ダーウィンズゲーム -イレギュラー・チルドレン- 作:弥勒雷電
神奈川県 浦安 東急ランド
男は闇夜の中を必死に走っていた。まさか、まさかこんな事になるなんて俺たちの中の誰が考えただろうか、梅雨始まりを告げる5月末、夜になると水が乾いたような匂いと生暖かい気候が一層に男の思考力を奪う。
「しまっ…」
男が言い終わらないうちに男の体は宙に浮き投げ飛ばされる。まさか何が起こったのだと男は狼狽する。
「お前!何なんだよ!その力!C1ランカーのくせに」
起き上がった男はその顔に恐怖を覚え、そして足腰はその恐怖のあまりにガクガクと震えている。全ては目の前にいる男に見せつけられた力があまりにも強大すぎたからである。
彼に相対する青年は少し茶色かかった前髪をかきあげると男の様子に苦笑いを浮かべ、すっと右手を宙に向けると目を閉じた。刹那大量の槍の雨が眼前の怯えきった男に向かって降り注いぐ。
まだまだ力の具現化には制限はあるし、使いこなせてはない。でもこの手の輩は一撃で始末する必要がある。
青年はそう心の中で呟くとその冷徹な目を既に数十本の槍に貫かれ、その生命行動をやめている男に向けた。
「ふん。愚かな」
そう呟くと踵を返し、歩き出す。青年の体は既にあたりを静かに包み込んでいる闇夜の中に同化し、その姿は見えなくなった。
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「次のニュースです」
翌朝、青年は自宅で朝の生放送番組を見ていた。昨日力を使いすぎたせいか体がだるい。力を使った翌日は大抵このような状態に陥る。母親には体調が悪いから学校は休むと伝えた。
「また人型オブジェの大量発生です。今回は神奈川県浦安にある東急ランドの敷地内。全部で21体の人型オブジェが出現したという事です」
朝の顔と揶揄される女性アナウンサーがそう興奮気味に巻くし立てている。何も知らないコメンテーター達は誰かの悪戯だの、宇宙人からのメッセージだの、皆目見当ハズレな憶測を並べ立てている。
その言葉と様子に青年はほくそ笑むように笑みを浮かべる。その瞳には完全犯罪を成し遂げたかのような快感に溺れた殺人鬼の緩んだ表情がそこにはある。
「はぁ、まぁこれで一旦は俺の仕事は終わり。また退屈な日常がは始まるのか…」
青年はそう呟くとため息を吐いた。人は皆退屈な人生から抜け出したいと思っている。かつての青年もそうであった。だが、彼は今自分の世界の有り様に満足している。全ては今彼がハマっている殺人ゲームであるダーウィンズゲームのおかげ。
その時、青年の携帯が震えた。青年が設定しているとあるグループChattetにだけ付けられた着信音である。もう少しこのままやり過ごそうかとも考えたが、携帯を手に取った時、俺は疲れなど吹っ飛ぶほどにアドレナリンが分泌されているのを感じてている。
彼はメッセージに目を通すとすぐさま発信ボタンを押していた。
「成る程、彼をこのゲームに招待するって訳ですね。先生もタチが悪い。俺があいつの親友なの知ってるでしょ?」
電話越しの相手にそう告げると青年は自身の中の高揚感の高鳴りを抑えることができない自分に気がつく。
そうか…彼が近々、このゲームに参戦するのか。
「分かりました。彼が参入し次第、親友の俺が始末します」
俺はそう言って電話を切ると携帯をメール画面に切り替えた。
しばらくは退屈な毎日から解放されそうだ。
お前はどんな世界を俺に見せてくれるかな?
楽しみにしているぜ。
カイト…
プロローグ 完