キャプチャー・アプリ 作:Mr.ハナニラ
名前:マリカ
捕獲経験:4
モンスター:3
捕獲の鎖:5
4-1
とある日の早朝。俺は珍しく早起きをしてリュックサックの中身をよく確認していた。水と食料、懐中電灯に携帯充電器など、さまざまな道具は事前に準備した甲斐もあって何一つ欠けることなくそこにあり、俺は安心して胸を撫で下ろした。
いつもなら起きると適当に呼び出した簪たちモンスターで遊んだり、近くのレストランで食事をしに行くのだが今日は違う。俺は誰も呼んではいないし、何処かに行くこともしない。いや、外出はするが、それはこの世界での話ではない。
これから俺はモンスターを捕まえにいくからだ。それも、いつの日かガチャで当てた『異世界パスポート』の力で異世界に赴いて、だ。
と言うのも、先日のリチャードさんとのトレードで鎖を五個も獲得した俺は新たなモンスターを捕獲しようとした。しかし悲しいことに付近のモンスターは他のプレイヤーに狩り尽くされたのか中々見つからず、遠出しようとしていた折に俺は『異世界パスポート』の存在を思い出したのだ。
遠出するならいっそ誰もプレイヤーの居ない異世界に行こうと考えた発想は我ながら天才だと思う。それに、『異世界パスポート』は行きたい世界の設定を事細かく設定できるらしく、これを使えば美女も簡単に見つけられる筈だ。本当、一等のアイテムは伊達じゃないようで嬉しい限りだ。
もちろん、浮かれてばかりではない。異世界はどんな場所なのかとか、異世界の女の抱き心地は良いのかとか好奇心は絶えないが異世界で危険な目に遭わないため、準備はしっかりしておいた。
アプリの説明ではプレイヤーの安全は最低限保証されるとのことだったが、それが具体的にはどんなものなのかは分からない。故に備えは万全にしておくべきだろう。このリュックサックはそんな考えから用意した非常装備を詰めた物だった。
「それじゃ、行くか」
俺は携帯を操作して『異世界パスポート』の使用を選択し、目の前で発生した謎の渦に向かって足を進める。今回向かう先はエルフや獣人の居るファンタジー小説に似たところを設定してある。
さぁ、一体どんな場所に行けるのやら。そんな風に俺は不安を振り払うように笑みを浮かべ、先の見えない渦の中を行くのだった。
渦を超えた先は巨大かつ荘厳さを感じさせる扉がある空間だった。俺は確認のためにリュックサックから懐中電灯を取り出すと、周囲を照らして暫くの間見渡してみた。
しかし、見つかったのは扉を守るように立ち塞がるように立っているニつの巨人の像くらいで何もなく、現在位置すら周りが岩に囲まれていることから恐らく洞窟か何かの内部であると推測できるだけだ。
「いきなり洞窟か。人気もなさそうだし、運がないな」
はぁ。と大きな溜め息を吐いて、俺は頭を掻いた。街の近くに転移させてくれれば良いものを。これじゃあ外にどう出るのかすら分からない。
とは言え、ここで一旦戻るのも釈然としない。だから、とりあえず目の前の扉を開けることにした。
もしかしら外に繋がっているかもしれないし、この世界にしかない財宝なんかもあるかもしれない。別に、少し覗いてみて危険そうだったら引き返し、別の世界を探せば良いのだ。初めて来た異世界をさっさと去ってしまう前にワンチャンスに賭けてみるのも良いだろう。
そうして、俺は努めて慎重に。けれど好奇心からやや軽い様子で扉の方へ足を向けた。
瞬間、地面が揺れた。
「えっ?」
間抜けな声を出しながら体勢を崩して転倒した俺の頭上に突如として影が差す。顔を向ければ、先程まで微動だにしていなかった巨人たちがその一つ目で敵意に満ちた視線でジッとこちらを見下ろしているのが分かった。
死ぬんだったらせめてもう少し、捕まえたモンスターたちをハメ倒しておけば良かった。
走馬灯の流れ出した頭でそんなことを思いつつ俺は自分自身の死を予感し、片方の巨人もまた一歩大股で近寄って来ると俺の思った通りにこちらを踏み潰そうとゆっくりと足を上げる。そしてそれが限界まで上がった時、巨人は全体重をかけて勢いよくその足裏を真下に下ろした。
