吸血鬼は淫魔の夢を見るか? 作:マスター冬雪(ぬんぬん)※休止中
追記:
38話と39話の間の話を入れ忘れておりました。最新話の方に入れておりますが、こちらにも入れておきます。次回更新時、最新話の38.5話を消させて頂きます。……ご迷惑おかけしております……。
「ジョセフ・ジョースターが日本に来る?」
あの人ボケてなかったっけ。
動かしていた手を止めて首を傾げる。
「キミが言うンだから、確かな事だろうけれど」
アメリカからそれを伝えに飛んできたんだから、褒めてあげないと。視線を合わせずに作業を再開する。触れないで、と幼子に言うように言い聞かせて。
「ふぅ……そうなると、また事が大きく動くね」
電気そのものになれる『レッド・ホット・チリ・ペッパー』というスタンドの事、スタンドの弓矢の行方の事。
「ねぇ、私のオネガイ……聞いてくれる?」
聞いてくれるなら、
「今度は何の悪巧みをしている?」
「やだ、そんな。悪巧みだなんて、はしたないわ」
「おまえが誤魔化す時は、おれにも他の有象無象と同じ口調で話す」
「……よく観察してるな」
シャワー上がりに遭遇して、そのように言われてしまえば装う価値もない。暑くて着崩した服をはだけさせたまま、壁に凭れて腕を組む。
「ジョセフが来日する」
「!」
「それを護衛する人員に友人が立候補するから、迎えに行こうと思ってな」
と、そこまで口にすれば、彼ならば分かるだろう。
「極秘だろう」
「偶然会うンだよ」
「は。また“偶然”か」
「俺はどうやって日本に来るか知らない」
マ、予想はつくが。
「海路か」
「あの飛行機運じゃあな……普通に無理だろうよ」
ジョセフが生まれてから10年前のあの旅まで、どれだけの飛行機が墜ちただろうか。記録も言っている、ジョセフに空路は無理だ。年齢もあるだろうし。御歳78だったかしら。
「そろそろ動いたっていい頃合だ」
「引っ掻き回すだけだろう」
「結末は変わらないンだ、どう動こうが俺の自由だぜ」
「……おれに警告しただろうが」
「ああ。でももう今更だろ?……虹村形兆は死んだ。虹村億泰はおまえを知らない。東方仗助も同じだ。おまえを知っているのはSPW財団と承太郎とジョセフのみ。更に言えばSPW財団には“幾つか”目を放ってあるからその動向は詳らかだ。それを知って尚会おうと言うなら、俺に止める資格は無い」
その弱りきった肉で勝てると言うならそうすれば?
ズボンのポケットに突っ込んでいた煙草を咥えて火を付ける。
「彼らは俺の顔を、結局知る事もなかった」
おまえが逃がしたんだから。まァそのお蔭で、囚われになる事も保護される事もなかったのだが。
「そろそろもうひとつの弓と矢の持ち主も運命に導かれるだろう」
「!……もうひとつ、だと?」
「……?ああ、うん。……駄目だな、また混線していたみたいだ」
知らない筈の情報が頭に当然のようにある。もう慣れた事だが、多分、レディは俺が“知っていなければならない事”だと確信しているのだろう。邪魔をしないようにか、ほぼ穴あきなのだが。
はあ、と煙を吐き捨てる。
「……やめたんじゃあなかったのか」
「煙草?子供達の為に?……んふ、そうだなァ……まさか、おまえが子を気にするなんて」
「見当違いな事を抜かすな。おれが臭いと思っただけだ」
「他のオトコの匂いよりマシだろ」
「殺されたいならそう言え」
「ジョーダンジョーダン」
ふっと彼の顔に煙を吐き付ける。
「ッ」
「言えよ。おれ以外に触れられる事を許すなって」
「……けほっ」
「はは。おまえが言うならこんなやり方、やめてやるのに」
「……何を対価にされるか分かったもんじゃあない」
ははは。そうか。言わないなら、知らないな。
“友人”の乗った船が港に近付く。ちょうど、報告にあった『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の本体であろう男、音石明が海へ飛び込むところだった。
傍にいる東方仗助と……おそらく、広瀬康一は、ぼんやりと海の方を眺めている。
これは……どういう状況だろう?何故無造作に、敵を監視する事なく、ぼんやりしているのだろうか。
血塗れ、だったように思う。戦闘が終了して、音石明が心を改めた……訳が無い。あのような邪悪寄りの、町の人間の命などどうでもいいッて奴。部下のダンとかラバーソールとかJ・ガイルを思い出す。足して割ったらアレになりそう。
ことりと首を傾げて、船はまだかな、と遠巻きな場所に腰掛けた。
……と。暫くして、広瀬康一が音石明がいなくなった事に気付いて大声を上げた。
