※この作品はR-18です。

吸血鬼は淫魔の夢を見るか?   作:マスター冬雪(ぬんぬん)※休止中

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お品書き
■甘美なるパンドーラー
■天高く、空遠く
■飴が欲しいか、鞭が欲しいか?


第25話

「ミナセさーん」

 

サングラスを頭に乗せたスラリと伸びた脚の綺麗な褐色肌の女が楽しそうに男の名を呼ぶ。

 

「マライア」

「次はあのお店に入りましょ」

 

穏やかに笑う男は腕にショッピングバッグを提げて女の元へと歩んでいく。

 

「ああ、此処か。そういえば此処のリップバームが欲しいと言っていたね」

「そう!覚えてくださってたのね」

「勿論。キミの口にした言葉は聞き漏らさないとも」

「うふふ。嬉しい」

 

一見して1組のカップルを思わせる2人が裏社会を生きる者とは誰も思わないだろう。

 

 

 

 

時間帯は太陽の輝く日中。京一郎はマライアに連れられて町でショッピングと洒落込んでいた。

きっかけというきっかけはない。世間話の過程で気になっている服があると聞いた京一郎が一緒に行こうかとマライアをデートに誘ったのだ。体のいい荷物持ちである。

 

涼しい店内であれこれと目に留まった物を見て、京一郎がそれに二、三言えばマライアは頬を染めながら頷く。

 

「ね、ミナセさん。これどう?」

「おや、キミがこれを?」

「違うわよォ、これはナミセさんに」

「ン……似合う?」

「似合う〜!」

 

新品のサンプルの蓋を開け、薬指に乗せて紅を引く。

京一郎の唇を彩る口紅にマライアはきゃらきゃらと笑って素敵だとはしゃぐ。

 

「キミがそう言ってくれるなら、私も買おうかな」

「ふふ、そう?……あ、ねえこれとか、」

「彼に似合いそう」

「でしょう?」

「お土産に買っていこうか」

 

そういう風に更に数軒店を回り、丁度いい時間帯なので手近のカフェに入ってランチを食べようと席に座る。

 

「今日はありがとうございます、付き合ってくれて」

「うふふ、私も楽しんでるから。可愛らしい人とのデートをね」

「ほんっと、ミナセさんってそういうとこ〜〜!」

 

さり気なく荷物は持ってくれるしコースは決めてくれるし車道側歩いてくれるし。服のコーディネートも自分と似たような系統で合わせてくれていたし!顔を手のひらで扇ぎながらマライアが顔の熱を冷まそうと目を逸らす。

 

「DIO様に悪いわァ」

「彼昼間は外を歩けないからね。ショッピングだなんて鼻で笑われそうだ」

 

京一郎はくすくすと淑やかに笑声を零す。

 

「こうしてゆっくり町を歩きたかったのも事実だから、私こそマライアには感謝しなきゃね」

 

紅茶のカップに口付けながら京一郎は伏せていた目をマライアに向けて悪戯げに細めて見せた。

 

「……もう降参っ、ちょっとは手加減してくださいよ」

「うふふ」

「ミナセさんモテてたでしょ」

「どうかな。見た目で寄ってくる人が多くて」

「あ、わかった。付き合ってる内に嫉妬されちゃうのね」

「どうして人って比べたがるんだろうね」

「私から見ても綺麗だもの。しょうがないわ」

「胸焼けしちゃうんだってサ」

「ダメねぇ、嫉妬しちゃうくらいなら観賞用にしなきゃ」

「悲しいな……脈ナシって事?」

「はいはい、ミナセさんにはDIO様がいるでしょ」

 

彼からすれば私は数ある情人の1人なのに。眉根を下げる京一郎をあしらうマライアは顔が良過ぎるから隣に立つのも勇気がいるのよと笑う。

 

「お似合いよ」

「互いが互いを1番に考えられないのに?」

「あはは!そんなの当たり前じゃない。一緒にいて苦じゃあなければそれでいいの」

「……ふふ、それもそうだね」

「あと、態としおらしくしないで頂戴。バレバレなんだから!」

「それに惑わされてくれるマライアはとっても愛らしいよ」

「も、もう!やめてって言ってるでしょ!」

 

 

 

 

その後も店を梯子し、レストランにてディナーを口にしながらマライアは思う。京一郎は確かにイイ男である。けれどこうして友人として付き合っている方が楽しいのだろうと。京一郎がそのように振舞っている所為だろう。

口では女を喜ばせる言葉を吐くが、どうにもそのような色を匂わせずにからりと笑っている。

 

女の扱いは丁寧で悪くない。細やかな気遣いはこちらが気付こうとしなければ気付かなかっただろう。物腰柔らかで、けれど異性を明確に思わせる掌の厚さだとか、身体の大きさだとか、声の低さだとかにときめなかった訳では無い。

