また、狩猟方法、食材加工に関してなどは法に触れるものもあるので絶対に真似しないでください。
序章
平成18年、中秋。
秋晴れの澄んだ空気の中、およそ10年の月日を経て踏み締めた母国日本の地と、肺胞一杯に吸い込んだ稲刈りの後の懐かしい香りを含んだ空気は、海外生活で鈍った日本人という感覚を瞬時に喚び起させる。
此処は米どころ、酒どころの港町。
俺が生まれ育ち、これから此処を拠点に日本を変える場所。
失礼。自己紹介がまだでした。
俺の名前は…便宜上レイとしておきましょう。
本名だと英語圏の人は発音しにくいみたいで、向こうではレイと呼ばれていた。
ともあれ、先ずは愛犬の小太郎と、県庁所在地の繁華街に有る実家を目指した。
道中ジョイントを咥えながら、誰も出迎えることのない実家を目指し、ただ歩みを進める。
思い出す幼少期、初恋、両親のこと。
もう戻らない時間のことばかりが頭を駆け巡り、実家に近づくにつれて歩みも遅くなっているように感じた。
それでも歩いていれば否応無しに到着してしまうもので、
その頃にはだいぶブリブリになって「まあ考えてもしゃあないし、今夜のパーティを楽しむか!」なんてポジティブな考えになってしまうものです。
そう、今日は俺の帰国と、海外で出会い、同じ目的を持った同志の決起を祝う宴が催される。
仏壇に手を合わせ、両親に挨拶をすませると、掃除に取り掛かった。
会場はいろんな都合上、此処でやるしか選択肢がないのだ。
実家は純日本家屋の二階建て。そこそこ広い建坪に、庭と車が4台ほど停められる駐車場がある。
人を招くには何の問題もない。
間も無くするとベンツのゲレンデとトヨタのランクルが駐車場に止められ、中からスキンヘッドの筋肉隆々な外国人と、ドレッドでちょっと口のしゃくれた日本人が現れた。
スキンヘッドの方がLAのギャング時代の相棒ジョーで、ドレッドの方がジャマイカで出会ったDJで、俺とユニットを組んでいる三浦だ。
宴の準備を手伝う為、随分早目に来てくれたのだ。
「yo レイ!元気そうじゃん!キノコいっぱい持ってきたよ!」とジョー。
「またレイとセッションできるなんて嬉しいよ!ガッツリかましてやろうぜ!」と三浦。
二人とハグを交わして、少しジョイントを回して近況報告。
俺が海外で明確な目標を持って動き始めてから今日まで、彼らは日本で同志を集め、俺とのパイプ役になってくれていた。
お陰で心強い同志が増えたのだ。
メンツの紹介は置いておいて、先ずは宴の準備が優先だ。
三浦は料理、ジョーは食材の買出し、俺は近隣への挨拶まわりとゲストの迎え。
新幹線が止まる地元の主要駅で待ち合わせ。
大麻堂の麻枝さん、作家の中島らもさん、グロワーの桂川さんの仲良し逮捕トリオを迎え、車に乗せる。
「麻枝さん、お久しぶりです!らもさん桂川さんもお務めお疲れ様でした。でも出てきたばっかりなのにうごいちゃっていいんですか?」
少々不安の種を聞いてみると、「レイ君あの裁判の判決文ちゃんと読んどらんな?あとで説明するけど、一歩前進やったんや!それにこれからやろうとするんはもっとえらいことなんや!ビビんなや!」と笑い混じりに励ましてくれる麻枝さん。
「レイ君、最高なやつ持ってきたから何にも心配いらないって!」と桂川さん。このおっさんどもは頼もしいのか、不安の種なのか…。
らもさんは既に夢うつつで、相槌を打つのがやっとという感じだ。
家に到着して麻枝さんたちを下ろすと、すぐに今度は空港に向かうが、燃費の非常にいいゲレンデはもう空腹のようで、スタンドで給油。
元気よく出てきたお姉さんに誘導され、カードを渡すとお姉さんが固まった。
「レ…イ…?」俺の名前を呼ぶお姉さん。こんな美人で巨乳のお姉さん知らな……知ってる!
