※この作品はR-18です。

俺は、彼女達を護るために『雷霆皇帝』になる   作:リュウコウ

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ライトノベルの百鬼夜行の大鬼は出なくて、
アライアンスセージ・銀蒼麗鬼 アヤメ
アライアンスセージ・流麗鬼士 シャガ

[集う聖剣]
[聖剣(せいけん)]ペイン (海騎士かいと)海の従兄
[海神(セレス)]マーレ(海うみ)海騎士の従妹

[神速(しんそく)]ドレッド(風真ふうま)風の従兄
[空神(ウィンダム)]ヴェント(風ふう)風真の従妹

[地割り(じわり)]ドラグ(光地こうじ)光の従兄
[炎神(レイアース)]ルーチェ(光ひかる)光地の従妹




56 月曜日【23】第5回イベントと第5層・雲の国

~~~~~~~~~

 

12月の第1週、第5回イベントとしてフィールド探索型(たんさくがた)が開催された。規定(きてい)のモンスターを倒すことによってポイントが貯まり(たまり)、そのポイントを競い合うことになる。それに伴って(ともなって)フィールドは白い雪に覆われ、空からは静かに雪が振り始めている。

 

「12月の終わりまではこのままらしい」

 

4層のギルドホーム、その窓から外を眺めるヤイチがカエデに言う。

 

「綺麗(きれい)でいいよねー........歩きにくくなったりもしないし」

「だな。じゃあ僕は適当にイベントモンスターを倒してくるから」

「りょーかーい」

 

ヤイチは窓から顔を離すとギルドホームから出ていった。

ヤイチが出ていったところでカエデも窓から離れる。

 

「今回のイベントは.......モンスターごとに違うと」

 

今回のイベントでは、討伐対象となるモンスターが4種類いる。

その4種類は出現確率と得られるポイントが違っており、最も(もっとも)出現しにくいモンスターは高いポイントの他にも、レアアイテムを低確率でドロップすると運営からお知らせが届いていた。

 

「出会えたらそれだけ倒そうかな、低ポイントモンスターは足が速くて追いかけるのが大変だったし.......」

 

カエデはぶつぶつと呟き(つぶやき)つつ思考をまとめてギルドホームから出る。

 

今回のイベントは、あくまでも通行許可証のクエストを達成する過程で見つけたら倒す、という程度にとどめておくことに決めていた。

 

カエデは扉を開けて雪の降る町へと繰り出していく。

雪が降っているというだけで雰囲気(ふんいき)がガラリと変わったように思えて、歩くことも苦(く)にならなかった。

カエデは現在受けている【魂の残滓(ざんし)】の収集クエストを進めるために、雪の降るフィールドを楽しむように歩いてのんびりと西へと向かった。

 

「到着!」

 

廃屋(はいおく)が点在(てんざい)するエリアにやってきたカエデは短刀(たんとう)を抜き、兵器(へいき)を生やして(はやして)歩き回る。

そうしていると青色の火の玉がふわりふわりと飛んでいる場面に遭遇することがあり、それがカエデの目的としているアイテムをドロップするのである。

 

「もーらった!」

 

大した戦闘能力をもたない火の玉に無慈悲な銃撃(じゅうげき)が次々に直撃し、一瞬にして戦闘は終わった。

 

「ふぅ.......良かった!今日は幸先がいいね」

 

この火の玉は出現率が高いとは言えず、さらにマイとユイと一緒に戦ったモンスターのように少しすると姿を消してしまうのである。

カエデはドロップしたアイテムを拾い上げると、運が良かったと頷き(うなずき)ながら次の獲物を求めて狩りを再開した。

 

 

「ふふふ.........調子いいぞー!」

 

30分(さんじっぷん)ほど火の玉を探していたカエデは、あと1つ【魂の残滓】を手に入れられればクエストクリアというところまで来ていた。

今までと比べて遥か(はるか)に順調に火の玉が出現しているため、カエデはホクホクである。

 

「よーし!この調子であと1つ!」

 

そう意気込んだ(いきごんだ)カエデだったが、確率とは収束(しゅうそく)するものである。

 

その後(ご)たったの1度もお目当て(おめあて)の火の玉に遭遇(そうぐう)することが出来なかった。

 

 

これには流石(さすが)のカエデも狩りを中断して気分をリセットしようという発想になった。

カエデは一旦(いったん)火の玉のことは忘れて雪景色(ゆきげしき)を堪能(たんのう)することにし、木の幹を背もたれにして地面(じめん)に座り込む。

 

「はー........疲れた。むぅーん最後の鳥居までは遠いなあ」

 

カエデはカスミの攻略速度が凄まじ(すさまじ)過ぎることを改めて実感した。

 

「イベントのモンスターはいるんだけどなあ........」

 

カエデは少し遠くに見える白い狼に右手を向け銃弾を次々に発射した。

 

「撃破っ!よーし......はぁ」

 

1匹(いっぴき)倒したところでランキングに影響を与えることはない。

 

「よし、よしっ!ぱぱっと1体(いったい)倒した今日は終わろうっと」

 

カエデはばっと立ち上がると気を取り直して狩りを再開した。

目を細めて周りを注意深く(ちゅういぶかく)確認しつつゆっくりと移動し、絶対に見逃さないという姿勢である。

 

「いっ.....た!」

 

カエデは視界の端に火の玉がふわりと現れたのを捉えると、ガシャンと兵器を向けてどう見てもオーバーキルな量の銃弾をばら撒いた(まいた)。放たれた銃弾は火の玉に避ける間(ま)も与えずに次々に直撃し、いとも容易く(たやすく)火の玉を光に変えていった。

 

「ふぅ.......やっと終わったよー」

 

カエデはドロップアイテムを回収するとインベントリの中身を見て、きっちり必要なだけの【魂(たましい)の残滓(ざんし)】が手に入っていることを確認した。

 

「よし!はぁ........結局、時間がかかっちゃったなあ。今日は運がいいと思ったのだけれどなあ......」

 

全体で見れば上手く(うまく)いっていたのは最初だけだった。

カエデはぐっと背伸びをするとクエストの報告に向かうために廃屋(はいおく)エリアを抜けていこうとした。

だがしかし、やはり確率とは収束(しゅうそく)するものである。

 

「ん?」

 

カエデは背後でズシンという音が聞こえたことで振り返った。

そこにいたのは、4メートル超え(こえ)の雪だるまである。

石でできた口と目に、人参(にんじん)の鼻。

木の枝の腕には袋を持っており、頭には赤色の帽子が乗っていた。

 

「おおっ!?」

 

カエデが遭遇したのは今回のイベントで討伐時(とうばつじ)に最も(もっとも)多くポイントを手に入れられるモンスターだった。

 

「よし、やるぞー!」

 

カエデはきっちりと雪だるまと向き合うと銃弾を撃ち込む。

銃弾は次々に雪だるまの胴体を貫いて(つらぬいて)いくが、頭の上にあるHPバーはほとんど動かない。

雪だるまは攻撃を全く気にすることなくカエデに近づくと、持っていた袋で殴りつけた。

 

「うぇ!?それで攻撃するの!?」

 

盾のない側(がわ)から横殴りの攻撃を受けたカエデは、兵器を砕かれながら横へと吹き飛ばされた。

 

「魔法しか効かない感じのモンスターなのかな?もうちょっと試して.........」

 

カエデは大盾(おおたて)を構えると、斜め下へ砲口(ほうこう)を向けて雪だるまへと自爆飛行(じばくひこう)した。

カエデは雪だるまの体を【悪食(あくじき)】で喰らって(くらって)抉り(えぐり)取り、通り抜けていく。

いつも通り(どおり)の適当な着地で兵器を砕きつつ雪だるまの方(ほう)を見ると、そのHPバーはやはりほとんど動いていなかった。

 

「いろんなタイプのモンスターが増えてきたなあ........【毒竜(ヒドラ)】!」

 

大して(たいして)動きの速くない雪だるまが毒竜(ヒドラ)を避けることが出来る訳もなく、体の中心に当たって毒が弾けた(はじけた)。

 

「あれ.......?へ、減らない?」

 

毒状態になることもなく、HPバーもほんの僅か(わずか)に減少しただけである。

このままひたすら削っていけば倒すことが出来るのは間違いないが、酷く(ひどく)効率が悪いことは目に見えていた。

 

「でも逃がすのはもったいないし.......もったいしなあ」

 

カエデは雪だるまが頭上に降らせてくる氷柱(ひょうちゅう)を雨のように浴びながら、どうするかを考える。

結果、もみじと共にチクチクとHPを削ることにした。

 

「準備完了!」

 

カエデはもみじを【巨大化】させると上空に浮き上がらせて安全圏から【精霊砲】で攻撃させることにした。

カエデ自身はとりあえず【毒竜(ヒドラ)】を撃ち切ってから銃撃に移る予定である。

 

「よーし、【毒竜(ヒドラ)】!」

 

どばっと噴き出た(ふきでた)毒竜(ヒドラ)は雪だるまを再度蝕み(むしばみ)、次の瞬間そのHPをゼロにした。

 

「へ?.......あれ?」

 

光の粒となって雪だるまは消えていき、その場にぽとりと何かが落ちた。

 

「んー?んー.......あっ!即死か!」

 

初めて発動した【蠱毒(こどく)の呪法(じゅほう)】は、これ以上なくうまく働いたと言えるだろう。

 

 

カエデは雪の上に落ちていたアイテムの元へ走って近づいていく。

真っ白な雪に映える(はえる)赤い包装に、緑のリボンが巻かれた箱。

カエデはそれを拾い上げるとアイテム名(めい)を確認する。

 

 

【プレゼントボックス】

12月25日以降、1週間、使用可能。中身はランダム。

 

 

「中身はなにかな?クリスマスっぽい物かな?」

 

元々の目的も達成しているカエデは満足して町へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

カエデとは対照的(たいしょうてき)に、ヤイチはフィールドを、雷の軌跡(きせき)を後ろに残しながら、駆け回ってはイベントモンスターを倒しポイントを稼いでいた。

狩りが、一段落(いちだんらく)したところでヤイチは武器を仕舞い(しまい)、少しの間、休むことにする。

 

「ふー.........」

 

ヤイチが呟く(つぶやく)。

頭の中でイメージするのは自分が誘った彼女の姿。

カエデが初めてこうして長い間、一緒にゲームをしてくれているのは嬉しい(うれしい)ことではあるのだが、1人のプレイヤーとしては負けたくはないと思うのである。

