※この作品はR-18です。

吸血鬼は淫魔の夢を見るか?   作:マスター冬雪(ぬんぬん)※休止中

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ワンクッション
捏造過多/本番無し/ディオ視点による原作(1部)ダイジェスト風味/.ディオ.ジョナ.風味/主にオリ主の世界での話メイン/オリ主×オリキャラ描写/エピローグ


第8話

お前の生まれが羨ましい。

お前の境遇が羨ましい。

 

綺麗な、傷の無い、

 

─────お前の身体が羨ましい。

 

 

 

 

夢を、見た。

 

吸血鬼も夢を見るのかと思う前に、夢見が悪くて吐き気がした。

忌まわしい少年期。劣等感に苛まれながら、変えられない過去に苦しんで。

慣れぬ贅沢な暮らしに嘔吐する事もあった。

その生活を当然のように享受する奴が、拷問にかけて殺してやりたいくらいに憎かった。白く傷のない清い身体はいっそ奪って取り替えてやりたいくらいで。

 

仮面を被り、偽りの笑顔を向け、身体が環境に慣れていって。

ああ、だけど、それでも、ふとした瞬間に薄汚れた掌がオレの脚を掴むのだ。血を吐き、地を這い、泥と反吐に塗れた幼い“僕”の手が。

 

 

 

水を浴びて汗を流す。

奴は本当に……オレを掻き乱してくれる。

忌々しい。

 

鏡に映るオレの身体にはあの頃の傷は無く、代わりとでも言うように、ジョースター家の女神像によって貫かれた腹の傷が変色して残っている。

俺の身体はもう、醜くなどない。

それでも、奴への羨望が溢れて止まないのだ。

……憎くて憎くてたまらない。

あと一歩でジョースター家の遺産を手に入れられた。それを邪魔し、挙句吸血鬼となった後も炎で焼き殺されかけ。

 

……同時に、オレは奴の事を認めているのだ。

あの爆発力。他人の為に驚くべき力を発揮する、ジョナサン・ジョースターという男の事を。

 

吸血屍生人にした東洋人の男、ワンチェンがジョジョの手によって害され逃げ帰ってきた。その右頬はドロドロに爛れていた。

呼吸。波紋法。吸血鬼や屍生人の弱点となる力……。

確信を得た。ジョジョは必ず、このディオの元へ来る。

吸血鬼となったオレを止め、殺す為に……!

 

えも言われぬ感慨が湧き上がる。あの、紳士然としたジョナサン・ジョースターが、仮にも義兄弟であったこのオレを殺しにくるというのだ。

美しい天使像を汚泥に汚すような背徳すら背筋を這い上がった。

 

 

ああ、楽しみだ。早く、早く此処に、オレの元に来い……ジョジョ──────!!

 

 

 

 

 

下僕とした数多の屍生人ども。

ジャック・ザ・リパー。

女王の騎士 タルカスとブラフォード。

 

次々に困難を突破し、奴はこのディオの目の前に立つ。

似合わぬ怒りと憎悪に駆られたその姿は、その感情は、全てこのオレだけに向けられていて。……まるでこのオレのいる場所にまで、この男が堕ちてきたように錯覚すらした。

“清廉潔白なこの男に負の感情を与えたのはこのディオだ”。

そう考えればあんなに嫌悪し羨望し憎悪したジョジョが最も近くに感じられ、この男はこの手で引導を渡すべきだと強く思えた。いや、それだけでは勿体ない。

 

この男を吸血屍生人とし、永遠なる自分の下僕として従えよう。

 

 

 

 

 

オレの身体が弾け。溶け落ち。塵へと消えていく。

─────甘かった。自分は詰めが甘いと自覚していたにも関わらず。

……全力を。全霊を持って、殺しにいかねばならない相手だった。

下僕にしようなどと考えていられる相手ではなかった、奴は。

ここまでこのオレの思い通りにならない奴はいなかった。ある種、オレは感心している。

既にその爆発力だけではなく、奴の存在自体を認めていた。何度となくこのディオを追い詰め、今ではオレは首だけの身。

 

ジョジョ。ジョナサン・ジョースター。このオレの唯一にして最大の好敵手。

 

お前は……貴様は、必ず殺す。必ず、必ず……。

 

 

 

 

 

─────ゆら、ゆら。

 

一際大きな波の音の後、コポコポという泡の弾ける音以外の音が鈍く沈んでいく。

沈む。沈んでいく。冷たく暗い水底へ。

静寂の海底。

感覚の鈍い身体も奴の抵抗であると考えれば愛おしく感じた。

 

奴がいなければオレが吸血鬼となる事もなく、奴がいるからこそオレは完全になれなかった。

オレと奴の運命は、初めからひとつだったのだ。

 

ふたりでひとつ。

 

