吸血鬼は淫魔の夢を見るか? 作:マスター冬雪(ぬんぬん)※休止中
短めですがキリがいいので
───
「京一郎様……奴が町に
入ってきました」
粛々と。細身の男がこうべを垂れてそのように言う。
「奴が……空条承太郎が」
薄暗い部屋の天蓋の裏、気怠げに寝そべる人影はその言葉に白い瞼を持ち上げる。その瞳は掠れたように茫洋と、見る者全てがぼんやりとしてしまうような艶美を帯びていた。
曲線を描く肉体美を薄布1枚で隠し、けれどそれがいっそう彼の暴力的な、悍ましい程の美と淫蕩を醸し出している。
「空条……承太郎……」
息を細く吐くような密やかな笑みに配下である男は熱に浮かされたような感嘆を吐く。他の男の名を呼んでいるという嫉妬すら起きない。
「随分と……遅かったものだね。ジョセフ・ジョースターの遺産相続で……一から調査をし始めて。短い期間ながらも漸く此処に辿り着いたのだから……まア、一応褒めてやるべきか」
写真を手持ち無沙汰に眺め、ひらりと床に落とす。こうべを垂れた男の目線に落ちたそれにはひとりの男が映っていた。
「片桐安十郎。通称アンジェロ……そいつがこの町に潜伏を始めた事を、ジョセフ・ジョースターが感知した……それを聞いた承太郎は……ジョセフの落胤である東方仗助に会うついでに調査に来たという訳さ……」
「……消しますか?」
「万一にも気取られてはならないからって?……フフ。キミが手を下すまでもないよ。……それに、そんな小悪党……容易に足をつかせて……誇りの欠片も無く……足跡を消す事すらしない……必要が無いとすら思っている。そのような馬鹿は嫌いさ」
「つまり、下に置く価値もないと」
「放っときなァ。どうせスグに終る……」
淫靡な男───京一郎は布を肌から滑らせて落とし、こうべを垂れる男の頬に指を掠めさせる。
「私の云う事が聞けるね……?私のかわいい猟犬……」
「……
「ウフ。Good boy……良い子にはご褒美をあげなくてはね」
疼き。肩にある星の痣を押さえながら、金髪の青年は顔を上げる。
「来たか……承太郎……」
同じ部屋で漫画を開いていた少年も同じ場所を指で叩き、声を上げる。
「リキエル、ドナテロォ。ママは?」
「いつもの報告」
「じゃあ知ってんだ」
「多分ね」
「……ジョータローは無理でも、ソッチで遊んじゃあダメかな」
「手を出す価値は無いって言ってたぜ」
「欲しいって言ったらくれるかなァ〜」
「ほっときなよ。ママが価値が無いって言ったんだ。直ぐに死ぬよ、そいつ」
「チェッ」
紅茶を楽しんだり、小説を開いたり、ゲームをしたり。それぞれが好きなようにしている彼らは、金髪の青年が“嘗て生きていた頃”の息子たちで、彼らは“金髪の青年を含めて”全員が腹違いの兄弟であった。
年齢にして10程。けれど金髪の青年の実年齢は6、7歳頃であるのにその見た目は15歳程、他の兄弟よりも成長しているように思えるのである。
「そんな事よりさあ、ウンガロォ。この面全然クリア出来ないんだけど」
「ああ?そこはさァ、」
「待って待ってヒントだけくれよ!全部言っちゃあ面白くないじゃん!」
「わーったわーった、」
───ひたり。と、何かが滴るかのような不思議な沈黙と、擦るような足音に全員の視線が入口に向かう。
ひた、ひた、ひた。少しずつ大きくなる音にそわそわとリキエルが足を揺らし、ゲームの画面をテーブルに伏せる。
本の間に栞を挟んで閉じる。
漫画を座っていたソファーに置く。
用意していたカップに湯を注ぎ、捨て、温めてから紅茶を注ぐ。
「おはよう、可愛い子供たち……」
「っママ!」
「おはようママ。お寝坊さんだよ」
「漫画……新しい巻届いてたよ。ピンクダークの少年の」
緩く癖のある髪を背中まで伸ばし、羽織るだけの薄着で、男は淡く微笑んでいる。
あまりにも美しい。頬に落ちる髪の一筋ですら月光の銀の輝きを帯びているかのような。
無造作にはためく見事な絹の織物ですら霞む、女神のような、けれど妖しさを隠せぬ魔女のような男。
「うふふ……お茶にしようかと思ってね」
それぞれの頬にキスを交わし、愛おしそうに抱き寄せて、男は笑う。
「これからの事も話をしておこうか」
「何もせずともあちら側から持ち込んでくるさ」