「あッ!!あの!お姉さんッ!」
「うん?なぁに」
「(?!アレッ、男の人?!)こ、此処にいた長髪の男ッ!何処に行ったか知ってますか?!」
「……私が此処に来た時、ちょうど海に飛び込むところだったけれど……」
「そ、そんな……ッ!承太郎さんッッ!!」
焦りを滲ませる彼らにこてりと首を傾げて見せる。
「よく分からないけれど……とても大変なのね?さっきの男の子、探せばいいのかな」
「エッ?!で、出来るんですかッ?!」
「大体のところでいいのなら……伝えてくれる?船に、その事を伝えたい人がいるのよね」
「は、はい!」
「うん……じゃあ、私を信じて。彼は今……あの船の船内にいるよ。しゃがんでる。荷物でも持ってるのかな。今入ってきた人は、その男の子じゃあない。船内には……お爺さんと、若い……学生さんがいるかしら」
「じ、承太郎さん!今入っていった人は船員さんで、他に船内にいる人間が音石明ですッ!!」
「アンタ……何モンだッ!?あんな距離で、どうやってッ!」
警戒したように立ち上がって此方に構える仗助に、頭から被ったヴェールとサングラスを外して、ゆったりと目を細める。
「魂が視えるって言ったら……キミは信じてくれる?」
「ジャック!」
「ええ?!き、京一郎さん?!どうして此処に……」
「貴方が言ったんでしょう?今日、日本に来るって」
この町に直接来るとは思ってなかったのだけど、まさか本当にこの町の港で会えるなんて!……と、俺は友人にハグをして手を握る。
「遠くで感じていたキミの魂が近付いて来るのに気付いて、いても立ってもいられなかったの……仕事中にごめんなさい」
即興の演技もできるなんて、とっても良い子だね。Goodboy、流石、私の猟犬だ。
「詳細は秘密だって言っていたけれど、危険な仕事だって、電話口で深刻そうだったでしょう?怪我はない?キミは私の大切な友人だから……」
「も、勿論です!怪我はひとつも……」
仗助とジョセフの心温まる出会いの後、私は友人と先日振りの再会をしていた。まア、後ろには詳細を知りたい承太郎がいるのだが。こわぁい。
「もういいか」
「あっ。ごめんなさい……ジャクソン、また後で会いましょう」
「は、はい!その……お気をつけて」
「フフ!なあに、この人達は信頼出来るって言ったのはキミじゃあないの」
心配性だなァ。この程度軽くこなせずして、こんな所にまで出歯亀しにくる訳ないだろうに。
「アンタに聞きたいのは、アンタのその……魂が視えるという下りについてだが……」
「ああ……そうね。ひと口に魂と言ったけれど、それは現世に肉体を持つ魂のみ。大体は死んでしまうと同時に魂は黄泉路へ向かい消えていくから……」
魂の形を視て、その人の感情を読み取る事も出来る。察知範囲は……普段は視覚範囲内なら、何処でも。
尋問か。笑ってしまいそう。
「……アンタ。これが見えるか」
「ええ。えっと、スタンド……だったかな」
「出せるか?」
「見える、という事はそういう事でしょうに」
まどろっこしい。承太郎の考えている事は分かる。要するに、判断しかねているのだ。敵か味方か。スタンド使いって割と自己主張強いタイプが多いから、秘密主義な、味方になるかもしれない人間となると手荒な真似も出来ない。
「私は水瀬京一郎。一応、日本人ではあるよ。スタンド、と呼ばれるものはこの世界に生まれた時から傍にいたわ。彼女のお蔭で、私は今まで生きていけたの」
寄り添うように現れたレディに承太郎は身構える。
「『ホワイト・ポニー』。私の親愛なる“隣人”、私のホワイト・レディよ」
この杜王町で暮らしている事を伝えた俺に、承太郎は最後に、と前置きして言う。
「前に……私と会った事はないか」
「アラ。うふふ……貴方のような素敵な男性にそう言って貰えるなんて光栄ね。……残念だけれど、会った事は
★
音石明は承太郎と億泰の手によって丁寧に脅迫を入れた為、自ら大人しく刑務所に入ったらしい。窃盗による被害総額は5億円。スタンドもボロボロだったので、最早スタンド使いとしても再起不能だろう。使い勝手の良いスタンドだったのだが、致し方ない。
さて、俺は別途に事情聴取をSPW財団の人間に行われた。おそらく身辺調査も秘密裏にされた事だろうが、その点については心配していない。何故ならその人員は俺の“友人たち”であるから。別に俺、SPW財団に入った友人が1人しかいないとは言っていないし。
協力者としてSPW財団と手を結び、けれど彼の事が露呈した訳でも無く。俺は今日とて平穏に、杜王町で生活している。
───おぎゃあ、おぎゃあ!