ただ、イメージの中でカエデと戦闘をしてみても、ギリギリ。

 

「あそこまで強くなるとは.......、ビギナーズラックとは、恐ろしいものだ♪負けてはいられないな......再開するかー」

 

ヤイチは足にぐっと力を入れると再び走り出した。

【超神速(ちょうしんそく)・雷速(らいそく)】の力もあり、ほとんど止まる(とまる)こともなく低(てい)ポイントのモンスターを倒すことが出来ているため効率はなかなかのものであった。

 

「カエデを見習って(みならって)、もっと防御力を高めて、出直してきな!」

 

走り抜けた場所でダメージエフェクトが舞っていく。

貫通攻撃(かんつうこうげき)がないモンスターがカエデを倒すことが出来ないように、面攻撃(めんこうげき)が出来ないモンスターはヤイチを倒すことが出来ない。

 

「防御力が高いだけならカエデも何とかなっていたな」

 

考え事をしながらでも動きが単純(たんじゅん)なモンスターなら相手に出来る。

 

 

 

 

そうして、2~3時間ほどモンスターを倒して回っていると、少し先に大きな雪だるまが歩いているのが見えた。

 

「お、高(こう)ポイント。ラッキーラッキー」

 

ヤイチは雪だるまに接近すると腕を避けつつスキルを発動させる。

 

「【爆雷(ばくらい)】」

 

カエデの苦戦が嘘(うそ)のように、武器(ぶき)スキル【爆雷】を受けて、雪だるまは、爆散(ばくさん)した。

 

「うん、ポイントはおいしい!」

 

イベントモンスターが終わるまでにドロップアイテムも回収したいと思っているヤイチは、すぐにまた、フィールドを駆け回る。

 

 

 

 

 

クリスマスが近づいて来た頃、カエデは手に入れたプレゼントボックスが開けられるようになる日を楽しみにしつつ、丁寧に包装されていたその箱をインベントリから出して眺めていた。

 

「何が入っているのかなあ」

 

しばらくそうしていたカエデは、イベントはいつまでだったのかと運営からのメッセージを確認していた。

その最中(さなか)、カエデはある文章を読んで何かを思いついたのか、プレゼントボックスを仕舞って(しまって)、ガタッと椅子(いす)から立ち上がる。

そうしてとことこと歩いていった先は、イズがよくいる工房だった。

カエデが中を覗き込む(のぞきこむ)と、そこには何か作業をしているイズお姉さんがいた。

 

「あら、カエデちゃん。どうかしたの?」

「えっと、すごく大事なことってわけじゃないのだけれど.......」

 

そう言ってカエデが提案したのは、クリスマスらしい料理を作ってもらえないかということである。

つまり、パーティーを開きたいというものだった。

 

「なるほど。でもクリスマスまでで、全員集まるのは確か、明日が最後じゃなかったかしら?」

「作るのに、時間がかかるかな?」

「それは大丈夫よ。それに、こういうことは私の腕の見せ所だもの!最近はカスミの武器も修理をする必要がなくなっていたから............こうやって他(ほか)の部分で何かができるのは私にとっても楽しいし、嬉しいわ♪」

 

と、イズお姉さんは話を戻す。

 

「ほら、やるなら皆(みんな)で、でしょう?どういう訳か、このギルドには、夜一(やいち)ちゃんの知り合い?彼女が集まっているから、クリスマスイブに集まるのは、大丈夫だろうけれど♪」

「そうだね、夜一(やいち)の彼女、だもんね♪」

 

カエデは、先程(さきほど)見ていた運営からのメッセージをイズにも見せる。

イズはそこに書かれていることを既に(すでに)知っていたようで、うんうんと頷いた(うなずいた)。

 

「今回のイベントでプレゼントボックスとは別にドロップする、ハズレ?なるほど、今は当たりかしら。そのアイテムは使えるわね」

 

今回のイベントでは、ドロップするハズレアイテムを使えば、ケーキやチキンを用意用意することができるようになっている。アイテムとしての価値は高いわけではないが、雰囲気(ふんいき)は抜群(ばつぐん)である。

 

「ふふふ、すぐに取ってくるよ!」

「ただ、ドロップ率がいいわけじゃないらしいのと、量を用意する必要があるから頑張ってね」

「まっかせてくださーい!」

「いい返事ね。私は栽培している野菜と果物の出来具合(できぐあい)を見ておくわ」

 

いってらっしゃいとイズお姉さんが手を振って見送る中、カエデはギルドホームから飛び出していった。

カエデは早足(はやあし)で町の入口までやってくると、準備体操という風にぐっと体を伸ばす。

 

「よーし、さくさくっと集めちゃおう!プレゼントも優れた手に入ったし!【黒魔神(くろまじん)】!」

 

カエデを常闇(とこやみ)が包み込んで、その見た目を化物(ばけもの)へと変えていく。そうして、二本(にほん)の奇っ怪(きっかい)な腕、巨大(きょだい)な体躯(たいく)に、二足歩行(にそくほこう)。雪の降るフィールドを駆け抜けていった。

 

そうして、しばらく走っていたカエデは低(てい)ポイントのイベントモンスターに何度(なんど)か出会った。

カエデは出会い頭(であいがしら)に、右手をなぎはらいながら黒炎(こくえん)を放ち、一瞬で焼き捨て、何かドロップしていないかを確認する。

 

「『雪のかけら』........お店で高く売れるけれど、食べられない。んー、これはまた売りに行こう!」

 

カエデはめげずに次のモンスターを探す。高(こう)ポイントモンスターの方(ほう)がドロップ率がいいため、狙いはそれだ。

 

「ヤイチの言っていた通り、炎を使えば簡単だね!」

 

カエデは駆け回って、どこかにモンスターはいないかと辺りを見渡すものの思っていた以上に見つからない。

しばらく走り続けたが、たまに出会う程度で、しかも目的のものを手に入れることが出来ないでいた。

 

「.......こんなにいなかったっけ!?うー、どうしよう......これじゃあ厳しいかも.......」

 

少し疲れてしまったカエデは、やる気を回復させるためにも、木の下に横たわって休み始める。

 

「.......雪、もっと積もったらいいのになあ」

 

雪は地面(じめん)をうっすら覆う(おおう)程度で、踏みしめて(ふみしめて)歩く程にはなっていない。折角(せっかく)だから、それくらい降ってもいいのにと、そんなことを思いながらカエデは体を休める。

 

「いつかそんな階層も追加されたりするのかな?」

 

そうしたらヤイチとまた探索しようと、2人で冒険するところを思い浮かべて、カエデは素材集めを再開するため体を起こそうとする.....ん?あれは.....」

 

カエデは遠くに見えた人が誰かを理解すると、そのまま走って近づいていく。

向こうも、化物(ばけもの)の姿をしたカエデの巨体(きょたい)に気づかないはずがなく、カエデの方(ほう)を見て、頭を抱えて「「はぁ~」」といった、溜め息を溢した(こぼした)。

 

「ミィとミザリーも、ここら辺に居たんだね♪」

「カエデっ!どうしたんだ、その姿?」

「あまり、驚かさないでください。カエデ」

「ヤイチが炎を使えば簡単だって言うから、【黒魔神(くろまじん)】に変身して、イベントモンスター探しの途中で見かけたから声をかけに来たんだよ。中々見つからなくて。前にたくさんいた場所を探したんだけれど......」

「ん?それは駄目だ(だめだ)。よく出現するポイントはいくつかあるが、毎日移り変わっているからな」

「うぇっ!?そ.....そうなの、」

 

今回はイベントをほとんどやらないつもりだったカエデは、きっちりメッセージを読んだのもつい先程(さきほど)のことである。食材のことを見て思い立ったが即行動と切り替えたため、そんなことはしらなかったのだ。

 

「使う使わないは別として、情報をきちんと見るのはゲームの基本だぞ。覚えておくといい。」

「うん、そうだね。ゲーム自体(じたい)初めてだから気をつける。あ、そうだそうだミィ!モンスターを倒しにいくなら私も付いて行っていい?」

「同じギルドメンバーなんですから」

「なら、行こうか。カエデ、移動は?」

「この状態なら私は速いよ!まっかせて!」

 

カエデは地面(じめん)に伏せて(ふせて)、2人を背中に乗るように促す(うながす)。

 

「ミィ、私たちも乗りましょう」

「カエデ、頼む♪」

「案内をするから.....そっちに走って」

「了解♪」

 

カエデはミザリーの指示通りにフィールドを駆け抜けていき、目的の場所へと辿り着いた(たどりついた)。出現率が上がっているポイントは、分かりやすいように雪がより激しく降っている。

カエデは2人を降ろすと、【見捧ぐ(みささぐ)慈愛(じあい)】を発動させた。

 

「黒魔神(くろまじん)】に天使の羽が生えている(はえている)ずがたは、いつ見ても慣れない(なれない)わね」

 

ミザリーは、光攻撃のスペシャリスト。そして、ミィは、炎攻撃のスペシャリストである。

 

「さて、やろう。モンスターも湧いてきた(わいてきた)」

 

カエデがあれだけ探しても出てこなかったモンスターがわらわらと現れた。

カエデが攻撃をするより先に、ミィが【紅炎(こうえん)】を放つ。

 

「ミィ。私も、攻撃に加わります」

「ありがとう]

 

炎と光の軌跡(きせき)の後(あと)には、モンスターが次々と倒れていた。

 

 

 

カエデは、のんびりしていると、欲しいだけの食材が手に入った。

 

「どうだ、カエデ?これで、足りるだろう」

「えへへ、十分だよ。ミィ!じゃあ、また背中に乗って」

 

ミィとミザリーは、【黒魔神(くろまじん)】の背中に乗るのを確認してから、ギルドホームの方(ほう)へと帰っていく。

 

 

 

 

町の前で、ミィとミザリーを降ろして、人の姿に戻ると、3人は駆け足でギルドホームの方(ほう)へと帰ったのだった。

 

 

翌日。

ギルドホームの居間(いま)に集まった【皇帝の彼女達】の面々(めんめん)の前で、カエデは飲み物の注がれたグラスを持って立っていた。

目の前のテーブルにはカエデとミィとミザリーが集めた食材でイズが作ったローストチキンや、アイスケーキ、サラダにスープなどが所狭し(ところせまし)と並んでいる。

 

「えーつと.......、ヤイチ?こ.....こういう時ってなんて言ったらいいんだっけ?」

「えっ!?何か言うつもりで立ったんだろ!?」

