吸血鬼は淫魔の夢を見るか? 作:マスター冬雪(ぬんぬん)※休止中
初流乃の母親がイタリア人の男と再婚し、イタリアへ発つと聞いて。その義父となる男が初流乃を疎ましく思っていると配下の者に聞いた時、俺がどう思ったか語るまでもないだろう。
初流乃はまだ4歳なのだ。あんな、便所のシミにも劣る男のストレス発散の道具に使われるなどあってはならない。
けれど、俺は今も唯の他人である。産後間もなくの頃で昏睡していたのもあり、渡伊は先送りにされて内心もどかしくしていたものだが。代わりに送った配下の言葉からよろしくない環境なのが伝わって、いても立っても居られずイタリアへ飛んだ。
度重なるネグレクトと身体的暴力にすっかり捻くれてしまった初流乃に心を痛めながら見守る事数ヶ月、初流乃がとあるギャングの男の命を拾ったのを見て、俺は彼の治療を請け負った。
彼は気っ風の良い義理堅い男で、ひとりの少年が自身の命を救ったと知るや否や、彼を見守る役目を負ってくれたのだ。
彼がいるのなら、初流乃は大丈夫だ。
俺はせっつかれていたのもあって、日本へ帰還した。……途中、助けを求めたディオの息子たち……リキエル、ドナテロ、ウンガロを連れて。
リキエルは義家族に育てられてはいたが何処か緊張症の気があって、誰か正しいものに導かれなければ容易く堕ちてしまうだろうと思ったから半ば誑かしたが……素直過ぎて逆に心配である。
ドナテロは後に生まれた腹違いの妹ばかり可愛がられる生活に随分ウンザリしていたようで、屋敷に来たばかりの時には疑心ばかり募らせていたように思う。勿論、愛情を偏らせる様な事はしなかったが、どうにも試し行動が多いような印象を受けた。……まア、ただ可愛らしいだけだったが。
ウンガロは本当に運がなかった。救い出した時には既に親類によって麻薬を投与されて身体が蝕まれており、取り出すのに苦労した。暴れるし、泣くし、禁断症状があまりにも酷くて。けれど、初期で止められて本当に良かった。
それぞれ、何処か彼に似ていた。彼に似ずとも、彼の血族を思わせる似方をしていた。
一気に3児の母である。嗚呼、ディオも含めれば、そして初流乃も含めれば、5児であるか。
皆に俺を要らないと思うまでは居ておいでと言ってある。外に出た後も、本当に助けが要る時は呼ぶようにとも。
愛おしい、愛おしい、俺の子供たち。
「京一郎様、ますます綺麗になりましたねぇ」
「そう?母性のお蔭かな」
キレイなお姉さんに母を見たのか少し怖がる様子で物陰に隠れる子供たちを見守りながら、マライアに問う。
「それで、最近はどうだい?」
「変わりはないですわ。そういえば、空条承太郎ですが……娘が生まれたんですって」
「おや?そもそも結婚していたの?」
へえ、あの承太郎がねぇ。一端に家庭を築いているの。へぇ〜。だから何だって話だが。
「ああいうのはいけませんよ、京一郎様。女は3歩下がって、とか、言わずとも分かる、だとか。安全の為に何も話さないでいるとか以ての外です!」
「大分力入っているねぇ、マライア。元カレがそうだったのかな?」
「ちっがいますよぉ!一般論です!」
一般人はそんな危険な事なんて滅多に無いのだけど。
まア、確かにそう。貞淑な大和撫子を望むなんて時代錯誤が過ぎるというものだ。箱入りお坊ちゃまには酷かしら。
「私は彼一筋だから……」
「京一郎様は自分のお好きなように殿方を誘導しますもんね?」
「そこで肯定すると教育にとっても良くないからノーコメントで♡」
「あざといんだから♡」
誰だって子供にはいい顔したいじゃあない。
「……何をしている?」
「っ……」
「あら、DIO様」
子供たちがビクリと身体を震わせた気配がする。
「気になるなら中に入れば良いでは無いか」
「ぁ……いや、僕達は……」
「京一郎が少しでも嫌がったか?」
「えっと……いいえ……」
「マライアがお前たちに嫌な事をしたか?」
「ううん……」
「ふん。……入るぞ」
「どうぞー。何か飲む?紅茶?」
「ああ」
椅子を用意しようとしたマライアを止め、両手を広げて待つ。
「ん」
「……、……はあ」
深ぁい溜息の後、大人しく両手に収まった彼を抱えて椅子に座り直す。
「何て言うか……京一郎様って大物ですわぁ」
「そうかしら」
髪、伸びてきたねぇとディオの髪を弄れば手を払われる。