京一郎はそう切り出した。ドナテロが淹れた紅茶に美味しいと頬を緩ませて、長くすらりとした脚を組んで。テーブルの上座に座る京一郎は目を細めている。
「私達はスタンド使いで、お前達は星の血を継いでいる。今はまだしも、外へ出歩けば必ずお前達に勘付く事だろう……それが如何な事か、解っているね?私の愛しい子供たち……」
「“危険”だって言いたいんだろ、ママ」
「でも
ウンガロが聞き飽きたという風に零し、リキエルは眉根を寄せて言う。
「運命の天秤は常により清廉で潔白な“正義”に傾く。衰えたと言えどその気質は変わっていない。寧ろ、受け継がせる者として成熟しているとも言える」
「……ああ、ジョースターの婚外児。そういう事……」
ドナテロが納得したように呟いて視線を逸らす。
「どういう事?」
「不容易に接触すれば拙いって事。ママの言う事が確かなら、きっと次代の受け継がれる人間はそのジョースターの婚外児って事だ。少しでも疑われれば何を企んでいるのか調べ尽くされてあっという間に監視下に置かれる。……パパもいるしね」
視線がそちらに向かう。その先にいるディオはちらと向けられた視線を見渡し、興味を失ったかのように紅茶に描かれる波紋を眺めている。
「可能なら不可侵に、無理でも観察対象程度で済ませないと」
「前提としては気付かれないように、じゃあないの?」
「遊びたいじゃん」
「一緒にしないでよッ!ぼくはそういう意味で言ったんじゃあないッ!」
「……ウンガロはいっつもそうだ」
くすくすと、葉が擦れるような笑声が零れる。
「ママはウンガロの遊び好きなところも、ドナテロの慎重なところも、リキエルの素直なところも、大好きよ」
のびのびと生きる様子が愛らしい。……チョット人間の人権を軽んじる所は見られるが、闇に生きる者に育まれているのだ、その程度愛嬌だろう。
「お前たちは歳の割に賢く、強い子よ……。けれどまだ10になったばかりなのだから。まだ、足りない。運命を跳ね除ける力が。対峙するに能う知識が。魂の成熟が。……あなた達が私の事を要らないと思うまでは……未だ……ママの腕の中にいてくれないかしら……」
口には出さないがさみしいのだと目を伏せる京一郎に、純粋な子供たちは同じような顔で京一郎を見上げる。
「……ママもいつもそう。ぼくたちにもそれが通じるって?」
「……うふ。だけどお前たちは今は騙されてくれるんでしょう?優しい子ね」
「ママの子だもん」
「ぎゅってしてくれるならいいよ!」
「あッ!そういえば新しいゲームが出たんだァ。それ買ってくれたらいいよォ〜」
「マ。なんて賢しい子」
とろりと蕩けるような慈母の微笑みとなった京一郎に胸を撫で下ろす。まだ、母を悲しませたくは無い。彼は嘘を吐かない。彼がそう言うのだから、本当に、まだ“早い”のだ。
京一郎は教育熱心なので、予め子供たちに基準を伝えてある。惜しみなく生きる為の知識を、知恵を、力を、学んでいる真っ最中なのだ。
だからこそ子供たちは素直に思うのだ。冷静に、冷徹に、現実的に。───未だ、独りでは生きていけない。
金銭でも、地位でも、知識でも。魂の習熟でも。
“私を利用しなさい”と、京一郎は厳しく、強く、優しく、愛おしそうにそう言う。
ひとりで立ったとしても、京一郎はずっと子供たちを愛し続けると。そう、自分の魂に誓ったのだ。
淫魔という種族は魂の色を視る。それ故に自らの魂に嘘は吐かない。それは魂の輝きを霞ませる事だと知っているからだ。
京一郎の愛とはあまりにも大きいものだ。……“嘗て居た”、自分が生まれてきた胎の女を、もう二度と母とは呼べない程に。
愛のあまりに自分の元から離したくないなど、この母親は言いやしない。決して。
彼らは解っている。そしてそれを信じ、伝える事こそが、京一郎へ返せる愛なのだ。
「ママ、愛してる」
「嗚呼……ママもお前達を愛しているわ……」
妖しく、冷たく、けれどその温もりがあたたかくてたまらない。
子供たちは全員が理解っている。京一郎は徒花の魔女と呼ばれる程に魔性で、裏で何をしているのかという事も。酷薄で、堪え症のないくらい無節操で、倦怠を帯びた愉快犯である事も知っている。そして、