「うー......、このギルドを立ち上げるにあたり、ヤイチと私とユナで和気藹々(わきあいあい)と、楽しくゲームができればと作りました。が、蓋(ふた)を開ければ、ミィとミザリーを始め、次々とヤイチの彼女が増えていき、今は、27人の大所帯(おおじょたい)になり、中規模(ちゅうきぼ)ギルドの仲間入り!」

「お......おい、カエデ?これが、パーティーの挨拶か?」

「........あっ!メッ.......メリークリスマス!来年も、現実(リアル)と幻想(ゲーム)でよろしくお願いいたしますっ♪」

 

カエデの声に、グラスを持つ手を上げる。

 

目の前の料理がなくなる前にお開き(おひらき)に、現実(リアル)でも、クリスマスパーティーの準備をしていたので、そちらがメイン。

 

 

 

 

そして、クリスマス当日。ようやくカエデが手に入れたプレゼントボックスを開けられるようになった日。

カエデとヤイチは一緒にギルドホームにやって来た。

 

「ヤイチと一緒にプレゼントを開けようかと♪」

 

そう言って、カエデはインベントリから赤い箱を取り出した。

 

「カエデも手に入れられたんだ」

「いくら、足が遅いからって、【黒魔神(くろまじん)】に変身すれば、少しは速いんだからね♪」

「ねっ、じゃないし♪」

 

そう言って、ヤイチは黄色の箱を取り出した。カエデの物とはまた別の包装がなされているがこれめまたプレゼントボックスとしてドロップしたものである。

 

「じゃあ、早速開けちゃおう!さてさて何が出るかなっ?」

 

リボンを解いて(といて)、2人揃って(そろって)蓋(ふた)をぱかっと開けるとそこにはそれぞれ巻物(まきもの)が1つ入っていた。

 

スキルを取得出来るアイテムである。

 

「スキルは......さてと、中身はどうかな?」

 

2人は自分の巻物からスキルの情報をまずは確認した。

 

 

 

黒薔薇縛棘(くろばらばくきょく)

両足合わせて、10本(じっぽん)の棘(いばら)が、敵プレイヤーまたはモンスターを5秒間、足止め(あしどめ)する。

 

 

雷鳴(らいめい)轟く(とどろく)大地

自分を中心に、半径5メートル以内の敵プレイヤーまたはモンスターを5秒間行動不能(こうどうふのう)にする。

10分後(じっぷんご)、再使用可能(さいしようかのう)。

 

 

 

前者(ぜんしゃ)がヤイチの得た(えた)巻物のスキル。

後者(こうしゃ)がカエデのスキルである。

 

「ヤイチ、こんなスキルだったよ」

「俺のはこれだ」

「手に入れたスキル。私が持っているよりも、ヤイチなら使いこなせるから、交換しない?」

「なら、このスキルは、カエデなら使いこなせる♪」

 

 

 

 

 

 

 

ヤイチと彼女達の冬休みも終わり、1月も半ば(なかば)を過ぎたころ。

ヤイチも強く待ち望んでいた5層(ごそう)が実装(じっそう)された。

実装当日(じっそうとうじつ)、夜一(やいち)は、私の看病(かんびょう)をしてからギルドホームへ行き(ゆき)、みんなを待つという。

 

「おお、全員揃った(そろった)!」

「ん?いや、カエデが.....、あっ、いつもの.......」

「そう、この時期(じき)、流行り(はやり)の、インフルエンザだ。ユナ」

「相も変わらず(あいもかわらず)、ウイルスに弱いね♪」

「だな♪」

「そうなの、どうする?また別の日に全員で行こうか?」

 

そのクロの提案に対しての結論は、今いるメンバーでも、多勢に無勢(たぜいにぶぜい)なので、先に進もうというものである。

これに反対する者はいなかった。

最悪、カエデならば1人でボスを倒してしまうことも出来るだろう。

こうしてカエデ抜きの【皇帝の彼女達】は5層へ続くダンジョンへと向かっていった。

ヤイチ達26人はダンジョンを目指して、モンスターをなぎ倒しながら突き進む。

 

 

 

 

 

「まぁ、見えてきたわ」

 

クロが指差した先には、洞穴(どうけつ)が口を開けていた。

 

「さっさと、倒しに行こうか♪」

 

ダンジョン内には物理無効(ぶつりむこう)モンスターや物理大幅軽減(ぶつりおおはばけいげん)モンスターが溢れ(あふれ)かえっていた。

俺たちのギルドメンバーは、物理と魔法、両方使えるから、問題はない。

 

 

ヤイチ達の進行は続き、苦もなくボス部屋(べや)へと辿り着いた(たどりついた)。

 

「じゃあ、開ける」

 

ヤイチが振り返って言うと、全員が無言で頷き(うなずき)それぞれの装備を構える。

直後、扉は開け放たれ、全員が中へと飛び込んでいく。

部屋の奥にいたのはきゅうほんの尾を持つ大きな狐だった。艶(つや)のある毛並みの黄色い尻尾(しっぽ)をゆらゆらと揺らしている。

 

「皆、計画通りに!」

 

ヤイチが言うと、同時に彼女達は、散った。

後(あと)は、四方八方(しほうはっぽう)からの、波状攻撃(はじょうこうげき)に、素早い(すばやい)攻撃が売り(うり)の狐に、勝ち目がなく、光の粒となって、消えていった。

 

 

 

 

 

 

こうして26人が無事、5層へと進出したその数日後、カエデの少し後にヤイチが4層のギルドホームにやって来た。

 

「皆は、もう5層へ?」

「うん、俺が見守っていようか♪」

 

カエデは、断る。

 

「あ、最後に........どうだった?強かった?」

「んー......まぁ、この層で出てくるモンスターとしては最強クラスなんじゃないか?」

「最強........うんうんなるほど。えっと........やっぱりヤイチは1人で戦ったんだよね?」

「.,....?いや、26人で行った。まあ、カエデなら1人でもなんとか.......」

「そっかそっか、そういうことも出来るようになったんだね」

 

カエデはその言葉に元気付けられたかの(づけられたかの)ように表情を明るくした。

 

「じゃあ、私は早速(さっそく)、ボスの部屋へ」

「気をつけて」

 

カエデは、目的地へと真っ直ぐに走っていく。

 

「よーし、頑張るぞ......」

 

「たーのもーう!」

「おぉ......?まさか人間が来るとはな」

 

 

カエデの発言に答えたのは真っ白い(まっしろい)主(ぬし)だった。

カエデは、この4層の【最強】と対峙(たいじ)することとなったのである。

 

「ふふふっ、5層へと行かせてもらうよー!」

 

カエデは元気よく主(ぬし)へと宣誓した。

主(ぬし)に続いて、魔法陣(まほうじん)へと乗って、用意されたバトルフィールドへと移動する。

 

「さあ、やろうか人間」

 

少し離れた場所にいる主(ぬし)が言い放ち、その右手に2メートルほどの薙刀(なぎなた)が出現する。

 

「お手柔らかにお願いします........【全武装展開(ぜんぶそうてんかい)】!【邪悪(じゃあく)なる者(もの)】!」

 

ガシャガシャと音が鳴り、カエデの体から大量の兵器が展開される。

左手に盾を、右手は巨大な機械の剣にして体を隠すように構えた。

 

「【攻撃開始】!」

 

カエデの周りな砲口(ほうこう)と銃口(じゅつこう)が一斉(いっせい)にレーザーと弾丸を撃ち出す。

きっちり狙いなどつけなくても当たるレベルの量の攻撃が鬼に向かう。

しかし、主(ぬし)は自分の体に当たる弾丸全てを薙刀で逸らし(そらし)、叩き落として(たたきおとして)いく。

ただ、カエデの攻撃は止む(やむ)ことがないため、攻撃には転じ(てんじ)られてはいない。

 

「ヤイチみたいなことする.........モミジ!【巨大化】!」

 

カエデはモミジを【巨大化】させて宙に浮かせると、2体の闇人形(ダークドール)を連れて主(ぬし)へと近づいていく。

カエデが近づき着弾までの時間が短くなっても、主(ぬし)がダメージを受けることはなかった。

 

「モミジ、【精霊砲(せいれいほう)】!」

 

モミジの攻撃で天(そら)から白い光が降り注ぐ、しかしそれすらも主(ぬし)は回避する。

 

「うー.......【毒竜(ヒドラ)】!」

 

カエデから迸る(ほとばしる)毒が主(ぬし)へと迫る。

主(ぬし)は薙刀を目の前で回転させることで毒の奔流(ほんりゅう)を全て弾き飛ばした。

直後、自爆によって吹き飛んだカエデは全てを食らう盾と、鈍く輝く剣を突き出して自らが弾丸となり突っ込んだ。

ただ、それは同時に攻撃を止めるタイミングが出来るということでもある。

 

「吹き飛べ人間!」

 

主(ぬし)の超反応により振り抜かれた薙刀はカエデの兵器を砕き割りつつ、飛び込んできたカエデを横についてきた闇人形(ダークドール)こと遠くへと飛ばした。

その際にカエデの大盾と剣が僅か(わずか)に鬼の体を抉り(えぐり)ダメージを与えたものの、擦り傷(すりきず)と言っていいくらいである。

 

「うわっ!と....よっ!」

 

カエデはガシャガシャンと音を立てて跳ねて転がって、ようやく立ち上がった。

その視線に駆けてくる主(ぬし)の姿が映る(うつる)。

 

「【滅ぼす(ほろぼす)者(もの)】!」

 

闇黒(あんこく)が接近した主(ぬし)を襲うが、それは回避されてしまう。

しかし、【邪悪(じゃあく)なる者(もの)】による2体による迫撃(はくげき)は主(ぬし)の両腕を容赦なく抉って(えぐって)いった。

それでも止まる(とまる)ことがない主(ぬし)の薙刀(なぎなた)でのカウンターか【邪悪(じゃあく)なる者(もの)】達を斬り捨てる。

両者から噴き(ふき)上がる(あがる)赤いダメージエフェクトの向こうから再度、突撃したカエデは、大盾を振るい【悪食(あくじき)】で主(ぬし)の右半身(みぎはんしん)を食らって(くらって)突き抜けていった。

 

「【邪悪(じゃあく)なる者(もの)】はやられちゃったけれど........貫通攻撃かどうかも分からないしね」

 

【身(み)捧ぐ(ささぐ)慈愛(じあい)】を使えばHP(エイチピー)ロスが発生する。その瞬間に貫通攻撃が【邪悪(じゃあく)なる者(もの)】2人分入れば、一瞬でやられる可能性もあるため、カエデは安全をとったのだ。

カエデも多少なりともゲームに慣れてきて、1人の時とギルドのメンバーと共に戦う時とでは、戦闘方法が変わってきていた。カエデは壊れた兵器を再度展開すると主(ぬし)へと向ける。

 

「【攻撃開始】!」

 

カエデは再び銃撃を開始し、一息つく。

 

「色々な攻撃をしてくると思うけれど.......今の所はダメージはなしだし、これを繰り返せば大丈夫かな?」

カエデは何方(どちら)がボスか分からないような制圧力(せいあつりょく)を見せつけていた。