ああ、最期のあの瞬間。オレは奴とひとつになったのだ。

奴は爆発し沈む船の中で共に果てる事を望み。

オレは奴の運命と、奴の肉体と共に生きる事を望んで、今、此処で時を待っている。

 

何年……何十年……もしかすればそれ以上。この暗く寒い海の底で、オレは待つだろう。待ち続けるだろう。

奴は永遠を望まなかった。オレの肉体としても、婚約者との生に対しても。

ああ、だがオレは生きるのだ。お前がそれを望まなくても。

皮肉な事に、今この時になって、あれほど欲していたこの身体を手にしている。

 

綺麗で、傷の無い、美しい身体……。

 

……オレのものだ。ジョジョ。そうだろう?

 

この体をもって、オレは至高へと至ろう。お前とひとつになり、完全となった己で。

 

 

ジョジョ。我が宿命。我が運命。

 

 

 

 

 

揺らぐ。揺れる。

ゆら、ゆら、ゆら。

孤独の水底。悍ましい程の静寂。

霞む意識。

揺れる、揺れる、揺れる。

ゆめうつつ。

 

 

肌を刺す凍てついた空気。

包まれるような温もり。

着々と減りつつある肉体の生命エネルギー。

口に注がれる甘露。

耳が痛む程の静けさ。

降り注ぐ陽射しのような言葉。

 

未だ目覚めぬ。衰弱と、冷たい揺籃の中で微睡み。

唯、錯覚のようなソレを浴びながら。

 

 

 

*

 

 

 

 

映写機は壁に何も映さない。ただ無色の光を壁に当てているだけで。

唯一の出入口である扉には鍵が掛けられていない。

男は困ったように眉根を下げながら硝子の器を両手で抱え、その表面をただ撫でる。

微かに響くのは呼吸音。時折男が身動ぎし、ベッドが軋む音。

水の音。

硝子の器を撫ぜるのは、どこか温度を感じる気がしたからで。

 

「───」

 

呼気に混じるような声。

目を覚まさないソレに男は目を伏せたまま煙草を燻せた。

諦めたように、仕方ないと言いたげに、確かな慈愛を含んだ笑みを貌に乗せて。

その笑みは己への自嘲か、それとも。

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「顔色が悪いですよ」

「……そうですか?」

「体調、良くないんですか?」

「いえ、そんな事は。大丈夫ですよ、少し貧血気味なだけです。お気遣いありがとうございます」

 

男は微かに微笑んで帰り支度を整えて席を立つ。

 

「お疲れ様です」

 

 

 

帰り道途中にあるスーパーで車を停める。うっかり食材と調味料を買い忘れていた。なるべく切らすことのないよう買い溜めをしていたのだが。まあ、色々あったので。

他に色々と生活用品を補充しておこうとカートを押す。この時間になると人が少ないらしく、レジはガラガラに空いていた。

 

夏日、空は夕日で赤く染まり、肌を生温い風が撫でていく。

砂利を踏みつけ、ぼんやりと空を見上げて。

何処か懐かしい気分で。

 

─────懐かしい声がした。

 

「よう。久しぶり、京ちゃん」

 

「……、敦?」

 

安っぽく染められた金髪と耳に空けられた大量のピアス。へらへらとだらしなく笑う顔は、一部の人間からすれば軽薄な、一部の人間からすれば末っ子気質で仕方ないと思わされるような印象を持たせるだろう。

レジ袋を手に店から出た俺を待ち伏せするように、猫背の男が俺の車に背を預けて立っていた。

足元には大量の吸殻が落ちている。

躾のなっていない仕草は今となっては全てが俺の琴線に触れる。

顔に出さない故か、俺がこの男に何を思おうが興味が無いからか。男は変わらず薄っぺらい笑顔で馴れ馴れしく俺を笑った。

 

「大学ぶり。やっぱりこの車京ちゃんのだったんだね。再会の記念に久しぶりに呑みに行かね?いい所知ってんだ」

 

……押し付けがましい態度。断られる等欠片も考えていない図々しい仕草。

ああそうだ、こいつはそんな奴だった。

この俺を欺き、食い物にした挙句……舐め腐り虚仮にして。

 

厚顔無恥にも今、目の前に立っている。

 

「……いいぜ、乗れよ。家に荷物置いてくる」

 

 

 

 

 

 

薄暗い店内の小洒落たバーに、此奴はひどく浮いて見えた。

客層は年齢層が高いようで明らかに身に纏う服の値が違う。

それを言うならばツレである此奴の身形は不相応に良かった。モノの価値を知らない故か、アレもコレもゴテゴテと雑多な印象を持たせてしまうものだが。えらく羽振りがいい事だ。真っ当に手に入れたモノとは疑わしい。

 