「……ん?」
赤子の泣き声?右前方から右後方にかけて高速で走る気配に感覚を疑う。
赤子ってそんな早く動けないだろうし、母親がベビーカーでも手放したか?無責任な……。
放置しておくにも良心の痛む、悲痛な、且つ原始的な感情の訴えにそちらへ足を向ける。
そこには血の滲む溜池に沈むジョセフと仗助の姿……と、目には映らない赤子が、仗助のスタンドに抱え上げられているところだった。
「アラ……貴方たち、あの時の……」
「え!?あっ、あん時の!」
驚いた拍子に赤子が更に大きな声で泣くので、仗助は慌てて泣き止ませようと腕に赤子を抱え直す。
「ああほら、池から上がってきなさいな。風邪を引いてしまうわ。おじ様も……怪我をしているの?」
「く、『クレイジー・ダイヤモンド』ッ!」
池から這い上がってきた2人に事情を聴きながら、腕の中に赤子を抱えあげる。成程、透明だけど確かに“いる”。
「透明になるスタンドを持った無意識のスタンド使いの赤ちゃんを助けようとしたのね。可愛いらしいお顔の子ねぇ、」
「み、見えるんスか?!」
「忘れちゃった?私は魂の形が見えるのよ。視界のチャンネルを変えれば肉体の造形も分かるわ」
肉体には生命力が満ち満ちている。それ即ち魂と肉体を繋ぐ根源だ。
「つまりアンタがいてくれりゃあ……」
「……大変だったみたいねえ……」
とん、とん、と赤子をあやして、心臓の音を聞かせるようにしてやれば、赤子はすやすやと眠って、瞬く間に姿を現した。
「ね、眠ってる……」
「仗助くん、すまないが……この方は誰かね?」
「あ〜……っとォ……、」
「そういえば自己紹介がまだだったかしら。私は水瀬京一郎。スタンド使いでもあるから、事情はある程度分かるわ」
赤子を覗き込む仗助はふっと顔を上げて会釈する。
「おれは東方仗助、で、こっちにいるのが……」
「ジョセフ・ジョースターじゃ」
「おじ様は初めまして。……そして仗助くんは……改めて、久しぶりね」
「えっ?!……その、スンマセン、どっかで会ってましたっけ……?」
思わず噴き出すように笑ってしまったのを、手で隠して謝る。
「覚えていないのも無理ないわ。だって初めに会ったのはキミが5歳くらいの時だもの」
「ンン〜〜??」
「公園で、キミは体調を崩した私を気遣ってくれた……お腹の子が生まれたら仲良くしてくれるって」
「!!ああーーッ!アンタ、あン時の妊婦さん?!」
「なんと……?」
髪型があの時から変わらなくて、直ぐにわかったわ、なんて。
「相変わらずキマっててカッコイイね」
「ッ……へへ、」
「ム……失礼じゃが、お前さんは男じゃろう……?」
「ウフフ……どっちだと思います?」
くすくす、と悪戯げに笑ってみせる。
「性別なんて些細な事ですよ。私はそういった体質だった。スタンドなんて不思議なものがあるんですもの。出来ないと決めつけてしまうには、この世界はとても広いのですから」
携帯端末で部下に連絡して、赤子を探す親がいないかを調べさせているのだが、まだ連絡はつかない。
今日のところは育児の経験のある私か、赤子が懐いているジョセフの元で世話をするしかあるまい。
そこまでしてもらう訳には行かないらしい、赤子はジョセフが預かるつもりのようだが。……ボケたと聞いたが、先程の話から、やはり星の一族は油断ならない。けれど流石に心配というものだ。赤子の世話なんてホリィや承太郎以来だろ。せめてシッターを雇うまではいてやらないと。透明になる赤子を気味悪がらないシッターなんているかは置いておいて。
暫くするとSPW財団から迎えが来たのだが、赤子を離そうとしたらグズってしまったので、そのまま一緒に車へと乗り込む。流石に此処で透明になられては困ってしまうだろう。
「服も濡らしてしまったようじゃ。礼もしたい」
との事なので、お言葉に甘えて。
ジョセフは分かっているようだが、仗助にタオル代わりに貸したショールはカシミヤである。因みに今日の顔布は黒に金の刺繍の入ったフェイスベールだ。チュールの薄い生地にレースをあしらったオーダーメイド品。値段は知らないが、織り込まれた金糸は本金糸のようだし、それなりだろう。
それを濡らしたとあれば、まあ、それはそう。
「お気にされなくても大丈夫ですのに」
「あのォ……京一郎さんって仕事何してるんスか?