「サツキ?」
中学の時の一つ先輩、北大路サツキ。俺の初恋。ホームステイから帰ったら告白しようと思っていた憧れの先輩。
「バカッ!本当に心配してたんだから!何で今頃帰ってきてんのよ!信じらんない!人の気持ちも知らないで何してんのよ!」憧れの先輩が目に涙を浮かべてなんでこんなことを言うのか理解できなかったが、突如俺の胸に顔を押し付けて涙を拭ったところで合点がいった。
そうか、片思いじゃなかったんだ。
「ごめんサツキ、心配かけて。俺急ぐから仕事終わったら俺ん家来れる?ちゃんと全部話すよ。またな!」
「う、うん…わかった…。」無理やり納得したような顔で見送るサツキ。強引すぎたかと少し反省する。
しかしゲストを待たせるわけにもいかないので、空港へと急いだ。
到着すると、ゲストはもう待っていた。
ルポライターの草下さんと、ジャマイカで出会ったベーシストのエミリだ。
「ハイ!レイ。久しぶりね!三浦はもうきてるんだっけ?あ、こちらが前話した草下さん。」
「はじめまして。草下です。お若いのに頑張ってますね!エミリから話を聞いて私も力になれないかなって参加させていただきました!」
随分礼儀正しい挨拶をされ、こっちも変に畏まってしまい「はじめまして!草下さんに参加していただけるなんて光栄であります!」なんて肩に力が入り過ぎた挨拶をしてしまった。
二人を家まで連れて行き、今日集まるメンツが揃った。
もう感づいている方もいると思うが、俺たちが今日ここに集まったのは日本における初の嗜好品も含めた大麻特区及び、芥子、コカ、シロシビン、メスカリンの栽培加工使用を認める自治区の設立を目指す団体の旗揚げの為である。
つまりはただのジャンキーの集まりなのだが、どうしてこんなことになったのかとか、これからどうなるのかは本編でじっくり書かせて頂きます。
まずは宴を楽しんでいただければ幸いです。
乾杯ならぬ着火の音頭は麻枝さんが取り仕切る。
「レイ君の帰国と、我々の活動が無事成功することを記念して!あ、あとじじい3人の出所も少し祝って!着火!」
極太のジョイントに一斉に火をつけ、吸い込む。
うめぇ!桂川さんの大麻は甘く鼻をつく香りとともに、徐々にあがっていく。
座敷と奥座敷をぶち抜いた会場は一瞬で煙に包まれ、もはや呼吸しているだけでキマりそうだ。
ノってきた三浦がサラを回す。
珍しく落ち着いた雰囲気のレゲエは、おじさんにもウケがいい。
最初こそ宴の趣旨に沿った会話をしていたのに、開宴小一時間でもはや支離滅裂な、ぶっ壊れた、ぶっ飛んだ会話しかできなくなっている始末。
特に3人の出所間もないおじさんたちが酷い。
コンパニオンが欲しいと暴れるらもさん。
ギターをかき鳴らし、大声で「いいんだぜ」を歌うらもさん。
勘弁してくれ。
そんな時、見覚えのない番号から着信。
「もしもし?」
「もしもし、レイ?サツキだけど…。」
「おう、電話ありがとう。仕事終わったの?」
「うん。でね、これからレイのとこ行こうと思うんだけど、いい?」
困った。家に来いと言ったのは俺だが、この惨状を見せていいのか?いやまぁこれから先もサツキと付き合っていくとするなら知っててもらわないといけない事実ではあるのだが…。
南無三!