「切ってあげようか」
「おまえが……?」
「やだ、疑ってる?揃えるくらい俺にも出来るよ」
「どうだろうな……」
彼の髪はふわふわで柔らかいから、ちゃんと綺麗に伸ばしてあげたいのだ。勿論短髪でもいいけれど。あと彼の幼い姿が懐かしいので。
そのまま彼を膝に乗せてマライアと言葉を交わしていれば、痺れを切らせたちいさな影が飛び出す。
「っ……ママ!僕も……っ、」
「ちょ、リキエル……?!」
ぱっと物陰から出てきたリキエルにしっかり目を合わせて、うん?と首を傾げる。
「ぼ、僕も、ぼくも、ッ……」
「うふふ。ゆっくりでいいのよ、My love」
泣きそうに潤む瞳に愛おしいと伝えれば、リキエルはぐっと掌を握り締めて俺を見上げる。
「僕も、ぎゅって、して……」
「よく出来ました。ほら、おいで……ぎゅっとしましょう」
椅子から降りて片腕を広げれば、途端に飛び込んできたリキエルを、彼ごとぎゅっと抱き締める。
「ッおい……」
「ほら、ディオも」
「……〜〜〜ッッ」
団子になってぎゅうぎゅうとハグする俺達に、ウンガロも飛び込んでくる。
「ママ!お、おれも!」
「勿論よウンガロ。おいで」
きゃらきゃらと笑うリキエルに恥ずかしそうに笑むウンガロ。少しして3人を離して、俺はぽつんとそこに残されたドナテロに膝を着いて両腕を広げる。
「ドナテロはママにハグしてくれないの?」
「っ……!」
「I miss you.ドナテロ、」
そっと眉根を下げて微笑む。
どれだけでも、幾らでも待とう。彼こそ愛情に飢えていると分かっているから。
恐る恐る、にじり寄るようにして近寄ったドナテロが、指先を伸ばす。
「ぁ……」
「つかまえた」
壊してしまわないように、ドナテロを腕に引き込んで抱き締める。
「ああ、ドナテロ。愛しているよ」
「ママ……」
「うん」
「ママ、ママぁ……っ」
「私はここよ、ドナテロのママはここにいるよ……良い子ね、My Dear……」
周りに知らない人が多くて怖かったのかな、寂しかったのかな。寂しい時は寂しいと言っていいのに。此処にはお兄ちゃんなんだからと、余所者なんだからと言うような人間はいないのだ。そのような輩は真っ先に屋敷から排除している。
「我慢しなくていいのよ、ドナテロ。不安ならいつだって来ていいの」
顔中にキスの雨を降らして、涙でお目目が溶けちゃうわと笑う。
「本当に……綺麗になられましたね、京一郎様。まるでマリア様だわ」
「……それ程似合わん例えも無いがな」
「あら、DIO様?私達闇に生きる者にとっては、彼こそがマリア様よ。DIO様をまたこの世に産み落とされた方ですし?」
まあ私、キリスト教徒ではないですけどね。
マライアは口元に手を当ててくすくすと笑う。
「マライア。途中だけど、ドナテロが泣き疲れちゃったみたいで」
「あら、いいんですのよ。京一郎様、ごゆっくりなさって?」
「ありがとう。またお茶会しようね」
「はぁい、勿論!」
うとうとと目を擦るドナテロを抱え上げ、リキエルとウンガロを連れて寝室へ入る。
「ディオは?」
「いい」
「うん。じゃあまた夕飯時にね」
俺が座っていた椅子に腰掛け───座高が足りないのでクッションを引いてある───新しい紅茶をマライアに注がせている。彼からすれば茶番だろうに、律儀に付き合ってくれる分彼も随分と優しい事だ。
「さ……みんな、私とシエスタしましょうか」
お眠じゃあない子は絵本でも読んであげよう。それかお歌がいいかな。そろそろお勉強も始める時期だから、テレンスに教材か何かを取り寄せて貰わなければ。
大切に育てよう。彼らが俺を要らないと言うまでは。
★
マライアが京一郎を聖母と称した。それに似合わないと返したが。昼間、子を抱いて、子に囲まれて、穏やかに微笑んでみせた京一郎に……清廉で慈愛のそれを幻視するにも無理はなかった。
10と幾らかの子供だったおれを部屋の脱出の為とはいえ犯したとは思えない姿だ。……水瀬京一郎という男は根底をそのままに変わった。彼奴はおれが自分を変えたのだと宣うだろうが。
「おまえ、今もおれを抱けるのか?」
「……うん?現実世界の、という事?」
流石に精通もしてない幼児を犯すのはチョット……。そこまでとは言っていない。
「……まア、おまえはおまえだし……」
「変態か……?」
「いやおまえさァ……言わせておいて」