店内に入れば奇妙にも視線が此方に向く。先導する敦に対し馴染みの者に向けるには冷たい白けた目を。そして俺にはどこか値踏みする目を。

 

明らかに普通では、ない。

……深い闇のニオイ。

 

 

「や、バーテンさん」

「どうも。……2名様で?」

「うん。カウンター座るね」

「……どうぞ」

 

思わずポーカーフェイスが崩れそうになった。ツレとしてここまで恥ずかしい奴はいない。

吐き出しそうになった溜息を呑み込んで隣に腰掛ければマスターと目が合う。ロマンスグレーの、鋭い目の壮年男性。温度の無い瞳とその奥の感情の色が実に魅力的で目を細めれば、彼はちらりと敦を見、俺に目を戻して瞼を伏せる。

……成程、彼もコレとそこそこ顔馴染みだと。相変わらず良くも悪くも顔を覚えられやすい男だ。

 

「何飲む?オレマティーニね」

「……ジントニックで」

 

 

 

 

どうだ懐かしいだろう、などとアレソレ。

小学から大学までの腐れ縁だ、話のネタなら事欠かない。……いや、甘い蜜を吸う為だけに俺に付き纏っていただけで、此奴にとって俺は“友達でも何でもなかった”のだが。

フフ、ひと息に縊り殺してやりたい。

 

「それでさぁ、ソイツなんて言ったと思う?!」

「さあ、なんて言ったんだ?」

「この間男め、ってよ!!最近のドラマでも見ねぇよンなセリフ!!つーかそもそもアッチが誘ってきたんだぜ?筋違いだと思わねぇ?!」

「ははは」

 

つまらない。くだらない。下世話な浅い話で馬鹿笑いするコレはとうに酔っ払っている。酒は口を滑らかにするからな……。

肯定も否定もせずぬらりくらりと話を躱せば頃合だと見たのだろう、途端に声を潜め始めた。─────何が頃合だ。此方は途中から薄めた酒しか呑んでない。このマスターも良い仕事をする。

 

「なあ、聞いたぜ。最近また派手にやり始めたって」

「何を?」

「しらばっくれんなよ、オレとお前の仲じゃねぇか」

 

耳に口を寄せてくる。その界隈では、俺の存在は有名な話であったのだとか。

 

「今まで聞かなかったのが不思議だったんだよな。大学の時アレだけヤッてたからさァ。やっぱお前はそうでなきゃ」

「……それで?もしそうだとして……お前に何の関係がある」

「冷たい事言いっこなしだぜェ京チャンよォ〜。よしみだろ?良い儲け話があるんだよ……お前に、オレ達に、ピッタリのな」

 

毎日毎日蟻みてぇに働く必要なんてねぇよ。もっと力抜いてさ……楽に生きようぜ?

そうして見せびらかすように装飾品を此方に見えるように向ける。

 

執拗に同意を求めるこの男は、俺が断るとは微塵も思っていないらしい。

まあ……そうだな。前は確かにそうだった。やってみようぜと誘われれば、この男の身を案じる意味合い7割で1度は一緒に馬鹿をやったものだ。本当に危なければ、つまんねぇからやめようぜ、それよりもっと楽しい事がある、等と暗に促して手を引かせて。常よりこの男の危機管理能力はポンコツだったもので。

あけすけな、底の浅い男。さも俺の事を全て理解していると言わんばかりの傲慢。

 

 

───警戒が薄く、人を害する事に抵抗のない此奴と遊ぶのは、自分がまるで普通になったかのようで楽しかったのだ。

どんなに人を貶めても痛まない良心とやら。心の無い化け物だの、悪魔だの、散々言われても湧き上がらぬ罪悪感。

俺が両親を精神病院にぶち込んだ後も変わらず隣で笑っていた此奴を見て、俺は普通であると錯覚したがったのだ。

 

 

俺は初めから歪みを開き直っていた訳では無い。母から肉欲を、父からは嫉妬と殺意を受け続けて、承認欲求ばかりが肥大していた幼少期。

それを満たしたのが此奴だった。

人の世に馴染めぬ癖に孤独が何よりも恐ろしかった。歪みを歪みのまま受け入れてくれた愚かな此奴に傾倒した、この俺こそが何よりも愚かだった。

 

 

手酷く裏切られたというのに……怒りと憎悪の内側で、今も尚お前に傾倒する。救い難い程の莫迦野郎が1匹、執着を抱え、抑え込んで。

今もそこに寂しく佇んでいるだけ。

 

それだけの事、だった(・・・)。

 

 