グシャリと物の潰れる音が、続いて鼓膜が破れるかと思う程の爆音が鳴った。
それから二秒、三秒と経ち、目を潰し最期の時を待っていた俺は何の衝撃も痛みも感じないことを訝しんで恐る恐る閉じていた目を開けた。
するとそこには、思わず目を疑うような光景が広がっていた。
それはこちらを潰そうとしていた巨人の片割れが俺の周りに展開された障壁によって攻撃を防がれ、逆にダメージを受けて振り下ろした足を失っていたのだ。
「なんだ、これは」
目をばちぱちと瞬かせ、はっと気付き胸元で震えていた携帯を取り出した俺は画面に「安全保証機能」と書かれているのに気が付いた。
まさか、最低限の保証とはこれのことか?俺はあんぐりと口を開けて何処からか照射されたレーザーとそれに焼き焦がされていく巨人たちを見つめる。
「このアプリ、本当なんなんだ?」
少し震えてしまった声で俺はキャプチャー・アプリが表示された画面を見た。ひょっとして、このアプリはとんでもないモノなのではないか。人間には予想できない測りきれないナニカ。
俺は自分の背筋に悪寒が走っていくのを感じ、ごくりと唾を嚥下する。そして。
「……ま、いいか」
軽い口振りでそんな思考を彼方へ追いやった。
「俺にとってこいつは女をゲットできる便利な道具だ。それで良いさ」
そうだ。結局、考えても分かりはしないのだから今まで通り好き勝手にやるのが一番だ。キャプチャー・アプリを使って、もっともっとモンスターを捕まえる。少なくとも俺はそれで良い。
「んじゃあ、この扉を開けますか」
守る者の居なくなった扉の前に立ち、両手を突いて力の限り押す。予想に反して扉は軽く、音を立てることなく開かれていくのにやや拍子抜けしながら俺は真っ暗な部屋に懐中電灯の光を当てた。
もしかしたら中に先程の巨人の仲間が居るかもしれないがアプリの力がある今、そんなものは恐るるに足りず。俺は意気揚々と部屋の中に踏み込み何かないか辺りを探した。
「……誰?」
その時、声がした。
か細く掠れて聞きにくいが、女の声だ。直感がそう叫んでいる。俺は聞こえた方向である部屋の中心に向かって懐中電灯を向け、そこにあったモノを見た。
それは立方体の謎の物質に下半身と腕が埋め込まれた、月のように煌めく長い金髪を垂らした紅い瞳の少女だ。歳は十代前半程でやややつれているものの端正な顔立ちをしており、隠されることなく晒された乳首は淡い桃色に染まっていた。
慌ててキャプチャー・アプリを起動して目の前の少女を確認すると、今まで捕まえたモンスターたちと比べてやや薄い表示でモンスターであることを示す表示がされている。
俺はモンスターの発見の通知が無かったことを訝しみつつも、試しに彼女の元に近付いてみれば彼女の身体がよく見えて来てストライクゾーンからやや外れるもののかなりの魅力を感じ取れた。
「……お願い……助けて」
「助けてなんて言われてもな」
こちらを見つめて懇願する姿に多少クるものを感じながら、俺は少しの間助けるべきか思案した。
まず彼女はマトモじゃない。そうじゃなかったらこんなに居ないだろうし、巨人たちやこの立方体のような厳重な警備の元閉じ込められることもない。故に、彼女がここに居なくてはならない何かとんでもない理由があるのは自明の理だ。
もしかしたら、彼女は凶悪な犯罪者で罪を犯して捕まっており脱出した後で俺を始末するつもりなのかもしれない。
もしかしたら、彼女は濡れ衣を着せられた被害者で罪のないか弱い少女なのかもしれない。
俺は顎に手を当ててウンウン唸って考える。
「ま、捕まえればある程度は大丈夫か」
「モンスターを捕獲しました」
そして、とりあえず彼女に鎖を投げつけて捕まえることにしたのだった。
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