげるよという返事が返ってきた。
「あんた、死臭がするよ」
嫌な言い方だと思いながら懐から一枚の金貨を取り出したが、老婆は首を振ると厄払いだよといいながら、カードをきりはじめた。
「もしかして、俺は死ぬのか、だとしたら本望だ」
数日前までは考えなかった、いや、思わなかったのだ、だが、今はどうなってもいいと思っていた、生きていて何の楽しみがあるのだという半ば自棄になっていたといってもいい。
仕事はうまくいった、正直、不安で画商に自分の絵を見せた時は緊張したものだ、もしかして駄目かもしれない、これで駄目ならと思ったのだ。
「あんたの会いたい人は、もういないんだね」
男は無言になった、まるで睨みつける様な視線を向ける男に対して、老婆は一枚のカードを目の前に突きつけた。
あれは外国人だよ、髪も目も黒いだろう、だけどジプシーじゃないんだ、だから。
だから、なんだというのか。
あんたのものにはならないと誰かが言った。
何を言っている、男は首を振った。
オペラ座通りで辻馬車の事故があったのを知らないのかい、ジプシーの子供を助けようとして、下敷きになったんだ。
「死んだよ」