「お前はただセックスすればいいよ。相手はオレが見繕うからサ」

「バカ言うなよ。それで納得する訳ねぇだろうが。出資の出処は?」

「あー?あー……オレの上司?的な……」

「お前まだ彼奴らとつるんでるのか。アレだけ筋者はやめとけと言っただろ、碌な事にならんぞ」

「アッ、……しーっ!!滅多な事言うんじゃあねぇぜ……ッ!」

「フン……やはりケツモチはそういう奴らか。大方フラフラして脛齧るばかりで、とうとう尻でも叩かれたか?上納金が払えなくなったか?手っ取り早く稼げる方法を出して猶予貰おうって腹だろう」

 

筋者。要はヤクザの事だ。少しちょっかい掛ける程度に留めて裏とは関わらずに生きるのが賢い生き方だというのに、楽に大金を得ようだとか、成り上がりだのとかと不相応な夢を見て……挙句に俺に泣き付くらしい。

それとも俺をまた食い物にしようと、食い物に出来るとでも思ったか。

 

この男は、この俺を……余程、虚仮にしたいようだ。

 

「アハー……バレちった?なぁ頼むよぉ〜、来月にはモツ売らなきゃなんねぇの。オレを助けると思ってさ」

「いっそ腎臓の1個くらい売っ払っちまえばいいんじゃねぇの」

「ひっでぇ!!オレ達親友だろぉ!?助けてくれよ京ちゃぁん……!!」

 

足抜けは意図にない、という事は現物ではなく継続的な稼ぎが欲しいようだ。あちらさんは随分と腹に据えかねているらしく、此奴はかなりの焦りを滲ませている。

親友。親友か……。よく回る口だ。軽率に腹から殺意が湧く。それを冷やすように薄い酒を飲み干した。

 

「はー……マスター、モヒートを」

「……はい、承りました」

 

酔わなきゃやってられない。此奴の前なら酔えてしまう己が憎い。

腕を組み、指を叩く。

 

 

「親友ねぇ……この俺を“体のいい玩具箱みたいなものだ”とか言った口でよくもまあほざけるもんだぜ」

「……あ?」

 

 

馬鹿笑いしながら。

アイツに友情なんて感じた事なんてねぇよと女を腕に抱いて言ったのだ。この男は。

 

「は、……ははは!!おま、いつの話してんだよ!!あん時のは誤解だってことで終わったじゃねえか!!」

 

終わった事。此奴の中では。終わった事か。そうか。そうだな。

 

「ふは……!そうだろう、そうだろうよ……もう終わった事さ。“オレが言えば彼奴は絶対に頷くぜ”。そりゃそうだろう、お前は俺の親友だからな……!」

 

小学の頃のイタズラも、中学の頃の初恋も、高校の頃の勉学も、大学の頃の肉欲も。全て俺が成就させ満たしてやったのだ。全て、全て、この俺が!

 

笑みを深めれば敦も引き攣った笑みを顔に乗せて恐れの目で俺を見る。

ああ。その目。その目だ。他人が俺を見る目。

 

─────お前は変わってしまったんだな?……悲しいな。それは悲しい事だ。俺はお前の向こう見ずな、恐れるものなどないというあの目が気に入っていたんだ。

 

俺を、何の呵責なく見つめるその目が……。

 

 

店の中が静まる。俺の一挙手一投足に視線が集まる。

 

 

「いいぜ。協力してやるよ」

「は、」

「協力してやるって言ってんだよ。大切な親友の頼みだからな……3日で今の仕事、残ってる全部にカタをつけて。お前の頼み事に尽力してやろう」

「ぁ、はは、マジで?」

「ああ」

「は……ははっ!お、驚かせんじゃあねぇよ、ったくよぉ!」

「代わりに俺の頼み事を、……お前は聞いてくれるか?」

「モチ!あ、でも分け前は7・3だぜ?」

「要らねぇよンな端金。……俺の行動指針、お前は覚えてるか?」

「……面白い事愉しい事を気の向くまま、だろ?」

「そう……それと、やらなきゃいけないコトはキッチリと……」

 

早く店を出たいと言いたげな様子の奴の腕を取り。指を這わせ。顔を寄せる。

 

「俺に抱かれろ」

「……、……は?」

 

みるみるうちに顔を青ざめさせる様に喜悦が這い上がる。

そう、そうだ。俺はずっとそうしたかった。

その上で俺は、この怨みを晴らすように蹂躙し、支配してやりたいのだ。

お前の意思を、心を、身体を、人生を、全てこの手で操作して。

 

「じょ、冗談、だろ?」

「本気だ」

 

お前に選択の余地は無いだろう?何せ自分の命に関わっているからな。

その顔が絶望に染まる。

 

何処まで行っても俺の掌の上だ。何一つ信じられなくなればいい。

お前は単純で、不確かな直感に頼るような考え無しだ。差し伸べられた甘い言葉に直ぐに飛びついてしまう。

絶望の縁に立たされた時、最後の最後に垂らされる蜘蛛の糸の先に元凶である俺が笑っていたら、お前はどんな顔をするだろう!どうやってもどうしようもないから、お前は俺に縋るしかないのだ。俺無しでは生きられない腑抜けになるのだ。