「いいよ。ただ今仲間が帰国を祝ってパーティ開いてくれててさ、それで良ければおいでよ。俺の話は終わってからちゃんとするからさ。それと、おかしな奴いるけど気にしないでね。」こう言うのがやっとだった。
「まじ?私なんか言っていいの?いい感じの音も聞こえてくるから楽しそう!」
「あー、俺の相方が回してるからね。レゲエ好きなの?」
「好きだよ!一応ダンス習ってるし!友達も連れてっていい?」
「いいよ。じゃあ待ってるわ。来たら電話鳴らして!チャイムだと聞こえないし。」
「わかったー。じゃああとでね!」
電話を切って、一応みんなに報告。
程よく盛り上がるらもさん以外と、最高に盛り上がるらもさん。
30分程でサツキが到着。
友達とやらが4人くっついて来た。
ダンス仲間だそうで、皆なかなかレベルが高い。
「お邪魔しまーす。ってかくっせ!やっぱそんなこったろうだと思ったよ。もー大丈夫なの?」
「大丈夫。ここは治外法権だし。てかサツキもいける口?」
「私らはやったことないけど、周りは多いからね。悪いもんじゃないってことくらいはわかってるから大丈夫。でもあのレイがこんなんなっちゃってるとはね、驚き。」
皮肉ったようにサツキが言う。
「まあそこらへんはあとだね。とりあえずみんなに紹介するからあがんなよ。」
奥に通すとみんなのテンションが上がる。
「俺の先輩のサツキとダンス仲間だって。葉っぱとか吸わないけど、大丈夫みたいだから気にせず吸ってていいよ。」
続いてサツキの友達が名を名乗る。
「景子でーす」「えみです」「つかさです」「亜夜です」
「うちらナイトナースってグループで活動してるから、今度イベント遊びに来てよ!」
ここで暴走機関車らーもんがテキーラを水鉄砲に入れてはじき出す奇行に出る。
「美女の口に発射するんはたまらんのー。いろっぽいのー!」とナイトナースが餌食になったので、流石にまずいと思い、ロヒプノールで眠らせる。
やっと落ち着いたところで、景子とえみが前から葉っぱ吸ってみたかったとカミングアウト、サツキも実は私もと言うので、ここは麻枝さんと桂川さんにご教授をお願いする。
美女の頼みとあって、普段よりも気合と熱がこもった講義となったのは言うまでもない。
「そや、限界まで吸い込むんや。クッと息止めて、限界来たら吐き出すんやで!そう、今や!」
体育会系の部活さながらじゃねぇか。
しかし良いネタと良い講師のお陰なのか、3人とも初回でキマっている。
恍惚とした表情を見て、つかさと亜夜も最初こそ吸わないと言っていたが次第に興味が上回り、みんな仲良くブリブリだ。
ストーンを抜け、動けるようになった頃、三浦が曲を変えた。
早めなレゲエをガンガン鳴らし、「踊れ踊れ!」と煽る。
乗せられて踊るナイトナース。
力尽きて眠るまで踊る。
畳のフロアの上で…。
テキーラやいろんな汁が染み込んだ畳の上で力尽きた同志たちを他所に、俺とサツキは二階の俺の部屋でジョイントを回していた。
「で、説明してもらおうかしら?どうして帰ってこなかったのか、どうして今帰って来たのか、今までどこで何をしていたのか、全部ね!」
「わかったよ。その前に言わせて。サツキのこと好きでした。ホームステイから帰ったら言うつもりだったんだ。今更だけど、やっと言えた。」
「遅すぎだって。もし私にいい人がいたらどうすんのさ?まぁ、たまたま私が一途に待てる女だったから良かったもののさ。ほんと良かった…。」
「え?10年間?ずっと?誰とも付き合わずに?」
「そうだけど?周りには勿体無いって散々言われたけどね。次のあんたの誕生日までは待つつもりだったからギリギリセーフね!」
「いや参ったね。憧れのお姉さんは身も心もあの頃のままって訳か。敵わないね。」
「だから、これで説明の義務が生じました!ハイ、説明をどうぞ!」
序章 終