「色んな企業の相談役兼カウンセラーってとこかしら。こう見えて人脈はあるのよ?」
「そりゃあ、見ててわかるっつーか……」
「まあ、ありがとう」
目を細めて頬を綻ばせる。照れたように耳を赤くして不自然に視線を逸らす彼は本当に愛らしい。
「ジョセフさんと承太郎さんはどうしてこの町へ?」
「あ〜……その、承太郎さんはおれと血が繋がっている関係と……その、最近スタンド使いが増えてて……ジョースターさんは京一郎さんに見付けてもらった音石明を探す為に───」
「ああ……確かに。私も会った事あるわ、キミたち以外のスタンド使い」
「えっ」
「ネコのぬいぐるみで悪さする青年と、イタリアンレストランの店主さん」
「あっ、あ〜〜……」
到着したのは承太郎の滞在先である杜王グランドホテルであった。どうやら急遽ジョセフは此処に宿泊をする事にしたらしい。ジョセフがいなければ赤子はそこらじゅうの物を透明にしてしまう。……俺はほら、彼程は信頼されては居ないけれど。一応母だからね。彼女をしっかり見つけられるし、彼女の目をしっかりと見つめられる。欲しいものも感情を読めば分かる事だし。シッターとしては最上だろ。
予約していた訳でもないので直ぐに案内される筈もなく、予約は1週間先だというので、仕方なく俺の名前を出してホテルのオーナーにお願いしてVIPを開かせたという訳。相手は不動産王だし、かなり大口の顧客だし、オーナーは俺の猟犬なので。
……また集会開かないとだな……彼、俺を
「クリーニング、本当にお願いしてもよろしかったの?」
「構わない」
部屋の準備をしている間に承太郎が連絡を受けて、取り敢えず自分の部屋に招いてくれた。流石に半分濡れた状態でそのままなのはどうかと思ったらしい。
ジョセフは持ってきていた服を、俺と仗助は態々買ったのだろう渡された服を手にしていた。
「仗助、それは……」
「京一郎さんから借りたんス!タオル代わりにって」
「……最高級のカシミヤ製だぞ。30万はする」
「……はあああっ?!?!」
「言わなくたって……」
無造作に肩に掛けてたものね。スポーツで使うみたいに。
あの溜池はジョセフの血で滲んでいたから、今では斑な茶褐色に染色されている。
「ジョセフさんも言わなかったのに」
「それは悪かった。……ジジイはあまり気にしねぇからな」
「き、京一郎さぁん……」
「いいのよォ。どうせ貰い物だもの」
そんな物より、早く着替えてしまいなさいな。そう言って自分もシャツを取り替える。
「……仗助くんはなんでそんなに大仰に目を逸らすの?」
「い、いやあ、何となく……」
「ジジイと仗助が世話になったな」
「気にしないで。勝手に首を突っ込んだのは私だもの」
───水瀬京一郎。20代に見えるが実年齢は37。8年前に日本の杜王町へ移住した。血の繋がらない養子が4人いる。世界各地を旅して周っていた経歴アリ。その際に人脈を広げ、その審美眼により多くの企業の外部相談役兼カウンセラーとして生活しており、多くの芸術家や創作家のパトロンとして積極的に支援をしている。
スタンドは『ホワイト・ポニー』。常時魂を視認する能力を保有しているが、スタンド自体の能力の真価は不明。
日本人だが母親がコーカソイド系のハーフらしく、京一郎自身はクォーターにあたる。両親とは絶縁状態の上、双方死亡している。詳細不明。
その実態の殆どが不明、且つ不自然だった。
何せ8年前以前の記録があやふやなのだ。大病を患っていたから、というにはあまりにも記録が無さ過ぎる。
8年前。当時29であった京一郎は、一体何処で何をしていたのか。
「私の事が気になるのかしら。視線が擽ったいわ」
青の滲む掠れたような墨色の目が細められる。
「謎めいている方が魅力的に見えない?」
「……」
「ウフフ。奥さんいらっしゃる?一途ねえ」
「……私はひと言もそれを言った事はないが」
「そういった勘は働くのよ、私」
……此方が調べているように、彼にもそのようなツテがある、という事か。
野暮ねえ、と京一郎は口の中で転がすようにボヤく。
「“俺”は友人の多いだけの男だよ」
「それが本性か」
「どれもこれも、これが私のありのままの姿よ……なんて、キミはそれだけでは誤魔化されてはくれないか」
何もしないよ。この町の事、今の暮らし。気に入っているの。
「確かに、私の元には多くの情報は集まるわ。けれどその殆どは噂話のようなもの。別に意図して集めている訳ではないわ。世界的にも有名よ?ジョースターと、SPW財団の名は。……この力について、そりゃあ気にするわ。生まれ持った、他とは違う力。深くは知ろうとは思わないけれど、記憶力はいいの」
「DIO……という男を知っているか」
「嗚呼、知っているわ。けれど、知っているだけね。12年前突然現れて、情勢を荒らすだけ荒らして、2年程で忽然と消えた。大きな惨劇を世界中に撒き散らしてね」
嘘はない。だが、あまりに他人行儀だ。
「そのDIOという彼もスタンド使いだったのね。納得だわ」
そして、感情の波が少な過ぎる。
肉体の反応にも、精神にも、揺らぎがない。奇妙な程に。
