※この作品はR-18です。

吸血鬼は淫魔の夢を見るか?   作:マスター冬雪(ぬんぬん)※休止中

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三章
第19話


───目を覚ます。

 

 

雨が少なくからりとした気候は外が高い温度であるにも関わらず比較的過ごしやすい。真白いシーツから身体を起こす。夜、偶にベッドに入り込む“彼”の所為で無惨に破かれてしまうので、寝る時に服を着る事を諦めた。その肉体は濡れたような象牙の肌、張りのある筋肉に覆われ、且つしなやかに曲線を描く。

伸びをする。

 

今日はなにをしようか。一日中ベッドでごろごろしているのもいいけれど、今日は屋敷を散策して、誰かと話をしたい気分だ。

 

 

 

ベリーダンサーを思わせる、胸どころか腹まで開いたタイトなプランジネック、臀付近まで開いたサイドスリットの服を着て───これ以上の布面積のものはクローゼットになかった───屋敷を歩く。背中も剥き出しで下着すら布がないような服を着せて喜ぶのなんて、それこそ俺を性的に見ている人間くらいだろうに。

この屋敷には多く人がいる。使用人、部下、出入りする人間達の殆どが血の匂いを纏わせていた。嗚呼あと、“彼”の餌となる女が幾らか住んでいる。

 

「おはようございます、ミナセ様。お食事は如何されますか?」

「おはよう、テレンス。今はいいかな。……私に“様”など付けなくても良いと言っているだろうに」

「いえ、そういう訳には……」

 

擦れ違い様、きっちりとスーツを身に纏った青年が恭しく礼をしながら慇懃に言う。

 

「私もキミたちと同じ立場じゃあないか」

「ははは……ご冗談を……」

 

招致されたスタンド使いという立場としてはテレンスとも同じであるが、京一郎は出身から食客に近い扱いを受けていた。

普通の人間より頑健で、餌と同様でもあるが殺されずに済んでいる。寧ろ幾ら喰い殺しても収まらぬ衝動を発散させる為に最終的に京一郎の元に来る事も少なくないので、ある種寵愛を受けているとも言っていい。

ので、テレンスとしては京一郎と同じとは言い難い気分でいる。“彼”にダル絡みしても生きていられる京一郎とは一緒にしないで欲しい。

 

「手伝って欲しい事があったら言っておくれ。私に出来る事なら何でもしよう……キミたち兄弟には恩があるからね……」

「お気持ちだけで……」

「ん、ふふ。つれないね」

 

睦言でも囁かれるように耳元で話されて、テレンスは思わず視線を逸らしながらたたらを踏むように離れた。

Bye、と京一郎はまた、ふらふらと屋敷を歩いていく。

 

「……本当に心臓に悪い方々だ、」

 

 

 

集められたスタンド使いたちは、今はまだ向かってはいないが、いずれは世界のどこかにいるジョースターという家系の系譜を根絶やしにする為に送り出されるのだという。

この世界は体躯が大きい者が多い。刺客たちの中では直接戦闘を行うでもなし、筋肉量が少ないのもあってか京一郎は小柄の類だ。テレンスと同じ身長ではあるが。

その存在感故絡まれる事が多いが、ぬらりくらりと受け流したり軽く牙を剥いてみたり、或いは時に喉笛に噛み付いてやったりしていれば、愛玩される身であれど京一郎を嘗めて見下してくるような輩は殆どいなくなった。 ……全くでは無いというのがスタンド使いの個性の強さを示している。

時折憎々しげに見られる事はあれど、実害が無ければ興味も唆られない。

 

「アラ、ミナセさん?こんな所でどうされたの?」

「マライアにミドラー……んー、散歩?」

 

気付かぬ内に2人がいる部屋付近までやって来ていたようで、部屋の中にいた彼女らに声をかけられる。浅黒い肌の足の綺麗な女と、紫色の髪をしたセクシーなロマの女。

どうやら化粧品のカタログを見ていたようで、複数テーブルに散らばっている。

男でも化粧をする人間が多い事もあり、容姿も相まってその中に京一郎が入り込んでも不思議ではない。

 

