吸血鬼は淫魔の夢を見るか? 作:マスター冬雪(ぬんぬん)※休止中
「──さん、最近変わりましたよね。なんていうか、色気が凄いっていうか……」
その視線はネクタイをしっかりと締めても覗く噛み跡に向けられていた。
「そうですか?自覚はあまりないんですが。……髪を切ったからかな」
「絶対それだけじゃないでしょ。……彼女さんですか?」
「さあ……どうでしょうか」
彼女……恋人ね。興味が無いな。個に対し特別を望んだ事は記憶に無い。
曖昧に言葉を濁すにも追求されて内心眉根を寄せる。……引き際の分からぬ気の利かない女だ。内心大きく溜息を吐いた。
「ンー……恋人なんて自分には勿体無い気がするんですよね。相手が出来ても現状時間もあまり取れないですから寂しがらせてしまうでしょうし」
「優しいんですね。でも、やっぱり勿体ないですよ!興味が無いわけじゃないんでしょう?……あ、それなら私立候補しちゃおうかなぁ〜!」
「ええ?……もしかして揶揄ってます?」
「そんな事ないです!私はいつだって真剣ですよぅ。お仕事だって私なら理解ありますし!……ね、職場恋愛なんて、夢があると思いませんか?」
……随分と驕った言い方をする。もしかしなくても駆け引きのつもりか、その程度の言葉でこちらが揺らぐと見下しているのか。どちらにしろヌル過ぎて笑ってしまいそうだ。
覗き込まれるように見上げてくる目。香る甘ったるい香水の匂い。
「はは。恋愛云々は兎も角、食事くらいなら」
「ホントですか〜?じゃあ今度の早上がりの時に行きましょ!もちろん、2人っきりで……」
最近噂のディオ・ブランドー。
女にも男にも紳士で、いつも微笑みを絶やさない皆のリーダー。
頭脳明晰、スポーツ万能。容姿も端麗だ。
ひとつたりとも欠点のない彼は義兄にも気遣いを忘れない。常に義兄を立てて、今じゃ学校一の仲良し義兄弟。
ほら、学年一のマドンナだってディオ・ブランドーにお熱だ。
同年代の男にはない色気を振り撒く彼には歳上のレディだって頬を染めるだろう!男だって偶に彼に見惚れている。
そんな彼も年頃だ、流れる浮名だってチラホラと。
「なあ、あのキスマークは誰のものだと思う?」
「窓際のあの子かな」
「いいやきっと貴族のパーティーで熱い視線を送ってる、可愛らしい白百合のようなレディだろう─────」
だってディオ・ブランドーは稀に見る好青年。
彼には深窓の令嬢くらいがお似合いなのさ─────
……呆れた噂だ。
それをまるっと信じたお節介で馬鹿な義兄の誤解を丁寧に解いてやる。
「だって、」
「たかがキスマーク程度に……フゥ、JOJO、君はまだ経験が無いのか。まさか知識もないなんて言うんじゃあないだろうな」
「なっ、!……僕は心に決めた人としか、」
「おいおいそれは僕がそうじゃあないとでも言いたいのかい?」
……あの淫魔め、付けるにしても場所を考えないか。
窮屈に締めたスカーフを指で調節しながら、外面は困ったように笑う。
「僕だってそうさ。けれど人間、どうしても相性というものがあるんだよ……悲しい事だけれどね」
ああいう輩はオレに抱かれただのオレを抱いただのという一種の商品価値が欲しいだけなのだ。そうやって他者に自慢して自分の優位を示したいが為に。何せオレはかのジョースター卿の義息子で皆の人気者。ブランドとしては十分だ。
「君は紳士で優しくて身持ちが固いからね。その分こちらに来るのさ」
等と嘯いて自室に戻る。
「ああ、避妊はしっかりしているからそこは安心していいぜ」
「ッ?!ディオっ!き、君ってやつは……!」
「ハハハッ!ほんの戯れさ、初心を揶揄って悪かったよ。でも、大切な事だろう?……ふふふ、じゃあ僕は部屋に行くから、夕食の時間になったら呼んでくれ」