ああ、そうなったら少しだけ遊んでから捨ててやろう。お前が俺にしたように。

 

大丈夫、俺の造る悦楽に浸れば何も分からなくなる。知っているだろう?何人もそう(・・)なったのを目にしては笑っていたのだから。

俺を満たせよ。代わりに俺もお前を満たしてやる。

壊れてしまえばいい。そっちの方が、愉しいさ。

 

 

 

 

 

 

転がるように出て行った彼を余所にモヒートを口に流し込む。

 

「騒がしくしてすみません」

「いえ……」

「彼奴の分の金は俺が払うので」

「……分かりました」

「……煙草、吸っても?」

「どうぞ」

 

差し出された灰皿を受け取り礼を告げ、煙草に火をつける。

烟を肺まで満たし、ゆっくりと重たいソレを吐き出す。

 

「……キッツい」

 

ポロリと零れた言葉は意識していなかったものだった。

 

俺が彼奴へ向ける執着から現実逃避する意味合いもあったのだ、大学を卒業した後誰にも何も告げる事なく逃げるように生家に戻り、その周辺で就職先を探したのは。

建前なら幾らでも作れた。

 

これは決して愛ではなく、始まりすらも恋ではなかった。

 

唯の依存。唯の執着。孤独を恐れたが故の悪癖。それを切り離すのは、自らの骨から肉を削ぎ落とすような所業に等しい。

 

……お前となら俺は何だって楽しかったのだ……。

 

あの時、お前の本音を聞きさえしなければ、俺は今も目を逸らす事が出来ていた筈だった。聞きさえしなければ、俺はここまで壊れきる事もなかっただろうに。

 

 

「……あの人は。自分に向けられる感情の正負に関して、不思議なくらいに過敏で」

 

まるで独り言のように、マスターはカクテルを作りながら口を開いた。

 

「所属する場所でも上手く立ち回っています」

「……」

「それに甘えていたが故の今回の事案でした」

「ふぅん」

「前もそのような事がありました。……察しますに、そういう性分なのでしょう」

 

甘えたがり。甘ったれ。

可愛がられる。

仕方ない子だと思われる。ある種、得な人間だ。

振り回されるのは此方だ。いやまあ、俺が勝手に振り回されているのだが。

 

「良い薬になったかと」

「フフ、そりゃどうかなァ」

 

夢を見ていた。

あの頃の俺は。

ずっと。

……莫迦莫迦しい。

同じ目線で笑い合える人間だと思っていた。俺は独りではないと思っていたかった。

幼き日々だった。

俺はもう独りで立てる。擬態も上手くなった。

似た性分である女の知り合いもいる。

だけど、今でもお前を忘れる事は出来ない。そうする気がない。引き金を引いたのはお前だった。

 

 

今まで俺が破綻せずにいられたのは紛れも無くお前のお蔭なのだろう。

正常な世界で狂人が独り。精神が成熟するその時までそれを直視せずにいられたのは、お前がいたからだ。

お前が俺を道具としてしか見ていなかったとしても。

だからこそショックだった。聞いた事を無かった事に出来なくて、全て投げ出して逃げてしまうくらいには。

 

 

ことりと目の前にグラスが置かれる。濃いピンクをしたカクテルだ。

 

 

「このお代は頂きません」

「……」

 

そっと口を付ける。

 

「……アイスブレイカーか。手厳しいな。だが、今の俺には丁度いい。ありがと」

「いえ……」

 

 

目は覚めたさ。

大丈夫。今度は俺がお前に。

 

 

舌先で甘酸っぱい酒の味を転がしながら、いつか来たる日を夢に見る。

 

 

 

***

 

 

 

先ずした事と言えば、部長の今までの所業を文面に纏め社長へ提出した事だろうか。

 

本来なら数ヶ月後の予定であったが、3日で片付けると決めたので大幅に早めた。多少強引に進めた。久方振りに自分の身を売る羽目になったが2、3日腰を痛める程度ならばコラテラル・ダメージだ。(好き勝手打ち付けやがってあのクソオヤジめ)

 

他にも細々と口にするのも憚られる事をヤったり貶めたり脅したりしたが犯罪スレスレだったのでセーフである。身体を売ったのも初めの1度だけだしな。勘違いさせたままぬらりくらりと躱すのは割と簡単だ。

 

元部長は減俸の上降格処分。新しく部長が来るまでその席は空席だ。元部長は上司であったとはいえ扱いは良くない。元々自分の仕事を権力を盾に他に割り振っていた為直属の社員の心象は頗る悪かったし、数ヶ月もの仕事場改革(意訳)の甲斐もあったようで、年齢序列は彼に対してのみ適応外である。

