吸血鬼は淫魔の夢を見るか? 作:マスター冬雪(ぬんぬん)※休止中
オリ主×女 性描写アリ/最後にオリ主×ディオ少々
詰め合わせっぽくなった。
女郎蜘蛛は動かない。
巣の中でただ獲物が掛かるのを待ち、糸で捕え、その毒牙で弱らせ、身動きが取れなくなった所を捕食する。
ぎしりと軋む。
白く柔い躰が波打つように跳ね、紅を塗った肉厚な唇がキスを強請る。
それを避けて、ざらりとした壁を擦りながら突き上げた。
「あンッ!っもう、意地悪……ぁあ、」
何処も彼処も柔く華奢で掴めば指が沈み込む。太腿、尻、腹へと掌を滑らせれば女は甘く啼いた。
「キスは嫌なんだろう?」
「あっ、あ、ちが、オーナーなら、」
「俺なら?……フフ、それはとても光栄な事だ」
「本当なの、水瀬さんだから、私……っ」
“仕事”を始めて暫くになる。最古参に入るだろうこの女は初めに募集を掛けた時からの付き合いで、勤務態度も良く総合的な収益も上位に食い込む程だ。入れ替わりの激しい、良く言えば縛りが少なくいつでも始められいつでも辞められるアルバイトのような緩い職場である為、此処まで長く残るのも……いや、少なくはないが、多くもない。
その為ある程度の経年数になればボーナスの支給の際に要望を聞くようにしているのだが……身も蓋もない言い方をするならば、こういう古参の大半は俺が目当てなのだ。収益に応じて報酬を与えるのも吝かではないのでまあいいかと抱いてやるのだが。
“仕事上”あれだけされておいてプライベートでも欲情出来るな、と半ば感心している。恋愛とは斯くも度し難い。
けれど、分からなくもないのだ。俺もアイツに求められれば喜んで抱くだろう。アイツが俺を求めるなんて天地がひっくり返っても有り得んが……ん、いや然し、想像しただけでも愛しいな?いっそ飼い殺してやりたいくらいには。
「俺だけに、その唇をくれるのか」
「っ……ン、そうよ、そうなの、貴方だけに……」
心酔し切った潤む瞳。
よくもまあ、なんとも。
「ああ、早く、水瀬さん。キスして、私に……」
赤く色付きぷくりとした、肉厚な果実のような唇。
女の肌に触れ、雫を零す欲求と懇願の眼差しに、俺は漸くキスをしてやった。
愛、恋、執着、畏れ、欲求、盲信、心酔、金。相手に求めるものは多種多様だが、その代わりに彼ら彼女らは俺に自分が払える対価を捧げるように押し付ける。これだけのものを払えるから、自分が欲しい物を、その分だけでも与えてください、と。
全てを他人に差し出す人間達の気が知れない。己という存在は誰でもない己だけのものだろう。心も身体も、傾けるなら兎も角全部捧げてしまう人間達は、きっと頭が弱いのだろうなと思う。虚像に酔い、信仰に目を曇らせて、偶像を崇拝する。ここまでくれば宗教そのもの。色慾とは、情とは、掌で転がせるほど小さくて可哀想だ。
“店”の方針としてNG行為はきちんと定めており、違反した場合は“組”から雇った警備が従業員のヘルプコールに応じてストップを掛けに部屋に雪崩込んでくる仕組みになっている。
どんなプレイも許容するがキスだけはNGで。なんて事も従業員によってはよくある事だ。
それが悪い訳では無い。人は多様性の集団だ。価値観も感性も何もかもがばらばらで、それは受容して然るべき、と俺は考えている。
であればそれを踏まえた上で環境を整え、従業員の精神と身体を守るのがオーナーとしての役目だ。……だがそれ以外は管轄外である。個々人に係う時間すら本当は惜しい。宣伝も勧誘もバックアップも何もかも全て俺が担っている為に、幾ら時間があっても足りないのだ。それでも尚、俺は態々手間をかけてやっている。……まあ、1から10まで自分が決められると考えれば前の職場よりは数段良いが。
そして上顧客となった者の大半はというと、こちらも俺に相手をして欲しい人間ばかりであったりする訳だ。