相変わらず(あいかわらず)銃弾(じゅうだん)は全て弾かれてはいるが、遠目に見えるHP(エイチピー)バーは先程のいくつかの攻撃で残り八割に届くかどうかというところまでは削れていた。

 

「もう1回.........」

 

カエデがもう1度歩き出そうとしたところで主(ぬし)の動きが変わった。

弾幕(だんまく)の範囲から瞬時に外れる(はずれる)跳躍(ちょうやく)。5メートル程(ほど)の高さまで飛び上がった主(ぬし)の周りに紫の炎が現れる。

 

「うぇっ!?」

 

カエデが慌てて角度を修正しようとするが、それよりも主(ぬし)の炎が射出される方(ほう)が早かった。

 

「全て返そうか」

 

カエデの使用したスキル全てをそのまま炎で再現しての反撃。

普通の大盾ならば接近攻撃を受けるくらいだろうこの反撃行動は、地面全域を炎で焦がし視界を奪っていく。

熱線(ねっせん)が射出(しゃしゅつ)され炎弾(えんだん)が炸裂(さくれつ)し、炎の竜が地面を焼き尽くす。

 

「うう!?ど.......どうなっているの、これ!」

 

カエデの攻撃に貫通能力はないためダメージはないものの、背丈より高く伸びる炎の中では主(ぬし)を視認することが出来ない。

 

「と........とりあえずっ!」

 

カエデは兵器を地面に向けると、主(ぬし)の炎を自らの爆炎(ばくえん)で散らして空へと飛び上がった。

目指すのは空に浮かんだままのモミジの所だ。

 

「【身(み)捧ぐ(ささぐ)慈愛(じあい)】!」

 

兵器の中から天使の羽が伸び、カエデの髪の色が金に変わる。カエデは急いで減ったHP(エイチピー)をポーションで回復する。

 

「モミジ!」

 

モミジの背中に刺さりにいくくらいの勢いで乗り込んだカエデを熱線が襲う。【身(み)捧ぐ(ささぐ)慈愛(じあい)】の効果のためモミジがダメージを受けることはなく、燃える地面がなくなったため何とか主(ぬし)の姿も見えるようになった。

 

「コピー........?」

 

カエデの使う攻撃にはカエデ自身に有効打になるものが一切ない。

故に(ゆえに)主(ぬし)がカエデの攻撃を模倣(もほう)して使っている間は絶対に安全なのである。

 

「とりあえずこれが終わるまではここにいよっと!」

 

カエデは熱線の中、モミジの背中に座り直した。

視線を照らす業火が止んだところで、カエデは【身(み)捧ぐ(ささぐ)慈愛(じあい)】を解除して地面へと飛び降りる。

 

「【攻撃開始】!」

 

再度カエデは射撃を開始する。

そうして攻撃を防ぐ一方となった主(ぬし)に向かって、また一歩ずつ迫っていく。

 

「ふぅっ.......!」

 

剣と盾を構え、カエデは三度突進する。主(ぬし)とカエデは交錯(こうさく)し、カエデの兵器と防具が砕かれ主(ぬし)の体が【悪食(あくじき)】によって持っていかれる。

ただ、主(ぬし)が壊せているのはあくまでカエデを覆う装備でしかない。

しかもそうして壊した防具は再生し、潰した(つぶした)兵器はまた新たに展開されるのだ。

 

「よし、このまま!」

 

カエデはそう言いながら起き上がり、主(ぬし)の方(ほう)を向こうとする。

その目に映ったのは、すぐ目の前で赤く光薙刀(なぎなた)を振り下ろす体勢に入っている主(ぬし)の姿だった。

 

「わっ!?」

 

咄嗟(とっさ)に大盾を付き出したカエデを、急に角度の変わった薙刀(なぎなた)が襲う。

横薙ぎ(よこなぎ)に近い薙刀はカエデを殴るようにして吹き飛ばした。

 

「うっ.......く、【攻撃開始】!」

 

カエデは止まった場所で膝(ひざ)をつきながら、主(ぬし)を近づけさせないように攻撃する。

その脇腹からは赤いダメージエフェクトが溢れて(あふれて)いた。

 

「うぅ、貫通攻撃........ポーションポーション.....」

 

かえはインベントリから取り出して使用した。

半分を少し割るところまで減っていたHP(エイチピー)はポーション1本で回復する。

それなりに性能のいいポーションなら、カエデ程度のHP(エイチピー)はすぐに全回復させることが出来る。

 

「うーん.....遠距離攻撃は防がれちゃうし、どうしようかな」

 

カエデの近距離攻撃は意外にも少ない。特に効果を期待できるものと言えば【黒魔神(くろまじん)】での攻撃か、【悪食(あくじき)】や兵器込みの突撃、もしくは【邪悪(じゃあく)なる者(もの)】の攻撃くらいである。

 

「んー.......うん、よし」

 

カエデはもう1度、先程と同じように突進した。

同じように鬼と交錯(こうさく)し、同じように被害を与えあってカエデは主(ぬし)の脇を抜けていく。

 

「ここっ......でっ!」

 

一際(ひときわ)大きい爆発音が響きカエデが空へと跳ね上がる(はねあがる)。

少し遅れて振り抜かれた主(ぬし)の薙刀(なぎなた)は空(くう)切り、カエデは遥か(はるか)高くにいるモミジの背中へと飛び乗った。

 

「ふー......ありがとうモミジ!助かるよー!」

 

カエデはモミジを撫でる(なでる)ともう1度、地面へと飛び降りる。

カエデは地面に降りると即座に主(ぬし)に突進し、行動の選択肢を与えない。

突進した後、上空のモミジへの避難、そしてすぐに戻ってくる。この行動の繰り返しによって、カエデは攻撃を受けることなく主のHPHP(エイチピー)を削ることが出来るようになった。

 

主はカエデの銃撃によって元々極度に行動を制限されている。さらにカエデが自らを砲弾とする、他(ほか)のどのプレイヤーをも上回る速度の立体機動(りったいきどう)をしてくるのだから、主に突破方法などない。

カエデは削る。ただひたすらにHP(エイチピー)を削り取っていく。

結果、一切の反撃を許さずに主のHPを半分まで減らすことに成功した。

 

「.......っ!」

 

何度目(なんどめ)かの突進の後、空中へと飛んだカエデは、モミジの背中から主(ぬし)の変化を見て取った。

 

「人間........中々やるな!」

 

そう言い放った主(ぬし)を中心に、白く輝く光が渦を巻いている。

地面近くには風が吹き荒れ、カエデにもその暴風の音が聞こえていた。

明らかな変化にカエデが大盾を構え、モミジの背中から様子を窺う(うかがう)。

 

「さぁ.......行くぞ人間!」

 

響く声と同時、主(ぬし)は宙を駆けた。

そのまま白い光の尾を引いてカエデとの距離を詰めてくる。

 

「嘘っ!?」

 

さらに薙刀(なぎなた)が纏う(まとう)、貫通攻撃の赤いエフェクトを見たことでカエデは危険を察知した。

 

「モミジ【休眠】っ!」

 

カエデの声に応じて、モミジの姿が指輪の中へと消えていく。

背に乗っていたカエデはそのまま重力に従って地面に落ちていく。

 

「【攻撃開始】!」

 

主(ぬし)から離れるように砲撃しながら地面に降りていく。カエデには、地面から浮いたまま、迫ってくる(せまってくる)主(ぬし)の姿が見えていた。

 

「うう.......くぅ.......っ!そうだ!」

 

方向を変える必要がないカエデはその状態でインベントリを開いた。

 

「これっ!」

 

カエデは光る何かを雨を降らすようにばら撒いた(ばらまいた)。

それはインベントリにしまい込んでいたポーションである。

 

「次は........此方(こっち)!」

 

方向転換して再びばら撒く(ばらまく)。

どんな場所にもポーションが落ちているように。

それをどこでも拾うことが出来るようにするために。

2時間だけはそこに残っていてくれる全回復が可能な休憩地点。

 

「いくよっ!」

 

カエデは意を決して主(ぬし)へと突っ込んでいく。

 

「やあっ!」

 

カエデは体を捻り(ひねり)盾と剣を叩き(たたき)つけ、代わりに左肩に薙刀を受けて地面方向へと抜けていく。

 

「いつつ.......早めに終わらせないと.........!」

 

久しぶりのダメージ。

カエデとしては出来ることなら受けたくない痛みは、落ちていたポーションを拾ってすぐに消し去った。

相手に貫通攻撃があるならば、それはそうそう長くやっていたくない戦闘なのだ。

 

「もう1回っ!」

 

カエデが炎を上げて空を舞う。

 

主(ぬし)は光を纏って宙を駆ける。

2つの光は時折交差し、弾けて、赤い光りを散らしていく。

カエデは兵器を砕き割りながら地面を転がり、途中でポーションを拾い上げる。

 

「もう1回........ぅ?」

 

カエデに走る違和感。

 

 

「武器が.......出ない?」

 

 

空を飛ぶたびに使い捨ててきた兵器。

それは有限だ。

注ぎ込んだ素材が切れればもう出すことは出来ない。

度重なる(たびかさなる)牽制(けんせい)と飛行で全て使い切ったのだ。

 

「食らえ人間!」

 

銃撃による制限から解放された主(ぬし)が炎弾を撃ちながらカエデへと接近して薙刀(なぎなた)を振りかぶった。

 

「【黒魔神(くろまじん)】!」

 

人の姿を包んでいく化物の姿。

ダメージエフェクトを散らしながらも、薙刀ごとその大きな拳を主(ぬし)に叩き込む。

 

「いっけぇっ!」

 

カエデの拳(こぶし)を受けた主(ぬし)は、逃げることもできず地面と共に体を砕かれる。

互いにダメージを受けつつダメージを与える。

残りHP(エイチピー)が3割を切ったところで主(ぬし)から衝撃波が発生し、主(ぬし)は地面と拳の間から抜け出した。

 

「まだだ、人間........!」

 

主(ぬし)の姿は大きくなり、真っ白い髪を揺らす大鬼となった。

 

対峙(たいじ)2体の化物が接近し、それぞれの攻撃を繰り出す。

先程までが技のぶつかり合いならば、今は力のぶつかり合いである。

そこに回避は存在せず、お互いが攻撃を攻撃で返し続けていく。

 

「負けないっ!」

 

カエデの右腕から放たれる紅炎(こうえん)が主(ぬし)を包み込んでいく。

赤く輝く主の拳(こぶし)がカエデの身体(からだ)を叩く(たたく)。

 

そして主のHP(エイチピー)バーが2割を切ったその時。

 

「うっ.........!」

 

カエデを覆っていた化物の姿が崩れ落ち、カエデが地面に落下する。

カエデの攻撃力は上がったとはいえ、主(ぬし)のそれには及ばない。

と、なると、貫通効果を持つ攻撃を受け続けたカエデの外皮が先に崩れることは当然であった。

 