「まァ、そんな事は最早どうでもいいわ。もういないのでしょう?その彼」
「……ああ」
「何を調べようとしているのかは知らないけれど、私で良ければ協力するわ。助けになるかも分からないけれど」
「何故?」
「何故って、言ったでしょう?私は今の暮らしが気に入っているの」
そうして、京一郎は朗らかに。少女のように破顔した。
「契約料に私の能力の訂正をさせてもらうわ。私の感知範囲内は肉体の欠損をしない程度なら、日本国内全域ね」
スタンドの射程距離は10m程度だけどね。
「……末恐ろしい男だな、おまえは」
「お褒めに預かり光栄だわ。……スタンド能力自体は……もっと仲良くなってから教えてあげる」
月末、仗助はクレジットカードの高額な請求書に絶叫したという。
★
「……!」
頁を捲る手が止まる。魂が驚きにひとつ、波打った。
何処かを見ているかのような、虚空を一点に見つめる様子を不思議に思って声を掛ける。
「ディオ。……どうかした?」
「……今。時が止められた」
「……承太郎か」
俺の言葉に眉根を寄せる。いつの間にか、ディオの手にあった本は閉じられていた。
「……、……断続的だな。それもたった1秒程度、か。……フハッ!……衰えたな、承太郎……ッ!」
「ンー……戦闘中って事かな」
音石明は捕まったというのに、町の範囲内で何を相手にしているのやら。
「気になる?」
「……」
「今が好機?会いに行って……フフ、殺してしまう?」
俺の声に先程の高揚を消し去って、ディオは視線をちらと向け、逸らした。
「おまえは自分の手で因縁に終止符を打ちたいんだろう。今行って、殺せる?フフ。時止めも練習してないのに」
「止めれば察知されると言ったのはおまえの方だろうが」
「そうだな。だが事実だ。別に俺はそう言っただけで、やめておけとは言っていない」
鼻白んだようにディオは眉間に皺を寄せて、再び本の頁を開く。
「時期尚早だ。せめてこの身が吸血鬼として完成するまでは」
「その体が20前後になる頃には為るよ」
「……おれが石仮面を被った時か」
「そういう事♡肉体の最盛期に近い方が何かと都合がいいだろ」
それに、因果は繋がっている。おまえがおまえであり続けるならば必然的に。
★
「ママ!岸辺露伴がこの町にいるってホント?!」
ウンガロがぱたぱたと部屋に駆け込んでくる。目をキラキラさせて、その手にジャンプの本誌を抱えて。
「まあウンガロ、ママすっごく驚いたわ。そんなに大慌てで、転けちゃったら危ないわよ」
「あ、……えへへ。ごめんなさい、ママ」
膝に抱き着いて、にこにことウンガロが頭を撫でる俺の手に擦り寄ってくる。ウーン可愛い。
「せめてノックしてから入れよウンガロー」
「わ、わかってるって!」
「ウフフ。ウンガロもお菓子食べる?」
「食べる!」
「ドナテロ、お茶の用意をお願いしてもいいかしら?」
「ママが言うなら、いいよ」
今この時間は定期的なドナテロとのお茶会の時間だ。そこにリキエルが座るのもいつもの事で、偶に俺が起きているディオを引っ張ってきたりする。
テーブルに並んだ色とりどりのお菓子はドナテロがカタログから選んで取り寄せたもの。大人ぶって俺の好みの茶菓子を揃えようとするので、その度に自分の好きな物にしなさいと言うのだが、ドナテロはママに楽しんで欲しいのと頬を膨らせて言うので。本当に愛らしい子だ。
「ウンガロ、ママの膝ズルい!」
「そう言うなら今度からママの膝に座るんだな!」
「こーら、喧嘩しないの」
「「はーい」」
柔い声で諌めれば素直に良い子の返事をするので。
「……じゃなくて!岸辺露伴!」
「“ピンクダークの少年”よね?ママも好きよ」
「えへへ、知ってる!」
「今の“好き”、は漫画の事だよ、ウンガロ」
「わかってるし!」
傍のサイドテーブルに置いた雑誌を見遣り、そういえばその“ピンクダークの少年”は1ヶ月少し休載するのだったかと思い出す。
「じゃなくてぇ〜ッ!」
「フフ!フフフ……ごめんなさい、ウンガロ。ちょっと楽しくなってきちゃって……」
「ママの意地悪ッ」
「ごめんね、許してちょうだい……ママが悪かったわ」
「……。……お菓子、アレ……あーんしてくれたらゆるす」
「これね?……はい、ウンガロ。あーん」
「あー、んん。んー」
「どうかしら、許してくれる?」
「ん〜、ふふ!ゆるしてあげる!」
「嬉しいわ、ありがとうウンガロ」
ちゅ、とウンガロの額に口付けると、ウンガロはすっかり機嫌を良くしたようだ。
「その岸辺露伴がこの町にいるって、どうして気付いたの?教えてなかったわよね?」
「えー……っとねぇ、えへへ……」
「ウンガロ?」
「……、……スタンド使って」
「そーいえば最近ウンガロずっと絵描いてたよね〜。完成したんだァ」
ウンガロのスタンド、『ボヘミアン・ラブソディー』は既存の漫画や絵画のキャラクターを実在化させる能力だ。その物語のキャラクターは物語に沿った行動を行ない、最後にはそのような結末を迎えて元に戻る。……が、その真価はその先だ。実在化したキャラクターに心を惹かれた者の魂を分離させ、そのキャラクターの行動に沿って行動させる。結末まで迎えるとその物語がどんな結末であれ、演じきった後の魂は行方不明となる。つまり残った肉体は死亡するのである。……因みに、実在化したキャラクターは一般人にも目視できる。