唯の利害の一致だ。こちらは性欲処理がしたい。あちらは他者にオレとの関係を自慢したい。
そういう年頃にはまだ早いからか、背伸びをした子供やらこちらに大人の遊びを教えてやりたい図体だけが育った自称大人ばかりだ。生温くて甘い、頭のネジが緩んだ人間が。
鼻で笑う。どいつもこいつも、甘い蜜を吸いたいだけなのだ。何が人気者、だ。馬鹿馬鹿しい。馬鹿ばかり。
部屋の中、ベッドに腰掛けて息を吐く。
この頃は止むを得ない場合以外は女相手ばかりだ。男となるとどうしてもアイツと比較してしまう。
素直に認めるには癪に障るが事実、アイツより上手くて後腐れのない相手は他にいないだろう。何せオレにオンナの快楽を教えた張本人だ。それまでは怒りと屈辱と不快感と憎悪を育てるだけの行為でしか無かった。
……あの部屋では後処理の必要がなくて楽に快楽が得られて良い、というのもある。
あの白い部屋で過ごす時間が苦痛だと思ったのは最初だけだった。アイツの齎す快楽は微睡みのようにも濁流のようにも様相を変えてオレを快楽に浸した。このディオが振り回されるというのには些か思う所はあるが何をしても抗えないのだから、原始的な本能とは斯くも思考を置き去りにするものだと思わざるを得ない。
甘く蕩かされて爛れる快楽も良いが、一心不乱に叩き付けられ、抉られ、掻き回される乱暴なそれがいっとう好みだ。
アイツの繕われた理性という名の服……いや、あの頑健な鎧を剥ぎ取ってやった時の背筋を上る悦楽たるや。それは征服欲に他ならない。
支配し支配される。食い食われる。呑まれればそれまで。 セックスフレンドと言うには荒々しく殺伐としているが、アイツとの関係はそれでいい。
……。
「……今日、行くか」
「よう」
「ああ」
珍しくあちらが待っていたようで、アイツは持ち込めたと思わしき煙草の火を小さな陶器の灰皿に押し付けて消す所だった。
「……吸うのか」
「知ってたろ」
「まあ……」
身の回りに幼少からパイプをふかす奴がいるもので。
「良さが分からん。そんなもの、肺を汚して寿命を縮めるだけの毒じゃあないか」
「うーんド正論。俺は一種の合法的なドラッグだと思ってるけどな……ああ、それを言うなら酒も、女もそうか。全部過ぎれば毒になる。表立った毒性の違いに過ぎん」
……お前が煙草を止めたら、お前の匂いには甘さしか残らないんじゃあないか。ちょっとした危惧だった。
後ろから近付いて首元に顔を寄せればいつもより濃い苦味に加え、いつもとは違う匂いが混ざっていて思わず顔を歪める。
「……酒と香水か」
「ンッフフ……犬かよ。シャワーは浴びたんだぞ」
甘ったるい鼻に残る花の匂いはコイツには似合わないから直ぐに分かった。甘さといっても香辛料のような辛味のあるそれが奴の匂いなのだから。基本、コイツは客観的に見て自分に合わないものは付けないのだ。
「仕事上の飲みニケーションに下っ端は強制参加たァ世知辛いモンだぜ」
「……晩餐会か?」
「ふふふ……!そんな大したもんじゃあねぇよ。下町で見掛ける仕事帰りの酔っ払いの集まりが精々。庶民も庶民だよ俺は」
お前のような人間が庶民ならそこは魔境に違いない。
あるはら、もらはら、せくはら、ぱわはら、じぇんはら、と呪文のように言い連ねて指折り数えるナミセの目は僅かに澱んでいる。
「それは何だ」
「ン〜、お前の罪を数えろ的な?」
「……?」
「おっとジェネレーションギャップ」
分からなくてもいいとも言いたげに一笑の内に隠してしまった態度が気に食わず眉を寄せる。ナミセはくつくつと笑いながらお前はいい匂いがするとオレを抱き寄せた。
ぎしりと引き寄せられる勢いで膝を乗せたベッドが軋む。
「おい、誤魔化すな、」
「お前が気にする程の事でもない、一社畜の些細な愚痴さ……。ん、お前は……オーデコロンか?それと、少し薔薇の匂いがする」