 

後日譚の形なのは面倒だからと言うだけではない。特に描写する程のものが無いのである。

 

“交渉”の末早急且つ人知れず元部長の席替えがされ、公然の噂に刺すような目を会社全体から向けられ、辞めて引越ししようにも“何故か”再就職先が無く、引越しも難しく、生活の為にはこの会社で働き続けざるを得なくなったというだけだ。針の筵である。ざまあない。

 

 

そして唯一奴を求めていた愛人はといえば今俺の隣でお茶汲みをしていたりする。

 

「まったくもって蝙蝠のような女だな」

「酷い言い草ね。泣いちゃうわよ」

 

あの夜の情熱的だった貴方はどこへ行ってしまったの?

大袈裟に嘆く女に対し何も言わずに微笑みを向ければ、女はほうと溜息を吐いては苦し紛れに本当に狡い男だと口にした。

 

「狡い男は嫌いか?」

「……嫌いなんて言える訳ないわ。その蕩けたような甘い瞳に、すっかりハマっちゃったんだから」

 

不細工に歪めた顔を鼻で笑う。

 

「それより、あの噂は本当?」

「あの噂?」

「ココ、辞めちゃうって」

「ああ……そのつもりだったんだが、直ぐには難しそうだ」

 

書類を脇に寄せ、湯呑みの中に浮ぶ波紋を眺める。

 

「フフ、少し脅しが過ぎたようでな。思うように行かないものだね……」

「嘘。貴方が加減で下手をするなんて有り得ないわ」

「買い被り過ぎさ。俺だって失敗はする」

「それこそ嘘よ。貴方程自分の魅力も実力も引き際も分かってる人間なんていないもの」

「賢い奴はそもそもこんな博打はしない」

「貴方は賢いと言うより狡猾ね。自分が楽しければそれで良いんだわ。自分を客観的に見て、他の人間の思考を簡単に操って。悪魔的だわ。人非人よ。……そういう所にも惹かれちゃってるなんて、本当に私、馬鹿よね」

 

本当にな。自己陶酔気味で中途半端に賢い女より扱い易いものはない。

……それと。

 

「操ったんじゃあない。動いてもらったのさ」

「同じ事よ!」

 

風聞が悪いじゃないか。

 

 

 

ともあれ肉体関係のある人間がいる仕事場で仕事なんて面倒極まりないのも事実。近い内にこの仕事は辞めるだろう。

 

─────彼奴の動向も全容が掴めたところであるし。

 

再度顔を合わせ、口八丁に丸め込まれて俺に抱かれた後、逃げるように俺の住む町から逃げてしまった彼奴だったが……服に発信機が仕込まれていたなんて考えもしなかったのだろう。駄目じゃあないか、折角成った仕事なのに詳細を詰める前に投げ出しちゃあ。

 

仕方がない。

詰めの甘いお前の事だ、やはり俺が何とかしてやらないとな?

─────殺されないように生かさないように、お前を飼えるのは俺くらいだろう。

 

何よりも。

 

 

「追い掛けられるよりも追い掛ける方が愉しいじゃあないか」

 

 

裏の世界も、それはそれで楽しいかもしれない。

お前がいるなら、それは確実だ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

白い部屋。

壁には当たり障りない戸棚と、鍵穴のない扉。

大きなベッド。灯りがないにも関わらず明るい部屋には、古風な映写機が目を引く。

 

男は目を開けばその部屋にいた。

 

最近では3日ごとではなく、毎晩の事だった。

初めは『セックスしないと出られない部屋』などと頭の湧いた文字が壁に映し出されていたものだが、一緒に閉じ込められているもう1人が文字通り首だけになった時以降、映写機は機能を止めて沈黙している。同時に唯一の出入口である扉に鍵を掛けられる事も、“どこからともなく感じていた視線のような何か”を感じる事もなくなった。

 

男がベッドへ足を踏み出す。

そこに横たわるのは、艶やかな金の髪の美しい大男……吸血鬼となったディオその人である。身長は大体2mくらいか。目を閉じて薄い息をしているその姿はまるで彫刻のように整っている。

身体はよくよく鍛えられたもので、浮いた筋肉はどんな格闘家よりも優るだろうという程に隆々としていた。不思議な事に、首から上と首から下は肌の色が若干異なっている。まるで別の人間の身体を繋げたかのように。

 

彼の首には紅い傷がぐるりと1周、深く濃く残っていた。

 

「まだ目が覚めないか」

 

微睡み、眠りについても目を覚まさない。

まあ、この空間はただの夢ではないが、それと共に夢でしかない訳で。夢の中で目を覚ますというのもおかしな話か。男は思う。

 