「あっ、ねえこの色とこの色、どっちが似合うと思います?!」

「どれ?……ンー、こっちかな」

「やっぱりぃ~?」

「色合いで言うとこっちが素敵だけど」

「あー、そのブランドの、私結構肌荒れしちゃうんですよねぇ」

「そういえばこれ!ミナセさんに似合うなってずっと思ってて」

「ああ、それ……確か“彼”が取り寄せてたような……良いね。今度借りようかな」

「やだぁノロケ?DIO様にもそういう態度取れるのなんてミナセさんくらいじゃあなァい?」

「やっぱ美しさって罪だわァ」

「そういう種族になっちゃったのだからしょうがない」

 

マライアもミドラーも素敵だよ。キミたちが許しをくれるなら、一夜を欲してしまいたいくらいにね。

両隣りの彼女らに目をくれて言うと2人して頬を染めて顔を背ける。

 

「も、もう!あんまり揶揄っているとDIO様に報告しますよ!」

「私ミナセさんは好みじゃあなかった筈なのに~!」

「んふふ……ひどいね、本気なのに」

フラれてしまった、と肩を竦めて京一郎はソファーから身体を起こす。

「邪魔したね」

 

 

 

「よォ、ご機嫌いかがかねェ〜寵姫殿?」

「ラバーソールか」

 

背後から覆い被さるように肩を組んでくる長髪をオールバックにした上裸男を横目に見て、京一郎は口元だけで笑う。

 

「機嫌は悪くないね。キミも調子が良さそうだ……」

「ええ、ええ。そらァもう」

 

視線が上から下まで行ったり来たり。肩にあった手が腰まで滑り落ちる。

 

「相変わらずお美しい限りで。DIOサマのお手付きじゃあなければ今すぐにでも可愛がって上げたんですけどねぇ~~~。昨日はどうだったんですゥ?」

「昨日?普通に独り寝だったけれど?」

「へぇ〜?こんな美人捕まえておいていいご身分で……それならオレが誘っちまえば良かったなァ〜?これだけ長続きしてるんだ、さぞアッチの具合も良いんだろうしなァ」

 

何を勘違いしているのか、京一郎をDIOの寵姫と呼んで、娼婦を相手するように言う。確かにしている事はしている為娼婦と言われても仕方の無い事だと思うが、京一郎は受け手より攻め手に回る方が多いので、ラバーソールの想定としては些かズレていた。京一郎からしてみればそういう所が可愛らしいので、態々教えたりしないが。

……そしてそれ以前に、京一郎もまたスタンド使いである。

するりとスリットの間に掌が入り込んだ手を握って止める。

 

「それ以上するなら───私のスタンド能力の試金石になってもらうけれど?」

「おお怖い怖い……」

「生憎、彼は私に他の男の匂いが付くのが嫌いなようだから……私を抱きたいなら彼に許可を貰ってからおいで」

 

此処に鋼入りのダンまでいたらセクハラが更にヒートアップしていたので、まだマシなところだが。

取り上げた手首の内側にキスする振りをしてやって、手の甲の形を指で辿るようにして手を離す。

 

「彼が私に飽きたら、その時には抱かせてやってもいい」

 

 

 

「ダニエル」

「おや、こんにちはミナセ」

「今日もよろしくね」

 

テレンスの兄であるダニエルからは、魂にまつわるスタンド使いの先達として教えを受けていた。

 

京一郎の種族は後天性の淫魔である。

成り立ての時自身の変化が直ぐに分かったのは、彼の目には常に魂の形が見えており、彼の鼻は生物の生気とも呼べるものを嗅ぎ取れ、彼はそれを栄養と出来たからであった。

DIOは生命エネルギーを血液を媒介に吸収する、人外としての感覚と機能が備わっている。彼の想像の通りに構築された肉体にはそれが組み込まれていたのだ。

肉体スペックは吸血鬼に劣る。が、生物が生きる上で余剰に発する生気を肌で吸収する事で、人間の傍で息をするだけで生きられるようになったのである。人としての食事など最早娯楽の域に落とし込まれ、人よりは優れた膂力のある上位生命体へと至った。

 

その感覚は京一郎の物となったスタンドをより使い勝手の良いものとした。

 