「ッ……薔薇は……屋敷の庭に、」
擽ったい。
身体を押し退けようと手を伸ばすも逆に奴の手に絡め取られて腕の中に収まるしかなくなる。
「お前には薔薇が似合う。華やかで艶やかな大輪の薔薇が」
「何だ、今日は……やけに甘ったるく口説くな」
「悪酔いしてんだよ。原液みてぇな度数の安酒をたらふく呑まされたんで」
首元に顔を寄せ小さくリップ音を立てながら啄まれ、不埒な手がシャツの裾から這い上がってきた。
「殊勝なお前なんて気色悪い、んッ……」
腿の上に乗り上げ、下から押し付けられる唇に口を開く。
煙草の強い苦味とアルコールの混ざる奴の味。……クラクラする。本当に酒精の強い酒を浴びる程呑まされたらしい。
こちらまで、酔ってしまいそうだ。
「ン、ふ……ちゅ、ァ、ン……はぁ、」
「酒は苦手か?」
「嫌いじゃないが、ン、好きじゃあない……」
「クク……まあ、もう少ししたら良さがわかるさ……」
柔く触れる唇も、戯れにすらならない言葉も。いつもなら悪態を零して拒絶するのに緩く受け入れてしまっているのは、他でもない奴の目に食い殺されてしまったからだった。
表層に現れた獰猛な熱。箍なんて既になく、蕩けそうなマグマのような灼灼とした色に、オレは呑まれてしまっていた。
奴からこんな目を向けられるのはセックスの終盤くらいだった。貪欲にオレを望む濡れた目。
これが勝負ならオレの勝ちだろう。主導権すら握って、思うように奴を甚振れる。前の時のように犬のように従えられる。ご馳走を目の前に吊り下げて、イタズラに焦らして。
熱が、移った。ぼんやりと夢心地だ。
この目に蹂躙されたい。きゅうぅと無いはずの胎が切なく痛んだ。
甘く擦り寄せられる舌。寄せられる肌に縋り、首の裏に腕を回して。
「ん、んっ、ン……ゥ、も、キス……いい、」
「ン……まださせて、」
「っふ……ゥ……、」
汗ばむ肌に漸くシャツに手を掛けたナミセは、どこかオレに甘えているようで。
腰に回された腕にぞわぞわと期待が過ぎる。
「ディオ……」
「ンッ……!」
腰を浮かせると同時に目の前の頭を抱え込む。
「は、やく」
「ふ……分かった」
もどかしさに小さく言えば更にその目が熱で蕩けた。……この目はどれ程までの熱量を孕めるのだろうか。
ぬるりと潤滑油のまぶされた指がナカに入り込むのを浅く息を吐いて許容して、腕の力を少しだけ強める。
その感覚はもう慣れたもので、違和感と異物感は蠢いては淵をなぞるようにぐるりと掻き乱しても体から力を抜けた。
大きく深く息を吸って吐いて。
くん……っ、!
「ゥああァ……っ!ァ、ん……!」
不意打ち気味に前立腺を押し上げられて声を上げた。
それに満足したのかまた拡げる動きになる指。
……ああ、本当に、性格が悪い。声を聞きたいというのもあるのだろうが、途中で萎えてしまわぬようにという懸念が最もなのだ。……今更、萎える筈がないというのに。オレはそれにすら煽られるばかりで。
「ふ……ふ、ゥ……、ん、あぁっ!ッは、ァ……あ、ふ……」
気遣いなんていらないのに。もどかしいと思うのに。好きなようにさせればいい、とオレの中で声がする。
今日のオレは、少しおかしい。
「ナミセ、」
「なん、っん……」
浅く唇を重ねると奴は大人しく開きかけた口を閉じて緩やかに舌を這わせた。
「ちゅ、ちゅぅ……ん、ふ、ん……ん、」
「ん……ちゅ、ん。ふは……、ああ悪い。結構切羽詰まってたんだな、少年」
「ッ?、は、ゃ……オレは、別に、」
「可愛い」
「っちがっ、何を勘違い、しッ?!」
ぐち、ぐり、ぐりゅ……ぐちゅ!ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅっ!
─────ァ……、?