だけど、それでも、あの地獄から救ってくれた。そして、今まで知らなかった“ソレ”を教えてくれた。傍から見るしか無かった“ソレ”を、惜しみなく与えてくれた。
ならば、返したい。返さなくてはならない。他でもない京一郎が、それを望んでいるのだから。それに喜ぶ、母の顔が見たいから。
きっと彼は、いずれ彼らが成長して独りで歩けるようになったら、何よりも誰よりも喜んでくれる筈だから。
★
水気のある音が寝室に満ちる。
早い息遣いがふたつ、重なり合っている。
「は、っ、はァ……あンッ♡ァ、は……」
シーツを掴む手。俯せに身体を震わせる男は、何度も肢体を跳ねさせながら髪を振り乱している。
「ァ゙、ャっ!は、ぁぁ……♡ァ、ア、気持ち、ィ♡ディオッ……!も、ッと、ナカ、出して……ぇ゙♡」
「ッ〜〜!……っ言われず、とも……ッ」
ぽたぽたと男の肌に汗を垂らしながら、青年は腰を打ち付ける。
飢えた2頭の獣のように、互いの身体を貪り、快楽を啜る。
生気に溢れた青年の欲は留まる所を知れない。律動の度に男の胎内で放たれた精液が、受け入れる事に慣れた菊門から僅かに掻き出されるのを、男は惜しむように指で撫でる。奇しくもその張りのあるふたつの肉を、その先の秘穴を強調するかのような体勢。青年の茹だった頭は更なる欲情にじりりと脳裏を焼かれる。
「ア、はぁ……ッ♡うふふ……ッ大きくなった、誘われちゃったの?」
「ッ……黙って犯されてろ」
「ァ゙ッ!……やん、いけず」
うっとりと男は顔を弛め、覆い被さる後ろを振り向く。
「折角
男は指に乗せた白濁を舐めて笑う。
淫蕩に、噎せ返る程の色慾に塗れた、男を誘う淫靡な姿。破滅に導く淫魔の誘惑を、青年は跳ね除ける事も叶わずにいる。
ミドルスクール生程の体躯の青年が、20代程の美男を性的に貪る様は背徳的だ。倫理に悖る。その精神年齢は如何程であろうとも。
がしりと京一郎の肘を掴んで引き寄せられ、身を捩るようにされてより深くに打ち付けられた京一郎は背中を反らして悶える他なかった。
「あうっ……!は、あ゙、ぁ!」
ぼんやりと掠れた黒がディオをひたりと見つめる。
雄膣の腹側をぐりぐりと抉り抜く快感は堪らないもので、京一郎はその雄蕊に媚びるようにねっとりと締め付けて、その律動を受け入れる。それに歯を食いしばりながら、ディオはまた強く京一郎を貫くのだ。
まるで永久機関のように、とめどなく互いを高め合って快楽を募らせる。単調で、あまりに本能的。荒々しい破裂音と粘性の水音は、彼らの興奮を如実に露わにしていた。
「は、ァ……ナミセ、ナミセ……ッ!」
「ンあ、!あ、ふ、しょ、ね……ッんはっ♡あ、あッ……い、きそ、少年、も、おれ、いく……ッ♡」
「は……ッ!もうイくのか?この程度で……っ」
「ン、ッ……フフ、!そんなに言うなら、おまえもッ!イかせてやる、よ……ッ」
前の呼び名で互いを求め、売り言葉に買い言葉で挑発する。
京一郎はひと息に身体を起こし、掴まれていない方の手でディオの大腿を掴み、ぐっと腰を深くに落とした。
ずぶ、と結腸口のすぐ手前にまで。急激に締め付けの増したナカにディオは喉で呻く。
「あは。ほら、早くイけよ♡逃げんな♡」
「ッ!!こ、の、淫売め……ッ!」
「どうした、止まってンぞ?……ふふ!今度は俺が動いてやらねぇとなア?」
先程よりも鈍い破裂音が響く。骨同士がぶつかるそれすらも劣情を煽る。京一郎は淫猥に喉を晒して仰け反り、はあ、と恍惚に、その蠱惑的な顔を蕩けさせ。ディオは晒された象牙の肌に強くその牙を埋める。京一郎の仄かに赤く染まる首が美味そうに見えたのだ。
舌が、唇が。赤く浮いたように毒々しい。髪が汗で一筋張り付いて、流れ落ちる滝のような汗は律動にきらきらと散った。
溢れる血を啜り、垂れるそれに舌を這わせ、逃がさないようにと腹に腕を回す。ディオが黒髪に顔を埋めてざりざりと舌で舐る度、京一郎はその瞳を薄く開けて悪夢のように微笑む。
ぐりぐりと円状に腰を揺らし、ぶるりと四肢が戦慄いた。
「ディオ、出して……ナカ、ね?」
「な、みせ……っ」
「ほぉら、はやく、出せよ。出せったら……♡」
我慢を重ねた肉は痙攣し、浅く唇を噛み、けれど笑みは貌に乗せたまま。
「ん゙、はあ、〜〜〜ッ♡!あ゙、ぁ……ッ♡」