「遊んでたのね?誰にも見られてない?」
「うん……」
「ごめんなさいできる?」
「うん……ごめんなさい、ママ」
「はい、許します。ごめんなさい出来て良い子ね、ウンガロ。スタンドで遊ぶのはお家だけにしましょう?それか、ママが良いって言った時だけ。ね?」
「うん!」
「それで、どんな絵を描いたの?」
「えっとね、スパイの絵!普段は普通のカッコで町に潜むクールな情報屋でね、殺しはしないの。でね、最後に見た物を依頼人に報告してクールに夜の黒に消えるの」
「かっこいいのねぇ、後でママにも見せてくれる?」
「いいよぉ〜!」
外の様子が気になったのか、アニメの影響か、漫画の影響か。そういう使い方も出来るようにするとは。物語の……そう、“依頼を受けて報告する”、の下りは敢えて曖昧にしたのだろう。確固とした設定がないという事は存在が揺らぎやすく
そして、他に損益が生じない範囲内でならごめんなさいで許されると分かっている狡い子だ。良いよ、その程度の悪戯許してあげるとも。この町は行方不明者が多いし、少しくらいなら目撃者も死体も消してあげられるだろうしな。
「そうしたら、岸辺露伴を見かけたっていうのかしら」
「そう!新年特大号の表紙ソックリ!傍にいた高校生?も露伴先生って言ってたから間違いないよ!」
「凄いわねぇ」
「〜〜ッ!!ぼくだってそれくらい出来るもん!」
向かいで静かだったドナテロが大声を上げて立ち上がる。隣のリキエルがびっくりした顔でカップを揺らしてお茶が少し零れた。ドナテロの後ろに現れたレディが、あらあらといった顔でテーブルで揺れたティーポットを押さえる。
「寧ろぼくの方が早く見付けられるよ!ちゃんと暴走しないように制御出来るようになったし!射程距離も長くなった!ちゃんと欲しいもの掘り出せるようになったもん!」
ドナテロの『アンダー・ワールド』は、自分の望んだ過去を土中から掘り出す事が出来る。人なら記憶や経験を、物ならその物に起きた事象を、そして現象なら災害すらも。射程距離内で必ず発動し、始まったそれはドナテロすらも止められない。
「おれの方が強いし。漫画のスーパーマンだって出せるんだぜ?事故なんてちょちょいだよ」
「スーパーマンだって隕石には勝てないよ!」
「勝てるよ!」
「勝てない!」
「勝てる!」
「勝てないもん!」
ああ、涙目になって。おろおろと2人を見渡していたリキエルが助けを求めるように俺を見上げて、何を思ったのかぐっと目を瞑る。
「〜〜〜ッッ!!2人ともいい加減にしろ!!ママを困らせるなッッ!!」
ぱっとスタンドパワーが起こるとリキエルの右手に爬虫類のようなものが現れ、目にも止まらぬ速さで、何かがウンガロとドナテロの周囲を飛び回る。
「うわぁ?!つ、冷たい?!」
「目が開かないッ……リキエルぅ?!ごめんって、解除してぇ〜!」
リキエルの『スカイ・ハイ』。右腕に乗ったそれは未確認飛行物体“ロッズ”と意思疎通が出来る能力がある。……果たしてロッズに意思や自我があるのか不明なところだが。魂はあるようだが。ロッズは視認が不可能な程の高速を正確且つ自在に飛行し、動物の体温を奪って生きる生命体だ。……つまりスカイフィッシュ。前の世界でも昔取り上げられていた、写真に映り込む謎の飛行物体。
急激に体温を奪われるという事は、その部位が機能不全を起こすという事。
今リキエルがロッズにした“命令”は、ウンガロとドナテロの瞼の体温を奪う事。……リキエルはパニック障害で瞼が開かなくなる事がある。今はそこまで無いが、ストレスが重なるとやはり度々起こるのだ。今も少し瞼が落ちている。その為か否か、リキエルは医療書などを寝る前の読み聞かせに強請ったりと、勉強を欠かさない。それ故の能力行使。
「はい、みんなそこまで」
ぱん、と手を合わせる。3人の動きがぴたりと止まった。
「リキエル、落ち着いて……息を吸って、ゆっくり吐いて……」
「ママ、」
「大丈夫よ、リキエル。ありがとう、ママの為に怒ってくれたのね?」
「……うん」
「嬉しいわ。おいで、リキエル。ドナテロも」
掌でドナテロとウンガロの瞼を温めてやって、ぱちぱちと開くようになったら手を離す。
「スタンドは個性と同じよ。それぞれに良いところがある。どれがいちばん強いだとか、いちばん優れているとか、本当はありはしないの」
「……パパは?パパのスタンドは強いでしょ?」
「フフ……確かにパパは強いけれど、パパは承太郎に倒されたのよ?おんなじ能力を持った、パパより弱くて脆い人間にね」
彼のスタンドは先出しジャンケンだ。対承太郎では後出しジャンケンだったが。
「……相性って事?」
「十人十色って事」
何も戦闘力が強ければ良いという訳ではないのだ。勿論、情報収集や暗殺だけが強ければ良いという訳でもない。
