ダーウィンズゲーム -イレギュラー・チルドレン- 作:弥勒雷電
一瞬、立ちくらみのような不快感を感じ、俺はしばらく横になっていた。ゲームに登録したものの、先程蛇に噛まれた幻覚を見た以外は対した変化点もない。携帯も特に異常もなく、ウィルスの類いでもないらしい。
「普通のゲームじゃないか」
アプリ内の画面をチェックしていくが無料で遊べる、且つゲーム内ポイントで事足りるし、課金システムもない。このゲームをやってるからと言ってお金周りのトラブルには巻き込まれそうにない。
改めてプロフィール画面に表示を変える。
所属クラン: なし
名前: トウドウカイト
戦績: 0戦 0勝
クラス: D3
保有ポイント: 30ポイント
所持シギル: エラー:解析不能
「シギル…なんだこりゃ?」
ゲーム上の特殊能力か何かか?分からない。
でも俺の本名、いつ登録した?いや、してない。電話帳か何かと連動しているのだろうか?
アバターも俺にそっくりに作られている。
一体なんなんだよ。このゲームは…正直よくわからない、
見た感じ、アバターと名前の登録以外は本当に普通の優良ゲームだ。 変なぼったくりアプリでもなく、法外な課金サイトでもない、
アプリ内のクエストやバトルを通して得たポイントで武器を買い、弾薬を補充する。至って簡単な流れである。
後は実際に遊んでみたら状況はわかると思うんだが…
ピコーン
その時、着信音とともに携帯画面が偏移する。
『現在対戦待機中です。確認しますか?』
早速ゲームらしいメッセージが送られてくる。学校内でゲームをする事に一瞬躊躇するがユミの情報が何らか取れるかも知れないと言い聞かせて【OK】のボタンを押す。
「ないちんげーる?」
相手の登録名を見て思わず吹き出す、ナイチンゲールの名前ににアバターは白衣の女性。職業は看護師だろうかという妄想が働く。
更に画面が切り替わり、『
だが、その時、俺はようやくこのゲームの違和感に気がつく。戦闘画面になった途端、アイコンメニューが出てこないのだ。普通なら攻撃、防御、逃げるなどの選択肢が出てきそうではあるが、全くない。かといってMMOのようにアバター自身を動かす類のものでもない。
唯一手がかりのありそうな地図のアイコンをタップする。すると画面の上半分が地図に変わり、青い点と赤い点が同じ部屋の中に表示される。場所の名前は啓欄高等学校保健室と書かれている。
「ってかどういう事?対戦相手がこの部屋にいる?それにこれどうやって戦う…」
刹那、カーテンの外に気配を感じた。するとカーテンが切り裂かれ何者かがナイフを俺に突き立てられるのを視界が捉える。
「うわっ」
俺はベットから転がり落ちるようにそのナイフを避けるとその相手を見た。そこには目が釣り上がり、まるで悪魔のような仮面を被った保健医
「先生…どうして?」
「うらぁぁぁぁぁぁ…うぐっ」
俺の質問に答える事なく田宮先生はナイフを振り上げてくる。俺は咄嗟に田宮先生に対してタックルを食らわす。刃物に対して苦し紛れの防衛策だ。
田宮先生は俺のタックルで後ろに倒れると後頭部を強打したようでくぐもった声を上げた。俺はすぐさま立ち上がるとそのまま保健室から飛び出した。
携帯の画面をみる。まだ戦闘は継続中だ。
一体なんなんだ、このゲームは?まさかリアルで戦った結果がポイントに反映される類のゲーム?そんなゲームなんて聞いたこともない。
でも田宮先生が手に持っていたナイフは多分本物、それにあの殺気、俺を本当に殺そうとしていた。そんな殺し合いのゲームアプリなど存在するのだろうか。
俺は職員室に向かうか一瞬躊躇したが、殺し合いのゲームなんて言った所で誰も信じてくれない。且つ、もしユミがこのゲームに巻き込まれているなら、職員室に駆け込んで時間を取られてしまうのが惜しい。
俺はまず校舎を出て剣道場に向かう事にした。
「なっ…」
その時目の前に現れた人物に俺は驚き足を止める。
「ダメね。東堂君、先生に危害を加えて逃げるなんて」
そこにはあの時、保健室で押し倒したはずの田宮先生が卑しい笑みを浮かべてこちらを睨んでいた。
賢蘭学院高校 保健医 42歳
既婚 夫、15歳長女と12歳長男の4人家族
42歳だが見た目は若く、美人保健医という事もあり校内でもかなり人気上位の先生である。でもその実態は殺人ゲームに魅せられたタダの戦闘狂…。
「先生もあのゲームやってんすか?」
俺はなぜ田宮先生がここにいるのか確かめたかったが、とりあえず時間稼ぎと情報を少しでも得る必要を感じてまずそう問いかける。
「東堂君もさっき始めたみたいね?誰かから誘われたのかしら?上原さんかな?」
その田宮先生の言葉に俺は血が沸騰するのを感じる。
「先生、ユミの何を知ってる?今あいつはどこにいる?」
俺は発狂して殴りかかりそうになる気持ちを抑え、冷静を装い尋ねる。
「さぁね。力づくではかせてみれば?」
美人保健医の面影なんて既になく、田宮先生は卑しい笑みを浮かべて俺に向かって突進してくる。俺も地を蹴った。田宮先生に向かって一瞬に距離を詰める。俺の行動が田宮先生には意外だったのだろう。彼女の勢いが急に削がれた。再び俺はタックルを仕掛けようと体勢を低くする。
刹那、田宮先生の瞳が黄色く光ると目の前から田宮先生が消える。刹那、背後に気配を感じる。
「んなっ」
俺はそのまま前回り受け身を取ると立ち上がり、背後に現れた田宮先生をみる。これがあのシギル…というやつ?所謂特殊能力みたいなもの?