「【毒竜(ヒドラ)】!モミジ!【覚醒(かくせい)】!【巨大化】!」

 

カエデは再度モミジを呼び出し、近づこうとする主(ぬし)を毒竜(ヒドラ)で牽制する。

回避をしなくなった主はそのままダメージを受けるもののそれでも拳を叩きつけてくる。

 

「【滅ぼす(ほろぼす)者(もの)】!.......っく、モミジ!【大自然】!」

 

立て続けに使えるスキルを吐き出して牽制を続ける。モミジに地面から巨大な蔓(つる)を伸ばさせて時間を稼ぐと、カエデはモミジの背中に飛び乗って空へと浮き上がった。

 

「急がないとっ!うわっ!?」

 

浮き上がったモミジの斜め下。

カエデがモミジに張ってもらった蔓(つる)のバリケードを突き破って主(ぬし)の拳の大きさの風が弾丸のように飛来した。

 

「モミジっ!」

 

モミジに直撃したそれはモミジを一撃で打ち倒し、カエデを地面へと落とした。

落ちていくカエデに主(ぬし)の拳が突き刺さる。

落ちながらたまたま構えられていた大盾がそれを受け止めたものの、空中に浮いた状態ではその場にとどまってはいられない。

通常のノックバックの比ではないくらいに吹き飛ばされたカエデにはダメージはないが、もともとスキルに頼りがちなカエデはそこまでガードは上手くない(うまくない)。

次もまた、防ぐことが出来るては限らない。

地面に伏せながら見た先には迫ってくる(せまってくる)主(ぬし)の姿があった。

追いつかれれば今度は離れる手段がない。

そして、目の前の地面にあるものを見つけたカエデは少しの後、閃いた(ひらめいた)。

 

「【クイックチェンジ】!」

 

青い光がカエデを包み、一瞬でカエデの装備が純白(じゅんぱく)のものに変わる。

 

「これを.......っ!」

 

カエデの周りに落ちていた、ばら撒いた(まいた)まま使い切らずにいたポーションを拾って使い、急増したHP(エイチピー)を回復させる。

その時にはもう主(ぬし)の拳は間近に迫っていた。

 

 

「【イージス】!」

 

煌めく(きらめく)赤いダメージエフェクトを白い光が塗りつぶす。カエデを光のドームが覆っていく。

10秒間の絶対防御領域。

カエデへの全ての攻撃は無効化される。

 

「早くっ........倒れてっ!」

 

少しでもダメージを稼ぐために打ち出せるスキルを限界まで使っていく。

主(ぬし)のHP(エイチピー)は残り1割にまで減っていたが、短刀(たんとう)から溢れる(あふれる)毒の雫(しずく)を見るカエデは焦っていた。

カエデには【イージス】が終わった後に繰り出せる防御系スキルも、攻撃系スキルもないのだ。

速すぎる主(ぬし)の追撃はカエデに【毒竜(ヒドラ)】を再使用までの時間など与えてくれはしない。

耐えられない、そう思ったカエデの頭の奥、記憶の片鱗から忘れきっていたスキルが浮上してきた。

 

「そうだ.......あった!」

 

思い出すと同時に【イージス】も切れてしまい、主(ぬし)の攻撃が再度迫る。

 

「【雷鳴(ライメイ)轟く(とどろく)大地】!」

 

前回のイベントで手に入れたスキル。自分の周囲にいる者の動きを止めるスキル。

延命。値千金(あたいせんきん)の5秒。

忘れていたスキルがカエデの口から紡がれる(つむがれる)。

 

 

「........【ブレイク・コア】」

 

 

カエデの心臓部分に穴が開いて赤い輝きを放つ小さな球体が飛び出る。

それはカエデから2メートル程離れると空中で止まった。

発動完了まで5秒。

より強力になった最後の貫通攻撃を【不屈の守護者】で耐えきると、カエデは今回の戦いの明暗を分ける役割を果たした、地面のポーションを使って悔しそうに少し笑った。

直後。カエデも、主(ぬし)も、球体を挟んで重力から解き放たれたように浮き上がって球体の周りをくるくると回り始めた。

 

「主(ぬし)さん........きっと今回は引き分け。でも!5層に行くためにもう1回来るから!」

 

【機械神(きかいしん)】の中にあったスキル。

唯一装備を対価としないスキル。

そう、カエデが忘れていたこのスキルは本当の意味での自爆スキルだった。

説明に書かれていた、対象範囲内を攻撃不可にし自爆。自他共に大ダメージ。という文、その中でも【自爆】という単語はカエデにこのスキルを忘れさせるのに十分だったのだ。

 

「じゃあねっ!」

 

カエデはきゅっと目を閉じるとその時を待った。数瞬の後、天を貫く爆炎がカエデごと主(ぬし)を焼き尽くした。

 

 

「ああー........もう、何か悔しいなあ」

 

倒れ込んで目を閉じたままカエデは呟きた(つぶやいた)。

もうこのまま眠ってしまいたいには精神的に疲れており、カエデは思っていた以上に負けたことに落ち込んでいたのである。

 

「いいや........今日はログアウトしよ」

 

カエデは地面に手をつき立ち上がり目を開けた。

 

「あれ?なんで?」

 

目の前に広がるのは主(ぬし)と戦っていた荒地。

そして足元で倒れているのは先程まで戦っていた主(ぬし)だった。

 

「んんん?んー?なんで?」

 

確かに自爆したはずだとカエデは疑問に思ったが、カエデは自分のHP(エイチピー)バーが半分も残っているのを見てもしかしてと思い至る。

 

「私の防御力のせい.......?そうだ........うん!ふふっ!やっぱり防御力が大事だよね!」

 

カエデは自分の圧倒的なまでの防御力に助けられたと喜び、ようやく倒れたままの主(ぬし)に声をかけた。

 

「あの.......大丈夫ですか?」

 

しゃがんでつんつんとつつくと主(ぬし)は体を起こしてその口を開いた。

 

「ははは.......!やるなぁ、人間」

 

座り込んだまま主(ぬし)が笑う。

主(ぬし)は体についた土埃(つちぼこり)をぽんぽんと払うとゆっくりと立ち上がった。

 

「ついてこい」

 

そう言って歩き出した主(ぬし)の後ろをカエデはついていく。

主(ぬし)が出現させた魔法陣(まほうじん)に乗り、カエデはもといた4層の1室へと戻っていた。

 

「さて、人間。約束通り俺の後を継げ。そのつもりで来たんだろう?」

 

主(ぬし)の両手が輝き、朱(あか)に染められた盃(さかずき)が2つ出現した。

主(ぬし)はそのうち1つをカエデに手渡すと、また新たに出現させた大きな瓢箪(ひょうたん)からカエデと自分の盃に液体を注いでいく。

 

「まさか人間が継ぐとは思ってなくてな。妖(あやかし)の酒は人には飲めん。酒は無理だが.......まあ、形だけはな」

「あ、はい!」

 

主(ぬし)とカエデがそれを飲み干したその時、カエデにスキル獲得の通知が届いた。

 

 

『スキル【百鬼夜行(ひゃっきやこう)Ⅰ(ワン)】を取得しました』

 

 

それから少し主(ぬし)の話を聞き、相槌(あいづち)を打っていたカエデだったが主(ぬし)が話を切り上げてまとめに入った。

 

「行かなければならない所がいくらでもあるんだろう?また来いよ、歓迎するさ。俺が死ぬその時まで.........いつだって戦おう」

「えっと、もう1度戦うのは嫌ですけど。はい、また来ます!」

 

カエデは主(ぬし)へと手を振ってその部屋(へや)から出て襖(ふすま)を閉めるとぐっと伸びをした。

 

「ふぅ。いたた.......もう、つかれたーっ!当分戦うのはいいや.......」

 

今回の戦闘でかなりの回数ダメージを受けたカエデは負けることはなかったものの疲弊していた。

カエデは大変な戦闘はもちろんしばらく楽な戦闘も避けたいと思っていた。

 

「そうだ。スキルは確認しておかないと。えっと.......」

 

 

 

【百鬼夜行(ひゃっきやこう)Ⅰ(ワン)】

1分間『流麗(りゅうれい)』、『麗鬼(れいき)』を呼び出す。

鬼のステータスはスキルレベルに依存。

その間、使用者が持つスキル全ては【封印】状態になる。装備のスキルは【封印】されない。

 

 

 

両方の鬼の今のステータスを確認したところでカエデはあることに気づいた。

 

「え、あー....Ⅰ(ワン)って付いてる、上げ方は........」

 

カエデには上げ方に心当たりが1つあった。

主(ぬし)はカエデに対して「死ぬ時までいつだって戦おう」と確かにそう言ったのである。

ならばスキルレベルの上げ方は1つ。もう1度、もう2度。何度も主(ぬし)を倒すこと以外にはありえない。

カエデにはそう思えた。

 

「わー........、もういいやぁ.......。........でも、スキルレベルは上げておきたいしなぁ♪まぁ、今すぐ戦うんじゃないし。またね♪主様(ぬしさま)♪」

 

カエデは建物から出て町へと戻るともう1度伸びをした。

それによって思考がリフレッシュされたのかカエデの頭の奥から1つ思い出されることがあった。

 

 

「..........次の層に行けてないーっ!?」

 

 

カエデの澄んだ高い叫び声が4層に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「5層。どうしようかなあ」

 

もう今日は戦いたくないカエデがベンチに座っていると町の中央部から『集う(つどう)聖剣(せいけん)』の主要メンバーが3人と女性が3人が歩いていた。

 

「ペインさん?」

「カエデ?どうしたんだ?」

 

どうして5層へと行くことが出来なかったのかと不思議に思ったカエデはペインさんから知っているだろうと5層への行き方(ゆきかた)を聞いた。

 

 

「うぅ.......勘違い......かんちがい........」

 

結果、真実を知ったカエデはベンチに体を投げ出して脱力する。

 

「俺たち3人は、もう、5層に到達しているんだけど、従妹(いとこ)たちの付き添いで5層へ行くためにダンジョンに向かう所だ。だから、またな」

「そっか.......そうなの?なら」

 

カエデはゆっくりと立ち上がって言葉を発する。

 

「私もついていっていいかな?ペインさん達の従妹(いとこ)さん達のことは守るから.......、ダメかな?」

 

カエデは多くのスキルが使えない状態たということを話した。

 

「ちょっと、待ってね。お兄ちゃん達も来て」

 

私達は、カエデから離れて、海騎士(かいと)お兄ちゃんに確認をとる。

 

(ねぇ、海騎士(かいと)お兄ちゃん。あの娘(こ)、大丈夫なの?)