このような仕事の根底に俺ありきなど、業務態勢としては下も下甚だしいが、俺の標的はあくまでアイツなのでこちらの方が却って都合が良い。生かすも殺すも俺次第というのが実に俺好みなのだ。
雇用条件は自由度の高さを。アルバイト感覚で気軽に始め、後腐れなく辞められる事、尚且つ従業員の安全と安寧を充実させ、リスクを限り無く減らし、顧客との摩擦を極力無くした形態で。
そうしてこの“仕事”が成り立っている。幸いにしてクオリティの高さはその道に詳しい顧客のお墨付きである。此処までクリーンに偽装した“ビジネス”は無いとすら言われたが。偽装とは人聞きが悪い。ただこちらは堂々としているだけの事だ。
ああ、表側はあくまで立地のいいビジネスホテルで、大衆向けのサービスももちろん存在する。
裏側の事業はお察しの通り法的にはグレーである。あくまで“自由恋愛”を謳うソープなんかの風俗と一緒。不幸な事にバックには警視庁だの警察庁だの議員だのの官僚サマがいるので暫くは安全だ。金とコネの力とは偉大だと言うべきか、この世界が腐り切っている事を嘆くべきか。俺のような人間にとってはとても居心地が良いのだが。
まあ、いっそバレてもいいんだ。勿論探られれば俺が出る事も吝かではないが。その時が来れば全て蛻の殻にして逃げるし、さもなくば全て囮にしたとしても彼ら彼女らは俺を赦すだろう。然しながら万が一にも不利益を被らないようにするのが、“暗躍”、というものだ。
それでもそこまでいけば俺は表の世界を歩く事すらできなくなる。だがまあ、……それも悪くない。
*
「よォ“京チャ〜〜ン”。儲かってるゥ?」
自分用に誂えた執務室にて今後の算段やら月末決算をしている京一郎の元に、チンピラ然とした、然れど何処か底知れぬ、より濃い暴力の気配を服を着るように纏った猫背の男が現れる。少し派手派手しいシャツも、不思議と男は着こなしているように見えた。
「ああ、いらっしゃいませ“先輩”。ボチボチですかねぇ……。言って頂ければ御出迎えしたのですが」
「あ〜いいっていいってそういうのは。堅苦しいのは言いっこなしだぜ」
京一郎の、というよりも敦の“先輩”である彼に京一郎は眼鏡を外しながら、敦は今“外回り”に出ておりますよと口にする。
「そっかァそらぁ残念だ」
白々しい程に興味が無さそうな声音である。
「申し訳ありません。私で良ければお話の相手を努めましょう。どうぞ、お掛けになって」
見る者の思考の方がぼんやりしてしまうような、うっそりとした蠱惑的な笑みが京一郎のデフォルトである。
なめらかな天鵞絨のような声音は耳触りが良く柔和な印象を持たせるが、男は知っている。それは擬態に過ぎず、本性は自分達のような黒い背景を持つ人間と全く同じ者であるという事を。下手な組織の上層よりも余っ程厄介な化け狸だ。何せ、何処に繋がりが伸びているか見当も付かないのだ。バックに何があるか分からないというのは、それだけで恐ろしい。人間というのは社会性の生き物なので。京一郎の事だ、その“繋がり”の先にいる相手は、どれだけの感情を京一郎自身にむけているのやら。
男がどさりと質のいいソファーに腰を下ろせば、柔く笑んだ京一郎が珈琲を差し出す。
「いつも紅茶は飲まれないようなので」
「……いやぁ悪いねェ〜」
“いつの間に”、とも、“いつから”、とも。
隙という隙ではないにしろ、観察されていたという事がここまで恐ろしい人間もそうそう居まい。そしていつかは此処に“自分が彼に会いに現れる事”を予見していたという事が、男の肝を冷やさせる。
礼を言えば京一郎は花が開くかのように艶やかに、且つ淑やかに微笑んで向かいに腰掛ける。
「最近の楽しみは此処に来ていただける方とお茶をするくらいだったので、とても嬉しいんですよ。近頃は何処に行くにも視線が付き纏っていて、外に出るのも億劫になってしまう」
「……視線?」
「ええ。どうにも若い組員の方のようなのですが」
「ほー……そらァ良くないな」
