三郎と緑子に問い詰められる、佳代も剛志の怪我の具合を知りたいのだが、やれ、弁護士に止められているだの、のらりくらりと、詳しくは教えてくれない。
確かに剛志は頭に包帯を巻いているし、右手も包帯をして固定されてはいる、しかし佳代は、何か違和感を拭いきれないのだ。
しかし佳代はひたすら謝り続けた、そのかいあってか、三郎は内密にしても良いと言ってきた。
「ああ、ありがとうございます」
佳代はそう言って椅子から立ち上がり、床に正座する、そして、涙を流し、額を床に付けて土下座した。
「ただし、タダと言うわけには行きませんよ先生、まあ、タダではないと言っても、あなたはお金がありませんしなぁ」
そう言ってタバコの煙をフゥーと佳代に向かって吐きかける。
「ど……どうすれば……」
自分でも情けなく、不安げな表情ではないかと思う顔を三郎に向ける、その目は、いつもの凛とした目ではなく、媚びた目であった。
「裸になって謝ってもらいましょうか」
「えっ!? い、今、なんと?」
きっと聞き違いだろうと思い聞き直す。
「裸ですよ裸、素っ裸になって謝って下さい、そうすれば今回の件は水に流しましょう」
「そ、そんな……そんな事……できるわけがありません」
佳代は震える唇で訴える、アゴもガクガクしてしまう。
「やってもやらなくても構いません、やらなければ明日学校に行きます、教育委員会にも報告します、裁判も起こすつもりです、ああ、もちろんそうなればご主人にも知れるでしょう、今回の件も、借金も」
佳代は震えながら脂汗をタラタラと滴らせる、事を内密にするには選択肢がないのだ……後は決心の問題なのである。
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1階の畳の部屋に佳代が1人。ここで服を脱いでから再び客間に来るように言われている。
正座して、目をつむり考える。どうしてこんな事になったのか、本当に裸になるのか、それとも、やはり裸になるのを拒否し、幹夫に洗いざらい話すのか……
考えれば考えるほど、絶望の答えしかなかった。
(い、今さら幹夫さんに言う訳には……)
ゆっくりと立ち上がり、白いブラウスに手を掛けた。手が震えてなかなかボタンを外せない。
自分では冷静に判断してるつもりだったのだが、どうやらそうではないらしいと気付く。
(裸で……土下座して謝る、生徒に怪我をさせたのに、内密にしてくれると言うのだから、このくらいは当然よ)
そう自分に言い聞かせる。ブラウスを脱ぎ終え、畳んで置く、次は紺のズボンに手を掛ける。少し落ち着いたのか震えがおさまる。
佳代の表情からは迷いが無くなっていた、裸になって土下座して謝る、それしかないのだから。
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客間に入るやいなや、胸と股間を手で隠す佳代は素早く土下座した。
「このたびは豆田剛志さんを……」
誠心誠意、心を込めて謝った。謝った後も床に頭を付けたまま上げない、三郎が良しと言うまで上げないつもりだ。
「八重樫先生、頭を上げて下さい」
三郎が優しく話し掛けながらそばに来る、顔を上げた佳代の顔は涙と鼻水でくしゃくしゃであった。
「先生、そんなに泣かないで下さい、緑子! ハンカチかタオルを持ってきなさい」
三郎はハンカチを手に取ると、佳代の涙を拭いてやる、その拭き方が少し変である、涙を拭くのは良いのだが、なぜか瞼を上にやり、目を剥き出させようとするのだ。
「あ、豆田さん、だ、大丈夫ですから、もう大丈夫ですから」
遠慮がちに三郎の手を押し退ける。
「涙で目が赤くなっていますよ先生、鼻も赤くなってますな」
そう言って今度は鼻水を拭きに掛かる。ハンカチで左右から鼻を摘まむと、チュるっと鼻水が鼻孔から摘まみ出される。
「あっ、豆田さん、ハンカチが汚れてしまいます、ティッシュを頂けないでしょうか」
三郎は佳代の鼻を真横から押す、鼻がひん曲がる。佳代は戸惑いながら顔をそむけ、困ったように訴える。
「豆田さん、豆田さん、ありがとうございます、後は自分でしますので」
露骨に嫌な顔をするわけにはいかないし、かといって愛想笑いを浮かべる気にもならない。
いつの間にか緑子が佳代の後ろに来て背中を擦りながら。
「八重樫先生、あなたの誠意は十分に伝わりましたよ」
「あ、ありがとうございます」
「誠意は伝わりました、でもね先生、本当の謝罪と言うのはね、基本が大事なんですよ」
「基本……と言いますと」
尋ねる佳代に答えず、緑子は三郎を見る。佳代の問いに三郎が答える。
「八重樫先生、剣道に極意があるように、実は謝罪の仕方にも極意があるんですよ」
「ご、極意ですか……謝罪に」
「ええ、そうです、私はね先生、今まで多くの人にお金を貸してきました、ですから色んな謝罪を見てきました、今の先生のように素っ裸になって土下座する人もいましたよ、男も女もね」
緑子に代わり、今度は三郎が佳代の背中を擦りながら説明している。
「裸になって土下座すると言うのは、大変、勇気のいる行為です、しかしね先生、踏ん切りがつけば結構できるもんなんですよ、私はそれは本当の意味での謝罪とは思いません」
「そ、そんな……」
先ほどは夫婦そろって、誠意が伝わったと言っていたではないか、なのにまだ謝罪が足らないというのか、佳代はこの夫婦が何を考えているのか分からなくって、恐ろしかった。
「一瞬の踏ん切り等ではなく、時間を掛けた本当の謝罪ってものがね、あるんですよ、この前、先生が剣道の極意はヘソだと教えてくれましたね? これはね、後出しジャンケンでも何でもなくてね、謝罪の極意もヘソなんですわ、先生」
佳代はこの男が何を言っているのか分からなかった、1つ分かることは、裸で土下座しただけでは許してくれそうもないことだろうという事であった。