(ああ。心配はない♪)

 

海騎士(かいと)お兄ちゃんの返答に、風真(ふうま)さんと光地(こうじ)さんも頷く(うなづく)。

 

(あたしは、友達になれそう。年下だけど♪)

(海(うみ)さんの心配も最も(もっとも)ですが。光(ひかる)さんが言うとおり、私(わたくし)も、お友達になれそうですけれど。ダメですか?)

(.........これじゃあ、私(わたし)だけが、反対してるみたいじゃない!わかったわよ。もう、でも、これだけは気をつけて。あの娘(こ)は、私(わたし)たちの敵なんだからね)

(うん、海(うみ)ちゃん♪)

(はい、海(うみ)さん♪)

 

 

話し合いが終わり、ペインさん達が、私のところに戻ってきた。

 

「私(わたし)はマーレ。現実では海(うみ)。ペインお兄さんは従兄(いとこ)」

「私(わたくし)はヴェント。現実では風(ふう)。ドレッドお兄さまは従兄(いとこ)です」

「わたし、ルーチェ♪現実では光(ひかる)。ドラグ兄ちゃんは従兄(いとこ)だ」

「わたしはカエデ。現実でも楓(かえで)だよ♪お願いします!」

 

カエデを連れて、ペイン達[集う(つどう)聖剣(せいけん)]は進む。

と、いってもカエデの進行速度はまさに亀並み、いや、それ以下である。

 

「仕方がないから、俺が運ぼうか?お姫様抱っこで?」

「それは、ダメー!光(ひかる).......、じゃなかった、ルーチェがおんぶしなさい!体力があるんだから」

「わかったよ、海(うみ)ちゃん.......、マーレ♪」

 

ルーチェはしゃがみ、カエデに背中を向ける。

 

「防御は任せて.......」

「お願い」

 

いるだけで絶対の守護領域が生まれるのがカエデなのだ。

それは道中の危険を完全に排除する。

 

 

当然ながら、6人は1人も欠けることなくボス部屋へたどり着くことに成功した。

 

「固まって進んでー!」

 

ボス部屋に入った面々、ペインさんたち3人は後方。カエデの前には、マーレ達たち3人が立って進んでいく。

カエデの【身(み)捧ぐ(ささぐ)慈愛(じあい)】は第4回イベントでの度重なる(たびかさなる)使用もあり、その能力を多くのプレイヤーが知っているが、マーレたちは初めて見る。パーティーメンバーを実質、不死身にするという能力を。

ターゲットを散らさずとも、およそ全ての攻撃はカエデのおかげで無力化されるので、3人は真っ直ぐにボスへ向かえばいい。

そうしてHP(エイチピー)を削り、削り、ボスである狐を追い詰めていく。マーレさんたちも初心者とはいえ、ペインさんたちの従妹(いとこ)たちなのだから、カエデの支援があれば負けはしない。

 

「速くなった!ヴェント、ルーチェ、気をつけて!」

「うん、マーレ♪」

「はい、マーレさん♪」

 

マーレさんの言うように、狐の速度が急に速くなった。

狐のHP(エイチピー)は残り2割ほどまで減っているのだが、そこから攻撃がほとんど当たらない。

 

「ペインお兄さん。この狐、強すぎる!」

「ドレッドお兄さま。防御が固すぎ(かたすぎ)ますわ!」

「ドラグ兄ちゃん。どうしよう?」

 

マーレさん達3人は、剣と魔法を駆使して、戦い続けながら呟く(つぶやく)。

少しは当たるが、なかなか時間がかかるだろうことが誰にでも分かった。

狐が飛び退く(とびのく)。

 

「【百鬼夜行(ひゃっきやこう)】」

 

カエデの煌めく(きらめく)金の髪は黒に戻りその翼は光となって消えた。

入れ替わりに溢れ(あふれ)出るのは炎。

カエデを背後から照らしあげる紫炎(しえん)。

その向こう側に溢れる(あふれる)大量の妖艶(ようえん)、カエデの両脇に立つ2人の鬼姫(おにひめ)。満月(まんげつ)と新月(しんげつ)である。

カエデを先頭として続く百鬼夜行、悪夢の列。

 

「行って」

 

長刀(ちょうとう)を携えた(たずさえた)2人の鬼姫(おにひめ)が飛び出る。

向かってくる狐には回避する場所がない。

狐の巨体、それを討ち取らんとする鬼姫。

まだステータスの低い鬼達では狐を一撃で倒すことは叶わない(かなわない)。

それでも次々と斬撃(ざんげき)を繰り出す。

マーレ達の目の前で赤い花が咲く。

吹き出る血のように狐からダメージエフェクトが咲き乱れる(さきみだれる)。

回避能力が上がろうと、回避出来るスペースがなくては意味がない。

生き残る場所がないのに回避を試みることなど、どこまでも無意味だった。

 

狐が倒れ伏していく姿を見守るマーレさん達の表情は、どこか悟り開いたかのようだった。

 

狐が完全に光となって消えた後で、5層(ごそう)へと繋がる(つながる)道が現れた。

 

「ありがとうマーレさんとヴェントさんとルーチェさん。貴女(あなた)達に何かあったら手伝うから言ってね、またね♪」

「え......、ええ、その時はお願いね♪」

「はい。マーレさん」

 

それを聞いたカエデは5層(ごそう)へと姿を消した。

 

 

 

「カエデ、どこで?いや、あそこかー」

 

ルーチェがヴェントに話しかけた。

 

「どちらでしたか?あのスキルに見当でも.......」

 

次第(しだい)に回り始めたヴェントの頭が1つの可能性を探り当て、話の途中ではっとする。

 

「うん、多分4層(よんそう)の白鬼(はっき)ですかね」

「弱体化させる方法が見つかったのかな........?」

 

私達3人も白鬼(はっき)に挑んだのだが、瞬殺であった。

 

 

 

 

 

「5層(ごそう)、とうちゃくっ!」

 

カエデは【皇帝(こうてい)の彼女達】のメンバーから少し遅れて5層への第一歩を踏み出した。

少し弾力のあるふわっとした地面は1つの汚れもない白。

そこは一面、雲の国。天上の楽園だった。

 

「家のベッドよりもふかふかかも」

 

足から伝わる感触に癒されながら、カエデはギルドホームへと向かっていった。

 

 

 

「ここが5層の町かあ」

 

雲の壁を超えた先には眩しい(まぶしい)くらいの白の町が広がっていた。

現実には存在出来ない濁りのない壁や道がそこにはあった。ただ、全てが柔らかい雲というわけではないようで、カエデも近くの家を見てそれに気づく。

 

「あれ、でもこれは雲じゃないんだね」

 

カエデが家の壁に触れるとつるつるとした感触が伝わってくる。

足下の雲とは違い、磨かれた石材(せきざい)を思わせる質感だった。

 

「そういえば私も雲の上に立っているし、この層でも探せばいろんな素材があるのかも」

 

カエデはこの層に存在するアイテムは一体どんな風だろうかと考えながら歩き、マップも確認しつつギルドホームへと辿り着いた(たどりついた)。

カエデは白い扉を開けて中へと入っていく。

 

「誰も.......いないね。うん、じゃあ私も今日はログアウトしよう。ああ、疲れたー!」

 

カエデは青いパネルを出すとしばらくはのんびりしようと決めて、トントンとタップしログアウトした。

 

 

 

 

数日後。

カエデはギルドホームでヤイチと話していた。

 

「ああ.......其方(そっち)に行ってしまっていたかー」

「そうだよー。今までで1番疲れたよ.......」

「だろうな。なんだか噛み合っていない(かみあっていない)と思っていたんだ」

「確かに、今考えたら、そうだったかも」

 

カエデは鬼を倒した後、どうやって5層(ごそう)へ来たのかを話し始めた。

そして、その途中でカエデはペインさんが率いる(ひきいる)【集う(つどう)聖剣(せいけん)】に【百鬼夜行(ひゃっきやこう)】を見せていたことに気が付いた。

 

「疲れていて何も考えていなかったよー」

「まあ、いいだろう?もう、それくらいなら驚かないかもしれない」

 

ペインさんたちはカエデからもう何が出てもおかしくないと割り切っているプレイヤーに入るだろうと思っての発言だったが、連れていた3人の従妹(いとこ)は困惑しているだろう。

と、ヤイチは思っていたが、実(じつ)のところはそんなレベルには至って(いたって)はいなかった。

ヤイチが、この『NewWorld Online』を始めて、規格外の強さを発揮しているのを自覚していなかった。

 

「ならいいかなあ?ねえ、ヤイチはもう5層(ごそう)は探索したの?」

 

カエデの質問にヤイチは少し間を置いて、何かを思い出すようにして答える。

 

「まだ全部ってわけじゃないけれどある程度は。立体構造になっている所が多くて、階段の上り(のぼり)下り(くだり)とか坂道とかが多いフィールドだ。あとは........」

「あとは?」

「地面の材質が結構違うから走っていたりすると転びそうになるぞ」

「そうなの?気をつけたほうがいいかな」

「俺には、『超神速(ちょうしんそく)・雷速(らいそく)』や『超神速(ちょうしんそく)・光速(こうそく)』、『超神速(ちょうしんそく)・炎速(えんそく)』があるから、転びはしないけれど、カエデはそもそも、AGI(アジリティ)がないから、大丈夫じゃないかな」

「それもそっか♪」

「カエデはこの後、探索にいくのか?」

「私はいいかな。この間、1週間分ぐらい戦った気分だから探索は、また今度」

「そっか.......自分のペースで楽しむのがいい。その方(ほう)が長続きするし、もっとカエデとゲームをしていたいから」

 

最初から変わらない、曲げられない(まげられない)その気持ちがヤイチの原動力の1つであることは間違いなかった。

 

(幼馴染みだったにも関わらず、楓(かえで)と何かをした覚えがない。得意なゲームに没頭し、全国大会に俺の名は轟いて(とどろいて)はいる)

 

「うん、楽しんで遊んでいるよ」

「ならよかった。さてと、俺は探索に行ってくる。何処(どこ)かカエデの好きそうな景色(けしき)の場所とか見つけておこうかな」

 

ヤイチは座っていた椅子から立ち上がるとカエデに対して微笑み(ほほえみ)かける。

 

「おー!嬉しい(うれしい)!」

「カエデの分も探索してくるから期待していてくれよ?」

「するする!」

「じゃあいってくる」

「いってらっしゃい」

 

挨拶(あいさつ)を交わすとヤイチはギルドホームから出て入口の扉をきっちりと閉めた。

 