そっと枕元に立つと男は手に持ったナイフで自身の手首を裂く。

瞬く間に玉となりぼたりと落ちる赤い雫は、まるで紅を引くようにベッドに眠るディオの唇に滴り口腔へ滑り落ちていく。

 

「漸く傷は全て癒えたが……イマイチ馴染まないのだろうな」

 

指が首の傷をなぞり、胸元から正中線に沿って腹、下腹部へと這う。

ぎしりとベッドが軋む。男がベッドに乗り上げたのだ。

覗き込むように顔を寄せ、額に唇を落とすと、男はディオの腹の上に跨る。

 

「毎夜毎夜睡眠妨害しやがって」

 

にこりと美しく微笑み、肌を擦り寄せ、出の悪くなった手首を噛んで抉りながら舐めて、眠る彼の唇に口移しする。

 

「ふは……可哀想にな、首だけになったかと思えばここまで衰弱する羽目になって、……この身体も。折角足の先まで調教し尽くしていたのに」

 

舌が首に這う。

はたしてこの血の味は、いったいどちらの物か。

 

「もっと血が欲しいか?」

 

血に濡れた指が印でも付けるように赤い線を引く。男自身の首筋にその色はよく映えた。

 

「口をあけような……」

 

鋭く伸びた牙は容易く人の肌を貫く。

頭が動かないよう腕に抱え、自らの首筋に彼の牙を埋めていく。

 

「ん……」

 

薄く目を開いたらしいディオは焦点の合わない目でぼうっとしながらも、本能だろうか。男の首筋に舌を這わせて血を吸い取っていく。

 

「ふは……」

 

痺れるような、感覚が鈍っていくような、虚脱感を伴うそれは紛れも無く快感であった。

血液と共に生命エネルギーを吸い取られているのだ。此処が夢であるからこそ、互いの精神、魂が露出した状況下、その効率は非常に良い。

時が経って身体と首がある程度馴染めばディオは目覚めるのだろう。肉体の全てが彼の物になってしまえば。肉体の意思が極力まで奪われてしまえば。それまでは。

 

男はディオの身に起きた事は欠片も知らない。前述したものは全て感覚的な物であり、実際がどうなのか知る術は今はない。

 

少しずつ、少しずつ。殺してしまわぬように、殺されてしまわぬように。

積み重なる経験値によって男は自身の限界というものを完全に把握していた。

 

「ン、ふ、」

「はぁ……ァ、ん……少年、もうそろそろ、」

 

口を離させる男に抵抗しようとしたのか、ディオの指がぴくりと動く。しかしそれきりで、ベッドに力なく落ちた腕は持ち上がりさえもしない。

未だ身体を自由に動かせないディオに対し、男はその挙動を目にしながらも容赦なく身体を起こした。

 

「今日はオシマイ」

 

また明日な。

噛み跡の増えた首筋を手で覆い、男は上気した頬をそのままにその唇に口付けを落とす。

 

「ははは!不服なら早く目覚めないか。じゃないといつまで経ってもペット扱いだぞ」

 

薄く覗いていた赤い瞳は今はもう白い瞼で閉ざされている。

 

「……フン」

 

一瞬スリ落ちた笑顔を拾い上げながらディオの上から退き、男は彼の頭を抱え、自身の膝の上にそっと下ろす。

 

「昨日は風呂に入れてやったからな。今日はマッサージでもしてやろうか。……吸血鬼に按摩なんて意味無いだろうか」

 

まるっきりペット扱い、良くて介護である。

 

 

男はディオが眠っている間、色々と“部屋”を改めていた。

戸棚の中のアダルトグッズはどれだけ破損しても消費しても次の瞬間には補充されていたり、アレソレがないと零せば5分もせずにその現物が戸棚に増えていたりと……“監視者”の目が離れたと確信はあったが、なにやらもうひとつ、何かが此方の動きを見ていると思ったのだ。

 

機械的で、意思はなく、此方の脳内を覗き、要求をある程度酌むナニカ。

 

仮に“監視者”と“管理者”とするが、彼らは恐らく主従関係にあると見た。“監視者”はある程度の条件を“管理者”に科し、“管理者”が部屋の形成をする。最初ならば“セックスしなければ鍵が開かない部屋”を作る事、今ならば“必要なものがあればある程度対象の要求を呑んでいい”、とかであるか。

 

……此処で男は思考を止めて鼻で笑う。

監視する者がいる事は男の中で決定しているが、その想像はあまりにも突飛だ。眠りについた人を夢の中の一室に引き摺り込み、セックスさせてそれを鑑賞して解放する。……非現実的だ。今更なのだが、それでも馬鹿馬鹿しいと切り捨てたくなる。それらが本当ならとんだ悪趣味だ。

 

