ダーウィンズゲーム -イレギュラー・チルドレン- 作:弥勒雷電
第1話『
神奈川県 浦安市 某所
梅雨が明けてそろそろ夏本番が近づくと急に蒸し暑さを感じる。今日も例外ではなく、まだ自宅を出て10分も経っていないのに俺の背中は既に汗で濡れている。
いつもの通い慣れた通学路を歩く。まだ朝7時という事もあり、会社に出勤するサラリーマンや、新聞配達の青年を除き、まだまだ人影は少ない。
「おはよ!カイト」
ふと後ろからかけられた声に俺、
「おはよう、ユミ。今日はどうした?お前今帰宅部だろ?」
俺の問いにユミは少し困ったような顔をして頬をかく。
「あっ、ちょっと用事があってね?」
「用事ってなんだよ?」
俺の問いにユミは少し口籠ると時計を気にする。
「あっ、やばいやばい。約束に遅れちゃうから先に行くね。詳しくはまた後で話すから!」
ユミはそう言って颯爽とその場から走り去っていく。もちろん追いかけてユミを捕まえて事情を聞きたかったが、俺が今担いでいる剣道具が邪魔をしておそらく徒労に終わるだろうと直ぐにその考えを改める。
しかしいつものユミとは様子が違っていた。まるで何かに焦っているような感覚…。
「まぁ、学校に着いたら詳しく聞いてみるか」
俺はそう呟くと部活の朝練に向かうべく、少し人気が出て来だした通学路を歩き始めた。
この時、俺はまだ知らなかった。
この世界がまさに表面上の世界であったこと、ユミが何にいつから巻き込まれていたのかということ、そしてこれから自分に降りかかってくるだろう非日常な世界など、何も想像などしていなかった。
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「集合!」
その掛け声に剣道着姿の男女が俺の周りに集まってくる。次にかけられた「礼!」という掛け声で目礼をし、向き直る彼らを見て俺は口を開いた。
「お疲れ様。これで試験前の練習は最後になります。試験期間後は直ぐに夏の県大会があるから部活がないとは言え、素振り等は忘れないでくれよ?それが大会での結果につながって来ます。じゃ、次の練習は来週の水曜から再開するのでよろしくな!」
俺はそうとだけ告げると解散を命じた。パッと部員達が散開し、自分の防具を片付け始める。
「ねぇ、カイト」
そんな部員を眺めていると白い道着を身に纏った女剣士が話しかけてくる。彼女の名前は
「ん?なんだ?」
俺の問いにカエデは携帯の画面を俺に見せてきた。
「なんだこれ?ダーウィンズゲーム?」
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Subject: 助けて
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プレイヤー「ゆみりん」が助けを求めています。
あなたもダーウィンズゲームに参加してお友達を助けてあげよう。
以下のURLをクリック
………
……
…
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彼女の携帯のメール画面には『助けて!』と書かれたタイトルとともにゆみりんという女性からのゲームへの招待メールがそこにはあった。
「ゆみりんって?まさかユミ?」
その問いに楓は少し考うあるそぶりを見せた後に小さく頷く。
「分からないけど。でも私のアドレス知っている子でゆみって名前はあのユミしかいないよ?で、どう思う?なんかイタズラな気もするんだよね?ユミってあんまゲームとかしないじゃん?」
「ユミに連絡してみた?」
「まだ、朝練前にこのメール入ってたから終わってから確認しようと思ったんだけどまさか部活辞めてこんなゲームしてるんだったら文句でも言ってやろうと思って」
確かに楓が言う事も一理ある。ユミは今年の4月に剣道部を辞めた。理由は膝の怪我と勉強に集中するためで、去年秋の新体制で女子キャプテンだった彼女の代わりに楓が後を引き継いだのだ。
だからもしユミが部活を辞めてゲームばかりしてるなら文句もいってやりたくなる気持ちはわかる。
ふと俺は今朝の彼女の様子を思い出す。
あの焦った様子、不可解な言動、まさかゲームを朝からやってるから俺には何も言えなかった?