「そうなんですよ。この仕事を初めてまだ数ヶ月。今の時期はお得意サマにのみ裏のサービスをしていきたいので、あまり探られるような事はされたくないんです。……火種が小さいと、容易く消せてしまうでしょう?少なくともあちらさんにそう思われてしまう事自体が問題なんです。なのでもう少し日を置くべきだと考えている」
「道理だな」
「でしょう?気が早って排除に働きそうな方がチラホラいるので……また、“彼と同じ二の舞となってしまうのが”、とても心苦しい─────」
─────“彼”は偶然にも、裏切り者の鼠であったから良かったものの。
「その節はすみませんね?勝手に排除してしまって。止める暇もなく、気付いたら……フフ、東京湾に沈んでいました」
「いやいや、誰もお前さんを責めやしねぇよ。よくある偶然なんだからな」
「……、フフ、まあ、“そのようにしておきましょうか”」
嘆息する様すらも艶やかで麗しい。
どう見ても女性的とは言い難いのに、その美貌だって同等程度の者が他にいるだろうに、何故こうも目が離せなくなるのか。きっとこの男は、老いさばらえたとしても、今が春よと言わんばかりの薫香を辺りに撒き散らすのだろう。
「ああ、そういえば、3日程前に良いワインが手に入って。先輩はワインはお好きですか?お帰りになる時にでもお包みしますよ」
伏せられた瞳が獲物を定めたと言いたげに真っ直ぐと見つめられる。
ああ、これはダメだ。
彼は捕食者だ。獲物に、この雄に喰われたいとすら思わせる魔性の毒だ。牙をぬらりと濡らす毒は、人を死に至らしめるものではない。
「─────……“先輩”?」
麻痺毒にも似た、痺れと陶酔だ。
他の女にはないそれは天性のもの。
この存在は、色々と“
「フッ……フフフ、」
「……、なんだよ」
「いや、すみません。つい、揶揄い過ぎてしまいました」
あんまりにも警戒しているものだから、と。
ぱっと溌剌とした笑みを浮かべた京一郎は未だにくすくすと笑いを湛えている。
……完全に呑まれていた。呑まれまいと気を張っていたのに。いや、気を張っていたからこそ、か。
完敗だと整えた髪を掻き混ぜながら深い溜息を吐き出す哀れな敗北者を見下ろしながら、京一郎は軽やかに笑いかける。
「そう怯えなくても、取って食いやしませんよ」
「……そう見えねぇからこんな事になってんだろ」
「フフッ!仰る通りで」
楽しくいきましょうよ、と魔性の男は慈悲深く微笑んで、目の前のソファーに座っている。
京一郎は一切動く事無く、ただ言葉と仕草だけでそのように振舞って見せたのだ。あの這い寄るような気配は錯覚でしかなく、触れられた感覚は幻影でしかなかった。
それを見て男は、ああ……、と。
「……それもそうだ」
「でしょう?」
水瀬京一郎は女郎蜘蛛なのだと漠然と思ったのだった。
「さっき言ってたワインだが、今開けてくれよ」
「よろしいので?この後のご予定は……」
「ねーよ。元々暇でぶらついてただけだからな」
「左様で、」
「……それに、おっさんに手酌で呑まれるよりお前さんのような別嬪に酌してもらった方が、酒も嬉しいだろうよ」
返って来たのはひどく悪辣で、何よりも美しい、徒花のような艶笑であった。
*
少年が薄らとではあるが、目を開けていられる時間が伸びてきたような気がする。
少年、と呼称するには成熟しきった大男の頭をいつものように膝に乗せ、手持ち無沙汰に髪を撫ぜたり、血を与えたり。
「ん……」
「美味いか?」
焦点の合わない目がじっと俺を見上げ、味わうように伏せられる。
癒えぬ渇きを覚えているのか。尖った犬歯が手首の皮膚を削り、血管を傷付ける。
「ん、ん……ッ、ふ、ゥ゙、ぁ……、」
「フフ……よく味わえよ」
思い立って薄桃の口腔に血を塗した指を突っ込む。
死体のように冷たくも柔らかい、生きた肉の感触だ。血と唾液に滑る口内。
肉厚な舌を指で挟み、ぬるりと扱いてみたり。爪で軽く口蓋や頬の裏、舌根を掻き、喉の付近まで指2本を含ませてみたり。
「ァ、が……ぅあ、ェう……っ、」