もっと建設的に、合理的に使えるだろう、そういった力というものがあるのならば。

 

 

先日はといえば試すだけタダだと風呂が欲しいなどと口にした結果、部屋全体がバスルームと化した。男は思わず声を上げて笑ったものだ。男が想像した通りの、暗めのライトが印象的なラブホテルの風呂場そのものだったのだ。部屋の中央で意識の無いまま湯に浸かってしまったディオを見てしまえば笑うしかない。

ベッドがあった場所がバスタブであったので仕方の無い事だと言われればそうなのだが。そのまま全身を丸洗いしてやった。

この男、好き勝手やらかし過ぎである。

 

部屋の大きさやアダルトグッズのある棚、形を変えてはいるが鍵穴のない扉などは変えられないらしく、それらは若干浮いていたように思う。

 

……因みにまだ先の話にはなるが輸血パックを所望してディオに飲ませたところ、あまり食い付きが良くなかったと男は残念そうにディオに語る。得体の知れないもの(何の血かも分からないもの)を飲ませるんじゃあないと殴られる羽目になるのをこの時の男は分かっているのか否か。

 

 

 

男はディオの髪を撫でながら片手で彼の手を掴む。

硬い筋肉に覆われた腕。ひと回りは大きい掌。……知らない人間の身体。このような形で自分のものにしてしまったのだ、きっとディオにとって、この身体の主に少なからず思う所があったのだろう。憎か、愛か、……それとも。

 

何にしろ知る由のない事だろう。そも、追求など、男とディオの関係には不要なものなのだ。ただそこには快楽があればいい。

 

「しっかし……これはこれでエロい」

 

嘗て可愛がった身体が惜しいとは今も思っているが、筋肉の密度のあるむちむちとした肉体は感度も良く抱き心地が最高なのである。身長が195cmもあるが。

 

男は睡姦は好みではない。気が付いたら調教済だったという展開は魅力的ではあるがそれはそれとして。

 

 

「……部屋の主さんよ、マッサージオイルとか出せる?」

 

 

ともあれ何事も愉しんでこそだと、男は物言わぬ肉体美を堪能する為、今日とて要求をするのだった。

 

 

 

 

 

 

***一章 終

 

 

 




Q.ジョジョといえば?A.\スタンド/
以上、一章終了。以下蛇足。


一章はオリ主の性質を主に比重を置いた。ただエロい話が書きたかっただけなのに何故だ。まあ没入感というか、ただ頭の可笑しい人だと思われたくなかったからなんだけども。未だに本名出てないけど。次の閑話あたりで出す。
主に性描写はディオ様とだけでいいんだよなぁ。オリ主×オリキャラのベッドシーンとか誰得だよ。自己陶酔かよ。と思ったのでオリ主×敦の甘エロ初夜は敢え無く全カットですお疲れ様でした。それだからオリキャラがモブと化すんですけどね。背景背景。
オリ主をクソデカ感情持ちにしたら何故かヤンデレに。後悔。やっぱ此奴頭おかしいな?

ディオ氏の視点からすると彼の一生はジョースター家の血脈に翻弄されたものだったなあと改めて。主にディオ氏のやる事為す事がジョースター家の因縁になり過ぎて草生えた。そういうところもSUKI。お前がナンバーワン。漫画読み返してていっつもディオ氏のセリフのとこで笑ってしまう。言葉選びが独特過ぎて草ァ!あとなんでそこまでえっちなの?衝動に駆られて書いた。後悔してるけど反省はしてない。多分またやらかす。

取り敢えず今後はオリ主とディオ氏の仲を深めて頂きたい。やっぱりね、体の関係があったらね、割と感情移入しやすいと思うんだよね。でもやっぱりお互いがお互いに1番じゃないっていう。ディオ氏はふたりでひとつ( )してるのでまだ視野は広いでしょう。手に入れた者の余裕というやつですね。オリ主は敦に対して盲目状態なので割と真面目に頑張って欲しい。全てはディオ氏にかかっている。まだ閑話途中しか書いてない。

そんなこんなでオリ主とディオ氏の関係性に関してはぼんやりしたままです。それは意図的なので。進展するのは次以降なので。主に生前(?)編みたいな前哨的なアレなので。腐れ縁の馴れ初めみたいな。
エピローグはあっさり風味だけどだってまだこれ夢での逢瀬程度なんだよ?現実で会ったりとかしてないんだよ?部屋の謎とかもまだ解明してないし???
なのでまだまだ続く。アホみたいに続く。メインは三部時空以降なので先が遠い。意欲が続くかわからぬ。パトスとパッションの続く限り続く。オリキャラは多分まだ出張る。
そういう訳で害悪系お腐れ野郎は声を上げる。
ソドミーはいいぞ!!!!!
以上蛇足。それではまたいつか。
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