「そっか。勝ったかあ.......」

 

閉めた扉もたれて空を見上げる。

青く澄み渡った空がヤイチの目に映った。

ヤイチは目を閉じて、1度静かに深呼吸をすると扉から離れて歩き始めた。

 

「カエデが楽しくゲームを出来るように、俺は陰から支えられるように、装備やスキルを手に入れないと!」

 

真っ白な雲の地面は所々出っ張っていたりへこんでいたり、走るには適さない。俺は、走らないけれど♪

 

「さてと、とりあえず何かが見えてきたけれど」

 

ヤイチの視界に映っているのは、空高くまで伸びる雲だった。

夏空に浮かぶ入道雲のような存在感がある其れ(それ)の下の方(ほう)、つまりヤイチが今いる地面から続く所に其の(その)雲の中へと入っていくことが出来る道があった。

 

「入るか.......うん、そうしよう」

 

ヤイチは小太刀(こだち)を構えて入道雲の中へと入っていく。

 

(今、ヤイチが装備しているのは、第1層で手に入れた【雷霆(らいてい)】である)

 

狭い入口を抜けると、ある程度の高さのある道が何本も伸びていた。

さながら迷路といった構造にヤイチは出会い頭の事故を警戒して1歩1歩進んでいく。

 

「トラップ......なし。モンスターなし。オッケー」

 

壁や床をトントンと叩きつつ(たたきつつ)じりじり歩くヤイチは、見えてきた曲がり角の其の(その)先を壁にぴったりと張り付きながらちらっと窺った(うかがった)。

 

「おっと」

 

通路にふわふわと浮かんでいたのは灰色の雲のモンスターだった。雨雲のような見た目である。

 

「エルレール、【雷隠(らいん)】」

 

ヤイチはエルレールのスキルで姿を消して一気に近づくと、両手の小太刀(こだち)で数回の斬撃を繰り出した。

モンスターの上に浮かぶHP(エイチピー)バーはガリガリと削られていき、エルレールのスキルが切れても、雲には俺の姿は視認出来ていなく、逃げる体勢に入ったその時にちょうどHP(エイチピー)バーはなくなった。

 

「そろそろ【雷舞(らいぶ)】の上位互換(じょういごかん)を覚えても、いい頃合いだと、思うのだけれど.....?」

 

ヤイチが道なりに進んでいくと、今度はバチバチと音を立てて放電しているタイプの雲のモンスターを遠くに見つけた。

 

「なるほど......なら、さっきの攻撃は雷で攻撃してきたな?」

 

先程、姿を消して瞬殺した雲が雨雲(あまぐも)なら、今回の雲は雷雲(かみなりぐも)である。

なら、[雷霆(らいてい)]から第3層(だいさんそう)で手に入れた[焔灼(えんしゃく)]に変換(へんかん)する。

 

「ちょっと攻撃範囲を確認しておくか」

 

ヤイチはいつでも反撃が出来るように構えつつ、雷雲(かみなりぐも)へとゆっくり近づいていく。

ある程度近づいたところで雷雲(かみなりぐも)からさらに小さな

雷雲(かみなりぐも)が分離し、周りに散った。

 

「おっと!」

 

ヤイチは咄嗟(とっさ)に分離した雲から離れると、少しして本体を含めて其れ等(それら)に弾ける(はじける)青白い(あおじろい)雷が伝っていった。

空気中を何本も横切る雷の糸はしばらくすると消えていった。

其れ(それ)を確認したヤイチは【炎速(えんそく)】で一気に接近し、過ぎ去り際(ぎわ)に、【炎焔(えんえん)】と【灼熱(しゃくねつ)】を纏わせた(まとわせた)小太刀(こだち)で、[スナイプ ウイング]と[スプリット クレッセント]で斬り、雲は灰塵(かいじん)に帰した(きした)。

 

「発動が遅いし」

 

カエデでも事前に準備をしていればかわせるのではないか、というくらいの攻撃発生速度である。

範囲がある程度広いとはいえ、今回ヤイチにとっての脅威とはなりえなかった。

 

 

 

ヤイチは道の中でも坂道になっているものを選んで歩いていた。

ゴールは入道雲の頂点ではないだろうかと考えていたからである。

そして、其の(その)考えは当たっていた。

 

「お?もう抜けた?」

 

ヤイチの視界に空の青が入ってくる。

其れ(それ)は雲から出られることを意味していた。

 

「よっと!」

坂道を登りきったヤイチは雲の頂点に出てきた。

 

「難易度低めか」

 

モンスターにほとんど出会うことがなく、道のりも長くない。

ヤイチも過去の階層(かいそう)で素材集めのためにこのようなタイプの場所を何度も攻略したということもあった。

其処(そこ)でヤイチは足元に白い花弁(かべん)の小さな花があることに気づいた。

其れ(それ)に手を触れた其の(その)時。

花の中心からぽろっと白い球体が零れ(こぼれ)落ちた。

ヤイチは其れ(それ)を拾い上げるとアイテム名を確認する。

 

「【天まで届けシャボン玉】?」

 

もう1度取りに来ることは比較的容易と言えるため、ヤイチは其の(その)アイテムを早速使ってみた。

雲と同じ白の球体がぱちっと弾けて(はじけて)、ヤイチの周りの地面から次々と直径1メートルほどのシャボン玉が空へと舞い上がっていく。

 

「掴めるか(つかめるか)?」

 

ヤイチが手で表面を押すと其の(その)シャボン玉は一瞬だけぐっと反発したものの、すぐに割れてしまった。

 

「続いている間は見ていようか.......綺麗(きれい)だし」

 

空からの光を受けてキラキラと光るシャボン玉を見上げながらヤイチは呟く(つぶやく)。

1分ほどすると地面からシャボン玉が涌き出てこなくなり、空へと昇っていったシャボン玉も見えなくなってしまった。

有用なアイテムではなかったことを残念に思う気持ちもあったが、ヤイチは仕方がないと割り切った。

 

「まあ、攻略も簡単だったしこんなくらいだよね......あっ、カエデのためにもう何回か取りに来るのはありか」

 

カエデなら此の(この)アイテムは喜びそうだと思ったヤイチは、しばらく此処(ここ)に通うことにしたのである。

カエデのために色々と探して来るというのもまた、ヤイチの目的の1つなのだ。

幸い町からもそう遠くない、敵の強さも其処(そこ)まで苦にはならないくらいだったのもあった。

 

「よし、次の見所を探しにいこう」

 

ヤイチは入道雲の入口へと向かって雲の道を下り始めた。

 

 

 

 

 

 

ヤイチが新たな見所を探しているころ、クロとカスミはヤイチとは真逆の方向を探索していた。

クロが攻撃を受け止め、カスミが斬り倒す。

クロが時折(ときおり)、ダメージを受けるものの、持ち前の回復力ですぐに持ち直す。

そうして、何度目かの戦闘を無事にやりきったところで、クロは武器を仕舞いつつ(しまいつつ)呟いた。

 

「何というか、落ち着くね」

「ん?ああ......」

 

この2人での戦闘というのは【皇帝(こうてい)の彼女達】内ではもっとも静かなものだった。

平穏が、今、此処(ここ)にはあった。

 

「シリーズ装備を手に入れている私達2人だけでは、流石(さすが)にダンジョンボスの討伐は厳しいだろうから、ダンジョンは中の様子をある程度、確認するくらいか?」

「そうだろうね、強そうなら、また今度うちの誰かを呼べばいい」

「ヤイチは今日、辺り(あたり)の探索に出ているらしいから、逆側(ぎゃくがわ)の生(なま)の情報も集まるかな?」

「そうだね。何処(どこ)から攻略するかは、其の(その)あとで決めよう」

 

そうして、2人が話しながら歩いていると雷の音が聞こえ始め、前方の空が暗い雲に覆われているのが見て取れるようになってくる。

2人がさらに近づいていくと、其の(その)エリアの光景は細部(さいぶ)まで確認することができた。

其の(その)場所では青空は分厚い(ぶあつい)雲に遮られており、青白い(あおじろい)電気の流れが断続的に地面と空を繋いでいた(つないでいた)。

彼方(あちら)此方(こちら)で落ちる雷。

其れ(それ)に規則性があるのかはわからないうえ、当たった際の危険性も未知数である。

 

「ほー......此処(ここ)は、ヤイチかカエデだね」

 

クロは、規格外(きかくがい)のギルド設立者2人だと結論を出した。

 

「次に行こうか。此処(ここ)は此れ(これ)以上は無理だね」

 

くるっと方向転換して2人は文字通り雷雨の降るエリアを後にした。

 

 

雷地帯を避け、雲の坂を上って(のぼって)下って(くだって)起伏を越えていった其の(その)先に見えてきたのは、先程の雷雲よりも少し薄い雲が広がる場所だった。

雲には手を伸ばせば届きそうなほどに垂れ下がっているものもあり、地面の起伏と相まって見通しは酷く(ひどく)悪い。

其の(その)雲からはソフトボールほどの大きさの水滴がゆっくりと落ちてきていた。

無重力空間かの如く(ごとく)ふわりふわりと、しかし確実に地面に向かって落下してきている其れ(それ)は、地面にぶつかるとゆっくり弾けて(はじけて)八つ(やっつ)の水滴に分かれて均等に飛び散り、地面までの短い旅を終えて吸い込まれて消えていった。

 

「避けた方(ほう)がいいよね?」

「おそらく」

 

避けられないということもないが、落ちてくる量がなかなか多いため、当たった場合のデメリットを確認することとなった。

 

「私が行ってみる。ダメージ系なら生き残れる可能性も高いしね」

 

クロは盾を構えながら遅い雨が降るエリアに踏み入り(ふみいり)、其の(その)雨粒1つを受けた。

 

次の瞬間。クロの真後ろで水の砲台がゴポゴポと音を立てながら組み上がり始めた。

 

「クロ、後ろだ!」

「ん?動け.......は?」

 

クロの体は動いているものの、其の(その)動きは降り注ぐ雨粒のように遅い。

砲台が組上がるのも遅いが、真後ろでは間に合うかどうか怪しいくらいだった。

そうしているうちに隣の地面で跳ねた八つ(はっつ)の水滴のうちの1つがクロの足に当たる。

其れ(それ)と同時、クロの斜め後ろで新たな砲台が音を立てて組み上がり始めた。

何とか振り返りつつあったクロは、もしも自由に動けるならば額に手を当てて空を仰いで(あおいで)いたかもしれない。

 

「おいおいおいマジか......」

 

砲台から水の塊が撃ち出されクロの肩に命中し、砲台が崩れて消えていく。

