自分の顔を見た瞬間、大抵の人間は顰んだ表情で視線をそらすのが常だった、だが、この場合はどうだろう、いや、自分の方が戸惑ってしまったのは男が仮面をつけていたからだ。
しかも、顔の半分を隠すだけのものだが、わずかに覗く唇の部分や表情から隠れた部分はいびつなものではないかと窺えた。
彼女を迎えに来たというが、一体どういう関係だろう。
「迎えに来たんだ、ジュスティーナに言われて」
男は濁す様に言葉を続けた、今夜は帰ってこないでほしい、恋人と過ごすから、それで彼女にはホテルに泊まってほしいと。
ここ最近ずっと自分に付き合ってくれていた、ゲームの時から男女関係は盛んでモテていたので、こういう日が来ても不思議ではない、だが、あまりにも突然だ、しかも、ホテルとは。
(今、所持金、銀貨一枚しかない)
これで一晩泊まれるのだろうか、もし夕飯、朝食の為の食べ物を買ったら、足りるのだろうか、いや、ジュスティーナは一晩というが、それではすまない気がする。
一人暮らしのほうが気楽でしょうと言われたことがあったからだ、パリで女二人が一緒に住んでいるというのは決して珍しくはないのだか、妙な誤解をされては困るというのがジュスティーナの言い分だ、同性愛などパリでは珍しくない、特に女同士の恋愛というのは男女よりも怖い部分があったする。浮気でなくても仲良くしているというだけで相手を殺すとか平気であるらしいのだ。
ホテルより知り合いの家に泊まる事にします、そう言った瞬間、男は知り合いとオウム返しに尋ねてきた。
突然、尋ねていって泊めてくれる様な知り合いなのかと聞かれて、返事に困ってしまった。
「では、その知り合いの家まで送ろう」
言葉が出てこないというか、うまい、返事が見つからない、返答に困っていると、彼女は今夜、ここに泊まるんだと割り込む様に言葉をかけてきた。
「今、いいところなんだ、絵が」
窓の外を見ると外は暗い街灯や街の灯りはあるが、自分のいた現実と比べると明るいという言葉の意味が違うと感じてしまう、だが、人の声はよく聞こえる賑やかすぎる、楽器の音だろうか。
「ありがとう、ミスター・フレディ」
今夜、自分を泊めてくれると言い出したときは驚きだったが、結果としては良かったのだ。
「これ、足りなかったら後で絶対に払いますから」
銀貨一枚、これで今の自分の所持金はなくなってしまうが、仕方がない、すると相手は驚いた顔で自分を見た。
「もしかして、だけど、明日も泊めてもらうということはできます、友人の一晩だけという言葉は正直、あてにならないと思って」
最初に彼女と出会ったときの様子を思い出し、画家は頷いた、いかにも恋多き、パリの女だったと。
「構わない、その君さえよければ、そうだ、夕食にしよう」
パンにチーズ、茶葉はいつ買ったものか忘れてしまったが、飲めなくはないだろう、一人だと食事さえ不規則になるが、今夜は特別だ、残り物ばかりですまないがと前置きしてテーブルに着くが、も相手はとんでもないと首を振った。
「本当にありがとう、ホテルに泊まるお金もないから困ったわ」
多分、あの男も気づいたのではないか、彼女の様子からと思ったが画家は、それを口にはしなかった。
「それにしても、突然だわ、前もって言ってくれたらよかったのに、早く見つけないと」
その言葉に画家は不思議そうな顔をした。
「アパートをね、できれば安いところをと思っているけど」
この時、画家は彼女が、いつも同じ服だということに気づいた、一緒に住んでいるジュスティーナという女性は仕立てよいドレスを着ているのに。
「君はドレスを着ないのか」
「ドレスは苦手で」
そういって女はカップのお茶に口をつけた。