剛志はギプスを外してソファーで寝転びマンガを読んでいる、三郎は反対のソファーでブランデーをチビチビやりながら何やら考えているのか、いやらしく含み笑いなどをしている。
「違うでしょ、ほんと○X○Xなん○X」
「こんな○X○X嫌○X○Xいくらなんでも○X」
隣から女の声が所々聞こえる、壁が薄ければ一部始終分かるのだが、豆田家は壁の厚みがそこそこあるのだ、しかしそれでも聞こえてくる、要所要所の大きな声は聞こえるのだ。
やがて声に熱が帯びてくる、時には緑子と思える声で怒声のようなものまで聞こえる、たかがヘソをアピールするのに、そんなにもハードな特訓のような物が必要なのか? 真相は分からないが小一時間ほど続いた。
佳代の決断、それは緑子の教えを請うというものであった。もっとも、衣類を没収されている現状、それ以外の選択肢がないのであるが。
「分かってますから離して下さい!」
部屋から出てきたようである、剛志は慌ててマンガを放り投げてギプスを付けようとする、本物のギプスであれば一度外したらもうそれは付けられない、新しい物を付けなければならないからだ。
しかし剛志のギプスはレプリカである、もう一度取り付けられるはずであった、しかしモタモタしているウチに緑子に連れられて佳代が入って来た。
佳代の顔は瞼が泣き腫れている、そして表情は悟ったような諦めたような感じである。体は汗でビッショリ濡れてヌメヌメと光っていた。
緑子にさんざんイチャモンを付けられて苛め抜かれたのだ。
胸と股間を手で隠している、縄は解かれていた。誰に言われるでもなく佳代は内股で剛志のところへと歩いて行く。
白い肌を照からせながら自分の前までやってきた担任を前にして剛志は股間をシコりたい衝動に駆られる、しかしグッとこらえる。
佳代からはぷーんと汗の匂いがした、佳代は剛志がギプスをしていない事に気付く、しかしさしてそれほどの驚きは無かった。
やはりそうかと思った程度であった、本来であれば怪我がウソであった事をせめるべきである、そもそも怪我をさせた事を詫びる為に裸にまでなって、そして緑子から不条理な事を散々やらされたのだから。
怪我をしていないのなら謝る必要などないのである、しかし今の佳代は精神的に疲労困憊していて、ただこの場から逃げたい、帰りたいの一心であった。
ギプスをしていない事を問い詰める気力が無く、また問い詰めたところで、こんな状況ではどうにもならないと諦めてしまった。
佳代は剛志のギプスを気付かないふりをすることにした、情けないがそれが今の決断であった。今はただ、お臍で謝って早く家に帰る、そう決めたのだ。
誠心誠意謝る、心の底から謝る、そうすれば必ず分かってくれるはずだ。先ずは要所を隠していた手を退けて両腰に伸ばしてピシッと付け、背筋をピンと張って気を付けの姿勢になる。
「豆田剛志さま、数々のご無礼をお許し下さい」
そう言って深々と一礼をした、不思議なものでこの時の佳代は情けなさや悔しさなどの感情は湧いてこず、本当に剛志に対して申し訳ないと思うようになっていた。
精神学では何というか分からないが、暗示のような、またはそれに類ずる精神状態に陥っているのだろう。
しばらくそのままの姿勢を続けたあと、今度は蹲踞(そんきょ)をする、剣道の試合前などでする動作、この蹲踞というのは相手を認め敬う敬礼のようなものである。
そして、スゥと立つ、今まで数え切れないほどの蹲踞をやってきた、蹲踞を終えてスックと立つ佳代は達人の領域に入った者しか出せないオーラを放っていた。
剛志は思わず後ずさりした、相手は今や一糸まとわぬ女である、それなのに気圧されてしまったのだ。
本来であれば、ここから剣道の試合が始まり、佳代の怒濤の剣技が繰り出されるところである、しかし今から繰り出されるのは剣技ではない、緑子に教え込まれた珍技(ちんぎ)である。
先ずは右手人差し指で自分のお臍を指さす、佳代のお臍は縦長で美しいお臍である、汗ばんで少し光っている、穴の中は見えないタイプだ、しっかりと閉じられている。
「豆田さま、申し訳ございません」
少しはにかんだ感じで謝罪する、その後はやはり恥ずかしいのか、無意識に唇を口に丸め込み鼻孔を伸ばす。
今度は人差し指をヘソの上に持ってきてヘソを上下に動かす、縦長の美しいヘソがもっと縦に伸びたり横長に縮んだりを繰り返す。
「本当に本当にごめんなさい、申し訳ございませんでした!」
先ほどよりも声が大きくなっている。
次は両手の拳を左右の腰に当てて腕を少し曲げる、そして腰を左右に振りながら
「大怪我をさせてしまって申し訳ございません」
そう言って動きを一瞬ピタリと止める、その直後
「でした~!!」
そう叫びながら腰を前後にカクカクと振った、まるでできの悪いコントのようである。
剛志は苦笑いしながら少し首を振り
「先生、俺を笑わせたいんですか? ぜんぜん申し訳ない気持ちが伝わってこないですよ、笑ってしまいそうです」
緑子に言われた事をやっているにすぎない、佳代はこれがヘソ謝罪、ヘソ謝りなのだと思っている。
始めて聞くヘソ謝罪という単語、佳代はもちろんどんな事をすれば良いのか分からない、だから緑子にこうやれと言われれば信じるしかないのだ。
しかしこれは謝罪などというものではなく、緑子が佳代という人間を破壊するためにさせているにすぎない、犬がチンチンをするように、ショーのオットセイがクルクル回るように。
とても普通の人間が恥ずかしくて、やらないような、鬼畜しかやらないような珍芸を真剣にさせる事で、佳代を壊そうとしているのだ。
この様子はしっかりと隠しカメラで撮影されていた。