 

「あれからなにか変化はありましたかな?」

「距離があっても覚えのある魂の気配は世界中の何処にいるかわかるようになったくらいかな」

「それはそれは……」

 

つまりそれは、何処にいても京一郎のスタンドの効果範囲内になるという事だった。

 

「スタンドを使う感覚にも慣れた。もう勝手に暴走したりはしないと思うよ……」

 

掌を差し出すようにすると、京一郎の身体から像が浮かび上がる。

そのスタンド像は、女性の形をしていた。

黒いドレスを纏う球体関節の四肢をした女型のスタンド。

嘗てユリコ・テイラーが本体であった頃のそれの名残をドレスの腹部に残し、京一郎のものとなって形を変えた。

 

「もう『ホール・ロッタ・ラブ』(前のスタンド)とは言い難い様相だ……」

「ウン。だから私は彼女に別の名前を与えようと思っているんだ……どうかな」

「ええ、よろしいかと」

 

くすくすと淑やかに笑うスタンドをレディと呼び、京一郎は草臥れたかのように息を吐く。彼女の暴走には手を焼いた。その力は前と変わらず脱出条件を設定して部屋を作り、対象の魂を監禁するものであった。暴走状態では傍にいる生命体を片っ端から取り込んでは条件を強いたので。それに取り込まれるように、本体すら部屋に引っ張られたものである。

 

「しかし……やはりと言うべきか。貴方の肉体にはユリコ・テイラーの魂が混ざり込んでいるようで。大半は肉体に宿る生命エネルギーとなっているが、一部はスタンドの自我となっている」

「道理ではあるよ。肉塊になっても彼女は彼女だ」

 

淫魔の体にこのスタンド能力は非常にマッチしていた。一度対象を“直接目視しながら”スタンドを発動しなければ魂を拘留できなかったものの、今や何の対価(生命エネルギーの過剰消費)なく、捕捉した魂を取り込めるようになったのである。

以前は付け込めたスタンド発動のタイミングに攻撃するという対抗手段が取りづらくなったというのは、対象に大きなアドバンテージを得られるものだ。気付かれぬ内に相手を致死の領域に誘える事と同義なのだから。

 

「部屋の数に制限はないけれど、インターバルは致命的だ。刺客が隠れていれば私はその間無防備そのものになる……インターバル中はスタンドが使えないから、その間に敵スタンドに攻撃されれば抵抗すら出来ない」

 

スタンド像はスタンド像でしか攻撃は出来ない。

吸血鬼の吸血とは異なり、淫魔の吸精は即効性に欠ける。

 

「ひとつの肉体に2人分の魂とは、厄介なものですな。明らかにスタンド能力の向上が見られる」

「けれど弱点は多い。相手がスタンドを発動させていたら、部屋でもスタンドが出たままっていうのもね」

 

部屋自体がスタンドなので、部屋をスタンドで攻撃されれば強引に破る事も出来る。その際のフィードバックは腹を突き破られる程のもの。部屋の硬さはあれど、スタンド攻撃相手にはあまりに脆い。

 

「そればかりはどうにもならないから、精々気を付けるよ……」

「それにしても、スタンド能力の仔細が理解出来たというのは僥倖。この教導も今日限りですかな」

「キミが屋敷に留まってくれればもう少し早く終わったよ」

「フフ……それは大変申し訳ありませんでした」

「ギャンブル。……色々と娯楽は嗜んできたと思っていたけれど、あまり経験はないね。……楽しい?」

「それはもう」

「なら次はそれを教わろうかな」

 

この時間がなくなるのは惜しいからね。京一郎はそう言って、子供のように目を輝かせて破顔するダニエルに微笑んだ。

 

 

 

夕時に差し掛かり、京一郎は宛てがわれた部屋に戻ってきた。

スタンド使い達の傍にいるのは心地良い。その生命力故か余剰エネルギーも多く、少しの交流で空腹も起きない。京一郎にとって生気は何とも言えない甘露だった。その感情それぞれに味に変化があっていい。畏怖、友情、嫉妬、羞恥、歓喜、性欲、期待、高揚。感情の色を知る事の楽しみは尽きない。それは人間の感情の多様さと同じ分だけある。