そもそも夢の中とはいえ今も抱いたり抱かれたりしている時点で今更だろうに。
おれの上でうつ伏せに横たわる京一郎は頬を僅かに上気させたまま苦笑する。
「もし逆でもおまえは出来るだろ?」
「逆?」
「俺が子供で、おまえが俺を犯すの」
思わず京一郎を見下ろす。眠そうなトロリとした目で、掠れた瞳が笑っている。
「おい寝るな」
「それも……楽しそうだけどね……おまえがしたいのは、穢して貶めても聖母は聖母のままなのか……それが知りたいだけでしょう……?」
そうして、京一郎はおれに、
「おい」
「……なぁに、もう俺眠いんだけど」
そうして瞼も開けずに口元に笑みを乗せている。
「おまえは眠くないの?本でも読む?歌でも歌おうか……」
「このDIOに向かって
「……ウフ。今くらい子供を楽しんだって、誰も咎めないのに」
そのまま何も言わなくなった京一郎を叩き起してやろうかと思ったが、やめた。
「……マヌケ面」
あどけなく無垢で、けれど何処か淫猥な寝顔に何をする気も削がれ、一つ嘆息して上を見上げる。何処までも蒼く、遠く、太陽のない空が広がっている。
1ヶ月前、自分を再び産み落とした後。京一郎は確かに、徐々に徐々に弱っていた。周囲の人間の生気を吸ってはいたが、その量も減少し。最後には傷は治っても生命力が尽きかけていた。それ程に危うい状態であった事を、屋敷の誰一人として知らない。京一郎だけが、分かっていた。京一郎とおれだけが。
陰のある死相が、嘗て見た譫言を垂れ流す母によく似ていた。
京一郎はただそっと、微笑むだけだったが。
「おまえは哀しいんだね。ずっとずっと、何かに悲嘆している」
ベッドから起き上がれない癖にふてぶてしく、そう言い逃げして夢の底へ堕ちて、堕ちて。覚めなくてもいいかもな、などと囁いて。
緩やかに自死しようとしていたのだ。
何のために、だとかそういうものはないのだろう。世の中の常識に当て嵌めるのならばマタニティーブルーとやらか。自らの中へ。安寧たる内裏へ。眠るように。海の底へ。記憶の底へ。
胎の中にいた時にいた場所に入り込めたのは、奴が比較的夢の表層にいて、そしておれが傍で眠っていたからだ。
奴は海の中で微睡んでいた。薄く開いた目は水面の光の網を映し、思考は複雑に絡まり混線した記憶を見ていた。
正しく、死人のイロ。……奴のスタンドは真価を全て発揮している訳では無い。肉体元であるユリコ・テイラー───だったか?最早記憶に薄い───の記憶の断片を有するスタンド。時空を超え、未来を覗き見る種のすべてを使えば、人類を、世界を支配する事など容易い事だろう。
それ程までに強力ならば、自らも浸蝕される危険もあろうものだ。現に京一郎はそのように混ざっている。
京一郎は昏睡の中で、様々に織り交ぜられていた記憶をその瞳に映していた。それが、奴の潜在している希死念慮を必要以上に引き出している。
ドイツの哲学者であるフリードリヒ・ニーチェはこう残している。
何かを理解しようとすれば、自分もその何かになってしまう危険が常に付き纏う。
より沈もうとする奴を引きあげたのは、何故だったか。考える必要もあるまい。無駄な事だと確信があった。敢えて、考えないようにしている。それはおれを弱くするものだった。
「おれがおまえを手放すとは、考えぬ事だ」
利用価値がある。だけでは、無い。それは至極屈辱的なものだが。けれど。だからこそ、おれはその衝動に身を任せる。
「おまえを愛している」
その言葉だけで縛り付けられるのであれば、幾らだって吐いてやろう。
決して楽に死なせるものか。おまえがおれに“生き地獄”を望んだように。
裏切って、甚振って、これ以上は無いという程の陵辱をしてやろう。それがおまえの恩讐に対する、このおれの“こたえ”である。
★
「ああ、ごめんなさい。怪我はしていない?」
初流乃の様子を陰から窺い、イタリアの街並みを出歩いていた頃。ケープで顔を隠し、大きくなった胎を抱えて。
人の少ない近くの路地で肩をぶつけた。
「あっ、だ、大丈夫です」
「そう……?ならいいのだけど」
何かから隠れるようにして身を縮めていた彼からは血の匂いが香る。
それに気付いたと同時、彼も肩をぶつけた俺の顔を一瞬見たのだろう。
「徒花の
「……おや、私を知っているのね」
失言をしたと口を噤んだ彼に微笑んで、ケープを深く被る。