抉られる。高く鼻の抜けるような甘ったるい声が裏返って飛び出た。指が前立腺だけを挟み込んでは磨り潰す。
ぐるんと目が裏側に回ってしまうような、唐突な暴力だった。……、まるで突き落とされたような心地だ。
思わず身震いしながらその快楽に背中を反らす。
「ク、ぅぅぅァァァ……っ!ふ、ふぅ、ゥゥ、ぅぅぅううううぅぅ〜〜〜〜〜っっ!!」
「可愛いなぁ“少年”。お前は、いつまで経っても」
「!」
明らかに、揶揄いの含みのある響きだった。快楽に茹だる頭に怒りの滲む理性が手繰り寄せられてしまった所為で現状を直視してしまい、どろどろに溶けたこの醜態に理性はふたたび弾けてしまった。
「っっこ、のォ!ァ、ッアはぁっ!ぁ、ァ、ばかに、するな、ァ、〜〜〜〜ッ!!!ぅあっ、や、やら、ァアンっ!!」
「お前は可愛いよ、ディオ」
「ッだま、れっ!ゥ、ッく、そッ!!」
息を荒らげながら奴の首元に額を当ててせめてもの抵抗とゴツゴツと頭突きしてやる。痛いと笑いながらもぐりぐりとそこを抉る指は止められず。……引き出しては突き入れて、抉っては撫で摩って。
「ェ、ひっ!ひ、ヒィっ、?!ゥ、ああ゙あ゙っ!!や゙、やめれ、やめろぉ゙っ!も、まっれ!まって、まて、ぇゥ、ゔッ……ぅ、っ!いってぅ、いってるぅ、からぁ……っ!!」
「可愛い可愛い俺のディオ。俺が育てたエロかわいい“少年”」
「ぁ、や、やだあっ!オレは、お、お前のじゃあなぃッィア……!んむ、んっ、ンは……ァ、ッン、ふ、ッううっ……?!ああっ!や、まて、ヤ、ァん、んんっ、ふ、ゥ……ちゅ、くふっ、うッゥあああっ……!!」
言葉はキスに閉じ込められて、ただ喘ぐ事しか出来なくて。
「俺のディオ」
「ャ、あァァァ……ッ!!!おまえのじゃ、おまえのじゃあなぃっ、!いやあっ、いやだいやだ、ッなまえ呼ぶなぁっ!!」
奥が、切ない。
嫌なのに、身体はこの刺激に逆らえない。奴の首筋から背中までガリガリと爪で掻き毟っては身体を強ばらせて一際強く絶頂した。目の前が白んでちかちかと瞬くのだ。
「ォ、ご……ッ!ひ、っあ、ゥア……ああ゙ぁ゙ッッ……!!!ぁ、ぐ、ぁ……ッ、っ、ひゅ、ぅ……っあーー……っ、はあ、ぁ……っ!ふ、あぁ……っ、あー……!」
「フフ……冗談だ。お前は他でもないお前だけの物だよ……くくく、プライドのクソ高いお前が好きだぜ」
……なんでそんなに嬉しそうな顔をする。
滲む視界を奴の指が拭い、小休止とでも言いたげに指が抜かれる。……。まだ挿入れられてもないのに翻弄されていたなんて気付かなかったフリをしてしまいたい。
節くれだった指によって遠慮容赦なく蹂躙されたナカがひくついている気がして羞恥に表情筋が死んだ。いっそ理性が死ね。
「……お前の物じゃない」
「ん。そうだな」
「、一体何なんだ……」
「いや、嫌がるだろうなと思って」
「死ね」
「ふはは。……お前は支配される側じゃあない。支配する側の人間だ。“変わっていないようで”安心した」
“お前は、いつまで経っても”
“可愛い可愛い俺のディオ”
─────“少年”
「……少年って、揶揄って……子供だという意味で言ったんじゃ、」
「何の事かな?」
まさか此方が挑発に乗るように態とあんな言い方をしたなんて言うんじゃあないだろうな?