勿論、肌を合わせて精を直接受ける事には及ばないものの。

 

京一郎はスタンドを現して手を差し出す。

その手を取ったレディの手の甲に唇を落としながら、ベールに隠された顔を見上げた。

 

「スタンドは使い手の半身だという。傷付けば私の身体にも傷が入り、触れられればその感覚が伝わる。……レディ。私の───俺の半身」

 

穏やかに慈悲深く微笑む豊満な聖女の手を握る。

 

「貴女に名前をあげよう。貴女が俺に肉体を捧げたように」

 

『ホール・ロッタ・ラブ』は某洋楽から引用したのだろう。それならば俺も、それに準えて。

 

「貴女の名は『ホワイト・ポニー』。知っているかな、deftones……色々と共感するものがある。俺自身を象徴する名。人々を侵す麻薬の名。侵された人間は自らを傷付け溺れて死ぬ、苦くて無臭の甘い毒」

 

まるで夢のよう。覚める時に絶望を味わい、もう一度を望んでしまう中毒性。

 

「それが貴女と、俺の名前だ」

 

 

 

夜半、部屋の扉が開かれる気配に目を覚ます。そのままその気配はベッドの前に立ち、シーツを剥ぎ取った。

 

「少年……突然シーツを剥ぐのはやめてくれ」

「寝ている貴様が悪い」

「人間、夜中は寝るもんだぜ」

「貴様は淫魔だろうが」

「じゃあ淫魔も」

「巫山戯た事を」

 

問答無用で起こされて抱き寄せられる。

 

「ん、血の匂い。あと女の匂い。満足しなかった?」

「女はすぐ死ぬ」

「だからって男は血の味が気に食わないんだろうに」

 

ざわめくような苛立ちと中途半端に煽られたかのような性欲の気配。背中に爪を立てられて皮膚がふつりと裂けた。

 

「俺も男だけど、俺の血は美味いのか?」

「そこそこ。元より不味くはなかったが……女の血の味もする」

「元は彼女の肉体だからかな……」

 

俺にする力加減で女を相手にしたら、そりゃあ女は直ぐ死ぬだろう。ましてや血を吸いながらだと。

京一郎は目を瞬かせながら彼の背に腕を回した。

 

「睡眠周期をおれに合わせろ」

「んー?フフフ、おまえ、起きた時に俺が寝ていたらつまらないんだ」

 

それはいい事を聞いた。京一郎は眠気にうとうとしながらDIOの首筋に頬擦りする。

 

「淫魔は睡眠を取らなきゃあ栄養失調で死んでしまうんだぜ」

「嘘言え」

「ンは……人の頃の習慣が抜けないんだよ。慣れるまで、朝までコースはお預け」

 

べろりとそこを舐めて歯を立てると、DIOは堪え難いと言いたげに喉を唸らせて、京一郎の髪を引っ掴んで引き剥がし。口に齧り付く。一方的に、熱を持った舌を、口腔を荒らしながら、腰を引き寄せて主張するそれをぐりぐりと擦り付けられる。

 

「んんぅ、ん、……ちぅ、んふ……」

「ふー……ふー……、じぅ、ちゅ、」

「んは……フフ、ちょっとやる気出てきたかも……」

 

ねっとりとした空気を含ませながらのキスは水音が大きく響いて聴覚をも犯す。

近しい生命体の深い欲情に触発されてされてしまうという点は、淫魔として制御が叶わない類にある。ご馳走を目の前にして待てと言われる飼い犬のよう。喰えと言われているのに我慢をする程、自罰を捨て去った京一郎は躊躇わない。

薄く長い舌がDIOのそれに巻き付いて、ちろちろと口蓋を擽った。

 

「女相手で不満だったなら、俺が下になろうか」

 

俺ならおまえを満足させられる。

そうして淫らに微笑んだ京一郎を、DIOはベッドに押し倒した。

 

 

 

 

 

 

18話のDIO×京一郎、要る?

  • 要る。番外編として書いてほしい
  • 要らない。それより新章書いてほしい
  • 要る。あとキャラの設定集も書いて
  • 要らない。けどキャラの設定集は書いて
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