けれどどうしても、彼をそのように見る程に到らなかったのだ。

 

「ねえ、どうして?」

「そうやって直接聞いてしまえるところ、私は好きだよ」

 

ああ、こんなにも下心のない“好き”を聞いたのは初めてだ。

 

「私としても、キミとこうして気兼ねなく話せるのが楽しくて。失い難いと思ったからかな」

 

フォークを皿の上に置きながら京一郎は淡く微笑む。薄暗い店の明かりに照らされる鮮烈で静かな美貌に見蕩れ、マライアはうっとりと目尻を染めた。

 

「私はね、マライア。キミと友人になりたいと思って」

 

ふと、マライアはDIOがスタンド使いの勧誘をする時の姿を思い起こす。それとはまた違うようなあたたかみのある言葉ではあったが、何処と無く似ていたのだ。やはり彼らは似ている。仕草、香るにおい、ふとした時に使う言葉。

 

「……ね、私たちは友人かな?」

「……もう少しね」

「ふふ!そうか、もう少しかぁ……。じゃあまた、今度は映画や劇でも観に行こうか」

「そうね……でも次は、ミナセさんが行きたい場所に行きましょ」

 

ああ、けれど、異性だけれど。こんな普通の、血の匂いのない気安い友人関係は悪くない。

 

 

 

★

 

 

 

ペット・ショップと名付けられたハヤブサの若鳥。生まれて半年程で巣立ちは済んでいる。世にも珍しい動物のスタンド使いだ。

 

元はハヤブサを飼育している人間が所有していたが雛の頃から不可思議な事を起こすと殺処分すら視野にあったものをDIOが引き取った。DIOはペット・ショップの恩人(?)である。

 

スタンドの名は『ホルス神』。エジプト九栄神の名を戴く氷と冷気を操るスタンド。姿は翼のない翼竜をしている。

主人は勿論DIOだ。彼に命じられ、ペット・ショップは屋敷の番鳥として、侵入者や怪しいヤツを仕留める役割を担っている。

 

屋敷には連日多くの人間が出入りする。出入りを許可するのは執事という役割を持ったダービーという男が迎えた時など、館で働く人間が側にいた時のみだ。

 

出てくる飯は美味いし、住処は暖かく涼しい。ペット・ショップは此処を気に入っている。強いて言うなら愛らしく気立てのいい番が欲しいところだが。

 

 

 

「ペット・ショップ」

 

呼び掛けに振り向けば、吹き曝しの屋敷の塔で人間の形をした雄が立っている。

そろそろ日暮れか。翼を広げてそちらへと羽ばたく。

 

この雄は最近屋敷に来た主人のお気に入りだ。番ではないらしいが、まあ似たようなものだろう。非常食にしては長くもっているし、この雄の身体からは誰よりも濃く主人の匂いがする。

 

「お疲れ様。今日はテレンスの代わりに俺がご飯をやるね」

「キョーン」

 

丸々と太った鳩を細長い指が摘み上げて嘴に寄せられる。チョット啄いてからばくりと銜える。爪で引っ掛けて抑えて嘴で羽毛を毟りながら肉を喰らえば、雄は小さく息を吐いた。

 

「本当はあちこち飛び回って獲物を探す方がのびのびとしていいかもしれないけどね」

 

首を傾げる。スタンドを使えば獲物なんて容易く仕留められるので、確かに羽を伸ばすのは楽しいが、別にどちらがいいとか考えた事は無い。寧ろ獲物は番鳥として侵入者を追う方が狩り甲斐があっていい。それに、主人は昼間の行動こそ命じたが、夜の間は自由にしていいと言った。住処に帰ってくるのは当たり前の事だが、だからといってあちこち飛び回れない何て事は無い。この雄はおかしな事を偶に言う。

 

「ペット・ショップは良い子だね」

 

自分は主人の館を護る優秀な番鳥である。雛を褒めるような言葉は自分に相応しくないのだ。

 

 

 

……だが、まあ。

自分はこの雄の自分を毛繕いする指が心地好くて気に入っているので、色々と失礼な物言いは聞かなかった事にしてやるのだ。自分は優秀な番鳥なので。主人の住処も主人も主人の番もちゃんと護ってやるのである。

 

 

 

★

 

 

 

鋼入りの(スティーリー)ダンと顔を合わせた時、京一郎はまた屑そうな奴だなァと思ったものである。ラバーソール然り、J・ガイル然り。DIOはスタンド使いでも悪人を集めたがる節があるので。善性の人間は先ず肉の芽で操らなければDIOに従う筈もない。肉の芽を植えるとスタンドパワーが目減りするらしいのであまり多用したくないとはDIOのボヤきである。