「可愛い」
「は……ふぅ、ゥ、はふ、ん、」
少年はぎゅう、と眉を寄せ、視界の端で足の爪先でシーツを掻いた。
すっかり唾液に濡れた指を軽く舐め、はくりはくりと開け閉めする口にキスを落とす。
「ゥ、」
「フフフっ……!食事中に悪かったよ。ほら、もっと飲んでいいぞ」
「っン、ふ……」
苛立ち混じりに更に深く手首に牙を食い込ませた少年に笑みを深めつつ。
「ふ……、ふ……ん、ぁ」
「……、ん?ああ、」
僅かに下肢が強ばったのに気付いて目を遣れば、ソレがボトムスを押し上げていた。
少年がこの姿になって俺が血を与え始めてから、こういう事はよくある事だった。……まあ、先程イタズラをした所為もあるかもしれないけれど。
吸血鬼の生態は知らないが、生殖本能はあるのだろうか。生き物である以上おかしい事でもない。
放置すれば収まるとはいえそのままにしておくのも同じ男として思う所があるので。
「少し体勢を変えるぞ」
手首を離させ膝枕の体勢から、少年を押し倒す体勢に。
「ぁ、」
「触るよ」
身長と体格に見合った逸物だ。下手をすれば最大値は幼児の腕くらいの太さはありそうで。
ベッドサイドからローションを取り掌に落とし、体温で温めて手を添える。
「ァ、ふ……」
一瞬びくりと身体を震わせたが、優しく撫でるような感覚に強ばりが解けた。そのまま手筒を動かして、……あくまで緩やかに。
「ぁ……、ぁ、」
「気持ちイイ?」
「ぅ……」
……薄く目を開けているものの何を見ているという訳でもなさそうだ。
胸の突起を軽く甘噛み、鎖骨に口付け、濡れた唇にキスをして舌でなぞる。
少年はぞわぞわと身体を震わせ、喉を晒して、吐息混じりの蕩けた声が溢れては落ちる。
「は……、ふ、……ァ、!」
「イくか?……イっていいぜ」
「ぁ、あ……、ッ……」
静かに吐息を零して達した少年をあくまで優しく愛でながら、ゆっくりとその弛緩した肢体を指先で愛撫した。それだけで小さく跳ねる身体。この身体は随分と感じやすい。これは開発が実に楽しみだ。
「は……、ぁ……?」
ふと、その視線が絡んだような気がした。
「少年……?」
「ゥ、あ、」
「!……ああ、俺だ。俺がわかるか」
「─────……、……」
するり、と。まるで漣に泡が攫われていくように。物が重力に従って地面に落ちて転がるように。力尽き目を閉ざし再度眠りに飲み込まれた少年を見下ろす。
─────“ナミセ”。
確かに今目の焦点が合い、俺を見て、俺の名を呼んだ。
「フフ、ッはは……!」
まさか本当に目を覚ますとは。タイミングがタイミングなだけに笑ってしまった。
いや、確かに伊達や酔狂でギリギリまで血を与えていたという訳でもないが。
「フフフ……早く起きろ。まだ俺の本当の名を知らないだろう?」
偽名を名乗っていた事を怒るか?呆れるか?
お前に話したい事がある。色々……そう、色々あったんだ。
眠っている奴に言葉を重ねる事程不毛な事もない。
細く息をする彼の両頬を手で覆い、指で目の下をなぞる。
どれだけ時間をかければお前は目覚めるだろうか。1年?10年?それともそれ以上?
……この俺は、いつまでこの夢を見ていられる?
分からない。分かる筈もない。だってこれは、俺にとって唯の夢でしかないのだ。幾ら調べても原理も学説も存在しない、頭のおかしいオカルトだの妄想だの、はたまた病気だのばかり。
……だからなのだろう。いつ終わるかも分からない逢瀬であるからこそ、飽きる事無くこの存在に尽くせている。
ああ、結局は俺は俺が愉しければそれでいいのだ。
ひとりのヒトを使った人形遊び。現実でも虚構でも同じ事。
理屈を捏ねくり回したが、結局は妄想でも何でも構わないのだ。愉しければ。それだけが俺の中での唯一の正義なのだから。
「早く起きろ」
でなければもう、飽きてしまうぞ?
*
読者を積極的に振り落とすスタイル。
エロいの書きたいのに書けない
20200623/多少訂正