「他を比べるより、自分がどれだけ成長出来るかを考えた方が良い。備わったスタンドは変えられないのだから」
確固たる意志がなければスタンドは脆くなる。柔軟な思考が無ければスタンドの成長は止まる。諦めない心からスタンドは進化するのだ。
「ママはウンガロのスタンドも、ドナテロのスタンドも、リキエルのスタンドも。どれも素敵だと思うわ」
純粋で、無垢。万華鏡のように如何様にも見え方を変えられる子供たちを、俺は愛している。
どんなに俺を心酔しても、信者らはその在り方を変えられない。
けれど子供たちにとって俺とは世界の理そのものなのだ。俺が白を黒と言えば、どうして黒なのかを自分で考えられる良い子。
それが、堪らなく愛おしい。
これから彼らは俺の元から飛び立つだろう。この箱庭から出て、この広い世界を見て、如何様に変わっていくのか。その変化をも、きっと俺は愛し続けるだろう。
「私はあなたたちの孵化する時を、楽しみにしているわ」
道を外れて枯れようとも、目覚めて遠い蒼穹を自由に飛び回ろうとも。それが彼らの結末ならば。
「ウンガロは岸辺露伴先生に会いたい?」
冷めてしまった紅茶を淹れ直し、時間は少し過ぎたけれど、ティータイムは続く。
みんなそれぞれにごめんなさいをして、良い子だと頬を撫でて、キスを落として。纏めてぎゅうぎゅうに抱き締めていれば、蕩けそうな顔でにこにこと笑う。泣いたカラスがもう笑ってる。
「会いたい!サインして貰うんだ!」
「いいね。私も会ってみたいと思ったところよ」
目を閉じる。この杜王町に範囲を絞り、その中で“スタンド使いの素養のある魂”に条件を定めて、探る。
「……アラ」
「どうしたの、ママ?」
「……ン……多分コレだと思うのだけど……」
どうして黄泉への入口に立っているのだろう?
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ウンガロの憧れの先生が、漫画の続きを描く事なく失踪してしまうのは、ウンガロが悲しんでしまう。
うろうろと黄泉路で迷うふたつの魂に、迎えに行くかと腰を上げた。幽霊にだって悪人もいる。元は人間だったのだから当然だ。迷い込んだ生者を自分達の仲間にしようと手ぐすね引いている、と思うのがホラーの定石である。
或いは、その黄泉路は迷える魂をあの世へ導く機構を備えているか。そこに死者も生者も関係ない。
コンビニとドラッグストアの間。地図には無い、ある筈のない小道。
「ねえママ、ここ、ちょっと怖いよ……」
「ウンガロも魂の一端に触れるスタンドを持っているから、分かるのだろうね」
リキエルとドナテロはお留守番、ウンガロの手を握ってそこに立つ。
徐々に2人は、ひとつの薄弱且つ地に縛られた霊と共に此方へ歩いてきていた。
「あ、いた!ママ、あの人が岸辺露伴だよ!」
「そのようね」
緊張した面持ちの岸辺露伴と広瀬康一、そして少女が1人。何かに酷く警戒しているように見受けられる。それもそう。
「あっ。振り向いちゃった」
「……ママ、あそこで振り向いたらどうなるの?」
「連れていかれる」
「……、……何処に?」
「この世ではない場所」
よしよし、と何かを察して怯えるウンガロの頭を撫でて。その手を離し。1歩、踏み入れる。
俺の真横を広瀬康一が吹っ飛んだのと代わり、目の前に“いる”、目には見えない手に指を向ける。
その手“達”は大きいものから小さいものまで様々で、嫌なくらいに多様性があった。まるで引き込まれたモノがその仲間入りを果たして、そして生者を襲っているかのように。
何処から伸びているのかも定かでない、人体にはありえない程伸び切った腕。魂の一片すらも逃さないと言いたげに、ソレはスタンド像をも捕らえていく。
そんな存在。そんな、怨み淀んだ。けれどそれは死者の魂を正しく導く為の定められた規律の代行者。
「迷い込んだだけの生者を連れていくのに領域から出て追い縋りはしまい。彼らが魅入られてしまわないように、断たせてもらうよ」
ぴん、と。ヴァイオリンの弦を弾くように。スタンドを重ねた指が
「……まア、彼はスタンド使いだから。これからもトラブルには巻き込まれるだろうけれど」
どうしてキミが岸辺露伴と巻き込まれてしまっているのか不思議でならないが。
「コンビニと薬屋の間に、道がない……」
「も、もどれたんだ……」
「手荒に断ち切ったからね。機構が修復するのに2日はかかるだろう」
「!」
「あ、あなたは……あの時の!」
広瀬康一の声ににこりと、サングラス越しに微笑んだ。
事情を聞いた。話が長くなるとの事で、自分達も考えを纏めたいらしく、近場のカフェに入る。岸辺露伴は持っていたスケッチブックを開いて何かを描いている。先程の経験をメモしているのもあるだろう。
どうやら先程まで彼らと一緒にいた少女は杉本鈴美という幽霊らしい。この町の失踪者はあまりに多い。その一端を担うのが、その少女を殺した殺人鬼であるという。
「15年も……。そう、託されたのね」
「は、はい!」
「頑張って、応援するわ。勿論私も出来る限り協力する」