 

さて、このダンという男。スタンドはタロットの『恋人(ラバーズ)』の暗示を持つ。例によってエンヤに呼び寄せられた裏の人間だ。DIOの威容に幾らか冷や汗を掻いたようだが外面は辛うじて保ったようだ。威圧を緩めたDIOにダンは胸を撫で下ろす。

 

それからDIOの元にいた京一郎の姿を上から下まで舐めるように見て嫌に鼻につく柔和な笑みを浮かべたものである。

 

「DIO様……この方は?」

「気にするな。スタンド使いだが殺し屋ではない」

「京一郎・ミナセです。よろしく」

 

僅かに乱れた着衣、屋敷の主人であるDIOの傍でリラックスした様子でソファーに腰掛け本を開く京一郎に何を思ったか知らないが、大方DIOに近しい人間ならば上手く行けばコネになるとでも思ったのだろう。

 

「ええ。よろしくお願いします、Mr.ミナセ」

「───……」

 

 

 

 

屋敷を歩きその姿を見かける度にダンは京一郎に話し掛けに来た。友好的に振る舞い、時にバーで酒を飲まないかと誘ってきたり、さも京一郎と友人になりたいのだと言わんばかりに。

 

───烏滸がましい。

 

京一郎はこの世界に来る前、現代日本の首都の一等地に構える高級ホテルを1から作り上げたオーナーであった。集団の頂点に立ち、財界や政界、警察に芸能界にも多く繋がりを持つ敏腕と名高い、実質社長の位置にいた男だ。確かに初期はその身を売ってコネを無理矢理繋げたものだが、それだけでは唯の一時凌ぎにしかならない。会社を盛り立て、成長の一途を辿り続けていた彼の辣腕は明らか。それもたった2年でそこまで叩き上げたのだ。

 

その自分を、安易にもDIOへの媚の為だけに利用しようと言うのだ。

少しスタンド能力が特殊なだけの、いち殺し屋の、いち凡人の、いち人間の分際で?この俺を?

等価を差し出す訳でもない癖に、利益だけを貪ろうというのか。嘗め過ぎだ。せめて俺に面白いと思わせてからにしろ。

 

おおよそ人心掌握に長けた京一郎が分析するにダンは典型的なインテリを気取った破落戸(チンピラ)だ。多少頭は回れど詰めが甘い、他人に厳しく自分に甘いタイプ。自分の思い通りにならなければいずれ焦れて暴力に訴えるだろう。……スタンド使いは大体血の気が多いような気がしてならないが。

 

因みにダンとラバーソールが同時に来ると鬱陶しさが倍になる。間に挟んで言い合うな。俺を言い合いのネタにするな。

 

 

 

今日もまた1人バーでグラスを傾けていたところ、無断で隣に腰掛けたかと思えばペラペラと“営業トーク(売り込み)”するものだから、京一郎は最早赤べこのように規則的な相槌を打つ玩具になっている。

 

「……ふぅ。なァダン、私は何か頼まれてもそれを叶えられるとは限らないとは言ったよね」

「またまたァ」

「私は唯の情人でしかない。少しばかり貴重なスタンドを持っているだけで、我儘が通るかどうかは別の話だ。彼が……恐ろしいひとなのは、キミも知っての通りだろう?」

「……へえ?今まで食い尽くされるでもなし、かなりの頻度で何度も呼ばれてるらしいじゃあないか。それはアンタだけでしょう?」

「……ラバーソールの入れ知恵かな」

 

肩に乗せられる手を押し退ける。それにまた苛立ったのか、ダンは舌打ちを喉の奥に押し込みながら引き攣る笑みに剣呑さを乗せる。

 

「……優しくしてりゃあいい気になりやがって……」

「それが本性か。随分荒っぽいね……」

 

酒で気が大きくなっているのもあるだろう。どん、とカウンターが拳で殴られる。

 

「!」

「いいか!お前がどんなスタンドを使うか知らねぇが!痛い目見たくなけりゃあ下手な言い訳せずに言うこと聞きゃあいいんだぜッ!」

 

びりりと右手に走る衝撃に京一郎は目を見開く。この衝撃は。

 

「……スタンド攻撃」

「はは!……正解だ、褒めてやるよ」

 

つ、と横目にダンを見遣る。目視する内にスタンド像は無い。ならば体内に潜り込んでくる寄生タイプか、否か。

 

「もうお前はおれの術中に嵌ったんだ、よォ!」

 

今度はダンの右脚が椅子を強打する。脛に走る一般人なら骨が折れるような痛み。……右脚だ。

 

「成程……キミのスタンドがいるのは私の脳かな」

「!」

「本体の痛みを対象に潜ませたスタンドが共有し、何倍もの痛みとして伝えられると……そういう能力だ」

「……少しは頭が回るようだ」

 