「成る程、瞬間移動と言った所ですか?」
その問いに田宮先生は一瞬驚くが直ぐに卑しい笑みを崩さない。
「ふーん。流石ね。本当に貴方ビギナーなの?いきなり巻き込まれてのその順応性、冷静さ、身体能力、頭の回転…。どれを取っても脅威ね。でも
田宮先生はそう言うとナイフを両手に取り出す。手慣れた様子でクルクルとナイフを回すと地を蹴った。刹那また彼女の姿が消える。
「ちぃ!」
俺は背後に飛ぶとそこに田宮先生の姿が現れ、ナイフが空を切る。
「くそ!」
俺は田宮先生に背を向けると武道場のある体育館に駆け込んだ。
武道場にさえ行ければ…。俺は武道場に飛び込むと、更衣室に駆け込む。そして木刀を手に取った。
田宮先生はあの瞬間移動があるだけで武器の扱い、身体能力はそれほど高くない。丸腰で戦うには辛いけど武器さえあれば、形勢は逆転できる。
俺は木刀を手に武道場から飛び出す。そこに田宮先生の姿があった。木刀とナイフ、武器のリーチで言うと俺が有利、だがあの瞬間移動の能力は厄介だ。あれさえ止められれば…。
「ちょっと貴方何かしたの?」
刹那、田宮先生が叫ぶ。
俺は何のことか分からないが木刀を構えた。
「貴方の
「何を言ってるか分からないんだけど」
俺は再び地を蹴った。早く田宮先生を制圧しないともうすぐ1限目の授業が終わる。そうしたらこんな立会いは続けられない。
「うぐっ…あぁぁぁぁ」
しかしその時、田宮先生はナイフを落とし、身体が揺れてその場に倒れこむ。そして彼女の足がピクピクと痙攣を始める。俺はその異様な光景をただ見守ることしかできなかった。次第に先生の痙攣が弱まっていき、足は動きを止める。
「先生?」
俺は予想外の出来事に彼女に駆け寄った。先生は目を見開き、泡を食い、既に息をしていない。まさかさっき後頭部を打ったからか?俺にはそれしか先生が死んでいる理由に思い当たる点がなかった。
その時、無情にもその時、けたたましいけいたい音が鳴り響く。携帯を見ると『You win』のメッセージと獲得ポイントが記載されている。
勝った…のか?それは先生が死んだから?
さっきの俺の予感通り、このゲームはリアルと連動していて、その戦闘結果に応じてポイントを獲得できるのだろうか?
俺は未だそのカラクリは理解できなかったが、今目の前で起こった現実を見る限り、そう理解するより他に術が見つからなかった。
こんな物のために俺はこんな殺し合いをしたのか?
一体何のために…
その時、先生の体の節々が青色の辺に囲まれたいくつもの立方体に囲まれる。1秒1秒経つたびにその立方体が弾け、その部位が消失する。次々と消失していく先生の体を、その異様な光景をを俺はただ見ることしか出来ず、20秒と経たないうちに先生の姿は消え去り、その場には人型に模られたアートのようなオブジェだけがそこに残された。
「勝った…のか?」
俺は生き残った…でもおそらく田宮先生は死んだ。死因は多分脳出血か何か…あの保健室でのタックルした時に後頭部を強打したこと。不可抗力ではあったとはいえ、俺が人を…殺したのか。
手がガタガタと震え出す。思わず木刀をその場に落とした。
その時1限目のチャイムが校内に鳴り響き、俺はその場から逃げるように走り出した。
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俺が田宮先生を殺した。
刑事事件上は正当防衛は成立するのか?
いや、あれは事故だ。事故死だ。
でもその事故の原因は俺のタックル。
そのタックルの原因は田宮先生が俺を襲ってきたから…。
頭の中をグルグルと思考が回っている。どうやって家まで帰ってきたのか分からない。気がついた時、俺は自室のベットに居た。
『カイト体調大丈夫?田宮先生が行方不明らしいよ?保健室にカイトの訪問カードに早退って書いた後に居なくなったらしいの。何か知らない?後で、松井先生が家に行くと思うよ』
楓からのメールである。やっぱり学校でも噂になっているのか。そりゃそうだよな…。田宮先生は俺を殺すつもりで、そな後に足がつかないように俺を早退扱いにしたのだろう。
松井という担任が来ると書いてあったが、今は誰とも会いたくない。誰がこのゲームのプレイヤーでいつ同じようなバトルを仕掛けてくるかなんて分からないからだ。
俺は楓のメールを無視し、寝返りを打とうとした。その時、携帯が今度は聞きなれない着信音を俺に伝える。俺は再び携帯を取り、体を起こすと携帯を注視した。
メールの差出人はダーウィンズゲーム運営事務局、内容はアプリ内チャットの受信…
「まじかよ」
俺はフラフラする頭を抱えてそう呟いた。
『カイト、助けて? From ゆみりん』
アプリ内チャットにはそうたしかに記されていた。
第2話『