三郎が言うには、瞬間的な決断でする謝罪は時間も短く、すぐに心変わりをするという。本当の謝罪というのは時間が長く、とても根気よくしなければならない、そういう謝罪は心変わりがしないという。
しかし佳代は、三郎の話を聞けば聞くほど何が言いたいのか分からなかった、結局のところ、自分に対して、無理難題を押し付けているだけなのではないのか、或いは、恥をかかせようとしているだけではないのか。
自分は誠心誠意、謝罪をする気になったからこそ、女だというのに、一糸まとわぬ姿で土下座したのだ、これ以上何をしろと言うのか!
佳代はやや、ふくれっ面になっていたのだろうか、三郎が問いかける。
「先生、怒っているのですかな? それこそが心変わりですよ、勢いの良い瞬発的な謝罪はすぐに心変わりをするのですよ、今のあなたのようにね」
佳代はこの男には何を言っても、何をしても無駄なのではないのかと思い始める、謝罪を切り上げ、帰るという選択肢もあるのではないかと思えてきた。
しかし……
やはりどう考えても、幹夫の事を思うと、何とか内密に収めたい! 裸にまでなったのだから。
「豆田さん、教えて下さい、本当の謝罪というのは、どうやれば良いのでしょうか? 体を提供しろとでもおっしゃるのかしら?」
内密に収めたいという思いと、訳の分からない三郎の言い分に対する怒りとの狭間で、佳代は挑発的な言動を言ってしまった。
本当は淑やかに、済みませんと言えば良かったかもと後悔する。冷静な判断ができなくなってきているのかも知れない。
そもそも、裸で土下座をしている時点で、謝った選択をしているのだろう。
「おやおや、やはり怒っているようですな、本当なら借金の型に体を、それでも良いのですが、今回は息子に対する謝罪ですから、そうもいかんでしょう、とはいえ、借金は借金でどうにかしてもらわないといけませんがな」
やはり下心があったのだ、佳代はそう思った、こうなってしまった以上、幹夫と離婚する覚悟でこの場を去ろうか? そう考え始める。
「今日のところは、ちゃんとした謝罪をして頂ければ、そのまま帰ってもらって構いません、息子の事も内密にしましょう、借金はまた今度、話し合いましょう」
この男とマトモに話す価値はない、佳代はそう判断する、これ以上、話しても無駄である、一言二言告げて、とっとと帰ろう、そう決めた。
「ですから! どこようにすれば宜しいのでしょうか? 私は無知ですので、本当の謝罪の仕方が分かりません、体を提供しろと言うのなら、帰らせて頂きます!
学校へでも、裁判でも、何でもして頂いて結構ですわ!」
先ほどまでのお淑やかな態度ははどこへやら、ついに三郎に対して啖呵を切る。
「これはこれは、えらく御冠(おかんむり)ですな先生、何も体を提供してくれ等と言うつもりはありません
、本当の謝罪をしてほしいだけなのです」
「で、ですから、本当の謝罪のやり方をお教え下さい」
「先ほども言いましたが、謝罪の極意はヘソです、ヘソで謝って頂きましょう」
「……」
剣道の極意はお臍である、これは真実である、しかし謝罪の極意がお臍などとは……まるで取って付けたかのような物ではないか!
「裸にまでなって……土下座をして……そのあげくが……」
バカにされていると思った、悔しくて悔しくて、情けなくて情けなくて、先ほどとは違った涙が溢れてくる。
____
「帰ります!」
そう言って両手で要所を隠し立ち上がる、内股で歩きながら服を着に畳の部屋まで行く。しかし……
「えっ!? 服が……服が無いわ」
確かに畳んで置いていたのだ、しかし無い。
「本当に帰るのですかな」
三郎はニヤついている。
「ふ、服を返して下さい!」
「分かりました、謝罪はせずに帰るのですね、では私からご主人に電話しておきましょう」
そう言って、くるりと廊下に行く。
「な、何を、電話なんかしなくても良いですわ!」
慌てる佳代は要所を隠しながら追いかける。三郎は電話に手を掛けプッシュホンを押し始める。
「ま、豆田さん、待って下さい! 電話は必要ありません、私からしておきますので!」
「じゃぁ、どうぞ」
すでに番号を押し終えたのか、受話器を佳代に渡す。
「えっ!? な」
耳に当てると、プルルー、プルルーと音がしている、そして……幹夫の声がした。
「あっ……わ、私です……い、いえ……もうすぐ帰りますので……はい、今、豆田さんのお家から掛けています」
電話に夢中で要所を隠すのが疎かになる、三郎、緑子、剛志の目線が裸体に纏わり付く。
剣道の達人ではあるが、それほど筋肉質ではない、白い裸体は女らしい、しかし、一般の女とはやはり、一線を画する鍛えられた肉体美。
そして3人の視線が一点に集中する、股間は角度的に見えない、胸は丸見えだ、お椀を乗せたような程よい大きさの胸、その頂点を見据えている、乳首だ、乳首が異様に長いのだ!
「はい、では切りますね、あっ!? 何っ!」
三郎が左の乳首を摘まんだのだ、佳代は体をビクンとさせて驚きの声を上げる。まだ電話中である。
更に乳首を外側にひねり伸ばされながら、信じられないと言った風に大きく見開いた目で三郎を見る。その表情のまま電話を切ろうと試みるが、
「あ、あなた、切るわね、えっ? うんん、何もないわ、あっ!? ちょっ、ちょっと!」
今度は右の乳首を緑子に摘ままれる、抗議の目を向けると、止めるどころか三郎と同じく外側にひねり伸ばされた。
「のぉっ! のわっち!」
思わず言葉にならない声を上げてしまう、今の声はどうした? 何かあったのかと尋ねる幹夫に言い訳をする。
まさか豆田夫婦に乳首をひねり伸ばされましたと、本当の事は言えない。
「む、虫が出たのよ、あなた。とりあえず切るわね」
ガチャン__
「な、な、何をするんですか、あ、あなた達は何をしたか分かっているんですか!」
「分かってないのはどっちですかな」
三郎はまた受話器を手に取りプッシュホンを押し始める。
「ま、待って下さい、分かりました、謝罪します、言われた通りにしますから!」
そう言うしかなかった。