「お互いの為にも、無かったことにしましょう?私、今はプライベートなの……ねぇ、どこの誰かも分からない少年」
口元に人差し指を当てて、しぃ、と息を細く吐く。
「……ええ……そうですね」
「うふふ。また表で会う事があったら、その時はよろしくしましょうね……」
足音を立てながら振り返らずに路地を抜ける。
見た事の無い顔だった。純真そうだったけれど、何処か引かれるような感覚がした。勘に頼るのは些か不愉快だが、けれどこの世には奇怪な事が多過ぎる。故に。
一応、覚えておくとしよう。赤みの強い桃色の髪の少年、ね。
★
子供たちを迎え入れてから、外を出歩くのは近所の公園に散歩に出るくらいしかない。子供たちは活発に外で遊ぶような子では無いし、少し運動するくらいなら屋敷の敷地内で出来る。それに、彼らはまだ俺から離れて遊びたいと望める程俺を信じていなかった。いつか自分以外の誰かに心を傾けてしまうかもしれない。愛情を注いでくれなくなるかもしれない。捨てられてしまうかもしれない。自分に宿る力が暴走してしまうかもしれない。そんな不安がまだ、彼らに巣食っていた。
「ま、ママ……あのね、絵本、読んで欲しいの……」
「いいよウンガロ、ママのお膝においで」
「ママぁ……また目が開かないの……暗いよぅ、手を握って……」
「まあ大変!ママの腕の中においで……手だけじゃあなくて、ぎゅってしてあげましょうね」
「っ、ママ!」
「なぁに、ドナテロ?」
「っ……な、んでも、ない……」
「そう?……ねぇドナテロ、ママの宝物。ママ、ドナテロにハグされたいなぁ。こちらにおいで、ママにキスしてくれないかな?」
「……っ、うん……」
「うふふ。ありがとう……さァ、みんな。今からママとご本の時間にしましょうね。ウンガロはどの絵本がいいのかな」
淫魔の丈夫な身体は不調とは縁の無いもので、子供たちも段々と甘え上手になってきている。自分と同じような境遇の彼ら同士でも遊んだり、困っていたら手を引いて俺の元へ連れてきたりして助け合うような素振りも見せるようになった。
相変わらず人見知りというか、公園で遊ぶ他の子供達には少し怖がる様子で俺の元から離れないが。
あと、まだ短時間だが勉強の時間を作った。家庭教師相手にはまだ警戒しているので、今は俺が彼らに文字や計算を教えている。これでも大学を出た身、幼児がするような勉強くらいは教えられる。それから勉強に対して意欲が沸けば良いのだが。知識は武器だ。彼らが独り立ちする時に、よくよく考えて行動ができるように。自我の成長と知識の量はスタンドの目覚めにも関係しているのだから。
そう、スタンド。血統の業か否か、彼らにはスタンド使いの素養があった。ドナテロ、そして2人の子にも。
ジョセフや承太郎やホリィ然り、
魂がそのように覚醒へ向かっている。緩やかに、確実に。
魂の性質がスタンド像を決定しているのか、スタンドが魂の性質を示しているのか、自我がそのようにスタンドとして表されるのか。それは俺には分からないが。分からずとも構わないだろう。
なので、スタンドに関しての話もしてある。まだ御伽噺のように、寝物語だが。
……子と触れ合う様子を見た配下が俺を崇めて拝んでいるのにはチョット共感出来かねる。
嗚呼、サテ。そう、俺が外に出歩かなくなった事で。行動範囲が極端に少なくなったという話だった。
暇潰しにと配下が色々と物を持ってくるので、屋敷にはかなり物が増えた。断捨離がとても面倒臭い。金の他に酒や食べ物、パトロンをしてやっている芸術家の絵に小説に骨董。果ては勧めの漫画なんて。最近新気鋭の漫画家が出て来ているとかなんとか……ダークでリアルに差し迫るストーリーに迫力ある絵柄が好みで、今ではすっかり購読している。何かと賛否両論で、それでも自分を貫くところ、捻くれているけれど真っ直ぐで好ましい。
この杜王町は平穏で平凡だが、この町に住まう人々が何かと特徴的で飽きないものだ。何せ行方不明者が多い。魂の消える感覚が多い。定期的に、何十人と消えている。事故も事件も報道されていないにも関わらず。
それに、死んで彷徨う魂がとある小道へ吸い込まれてから消えていくのにも。何処かに地獄の一丁目か黄泉路でもあるのだろうか。