「ありがとうございます……!」
「……オイ康一くん、そろそろぼくにもその人の紹介をしてもらいたいんだが?」
「あっ!す、すみません……この人は……えっと、」
「ごめんなさい、そういえば名乗っていなかったわね。……私は水瀬京一郎。この町の外れに住んでるわ……そして、この子が、」
「う、ウンガロですッ!ファンです!さ、サインください!」
緊張した様子の可愛い子に思わずくすくすと笑ってしまう。
「私の子です。毎週楽しみにしているんですよ、あなたの『ピンクダークの少年』」
「こ、子供?!京一郎さん結婚してたの……?」
未婚だが、敢えて口にしないで微笑んだ。
「ぼくの漫画のファンか……」
「おれ、この漫画の迫力のあるバトルシーンとか、キャラクターの個性がしっかりしてるとことか、好きで!」
「私も読ませてもらっているわ。本誌も買って、単行本も揃えているくらいには」
〇話のどこそこが、と口にすれば、岸辺露伴は無表情ながら満足そうにしていた。
「ほら、サインだ」
「わっ!?いつの間に?!すっげー、あの岸辺露伴の直筆サイン!」
「こーら、ウンガロ。お礼しなくっちゃ」
「あっ!ごめんなさい、ありがとうございます!」
「フフ……これからもちゃんと読んでくれよな」
「はい!……えへへ、ママ!先生からサイン貰えた!」
「良かったわね、ウンガロ」
「……“ママ”?あなたは自分の子どもに母と呼ばせているんですか?」
「ちょ、失礼ですよ露伴先生!」
マイノリティとか何とかの話だと勘違いした康一にいいよと手を振る。
「この子は養子でね。母親の方に連れられたけれど、家庭環境があまりいいものではなくって。血の繋がりはないけれど……私が引き取って。母親代わりになっている」
ジュースを飲みながらこちらを見るウンガロに微笑んで、サングラスとヴェールを外して、ゆっくりと頭を撫でる。
「別におかしい事でもないでしょう?」
この顔なら尚更ね。
目を見開いたまま固まった2人に首を傾げて呼びかける。
「康一くん?露伴くん?」
「はっ!ぁ、いえ、な、なんでもないですッ!」
「……、ゴホンッ!それで、さっきの話なんだが……」
「ウン?」
「あの“小道”で。アンタは言ったな?断ち切ったとか何とか……」
「ああ。私は少々特殊でね。所持するスタンドの関係もあって、魂を持つものの感知と……ある程度の干渉が出来る」
「スタンド使い……?!」
そう言って横にスタンド像を現す。がたりと露伴が驚いたように椅子から立ち上がった。
「これが……京一郎さんのスタンド?」
黒いドレスを纏った球体関節の女性型スタンドが淑やかにカーテシーをする。
「名前は『ホワイト・ポニー』。キミ達もスタンド使いなのでしょう?」
「ぼ、ぼくは兎も角……どうして露伴先生もそうだと?」
「私、スタンド使いの素養のある魂が判別できるの。……これ、内緒にしておいてね」
承太郎さんにも言っていないんだ、と。今度こそ吃驚した顔をした康一に言う。
「私のタイミングで言うつもり。今彼とは駆け引き中なのよ」
素直に教えてって言えば教えてやるのになァ。
「あの承太郎さんに……?お、大物だなあ……住む世界が違うっていうか……」
「そんな事ないのに」
魂の判別から、死んだ者の通り道に生者がいると気付いて立ち寄り。機構と呼べる怪異に、少なくとも無意識に惹かれる事の無いように。魂に結び付けられた縁と呼べるものを断ち切った。
「ホラーでよくあるでしょう?1度訪った場所から逃げる事が出来ても、呪いを持って帰ったとか。気付いたら再び訪れる羽目になっていたとか」
今回は魂由来の存在の獲物の印だったから何とかなったが、肉体に影響があるタイプだとどうにもならなかったろう。幸運だったね、とひと言。
ゾッとしたように身を震わせた康一。態と妖しい笑みを乗せたからか、余計に怖がっているような。
露伴が鉛筆を動かしている。
「キミの事はショージキ苦手だな」
「ちょ、露伴先生?!」
「だが、キミの経験には興味がある」
「おや。私の事を知ってくれるの?」
「せ、先生、『ヘブンズ・ドアー』は使っちゃあダメですよッ!」
此処で康一は塾があるからと席を立つ。
「急いでいたの?ゴメンね、ここまで付き合ってもらってしまって」
「い、いえ!ぼくも気になってたので……」
飲み物代を出そうとする康一にお礼だと言って財布を出す手を止めて送り出す。
「康一くんに言われちゃあしょうがない。……が、同意があれば違うだろ?」
「ウフフ!……謎めいている方が素敵じゃあない?」
「残念だがぼくは気になったものは追求したくなるタチでね」
「……誰にも言わない、伝えない、と約束してくれるなら構わないけれど。“今はまだ”、ね」
「……フン。なら今はキミの話を聞くだけに止めておくさ」
テーブルに乗せたスケッチブックには、ウンガロに笑いかける俺の模写が描かれていた。
「約束してあげる。……これ、私の連絡先と住所ね。良ければ遊びにおいで」
切
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