「ッく……ふ、ぅ……っ」
二股に割れた長く薄い舌が晒され唇に乗る。犬のように大口開けて。絶頂の余韻に瞳が陰った。
「ぁ……は……♡ァあ……」
満足のいくまで自分本位に搾り取られ、うっとりと余韻に浸る京一郎を腕の中に収めながら、またもこうなったかとDIOはいっそ苦悶を浮かべて顔を歪める。早る若い身体は堪え症なく、目の前にある包容に抱かれるのを望むのだ。そこにDIOの意志は介在しない。
傾城、或いは傾国の美男が自分に侍る事の優越とは馬鹿にならない。それが奴となれば萎えるものもあるが。それはそれとして、変わらず奴の肉は極上だった。寧ろ快楽を貪る度に、奴の呼び名のひとつである徒花のように乱れ散るので、視覚でも犯されるような心地にさせられる。
夢の中で散々犯しておきながら、などと此奴は言うだろうが。
「なァに考えてるんだ?」
肩口に埋めていた顔を上げて、京一郎は機嫌良く猫が甘えるように、DIOの側頭部に頬を擦り寄せて笑う。
「不満ならもう一ラウンド、ヤる?」
「誰がやるか、この淫獣め」
「おまえにだけだよォ」
今のDIOの肉体は15歳程度。まだ京一郎の方が上背がある頃だ。感情の澱を啜り、淫猥に笑って、京一郎はずしりとDIOに伸し掛る。
「重い」
「失礼しちゃうね」
仰向けのDIOの顔の横に肘をついて、見下ろすように京一郎は俯く。緩く癖の付いた長い髪がまるで暗幕のように視界を覆った。その薄暗の中で、京一郎の瞳だけが、ぼうっと青白く浮かぶ。
「可愛いね。愛してるぜ」
「……その目で言うか」
さも、殺してやると言わんばかりの眼光が細められる。
「……うふふ」
柔く包み込むような慈愛ではなく、執念深くどろどろと煮詰まったそれこそが、DIOに向けるに相応しいものだと、京一郎は確信を持ってそのように言う。
京一郎はDIOを産み落としたものであるが、それ以前に、京一郎をこの世界に引き摺り落としたのはDIOであるから。それを繋ぐのは執着と、憎悪と、悦楽と、怨恨と、愛と。そのように。
それでいい。それがいい。
「……シよ?」
「おい、!」
「あれだけじゃア満足出来ないの」
後の言葉を口付けに隠して、侍るように淫魔は嗤う。
「無理なら俺が上でもいいよ」
「誰が、」
「うふふ!ならちゃあんと勃たせてね……」
しとりと濡れた髪を掻き上げて、京一郎はくつくつと笑う。
腰を揺らし、惜しげも無くその肉を晒して。
舌舐りをする。
「あいしてる」
町を歩く。今は人の身とはいえ日中は太陽が眩しくてたまらない。街並みの様子、空気の匂い、全てが馴染みの薄い環境。夜の間はまだ気が紛れる。
奴の故郷と同質にして異なる、極東の日本という島国。
……あまりに平凡。あまりに平穏。血の匂いも荒々しい喧騒もない。夜の匂いすらも違う異国は、いつまで経っても慣れる気がしない。
奴の言う“暇潰し”がどれだけの価値があるか、どれだけの時間かかるのか、奴は決して口にはしない。奴のスタンドが奴に何かを囁いている所を頻繁に見るので、“記憶”関連で良からぬ事を吹き込まれているのかと疑っている。それも愛嬌且つある種の崇拝の証だと奴は笑うのだろうが。
風が髪を揺らす。花の匂いの香る異国の春。
この微温湯のようなそれに浸って何年が無駄に過ぎただろうか。嗚呼そうだ、この時間は無駄だ。無為に、時間だけが過ぎていく。肩の痣が疼く。奴がいる。このおれを上回り破滅させた星の末裔が。
殺せと内側で獣が唸る。老いた奴など今のおれでも殺せる筈だ。
体内の熱を吐き出す。それすら闇に包まれた空に溶けていく。それすら気に食わなくて舌打ちをした。
腐りそうだ。腐り落ちて、グズグズに溶けてしまいそうだ。
……腹が減る。飢えが止まらない。奴を喰らいたい。自分を温く蕩かす奴の肉を貪りたい。
飢えはあの淫魔に向いていた。向けさせられた、ともいう。耐えろと京一郎は声に出さずにそう言っている。そうすれば無聊を慰める程度の
時は来るのだ。その時まで。
自分のこの飢えを癒すのは、天国の存在以外に有り得はしない。
確かめるように、輪郭をなぞる。おれは変わっちゃあいない。変わっちゃあいないのだ。
決して。何ひとつ。
切
★
誤字報告お待ちしております(他力本願)