其の(その)威力は此の(この)層のモンスターの標準的な攻撃より2回り(ふたまわり)は低いくらいであり、ダメージとしてはたいしたものではなかった。

 

「お?動ける!」

 

クロは体の自由が戻ってきていることに気づくと、体を捻って(ひねって)転がって何とか雨のエリアを抜け出した。

クロがエリアを抜け出したことで、組上がりつつあった2つ目の砲台はバシャッと音を立てて消滅した。

 

「彼の(あの)砲弾に当たれば元の速度に戻るみたい、其れ(それ)で雫(しずく)に当たる度(たび)に砲台が出来上がる」

「そんなに動けないのか?」

「そうね、彼れ(あれ)は無理だね。抜け出そうにも、すぐ次に当たる」

「とりあえず此処(ここ)も保留と。1度町に戻ってみようか?雷にしろ此の(この)雨にしろ打開できるような何かがあるかもしれないしな」

 

カスミの提案にクロも乗って、2人は一旦(いったん)探索を切り上げて帰路につくことにした。

 

 

 

モンスターを倒しながら順調に歩みを進める2人だったが、突然背後から日陰に覆われて薄暗くなったことで立ち止まり空を見上げた。

 

「ただの雲.......じゃないね」

「私もそう思う」

 

空を覆う雲はフィールドを突っ切って通り過ぎていく。

其れ(それ)からは今回の探索で2つ見つけたエリアと同じ雰囲気(ふんいき)を発していた。

特徴的な雲のオブジェクト。

其れ(それ)が此の(この)階層での何かしらの目印になっていることに2人は思い至っていた。

 

「彼れ(あれ)は、どうやって行くかだね」

「もみじはどうだろう?」

「其れ(それ)は対策されていそうだけどね、アレは裏ルートだしね」

 

とりあえず今は、結論の出しようがないことだったため、2人は思考を切り上げてまた町へと歩き出した。

 

 

 

 

 

クロとカスミがギルドホームに帰ってくると、其処(そこ)にいたのはカエデだけだった。

今のカエデは探索に向かう気力がない状態だったため、2人は誰かを連れて再度探索に向かうということが出来ないということになる。

「ヤイチは何処(どこ)かでまだ探索してるみたいだけれど」

「他のメンバーは今はいないか。分かった、ならまた次の機会だね」

 

クロはカエデに今回見つけた彼れ(あれ)此れ(これ)を詳しく伝えた。

 

「......また、見に行ってみます」

 

口元に手を当てて何か考えているカエデの頭の中は2人には読めない。

たいしたことではないのか、其れ(それ)とも予想だにしないことなのか。

クロとカスミは色々な思いを飲み込んで、カエデに手を振ってギルドホームの奥へと姿を消した。

 

「ヤイチはなにしてるかな」

 

椅子の背もたれに体重を預け、天井を見つめるカエデに運営からのメッセージが届く。

カエデが其れ(それ)を読んでみると、2月から始まる次の第6回(だいろっかい)イベントについての簡潔な紹介文が書かれていた。

 

「ジャングルを探索せよ、かあ。うー......歩きにくそう」

 

カエデはメッセージを閉じると椅子から立ち上がってギルドホームの自分の部屋へと向かった。

 

「イベントまではゆっくりしてようかな」

 

そんなことを呟きながら。

カエデは1度立ち止まって休むことにした。

 

 

 

 

入道雲を下ってからも探索を続けていたヤイチは、クロとカスミよりもさらに長くフィールドを走り回った後、道端(みちばた)の雲にもたれて小休止(しょうきゅうし)していた。

 

「入道雲多っ.......」

 

探索していくうちに、ヤイチは入口のある入道雲が彼方(あちら)此方(こちら)にあることに気づかされた。

何かあるかもしれないと其れ(それ)らを攻略し続けた結果、ヤイチのインベントリには同じアイテムが合計8個収まった。

 

「当分シャボン玉には困らないかな」

 

此方(こちら)側ははずれだったかもしれないと思ったヤイチは、探索エリアを大幅に変えるために歩きだそうとして足を止めた。

 

「いや、今日は終わる?んー.......」

 

入道雲の攻略はいわば山登りのようなものである。

1つ目のものとは違って他(ほか)の入道雲は小さめだったが、其れ(それ)でも楽だとは言えない。

第4回(だいよんかい)のギルド対抗イベントの時と比べればまだ余裕はあるものの、特別急ぐべきことがない現状ならば今日は切り上げてもいいかと思ったのだ。

今にも帰ろうとしていたヤイチの視線の先には堂々と浮かぶ、本当の意味での入道雲かあった。

其れ(それ)はゆっくりとヤイチの頭上を通過していく。

 

「うわ......何此れ(これ)」

 

凄い(すごい)ものを見たと目で雲を追いかけていったヤイチは、キラキラと光る何かを遠くの空に見つけた。

 

「もしかして......なら、【超神速(ちょうしんそく)・雷速(らいそく)】!」

 

ヤイチは浮かぶ雲を追い抜いてぐんぐんと先へと進んでいく。

そうしてたどり着いた場所でヤイチは自分の考えが正しかったと確信した。

キラキラと光る何かの真下までや

やってきたヤイチ。

そんなヤイチを取り囲むようにキラキラと光るシャボン玉が空へと浮かんでいく。

 

「何か.......何かあるはず」

 

ヤイチは1度探索した入道雲乱立エリアを走り回る。しかし、明確な変化はあれど何処(どこ)かに通じているような何かは見つからない。

 

「おそらく彼の(あの)雲が来たらタイムリミット!何か、何か!」

 

何も見つからないまま入道雲に追いつかれたヤイチは、今回は諦める(あきらめる)しかないと思った。

 

「仕方がない.......っうわあっ!」

 

ちょうど目を伏せた其の(その)時にヤイチは、足下から吹き出した何かによる大きな流れに跳ね上げられた。

 

「お、おっ?え?」

 

ぐるんぐるんと体が回転し、ようやく止まったヤイチは今までで1番の想定外の出来事にゲーム内では珍しく、落ち着きなく辺りを見回した。

其処(そこ)は今まで来たことのない雲の中だった。風な吹く音が聞こえ、足元からは小さな雷雲(かみなりぐも)が、ふわふわと浮かび上がってくる。ヤイチは頬をパチンと叩き(たたき)、深呼吸を1つして落ち着きを取り戻す。

 

「よし、まず何が見えたっけ.......」

 

足下から吹き上がったものを思い出したヤイチは其れ(それ)が雷雲(かみなりぐも)の塊だったことに気づいた。

其の(その)流れに巻き込まれて空まで飛んできたという訳である。

 

「集中......焦らず、ゆっくり.....」

 

ヤイチはとりあえず見える道を歩き始める。

 

 

ヤイチは壁や床に気をつけながら細い通路を進んでいき、やがて丁字路(ていじろ)にぶつかった。

壁に張り付き、顔をほんの少しだけ出して左右の様子を窺う。

 

「っ!」

 

左側の通路の奥、空中にいくつも青白く(あおじろく)光る小さな何かを見つけたヤイチは考えるよりも先に顔を引っ込めた。

直後、丁字路(ていじろ)を風が吹き抜ける。

突風と轟音(ごうおん)が邪魔ではあったものの、光を通さないくらい漆黒(しっこく)、バチバチと雷雲(らいうん)が共に浮かんでいたことをヤイチは見逃さなかった。

 

「........大きな雷雲(らいうん)?」

 

小さい雷雲(かみなりぐも)かと思っていたものは、大きな雷雲(らいうん)だった。

 

「雷凰(らいおう)、【雷隠(らいん)】!」

 

エルレールのスキルでの麻痺状態は10秒。

其の(その)、大きな雷雲(らいうん)から、小さな雷雲(かみなりぐも)が8つ(やっつ)現れ、大きな雷雲(らいうん)を中心に広がり、大きな雷雲(らいうん)が、其の(その)状態で雷を迸らせ(ほとばしらせ)、向かってきた。

 

「【雷舞(らいぶ)】!」

 

雷を纏った(まとった)ヤイチの六連舞踏(ろくれんぶとう)で大きな雷雲(らいうん)を倒し、ヤイチが歩く道は次第に狭くなり分岐もなくなっていく。

そして遂にヤイチは真っ白な通路の先に白以外の色を見た。

突き当たりの壁には青白い(あおじろい)魔法陣が描かれており、静かに光を放っている。

其の(その)先には何かがいる、ことは間違いなかった。

 

「うん、行こう」

 

ヤイチは其の(その)魔法陣に右手を伸ばす。

するとバチッと音がしてヤイチは別の場所に転移した。

 

 

ヤイチは別の場所へと到着すると、すぐに【雷霆(らいてい)】の小太刀(こだち)を抜き放ち警戒しながらぐるっと周囲を確認する。

ヤイチがいたのは雷雲(らいうん)で覆われた(おおわれた)ドームの中である。

 

「......来る!」

 

何かが動く気配を感じ、ヤイチは其の(その)気配がした方(ほう)を見つめる。

青白い(あおじろい)雷が、天井と足下の雲からバチバチ放たれ、出てきたのは雷神(らいじん)である。モンスターらしく、上にはHP(エイチピー)バーが表示されている。

 

「【ストーム ソルジャー】!【アースロック バンブー】!【サイバー シャイニング】!」

 

攻撃力と防御力と素早さを上げる。

そして、放たれた一閃(いっせん)。

 

「【神鳴二閃(かみなりにせん)】!」

 

雷神(らいじん)の攻撃より、小太刀(こだち)二刀(にとう)に纏った(まとった)、極小(ごくしょう)の雷に射たれた(うたれた)。

戦闘が終わり、ヤイチは伸びをする。

 

「まあまあ......いける、かな?」

 

ヤイチは1人頷く(うなずく)と通知を確かめる。

ヤイチは今回1つのスキルを得た。

 

「【雷霆領域(らいていりょういき)】.......」

 

【雷霆領域】

雷系スキルを使用した後、10分間使用可能。

魔法、物体を麻痺させる。

プレイヤー、モンスターへ直接影響することは一切ない。

敵味方関係なく雷属性を付与する。

 

「ま、其処(そこ)までか。彼れ(あれ)を倒せば誰でも手に入るのかもだし......今日はそろそろ終わっておこうか」

 

ヤイチは【雷霆(らいてい)】の小太刀(こだち)を仕舞う(しまう)と、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














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