「分かった。俺からアイツにも話聞いてみるよ。まぁ、ゲームやるかやらないかはお前次第だけど」
「ううん?私はゲームなんかやらないよ。まぁ、私もユミがゲームにハマってる事は黙っといてあげるし、ユミへの指導はカイトに任せるよ。じゃ、一応伝えたからね」
そうすると楓は更衣室へと入っていった。当然だろう、得体の知れないゲームを興味もないのに始める理由もない。
「はぁ」
俺はその様子を見届けると更衣室に向かう。正直釈然としない気分だったが仕方ない。ユミが本当に訳の分からないゲームにハマっているならなんとかしないといけないなとも思う。
そんな事を考えながら俺は防具を外し、道着をハンガーにかける。
その時、俺の携帯に着信通知が入っている事に気がつく。
嫌な予感に背筋に冷たい汗が流れる。
俺は棚に置いていた携帯を取り、待機画面を見る。
そして新着通知を見て目を見開いた。
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「ユミ!!」
3年4組の扉をガタンっと開いた俺はユミの名前を呼ぶ。一瞬で静まり返る教室。全ての生徒の視線が俺に向けられた。
「あーカイト?ユミならまだ来てねーぞ」
1人の友人がそう答えてくる。
「まじか?」
そんなはずはないと言いかけて俺は口を噤んだ。まさかユミがゲームにハマって学校サボってるなんて言える訳ない。
「そっか!分かった。ちょっと朝から連絡取れなくてさ。体調でも悪いのかな?」
俺はそう言うとその友人に礼を言い、教室を後にした。廊下を歩きながら携帯の画面に目をやる。そこには先程楓に届いていたのと同じメールが俺にも届いていた。
『おかけになった電話番号は現在電波の届かない……』
勿論、携帯に電話をかけてみるが繋がらない。何かゲーム内のトラブルに巻き込まれているのか、はたまたゲーム外も含めて何かトラブっているのか。とはいえ、今朝の様子から言ってそのどちらかだと考えるべきだろう。
通知時間を見ると俺にヘルプメールを送った後に楓にも送っている。つまりは手当たり次第感がある。それだけの状況に追い込まれているのか。
そんな事を考えていると1時限目の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。担当教諭が入ってきたのを確認すると俺は意を決して立ち上がり教壇に向かった。
「先生すみません。ちょっと朝練の後から気分悪くて少し保健室で休んでもいいですか?」
「君にしては珍しいな?あぁ、分かりました。2時限目から試験が始まりますから、それまでには戻ってくるように」
俺の申し出に先生は驚いたようにそう答えると快く承諾してくれた。
俺は教室から出ると無人の廊下を歩きながら再度ユミに電話をする。だが、結果は先程と同じ、圏外のメッセージが流れてるだけで状況に何も変化がない。
一体何が起こっているんだ?
皆目見当もつかない。
誰か大人に相談するべきか…。
でも俺の直感がそれをしてはならないと告げている。
保健室に入るとそこには誰もいなかった。微かに匂う薬品の匂いが鼻を突く。俺は保健室利用カードに名前と入室時間を書くとベット脇に入り、カーテンを閉めると腰を下ろした。
再び携帯を見る。俺の直感がユミにはそんなに時間的猶予はないと告げている。もうこのゲームにしか手掛かりはない。俺の中の別な誰かがアプリをダウンロードしろと言っている。
俺は無意識のうちに画面に映る蛇の画像をタップしていた。
刹那携帯の画面が青白く輝き、画面から黄緑色の蛇が飛び出してくる錯覚に陥る。蛇は宙をグルグルと回ると俺の左首筋に噛み付いてくる。
「うわっ!」
俺は思わず携帯を放り出した。
その画面には『ダーウィンズゲーム開始まで後35分』と言う表示とカウントダウンが始まっていた。
第1話『