平然とした様子で悠々と思考を巡らせる京一郎を、ダンは気味悪く思う。普通、痛みが走れば困惑と苦痛に顔を歪める筈だ。なのにこの男は眉一つ動かさずに笑みすら浮かべている。

 

「耳か、口か、鼻か……いずれの経路を通るにしろ、大き過ぎれば脳まで到達しない。なら血管に沿って流れたか……その割に違和感は欠けらも無い。ならば大きさはミクロ単位……スタンドの大きさを変えるには非常に気力を使うからね……つまり、そのミクロ単位の大きさが、キミの本来のスタンドの大きさという事」

「ッああそうさ、だがお前に何が出来る?脳を切り開くか?自分のスタンドを脳に侵入させてみるかァ?!」

「……阿呆かな、キミは」

 

呆れたように京一郎は嘆息し、氷で薄くなった酒を呑む。

 

「ああ゙ッ?!」

「こちらのスタンドの能力も知らないのに何故そうも迂闊に詳細を肯定してしまえるんだ?勝利を確信するには早過ぎるとは思わないのか?俺から血の匂いがしないから、荒事には不向きなスタンドだと?」

 

怯んだように後退りしたダンにもう一度、京一郎は嘆息する。

 

「何奴も此奴も、人殺しがトロフィーのように……殺し屋としてプライドを持つのはいいが、手ずから殺人を犯していない人間を殺人童貞として蔑み侮るのはどうにかならないものか」

 

京一郎の場合、邪魔だなァと一言言えば周りの人間が場合によってはこの世からも排除してくれたものだ。

必要がなかったのでしなかった。京一郎が殺人をしなかった理由などそんなものだ。今更生死くらいで揺らぐ精神などない。それは自分の命でもそうだ。

 

「キミは今獅子の口の中に入ったんだ。相手が冬に空腹で目覚めた熊でなくて良かったね」

「な、何を───」

「死なない程度に……“行ってらっしゃい”」

 

その時、がくんとダンの身体が床に崩れ落ちる。

突如意識を失ったダンはスタンドごと意識が堕ちたのだ。そう……夢の中へ。

そっと京一郎の両肩に手を乗せ、頭の上から『ホワイト・ポニー』が顔を出す。

 

「キミの好きなゲームの元ネタを読んだよ、レディ」

 

嬉しそうに京一郎の首に腕を回して抱き着いた『ホワイト・ポニー』を笑んで宥めながら、京一郎は興味深そうに顎を摩る。

 

「神話と言えば太古より信仰に繋がっていると思っていたけれど、まさか創作としても造られていたとは思わなかったんだ」

 

中々面白い世界観だと感心したように。

 

醜悪な神々の詳細なイラストやゾクゾクと脳裏を掻き毟る邪悪で悍ましくどこか神々しい描写。這い寄るような恐怖と畏怖。そして時に残酷に、無情に終わる結末。

 

「ゲームの方も賽子に命運を任せるところが気に入ったよ。唯の矮小な人間が如何にして神話生物を相手に藻掻き足掻くか……。アレは徒人だからこそ面白いんだよな」

 

『ホワイト・ポニー』は熱心に頷く。

 

「彼がどんな風に足掻けるか……愉しみだね、レディ」

 

 

 

 

 

 

 

クトゥルフ神話“RPG”、シナリオ名《悪霊の家》

脱出条件

《シナリオのクリア》

追加条件

《プレイヤーはスタンドの使用を許可する》

《プレイヤーは一部技能をダイスにて判定する》

《キーパーは公平を期す事》

《プレイ中の損傷は現実の肉体に適応しない》

《SAN値を大幅に失った場合、ゲーム終了時精神分析を行う》

 

¦

¦

¦

 

 

 

 

「おかえり♡楽しかったね」

「こんなン二度とゴメンだわクソッタレッッ!!」

「うふふ……凄くびびってたもんね……怖かったね……途中でキーパー兼NPCの私に縋っちゃうくらいに。可愛かったよ」

「う、うううるせぇ!!!」

「弱みを掴むどころか見せちゃって……。ねえ、私……キミの事気に入ったから。また遊んでね」

「二度とゴメンだって言ってんだろうがぁッ!!!」

 

 

 

 




クトゥルフ神話好きです

取り敢えずマライアは綺麗だなと思うしペット・ショップは可愛いしダンはわーぎゃー言ってて欲しい。
不容易に色々触って命の危機的なドッキリにひたすら遭って神話生物と対面した時にSAN値チェック失敗して隣に立ってる京一郎に抱き着いて無理無理無理ィ!!って言ってるダンを想像するだけで楽しい


そろそろえっちなのかきたい
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