……返って来たのは悪辣なしたり顔で。
「殺す」
「ン〜……フフ、可愛い」
くつくつと喉で笑う奴に拳を振り上げる寸前。
「俺は“子供”とはセックスしない」
「……」
「それに……くく、少年はもう“子供”という歳でもないだろう?大人びたガキではあるがな」
取り敢えず殴った。
緩い抽挿に小さく声を漏らしながら唇を合わせる。音がやけに耳につく。それは興奮の材料に他ならないが。
背中に感じる柔らかなシーツの擦れる音、接合部から泡立った潤滑油の混ざる音、自分のかすかに震える息遣いと、ナミセの静かな落ち着いた声。
本当は荒々しいものを想定していたのだが、今日のコイツは思った以上に優……優しくは、ないか。
「ン、ふ……そんなもので、ん、機嫌が取れると思うなよ、」
「そんなんじゃねぇよ」
覗き込むようにしてまたひとつキスを落とす。
「本当は初めから優しくするつもりだったんだぜ?だけどお前が可愛いからつい、な」
「……悪趣味か。このオレを捕まえてそんな感想が出るなんて、ん……やはり頭に蛆が湧いてるんだろ、は……」
もう17になる。身長だってもうすぐナミセと同じくらいになるし、体格だって最近ラグビーを始めたのでもしかしたらこちらの方がしっかりしているかもしれない。
「俺の中では少年はいつまでも少年だからなぁ……」
「目も腐ってるのか?」
「辛辣ゥ」
腰を柔く摩られて身動ぎする。大した動きではないのに口からは熱い息が零れた。
こんなセックスも出来たんだな、と思う気持ちもあり、やはりこいつは淫魔だからか、とひとり納得もした。女の好きそうなスローセックスだと鼻を鳴らす。
「ん……ん、ふ……ぁ、んっ、」
「不満そうな割に随分ヨさそうだ。顔赤……」
「……る、さい、この、酔っ払い……ンン……ッ、ん、ふ、」
また、キス。
酔うとどうにも口寂しくなるのだと寄せられる口付けに、腰が砕けてしまいそうだった。ずくずくと腹の底が甘く痛んで、五感を全てコイツに犯されて。
「ァ、は……は、ン……ぁ、ナミ、セ、」
「イきそ?」
「ん……」
ぞわ、ぞわ、と断続的に背に上る鳥肌が立つような予兆にナミセの背中に腕を回す。
「ン、ン、イク、……っ、ふ、」
「く……ふ、俺もイきそ。出してイ?」
「い、から、はやく、イかせッ、ぁんっ……!」
言葉を言い切る前に強くそこを抉られて、弾かれたように喉を晒す。
「ン、ン、ふ……ゥゥ!ん、ん゙〜〜〜……っ!」
「ん、ぐ……!ふは……」
我を失う程では、ないのだが。
じっくりと解されたそこは甘ったるい快楽を余すとこなく受け止めてしまって、腰の奥から深い絶頂の波がゆっくりと長く続いて。脳髄にじわりと痺れが走る。
あつい……。
ちらちらと目の前に光がチラついて、意識を失う程ではないにしろ頭の端が白く染まる。
「んん、ん、ふ、ァ……あ、は、」
「少年、」
「ァ……?……ん、ちゅ……ちゅ、ふ、は、ちぅ……」
回した腕に力を入れてキスに応える。
……きもちいい。
激しいものではなく、じわりと底から這い上がるような快楽は、快感よりも痛いくらいの幸福感を感じさせるもので。
温かい何かに浸るような、揺蕩うような、微睡むような。
「ん、ん……ナミセ、もう1回……」
「ん……ああ。動くぞ」
こういうのも悪くない、なんて。ああ。
……本当にどうかしている。
「あっ、あっ、あ゙……〜〜〜〜ッ……!……っ、……ん、んはっ、ゥ、あ……んっ、んっ、ふ、ゥゥ……ッ!ァ、ん、!」
「ン……じゅぅっ!じゅる、ちゅ……じゅるる……っ」
甘く攻め立てられている間も、後ろからではキスが出来ないと不満そうなナミセがオレの首裏に齧り付いて舐め啜る。
「ンぁ……ふ、やめ、ろ……汚い音を立てるな、ンン……っぅ、こう……すれば、いいだろ、」