子供たちが成長したら拠点を移さないかとディオや配下から言われているが……この場所には何か、磁場のような何かを感じている。それは長きに渡って蓄積して固まる原石のようにも見えるのだ。要するに、ナニかが起こる。面白くなりそうなナニかが……。
引力。そう、彼の言う引力を。
俺は信じている。彼の言った言葉を。
魂の持つ“力”を。
★
「この町でスタンド使いが急増している?」
目を閉じてそのような事を口にした京一郎は静かに笑みを浮かべて頷く。
「自然に目覚めたのではなく、急に“起こされた”ように思う」
「それは───」
ちらりと、厳重に保管されたソレに目を遣って、京一郎を改めて見遣った。
「そう。スタンドの矢……それによるものと良く似た目覚め方だ」
昏く、
「時が満ちつつある、という事だと俺は思っている」
「それがおまえの目的か?」
「目的という程高尚なものでも無いさ。子供たちが成長するまでの暇潰しよ」
子。あれらは確か今年で9か10かになる頃だっただろうか。毎年毎年盛大に祝うもので無駄な事を覚えてしまった。
「スタンド使いは引力に引かれる。この町には多く要素が点在している。ジョースターの私生児、スタンドの矢、連続殺人鬼に魂の黄泉路。何も起こらない方が不自然だ」
顔を歪める。ジョセフはこの前胆石か何かの手術をしたという事だから、来るならばスピードワゴン財団の人間か、血縁者である承太郎……いや、十中八九承太郎がこの町に来る。
呼応するようにスタンド使いは引かれ合い、そしてそれはおれや京一郎も例外ではあるまい。
「楽しみだ。ワクワクする。まるでクリスマスの朝に枕元に届いたプレゼントのリボンを解く子供のよう!」
「年齢を考えろ」
「ンふ。辛辣」
京一郎は淫魔の性質か、魂の異常や飛躍を感知すると感情を昂らせる。
衝動が落ち着いたのかいつもの表情を顔に乗せた京一郎は組んだ足を組み直して、口を開く。
「そういう訳だから、出歩くならそのつもりで♡」
「このDIOが敗れると?」
「この町には“おまえが嘗て肉の芽を植え付けた”人間がいるのを忘れたか?」
……一度死んだ事で制御を離れた肉の芽は宿主を襲った。普通はそれらは肉の芽の細胞により融合、変質し死に至るが、この町にいる1人の人間はそれを乗り越えて不死の生き物と化している。日光は弱点では無いが人間とは言えない、知能の低下した所詮死に損ないだが。
「虹村か……奴は良いスタンド使いだった」
「ンふふ!良いスタンドを持った人間だった、の間違いだろうに!」
金を対価に使っていた虹村は忠誠心に欠けていた。裏切れば多少なり不利益が生じるスタンドであったので肉の芽を植え付けておいたのである。
「その周辺でスタンド使いが増えているのと無関係ではあるまい。今周囲を配下に調べさせているから直に報告が上がるだろう」
……恨みか、怒りか。だが、おれはそれを踏み潰すだけだ。目の前に立ち塞がるのであれば、何者であろうと。
「なら好きにしなよ。でも死んだりしたら殺すからね」
「ハッ……誰に物を言っている?」
「夜の帝王“DIO”様♡」
「貴様馬鹿にしているな?」
★
最近、『ホワイト・ポニー』が落ち着きない。
勝手に出て来てはそわそわと袖を引いてきたり、本を読んでいるとその上からじぃ、と顔を覗き込んでみたり、夢の淵にすら現れてくるくると踊る事もあった。
「どうしたんだいレディ。はしたないよ」
背後から抱き着かれてそのまま彼女を背負って歩く。
「言いたい事はわかっている。キミはこの時を楽しみにしていたものね……」
彼が生きていた頃は緊張と恐怖と不安に楽しむ以前の問題だったのだ。本体であるこの俺を監視し、シナリオ通りに事が進むか固唾を呑んで見ていた。それ程彼女にとってあの時期は大切なものだったのだろう。
この町は平穏で長閑で、場所は違えど慣れた故郷。危険はあれど乗り越える力を手にした今、彼女は連れ出したくて堪らないのだ。その目で見たいのだ。その肌で感じたいのだ。彼ら、もしくは彼女らの奮闘を。群像劇を。……はて、群像劇?ひょっとしてこの町はシナリオの続きかそれに類する別の何かの舞台で、今回のテーマが群像劇、なのだろうか。
行こう、行こうと俺を誘う。
「劇的にしよう、レディ。今はこの期待を楽しむのも悪くはないよ」
切
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