しょうがない奴だ。
上半身を捻って後ろを向けば、ナミセは目元を緩めながら唇を寄せた。
「ん、ん……」
「んー……キス気持ちイ、」
「く、」
クソ……なんで今日のコイツこんなにあざといんだ。まだ初めの方が正気だっただろうが!……まるで猫みたいじゃあないか。
インクカラーの目は普段よりもとろりと灰がかっているように見え、その目尻は甘く垂れている。
「しょーねん」
甘ったれているのに獰猛で。
飼い猫のようなのにふとした時に野性を剥き出しにする。
確かに仕草は猫そのものだが……とんだ猛獣だ。
……悪く、ない。……悪くはない。
「ナミセ……」
今度はこちらから唇を寄せ音を立てて啄んだ。
下唇を食んで柔く噛めば、ナミセはひくりと身動ぎして更に身を乗り出してのしかかる。
ほぼ真上から唾液が舌を伝って、自然とそれを飲み込んだ。
「フフ……かわい、」
「頭おかしいんじゃあないか」
「フッ、フフフ……!」
再び始まった律動にオレは再びシーツに沈み込む。
横向きに転がされ脚を掴んでぐいと奥へ突き入れられて、その衝撃に思わず呻いた。ぐちゅりとカリ首で前立腺抉られてぐりぐりと嬲られれば罵声も嬌声に変わってしまう自分が情けなくて。……あまりの羞恥に憤死しそうだ。
「ゔ……ぁ、くゥゥ゙……!!」
「何処も彼処も感じる少年かわい、」
「いい、かげん、黙れ!っ、ん゙あっ……!あ、ャああっ!は、あっ、あっ……はぁ、あっ、ぁ、〜〜〜っ、ぅああっ!あ、や゙、ぁひ、ひ、ぅ、あ、あ、」
「ふ、ふふ……腰揺れてる。かわいい」
「……るっ、さい、へたくそ……!」
「説得力ねぇよ」
クッションを抱えて顔を埋めればそれを無理矢理奪われて顔を上げさせられる。
「ちゅーしよ?」
「……今更、何……んっ」
言葉ごと舌に絡め取られた。コイツは人の言葉を最後まで聞く気は無いのか。
唇は時折触れる程度の、舌を出して絡ませるキス。
「フフ……!このキス、慣れてないな。初めの時に教えたろ?」
「ン、ふ……黙れ、この淫魔め」
「……もしかしてそれ褒め言葉なのか」
「調子に乗るなよ、褒め言葉な訳がないだろうが……んゥ、」
どれもこれも、何もかもが気持ちいい。
乳首をくにくにと弄ばれるのも、戯れにペニスを擦られるのも、緩くナカを穿つ律動も。
……好き勝手、しやがって。
「ん、も、イく……でる、ン、」
「いいよ、イッて」
「、あ……────ッ!」
眉間に皺を寄せながらぶるりと身体が勝手に震えるのを抑える。奴も何度かナカに擦り付けてナカに出したようで、その度に身体が跳ねてしまう。
じりじりと脳裏を焼くような快楽。……そう、これだ。他でこれは味わえない。
「ぃ、……う、!ゥ、ふ……ぅぅ、っ!んん……っ、」
「ふは……大丈夫?」
「ん……」
波が過ぎ去ってくたりと力を抜く。
もう、いい。満足だ。
ずるりとナカからペニスが抜かれて身動ぎすれば、宥めるように頭を撫でられた。
「……おい」
「なんだ?」
「……ん」
「ああ。……ン」
得心が行ったのか唇を重ねてきた奴の首に腕を回す。
「キスも良い物だろ?」
「……うるさい」
……執拗くされたから、却って口寂しくなっただけだ。
気の済むまでキスを交わして離れる。唾液の橋がプツリと切れた。
俯せで枕に頭を乗せる。
ベッドの縁に腰掛けたナミセが小さく欠伸を零したらしい。
「ふ……ぁ。眠……」
「……なら此処で寝ていけよ。今ならこのディオが同衾を許してやるぞ?」
「……、何もしねぇ?」
「どうだろうな」
「うわぁ不安しかねェ」
……ただ少し、人肌恋しいというのか。今日の交わりが甘ったるいものだった所為だろう。
今日は此奴を存分に愛でたい気分だった。
***
皆様、このご時世ではございますがどうかご自愛くださいませ。かしこ。